転生したら白い部屋だった   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

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第二巻の内容はこれで終わりです。かなり巻きで行きました。


第十話

 

「龍園は、Bクラスから手を引くらしい」

「Aの九条から、動画が送られてきた。これが証拠だ」

「一之瀬、頼むから、もうこれ以上Dクラスの騒動に関わるのは止めてくれ」

「もう俺たちが戦う理由はない。一之瀬が危険な目にあう必要も既に無い……!」

「俺だけじゃない、これはBクラス全員の総意なんだ……!」

 

 

 

 

 …………といった会話が、今頃Bクラスでは繰り広げられているんだろうなぁ。どうも、一般ホワイトルーム生の九条楽です。みんな友達。

 既にBクラスNo.2の神崎とは接触済みである。一之瀬の身を案じる、とても優秀な生徒だった。何かが違えばAクラスになっていただろうに、この学園の組み分け理由は不思議なものだ。ちなみに、動画の作成は龍園に協力してもらった。こいつはDクラスでもおかしくなかったと思う。不思議なものだ。

 

 今頃、神崎は俺から貰った動画と、少しでもBクラスの慰めになってくれればと渡したPP(南雲先輩から貰った)を説得材料として、クラスを巻き込んで一之瀬へ直談判している所だろう。そして、その結果も容易に想像がつく。

 Bクラスは一之瀬を中心とした、彼女を慕う生徒たちの団結力が強みのクラスである。一之瀬への信頼でクラスが纏まっていると言ってもいい。そんな彼らが、自らが慕うクラスのトップ(可愛い)がCクラスのような不良軍団(可愛くない)と戦っている今の状況をどう思っていたか、考える必要も無いだろう。

 勿論、今まではCへの防衛の為に一之瀬が動く必要があった。だが、龍園がBに対しての攻撃を止める事を宣言した以上、もうBクラスに戦う理由は存在しない。もうこれ以上、あの善人の一之瀬を危険に晒さなくて良くなるのだ。

 彼女自身はその優しさからDクラスをも救おうとするだろうが、しかし、たかがDクラスの為にそこまでする必要があるのか? Dクラスだって敵のクラス、それに落ちこぼれ共じゃないか。残念ながら、入学一ヵ月でCPを0にしたDクラスへの風当たりは厳しい。学園全体の風潮として、Dクラスに対しては差別的な目があるのも事実だ。クラス内の意見が撤退へ傾くのも無理はないだろう。そしてそんなクラスの意見に、一之瀬自身が流されてしまうことも。

 

 

 

 携帯端末が振動し、神崎からのメール着信を伝える。どうやら一之瀬の説得に成功したらしい。

 彼女は最後までDクラスを見捨てる事になると抵抗したらしいが、既にBクラスの資金で目撃情報を募集している事や、ここまでの協力で十分に義理は果たした事を理由にBクラス生徒たちが頼みこむと、遂には陥落したそうだ。

 最後には、白波という生徒が泣き出したことが切っ掛けととなったらしい。今まで一之瀬が積み重ねてきた信頼がそうさせたのだろう。実に優れたリーダーである。

 

 メールの末尾には、『一之瀬の為に協力してくれて感謝する』と綴られていた。

 思わず俺も笑顔になってしまう。綾小路への妨害行為が主な理由だが、一之瀬という素晴らしい善人が傷つく所を見たくないという理由もあった。その上、これでAクラスとBクラスの心理的距離を縮めることが出来た。今後の協力要請に応えてくれる確率がグッと上がったわけだ。

 

「さて、綾小路はどうして来るかなー……」

 

 自室でくつろぎながら、俺は独り言を喋っていた。こうして口に出す事で考えが纏まるのだ。

 

 生徒会からは南雲先輩を送り込んだ。Bクラスとの協力関係は終了させた。Cクラスは学園の規則を入手したことでより公判で有利に立ち回れるだろうし、Aクラスへ助力を求めることも俺がいる以上出来ない。

 Cクラスのみが敵であった状態から、俺の手を尽くしてかなり状況を悪化させることが出来た。

 普通なら須藤の停学はもう必要経費だと諦め、少しでもCPへのダメージを抑えようとするだろうが……。

 

「綾小路も辛いだろうな。最適解と自らの夢が食い違っている」

 

 今までの綾小路であれば、まず間違いなく須藤を見捨てている。

 むしろ、その罪を重くする方向へ動くだろう。バスケのレギュラー剥奪にとどまらず、顧問に接触して須藤を退部させる。須藤への精神的ダメージを可能な限り多くして、その後に優しく接することで自らの手駒に仕立て上げようとする。綾小路はそういった方法を、むしろ好んで使う傾向があった。

