転生したら白い部屋だった   作:成間饅頭(旧なりまんじゅう)

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第十三話

 

 

 さて、真嶋先生を疲労困憊にしながらも、俺たちは何とか洞窟にたどり着くことができた。

 先に到着していた戸塚と鬼頭は俺たちが到着するまで洞窟内を探索しており、スポット占有用の機械がある事を発見していた。鬼頭の話では、戸塚が大声で騒ぐものだから他のクラスに気付かれないか肝を冷やしたらしい。お疲れ様です。

 

 意外な事に、洞窟に到着したAクラスの面々に疲労の色は見られなかった。洞窟まで重い荷物を抱えながら山道を歩いてきたのにも関わらず、既にテントの設営や周辺の捜索に取り掛かっている。この試験に備えて、ランニングなどをしていた成果が出ているようだった。

 

「さて、取り合えず出だしは上々だな。 葛城のおかげで、どのクラスよりも先に動き出す事ができた。だが、ここからが本番だ。まずはリーダーを誰にするか決めないとな」

 

 拠点の構築や周囲の警戒を彼らに任せ、クラスの一部(リーダー格の者)は洞窟内で作戦会議を行っていた。

 メンバーは俺と葛城に、橋本正義という男子生徒と神室真澄という女子生徒で合計4人だ。この2人はトップ不在の坂柳派閥代表として、意見の均衡を取るために呼ばれた意味合いも強い。

 

「……そうね。リーダーを当てられればマイナス50ポイント。どんなに節約しても、一瞬で意味が無くなる」

 

 冗談めかして語る橋本に、神室も同意して頷く。この神室って子は、なんか最近すごい話しかけてくるんだよな。本人は結構無愛想な感じなんだが、何か心境の変化でもあったのだろうか。あるいは俺にモテ期が来たのだろうか。ホワイトルーム製の優秀な頭脳で考察する限り、これは後者の可能性が高いな。

 

アンタ(九条)はもう、誰をリーダーにするか考えてる? 複数スポットを占有する可能性を考えると、体力のある男子が良いと私は思うんだけど」

 

 そう神室に水を向けられるが、俺は答えに困ってしまう。どんな奴をリーダーにするか、全く決められていないからだ。

 

「うーん……、ちょっと考えさせてくれよ……。何か思いつきそうで出てこないんだよなぁ……」

 

 真嶋先生との会話を重ねるうちに、アイディアの切端が少しずつ溜まってはいたのだ。それを明確な策として出力できていないだけで。

 船から見えた限り、この洞窟の周辺にはあと2つのスポットらしき場所があった。1つのスポットを占有し続ければ、合計21ポイントが得られる。もしこの3つを占有できれば、63ポイント。坂柳の欠席によるマイナス30ポイントを補って余りある成果だ。だが同時に、複数のスポットを占有し続ければ他クラスに目撃されるリスクも高まる。

 

 チラリと目線を横に向けると、洞窟の壁に大きなモニターが埋め込まれているのが見える。明らかに人の手が入りすぎていて、初めて見たときは正直笑ってしまった。近くにはカードリーダーらしき機械のみがあり、一層モニターの異様さを高めている。

 ここには監視カメラとか入ってないんだな。洞窟内で着替えなども行う可能性が高い以上、そんなものが置けるはずも無いか。

 

「ハッ、九条が弱ってんのは珍しいな。どうする? 葛城。 俺の意見としては、リーダーはクラスで目立たない生徒にするべきだと思うがな。葛城や九条は、他のクラスでも名が売れてる。当て推量で的中させれられちゃあたまらねぇ」

「うむ……。俺としては、スポットを複数占有する事へのリスクが気にかかるな。この洞窟をビニールシートなどで覆えば、もう他のクラスの視線は通らない。このスポットだけを保持するのはどうだろうか」

