狂った世界とその日常   作:電磁パルス砲

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FOX世界線版日向と悠也の話。そしてこの世界の管理人の話。
※嘔吐あり


狐と被害者とそのほかと

昔の夢を思い出した。

じっとりと暑い、夏の日の事だった。

 

 

熱気でコンクリートの向こうがゆらゆら揺れ、水たまりのような蜃気楼を作り出している。

その黒い道を、子供用の安っぽいサンダルでぺたぺたと歩く。ついさっき店で買ったラムネの瓶を開け、泡が跳ねる中身を三分の一程、一気に飲み干した。

 

小学生の時の夏休み。

思えば、あの時が一番楽しくて楽な時期だった。今ほど勉強の事は考えなくていいし、特に何も考えずに暮らせる。これほど楽なことはない。

 

行方不明になっていた子が戻ってきたらしい。すぐ近所の神社で、いなくなった時そのままの姿で現れたそうだ。まるで神隠しだ、と言われていた。

同年代で、銀髪の少年。捜索届の写真は良くも悪くも目立ち、もしも一目見ればすぐに彼だとわかるだろう。

 

 

……ふと、神隠しが起きた神社に行きたいと思った。

なぜかはわからない。だが、無性に行きたく思った。

 

 

小さな体は抵抗することも無く、好奇心のままふらふらと歩く。

ゆっくりと、しかし確実に。件の神社へと、吸い寄せられるように歩いていく。

 

揺れるような気持ちの悪い感覚があって、そっと下を見る。

石畳だ。

ついさっきまで、コンクリートの黒い道を歩いていたはずなのに。しかし、そんなことも気にせず一直線に歩く。

 

じりじりと、回るような蝉の声が境内を取り囲んでいる。

 

何段もある石の階段をのぼり、ようやく赤い鳥居が見えた。

木がはがれ古ぼけているようにも見えるが、その割には妙に色が赤かった。

 

血を彷彿とさせるような赤黒い鳥居。

不気味なそれをくぐり、落ちていた枝を踏み折りながら前へと進む。

 

焼けるような日が照り付け、蝉の声が一層大きくなる。

数歩歩いたところでぴた、と足を止める。

 

人がいる。

 

熱で遠くが揺れる中、真っ白い少年は陽炎のように揺らめいて立っていた。

白い髪の合間から、ひどく濁ったぐちゃぐちゃの赤い瞳がこちらを射抜く。

 

その瞬間、うるさかった蝉の声が一斉に止んだ。

 

体が異様に冷え、汗が止まらない。逃げなくては、と本能的に思っても、足が金縛りにかかったように動かない。

 

 

あれは自分を獲物として見ている。

 

 

彼が四つの尾をうねらせ、歩いてくる。陽炎のように揺れていたシルエットが、だんだんと鮮明になる。

 

目の前で見たその顔は、捜索届の顔そのもので。

 

低く地面を蹴った彼が、俺の首を嚙み千切る。

黒い点の付いた、自分の眼球が飛んでいる。

痛みは不思議と感じなかった。

あの夏の日、俺は確かに仕留められた。

 

 

 

 

 

しかし、生きている。

現に俺は高校生で、あの場所とはかなり離れた都会に引っ越してきた。

あれは夢だったのか。そうだ、悪い夢に違いないのだ。

 

……そんな考えがすぐ覆されるなんて、だれが思うだろう。

 

 

 

 

さて、何故俺があの悪夢を思い出すに至ったか。

それは。

 

 

俺が隠れてるすぐそばで、白い狐の耳を生やした奴が弁当食ってるからです。

そしてあの顔、どう見ても同じクラスに居たやつです。本当にありがとうございました。

 

あの夢通りの真っ白い髪。あの時ほど濁ってはいないが赤い目。そしてボリュームのある四本のしっぽ。

完全にあいつだ。何度も目をこすって見るたび、疑いが確信に変わっていく。

 

夏特有の暑い日差しが照っている屋上には、俺とそいつしかいない。

重箱の……弁当なのかわからないものを幸せそうに平らげていく彼には敵意のての字もなさそうだが、夢が現実だったと思い知らされている今、警戒しざるを得ない。

今はその気でなくとも、襲われる可能性は十分にあるのだから。

 

とにかく、今はこの場を乗り切るしかない。

一刻も早くここを出ていきたいが、あいにく俺は屋上の扉とは反対側の場所に居る。今のこのこと出ていけば確実に見つかってしまう。くそ、よりにもよって何で扉を見張るような位置にあいつはいるんだ?

