親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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初めから作者ワールド全開でいきます


0章 目を開けるとそこは異世界でした
始まりは薄暗い森の中から


 

異世界召喚、異世界転生。それは、誰もが一度は憧れる夢物語だ。アニメの世界に飛ばされたり、本当の異世界に飛ばされたり。それは本当に多種多様。

 

そして、そこに飛ばされた主人公もまたご都合主義やら何やらでハーレムやらチートやらやりたい放題するわけで。オタク、インキャだった俺がーー的な作品も中には多い。

 

転生ものは『転生』というだけあって何らかの理由で死ぬ。誰かを庇ったり、単に自殺したり、或いは神様に間違われて殺されたり。自分の世界に未練があったらどうするんだって話だ。

 

尤も、不思議なことにその殆どが目をキラキラさせて「はい! お願いします!」と神様にチート特典を与えてもらい、異世界に転生するわけだ。そして、その結果様々な偉業を成し得て周りからチヤホヤされる、と。

 

召喚ものは『召喚』というだけあって何らかの方法で異世界に召喚される。幼馴染(美女に限る)と一緒に登校中に足元に魔法陣が形成され、光に包まれてとか。或いはありふれた一つのクラスごと召喚されるという規模の大きいケースもある。

 

このパターンは比較的少ないだろうか。基本的に異世界系ファンタジーは転生ものが多い。理由は分からないが。それとも、自分が『転生』ものしか触れてこなかったからなのか。

 

基本的に、異世界系は主人公が何かしらの力を持っている。最強ではなくても何かしら、理を覆してしまいそうな、そんな力を。それを人は才能と呼ぶのだが。皮肉にも才能あふれる人間が異世界に飛ばされるケースは少ない。

 

ダメな主人公だからこそ、読んでて親近感が湧くのだ。敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく様は読んでいて爽快感もある。故にチートは割と人気なのだ。

 

詰まるところ、異世界系ファンタジーはチートに限る。というわけではないが、殆どが主人公の力でどうにかなってしまう。

 

  ならば、

 

 

「ここは、どこですか」

 

 

 

 この状況もなんとかしてください、主人公(チート)

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ーー空野 天。その男は、現在窮地に立たされていた。

 

 

状況を整理しよう。いつも通り朝起きて、朝食を取って歯を磨き。自室に戻っていつも通り、私服に着替え。することもないから動画を見て、昼食に呼ばれたから五分程度で済ました。そして、運動がてら外へ出て太陽の光が眩しくてどこかも分からない森に飛ばされていました。

 

 

「ーーは?」

 

 

十分たった今でも意味不明。口から出た「は?」の回数は数えきれない。何度「は?」を言ったとしても状況は理解できずにここまで約十分。けれども状況は全く理解できない。

 

人間、意味不明な事が起こるとここまで思考が放棄させられるらしい。見事に、頭の中が空っぽになってしまった。

 

少し周りも見渡したが、薄暗い森の中だから木々以外に何も見つからないことも理解が追いつけない理由の一つ。

 

 

「ここは、どこですか」

 

 

誰に言ったのかも分からない言葉は、空間に停滞するように漂っていたが。誰かの耳に届くことはなく、自然消滅していく。ならばと、もう一度声を発するもやはり声は誰の耳にも届かない。

 

薄暗い森の中。たった一人、片手には友達と連絡アプリを通じて連絡していた状態のスマホが一つ。文字を打っていた途中だった画面には『あしたひ』のままフリーズしていた。

 

使い物にならない。唯一の使い道としてはフリーズしたことでロック解除のままに固定された明るい画面をライト代わりにする事くらいだ。

 

 

「尤も、この薄暗さじゃ使い物にもなりゃしないけどさ。つか、本当。ここどこよ」

 

 

草木をかき分けながら進んでるが、行けども行けどもあるのは木、木、木。たまに獣道が存在しているが。もしかして、狼や熊でも住んでいるのだろうか。

 

もう遭遇でもしたら一巻の終わりだ。十八歳と若々しい身体も日々のランニングと基礎的な筋トレしかしてない平均値より少し上なものになっているし。そもそも足の速さが違いすぎる。

 

狼の場合は、集団で襲いかかってくるから遭遇した瞬間即バッドエンド。対抗手段なんてありはしない。

 

