親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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タイトルが全てを物語っているシリーズ第三弾。

思ったんですけど、「暇潰し程度に読んでーー」とか書いてるのに一万文字を超えるってどういうことなんでしょうね。それなら半分の文字数がちょうどいいかな、とか思っていたり。

はい。ということで今回も一万文字を軽く越えました()




魔法について触れる

 

「お前ってやっぱりベアトリスと相性良いの?」

 

「さぁな。相性云々より、俺としては仲良くなっていきたいと思ってる。ベアトリスはおちょくった分だけ返してきてくれるから、話してて楽しいんだよな」

 

「ぶっ飛ばされるのが楽しいってこと? ごめん、ドMの親友はちょっと遠慮しようかな」

「待て待て。その解釈の仕方は絶対におかしい」

 

 

ベアトリスとの一悶着はあったものの、二人は浴場へと向かうべく再び足を進めている最中。禁書庫の気配が消えるのを背中で感じつつ、ハヤトはテンの隣で苦笑した。

 

二階の西棟と東棟を中継する踊り場から螺旋階段へ、ぐるぐると回って一階の床に足をつかせたら次は右方向に進路変更。浴場の場所は二人とも個々に教えてもらっているから迷うこともない。

 

 

「そっちじゃない。こっち」

「あぁ、悪い」

 

 

なんてこともなく。見事に左方向へと身体を向けたハヤトの肩をテンが引っ張る。そっちは厨房のある方向だから夜に進む廊下ではない。自分達が用のある廊下は右側。

 

まだ全てを把握したわけではないが、厨房と浴室と庭園の入り口の場所だけは覚えたテンとは違い、ハヤトは全てが怪しい。自室に帰れるかすらも怪しい。

 

これではテンがいなければ大変だな。などと考えつつハヤトは自分と違って進む足に戸惑いはない彼の隣を歩く。こういう時、やはりテンは便利だ。

 

 

「それで、ハヤトがドMの話に戻るけど」

 

「戻るな戻るな。つか俺はドMじゃねぇし、そもそもベアトリスと仲良くなりたいだけでドM認定されるって理不尽でしかねぇな」

 

「口数の多さは誤魔化してる証拠?」

 

「だめだコイツ。話を聞く姿勢が皆無だ」

 

 

などと下らないことを話している間にも二人は浴場ーーその一歩手前である脱衣所の扉へとたどり着く。無事に自室からここに来るまでに力尽きなかったことにひとまず安堵するとして。

 

となれば、これから二人は今日一日分の疲労と汗を流すべく入浴タイム。一刻も早くベタつく身体をスッキリさせたいと、ドアノブに手をかけるテンはスライド式の扉をガラガラと音を立てながら開き、

 

 

「おやぁ? 君達も今から入浴とはね。それならこのわぁーたしと裸の語らいでもーー」

 

 

 ガラガラガラ。

 

音を立てて開かれた扉が閉じられる。開き、一歩踏み出すはずの足は一ミリたりとも動かず、代わりにドアノブを握る腕が反射的に目の前の男を視界から消えさせた。

 

ドアノブを握ったままテンが硬直。見てはいけないものを見てしまった彼は思考が停滞し、肉体の動きもまたピタリと止まる。

 

見えた。ロズワールが。それも、腰から逞しい男の象徴をぶら下げる入浴スタイルのロズワールが。

 

 

「なぁ、ハヤト」

 

 

視界がドアで満たされたテン。彼は脳裏に張り付いて離れていかなくなった全裸ロズワールの姿に鳥肌を立てるように身震いし、首だけハヤトの方に向けると、真顔のまま言った。

 

 

「少し時間を空けようか」

「賛成だ。今すぐにでも帰ろう」

 

 

身体を回して回れ右。ドアノブから手を離すテンが禁忌の扉に背を向け、続くハヤトも同じように背を向ける。二人の動作は同タイミングで行われ、違うことと言えばテンの方が少し扉に近いだけで、

 

 

「おやおや。この私の誘いを断るだぁーなんて、中々にいい度胸してるじゃーぁないのかい、テン君」

 

 

その距離の違いが、開いた扉から伸びた細長い腕の標的を決める要因となった。声と共にテンの左手首が人間並ではない握力によって拘束。

 

心臓が飛び跳ねた彼はチラと横目で確認。ロズワールが。否、裸のロズワールが自分の手首を掴んで扉の中へと引き摺り込もうとしている。絶対に逃げられない。

 

