「ご協力感謝します、父上。わざわざ金沢から横浜まで……本当にありがと「礼は良いから理由を話せ」?」
訃堂との会談から少し経った10月23日。全国高校生魔法学論文コンペティションの1週間前のこの日、総司は日本魔法協会関東支部がある、訃堂と会談した横浜ベイヒルズタワーの屋上にいた。
そこには訃堂の要請によって集められた国防軍の上層部が何人か、そして総司の父親である剛毅がいた。
そして現在、総司は剛毅に肩を持たれながら揺さぶられていた。
「そんなきょとんとして「私何かしましたか?」みたいな顔をするな!こっちは何故か風鳴訃堂に呼び出されて急に息子が戦略級魔法師になるから見に来いとか言われたんだぞ!?」
「あぁ、戦略級魔法師になれって言われてこっちも「あんた何言ってんだ?」っていう感じになりましたよ父上」
父親がパニックになるのも無理は無い。何せ剛毅は総司が訃堂と協力していることも知らなかったし、大亜連合とドンパチやってることも知らなかったのだ。
補足として八紘が事情を説明すると親友の論文コンペの準備を見守っていた将輝と一条家の魔法師を引き連れて仕事休んで横浜までやってきたのだ。
現在横浜は国防軍と十師族の協力体制で防衛が行われている。大亜連合にバレると行けないのでステルス等を使って隠れてではあるが。
総司ではここまで動かせない。訃堂が国防軍を様々な伝手を使って動かし、国防軍のゴタゴタに勘づいた十師族(七草と十文字)が協力体制で防衛をしている。
訃堂は「大亜連合が日本に潜んでいて横浜を襲おうとしている。未来ある魔法師を持っていかれないようにお前ら守るの手伝え」みたいな感じで国防軍を動かしたらしい。
1分くらい揺さぶっていると落ち着いたのか、剛毅は総司の肩から手を離して静かな声音で話し始めた。
「……はぁ、まぁいい。それでどうやって大亜連合の軍勢を止める気だ?まさか全員の水を蒸発させるとか言わないよな?」
「いえ、もっとシンプルですよ。御前にも見栄えよく、誰もが俺を戦略級魔法師として認めるような魔法を見せろと言われているので」
「……そうか」
総司のことを信頼しているのか、これ以上追求してくることはなくなった。
呂剛虎がいると言われた場所、そこには総司の私兵達がいた。ただ先導しているのは石山。その隣には正雪と風鳴家から貸与されている忍者が何人かと夜鈴がいた。
「……ねぇ、何で私前にいる?流石に可笑しい」
「何も可笑しくありませんよ。まだ信じられないだけです」
「総司様はどちらかというと甘い御方ですから……私達がそういうのを見分けないといけないんですよ。前に出て戦ってもらいます」
「コイツらやばい!」
夜鈴も来ている。戦力が欲しいから連れていくことを許可したいと正雪と石山が総司に願ったから来ているのだ。総司は数人の部下と共に置いておこうかと考えていたのだが、2人がそう言ったので連れて行かせた。
総司からしたら同じ境遇の人間で大事な戦力だが、正雪と石山、そして総司の私兵からしたら突如として湧いてきた大亜連合を簡単に裏切る小悪魔みたいな存在だ。
そう簡単には信じることが出来ないだろう。いくら総司が首輪をかけていると言ってもだ。故に前に出て戦ってもらって判断することにした。古巣である大亜連合と戦わせることで。
「そろそろ着きます。短期決戦で行きます。接近戦ができない魔法師は遠距離から援護を、今回の戦いで総司様の支援は望めませんから、死なないように」
最後の「死なないように」に力を込めて言うと、呂剛虎達が潜む所に入って攻撃を開始する。
「なっ、しんにゅ「黙れ」」
武器を持たずに屯っていた兵士に向かって正雪が魔眼を向け剣を振るう。まさか嗅ぎつけられて攻めてくるとは思わないだろう。魅了の魔眼によって意識を正雪にしか向けられなくなった兵士は簡単に命が刈り取られていく。
何人かの兵士が死んだ後にようやく緊急事態を告げるアラートがなる。兵士がこちらに向かって来た。
「霧雨さん、石山さん、何人か連れて早く先に進んでください!ここは僕達で何とかしますんで!」
総司の私兵を2人と同じくらいやっている魔法師が指揮を代わり、正雪達に先を急ぐよう言う。正雪達は無言で頷くと
加速魔法で移動を開始した。
何体かの化生体が現れてこちらの行方を妨害したり、ハイパワーライフルの弾が飛んできたりすることもあったが……
「セイッ!」
夜鈴が身体強化を身体が耐えうる極限まで行い、ダガーを投げつけることで化生体とハイパワーライフルの弾を破壊していく。
ハイパワーライフルの弾はかなりの速度で向かってくるはずなのにダガーで破壊していくのを見て石山は目が丸くなった。
