真実なんて知らないほうがよかった。
原因を作り出したあいつ。
親友だと、相棒だと思っていた。
本当はそんなものなんかじゃない、おぞましい怪物だった。
そんなものを信じてしまった。護ってしまった。
俺は元の名前を名乗ることもできない出来損ないだ。
俺の罪は許されない。
あいつを許すわけがない。
これからもずっと、いつまでも。
嗚呼、彼の名前は。
夢を見させて
この度、助手が派遣されるようです。
派遣理由は、俺が修正に年単位で手こずっているから。申し訳ない。
俺の世界とベースが同じらしく、よく知っている人物とのこと。
誰が来るんだろうかと思いながら、いつものように淡々とバグを潰していた。
ふと意識を戻すと、部屋の隅の方で悠也が獲物(敵キャラ)を食っていた。
今日の獲物はぬいぐるみのような形をしたものだ。それ内臓あったんだね。一生知りたくなかった。
「それ美味い?」
「え、はい。クリーミーです」
そっかー。それならよかった(脳死)。
しばらくさっきと同じような時間が流れた後、何かを思い出したように彼が顔を上げた。
「あ、そういえば如月さん、俺この前変な夢見たんですよ」
「どんな夢?」
「日向に凄く撫でまわされる夢でした。でも、なんだか日向の雰囲気が怖くて動けなくて……」
「……ふーん」
日記に書いてあったものと同じ。……猫耳って書かれてたぞ悠也。
おそらく、あの病み日向は夢を通して別の世界とつながれるのだろう。連鎖すると別の所に迷惑をかけかねない。より一層注意しなければ。
「……ところでずっと思っていたんだが、何で敬語なんだ?」
「うーん……年上の雰囲気がするからですかね……?」
俺が年上なのは確かだ。外側の見た目が変わらないだけで、精神と中身はもう20歳近いのだから。その違いを見抜くとは……こいつ、やるな。
酷く赤い景色
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
許されないもの
……遅い。
いつ来るんだ。ずっと来なくてむしろ心配になってきたんだが。
薄暗い管制室に一人きりというのも心細い。そして暇。
いや、一人なのはいつも通りか。
回る椅子に座りぐるんぐるん回転していると、部屋の中心にざり、とノイズが走った。やっと助手(仮)が来たのだ。
それは裂け目のように広がり、人が通ることができる大きさまで広がった。
金色に染まった髪。特徴的な黒と赤のヘッドホン。
断片的に見えた物からでもその人物が分かった。あまりの懐かしさに、思わず涙が出そうになる。
「かざ、み?」
ほぼ無意識に彼の名前を呼ぶ。
驚いたように振り向いた彼の青い瞳は、絶望と恐怖が入り混じった色をしていた。
「ひ……い、いや……」
頭を抱え首を振りながらこないで、許して、と子供のように呟く姿は、酷く痛々しく見えた。
……世界が崩壊する理由はさまざまで、その一つに『ストーリーの改変』というものがある。
俺の管理するところは変化する世界なので多少は大丈夫だが、それでも『主要人物の大量殺戮』などの大きなものは耐えられない。
壊れきる前に主人公が死んでいれば巻き戻るが、間に合わなければ崩壊する。
そして。
殺戮を主人公が行い崩壊する、という最悪の結果もある。
彼もまたその被害者なのかもしれない。
俺がいる事でトラウマをぶり返しているのだろう。
「……ごめんな」
今は俺が退出することが最善策だと思い、部屋を出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最近、夢を見る。
酷く赤くて、段々と黒に飲まれる、今となっては遠い昔のもう忘れてしまいたい嫌な記憶。
まるでいつも通り敵を斬るように。
彼の瞳は無感情で、作業をする機械を彷彿とさせた。
俺は最後まで残されて、黒く塗りつぶされていく世界の中、心臓を抉られて死んだ――はずだった。
今、俺は生きている。
片目も心音も、温かな体温さえない状態で。
そんなことなら死んでしまいたかった。真実も知らないまま、データの海に消えてしまいたかった。
みんなを守れず、見ていただけの最期まで何もできなかった出来損ないが生き残った。
そんな自分が生きていることが嫌で仕方がない。
耳を塞ぐようにヘッドホンをつけると、過呼吸気味になっていた息がようやく落ち着いてくる。
音もならないが、これを持っているととても落ち着く。
もう手放すこともできないほどに、…………依存してしまうほどに。
そういえば、あの如月とやらには迷惑をかけてしまった。
せめて少しでも役にたたなければ。
足手まといになるのすら、死にぞこないの自分には見合わないから。
重い体を起こし、おぼつかない足取りで歩く。
彼が出ていった方にあった扉を開くと、少し甘い匂いがする事に気が付いた。
匂いに導かれるようにして歩くと、長身の人影が見えた。如月だ。
「落ち着いた?」
彼の声を聞くだけで背筋に嫌な汗が流れる。彼はあいつとは違う、別人だと必死に体に言い聞かせながら、やっとのことでうなずいた。
「……まだ、みたいだね」
へら、と疲れたように小さく笑う如月の目は優しさを含んでいて、少し落ち着くと同時に申し訳なくなった。
おそらく、彼の素の面が出ていた。嫌だ。心配しないでくれ。
「こんな奴、心配しなくていい」
思わず口をついたその言葉に、如月は悲しげな顔をした。
それでも滲んだ視界の中、俺は言葉を繋ぐ。自分をあざ笑うように、半笑いを浮かべながら。
「俺は世界が壊されるのを見ている事しかできなかった。こんな抗うこともできない人形を守って、どうす……」
「言うな」
そう言い切る前に手で口を塞がれ――――抱きしめられた。
一瞬訳が分からず動きが固まる。
「……どうし、て」
「凄く辛そうに笑って……
いつのまにか俺の目からは涙がボロボロと落ちていた。そのことに気づいてしまうと、もう嗚咽をこらえるのもできなくなっていた。
……泣くのはいつぶりだろうか。あの日以来――もう数年、泣いていなかった。
きっと今の顔は相当ひどいものだろう。
彼に縋るようにしがみつき、子供のように泣きじゃくりながらそんなことを思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「気は済んだ?」
「……ん」
まだ少し嗚咽が残る中、俺は目をこすり、ようやく彼から体を離した。
彼は俺が泣いている間、ずっと頭をなでていてくれた。恐怖による体の緊張も無くなっている。
なんとか、如月の事を受け入れられたようだ。
「呼び名、どうしようね」
眼鏡をかけなおしていると、彼からそう尋ねられた。
確かにまだ本来の名前を呼ばれるのは厳しいだろう。
「……ヒナタ、とか?」
昔からそう名前を呼び間違えられていた。
今となっては懐かしく、仮の名前としても適していた。
「ヒナタか……これからよろしくな、ヒナタ」
そう言いながら差し出された右手を握り返す。
いつか自分の過去も受け入れることができるのだろうか。
少しの不安を持ちながらも、俺の『ヒナタ』としての生活が始まった。
ヒナタ
新しい名前を与えられた管理人。主人公に世界を壊され、管理人に変化した。
欠損部位は右目と心臓。そのため脈拍が無い。
ヘッドホンを外して五分ほどで強い幻覚が見える。
病み日向にはドン引きしている。
ちなみにそちらの日向と対話をすることもできるが、怖くてできない。
モデル共通で甘党。
ヒナタはとてもかわいい。