転生したら白い部屋だった   作:なりまんじゅう

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第十二話

 一年生全員がクラス別に移動し終えると、俺たちはAクラス担任の真嶋先生から追加説明を受けた。

 

 その概要を大雑把にまとめると、以下のようになる。

 

 

 ・生徒は全員配布された腕時計を着用する事。体温や脈拍を測ることができ、GPSも搭載されている。外した場合はペナルティとなる。

 ・支給品は、テント2個、懐中電灯2個、マッチ1箱。歯ブラシは各自一つずつ配布され、日焼け止めや生理用品は無制限に支給される。また、段ボールの簡易トイレとワンタッチテントも支給され、ビニールとシートも無制限に使用できる。

 ・環境破壊は20ポイント、午前八時と午後八時の点呼に遅れた場合は5ポイントのペナルティ。

 ・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、その生徒が所属するクラスは失格となり、対象者のPPは全て没収される。

 

 

 試験の基本情報と、他クラス同士の直接的な暴力を抑制するルールだ。支給された腕時計は、生徒が危険に陥らないよう監視する役目があるのだろう。

 

 そしてここからが、この試験において最も重要なルールとなる。

 

 

 ・島の各所にはスポットとされる箇所が複数設置されており、クラスはそれを『占有』することができる。占有には後述の『キーカード』が必要となる。

 ・占有権は8時間ごとに消滅し、スポットを占有するたびにボーナスポイントを1ポイント取得できる。

 ・各クラスはスポットを選んで『ベースキャンプ』を設置し、場所を担任に伝える事。

 ・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、50ポイントのペナルティ。

 ・各クラスはそれぞれ『リーダー』を決定し、クラス担任に伝える。その後、リーダーの名前を刻印した『キーカード』が支給される。許可なくリーダーを変更することは出来ない。

 ・7日目の最終日、点呼時に他クラスのリーダーを指名することができる。指名に成功した場合、50ポイントを取得し、的中されたクラスのポイントは50ポイント減少する。指名に失敗した場合は50ポイントのペナルティ。

 

 

 島内に点在するスポットとボーナスポイント。それを占有するために必要なキーカードとリーダー。これをどう扱うかによって、この試験の結果は大きく異なるだろう。

 

 Aクラスのそれぞれが戦略を考える中、葛城が大きな声でクラスに語りかける。

 

「全員聞いてくれ。誰をリーダーにするか考える前に、まずはベースキャンプを確保したい」

 

 そう言って、なぜか葛城が俺の方を見てくる。どうしたよ。

 

「九条、お前なら分かるな? 船から島の外観を見たとき、島の奥に洞窟があったはずだ。その近くに小さな沢も見えた。俺はあそこをベースキャンプにしようと思う」

 

 葛城の言う通り、確かに島の奥に洞窟があるのを見ることが出来た。広さまでは分からないが、場合によってはテントを買うポイントも必要なくなる。他にも川の近くや海辺などベースキャンプに相応しい場所はいくつかあるだろうが、恐らくあの洞窟が最も今のAクラスには適しているだろう。

 他の生徒も、あの洞窟に目をつけていたようだ。葛城の判断に賛成の声が上がる。

 

「どうする、葛城。俺が先行して、他のクラスが占有しないように確保しておくか?」

 

 ホワイトルーム仕込みの高速移動を見せつけてやるぞ。

 船のデッキには他の生徒もいた。早い者勝ちの奪い合いになる可能性は十分にある。

 俺がそう言うと、葛城は首を横に振る。

 

「いや、お前には他に頼みたいことがある。鬼頭と弥彦、場所は分かるな? Aクラスの中でも身体能力に優れる二人に確保を任せたい。頼りにしているぞ」

 

 任せて下さいよ葛城さん! と戸塚が意気込み、鬼頭は無言のままクールに頷く。

 戸塚ってそんなに運動神経良かったか……? と思ったが、恐らく自分を慕う戸塚に仕事を与えたい葛城の親心 (?) が出たのだろう。

 指示を受けた二人は、そのまま森の奥へと進んでいった。戸塚はともかく、鬼頭は悪路を歩きなれている動きだな。どこで習ったのか気になる所だ。

 