「うわぁ、物凄いパワー」
「言ってる場合ですか?」
夜鈴の活躍で向かってくる兵士がやられていく。正雪達は大して苦労せずに日本に潜入していた大亜連合が使っていた司令室に辿り着く。
そこにはここから離れようとする男とそれを護衛する複数人の兵士がいた。その中には呂剛虎も。
司令室に入ってきた正雪達を見て呂剛虎が咄嗟に向かってくる。拳を握りしめて石山を殴ろうとする。
「セイッ!」
「ムッ、フンッ!」
夜鈴は石山に襲いかかってきた呂剛虎に対してダガーを飛ばす。だがそれは呂剛虎の動きを少しの間止めるだけで終わった。
「私がやる、お前らは先に行け」
「…石山、貴方と残りの人員で捕えられるでしょう?私と夜鈴で呂剛虎を倒します。行ってください」
「いやいや、確実性を取りましょうよ…私達はここで呂剛虎を抑えます。残りの人員は逃げたのを追いかけてください」
結局夜鈴、正雪、石山の3人で呂剛虎を抑えることになった。正雪と石山のペアは連携できるにしても夜鈴はどうするのか疑問であったが……
「グッ!?」
夜鈴優先で攻撃させて正雪と石山がそのフォローに回るという戦法を取ったのでそこまで苦なく連携することが出来ていた。
「私はダガーだけじゃないッ!」
ダガーを飛ばすだけでなく身体強化を全身に施して砲弾のようなスピードで呂剛虎に近づき、鋼気功を貫通できるほどの威力を誇る拳を叩き込む。
ただ突っ込むだけでは呂剛虎には届かないだろうが正雪が牽制入れたり、石山が呂剛虎の動きを妨害したりして呂剛虎に届かせている。
「総司様は苦戦なさっていたようですが……鋼気功の貫通を行える人材と動きの阻害を行える人材が居れば抑えることは難しくなさそうですね」
「確か呂剛虎は白い鎧を着てた、それがないと出力が落ちるらしい」
白い鎧とは
というかあったら総司と戦う時に使っている。仮にも「水の皇帝」なんて異名で新ソ連に恐れられているのだから。
「貴様は林 夜鈴……裏切っていたのか」
「金払いがいいところに雇われただけ」
「人はそれを裏切りと言うんですよ」
「大亜連合の労働環境が悪い」
呂剛虎が思い出したかのように夜鈴について言及してきたが夜鈴はそんなこと知ったことかと振る舞う。多分悪いと思ってすらいないだろう。
まぁ悪いと思っていないというのが石山達が信頼も信用もできないという所以であるのだが。
「しかしまぁここまで頑張ってもまだ戦えるって流石近接最強の1人ってことでしょうか」
「我々では千日手ですね……正雪さんには都合のいい必殺剣なんてありませんし、私の忘却術も鋼気功で意味が無いです」
「私もない」
「手段を自ら話すとはどういうつもりだ?」
「……毎回情けないですね、私達は」
呂剛虎が正雪達の発言を訝しみながら警戒していると石山が氷のオーブを取り出す。呂剛虎はそれを危険と判断したのか人間とは思えない速度で破壊しにかかるが……
「させませんよ」
正雪がそれを阻む。そして石山に目線を送ると石山がそれを地面に叩きつけた。
すると呂剛虎の脚が凍りつく。呂剛虎は瞬時にそれがこの前総司にやられた攻撃の類だと判断すると気を循環させて破壊しようとする。
「動けないならこちらのものですね」
正雪が呂剛虎に魔眼を向ける。魅了の魔眼によって気の循環より優先して正雪に気が向いた。鋼気功も解かれる。
「
石山の固有魔法、忘却術。それを喰らえば記憶が無くなる。証拠隠滅に使われるそれは今回に限って、攻撃に使われた。
祖国、上司、今までの生活、そして己の価値であった戦い方の全てを記憶から消し去った。これにより呂剛虎は何も覚えていない人間となってしまった。
「……何したの?」
「呂剛虎の記憶を全て消し去りました。これで彼は再び学ぶか思い出すかしないと二度と戦うことが出来なくなります」
「恐ろしい」
「貴女も裏切ったら記憶を消します。総司様に歯向かったらこうなることを忘れないでくださいね」
石山の行いと今石山が浮かべている笑みが夜鈴に刻み込まれたのか、夜鈴は総司を裏切ることがないように決心するのだった。
「追い詰めたぞ、ここで捕らえさせてもらう!」
石山達が呂剛虎を相手することで逃げた残りの大亜連合の潜伏者達を追い詰めた総司の私兵たち。
だが大亜連合の潜伏者の1人であり、この作戦の隊長でもある
「ここがバレるとは思っていなかったが……仕方ない。ここ横浜と魔法協会を占領させてもらうとしよう!」
陳祥山が手を振りあげると横浜の至る所に向かってミサイルが放たれた。そして直立戦車や大型の装甲車両が何十機も現れて攻撃を開始した。
勝ち誇った表情を浮かべる陳祥山は次の瞬間、その表情を引っ込める羽目になった。