 ならば、

 

 

「死なばもろともぉ!」

「ばっ!? テメーーッ!」

 

 

右腕の射程圏内に入っていたハヤトの左手首をテンの右手が握り潰す勢いで掴みかかる。逃がさない、自分一人だけ見殺しにすることなど許さないとばかりに彼はハヤトごと引き摺り込ませる。

 

対するハヤト。彼は引っ張る力に全力で抵抗、歯を食いしばりながら前へ前へと必死に進もうと身体を前方に倒した。それでも倒れないのはロズワールの引っ張る力が異常だからだろう。

 

それだけでハヤトは察することができる。このままではテンだけでなく自分までもロズワールに引き摺り込まれると。

 

 

「よせ、テン! 俺は少し時間を空けてから一人で入るから、お前はロズワールと裸の語らいでも楽しんでこい!」

 

「親友だよなぁ? 俺たち親友だよなぁ? 親友なら親友と命を共にしてくれるよなぁ?」

 

「ふざっけんな! 親友なら親友を助けるために己の命を投げ捨てるもんだろ!?」

 

 

「ぬぉぉぉ!」と雄叫びを上げながらハヤトが力のあらん限りを尽くして前へと進む。いやだ、それだけは勘弁してほしい一心で彼はひたすらに。

 

しかし、テンは掴んだ左手首を意地でも離さず彼の身体は一向に前に進まない。

 

そうこうしている間にも、テンの体は徐々にロズワールの力によって脱衣所へと引き摺り込まれ。迫る扉に戦慄したテンは顔を青くして叫んだ。

 

 

「やだぁ! そんなのやだぁ! 裸のロズワールに引き摺り込まれるぅぅ!」

 

「その言い方だと変な意味に聞こえるからやめろや!」

 

 

裸のロズワールに引き摺り込まれる。この一文だけで物事を捉えれば、完全にソッチ方向に物語が展開しそうな気配にブンブンと首を横に振るテンは迫真的に絶叫。

 

そうでなくても何かしらされそうな予感に鳥肌しか立たないテンとハヤト。今この瞬間、奇しくも同じことを考えた二人は、

 

 

「「あーーー」」

 

 

 瞬間。

 

踏ん張っていたテンの足が床の湿りに滑り、釣られてハヤトの体制が崩れる。テンが崩れ、ハヤトが崩れ、そうして二人とも豪快に足元を掬われてーー、

 

 

引力に引き摺り込まれ、閉まる扉の先に二人は消えた。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「あぁ……、しふく(至福)ぅ」

「だな。浸かってるだけで力が抜けてく」

 

 

ロズワールからのお誘いを強制的に受けることになった二人が湯船に深く浸かる。肩から下をお湯の中に沈めて大の字になるスタイル。縁に両手を乗せているから溺れることもない。

 

冷水に浸したハンドタオルを額に当てるテンが頬を完全に緩める。温かいお湯に浸かりながら頭をこうして冷やすのは最高に気持ちいのだ。真横で浸かるハヤトには理解してもらえなかったが。

 

 

「これから毎日このお風呂に入れるなんて……。ちょっと感動しちゃうかも」

 

 

テンの意見にはハヤトも賛成なのか、「おうさ」と深く吐息。頭まで深く沈むことの出来る浴槽は二人が端から端まで犬かき競争をしても余裕のある深さだ。子供用プールと言われても納得ができる。

 

そんな浴槽にこれから毎日入ることができると思うと内心テンションが上がる二人。十八歳にして露天風呂に興奮する並に子どもじみているが興奮することは興奮するのだ。

 

そんな二人の耳に先程から届くのはお湯がフローリングに弾け飛ぶ音。なんとなくそちらへと顔を向けると、そこには蛇口から流れるお湯を貯めたタライで体を流すロズワールの姿。

 

一糸まとわぬ長身は頭から垂れる長髪についた泡を丁寧に落としているところだ。その後ろ姿やたるや、流石の美形だけあって体つきも整っている。

 

布の外側からでは見えなかった引き締まった肉体と鍛えられた腹筋が存在を主張、それ以上に腰からぶら下げた(以下略)。ということもあり、彼がただの細身ではないことが明らかとなった。

 

 

 例の騒動から数分後の話。身体を流し終えたテンとハヤト。彼らは絶賛入浴中である。

 

 

脱衣所に引き摺り込まれた時は死を覚悟したが。彼らの言動を冗談だとロズワールは受け取ったのか、「ほらほら、早く入るよぉ?」と張り付いた笑顔で浴室へと。

 

