両作品に敬意を表して、本当に面白いゲームです
「あんたはどこにすんの?」
「うーん……」
トレセン学園に在籍するウマ娘たちにとってチームを選ぶと言うのは極めて重要なことである
トレーナーだけの問題では無いのだ。先輩後輩、同期、そしてチームそのものの方針
それぞれ、尽くしているところはあるとはいえ、これらがうまく嚙み合わないウマ娘がいるのも現実である
「急かすように聞こえるかも知んないけど、早く選んだ方がいーよ」
「それは分かってるんだけどね」
どことも噛み合いそう、というのが彼女の心中であった
中々、自意識が強いと酷評されそうだが、しかし、彼女にはいくつかの自負があるのだ
長距離以外なら、芝でもダートでもイケるというものである
「あ、ここどう」
「良いチームだとは思うけど……」
とにかく、どこのチームを見ても彼女の疑念は解消されるばかりであった
ダートメインのチームもあれば、クラシックに意義を見出さずとにかくレースでの成果を求めるチームもある
色々とあり過ぎて困ってしまう。彼女はまたもチームのパンフレットを放り出した
「そんなに悩むかね」
「私もあなたみたいに即決できればよかったんだけど」
「悩むな、とは言わないよ。私も今のチームでそれなりに苦労してるし」
「愚痴聞かされてるから悩んでるんです」
このルームメイトに聞かされるチームでの愚痴も色々とストッパーになっている
「お、そんじゃ今からミーティングあるから」
「行ってらっしゃーい」
一人になれば考えは纏まるか、と思ったがただ静かなだけで余計に頭の中がざわめいた
何を思ったか、外に出てみた。途中、寮長に遅くならないよう釘を刺されたが、別に用事があるわけではない。黄昏たいだけなのだ
「おー、さぶ」
春もたけなわなこの頃でも、夜風はまだまだ肌をつんざく
人々にLEDが行きわたって、空に星は見えないが、呑み込まれるような暗さにこそ彼女はダイヤモンドのような輝きを見出したがる
スマホを取り出した。おもむろに通話履歴から母を選択しかける
「…………」
やめやめ、と彼女はポケットにしまった
母は、今でこそアメリカで悠々と暮らしているが、ここ日本のウマ娘として、数々の栄誉を欲しいがままにした、伝説のウマ娘だ
欧州ティアラマイル3冠、グローバル・スプリント・チャレンジ2年連続制覇、ジ・エベレスト3連覇、香港スプリント3連覇……
母は憧れなのだ。ウマ娘として、とても
だから、助けを求めるのはまだ早いのだ。チーム選びに悩んでます、というのは変な質問ではないだろうけど
ため息が一つ、夜風に流される
「チームピストル星に参加してくださーい!」
「DEN 0255-4700も悪くありませんよー!」
「(テレビで見た事ある方ばっかりだ……)」
放課後、のんべんだらりと帰ると校門前でこれでもかと勧誘に塗れる
圧がすげぇ、圧がすげぇ、と勧誘の波を逃げてはかき分けていくといつの間にか中庭へついてしまった
仕方がない。このまま裏門からぐるりと回るように帰るか、という矢先に目についたのはトレーニングコースだ
今は勧誘故にウマ娘もまばらだが、練習している声が中から聞こえる
戯れに中を覗いてみよう
―ネイチャさん!どうでしたか!―
―タイム良いよ~!もう1周行ってみる~!?―
チームカノープス! 何度も聞いた事がある!
重賞に何度も手が届く実力を持ったウマ娘たち!
思わず目を奪われてしまった。勧誘は既に切り上げたのだろうか、などとも思ったが
イクノディクタスさんに、ナイスネイチャさん、よく見るとツインターボさんにマチカネタンホイザさん、南坂トレーナーがコースの上で何やら話し合っている。次のレースについてだろうか
本物だ、本物のチームカノープスだ
トレセン学園に入学して、何度も著名なウマ娘を見てはこのような感動に飽きもせず浸っている
「お、新入生?」
「えぇ゛!?」
ナイスネイチャさんに話しかけられた! それだけで舞い上がってしまい言語野が機能を停止する
「そんなに驚かないでよ」
「す、すみません。本当のナイスネイチャさんに話しかけられるなんて…うわぁ、夢じゃないですよねこれ」
「本物だよ。……もしかしてウチに?」
「あ! いえ、その! 何と言いますか」
「ごめんごめん、ここで無理に決めなくても良いよ」
「い、いえ、でもカノープスは本当に凄いチームだって聞いてます!」
「お世辞言わなくても良いのに」
「お、お世辞なんかじゃ、ええ、本当に!」
アガリ症というわけではないのだが、初対面の、それも著名な方に会うとそりゃこうなるだろう
「凄いかどうかは分かんないけど、良いチームなのは間違いないから」
「は、はい!」
「もしよかったら体験入部でも……そうだ、名前! 名前なんて言うの」
―ネイチャさーん! 集合してくださーい!―
「はーい! ごめん、今日はちょっと無理みたいだから、考えといてね」
「は、はい!」
