転生したら白い部屋だった   作:なりまんじゅう

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第十四話

()()()()()()()()()()。これがこの試験で最も重視すべき点だ」

 

 俺がリーダーをやると宣言した後、当然のように葛城たちからの猛反発にあった。

 今までの議論を全てひっくり返しているのだ、当然の反応だろう。

 

 だが、これは俺にとっても譲れないポイントだ。彼らを落ち着かせ、理由を説明する。

 

「葛城、マニュアルをみんなに見せてほしい。【正当な理由なくリーダーの変更は認められない】と、マニュアルには書かれているが……この正当な理由というのはどうも曖昧だろう? 何をもって正当とされるのか、まったく説明が無い。これ、いかにも学園側が仕込んでいるといった感じがしないか?」

 

 リーダーの変更なんて、本来もっとルールでガチガチに縛らなければいけない条件だ。

 変更が認められる条件を詳しく設定するほかに、【リタイア時、それまでのスポット占有によるボーナスポイントは無効となる】程度のデメリットもつけておくべきだろう。

 

 それを学園側がしていないという事は、つまり生徒側がこのルールを悪用することを推奨しているわけだ。あえてルールの穴を残し、生徒たちがそれに気付けるかを試している。

 

「リーダーである俺が、例えば体調不良で高熱を出せばどうなる?当然、試験は続行できない。俺はリタイアする他ないし、それはリーダーを変更する十分な理由になり得ると思わないか」

 

 リーダーが不在になれば、スポットの更新も出来ず、他のクラスからリーダーを当てられることも無い。試験のルールが完全に崩壊する。学園側が代わりのリーダーを指名させるのは当然の措置だろう。

 

「これらの事実は既に真嶋先生に確認済みだ。Aクラスはスポットを複数……出来れば6~7個占有し、ボーナスポイントを100ポイント以上獲得する。その上で試験最終日にリーダーがリタイアし、他クラスからのリーダー的中を回避する。これが、今まで俺が考えていた策だ」

 

 ここまで語り、彼らの反応を待つ。正直、もっといい方法なんていくらでもあると思う。その穴を防ぐための方便はいくつか用意しているが、果たして納得させられるかどうか。

 リーダーが交代可能だという事実に驚いた顔をしていた葛城たちは、少しして立ち直ったのだろう。かわるがわる質問をしてくる。

 

「ただの生徒と違い、リーダーのリタイアについては厳密に管理されるだろう。仮病でどうにかなるはずもない。リタイアを取り付ける算段はあるのか?」

「数日水を飲まなければ脱水症状でぶっ倒れるだろうと思うが……そう怒るなよ、そこまで危険なことをするつもりは無い。せいぜいちょっと傷んだ物でも食べて、腹を下すくらいで良いだろう」

「私はアリだと思うけど……スポットってそんなに占有できるもの? そこまで見つけ出せるとは思えないんだけど」

「船から観察した時に幾つか発見したものがある。ここのスポットを併せれば、6~7個はそう無理な数字ではない」

「今の話だと、リーダーは九条じゃなくても良いんじゃねぇか? スポットをグルグル巡るだけなんだ、誰にでもできんだろ」

「それぞれのスポットはかなり離れている。これを7日間、休みなくまわり続けるのはかなりの重労働だ。発案者が辛い仕事を引き受けるという意味でも俺が適任だとは思うが……もちろん更に適した者がいたら変わってもいい」

 

 

 いくつかの質疑応答を終え、葛城たちは一応納得したようだった。少々の不満を黙殺するほど、ボーナスポイントが魅力的だったのだろう。

 物資の交換を多めに見積もって、マイナス90ポイント。7つのスポットを占有してだいたいプラス140ポイント。俺と坂柳のリタイアでマイナス60ポイント。300ー90ー60+140=290。ほぼ300ポイントをそのまま得る事ができる。ここまでの成果を残せるクラスはそう多くないだろう。

 

 

 全員に何となく受け入れる雰囲気が広がった後、俺が再び口火を切る。

 

「この作戦には、もう一つ利点がある。……葛城。Aクラスの指導者であるお前に聞きたいんだが、葛城は他のクラスのリーダーを指名するつもりだったか?」

 

 答えは分かり切っている。攻撃より守備を重視する葛城が、不用意にリスクを冒すはずがない。

 

「……いや。リーダー指名には不確定要素が多い。CPに余裕があるAクラスには必要ないと考えていた」

「だろうな。だが、他のクラスはそう考えないかもしれない。Aクラスとの差を少しでも詰めるために、リーダー当てに力を注ぐクラスもいるだろう」

 

 そこで、この作戦が生きてくるのだ。

 リーダーを当てるために、多くの人員を割いて島内を探索する他クラスの生徒たち。彼らは当然、島中のスポットが既にAクラスによって占有されている事に気付くだろう。

 これがもしDクラスであれば、Dクラスの事を馬鹿にして何も考えなかっただろう。リーダー当てを狙っている自分たちにも気づかず、のんきにボーナスポイントを稼いでいると思ったはずだ。