 

「落ち着け。何が何だか分からないけど一旦落ち着け。落ち着いて、落ち着け。焦っても意味ないから。とりあえず落ち着け」

 

 

落ち着いてきた心の中で状況の整理を図るテン。何度か深呼吸、肺に酸素を取り込み余分な物と一緒に吐き出す。そうすると、頭の中がリセットされて冷静になれる。

 

そうして冷静になった頭で考えて、

 

 

「いや、ここどこだよ」

 

 

全く同じ言葉が出た。相変わらず場所の把握はできない。歩けど歩けど視界は晴れず、薄暗い森の中を歩き続けるだけ。このままずっと常闇が続くのではと心臓がキュッと締められるような痛みを感じたが、それを無視して足を動かす。

 

一箇所に止まっている方が怖い。何かしていないとこの雰囲気に飲まれそうで怖い。そうして誤魔化していないと、パニックになりそうだ。

 

 

「……さっきまで、ちゃんと家の前にいた。なのに、なんで今。こんな場所にいる。太陽の光が眩してくて。眩しくてーーここに居る」

 

 

声に出してもわけがわからない。何一つとして理解できない。分かるのはここが家の前ではない事くらい。そこ以外のどこかだ。

 

瞬間移動か。とかふざけたことも考えたが、そんなわけないだろうと必死にその想像を外へと追い出す。現実ではそんなことあり得ない。

 

そう。現実では。

 

 

「いやいや。そんなわけ………っ」

 

 

不意に脳裏に過った言葉が貼りついて離れていかなくなった。そんなわけない、そんなのあるわけないと必死に引き剥がそうとするが。ピッタリとくっついていて取れそうにない。

 

しかし、それだけは無いと思いたいテン。だってそれは小説やアニメの中だけのもので。自分達が生きている、画面の外の世界の住民がそんなことに巻き込まれるわけがないからだ。

 

けど、もうそれ以外考えられなかった。なにより家の前からこの場所に突然いたことがそれかもしれないと自分に思わせて。

 

 

「いせかい……しょうかん?」

 

 

隣の木に寄りかかり、信じられない出来事を口にした瞬間。胸の中につっかえていた物がストンと落ちるような爽快感をテンは得た。

 

不意に笑みが溢れ、視界に映る光景から目を背けるために一旦右手を両目に当てる。何故笑みが溢れたのかは自分でも分からない。ただ、自分はどうやら受け入れ難い事実を前にすると笑ってしまうらしい。

 

暗闇になった世界で考えたこと。それはなぜそんな事が自分の身に起きたか。全く理由がわからない。

 

引きこもってもないし、性格は少し拗らせているが歪んではない。名前が星の名前でもなければ、可愛い幼馴染がいるわけでもない。インキャだけど友達は比較的……多い。はずだ。

 

容姿は姉からは『ダサくはない』となんとも微妙なお言葉を頂いた。インキャだけど実はイケメンみたいなのはないし。実は凄惨な過去を背負ってました、みたいなノリもない。

 

本当に、自分は、ただの、一般人。

 

なぜ、どうして。何で自分なんかが。召喚した人間に問いただしたい。召喚するべき人間などあの世界にたくさんいた。もっと実用的な存在は沢山いたのに。

 

 

「つか、本当に召喚なんだろうな…? 俺の見当違いだったってことも。あるいは夢オチ……夢オチであってほしい」

 

 

手を離し、視界を開放するテンが頬を引っ叩く。 パチンと乾いた音が小さく響き、感じた痛みに軽く頬を固くした。

 

紅葉型のヒリヒリとした熱は、頬に残っていた。それに痛みもある。加減を考えなかったせいでめちゃくちゃ痛い。

 

夢オチルートも消えた。ならより一層のことなんで自分が。その辺にいそうな村人Aみたいな人間が召喚されたのか。そもそも、召喚される基準みたいなものはあるのだろうか。

 

 

「……考えてても仕方ない、か。取り敢えず歩こう。ここから出ないと。時間帯的には、夜?」

 

 

顔を上げ、寄りかかっていた木から離れたテンがそう言って体に力を入れる。目を開き、世界を正しく認識する。受け止め切れなかったことを漸く受け止め、なけなしの覚悟を決めた。

