転生したら白い部屋だった   作:なりまんじゅう

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第三巻
第十一話


 

 

 白い雲、青い海。そして豪華客船。どうも、一般転生ホワイトルーム生です。

 ついに夏休み前の特別試験がやってきた。現在は船に乗り、目的地へ向かっている途中である。

 この船の中にはシアタールームやレストラン、プールといった娯楽施設が一通り揃っている。これらすべてがタダで味わえると思うと涙が出そうだ。国税に感謝。ゼイキン、ツカッテクレテ、ウレシイ。オウ、オウと俺の脳内でムキムキの黒人たちが踊り狂っている。発砲もオプション追加でお願いします。

 

 まあ、この学園ってそんなに甘くないんですけどね。

 

 今から始まるのは楽しいバカンスではなく、互いのクラスが争い合う特別試験である。

 船内に備え付けられた広い会議室を真嶋先生に頼んで貸していただき、Aクラスは目前に迫った特別試験に対してのミーティングを行っていた。ホワイトボードの前には葛城が立ち、今回の試験に関しての情報共有を行っている。

 

「全員聞いてほしい。既に全員知っていると思うが、俺たちは今から一週間無人島のペンションで生活し、その後一週間この豪華客船で宿泊する事になる。つまり今から、二つの特別試験が行われると考えるべきだ」

 

 坂柳はやはり体調の問題で参加できなかったため、今回の特別試験は葛城が指揮を執ることになる。よって坂柳派は一時的に葛城に従う事となるが、彼らの顔に不満は見えない。派閥は違えど、同じAクラスの仲間であるという意識が浸透しているからだ。

 

 そのことを葛城も察しているようで、Aクラスに向かって語り掛けるその姿からは強い自信と信頼が感じられる。

 

 まあ実際、坂柳の裏切りは考えなくて良いだろう。

 

 例えば彼女が自らの配下に対して葛城への妨害工作を指示したとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうからな。坂柳はAクラスの勝利より自分の派閥を取ったとんでもないエゴイストだとして、むしろ坂柳の勢力が解体される。

 つまり坂柳は裏切らないのではなく、裏切れないのだ。Aクラスのリーダー争いは、既に歪な形で決着を迎えている。

 

 

「これから行われる特別試験は、CPに大きく影響するだろう。……出来る事なら、今ここに坂柳がいて欲しかった。彼女の智謀は、きっとこの試験においても俺たちを助けてくれただろうから」

 

 そう語る葛城の顔に、嘘の色は全く見えない。本気でそう思っているのだ。彼がクラス全体から信任を受け、支持を集める理由がここにある。

 

「だが、悲観するわけにはいかない。俺たちは、A()()()()だ。学園に最も優秀であると選抜され、その期待に応えてきたクラスだ。俺たちが団結する限り、勝利以外の結末はあり得ない」

 

 良い演説だ。相手を惹きつける喋り方や身振り手振りのやり方というものは、既に体系立てて研究されている。そしてこの世にある知識で、ホワイトルーム生が修めていないものなど存在しない。

 元々葛城には素質があった。昨夜俺が彼に伝えた扇動の技術が、遺憾なく発揮されているのを感じる。

 

「俺たちAクラスは、他のクラスに先んじて特別試験の情報を掴むことができた。内容も期間も全く分からない試験を少しでも有利にしようと、全員がそれぞれの努力を重ねてきた。俺は君たちの努力を、全て知っている」

 

 良く通る声と、はっきりとした喋り方。人を惹きこむ、研究されつくした引力によってAクラス内の士気が高まっていく。

 

「……この努力が、報われないはずがない。もはや俺たちには、勝利以外ありえない。()()()()()()()()。何も意外性のない勝利。ただ能力の高さで圧し潰すだけの、圧倒的な勝利を。俺たちならつかみ取れるはずだ。…………勝つぞ!!」

 

 葛城が激を飛ばすと同時に、歓声が爆発する。あー、青春って感じで最高だ。俺も便乗して叫んでおこう。うおおおおAクラス最高! やっぱり葛城がNo.1! 円陣組もうぜ円陣! 円陣の中央で寝そべったらリンチ(Lv100)みたいでめっちゃ面白そうじゃない!?

