転生したら白い部屋だった   作:なりまんじゅう

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第九話

 

 どうも、一般転生ホワイトルーム生です。

 

 南雲先輩との話し合いも終わり、本格的にCクラスとDクラス間の争いに介入していくわけだが……。正直やるべき事はそこまで多くない。今回の騒動は、直接綾小路の退学に繋がるわけじゃない。今後の本格的な闘争に向けて、少しでも自分の手札を増やしておくターンだ。

 

「だから、絶対夏休みになんかあると思うんだよなー。九条もそう思うだろ?」

「ウチもそれ思った! プールの時の真嶋先生、なんか言い方キモかったもん」

「あー、『南の島にバカンス』ってやつ? 言い方変だったよね。そもそも、この学校がただ単にバカンスさせてくれる? って感じだし」

「俺、部活の先輩から夏休みに何かあるって匂わせてるの聞いたわ。たぶん特別試験がそこであるんじゃねぇの?」

 

 というわけで、今はAクラスの生徒たちと放課後にダラダラ喋っている。内容は間近に迫った夏休みについて。流石Aクラスの生徒たちというべきか、基本的な知能指数が高い。学園側が僅かに示したヒントを組み合わせて、確度の高い推測を立てていく手腕は見事の一言に尽きる。

 このグループ内には葛城を支持する者も坂柳を支持する者もいるが、活発に意見を交わす両者の間にわだかまりは無いように見える。やはり、Aクラスの団結に力を注いだのは間違いではなかった。一つになったAクラスは、この先大いに俺を助けてくれるだろう。

 

「確かに、夏休み直前に特別試験があるってのは俺も聞いたな。ただ、詳しい内容が分かんないんだよな」

 

 南雲先輩に聞いても教えてくれないだろうしな。あの人は確かに有能な部下を手厚く扱うが、その能力を常にふるいにかけて部下を選別している。指示に従うだけの手足など不要だと考えているからだ。

 

「ほら、九条もそう言ってるしやっぱ間違いないんだって。南の島で特別試験か……何やるんだろうな」

「今のうちに準備しといたほうが良いよな。先輩の話だと、結構CP動くやつらしいし」

「えー、わざわざ島まで移動するとか絶対体力系じゃん。ウチやだなー」

「わ、私も……。まだ、泳げるようにもなってないし……」

「確かにな。前の中間試験が頭脳系だったし、次は体力を求める試験ってのはある気がする。泳げるに越したことは無いって言ってたから、そういう試験じゃないか」

「南の島で体力を問う試験だろ? 最悪の最悪、俺たちだけでサバイバルってこともあるんじゃないのか?」

「はー? お前、それマジでないし! ウチそんなん耐えられないんだけど。ってかさ、もしそうだったらクラス間の有利不利が偏りすぎない? 100パー体力だけが求められるってことは無いと思うんだけど」

「CとかDの、運動部に入ってる奴が多いクラスが有利になりすぎるってか。確かにな」

「それに、ただ体力系の試験をやるなら学園の運動場で良くないか? わざわざ高い費用を出すんだから、南の島でしか出来ない内容だと思うんだが」

「水泳もそこまで重視する物ではないだろう。海難事故のリスクが高いし、同じくプールで良い」

「頭脳と体力の両方を使うもので、南の島でなければならない試験……さすがに絞り切れないな」

「で、でも、今のうちに体力をつけておくのは大事なんじゃないかな……つぶしが効くというか、どんな試験でも役に立つだろうし……」

 

 うーん、全員が優秀だとこんなに話が早いとは。合間合間に口を挟むだけでどんどん話が進む。一人の天才が突然答えを出すのではない。それぞれの視点と考えを繋ぎ合わせる事で推測を次々に進化させていく、まさに秀才の集まりだからこそ出来る方法だ。

 

 とか考えていると、俺の携帯端末が振動する。

 

「ごめん。俺そろそろ行かなきゃ」

「お、九条も部活? ならそろそろウチも行こうかなー。夏休みに向けて、ダンス部でスタミナつけないとね」

「俺、朝起きてランニングしようかなー。九条も一緒にやろうぜ」

 