 勿論DクラスのCPはダメージを受けるだろうが、学年トップの身体能力を持つ須藤を従えた方が後々の利益は大きい。この学園に来る前の綾小路であれば、迷いなく非道な手段を選ぶことが出来る。

 

 だが、そんな事を今のDクラスでやればどうなるか。一か月間CP0の状態で耐え忍び、やっとCPが上がったと思えば須藤の停学で再び0に戻るのだ。まず間違いなくクラスは崩壊し、二度とまともな団結は望めないだろう。

 綾小路は、自らの父を超えたいのだと言っていた。Dクラスを導き、成長させ、父の最高傑作である自分に勝利する人材を育成することで間接的に父を超えるのだと。となれば、この段階でDクラスを崩壊させるなんて出来る訳もない。

 

「まあ、あいつなら何とでもしてくるだろ。清隆の夢と俺の目標、どっちが先に叶うかなー」

 

 夢バトルしようぜ! 夢バトル!

 でもよく考えたら俺の夢って特にないからやっぱ俺の負けだわ! 終わり!

 

「うーん、やっぱ俺も色々学ばないとな……将来やりたい事なんて何にもないぞ」

 

 将来は官僚になる予定だけど、別にならなくても良い。毎日美味しいご飯が食べれたら幸せだけど、別に無くてもいい。俺は俺であるだけで充分幸せなので、これ以上の何かを望むことなんて無い。生きてるだけで幸せだ。仏教的に考えたら俺の方が悟りに近いが、しかしガツガツした周りを見ると羨ましくなることも事実。

 

「龍園にダル絡みでもするか。『翔ー、暇だからゲーセン行こうぜー』っと」

 

 取り合えずCクラス騒動は綾小路が何とかするだろうし、それまで龍園から色々吸収させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後。

 

「あー、出汁の味が染みる……。最近中華とかフレンチとか食べたんだけど、やっぱ和食が一番かも」

「分かるぞ、九条。オレも和食が一番好きだ」

 

 俺と綾小路は、二人そろって料亭に来ていた。高級な個室である。学園にこんな施設必要か? 教職員向けなのだろうが、普通にこの学園内にはバーも存在する。国税をいらん所に使いすぎじゃないだろうか。

 でもこのご飯を食べてると、そんな事がどうでも良くなるから不思議である。高度育成高等学校最高!! 教育は国の柱、僕たちに税金をジャブジャブ注いでくれ!

 

 どうも、CクラスとDクラスの騒動は良く分からないまま有耶無耶に決着したらしい。南雲先輩から聞いたところによると、どうもCクラスが自ら訴えを取り下げたとか。

 

 南雲先輩は綾小路の事がまあまあお気に召したようだったが、しかしそれ以上に公判に出てきたDクラスの堀北という生徒が気になっているらしい。

 「堀北会長がわざわざこの事件を担当した理由が分かったぜ……。ただ単にきな臭いものを感じただけじゃない。Dクラスの堀北鈴音、あいつは堀北会長の妹だ」と言っていた。

 苗字はもちろんのこと、その顔つき、公判中の両者の目線から割り出したらしい。素直に知らんかったので驚いた。綾小路が堀北会長と接点を持った理由がずっと疑問だったが、なるほどそういう事だったのか。

 尊敬する堀北会長の妹ということで、むしろ南雲先輩は堀北鈴音の方に期待を寄せている様だった。

 今後の遊び相手としてもそうだし、堀北会長は妹の事を暗に気遣っていると勘づいたようだった。今後の戦いで、妹を利用すれば有利になると考えているのかもしれない。

 

 堀北会長、絶対に付け込まれると思ったから南雲先輩に妹の事言わなかったんだろうな。思わぬ発見をしたボーナスという事で、俺は再び飯を奢ってもらった。今度はフレンチだった。ソースが美味すぎる。

 しかし、結局停学を回避した方法については聞けていないままだったのだ。この際だから、綾小路に聞いておこう。

 

 

「九条、お前本当に面の皮が厚いというか何というか‥‥…。お前のせいで本当に大変だったんだからな……。南雲はDクラスを試すような言動ばかりするし、Bクラスには途中で協力を断られるし……」

「いやいや、俺は大した事してないって。そもそも発端はCクラスだろ?」

「いや、途中から完全にお前が黒幕だった。Dクラスにも周知しておいたからな。もう大手を振ってうちのクラスを歩けると思うなよ……」

「歩いたことがそもそも無いんだが。どうすんだよ、お前が注目してる堀北さんに会っておきたかったのに」

「知らん」

 