二人としては本気で嫌だった。が、湯船に浸かればその感情よりも疲労が濃く浮かび上がり、いつの間にか長身への感傷は汗と共に流れていった。

 

 

「で、仕事はどうだった?」

 

 

のぼせてきたテンが浴槽から出て縁に座る『足湯スタイル』へと切り替え。ハヤトが彼にあくびをしながら問いかける。そのあくびが移ったのか、眠たそうにテンはあくびすると、

 

 

「正直、レムの指導が的確過ぎてやり易かった。仕事の量は尋常じゃないけど。その分、身体も早く慣れる。辛いし必死だけど楽しいよ。お前は?」

 

「ぼちぼちってところだ。ラムも言い方はアレだが指導は的確だし。レムよりは仕事の量は少ないかもしれんが出来ないことはない」

 

 

テンはレムに、ハヤトはラムに。各々別々の教育係を付けられたため、二人には的確な指導が逐一入っていた。テンの場合はレムについていくので精一杯だったけれど。

 

肉体的な労働は覚悟をしていたからそこまで高い壁に途方に暮れることもない二人。それに体力もそれをしてれば自然とついてくるだろうと思う。

 

基本的に洗濯と掃除と剪定の三つだったから覚えることも少なく、掃除に関しては幸いなことにやり始めたら止まらない人間のテンからすれば何も考えずにやれる仕事の一つ。

 

剪定と洗濯に関しては、意識しないとミスが生まれるから気をつけろと二人とも叱られてしまったけれど、やり方は教わったから、あとは慣れるだけ。

 

料理以外は単純作業が故に、仕事の多さに目を瞑れば慣れればなんとかなる範囲だった。慣れるまでが大変なことに変わりはないけれども。

 

 

「一週間ってところかなぁ。その間に仕事に慣れておかないと。鍛錬に時間を使えないよ」

 

「だな。そもそもそれが目的だしよ」

 

 

テンもハヤトも初仕事に疲労気味だが、この二人の目的は強くなる事。使用人道を極めるために屋敷に置かせてもらっているわけではない。

 

一刻も早く仕事に慣れてレムとラムが二人でしていた分を自分達が少しでも補い、余った時間の合間に鍛錬。夜の時間は全て鍛錬に回すぐらいの心構えでないと。

 

顔を見合わせたテンとハヤト。二人して「うん」と頷き、明日からも頑張ることを約束する。 

 

 と、

 

 

「隣、失礼してもいいかい?」

 

 

身体を流し終えたロズワールがハヤトの横から顔を覗かせる。ほんのりと赤みを帯びた頬がニヤリと笑う様に鳥肌が立つテンだが、それはきっと額から落ちた冷水タオルのせいだと誤魔化す。

 

真横でテンの表情が固まったことなど知らないハヤト。彼は「おう、いいぜ」と湯の中に沈めた手で浴槽の床を叩き、「それじゃ」と言うとロズワールはちゃぷんと音を立てながら湯の中に沈む。

 

そうしてハヤトの横に身を置くとロズワールは深い吐息をこぼす。温かい湯の中に浸かると心が安らぐのは全人類共通、世界を跨いだとしても変わりはない。

 

何秒間か己の意識を浮かぶ湯気と一緒にふらふらさせていたロズワール。彼はふと思ったように、

 

 

「今日はお疲れ様、二人とも。初仕事はどうだったかな? レムとラムとはうまぁくやれてるかい?」

 

「まだ初日ですよ? 会ってから一日も経ってないのに俺もハヤトも上手くやれてるかなんて分かりません。仕事に関しては慣れればなんとかなるかなぁって感じです」

 

「その代わり筋肉が悲鳴を上げてるがな。まさか、初日から一階から三階まで樽を担がされることになるとは思わんかった。お陰様で筋トレ、良い感じに筋肉が張ってやがる」

 

 

湯船から立ち上がり、張りに張った鍛えられた筋肉美を見せつけるハヤト。「どうだ」と自慢する彼は外見どうりの筋肉の逞しい男だ。

 

縁に座り「すごーい」と棒読みのテンは外見的には細身。だが、こうして見るとハヤトほどではないにしても他人に見せても恥ずかしくない程度には鍛えられている。

 

エミリア然り、レム然り。二人の言っていたことは、間違えでもなかったと思うロズワール。そんな彼の視線を無視して下らない言い合いをする二人に彼は苦笑しながらも話を続けた。