 

もし見つかってしまえば……熱いコンクリートが赤く彩られることは想像に難くない。もし逃げ切ったとしても同じクラスである以上逃げ道がない。

神よ仏よ、もしいるのならばなぜ俺にこんな試練を与えるのか、50文字以内でお答えやがれください。

 

ああもうどうすれば、と頭を抱えていると、何か変なにおいが鼻を突いた。

何か腐ったような、生ごみのようなにおい。

風に乗って来た異臭はあいつの所からする。これ以上何かするつもりなのか。早くここを去ってほしいのだが。

 

あの量の弁当を早々に食べきったのか、そいつは何かを急ぐように重箱をしっぽの中へとしまう。

そのまましっぽの中をまさぐり、きょろきょろとあたりを見渡す。

 

 

しっぽから、何か茶色いものが現れた。

 

変なにおいが一層強くなり、あれは何だ、と細く目を凝らす。

 

否、凝らしてしまった。

 

 

ところどころ黒い。茶色。いや、肌色。

暗く、紫色っぽくぬらぬらと光る切れ目。

平たいところから広がり、だらんと垂れる五本の突起。

 

顔の横を蠅が横切る。

ブン、と耳元で鳴ったノイズのような羽音で正気に引き戻された俺は、溶けかかった棒状のそれが何か気づく。

 

ああ。

 

あああ。

 

 

あれは。ひとだ。ひとのうでだ。

 

 

世界が陽炎のように揺らめく。目の端に水が溜まっているような視界。生身の人間はここにいてはいけない。

しかし逃げたくとも逃げられず。無慈悲にも、骨と肉を嚙み砕く音が混ざったものが耳に届く。

 

脳内でサイケデリックな色をした幾何学模様と白黒の何かが蠢いている。

まっしろな化け物の本性は、昔となにも変わっていませんでした。

 

 

あの夢だと思っていた景色がフラッシュバックする。

 

鳥居。

蝉。

白髪。

緑葉。

石畳に広がる赤。

 

高速で入れ替わりながら断片的に映るそれを見るたび、耳鳴りがひどくなる。

蝉が鳴いている。鳥籠のように俺を取り囲み、動けなくしている。

蝉の声とぐちゃぐちゃの音とがまじりあってなにがなんだあわかららない。

そんな状態でもまっしろいのから目が離せなくて。たんたんとぐちゃぐちゃになったああたまでそれをみていた。た。めのまえがモノクロにかわったりカラーになったりいそそしい。いのなかみがぐる、とかいてんした。そのせいかひどくきもちわるくて、はきそうでえずいていきがあらくなってのどのおくのへんなところがひらいてそれで、

 

「………ぅ、?」

 

気づいたときには、水っぽい音と共に昼食だったものを吐き出した後だった。

口の中で胃酸と溶けたパンが混ざった味を感じながら、コンクリートに広がるそれを呆然と見つめる。

 

頭の隅がにじんでいる。意味のない文字列がたくさん並んで溶け合っていく。

その感覚がのうみそをかきまぜてくるようで。つらくてもういやで、さっきはいたもののツンとするにおいもあって、また吐いた。

 

あいつが居たほうを見ると、澄んだ青い空と灰色の街並みがフェンス越しに見えた。

白い化け物はもういない。

 

 

ようやく帰れるかと思って足を踏み出すと、頭の後ろが揺れた。

 

 

 

周りが生臭い。錆びた鉄のような味が広がる。

背が酷く熱い。視界の端に白い影がちらちらと映る。

先の尖った尾のようなそれは、さっきまで遠くにいた忌々しいほどに神聖な彼のものによく似ていて。

 