 

 だが、相手はA()()()()なのだ。

 中間試験で最も優れた成績を修めたクラスであり、DとCの暴力事件を解決させた実績もある。そんなクラスが、意味もなくこんな危険を冒すとは思えない。

 

 彼らは必死に俺たちの行動を考察し、そしていつかリーダー変更について思い至るだろう。

 リーダーをリタイアさせ、その役職を適当な生徒と交換させる。こうすれば、決して他のクラスにリーダーを的中されることは無い。その自信があるからこそAクラスはこんな無茶なことをしているのだと、いずれ必ず気付く。

 

「リタイアによるリーダー変更。そこまで考え付いた彼らは、どうすると思う? 神室」

「……私だったら、()()()()()()()()()()()()()()()と思う」

 

 もしリタイア作戦に気付かなかったとしても、俺が情報を流す。他クラスとの伝手を利用して、こうすればリーダーは当てられないよと教えてやるのだ。

 きっとどのクラスも俺に感謝するだろう。わざわざそんな事を教えるなんて、Aクラスの九条という奴は随分なお人好しだと思ってくれるかもしれない。

 渡された情報が、試験全てを蝕む猛毒だとも知らずに。

 

「全てのクラスのリーダーが直前でリタイアし、誰がリーダーか分からないようにする。果たしてこの状況で、リーダー指名に踏み切るほどの馬鹿なクラスがいると思うか?」

 

 この七日間でどれほどリーダーの情報を集めようが、最後にリーダーを変更されただけで無意味になる。

 あまりにも利益が無い。どのクラスもリーダー指名を諦め、せめて自分たちが的中されないようにリタイア作戦だけを行うだろう。

 

「葛城の方針で、俺たちAクラスは元々リーダー指名を行わない予定だった。それを他のクラスにも押し付けてやるのさ。リーダー当てを実質的に封じれば、あとはスポットと島内に存在する物資の奪い合いだ。そして全員が知っている通り、地力において俺たちAクラスに並ぶ者は存在しない」

 

 王道とは、強いからこそ王道と呼ばれるのだ。その点において、葛城は常に正しい。自分たちの強みを良く分かっているからこそ、邪道を嫌い王道を好むのだ。

 だが、それだけでは足りない。相手の選択肢を封じ、()()()()()()()()()()()()()。そうすれば俺たちAクラスは誰にも負けないだろう。

 

「なるほどな……あえて自ら情報を開示することで、相手の動きを制限できるのか……。確かに、有効な策だと俺は思う」

 

 葛城は賛同してくれた。他の二人はどうだと視線を送ると、なんとなく微妙そうな顔をしている二人が目に入る。

 

「性格が悪い」

「なんかノリが嫌だ」

「これを1時間で思いつくのは脳のどこかが破綻してないと無理」

「胎盤に倫理観を置き忘れた男」

 

 

 死ぬほど評判が悪かった。覚えてろ、リーダー情報売り渡してやる。

 俺は一人で真嶋先生の元に行き、仲の良いクラスメイトと話をした後に寂しく森の奥へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!! 大漁だー!!!!」

 

 3人から心無い言葉を受けて傷ついた俺は、傷心を癒すために探索班に合流していた。既にスポットの占有は済ませている。きっちり7つ確保済みだ。今は食料調達のために、海辺でこうして釣り糸を垂らしている訳である。

 

「おい九条、こっち見ろって! 大漁だ大漁、良く分かんねぇ魚がこんなにとれたぞ!」

 

 隣で弥彦が騒いでいるが、それ大体毒あるからな。絶対触るなよ。

 逆にこの整備された島でよくそこまで有毒の魚だけ獲れたな……一周回って才能かもしれん。

 

「甘いな弥彦……この俺の釣果を見ても同じことが言えるか!?」

 

 ホワイトルーム生は釣りに関しても一流である。俺が弥彦に見せたバケツには、タコやクロダイなどの海産物が大量に詰まっていた。

 

「すげぇえええええ! こんなにあるならもうポイントで食料を交換する必要無いんじゃないか!?」

 

 弥彦からの賞賛が気持ちいい。格下相手にイキったり、たまにやらかしたりするけど、基本的に弥彦って凄い良い奴なんだよな……。憎めないタイプのアホというか、そういう世渡りの才能がある。

 

「よーし、そろそろ戻るか! これだけあれば、クラス全員が腹いっぱい食べれるな!」

「よっしゃ! おーい、みんなそろそろ帰るぞー!」

 

 弥彦の掛け声に従って、同じく釣りや植物の採取をしていた者たちが集まってくる。全員大漁だ、みんなの顔も充実している。

 

