箱庭の生態系   作:彼岸花ノ丘

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オオトラネコ
オオトラネコ1


 キューブにはかつて、ヒトから居住区と呼ばれていた区画が存在する。

 ヒトが管理していた時には五十階相当の居住建造物が建ち並び、二十万以上の人々が生活していた。しかし分離事故後は維持管理が徐々に出来なくなり……二十万年が経過した今、そこにヒトが住んでいた建物は残っていない。崩れた瓦礫は細かな砂になるまで風化し、小高い『丘』となっているだけ。

 その丘の上には草が生い茂り、一面を覆い尽くしている。木は全く生えていない。ヒトが生活していた頃の住宅区画は建物が多く、樹木や土壌はほんの僅かな、生物から見ると栄養分の少ない場所だった。今や建物は風化して土壌になったが、性質的には砂と同じで栄養分は全くない。そのため緑豊かな見た目に反し、此処は栄養分の乏しい環境なのだ。大きな樹木が育つ事は出来ない。

 生えている草は丈が一メートルを超えているものが多いが、どれも茎は細く、葉も薄っぺらい。栄養不足の環境で、光だけは手に入れようと背丈ばかりを伸ばした進化の結果だ。しかし大きいからこそ、草むらの中に暮らす生き物の姿も隠すには十分。小さな虫、それらを食べる小動物などが、草むらの奥で隠れている。

 彼等もその住人の一種であり、草の中に身を潜めていた。

 

「……フゥゥゥゥゥ……」

 

 熱のこもった吐息のような、重厚感のある声を彼は漏らす。

 体長は二・六メートル。肩幅が広く、頭も横幅が大きい。胴体も体長の割には高さがあり、背中側に浮かび上がる背骨や肋骨も太く頑強なものだ。そのガッチリとした体躯のシルエットは、地球の生命で例えればトラと酷似している。鋭い眼も彼がトラ同様、捕食者の気質である事を物語っていた。

 しかしその身体は茶色の毛だけで覆われ、また尻尾は短くて〇・一五メートルほどしかない。頭にある耳は先端が尖っており、左右に自由自在に動かしている。後足はあまり発達しておらず、跳躍力はトラほど優れていない事が窺い知れるだろう。代わりに前足は太く発達し、剛腕と呼べる見た目だ……等の部分がトラとの違いとして挙げられる。

 彼女達はトラではないし、その血縁にもない。閉鎖空間であるキューブに、ヒトを襲いかねないトラのような猛獣は持ち込まれていないのだ。彼女達はあくまでも、トラと同じような姿に進化しただけに過ぎない。分類的にも、そこまで近い訳ではなかった。

 されど一つ、同じ姿となった理由を述べるとするならば……彼女達の祖先が、トラと同じく生粋の捕食者であるから、だろう。

 捕食者としての腕を磨き、二十万年の月日を掛けて力を得た。全てはキューブの中に出来上がった、独自の生態系の中で生き抜くために。

 先祖代々受け継ぐ捕食者としての本能。その生き様を見てみる事にしよう。

 

 

 

 

 

 真核生物ドメイン

 

 脊索動物門

 

 哺乳綱

 

 食肉目

 

 ネコ科

 

 オオトラネコ属

 

 オオトラネコ

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