 

 

足元がぐらりとゆれて、いぬのようななきごえがきこえた。

 

 

 

赤く濁った視界が晴れる。俺は霧がかかったような神社に居た。すぐ後ろは階段で、鳥居の真下に居る。

頭の後ろが冷えた鉄の棒を差し込まれたように冷たくて、とてもすっきりしている。

 

ゆっくりと瞬きをすれば、賽銭箱の前に白いあいつが現れた。しかしさっきまでの恐怖の念は全くなく、ナイフを持ったあれが神様だと本能的に分かった。

こちらへ歩いてくる彼へ、体を捧げるように両腕を伸ばす。安堵が体を包み込む。

 

 

狐に飲み込まれたならすべてが終わり救われて、新しく生まれ変われるのだ。

 

救われたい

 

どうか

どうか

 

 

 

この命を終わらせてください。

 

 

 

さくん、と。

首があっけないほどに素早くちょんぎられた。

 

取れた頭は上を向き、目は鮮やかな緑の葉と霧が混ざり合った青い空を映す。

離れ離れになった胴が引きずられていく音。

五月蠅い蝉の声。

 

そして、一瞬のノイズ。

多幸感に包まれながら、暗くなっていく視界を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

ひゅーまん ひゅーまんすりーぷ?

 

水底に沈んだような意識が、気の抜けるような声に引き戻された。

 

頭が冷たい。

ぬるくなった冷却材を乗せられているような温度。それと同じものに頬をぺちぺちと叩かれている。

 

違和感にだんだんと耐えられなくなり、ゆっくりと目を開ける。

 

おーひゅーまん うぇーくあぷねー

「……は?」

 

目が開いたと同時に、頭上からべしゃりと滑り落ちたソーダ色のどろどろ。

自分を呼んだ声を発するそれに、状況が飲み込めないまま硬直するしかない。

 

弾力のあるそれはうにうに動き、丸みのある山のような形に落ち着いた。体の中心と言っていいのかわからないが、そのへんにしましまの布をマフラーのように巻き付けている。

半透明な体の中に浮く、青い長方形の目だと思われるものがこちらを向いた。

 

ないすとぅみーつぅひゅーまん あいむかんりすらーいむ

「え、あ……どうも……」

 

【挿絵表示】

 

もにもに動いたそれが、どこからか英語のような日本語のような言葉を発する。

……確かに、言われてみればRPGに出てくるスライムのような。

 

ゆー ですしたねー。あーゆーおーけー?  ゆー ぺいんでばたーんね

 

体は大丈夫か聞きたいのだろうか。なんとかジェスチャーで意味は伝わる。

斬られたはずの首は胴体とくっついていて、腕も問題なく動いた。首からは血が止まることなく流れ落ちているが痛みはない。

目の前のやつは痛みで倒れたとか言っているが……現に痛みはない

から、時間経過で無くなるようなものだったのだろうか。

 

床に落ちた血はスライムがでりしゃすと鳴きながら吸収していた。狐のあいつと言い、俺の体はそんなにおいしいのだろうか。

 

血を吸って赤茶色になったスライムが触腕を伸ばし、俺の手をつかむ。

粘着力はあまりなく、人肌に近い、ぬるい温度がするすると手の輪郭をなぞっていった。

 

おーけ?おーけーね』 

 

手や傷を負った部分を触りながらまじまじと見たあと、近未来的な映画でみるような、半透明のディスプレイを呼び出す。

 

ディスプレイの下にパソコンのような形で引っ付いている、これまた透けているキーボードを器用に触腕で叩いて、何やら資料らしきものを作っていく。観察レポートかなにかだろうか?