 

考えていてもしょうがない。だから、今は歩く。

 

空を見れば木漏れ日の月光verが顔を覗かせていたから、時間帯的には夜。時間が経てば日の光で少しは周りも見やすくなることを祈るばかりだ。

 

何が何だか分からない中の異世界召喚。取り敢えず死なないことを目標に動き出しーーーー、

 

 

「……? 何の、声」

 

 

不意に、ある一点、その方向から獣とは言い難いけれど。それの咆哮に近い声がテンの耳に届いた。気圧されるように一歩後ずさる。聞いたこともない存在の声に普通にビビった。

 

ただ、テンの不思議なところ。そんな状況であっても行動は速い。考えるよりも行動を先に選択する彼は取り敢えず何がきても死なないように開けた場所に身を置いた。

 

頭の中ではずっと『冷静に冷静に冷静に』と自己暗示のように語りかけ。落ち着いて状況を把握することを脳に呼びかける。もう、何が来てもおかしくない状況。必死に冷静さを欠かないように。

 

 

「……人の声がする。つか、あの声って」

 

 

そうして、林の揺れ動く音が徐々に近づいてきている中。テンの耳に新しく届いたのは人間の叫び声だった。叫び声というより、雄叫びに近い声。その声に、テンはひどく聞き覚えがあった。

 

それは、自分の世界での親友で。画面の固まったスマホに映っている連絡アプリの相手である。

 

 

「やっべぇ!? し、死ぬぅぅぅ!!!」

 

「は、ハヤト!? おま、何でここに!?」

 

 

 

神崎颯。意外にも、顔見知りの人間だった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

草むらから勢いよく飛び出してきたのは上下真っ黒の寝巻き。その親友の姿。

 

名を神崎 颯。高校時代からの親友で、彼は比較的誰にでも雰囲気がよく、空野 天とは真逆のような存在。例えるならば颯が『陽』で天が『陰』である。因みに、空手で黒帯の実力を持つ、絡むとヤバいやつでもある。

 

まさかの出会いにテンは召喚されたのが自分だけではなかったとこの上ない安渡と。相手がハヤトだった事に感動していた。

 

ハヤトもハヤトでまさかの出会いに喜ぶような素振りを見せたが。その途端、彼はテンの手を無理矢理引っ張り、何かから逃げるように走り出した。

 

 

「ど、どうしたの。何があったの!?」

 

「今は話してる場合じゃねぇーーッ! お前がいて良かった事もあるが。んなこと話してたら」

 

 

駆けるハヤトが不意に後ろを振り返り、釣られるように振り返るテン。彼の視線の先には先程から感じていた咆哮、その主が木々を薙ぎ直しながらこちらに向かってきていた。

 

その正体を見た二人の顔が青ざめ、恐怖色がハッキリと浮かび上がった。心臓を締め付けられるような痛みが再びテンに襲いかかり、「ひぇっ」と情けない裏声が口から溢れる。

 

あまりにも現実味のない光景に止まりそうになる脚を引っ叩き。さながら鞭を打つようにして走らさせた。止まったら死ぬ。それだけは分かる。

 

 

「な、なんだよアレ、冗談じゃねぇよ!? 異世界召喚されて初バトルがあの魔物とか難易度ルナティックにも程があるだろ。こちとら、まだレベル1にも満たねぇんだぞ!?」

 

「お前、本当、どこにいても変わらねぇな!? この状況でそこまで口回るとか流石だぜ。つか、やっぱし異世界召喚的なノリなのか、もしかして俺たち異世界に飛ばされたのか!?」

 

「言ってる場合かよ、死ぬぞ! 異世界召喚して初イベントで即死だぞ。笑えねぇよ!」

 

 

無意識に軽口を叩き合いながら二人が全力疾走。その後を追いかけるのは圧倒的なまでの存在感を放つ一体の化け物だった。

 

四足歩行、鋭い牙と爪。細長い尻尾に硬そうな皮膚というか鱗のような皮膚。二人の数十倍はありそうな巨大な体をグングンと押し進めながら咆哮している声の主。

 

見間違えることなき、竜。

 

チラと見えた尻尾に、深い傷跡があったのは不審に思ったテン。しかし、そんなこと気にしてる余裕などなかった。

 