 

 そう言う綾小路の頬には、つい先日出来たような真新しい擦り傷が出来ている。それを見て、俺は綾小路が取った手段に大体の察しがついた。

 

「わざとCクラスの生徒を挑発して、自分を殴らせたのか。随分思い切ったなぁ」

 

「今回の暴行事件は、そもそもがCクラスの嘘から始まった。()()()()()()。この事件を終わらせるには、()()()()()()()を起こさせるのが最も手っ取り早かった」

 

 目には目を、歯には歯を。Cクラスに対して、綾小路も同じことを仕掛けたのだ。

 

「気の短そうなやつを、騒動の件について話があると言って特別棟へ呼び出した。あそこはゆだる様に蒸し暑い。言葉でいくつか挑発してやれば、向こうから簡単に手を出してきた」

 

 人間の思考回路は意外と脆い。敵対している生徒からの呼び出しによる緊張と特別棟の暑さで、Cクラス生徒はまともな判断が出来なくなっていたのだろう。

 綾小路はこう見えて演技も上手い。きっとムカつくDクラスの生徒を見事に演じたのだろう。

 ……相手の方が可愛そうになるくらいの、徹底した手口だ。殴られたところでたかが不良の拳程度、綾小路には全くダメージにもならない。むしろ殴った方の拳が心配になる。

 

「一通り清隆を殴って冷静になったCクラスの生徒は、きっとかなり慌てただろうな。当然、龍園に報告して指示を仰ごうとするだろう。その程度には忠実な奴を選んだんだろう?」

「ああ。その情報を知った龍園はどうするか? Dクラスの生徒に、自分のした事をやり返されたわけだ」

 

 一回目の公判で、学園はどのような処罰を下そうとしたか。俺から入手した学園の規則には何と書いてあったか。

 

 この学園においては基本的に『喧嘩両成敗』が原則だ。どちらが仕掛けたかで多少の情状酌量が成されるのみ。事実、あれだけ有利な証言をしたCクラスですら実行犯は停学となりかけたのだ。

 綾小路は、『こちらも同じことが出来るぞ』というメッセージを間接的に龍園へ送った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お互いにCPを削り合えば、本当に損をするのはどちらなのか。そういうメッセージだ。

 

「『須藤に対しての訴えを取り下げるなら、オレもこの事を学園へ伝えない』と伝えておいた。停学で困るのはこちらも同じだと言ってな」

「清隆に呼び出された相手がいっそ哀れだな。そこまで覚悟が決まっている奴がDクラスにいるなんて、想像もしてなかっただろうに」

 

 CとDが、互いに攻撃を仕掛け合い、そして両者からCPが次々に引かれていく。どちらが先に根を上げるかを比べ合う、不毛なチキンレース。

 龍園の悪意に満ちた思考回路であれば、一瞬でそこまでたどり着いたことだろう。

 Cクラスに注意を呼び掛けたところで意味がない。他でもない龍園自身が、その隙を突くアイディアをいくらでも思いつけるのだから。

 

 俺から得た情報で既に学園の規則を把握している段階で、そこまでのリスクを踏む必要はあるのか。ここで引いてDクラスに舐められる恐れと、Dクラス共々自爆するリスク。

 両者を天秤にかけ、龍園は撤退を選んだのだろう。

 

「一之瀬がいれば、もっと穏当な手段が取れたんだがな……。こんな不確実な賭けをする必要も無かった。特別棟に監視カメラを仕掛けて、Cクラスの小宮にそれを見せてやればいい。一之瀬の人気を利用して、学園はこの事件の真相を既に把握していると主張できる。退学になるぞと脅せば、小宮達自ら訴えを取り下げさせることが出来たはずだ」

 

「あー……俺がBとの協力関係を終わらせたから出来なかったのか。代わりに櫛田さんを使おうとは思わなかったの?」

 

「櫛田はDクラスだろう? 監視カメラという荒唐無稽な嘘を信じ込ませるには、どうしても他クラスの人間が必要だった。俺たちDクラスは侮られているからな。櫛田が監視カメラの存在を主張したところで、相手が信じる確率は低かっただろう」

 

 うーん……。俺の暗躍も少しは実を結んでいたのだろうか。一之瀬を遠ざける事は出来たわけだし……。まあ、ここで成功しても特に利益が無いわけなのだが。

 

「………………」

 