 

薄いオレンジ色をした画面の裏から文字は透けて見えるものの、人間が読める文字ではない。表現するならなんというか……いかにもファンタジーで出てくるようなグチャッとした字だ。

もしかすると日本語を崩したような形になっていて、解読も可能なのかもしれないが、反転しているため読み解く術もない。

 

ぼんやりとそんなことを考えながらスライムを見ていると、彼……いや、彼女?がディスプレイを消し、すぐ近くまで歩み寄ってくる。

うにうにと何語か分からない言葉を喋ったあと、細く伸びた触腕がこちらを指し示した。

 

しーゆーひゅーまん どんと かむひあー

 

それが一言呟くと、白い光がふわりと俺の体を包み込む。

もうここへ来るな、と。そう言いたいのだろう。

来るなも何も、どうやってここに来たかもわからないのにどうしろというのか。

 

抗議しようにももう遅いらしい。

あまりにも眩い光で視界が真っ白に染まり、俺は反射的に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピ、とアラームがなっている。

何度鳴っても放っておかれた電子時計は音のなる間隔を狭め、今では絶え間なく音を鳴らすようになっていた。

 

脳に響くような甲高い音に耐えられず、眉をしかめながらアラームを止めるボタンを叩く。

重いまぶたを開け時計を見てみれば、いつも起きる時間より少し後を示している。

 

これ以上過ぎれば遅刻してしまう。そう思っていやいやベットから降り、寝癖でボサボサになった金髪を掻いた。

 

夏といえど朝はほんの少し冷える。

温い布団との温度差に震えながら、顔を洗うため洗面所に向かう。

 

しかしまぁ、変な夢だった。

自立して言葉を話すスライムなんてこの世に存在するはずがない。

だから、きっとあれは夢なのだ。

 

狐も、首を切られたことも、血の広がる白い床も。

すべてが妙にリアルな夢に違いない。

そう暗示するように心で唱え、鏡を見た。

 

 

もう全て夢であってほしいというのに。

 

 

俺に牙を剥く現実はどうも理不尽で、奇妙で、不可思議極まりない、救いようがないほどにくそったれのものらしい。

 

 

「……な、なんだ、これ!?」

 

目が、夕焼けのようなオレンジ色にそまっている。

黒い瞳など跡形もなかったように、瞳の色が変わっている。

 

カラコンなどつけた覚えなどないし、もとからこんな色だったはずもない。

何度まばたきして目を擦ろうと、事実はそこにただ居座っていて。

抵抗しても無駄だと言わんばかりに変わりようがなかった。

 

これは全て現実に起こったことだ、と。

 

そうすべてを物語るような2つの夕焼けは、ほんの少し赤い白に囲まれて静かに浮いていた。

 

「あーあーあぁ……」

 

もう全てが最悪だ。

かすれた声で母音を垂れ流すも、何も変わることはなく時間はすぎるばかり。

時間。

……時間?

 

「あ……」

 

学校、どうしよ。

 

すっかり忘れていたが、もう遅刻するような時間になっている。

もう間に合わないのならいっそ、『目の色が突然変わったから休む』などと電話をかけてみようか。

こんな突飛な事象など滅多にないだろう、ふざけた仮病に取られる想像しか思いつかない。

 

写真で見せたとしてもカラコンだとか、加工だとか絶対に言われるだろう。便利すぎる世の中も考えものだ。

 

残された選択肢はまぁ、遅刻するという連絡をして行くしかないか。

そう思い、俺はなるべく申し訳無さげな声を作って電話をかけた。




風見日向(Fox世界線)

悠也(神)に気に入られてしまった、かわいそうなただの転校生。結構な頻度で吐いたりSUN値が霧散している。
離れたいのになぜかさらに懐かれてしまった。

黒い方とは全く違い、ヤンデレでもないし悠也に恋愛感情もない。その為派生先の中では最もオリジナルに近い。
目が赤ではなくオレンジになった理由は不明。

すらーいむ

どこからどう見てもスライムな管理人……いや、管理スライム。
人間との言語の違いか、言葉が変な感じに出力されてしまっている。
生前は人間の体液を搾り取って生きていた。
欠損部位は魔物の心臓ともいえるコア。実質心臓。

悠也
精神汚染とかいう災害能力が使えたらしい。
本人は無自覚。
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