 

 

「まぁ、それは君たちの努力次第。彼女達の様子から察するに人間的な警戒もそぉーこまでないように見えるから。しっかりやるんだよ」

 

「はい。頑張ります」

「おうよ。任せとけ」

 

 

首を向けてきたロズワールの言葉に首を向けて頷くテンとハヤト、一人と二人が目を合わせると頭を縦に頷かせて。それを終わりにロズワールから始まった会話が一旦途切れた。

 

無言の時間が過ぎ。その中でぬくぬくと湯船に浸かるハヤトが筋肉を揉みほぐして吐息。その姿をどう捉えたのか、見下ろすテンが「そんな形してるから脳筋って呼ばれんだよ」と口角を釣り上げて鼻で笑った。

 

直後、ロズワールの真横で「ほぎゃぁ!?」というテンの声に続いて大きな水飛沫が立つ。発言に対してピキッときたハヤトが垂れる腕を掴んでテンを湯船に引き摺り下ろした。

 

「ぷはぁ!」と口を大きく開けながら喘ぐように酸素を取り込むテンは湯の中から飛び出て顔の水滴を拭うと、ハヤトに「何すんだよ」と怒り。ハヤトは腕を組んで「ざまぁ」と嘲笑。

 

そんな、とてつもなくどうでもいい親友同士のやりとりを横に。ふと、今度は思い出したようにロズワールは「そぉういえば」と口から言葉を紡いだ。

 

 

「朝にテン君が言ってたけど、何も知らないとは本当に何も知らないのかい?」

 

 

ポカポカと叩くテンの両手を掴むハヤトと、それでも叩こうと奮闘するテンの動きが彼の言葉で途端に止まる。

 

ピタリと止まる両者は同じ動きで視線をロズワールに向け、そんな急に静かになられると呼びかけたロズワール自身が驚いてしまうが。彼は言葉を繋げて、

 

 

「私と話してる時に言っていただろう。何も知らないと。その言葉をひどく強調していたようだーぁからまさかとは思ったけどぉ。ほんとうに何も知らないのかぁい?」

 

「はい。その通り、何も知りません。仕事してる時にレムが言ってた『マナに呼びかける』とかもさっぱりですし、そもそも文字の読み書きすら怪しい。つか、マナってなんすか?」

 

 

何度も言われたことを再確認して苦笑するロズワールに、テンは当然ですとばかりに言い、湯船に体を沈める。その隣ではハヤトも「悪いな」と何も知らないことを恥じてすらない様子。

 

知ってると言えば知ってるのだが、何も知らないと言ってしまった以上は知らないことを装らなければ変に怪しまれてしまう。だから、二人して首を傾げる。

 

そんな二人にロズワールは「ふむ」と顎に触れながら吐息。それから指をひとつ立てるとにんまり微笑み、

 

 

「よし、こぉこはひとつレクチャーしようか。エミリア陣営の矛となり盾となる君達に魔法使いのなんたるかを教授してあげようじゃぁないの」

 

「おっ! テン、魔法だってよ!」

「はいはい。そうね」

 

 

ロズワールから『魔法』というワードが出てきたことで一気に食いついたハヤトがテンに興奮気味に詰め寄る。これを待っていたと表情を明るく染めた彼は心が踊った。

 

異世界の定番である、誰しもが憧れる魔法。

 

火を飛ばしたり、雷を落としたり、時空を歪めたりと。ロマン溢れるカッコいい攻撃を簡単に繰り出すことのできる攻撃魔法。

 

氷の壁を迫り上げたり、身に風を纏わせたり、大地を隆起させたりと。あらゆる熾烈な攻撃から仲間達を守る防御魔法。

 

空手とかで対人戦を数多くこなしてきたハヤトからすれば、一度はやってみたいと思うことが今まさに教えられようとしている。

 

その興奮はとても抑え切れないのか「キタキタ!」と声に出して表現していた。かく故、テンも表面は落ち着きながらも心の中はテンションが上がっていたりする。

 

 

そんな初心な二人を前に愉しそうに笑うロズワールは講義を開始したのだった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「それじゃぁ、まぁずは何も知らない君達のために初級から。魔法を扱う前提として身に付けなければならない知識。『ゲート』について」

 

 

膝に手を当て、正座して熱心に聞くハヤトと。膝を抱え込み、体育座りして聞くテンにロズワールは「いいかい?」と指で輪っかを作り、

 