 

「翼がないところ、地竜と言ったところか。何にしても追いつかれたりしたら即死必至だね! まさか最期の時を過ごす人間が颯だとは思わなかった!」

 

「寝言は寝て言いやがれ! こんな所で死んでたまるもんかよ! お前も、俺も! こんなわけの分からねぇまま何もせずに死んでやるかっての!」

 

 

一度に二つのことが。それも特大の二つが降りかかったせいで恐怖とか一周回って吹っ飛んだテンがヤケ気味にハヤトにグーサイン。対するハヤトは彼の背中を叩き、喝を入れさせる。

 

こんな所で死ねないと。ハヤトは恐怖に押し潰されそうになりながらも、声を絶えさせなかった。テンもテンで声を大にして勢いに任せている様子だ。

 

声や、手足が震えてないのは状況に任せて取り敢えず叫んで誤魔化しているから。そうだと思いたい。普通なら、きっと恐怖に足がすくんでもう死んでる。

 

でもそうならないのは、声を枯らしてないのと。テンの場合は怖すぎた結果、恐怖を通り越して吹き飛び。ハヤトの場合はテンのそんな様子に心を落ち着かさせられたから。

 

偶然が生んだ産物。それによって二人は精神的にはまだ負けてはいなかった。

 

 

「いや、マジでどうするのさ。このまま走ってても体力切れで追いつかれるよ!」

 

「んなこと言われても、どうしようもねぇ! 第一、武器も何も持ってないから対抗する手段の一つもありゃしねぇよ!」

 

「負けイベントですか。それも確死。あー、何でこんなことにー。誰でもいいから助けてぇ!」

 

 

遠い目をするテンが足元にあった木の枝を乗り越え、ハヤトの隣を走る。必死に走る様子とは裏腹に声と話す内容には必死さなどまるでない。

 

対して打開策を探るハヤト。何か、どうにかしてこの竜を撒くことができるような策があれば窮地を脱する事も可能なはずだ。尤も、そんな作戦が都合よく頭の中に浮かんでくるわけもないが。

 

徐々に疲れてくる体に鞭を打って二人は懸命に走る。追いつかれないように走る。何が何でも走る。それでも竜との距離は縮まるばかりで。振り返り、その事実に気づくハヤトはさらに焦る。

 

走れど走れどずっと森。森しかない世界なのかと思えるほどに森の世界が無限に続く。そんな中でどうにかして竜を撒くことが、どうやって。

 

 

「ーーハヤト! これ!」

 

 

そんな時だ。テンが何かを拾い上げてそれをハヤトに渡してきた。渡されたのは先端が尖っている枝。握って振るのには丁度いいサイズの枝。

 

 

「まさか、この枝で戦えとでも?」

 

「さっきチラッとだけど。あの竜の尻尾の一部分が深く抉れてたんだよね。そこに刺せば、少なくとも逃げる時間は稼げるのではと。どうする?」

 

「迷ってる時間はねぇ! 何もしないままならどの道死ぬんだ、こうなりゃなるようになれだ! 男らしく足掻いてやるよ!」

 

 

息を切らすテンが、同じく息を切らすハヤトに一か八かの打開策を持ちかける。それはつい先程テンが見た尻尾。そこの一部分が深く抉れているところを思いっきり刺すだけ。

 

きっと、こんな枝では皮膚に阻まれて肉には到達できない。ならば、あの抉れた場所を刺せばなんとかなるんじゃないかと。

 

それに一つ返事で乗るハヤト。このまま何もしなくても自分たちは殺される。ならば、生き残るために命を賭ける。恐怖で狂いそうになるのを猛々しく声を上げることで誤魔化す彼はその策を受け入れた。

 

迷っている時間などない。決断の時はもう目の前に迫ってきているが故にハヤトはそれに乗ったのだ。危険とか、怖いとか言ってられない。

 

なんて頼もしいことか。隣にいる親友が言葉だけではないことを信じたテンは笑みを浮かべ、「うん、ならよろしくね」と頷いた。

 

 

「なら、お前はここにいろ! 俺がここまで尻尾持って来させるから、逃すんじゃねぇぞ!!」

 

 