 なんやかんや言いながらクラスメイト達がそれぞれ解散していく。かなり有意義な話し合いだったので切り上げるのが惜しいのだが、まあこれから先何回でも出来ることだ。俺も教室を出て、特別棟へ移動する。気を引き締めなくては。これから先は友人たちとの雑談ではなく――――

 

――――Cクラスの王、龍園翔との会合だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CクラスとDクラスの闘争において、俺が最も重視するべきことは何か。

 Dのクラスポイントを減少させる事? 違う。停学によってDのCPがすべて無くなろうとも、たかが100CP以下に過ぎない。これからの試験でいくらでも変動しうる。

 須藤を停学させる事? これも違う。綾小路は弱った人間を手駒にする技術に長けている。身体能力に優れる須藤の停学は、むしろこちらとしても防がなければいけない事項だ。

 

 俺が最も重視すべきこと。それは、DとBの協力体制を崩す事だ。

 

 Cクラスは学園のルールを把握すべく、BとDに執拗な攻撃を繰り返している。恐らく龍園は効率の良いデータ収集の為にその両クラスに攻撃を仕向けたのだろうが、共通の敵によってDとBの距離が縮まっている事が問題なのだ。

 善人の一之瀬が率いるBクラスと、少しでも力をつけたいDクラスの接触は不味い。今回限りの協力体制がズルズルと引き延ばされ、本格的な同盟が結ばれる恐れがある。

 

 特に、一之瀬と綾小路は俺の見立てだとかなり相性が良いように思える。一之瀬は表立って指揮を執ることも出来るが、本来は誰かを支えることで本領を発揮する参謀タイプだ。高い人望とカリスマを持つ一之瀬が、裏で暗躍する綾小路を支える。いかにも良くかみ合ったコンビとして、将来の脅威となるだろう。

 

 

 

「……ということで、もうデータ収集も一区切りついただろう? BとDに繰り返している嫌がらせを、そろそろ停止してほしいんだ」

 

 完全防音のカラオケ室。薄暗い照明に照らされる中、俺と龍園は向かい合って話していた。

 

「フッ、Aクラス様がわざわざ呼び出したんだ、何を言い出すかと思えば……いつからお前らは風紀委員も兼任するようになったんだ?」

 

 ローテーブルに脚を乗せながら、龍園がそう言ってせせら笑う。背後には黒人の大男が控えていることもあり、その威圧感はかなりの物だった。恐らく彼が龍園の持つ最高の暴力装置、山田アルベルトだろう。

 

「お前のことは知ってるぜ? 九条。編入してわずか2週間でAクラスを纏めた男。なかなか歯応えのある奴がいたじゃねぇかと思ってたんだが……」

 

 龍園の目がこちらを鋭く見据える。

 

「弱い者いじめを止めろ、みんなと仲良くしろ。そんな詰まんねぇ事を言う男だとは思わなかったなぁ。わざわざ呼び出してつまらねえ話しやがって……俺とアルベルトで、もっと面白い話にしてやろうか?」

 

 Cクラスの暴君、龍園翔。噂に違わない圧力だ。このカラオケには監視カメラも存在しないし、出口はアルベルトが塞いでいる。俺を暴力で屈服させ、Aクラスのスパイとして使おうとでも思っているのだろう。発想が完全にヤンキーなんだよな。

 

「……別に、タダで言うこと聞いてもらおうなんて思ってないよ。龍園のやり方を咎める気もない。ただ単に、クラス間闘争について考えてるだけだ」

 

 そう言って、俺は鞄から取り出した紙をテーブルに置く。足どけろお前、靴の上にのせてやろうか。

 

「生徒会役員、南雲雅から手に入れた学園内規則の一部だ。……龍園、お前はどれだけ学園のルールを把握できている? CPへの影響を気にしながら問題行動を繰り返しても、得られるデータなんてたかが知れている。既に知っているだろうが、生徒会は学園内の事件に対して高い権限を持つ。お前が知っているルールより、さらに詳しい物がそこに載っているはずだ」

 

 知らないことを調べようとする時、取るべき手段は二つ。自分で探すか、知っている人に聞くか。

 龍園も恐らく後者を試みはしただろうが、生徒会はそう容易く取り入れるものではない。Cクラスを暴力で支配したという噂も広がっていればなおさらだ。早々に諦め、次の手段を探したのだろう。