 

「簡単に言っちゃうと、ゲートってのは自分の体の中と外にマナを通す門のこぉとだよ。ゲートを通じてマナを取り込み、ゲートを通じてマナを放出する。使うにしても溜めるにしても、必要不可欠なものなわぁけ」

 

「マナってのは、魔法とかの素となる要素って風に捉えたらいいんですか?」

 

「そゆこと。あと、人間に元から備わっているオドっていうマナを生み出しているものもあるんだぁーけど。これはマナとは違って使った分は戻ってこない、なるべく使わない方がいいかも。使った分だけ命を削ることと同じことだぁーから」

 

 

超簡単にいうとゲートはマナを溜めたり放出したりするための窓口。そして、マナは魔法を使ったり魔鉱石を使用したりするための発火剤的な役割を果たしている。

 

更にマナそのものを生み出しているオドというものがあり、マナとは違い使ったら回復しない。つまりは命を削ることに直結すると。

 

 

「ってことは、ゲートは誰の中にもあるってことなのか?」

 

「まーぁそりゃあるだろうねーぇ」

 

「ゲートの優劣ってあるんですか?」

 

「当然。ゲートの質がその者の魔法の質を決めると言っても過言ではない。あ、因みに、ちぃなぁみぃにぃ? この私、ロズワール・L・メイザースは宮廷筆頭魔導師なぁんて呼ばれてるくらい魔法の才能に満ち溢れているけどなにか、なにか、なにかぁ?」

 

 

手を広げて戯けるロズワールが自身を大きく見せて自慢アピール。「あぁそうかよ」と顔を顰めるハヤトは湯船を意味なく叩いた。

 

テンは別にそこまで。「すごーい」と適当に流しているあたり、彼と自分との間に海よりも深い溝があることを自覚している様子。もしくは、当たり前じゃと割り切っているようにも見える。

 

テンではなくハヤトに視線を向けるところ、彼は二人のことを理解してきた様子。どちらが焚きつけやすいかなど、知れたことだった。

 

とはいえ、自分の中にゲートがあるのならば魔法を使った方がいいことに越したことはない。強くなる上で超重要になるピースの中の一つが魔法。

 

自分達がどの属性に適性あるのかは知らないが、習得しておいた方が良いに決まってる。使えるか否かで自分の戦闘能力に結構な差が生まれるのだから。

 

そもそも、適性があるかどうかも心配なところ。

 

 

「ゲートとマナは分かったからよ! つぎ! 次のを教えてくれよ!」

 

「そーぉ? それじゃ続けちゃおう。魔法には基本となる四つのマナ属性があるわけだけど、知ってるかなぁ?」

 

「「知らん」」

 

 

声の重なる二人が、同じ動作で首を横に振った。清々しいまでの「知らん」を受けて気を良くしたのかロズワール笑みを浮かべ、

 

 

「うんっ、潔くてはなまるん。基本は火・水・風・地の四つのマナ属性だ、わかったかなぁ?」

 

「うん、分かりました」

「次、次行こうぜ!」

 

 

淡々と頷くテンに、興奮した様子のハヤト。その対照的な求めにロズワールは気を良くしたようにうんうん頷き、

 

 

「熱量関係の火のマナ。生命と癒しを司る水のマナ。そして生き物の体の外の加護に関わる風のマナ。体の内の加護に関わる地のマナ。おおよそはその四つに大別されて、しぃかも常人はその内のひとつに適性があればマシといったところかなぁ。ちぃなぁみぃにぃ、私は四つの属性全てに適正があるよ?」

 

 

先程からちょいちょい自慢話が入るが、素直にすごいと思う二人。宮廷筆頭魔導師と言われるだけあって四つの属性と適性があるのは凄まじいのだろう。彼の言ったことが正しければ、その中のどれか一つとでも適性があったら良い方。

 

そう言われてしまうと、自分の中にはなんの適性もないのではと不安がるテン。しかし、ハヤトは謎の自信があるのか不安なんて一ミリ足りとも感じてない様子。

 

ずっと二人の反応は相反するもので。朝のことも含めるとこの二人の性格は本当に真反対なのかと見ているロズワールは思った。ここまで対応の差が出ると、それも分かりやすい。

 

 

「それじゃあよ! 俺とテンがどの属性に適性があるのかって、調べられたりすんのか!?」

 

 