「よし、俺たちも移動を開始しよう。すまないが、手分けしてテントやトイレなどの支給品を運んでくれ。また、この中にキャンプ経験者かサバイバルの知識を持っているものがいれば手を挙げて欲しい。俺と九条と共に、マニュアルの確認を頼む」 

 

 葛城の指示と共に、Aクラスの全員がテキパキと動く。

 何も言わずとも役割が分担され、支給品を運ぶ者と前に出て先導する者、最後尾から誰かが迷わないように見張る者が勝手に決まっていく。

 マニュアルの方にはかなりの人手が割かれた。この特別試験に備え、サバイバルの知識を調べていた生徒が多かったからだ。その中には、以前放課後に話していたメンバーも幾人か見えた。

 

 いつでも質問できるように真嶋先生には近くに来てもらい、早速話し合いが始まる。

 

「どう考えても、ある程度の出費はやむを得ないよな。学園からの支給品が少なすぎる」

「衛生面を考えれば、仮設トイレはあった方が良いだろうな」

「間違いないな。あの粗末なトイレ一つでは、確実にいつかトラブルになる」

「ウチ的にはー、この仮設シャワーってのもあった方が良いかも」

「シャワーもか? 洞窟の近くには沢があるらしい。そこで水浴びでは駄目なのか」

「ダメじゃないけどー、ちょっとキツくない? ウチがワガママ言ってるわけじゃなくて、7日間ずっと水浴びだと体調崩す奴も出そうじゃない? そしたら30ポイントのマイナスなわけだし」

「シャワーとトイレを合わせて40ポイントか……食料も合わせると、残せるポイントはかなり少なくなりそうだな」

「いや、それはどうだろうか? 九条が言っていたんだが、この島には明らかに学園側の手が入っている。島の各地に食料がある可能性が高いんじゃないか」

「く、九条くんが言うなら、絶対そうだと思う……。私、食べれる植物についてこの前調べたから、何か助けになれるかも……」

 

 マニュアルを全員で覗き込みながら、Aクラスの生徒たちが話を進めていく。

 そこから少し離れて、俺は葛城とリーダーに関する会話をしていた。なんでやねん。

 向こうには女子が多いので、正直あっちに混ざりたかったりする。

 

「葛城。俺を右腕として信頼してくれるのは嬉しいが、このままでは俺のサバイバル知識が活かせない。即刻俺を向こうのマニュアル組に回してくれ。これはクラスの事を考えた真剣な判断だ」

「やかましい。九条、お前はそのふざけた性格が玉に瑕だぞ」

 

 そう言うと葛城は軽く笑ってみせる。

 

「……いや、俺の緊張をほぐそうとしているのか? ……まあいい。この試験、どう考えたってリーダー当てがカギだ。いくら節約しようが、スポットを確保してポイントを増やそうが、リーダー指名で全てが無に帰す」

 

 葛城の言う通り。一つのスポットを7日間ずっと占有したとして、得られるポイントは最大で21ポイント。だがリーダーを当てれば、それだけで50ポイントなのだ。このルールを決めたのは学園だ。どう考えたって、リーダー当てを主軸にしろと誘導しているように思える。

 

「俺の意見としては、まず他クラスへのリーダー指名は行わない。外した時のリスクが大きすぎるからだ。その上で洞窟をビニールシート等で覆うことで守り、他クラスにリーダーを当てさせないよう立ち回るべきだと考えているのだが」

 

 攻撃より防御を重んじる葛城らしい意見だ。もちろん悪くない。既に俺たちはCPで優位に立っているのだから、それを守るだけで勝てるというのは一つの考えだ。葛城の判断はやや守りに寄りすぎている傾向こそあれど、決して間違いではない。

 だが、果たしてそれでDクラスに勝てるのか? その裏にいる、綾小路に勝利できるのか。

 

「…………少し考えさせてくれ」

 

 間違いなく勝てない。ただ守っているだけでは、あのホワイトルームの最高傑作、綾小路清隆に勝利することはできない。どうするか考えろ。今の俺には、勝つための明確なビジョンが見えていない。龍園や綾小路父のような、勝利への意志が不足している。

 ……そもそも、この試験における俺の勝利とはなんだ?