 俺の意見だけ却下された。やっぱりAクラスはカス。この特別試験も敗北待ったなしですね。

 

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 

 船内アナウンスがそう告げる。随分意味深な言い方だ。恐らく、無人島の全景を把握しておくことで有利になる様な試験なのだろう。当然Aクラスの面々も気づいたようで、ざわざわと相談し始める。

 

「行こう。デッキまでは少し遠いため他クラスに遅れる事となるだろうが、くれぐれも言い争いになどならないように。全員、自分がAクラスである自負を持って動こう」

 

 葛城のその言葉に全員が頷きを返し、俺たちは展望デッキへ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 船内アナウンスの言葉通り、展望デッキからの眺めはたしかに有意義なものであった。島の全景を把握することができた上、Aクラスの一人が双眼鏡を持参していたことから、より詳細に観察することもできた。

 

 ……無人島の割には、不自然なまでに野生動物がいないな。虫や小動物はいるだろうが、ヤギやイノシシといった危険な大型動物は一匹も居なかった。数年に一回程度しか使わないだろうに、よく管理されているものだ。

 

 船は島をゆっくりと一周した後に、無人島へと着岸した。生徒たちはクラス順に島へ上陸し、指導教員たちの指示に従って整列していく。先生たちの雰囲気は物々しく、どう考えたって今から楽しいバカンスですといった顔ではない。他のクラスの生徒たちもそれを感じ取ったのか騒がしく話している。

 

「あー、あー……。全員、静粛に」

 

 Aクラス担任、真嶋智也が台の上に立ちメガホンで語り掛ける。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

 坂柳の事だな。先天性心疾患を抱える彼女にとって、充実した医療が存在しない環境へ移動することは比喩抜きで死の可能性がある。

 『いっぱい写真撮ってくるからね』と俺が言ったら、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。やはり特別試験に参加できないことが悔しくて仕方が無いのだろう。いや、動画の方が良かったのか……?

 

「―――――ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 突然告げられた冷酷な一言に、他クラスがざわついているのが見える。いや、何人か動揺していない奴もいるな。Bクラスの一之瀬や神崎、Cクラスの龍園といった実力のある生徒たちはむしろ自信ありげな笑みを浮かべている。

 我らが綾小路は全くの無表情だった。コワ~。

 

 くだらない事を考えている間にも、真嶋先生が説明を進めていく。

 今から8月7日正午までの七日間、クラス単位での集団生活をおこなう事。支給品はテントや懐中電灯、マッチと言った最低限度にも満たない物品のみ。唯一、女生徒への生理用品は無制限に行われるらしい。これ、学園に残った最後の良心って感じで逆に嫌だな。

 

 当然、こんな乏しい物資で7日間のサバイバルなんて出来る訳がない。俺と綾小路は出来るけどな (謎マウント)。Dクラスの生徒が不満を叫ぶのを抑えるように、真嶋先生は更にルールの説明を進めていく。

 

「この試験のテーマは『()()』だ。今回の特別試験では大前提として、試験専用のポイントが、クラスごとに300ポイントずつ支給される。このポイントを上手く使えば、まるで優雅なバカンスの様にこの試験を楽しむことができるだろう」

 

 彼はそう言って、数十ページ程度の冊子を取り出して掲げてみせる。

 

「このマニュアルには、ポイントで入手できるモノのリストが全て載っている。生活で必需品と言える飲料水や食料はもちろんのこと、バーベキューの材料や機材、海を満喫するための遊び道具も無数に取り揃えている。このポイントの使用に対して細かな規則は一切存在しない。全てが自由だ。集団生活を維持する最低限のルールはあるが、守るのが難しい物は何一つとして存在しない」

 

 ……この説明聞いて、やったぜ結局はバカンスじゃないか! とか思う奴はこの学園に向いてないんだろうな。そんなぬるいルールしか存在しないなら、特別試験の意味がない。当然、真嶋先生の説明にも続きがある。

 

「そしてこの試験が終了した際には、それぞれのクラスに残っている全てのポイントをクラスポイントとして加算し、夏休み明けに反映する」

 

 ほらな。結局、CPの為に無人島でサバイバルする事になるわけだ。

 

「……今回の試験のルールとして、体調不良によるリタイアは一名につき30ポイントの減少というペナルティが決まっている。そのため既に欠席者がいるAクラスは、270ポイントからのスタートとなる」

 

 坂柳のことか。しかし先天性の障害でも容赦なく減点するって、場合によってはまあまあ問題になりそうじゃないか? 坂柳は理事長の娘らしいが、贔屓するわけにはいかないという意識が逆に働きすぎているようにも見える。

 自分のクラスの事だからか、説明する真嶋先生の顔は少し悲しそうだ。真嶋先生、強面だけど意外と生徒思いだしな。

 

 ……初めての特別試験だから期待はしていなかったけど、やはり退学に関する規定は無いっぽいな。この後詳細な説明があるみたいだが、どうも望み薄だろう。今回の試験も、よくよく動き方を考えて実行する必要がありそうだ。

 

「……質問は無いな? では、以上でこの場における説明を終了する。全てのクラスは、自らの担任の下へ集合するように」

 

 そう言って真嶋先生が壇上を降りると、それぞれのクラスごとに分かれて担任の下へと移動していく。

 全てのクラスが初めて臨む、今年度最初の特別試験。互いの思惑が絡まり合うこの試験は、意外なほど静かに始まったのだった。

 

 

 

 

 


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