口に出すその直後、南坂トレーナーに呼びかけられたナイスネイチャは行ってしまった
残された彼女は呆然としたまま、コースを後にする
高揚が止まらなかった。彼女たちは全員トゥインクルシリーズの第一線で活躍するウマ娘たちなのだ
見ただけでなく、話もしてくれるなんて! 彼女の中で沸々とチームへの所属意識が芽生えつつあった
その直後
「むぐ! つ~~~」
前は見ていたはずだが、高揚感から視線がどこか遠いところを見てしまっていた
壁に激突して、額を抑える
見上げると、それは何やら部室であった
「ここって……」
外から見る限り中に誰かはいなさそうだ
こうやってジロジロ見ると不審なウマ娘だな、と思いそそくさと離れた
しかし、不意に振り返った時、彼女はまたもその視線を奪われた
「チームウイニングポスト……!」
それは彼女の母がかつて所属したチームだったからである
思考が停止した訳ではないが、よろよろと近づく
誤字ではない、まごう事無きチームウイニングポストだ
「でも、どうしてこんなに寂れて……」
「寂れては余計だ」
「ひゃあ!」
後ろから低い声でささやかれ、思わず飛びのく
「え、え~っとあなたは……」
「チームウイニングポストトレーナー…」
「え!? あ、あなたが!?」
「の2代目だ」
あぁ、なるほど、と彼女は納得した
チームウイニングポストのトレーナー
それはこのトゥインクルシリーズという界隈では別格の意味を示す
彼女の母だけではない。毎年アメリカ3冠ウマ娘を輩出し、日英3冠ウマ娘、凱旋門賞6連覇したウマ娘など……トロフィーだけで部室が埋まったというから、その凄さに圧倒される
今目の前にいる女性はその2代目である
「2代目」
「親父が活動の場を欧州に移したってのは聞いただろ」
「はい、奥さんの地元がどうのって……」
「そんで俺が日本での活動を任されたの」
「で、でもこの部室……」
「親父がイチから始めろって。まぁ、俺も七光りだのとは言われたくないから、ありがたいんだけどな」
例え、七光りだとしても
彼女は今、運命を感じている
「あの、他のウマ娘は……?」
「みんな親父についていった」
「じゃあ、今のチームウイニングポストは」
「0」
まさか、そんな事が……
彼女の中で感じていた運命が更に燃え滾り出した
今だ。このチームに入るには今しかない
「チームはともかく、個人で契約してるのとかは」
「それもない」
「え」
「七光り、にそこまでの期待は無いよ。まして、光源が直々に『手助けするな』と言ってたそうだし」
「おぉ」
そういえば、初代はトレーナーをはじめるにあたって数々の知人からサポートを受けてはじめたという
どこまでかは聞いた事もないが、30億を無利子で貸してくれただのとか、ジュニアやクラシックで活躍しているウマ娘を融通してくれただのといったものだ
事実、その才能は本物だった
彼に見出されたウマ娘たちは無敗のまま、競争生活を引退したというのだから
つまり、それを越えるには初代以上に、更地の状態からはじめないとイケない
情けはかけれども、誰も助けてはくれない状況から
「甘かったとは思ってないよ。まだ希望はあると思ってる」
「………」
もしかして勧誘を受けているのではないのだろうか
目の前の女性の瞳はまだ色めき立っているのだ
惹き込まれてしまいそうだ
「……もしかして、うちに来てくれるのか」
「!」
とどめの一言で、彼女は遂に決心した
ナイスネイチャさん、ごめん。と心中で謝するも、彼女自身、運命を感じているのだ
止めないでくれ
「はい!?」
「……本当?」
「はい」
言ってしまった
トレーナーは目を丸くしているが、半分冗談のつもりだったのかもしれない
だとしても、彼女はチームウイニングポストに入りたがっている。その意思を見せたのだ
「えっと……その、む、無理して言わなくても」
「チームウイニングポストに加入させてください。あなたのチームウイニングポストに」
明確に意思を表示するのは、どことなく新鮮に感じた
トレーナーも目を何度も瞬きさせて、ようやくその覚悟を受け取る
「俺は先代ほどうまくないぞ」
「……私の母が言うには」
「?」
「母が初代ウイニングポストのトレーナーを見た時。『どんな輝きをさせてくれるのだろう』と期待していたそうです」
「君のお母さんがウイニングポストに……!?」
「母は阪神JFで期待が確信に変わり、1000ギニーで確信が自信に変わったと言っていました」
「1000ギニー……! 君のお母さんは、もしかして!」
「よろしくお願いします。トレーナーさん」
特に意図はないが今からおおよそ1年後の新聞記事を紹介しよう
『ケンタッキーダービー、日本のウマ娘が制す。その名はシー……』
『プリークネスS、2冠馬誕生』
『歴史的偉業 彼女がアメリカ3冠を達成』
『スーパーフェクタ!』
炭鉱から金が生まれ、その金が真珠となる、さて真珠から生まれたダイヤモンドは如何に