 お互いに語るべき話を語り終え、暫くの沈黙が訪れる。お互いに、この騒動で相手が何をしていたのかを知ることが出来た。そろそろデザートのあんみつが来るだろうし、それを食べて今日はお開きかな。

 

 そう思っていると、綾小路がポツリと話し始めた。

 

「…………お前は、ホワイトルームから逃げ出したいと思わなかったのか?」

 

 ん? 突然どうした。会話が突然飛んだため、思考回路の調整に少し時間がかかる。

 

「九条、お前がこの学園においてどれだけ恐ろしいか、オレは少し分かったよ。オレが裏から手を回して1つ動かす間に、お前は10も20も行動する。常にこちらは後手にまわり続けて、気づけば次々に動きが封じられている」

 

 なんか綾小路の雰囲気が変わったな。語る内容とは裏腹に綾小路から敵意が感じられないので、どう対応すればいいか困ってしまう。でも嬉しいからもっと褒めてくれていいよ。今回も俺はよく頑張ったからな。

 

「例えば俺とお前がテストで勝負した場合、恐らく俺が勝つだろう。殴り合いの喧嘩をしても、俺の方が勝率が高いだろう。だがそれだけではない、数値で測れない部分にお前の強さはある。それは、ホワイトルームでは測れなかった部分だ」

 

 そう言うと綾小路は携帯端末を取り出し、俺に見せてくる。須藤と綾小路、それとDクラスの男子たちが遊んでいる写真だ。場所は、恐らくカラオケだろうか。

 

「……お前を見習ってな。オレから、クラスの知り合いに声をかけて誘ったんだ。まず断らないだろう平田から声をかけて、池や山内、須藤も誘ってだな……」

 

 綾小路が語る名前の、大半を俺は知らない。だが、恐らくDクラスの友人の名前だろう。俺が編入した直後に身辺を調べたときには、話しかける相手にすら苦労する有様だったというのに。この数週間で、綾小路はきっと努力したのだろう。

 

「……楽しかったよ。本当に楽しかった。池は盛り上げ上手だったし、須藤はビックリするほど音痴だった。お前とカラオケには二度と行かねぇなんて言い合ったりして、それもまた楽しかった……」

 

「良いねぇ。須藤ってそんなにヤバかったのか。逆に聞いてみたいな」

 

「ホワイトルームでは出来なかった事、分からなかった事ばかりだ。一度は普通の高校生活を送りたいとあの部屋を飛び出して、本当に良かったと今は思っている」

 

 そう語る綾小路の口調は優し気で、いつもの鉄面皮が少しだけ和らいでいるように見える。綾小路は大体いつも機械か人間か分からないような顔をしているが、最近少しだけ人間に近づいてきたような気がする。

 

「九条。恐らくお前は、何らかの手段で俺の父親と連絡を取っているだろう?」

 

「もちろん、報連相は社会人の基本だからね。バスケ部はよく、対外試合の為に学園の外へ出る。隠れて手紙を投函するなんて簡単だよ。たぶん、須藤でも練習無しで出来ると思うけど」

 

 これまでにも何回か綾小路父に手紙を送り、現状の報告を行っている。やっぱり坂柳理事長が協力してくれない事とか、綾小路が夢を見つけた事もちゃんと報告してるぞ。向こうからこちらに干渉する手段は現状無いので、常に一方通行の手紙になるが。

 

「オレの父に伝えてくれ。オレはここで、向こう(ホワイトルーム)では決して出来なかった成長をしていると。お前の野望なんて、あの無機質な白い部屋なんて、この学園での1か月にも劣る程度のものだと」

 

「……ああ、分かった。確かに伝えておくよ」

 

 俺の敵にして親友は、この学園で新たな成長を遂げているらしい。自らの幸せを求める、極めて人間らしい成長を。

 『勝者に必要なものは、意志の強さだ』。この考えに未だ変化はない。才能も実力も関係ない。綾小路父の様に、龍園翔の様に、自らの勝利に向けて幸福も人間性も全て捨てられる者が最終的な勝利を手にできる。

 

 では、綾小路はどうなのか。綾小路はこの学園で変わった。自分の目標を見つけたのだ。人間性を獲得し、自らの幸せを貪欲に求めるようになった。

 彼は果たして成長したのか、それとも劣化したのか。人間としての成長は、勝利に対する足枷となるのか、勝利への起爆剤となるのか。

 

 それは、俺と綾小路のどちらかがこの学園から退場するときにきっと分かるだろう。

 その答えが出る時を、俺は楽しみに待っているのだった。

 

 

 

 

 

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