木を掴み、前に進む力を遠心力に変換。台風の目のような動きでグルンと一周するテンはそう言って方向変換し、竜の方向へと真正面から向かっていった。

 

何をどうしたらそうなる!? そう言いたかったハヤト。しかし、テンは既に行動を開始していた。もう彼は竜に向かっている。

 

 

 

「ーーーー。あぁ、もう。どうにでもなれよ!」

 

 

歯を食いしばり、正面にした竜に怯える心を押さえつけるテンが踏みしめた足に力を入れて地を蹴り上げる。もう後戻りはできない、失敗すれば死ぬ。失敗しなくても死ぬ。

 

どの道助かる見込みゼロの戦い。どうせならやりたいことやって死のうと覚悟を決めるテンはポケットから光ったままのスマホを取り出した。

 

暗闇の中、光る物体があれば自然と注目を浴びることに賭けたテンの幼稚な作戦。竜の目がギロリとこちらを向き、戦慄した。

 

生物の本能がアレに近づいてはならないと激しく鼓動している。近づけば死ぬ、ただその言葉がストンと心の中に降りてきた。けど、今ここで自分が止まれば自分もハヤトも死ぬ。

 

それだけは、許せない。自分ならどうなってもいい。確かに、痛いのも怖いのも嫌だ。でも、これがハヤトに矛先として向くのはもっと嫌だ。

 

 

「らぁーーッ!!」

 

 

戦慄したが。その次にスマホを竜の左側へと投げ捨てる。平均値並の肩の筋肉から投擲されたスマホは脳の指示どうり竜の左、視線の真横を通り過ぎた。

 

自分はそれとは反対側の左側へと身を屈めながら全力疾走。スマホの光で陽動しつつ、自分は竜の側面を取った。

 

そうすれば、意識を削がれた竜はテンの方向へと身体の向きを変えるために停止せざる負えない。更に、傷を負う尻尾から刺されるような衝撃を感じれば、振り返ることは必須。

 

 

「俺を、見ろぉぉーーッッ!!」

 

 

無駄に普段から体を動かしてて正解だった。咄嗟に拾い上げた枝をそのままの勢いで全身をしならせてフルスイング。握っていた腕にとんでもない反動が伝わってきたが、意識を削ぐことはできた。

 

その動きに身体がついてきたことに、安堵するテンだが。勿論、後方に回る彼を竜が許すわけもなく。急停止しながら見を回し、竜はテンの方を向く。

 

竜らしいうめき声と、自分の親よりも遥かに放たれている威圧感に堪え切れずに手が震えた。けれど、何も考えずに後ずさり。なるべく多く時間を稼ぐ。少しでも長く稼げばきっと、

 

 

「おぉぉぉーーーーッ!!!」

 

 

ハヤトが、頑張ってくれる。

 

 

「ーーーーッッ!!!」

 

 

ハヤトの吠え猛る声が聞こえてくると同時に、竜の巨体が大きく反り返った。自分の後方から感じた激痛に身を反射させた風に、竜は痛がるような素振りを見せた。否、痛がっている。

 

その原因は、勿論ハヤト。テンが作り出した僅かな隙を彼は自分のものにしていた。普段から空手をして鍛えた身体。喧嘩の経験は山程あるが竜との戦闘経験などあるわけもない。

 

が、今だけはその一点に枝を突き刺すことに全身全霊を注いだ彼は見事に竜の抉れた皮膚に枝の鋭利な先端を深々と突き刺していた。

 

何をどうしたらいいかなど考えない。刺すことだけに集中。余計なことを考えずがむしゃらに、力任せに、ゴリ押しした結果だ。

 

 

「っしゃぁ!!!」

 

 

気合一声。突き刺さったままの枝に回し蹴りを入れた。釘を思いっきり板に打ち込むような風に。残念なことに寝ている時に彼は召喚されたため素足。蹴った直後に枝が足の甲に軽く突き刺さった。

 

痛みに表情を歪めるハヤト。だが、空手で先生に受けた拳よりは痛くない、指の骨を折ったまま黒帯の試験を受けた時に比べれば遥かにマシだ。

 

 

「っーー! この、くらい耐えてやらぁ!!」

 

 