「いやー、釣りってやったこと無かったけど、超楽しいな!」

「それな! ちょっとハマりそうだわ俺!」

「男子は元気が良くていいねぇ……私はもういいかなー、魚って意外とグロいね」

「私もー。明日は神室さんたちの班に入れてもらおっか」

 

 ワイワイ話しながらベースキャンプに戻ると、既に焚き火が完成しており、設営班や調理班の生徒たちがその周りに集まっていた。既に撤収していた他の探索班たちが採ってきた食料を元に、今晩のレシピを考えているようだ。

 

「おー、九条たちじゃん。どう? 魚は獲れた?」

 

 料理部に入っている女子が、気安い感じでバケツの中を覗き込んでくる。

 

「うおっ、超大漁じゃん! このタコとか、釣り竿じゃ無理じゃない? どうやったの?」

「素潜りで獲った。明日はウツボにも挑戦予定だ」

「やばー、海の男じゃん」

 

 そう言ってケラケラ笑いながら、俺たちの成果物を回収して食料班の元に持っていく。

 

「見てー! 九条がタコ獲ってきたんだけどー!」

「うわっ、タコって間近で見ると超キモい!」

「ってか他の魚とかも大漁じゃん! これ何? クロダイ?」

 

 調理班の女子たちは実に楽しそうにはしゃぎあい、刺身にするか焼いて食べるかを話し合っている。

 俺も手伝いたいが、正直今日は朝からずっと動いていてかなり疲れた。ホワイトルーム仕込みの超絶調理テクを披露するのは明日以降で良いだろう。

 

「お疲れ、九条。この調子じゃ夕飯には困らなそうだな」

 

 焚き火の近くでぼーっとしていると、葛城がそう話しかけてきた。俺に冷たいペットボトルを差し出すと、自分もキャップを開けながら隣に座り込む。

 

「おー、ありがとう。喉乾いてたんだ」

 

 乾いた体に冷たい水がしみ込んでいく。ふう、と一息ついて喧噪に目を向けると、楽しそうなクラスメイト達の笑顔が目に映る。魚をどう捌くか頭を悩ませていたり、誰かが採ってきた果実を盗み食いしようとしたり。遠くの方では、仲の良い生徒たちで談笑しているのが見える。

 

「いやー、働いた甲斐があるね」

 

 この試験で最も恐ろしい失敗は、無人島で暮らすストレスによってクラスが崩壊することだ。この不自由な環境で生まれた不和や軋轢によりクラスがバラバラになれば、その修復にはかなりの時間がかかる。

 

 だがこの状況を見れば、それが要らぬ心配であったことが良く分かる。

 食料も確保され、住居はまあまあ快適。特別試験のあれこれも既に考えなくて良い今、彼らにとってこの状況は楽しいキャンプとほとんど同じになっているだろう。

 

 クラスメイト達が試験を楽しんでいる姿を見て、葛城の顔もどこか満足そうだ。そりゃそうだよな。葛城はこの試験において、Aクラスの司令塔という重荷を背負っているのだ。仲間を大切にする彼にとっては、プレッシャーも相当なものだっただろう。

 

「ああ。仮設トイレやシャワー、調理器具などでポイントはかなり消費したが……正直、想定よりもかなり節約できている。試験終了まで水や食料の交換が必要ないと仮定すれば、80ポイント程度の消費で何とかなるはずだ」

「おお、俺の想定よりちょっと少ない。女子たちから不満は出てない?」

「今のところは問題ない。こまめに聞き取り調査をしているが、枕や扇風機を交換してかなり快適になったようだ」

「あー、確かに扇風機あればかなり違いそうだね」

「俺たちは洞窟を確保している分、追加でテントを購入する必要が無いからな。住環境にポイントを注げる」

 

 この島、めちゃくちゃ暑いしな……。夜になればまだ涼しくなるのだろうが、それでも寝苦しい事には変わりない。体調不良によるリタイアを防ぐ意味でも、かなり気を遣うべき部分だろう。

 

「おーい、葛城さん! 九条! もう飯の時間だぞ!」

 

 クラスの一人が、少し離れて座っていた俺たちに呼びかけてくる。その手には皿とお玉が握られており、スープらしきものを盛り付けているのが分かる。

 

「なんで葛城はさん付けでおれは呼び捨てなんだ……?」

「ふっ、ある意味慕われている証拠だろう」

 

 Aクラスの生活はとりあえず順調。となれば、他のクラスがどうしているかが気になるな。食料には余裕があるし、明日は他クラスの偵察を進言してみるか。

 

 料理部の女子たちが作った食事は涙が出るほど美味かったし、ビニールが敷かれた洞窟の地面は寝心地がいい。

 

 試験があと一ヶ月あっても別に楽しめるなとクラスメイトと笑い合って、特別試験の初日は緩やかに過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 


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