ボルテージが上がってきたハヤト。彼の声が浴場に響き渡ったことが違和感に感じたのか、テンが天井を見上げている。キョロキョロと首を回すテンを横目にロズワールは拳を突き出すと、

 

 

「もぉちろん、私ぐらいの魔法使いになると、もう触っただけでわかっちゃう。ヒタッとハヤト君の額に触れただけで、ね」

 

「なら、今すぐに俺のとテンのを確認してくれ! この際だからどの属性と適性があるのか、すげぇ 気になる!」

 

 

興奮するハヤトが正座を崩してロズワールへと詰め寄る。その様子を真顔で見つめているのはテン。自分はともかくテンまでも巻き込んでしまう彼の行動はテンにとっては良くなかったらしい。

 

呆れるように息をこぼしていた。さも、自分の中には適性など一つもないだろ。そんな風に話すように。

 

 

「やってくれよ、ロズワール!」

 

 

そんな彼のことなど眼中にないハヤトは尚もロズワールに詰め寄る。おもちゃを買う寸前まできた子どものように「早く早く!」とせがんでくる彼にロズワールは笑い、その掌をハヤトの額に当てる。

 

 

「よっし、んじゃちょこぉっと失礼します。期待どうりにいくといいけどねぇ」

 

「おうよ!」

 

 

みょんみょんみょんみょん、と独特の効果音を発しながらロズワールがハヤトの適性を診察を始め、ハヤトは期待して待った。

 

あらゆる可能性を秘めた(と自分で思っている)ハヤトは、自分がどの属性に適性があるのか思いを馳せる。異世界に召喚されてから密かに期待していた魔法を自分が使えるのかと。

 

ハヤト的には火属性が一番欲しい。炎を纏う戦士みたいな感じで拳を振るうキャラクターが沢山いることを知っている彼は自分もそうなれたのならばと考えたこともある。

 

だから、火属性が欲しい。それ以外の属性にも興味はあるけど火属性にさえ適性があればそれで大満足だ。

 

火を、火を、猛き炎を。と心の中で念じるハヤトはただただロズワールの診査結果を待ち続け。不意にロズワールが「これは……」と驚くように口角を上げると、

 

 

「私は、とぉんでもなぁーい拾い物をしてしまったようだねーぇ。ハヤト君、君には『火』『地』『陽』の三つの属性と適性がある。中々見られない恵まれた人間のようだ」

 

「ま、まじか!? っしゃぁぁあ!!」

 

 

顎に手を当てるロズワールを無視してハヤトは湯船の中で両手を乱舞させながら嬉しさのあまり声を大にして喜ぶ。その様子はまるで、クリスマスに新型ハードのゲーム機をもらった海外の子供たちのようなはしゃぎっぷり。

 

テンも「マジか…」と戦慄するような声を、湯船に沈めた口から溢していた。ハヤトならば不思議と納得がいってしまうのが不本意だが。

 

 

「さっきも話したけどねぇ。一つの属性にでも適性があれば良い方。ハヤト君はそのうちの半分に加えて、該当者はほとぉんどいない陽属性とも適性がある」

 

「お? 属性は四つしかないんじゃないのか?」

 

「話してなかったけど、四つの属性を除いて『陽』と『陰』って属性もあるにはあるの。もぉっとも、該当者はほぉとんどいないからあえて説明は省いてたわけなんだけど……」

 

 

その極々わずかな可能性を引いた、ということらしい。そんな話を聞かされて、興奮していたハヤトの心が更に舞い上がる。四属性のうち二属性と適性あり、加えて限りなく希少な属性の陽属性とも適性あり。

 

俺の時代きたか!? 異世界で無双するのか!?とか思うハヤトは億万の権力を得たような気持ちになった。

 

 

「因みに、その『陽』ってのはどんな魔法なんだ?!」

 

「そうだねぇ、『陽』属性の魔法だと有名なのは……自身の身体能力を強化するものが多いね。あとは、熱線を指先から放つとぉーんでもない魔法もあるけど、ハヤト君にはまだ早いかなぁ」

 

「なんでも良い! とにかく、やったぁあ!」

 

 

身体能力の向上と聞いてハヤトが更に昂りまくる。異世界での激しい戦闘シーンではとにかく激戦が繰り広げられ、肉体の運動も激しいものになり、身体能力は欠かせないものになる。

 

そこでの今。ハヤトの身には自身の力を底上げすることのできる力が宿っている。それならば自分もカッコよくド派手に戦うこともできるようになるのではないかと。

 

 