「ふーん……ちょっと慎重すぎとは思うけど、今はアンタがトップだからね。だったら、Aの女子から選ぶ? 山村なら、うまくキーカードを守ってくれると思うけど」

「いや……Cクラスなどによって荒事に持ち込まれる可能性がある。神室の理由とは別に、やはりある程度の身体能力は必須だ」

「あまり目立たないタイプで、運動能力に秀でた男子生徒……。鬼頭とかどう?」

「あいつが一番目立つだろうが。歌舞伎町で鬼頭みたいな顔のヤクザ見た事あるぞ、俺。島羽なんて適任だと思うがな。 他クラスに知り合いもいないし、たしかそこそこ運動もできるやつだ」

 

 周りで葛城たちが議論をしている中、俺は一人で考え続ける。

 俺は何に引っ掛かっている? スポットとキーカード。リタイアによるリーダー交代の可能性。 物資とPPを引き換えに結ぶ契約。この試験で何をしてくるか分からない、綾小路の存在。様々な思考が浮かんでは消えていく。

 この試験のテーマが『自由』だとわざわざ伝えられた理由はなんだ? 中間試験のように、隠されたルールが存在する可能性はあるのか?

 

「――――よし、じゃあそれで決まりだ。スポットを捨てるのは惜しいが、50ポイントに比べりゃはした金だ」

 

 橋本の声で、ふと我に返る。考え込んでいる間に、随分議論が進んだらしい。どうやらリーダーは島羽という生徒に任せ、洞窟のみを占有することに決めたようだ。

 

「……九条。アンタが悩んでるところ悪いけど、もうそろそろ試験開始から1時間たつ。リーダーを早く決めて、食料探索に本腰を入れたい」

 

 そう言って、神室が遠慮がちに腕時計を見せてくる。神室の細い腕に、スマートウォッチのような時計がよく似合っている。

 

「その……。アンタが頑張ってるのは良く知ってるから、あんまり無理しなくても……」

 

 せっかくAクラスの首脳会談に参加したにもかかわらず、ずっと黙っていた俺を気遣っているのだろう。神室がぎこちなく慰めてくる。やめなされやめなされ、逆効果のフォローはやめなされ……。

 そして、そもそも慰められる必要もない。神室に声をかけられた瞬間、やっと俺はアイディアを捻りだす事ができたのだ。急に視界がクリアになったような錯覚。今まで脳内を漂っていた思考が有機的に結びつき、一つの結論へと辿り着く。

 

「……ありがとう、神室。でも大丈夫だ。おかげでやっと良い考えが浮かんだ」

 

 こちらを見つめる3人へ不敵な笑みを返し、俺は自信を持って宣言した。

 

「―――――()()()()()()()()()

 

 人生は常に前向きに。困難に立ち向かってこそ人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、私は女子として当然の要求をしてるだけ! こんなトイレで一週間なんてムリ!」

「そうやって自分の意見ばかり主張するのを止めてくれと言っているんだ! せっかくのCPを伸ばすチャンスなんだぞ!? 個人の好き勝手を聞き入れていたらキリが無い!」

 

 ……眩暈がしそうだ。目の前で繰り広げられる低レベルな言い争いに、オレは思わず目元に手をあててため息をついてしまう。Dクラスは統率に欠け、ポテンシャル()()無いような生徒が集められたクラスだ。一週間無人島でサバイバルをするというこの特別試験でも、クラス内でトラブルが起こるのは容易に想像できた。

 だが、まさか開始直後からコレとはな。いつかDクラスにはオレを超えて欲しいと願っていたが、悪い意味で想像を超えられるとは思っていなかった。

 

 もう一度深くため息をつくと、平田が慌てて両者を仲裁しに行く姿が目に入った。

 『衛生面や体調を考慮すれば、ある程度のポイントはやむを得ない』と説得する平田に、どうやら幸村は説き伏せられたらしい。不満げに座り込むと、拗ねたように顔をそむけていた。

 

 九条……。お前がいれば、一瞬でこんなもめ事片付いただろうに。人間関係の(あら)を補えるお前が、どれだけこのクラスにとって有用なことか。つくづく、他クラスであることが惜しい人材だ。