叫び、痛みを振り切るハヤト。彼は竜の咆哮に鼓膜を叩かれ、思わず耳を塞ぐ。鼓膜を直接破かれるような激痛に身を歪めるが、その咆哮は痛みに悶絶しているが故。

 

痛みと引き換えに、ハヤトは竜にちゃんとした形としてダメージを与えていた。一か八かで思いついた策だが、テンの陽動とハヤトの暴力で見事に二人は竜という圧倒的な存在に対して有効打を決めた。

 

 

「ーーーッッ!!」

 

「ヤベッーーっ」

 

 

しかし、相手は竜。憤慨したように枝が突き刺さったままの尻尾を薙ぎ払ってきた。尾からは大量の赤い血がドバドバと出ているが、倒すのには程遠い。まだ、相手は意識を正常に保っている。

 

やばい。そう思ったハヤトは咄嗟に距離を取ろうと足を踏み出し、枝の突き刺さった痕に激痛が走った痛みによって歩みを止められた。

 

耐えれない痛みじゃない。が、全身を貫くような衝撃に脳が一瞬の停滞を許したことが影響して身体の動きも一瞬の停滞を許してしまった。

 

迫る尻尾、その薙ぎ払われたそれがーー、

 

 

「よいしょぉぉ!!」

 

 

薙ぎ払われた竜の尻尾、その隙間から抜け出てきたテンが、ハヤトの腰を抱えて全力ダイブ。ハヤトを押し倒す形で倒れる寸前に腹筋に力を総動員。無理やり体勢を起こしてもう一回地面を蹴る。

 

回数にして二回。回避行動を行った結果は二人が地面に転がったことで表れた。ハヤトを庇った直後に背筋を竜の尻尾、その先端の細い部分が掠ったような気がしてテンは全身の毛が逆立ったが、どうにかして緊急回避は成功。

 

 

「ハヤト、動ける!? いや動け!」

 

「いって、ぇ。が、動く!!」

 

 

膝立ちで振り返るテンが竜の動向を窺いながらハヤトに声をかけた。くぐもった声を押し殺しながら威勢を張るハヤトは、明らかに虚勢だと一瞬で分かる言葉を返す。

 

振り返るテンが痛ましげに目を細めた。今まで包丁やらノコギリやらなにやらで皮膚を誤って切ってきた事もあるが、それとは比にならない出血量の足。

 

それを受けたハヤトが普通では考えられないような痛みを耐えていることも理解した。皮肉にも、この状況など普通のカケラもないが。

 

初めて見るドス黒い光景に、激しい嘔吐の気配を察したテン。胸を思いっきり叩いてそれを飲み込ませる。こんな事で怯んでる場合じゃない。

 

早く、早く。奴が怯んでいる間に逃げないと死んでしまう。時間が経てば経つほどゼロに等しい生存確率はマイナスに数字を大きくしていくばかり。行動を起こすのは今でないと間に合わない。

 

 

「動け! 辛いと思うけど動け! ハヤト!」

 

「スパルタ先生かよ、クソがッ! バカみてぇに痛ぇよ! こんなんで怯んでるとか情けねぇ!」

 

 

肩を貸すテンがハヤトを連れてその場から離脱しようと足を早める。素足のハヤトからすれば激痛の走る拷問になるかもしれないが。刹那、一瞬が生存確率を0.1%でも上げる要因になりかねない中、弱音など吐いてられない。

 

かく故、テンも木の枝をフルスイングした時の反動で右腕が完全に痺れた。我ながら情けない話ではある。

 

異世界召喚した身ならば初バトルで覚醒するとかあるかもとか一瞬でも思った自分がバカだった。

 

あるのは痛みとリアルな恐怖のみ。死へのカウントダウンが着々と迫る森の中で仲間に肩を貸して逃げることしかできない。

 

  と、

 

 

「ーーーーっ!!」

 

 

不意に、テンの視界。見ていた地面から光がなくなった。木の葉の隙間から溢れていた月の光が覆い隠されたと表すのが適切か。それが一体何を意味するのか、察知した時には動いていた。

 

ハヤトの体を地面に押さえ込み、自分も全身を地にへばりつかせるように大きく伏せる。その瞬間に耳の真横を通過するのは尻尾が薙ぎ払われたことで生じる風切り音。

 