 その切り替えの早さは美点ではあるが、しかしいざこざを意図的に起こして学園の対応を観察するというのはいかにも効率が悪い。恐らく、未だ満足出来るほどにはルールを把握できていないはずだ。

 

「……フン。気に入らねぇが、少しは交渉ってもんをわきまえてるらしい」

 

 そう言うと、龍園は黙って規則に目を通し始める。少なくとも、今すぐ短絡的な手段に走ることは無さそうだった。

 

「……この情報、確かなものだという証拠はあるのか」

「お前もいくつかルールを把握しているだろう? それと照らし合わせて確認すればいい」

「この規則リストを受け取ることで、俺にリスクはあるか?」

「一応、生徒会外の者に見せてはならないとはされている。だが、『5月になるまでCP制度について下級生に教えてはならない』と一緒だ。生徒一人一人を監視することなんてできるわけがない。ほとんど形骸化したルールだ」

 

 短い会話を交わしたのち、龍園が顔を上げる。

 

「……確かに、俺の知っているいくつかのルールと一致している。俺がどの校則を把握しているか知る手段がお前らに無い以上、偽造は考えられねぇ」

 

「なら良かったよ。手に入れるために、まあまあPPが必要だったからね」

 

 ほとんどタダ同然だったけどな。南雲先輩にスタバを一回奢ったので、嘘は言っていない。

 

「これを手に入れた以上、既にBとDに攻撃を仕掛けるメリットは消失した。当然、お前の要求を受け入れても問題ない。問題無いが……九条、お前の狙いが分からねぇのが気に食わねぇなあ」

 

 全くもって疑い深い。この取引で、こちらにほとんど利益が無いことを訝しんでいるようだ。その疑心と鋭さは暴力渦巻くCクラスを平定するうちに身についたものなのか、あるいは生まれつきなのか……。どちらにしろ、俺にとっては有難い。

 

「もちろん、話はこれで終わりじゃないさ。この規則情報を渡す代わりに龍園、君にしかできない頼みがある」

 

 言葉を区切って、俺はホワイトルームで仕込まれた最高の笑顔を持ってこう言った。

 

()()()()()()

 

「…………はぁ?」

 

「俺も君のことは前から知っていたんだ。龍園翔、Cクラスを支配する暴君。その精神力の強さと勝利への執着心。確か後ろの山田アルベルトくんを従えるときも、最初は肉体性能の違いでボコボコに負けたんだろう? だが君は持ち前の執念でしつこく粘り、ついには彼を打ち倒した」

 

 この学園に入る前の会話を思い出す。綾小路の父親との会話だ。綾小路は単体で強い欲望を持つことができず、それゆえ何に対しても本気になれていない……。あれは、そっくりそのまま俺にも当てはまることだ。毎日おいしいご飯が食べれて、ついでに友達がいれば正直幸せだからだ。

 だが、この学園で綾小路は変わった。父を超えるという、とても前向きな目標を抱くようになったのだ。

 小さい頃からの幼馴染が思わぬ成長をした。だったら、少しくらい真似してみたくなるのが人情ってやつじゃないか。

 

「君の持つ異様なモチベーションと、勝利への執着心。それは、勝者になるには欠かせない条件だ。是非とも見習わせて欲しくてね」

 

 とりあえず今度どっか遊びに行かない? あと綾小路と会わせてみたら面白くなりそうだな。

 龍園は暫く呆けたような表情をしていたかと思うと、クツクツと笑い始めた。

 

「面白れぇ。ただ勉強ができるだけのおぼっちゃんかと思えば、てめぇも中々にイカれてやがる」

 

 おっ、好感触。やっぱり人間関係の基本は押して押して押しまくる事だな。ホワイトルームで学んだ。ありがとう、俺の影響でハムスターを飼い始めた班目先生……。

 

「いいぜ、九条。テメェを友人として認めてやるよ」

 

「よっしゃ。ありがとうね、龍園。お近づきの印として翔って呼んだほうがいい? それともショウっちとかあだ名にする?」

 

「…………それは要相談だ」

 

 BとDの接近を防ぎ、Cクラスとの伝手をゲット。なかなか良い結果じゃないか?

 後ろにいるアルベルトとも握手を交わしながら、俺は首尾よく終わったCクラス会談の結果に満足するのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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