 この言い争いと不慣れな行軍で、オレたちはかなりの時間を取られた。かなり前に、他のクラスは移動を開始している。特に移動の早かったAクラスとBクラスは、既にいくつかスポットを発見していてもおかしくない。

 

「それじゃあ、僕たちも探索に行こう。今1時30分前だから3時まで探索して、成果は無くても一度戻ってきてほしい」

 

 平田の号令に従い、Dクラスも探索を開始するのだった。

 

 

 

「ああ、美しい……。大自然の中に悠然と佇む私は美しすぎる……! 究極の美だ!」

「そうか……良かったな」

 

 オレと佐倉、そして高円寺の3人チームで森を歩き続けてしばらくたった。こいつ、自分で言ってて飽きないのか? 常にポーズを決めながら歩く高円寺を見ていると、もはや人間というよりは人型のUMAと話しているような気分になってくる。

 

「ふぅむ……やはり凡人共に私の美しさは分からんようだねぇ」

 

 そう語りながら足早に進む高円寺だが、その進路には一切の無駄がない。オレが理想としていた道筋を迷うことなく歩んでいる。やはり侮れない、多彩な才能の持ち主のようだった。

 

「……おっと、ではこれで失礼させてもらうよ。私は騒がしいのが嫌いでねぇ」

 

 高円寺は突然そう言うと、踵を返して元きた道へ戻っていってしまった。

 オレと佐倉は、呆然としてその背中を見送る。あ、あまりにも自由人すぎる。だが騒がしいのが嫌いという事は、この先に他のクラスがいるという意味か?

 佐倉と目配せをして、慎重に坂をのぼっていく。

 

「ビニールもっと貰ってきてー! こっちにもっと敷きつめたい!」

「会議長引いてるし、探索班は先に出発するよー! 先にスポット発見優先ね!」

「枯れ木集めにいくから、2人くらいついてきてくれー!」

 

 集団のにぎやかな声が聞こえてくる。慌てて佐倉を茂みに押し込み、オレもそこに隠れる。佐倉が顔を赤くしているが、今だけ我慢してほしい。

 

「いやー、九条と葛城さまさまだな! この洞窟、たぶん島内で一番いいスポットじゃないか?」

「ああ。近くに沢もあるし、雨が降れば洞窟に避難できる。かなりポイントを節約できるな」

 

 九条、と聞こえた。眼前の生徒たちの顔に見覚えは無いが、どうもここはAクラスの拠点のようだ。多くの生徒たちがテントを設営したり、探索の為のチームを組んでいるのが見える。

 ……あれは、無制限に支給されるビニールを洞窟やテントの下に敷いているのか。簡素な絨毯モドキだが、無いよりはマシだろう。

 団結力はBクラスの専売特許だと思っていたが、Aクラスもそれに匹敵しているようだな。和気あいあいと声を掛け合う彼らの姿は、遠くから見ても活力に満ち溢れている。

 

「佐倉、いったん退こう。ここは既にAクラスの拠点だ」

 

 船から、島内に人が切り拓いたような道が存在することは気付いていた。学園側からの、ここにスポットがあるという明確なヒント。出来れば他のクラスより先に発見したかったが……。篠原と幸村の言い争いで時間を食われたか。いや、纏まりのないDクラスでは集団移動に時間がかかる。どの道不可能だったな。

 佐倉と共にこの場を離れようとしたとき、奥の洞窟から人影が出て来る。

 

「やっほ~~~~!! 全員、会議終わったぜー! 長引いてごめん!」

 

 この気の抜けたような声、九条が来たのか。その後ろには、葛城や他の生徒たちが続いている。

 

「探索班は……まだ出発してないな! 会議の結果を説明するから、全員集まってくれ!」

 

「(あ、綾小路くん……! これ、Aのリーダーを知るチャンスかも!)」

 そう囁く佐倉に首を振ると、オレは佐倉の手を引き急いで撤退する。

 九条の事を甘く見るべきではない。今も奴は明るく笑顔でAクラスに語りかけているが、その笑顔の奥では常に周囲を観察している。オレたちの存在にも既に気が付いているだろう。妙な事を佐倉に吹き込まれれば、かえって不利益だ。