「まーぁ、その素質を使いこなすことができるかはハヤト君の努力次第。あまり自らの力に溺れないようにねぇーぇ」

 

 

注意喚起程度に、ハヤトにそう促すロズワール。今のハヤトは『力が眠っている』状態。それをどこまで引き出すことができるかは彼次第なのだ。

 

「おう! 頑張るぜ!」と根拠のない自信から気合のこもったグーサインのハヤト。先程から笑顔を弾けさせているところを見るに本当に嬉しいことが一目で分かるハヤトだった。

 

ハヤトは終わった。なら必然的にロズワールの視線はテンの方へと向き。

 

 

「テン君。君も、診察してみるかい?」

 

「……まぁ、一応。ハヤトの後にやるのは気が引けますけど。どっち道やることになりそうですし、お願いします」

 

 

風呂の中をバシャバシャと走り回っているハヤトの声をBGMにロズワールは先程から静かなテンを隣に招き、気が進まなさそうな態度をしながらも渋々といった具合でそれに乗じるテンは彼の隣に移動した。

 

今のやりとりを見て、焦りを感じないわけがない。寧ろ、焦りしかない。もしこれで自分に魔法の適性が無かったら自分がハヤトに追いつくことは不可能になる。

 

魔法という一つの境界線が彼との間に引かれる。

 

 ーーそうなれば、自分はどうやって。

 

 

「ーーーー」

 

外から見てもテンの様子が落ち込んでいくのは容易に理解できた。ハヤトの時はワクワクした子供のような様子なのに比べて、テンの場合は余命宣告を覚悟しているような様子。

 

ここまで態度が対比すると、二人の性格が真反対なことに更に確信が持てるロズワールだ。ハヤトも言っていたがテンには自信のカケラもない。

 

 

「それじゃ、始めるよ?」

「……はい。お願いします」

 

 

俯くテンの額に手を添えるロズワールが独特の効果音と共に適性診察を開始。途端に、心臓の鼓動が速くなった。皮膚の上から見ても激しく鼓動しているのが分かる。

 

もしこれで無かったら。そんなことを考えると負の方向にどんどん思考回路が働いていく。悪い方に悪い方にばかり考えて、気分が奈落の底に沈んでいく。

 

無かったら、自分はどうやってーー。

 

 

「ーーおめでとう、テン君」

 

 

無かった事を考えて負の悪循環に心を染めるテンの鼓膜を叩いたのは、ロズワールの安心させるような賞賛の声。予想もしていなかった言葉にテンはゆっくりと顔を上げると、

 

 

「君には、『火』『風』『水』の三つの属性と適性がある。ハヤト君もだけど……、基本となる四つの属性のうち三つと適性があることは、結構凄いことなんだよねーぇ」

 

 

自分のことのように笑みを浮かべるロズワールがハヤトと同様、恵まれた人間であるテンのことを淡々と解説していくが、彼にはそんな言葉は何となくでしか意識に入って来なかった。

 

ロズワールから告げられた診査結果に緊張していた身体が和らいでいく感覚がある。激しく鼓動していた心臓が穏やかになっていく安心感がある。

 

自分もハヤトと同じように魔法が使える。一つも適性がないのではと思っていたことが簡単に覆された。三つの属性と適性がある。自分にも強くなれる切符がハヤトと対等に渡されている。

 

その事実だけで、今は良かった。

 

 

「ハヤト君のように、はしゃがないんだねぇ」

 

「それよりも安心感が大きいですよ。……はぁ、良かった。これで俺には適性なしとかだったらどうしようかと」

 

「実際に、その可能性も捨てきれなかったのが君にとっては苦痛でしかなかったんだろうねーぇ」

 

 

安堵するテンは身体に入っていた力を全て抜き、湯船に肩まで浸かる。未だにはしゃぐハヤトとの反応に天と地の差が生じるのを横目にロズワールは彼の肩に手を添えた。

 

自分に自信が持てないならこの事を初めに少しでも自信を持ちなさい、と。言葉にはしないのがロズワールの性格の悪いやり方だが。

 

 と、

 

 

「ふぃー、久々にはしゃいじまった。まさかここに来てな。んでテンはどうだったんだ?」

 

 

風呂の中で汗をかくハヤトが一通りはしゃいだのか興奮した様子から、落ち着いた様子に変わって帰ってきた。

 

十八歳という精神的には大人一歩手前の自分がまさかここまではしゃぐとは本人ですら考えていなかったのか、後頭部に手を当てて「悪い悪い」と悪びれもない様子の彼は若干照れる。