反射的な行動は結果に結びつき、竜がその身を回転させたことで振られた尻尾は二人のことを寸前で仕留め切れなかった。内心、そのミラクルに拍手喝采を贈るが、彼はハヤトの方を見た時。

 

 

「ーーハヤト?」

 

 

彼は、目を瞑っていた。いや、閉じていたの方が正しい。ぐったりとした様子で意識を失っているだけ。だと、思いたい。

 

まさか、死んでしまったのではないかとイヤな想像が頭の中を過ったが。それを振り払う、たかが足から血が出たくらいで死ぬほど人間は、ハヤトはヤワじゃない。

 

それらの感情を秒で振り払うテンは膝立ちから身を回す要領でハヤトに背を向けて竜から庇うような体制をとった。理由はない、でも数少ない友人の中の友人ーー親友を置いて自分一人だけ逃げれるわけがなかった。

 

こちらを睨む竜の視線とテンの視線が交差する。なるほど、尻尾を薙ぎ払う要領で身を回し、その時に方向転換もしたと。

 

 

「って、呑気に考えてる場合かよ……」

 

 

自分が淡々と分析してることに戦慄するテンが思考を必死に回す。後ろには意識のないハヤト、前方には数歩先にいる怒り心頭の竜。

 

自分。体力ほぼ無しに重ねて右腕が反動で痺れている。慣れない道を走ったせいで足も痛くなってきた。精神的にも辛い。加え、対抗する武器一つ持ってない。そも、戦う力なんて皆無。

 

 ーー終わった。

 

生存率ゼロの強制負けイベント。異世界召喚されて初バトルで世界から永久退場とか異世界召喚史上、最も恥ずかしい終わり方。

 

 

「そんなの、あってたまるかよ……!」

 

 

落ち着け、冷静になれ。と頭の中で何度も何度も何度も何度も唱える。頭に血が上ってたら思い浮かぶものも思い浮かばない。だから、なにか思いつかないような画期的な方法でこの窮地から生き残る方法をーー、

 

 

「ーーウル・ゴーア」

 

 

模索していた時、それは空から降り注いだ炎弾の直撃によって、永遠に中断されることとなった。

 

 

「うわっ、ぉああ!?」

 

 

顔を覆い、衝撃に呑まれながらテンの体は後ろへ吹き飛ばされていた。咄嗟にハヤトの体を掴み、炎の被害から引き摺り出す。何があったか。

 

突如、目の前の地面が爆ぜたのだ。衝撃は高熱を伴い、太陽を幻視させるようなその中で竜がもがき散らしていた。

 

 

「なにが……」

 

 

転がされた地面の上で頭を振り、テンは痛みに呻きながら顔を上げる。そして、眼前の光景を見て、もはや今日何度目になるのかわからない驚愕。

 

目の前で、龍の巨躯が燃え上がっている。

 

その鋼鉄の肌を丸ごと包まれて、竜は全身を振り乱しながら苦痛を露わにしている。だが、それを嘲笑うかのように火力は増していき、やがて重々しい音を立てて大地に落ちる。

 

それでもしばらくは生にしがみついていたが、それも次第に収まり、最後には黒ずんだ肉の塊が転がっているばかりとなっていた。

 

あれほど驚異的だった存在が、突如として飛来した炎に燃やし尽くされた。その事実がテンの思考を停止させ、状況の理解が不可能な中。しかし助かったことだけは把握できた。

 

だが、何が何だが分からない。もうさっぱり分からない。考えることすらできない。今、目の前で起こった事実に心と体が追いつかない。

 

呆然と立ち尽くすテン。しかし、彼の目の前に一人の存在が降りてきた。視界が霞み、ボヤけた世界の中で彼はその存在が何なのか探ろうと、

 

 

「うーん。私の領土に竜が出たと聞いて来てみれば。なんだか面白そうなことになっているじゃないかぁーな」

 

 

その、やけに聞き覚えのある声を聞いて。

 

 

「もぅ……、わけわかんねぇ……」

 

 

その瞬間、色々と張り詰めていた糸がプツンと切れた反動でハヤトの真上にテンはぶっ倒れ、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか? 初めてなのでとりあえず書けることを書いたんですけど……。こんな感じで次からもやっていきます。
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