 オレの行動は佐倉にとって少々不自然に映るだろうが、幸いなことに彼女の能力は低い。後からどうとでも言いくるめられる。

 

「(行くぞ)」

 

 手を握られて再び顔を赤くする彼女を連れ、オレたちは洞窟を後にしたのだった。

 

 

 

 Dクラスへ戻ると、どうやら池がスポットを発見したようだった。得意げな彼を尻目に、オレたちはそのスポットへ移動する。池の話では、川辺を探索しているときに偶然発見したらしい。

 

「うん。綺麗な水に日光を遮る日陰、地ならしされた地面……。ここならベースキャンプに理想的かもしれない。すごいよ、池くん!」

 

 平田に褒められ、ますます池が調子づいている。

 だが、確かにここは優れたスポットだ。Aクラスの拠点近くにも沢があったが、ここに比べればかなり小さい。生活用水や飲料として使うことを考えれば、この大きな河川を独占できるというのは大きなアドバンテージだ。池という生徒への評価を改めなければならないかもしれない。

 

「あ、ちょっといいかな! 私考えたんだけど、リーダーは堀北さんに任せたらどうかな? 責任感があるし、安心してリーダーを任せられると思うんだけど」

 

 櫛田の推薦で、リーダーは堀北に決定した。他の生徒にも不満は無いようで、さっそく茶柱先生にキーカードを発行してもらう。ワイワイと騒ぐクラスの中、オレは平田に声をかける。

 

「あー……。夜になる前に、出来れば焚き火がしたいよな。オレ、枝を集めて来るよ」

「え? ああ、ありがとう。でも一人じゃ危ないから、山内くんと一緒に……」

「いや、この近くをうろつくだけだから大丈夫だ。行ってくる」

 

 強引に会話を切り上げ、クラスの喧噪から一人で離れる。静かな空間で、自分の思考をまとめたかった。

 

『お前は私のためにAクラスを目指す。そして私はお前を守るために全面的にフォローする。つまりAクラスを目指すか退学するか……だ』

 

 夏休み前、茶柱から呼び出された指導室での会話を思い出す。実力を隠していることを指摘され、退学したくなければAクラス行きの為に協力しろと脅迫された時のことだ。

 茶柱が嘘をついている可能性はかなり高い。既にオレの父は、九条という最上位の駒を動かしている。言い方は悪いが、奴に出来ない事が茶柱程度にできるとは思えない。そもそも、彼女との会話で九条の事は一言も出てこなかった。

 だが、それでは何故彼女がオレの事を知っているのかに説明がつかない。オレの父と茶柱の間にどのような繋がりがあるか分からない以上、やはり最悪を想定して動く必要がある。

 

「どちらにせよ、茶柱と奴が接触するのは不味い。特に、茶柱にオレの有能さを見せつける前は」

 

 『えっ、茶柱先生って自分のクラスをAに上げたいんですか? 全然協力しますよ! これからの特別試験、Aクラスの情報を全部Dに流しますし、Dクラスが必ず勝てるように調整もします! あー、でもその代わり、ちょっと退学にしてほしい生徒が1人だけいまして……』

 

 こんな会話をされたら、その瞬間にオレは終わりだ。実力未知数なDクラスの生徒と、歴代で唯一この学園に()()()()()()()()優秀な生徒。特に後者は、既にAクラスをほぼ掌握している。茶柱がどちらを取るかなんて、わかり切った話だ。

 茶柱に、オレは残しておく価値のある人間だと知らしめなければならない。そしてそのためには、この特別試験で優れた結果を残さなければならないだろう。

 

「…………行くか。枝も十分に集まった」

 

 DクラスをAクラスへと導く。綾小路清隆(ホワイトルーム最高傑作)を超えるクラスへと成長させる。結局のところ、俺がやるべき事はさほど変わらないのだ。

 

「人生は、常に前向きに。困難に立ち向かってこそ人間だ」

 

 九条の受け売りを口の中で呟きながら、俺はDクラスの喧噪へ向けて足を進めるのだった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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