 

そんな彼にテンは右手で三本指を立てると、

 

 

「適性あり。『火』と『水』と『風』の三属性と俺は適性があったよ」

 

「マジか!? 良かったじゃねぇーかよ!!」

 

 

自分のことのように喜んだハヤトがテンの肩に腕を回す。自分だけだったらと考えなかったわけではないが、その心配もいらなかった。

 

自分とテン。一つは重なっているがそれ以外は異なる属性と適性があったことにハヤトは嬉しかった。二人で合わせ魔法とかやってみたり、本気で戦ってみたりしたい。

 

「俺たち、最強じゃね!?」と、雰囲気に酔ったハヤトと「はいはい。練習しなきゃね」と現実的な態度のテンの二人を前に、ロズワールは本当に良い拾い物をしたと密かに不敵な笑みを浮かべた。

 

森で拾った素性の知れない輩。竜を生身で怯ませたのだから何かしら"持っている"人間だとは薄々勘づいていたが、想像を遥かに超えてきた。

 

 ーーこれは、化ける。

 

そう確信した。そう思ったのは適性だけではない。もっと単純な理由もあるのだが。それはロズワールのみが知る事実であり運命だ。

 

 

「ちーぃなみに。君達二人は他よりゲートの質が良い。魔法の才能の有無としては微妙だけど、私を十とするなら君達は七ぐらいが限界値だよ」

 

 

両手で七本指を立てたロズワールに、ハヤトがまたしても興奮するが。それをテンが抑える。そろそろ落ち着けと肩を叩く彼は首を傾げ、

 

 

「ゲートの質が良いと、どうなるんですか?」

 

「燃費が良い。って表現するのが分かりやすいのかなぁ。魔法を使用する時に他よりも遥かにマナが減少しにくいってことさ」

 

 

「他にも」とロズワールは繋げて、

 

 

「マナの貯蔵量が比較的多い。マナを溜め込むことのできる量が君達は多いんだよねーぇ」

 

「なるほど、分からん」

 

「要するに俺とお前のゲートは少ないマナの量で規模の大きい魔法が撃てる。そんで、他よりもマナを貯めておける体積が大きいってこと」

 

「なるほど、分かった」

 

 

それくらい分かれよ。と呆れるテンの横で合点がいったと晴れやかな表情で頷くハヤト。こういうややこしい話をしている時にテンは役立つ事が多い。

 

テン自身としては、原作の知識に力を借りただけなのだが。それを覚えてないのか、単に興奮でド忘れしてるだけなのか。

 

何にしてもこのような用語に関して頭の上に〈?〉を浮かべるハヤトが心配でしかない。自分と同じリゼロファンなのだからこれぐらいは押さえてもらわないと困るのだ。

 

 

「使えるようになれるのはいいとして。どうやって使えるようになるんですか?」

 

 

興奮するハヤトの顔面にお湯をぶちまけるテンが怒るハヤトを横目にそんな事を尋ねると、ロズワールは指をパチンと鳴らし、

 

 

「使いたいなら教わればいーぃじゃない。幸い、『陽』系統以外なら専門家がここにはちゃぁんといるからね」

 

「えっと、それじゃあ。四属性を網羅してるロズワールに教わるってのは」

 

「時間がある時になら、見てあげよう。君達は、次期エミリア様の騎士となる光る原石。それに磨きをかければより輝くだろうしねーぇ」

 

 

好意的、というより品定めするようなねっとりとした視線をロズワールは向けた。それは自分の目的のために使う一つの駒として自分達のことを見ているかのような。

 

背筋がヒヤッとしたハヤトが怒っていたと思ったら途端に動きを止め、テンも肩を大きく跳ねさせる。朝にも向けられたその"イヤな視線"を全身に浴びると心身が自然と反応してしまっていた。

 

その二人にロズワールは重ねて不気味な笑みを浮かべ、

 

 

「私の鍛錬は並のものではないことを覚悟しておくといい。半殺し程度で済めばいいけどねぇ……」

 

 

後半の言葉に聞き捨てならない文章。ハヤトは「やってやるぜ!」と意気込み。テンは声を出さない代わりに表情を凍り付かせたのだった。

 

 





こ、これくらいの補正は、ゆ、許してください(震え声)

次回を越えたら原作をアレンジした展開からも抜け出せます。やっと作者ワールドが展開できそうです。

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