転生したら白い部屋だった   作:なりまんじゅう

5 / 15
第五話

 

 綾小路が脱機械の兆しを見せてくれて嬉しいね。どうも、一般優秀ホワイトルーム生です。

 

 内容はどうでもいいので、とにかく欲望を抱くというのは健やかな成長の第一歩だ。しかも父を超えるとかいう超前向きな姿勢を見せてくれたので、後方友人面の俺としては本当に喜ばしい限りだ。

 

 それはそれとして、綾小路の変化は父親に報告しておいた方がいいな。この学園は外との連絡を徹底的に遮断してるが、それでもやり様はある。

 

 坂柳理事長は中立なので却下。学内のマンホールから外を目指してもいいけど、リスクが高い上にバレやすい。少し時間がかかる上に報告が一方通行になるが、部活の遠征に乗じて手紙で連絡を取るのが良いかな。練習試合が多そうなのはバスケ部か? 明日にはそこへ入部手続きをしておこう。

 

 ついでに俺の任務の優先度も聞いておきたい。大体1年で終わるはずだったのだが、綾小路が頑固なので更に時間がかかりそうだ。なので正直、1年たったらさっさと退学させて欲しい。俺、一応4期生の成功例よ? 将来官僚よ? 早くホワイトルームに帰って政治の勉強したいんですけど……。世の単身赴任してるお父さん達ってこんな気持ちなんだろうか。

 

 綾小路父がどのくらい息子に入れ込んでるかいまいち不明なので、ここから先の動きは絶対に相談しておきたい。報連相は社会人の基本。

 

 追加人員が来るとしたら、来年に新入生として送り込まれてくる感じかな? 嫌だな~。5期生の奴らって『綾小路を超えろ!』をスローガンに教育されてるから、ほとんどの人が綾小路のこと嫌いなんだよね。いや、俺は? 『九条を超えろ!』もスローガンにしてくれよ。俺大体の奴に舐められてるのか、女子とすれ違った時に肩パンされるんだけど。陰湿なヤンキーかよ。

 

 

 まあいいや。人生は常に前向き。

 

 とりあえず、Aクラス内紛を何とかしないとね。坂柳も葛城も仲良くすればいいのに。

 

「坂柳さんおはよう~。あ、カバン置くの俺がやるよ」

 

 隣の席にやって来た坂柳に挨拶をする。そう、実は俺と坂柳は隣の席なのだ。お互い思想的には対立してるが、それはそれとして仲良く出来るに越したことは無い。なので出来る限り積極的に話しかけるようにしている。

 

「この前チーズケーキが美味しいカフェ見つけてさ。坂柳さんも好きそうな味だと思うし、良かったら放課後一緒に行かない? 葛城も誘ったんだけど、結構乗り気だったよ。Aクラスのトップ同士、色々話しておいた方が良いんじゃないかな」

 

 綾小路と密談に使ったカフェの事だ。スイーツマスターこと俺の見立てに間違いはない、チーズケーキを口にした瞬間、あいつの顔が僅かにほころんだのを俺は見逃さなかった。パフェも美味いぞ。

 

 次は王道のショートケーキを、と考えていると坂柳が突き抜けたバカを見るような眼で俺を見てくる。何だ? チーズアレルギーか?

 

「…………あなたの神経を疑います。なんなんですか? どういうつもりで話しかけてきてるんですか? 何で平気な顔してるんですか? 神経を疑います。正気を疑います。あの特別棟の会話で、私達は敵同士になったはずですよね?」

 

 え、いや、別に……。敵は敵だけど、一生敵のままでいるとは決まってないだろう。スポーツと一緒だ。お互い本気で相手を倒そうとするけど、試合が終わればノーサイド。そういう感じでいきたい。

 

「偽りの天才に決着をつけるまで、貴方となれ合うつもりはありません。お喋りするつもりもありません。そのカフェの名前だけ教えて、もう黙っておいて下さい」

 

 何気にチーズケーキの事は気になってて草。

 

「決着とか言ったって、もう答えは出てるようなもんじゃん。 俺は凡人で、ちょっと効率のいい努力のやり方を教えてもらっただけだって。坂柳さんが同じ教育受けてたら、絶対俺なんて勝てやしないよ」

 