 

「真嶋先生。試験に関して質問があるのですが」

 

 今回の試験、あまりにも情報が足りていない。

 近くにいた真嶋先生に声をかけ、隣に来てもらう。地面に生い茂る草に足を取られ、だいぶ疲弊している様だった。……よく考えれば、この試験って先生たちが一番大変かもな。せっかくの夏休みなのに、無人島サバイバルに毎年強制参加させられているのだ。教師って本当にブラックなんだな。

 先生の息が整うのを待ち、改めて質問する。

「この試験中、ポイントを他クラスへ譲渡することは可能ですか?」

「ハァ、ハァ……いや、クラス間でのポイント譲渡は認められていない。これは、スポットを更新することで得られるボーナスポイントに関しても同様だ」

 

 まあそりゃそうだよな。もしそれが認められるなら、適当なクラスに300ポイント渡してから全員リタイアすればいい。この試験中、ポイントがマイナスになることは無い。リーダーを当てられる心配がなくなった後にポイントを返してもらえば、それだけで300CP獲得だ。

 

 ……いや? 違うな。あくまで()()()()の譲渡は出来ないだけか。

 

「では、他クラスへ()()()()()()を譲渡することは?」

「――――可能だ。両クラス間の合意があれば、所有権を他クラスへ移譲することが出来る」

 

 やはりな。つまり、『交換した物資を引き渡す代わりに、相手はそれに相当するPPを毎月振り込む』という契約を結ぶことも可能なわけだ。そうすれば、実質的にクラスのCPを大きく伸ばすことが出来る。

 ……この契約をDクラスと結んで、その後に『この契約を破棄する代わりに、綾小路を退学にしろ』とでも言えば……。

 いや、無理だな。俺はこのクラスの民意をほぼ掌握したが、それは全員からの信頼によるものだ。恐怖によるものじゃない。自由意思を奪っていない以上、そこまでの無茶を押し通すのは不可能だ。

 

「物資は交換可能なんだってさ、葛城。うちはAクラスだ。ひょっとすると余所から、物資とPPの交換を持ちかけられるかもね。もしそうなったらどうする?」

 

 いきなり声をかけられた葛城はしばらく黙って考えたのち、ゆっくりと首を横に振った。

 

「……いや、無いな。こちらの方が損をする可能性が高い」

 

 はっきりと断言した葛城は、そのまま言葉を続けていく。  

 

「もしAクラスが分裂したままだったとしたら、俺はその契約を受け入れていたかもしれない。とにかく結果を出そうとする焦りで、まともな判断が出来なくなっていただろうから。だが、今のAクラスは一つにまとまっている。そのような邪道に走らずとも、正攻法だけで十分に勝てる実力があるはずだ」

 

 そう答える葛城は、自信に満ちたいい顔をしている。団結したAクラスを率いるうちに、リーダーとしてまた一つ成長した様だった。

 

「……お前がリーダーでよかったよ、葛城」

 

 うおおおおお葛城最強! 葛城最強! ワシが最初の大統領なんじゃァ~~~!!

 

 その後俺は真嶋先生に質問を繰り返し、腕時計を外した際のペナルティ内容やキーカードの損傷について、そして他クラスのスポットを使用とは具体的に何を指すのかについて執拗に聞きまくった。

 疲労しているはずの真嶋先生はそのすべてに懇切丁寧に答えてくれ、何故か葛城の方が申し訳なさそうにしていた。

 ご、ごめんなさい真嶋先生……。この借りは試験の結果で返すので!

 

 

 

 

 

 

 

 


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