 ここら辺、ホワイトルームでも頭を悩ませている問題だからな。効率を突き詰めた教育によって、凡人は天才の領域に行くことが出来る。では、元々天才だったものは? 凡人のさらに上へ行くのでは無いか、未だかつてない程の領域へ至ってしまうのではないだろうかという問題だ。

 

 これに関しては『いや人間の能力値には限界があるから全員同じパラメータになるよ』派、『凡人は才能を目覚めさせられなかっただけなので天才と同じになるよ』派、『凡人は才能の振り分けが偏っているだけなので、それ以外の分野で天才に勝つよ』派などが骨肉の争いをしている。俺は『別にそうだとしても問題なくない?』派で、常に異端審問の憂き目にあっている。嘘だけど。

 

「チェスとかだったら坂柳さんが勝つし、腕相撲とかだったら俺が勝つ。それじゃ駄目なの?」

 

「駄目です。……思い違いを訂正しておきましょうか」

 

 そういうと坂柳はこちらに向き直り、睨みながら話しかけてくる。俺の言動の何かが、坂柳の逆鱗に触れたようだった。

 

「余り舐めないでくださいね、九条くん。私の言う『勝利』とは、相手を屈服させることです。敵の全てを引き出し、それを完膚なきまでに打ち負かす事です。魂までも服従させ、私の支配下に置くことです。チェスで勝ったとして、貴方が私に忠誠を誓いますか? 心からの敗北感を覚えますか? 違いますよね。貴方を服従させるには、そういった形だけの勝負では足りないはずです」

 

 なるほどね。坂柳の言う『勝利』とは、かなり精神的な側面が強いらしい。「私が勝ったと思ったら勝ちです」みたいな、隠し切れない傲慢さを感じさせるものだ。…………良いな。基本的に俺はプライドの高い人間が好きだ。熱意のある人間は一緒にいて楽しいからね。

 

「……坂柳さんの価値観は分かったよ。舐めてたつもりなんてないけど、そう思わせてしまってごめん。ただ、お願いだから葛城とは会ってくれないかな。お互い、話すべきことが沢山あると思うんだ」

 

 既に葛城には挨拶をして、派閥入りを認めてもらった。彼は義に厚い、いい男だ。葛城がクラスのトップになれば、それが一番いい。彼の広い徳による統治が行われ、クラスは安定するだろう。対立している坂柳を参謀役として取り込むだけの度量もあるはずだ。葛城が防御を、坂柳が攻撃を担当することで、このクラスは隙の無い良いクラスになるはずだった。

 

 渋い顔をする坂柳へ、ダメ押しの情報を伝える。清隆との接触前、俺は上級生と他クラスからこの学園の情報収集をしていた。退学条件、中間テストの乗り切り方、そして恐らく夏休み前に起こる特別試験については既に把握済みだ。

 

「Cクラスの龍園が暴力でクラスを纏めていることは知ってる? Bクラスの一ノ瀬は結束を重視するリーダーで、彼女のクラスに内通者を作るのはほぼ不可能に近い。Dクラスにも、注目すべきタレントが何人かいる。分裂したAクラスで、本当に勝てると思ってるか? 葛城は、君が思ってるほど愚かでも狭量でもない。一度深く話をしてみるべきだ」

 

 実際に接してみると分かる。坂柳は、覇王の気質だ。逆に、王以外には決してなれない。彼女がクラスのトップを譲ることは絶対に無いだろう。

 

 ならば、次善の策だ。もうこの2トップの体制は変えない。葛城も坂柳も、常にそれぞれの派閥を率いていてもらう。政治で言う所の、二大政党制の成立を目指す。Aクラスは固定の指導者を持たず、その時々の状況によってリーダーが変動するようになる。迅速な意思決定は難しいが、柔軟かつミスや腐敗の少ない組織にAクラスをしてみせる。

 

 その為には、お互いを敵視したままでは話にならない。他のクラスとも争う中、背後の裏切りを気にするのは不経済すぎる。クラスの雰囲気の問題もある。派閥のトップは形だけでも仲良くしておかなければ、対立を真に受けた末端の暴走を止められない。

 

「…………その程度でしたら、良いでしょう」

 

 よし、とりあえず第一段階は達成だ。坂柳くん! もうちょっと社交性を磨こう! 清隆と似たもの同士だぞお前ら!

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。