親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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駄文です、投稿するか迷いました。 7500文字と短い上に内容も薄味、タイトル通りに二人が勉強をするだけのお話です。



お勉強の時間

 

 

 

「あー。なんで風呂から上がった後の方が入る前より疲れてんだよ。ちくしょう」

 

 

そう言いながらハヤトは支給された寝巻きに裾を通した。サイズも制服を採寸した時のメモを活用してくれたのか、キツくもなくユルくもないちょうどいいサイズ。

 

目が覚めた時と同じ服だ。ゆったりとした患者衣、割と普段着にしてもいい洋服。貴族の支給する寝巻きは着心地すらも良く、変なところで貴族ってすげーと思うハヤトである。

 

お風呂場での魔法適性検査の数分後の話。のぼせたハヤトは浴室から脱衣所へと場所移動、首からバスタオルを垂らす彼は部屋の中央あたりに置かれた長椅子に腰掛けていた。

 

どうしてか、風呂に入る前より入った後の方が肉体的にも精神的にも疲労していることにハヤトは苦笑。疲労を癒すための時間が逆効果という、これではただ汗を流しただけだ。

 

 

「ふぃぃ。中々に極楽だった」

 

 

扉をくぐって出てきたのは絞ったハンドタオルを片手に持ったテン。

 

自分とは違って気分爽快な様子の彼はバスタオルで体についた水分を拭き取ると、いつの間にか籠の中に入っていた寝巻きを淡々と着用していく。

 

彼も自分と同じで長いこと湯の中に浸かっていたはずだ。ならば、のぼせてないことが少し不思議に思うハヤトは「おお」と声になってない声を口から発して彼の意識をこちらに向け、

 

 

「お前はのぼせてねぇんだな。俺なんて全身から湯気が立ちそうなレベルで火照ってるんだが」

 

「そりゃ、俺は出る前に冷水を頭から浴びたからだよ。流石にあのまま出てくると今のお前みたいになりかねないからね」

 

「のぼせた時の対処法、荒すぎだろ」

「お前みたいになるよりかはマシだよ」

 

 

言い、冷水に浸したハンドタオルをハヤトの膝上に投げたテン。彼は脱衣所の出口を指差しながら、

 

 

「それ、首に巻いてな。楽になるよ」

「サンキュー」

 

 

外に行くよ。ということなのだろう、彼の動作の意図を察したハヤトが立ち上がると彼は首から垂れさせていたバスタオルを取り、代わりに冷水タオルを下げる。

 

そのままテンの背中を追いかけるハヤトは彼の隣に並び、出口の手前に置いてある洗濯籠の中に自分の洗濯物が入った籠を入れる。翌朝、使用人四人の中の誰かが回収して全員分を洗濯する形だ。

 

今、制服を洗濯して大丈夫だろうか。などと少しばかり思うテンだが、確か同じサイズのものが二、三着用意されていたはず。着回せば問題はないかと自己完結。

 

 

「あ? ラムじゃねぇか」

 

 

脱衣所の扉をくぐって外へ。頭の中でテンが自問自答している間にも世界は時間は進んでいき、ハヤトの声に意識を舞い戻らせれば斜め前の壁に寄りかかるラムを見た。

 

なにかあるのだろうかと首を傾げるハヤト。そんな彼を見るラムの視線の温度が途端に絶対零度に下がると、

 

 

「誰も着替えるだなんて言ってないわよ。ったく、何を期待してるんだか。この下郎ども」

 

「お前、察する能力悲しすぎるくらいに低いな。靴の件といい、わざとやってんじゃねぇかと思えてくるぞ」

 

「わざとに決まってるでしょう。ロズワール様の御着替えの手伝いのため。入浴の際はラムかレムが付き添うと決まってるのよ」

 

「おぉ。貴族っぽい」

「ぽい、じゃなくて貴族よ」

 

 

しれっとテンもハヤトと一まとめにされていることは置いといて、軽い会話を軽快に交わす二人。

 

今更ながらラムと日常会話ができている事実に不意に感動を覚えるテンだが。流石、環境適応能力が自分より高いだけはあるハヤトは自然な風に会話ができている。

 

 ーーさすがハヤト。すげーハヤト。

 

などと目の前の会話に心の中で拍手をテンは送った。やはり彼は自分よりも凄い人だ。

 

 

「んじゃ。俺らは部屋に戻るわ」

 

 

自分ものぼせてしまってるのだろうか。先程から心の中の声が多い気がするテンはハヤトに肩を叩かれて心に落ちた意識を再び現実に帰還させられる。

 

視界に映ったのは、ラムの会話を終了させて背を向けるハヤト。自分の肩を叩いた彼は既に歩き始めている。置いていかれないようにテンも彼の後ろ姿を追いかけ、

 

 

「脳筋、このあとはなにか?」

 

「なんも。寝るだけだ」

 

 

呼びかけに振り返り、眠たげにあくびをしながらタオルを首に当てるハヤトの言葉にラムは「それならちょうどいいわ」と彼のことを指差すと、

 

 

 

「それじゃ、あとで部屋に行くから待ってなさい」

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「勉強に決まってんだろ。変なこと考えてんじゃねーよこの変態」

 

「言い過ぎだ。お前だってあんなこと言われたら少しは変な方向に期待しちまうだろ?」

 

「するわけねぇだろ」

 

 

二階へと向かうために階段を登る二人はそんなことを話しながら足を進めていた。勿論その話題は先程の「部屋に行くからーー」の事についてだ。

 

初めこそは「お、これは?」と変な風に考えたハヤトだがテンの言葉で現実に引き戻される。テンの予想だとこれから少しの間、夜の時間はほぼ文字を覚えるための時間に費やされるだろうし。

 

ロズワールに"何も知らない"ことを強調して何度も言ったのだから。その辺りも察してくれたのだろう、ラムはハヤトの教育係として夜の授業をしてくれるような雰囲気だった。

 

 

「勉強か…、早く鍛錬してぇよ。魔法とか剣とか使ってみてぇよ」

 

「なに言ってんの、お風呂場で言ったでしょ。この一週間は仕事に慣れるために使うって。それは文字の勉強も同じだよ」

 

 

肩を落とすハヤトと、眠たそうにあくびをするテン。ハヤトとしては魔法の話を聞いた以上、自分の中の燃え上がる闘争心を抑える事が難しいようで完全に意識が鍛錬の方に向いている。

 

しかし、まずは文字も含めて屋敷のことに慣れないとお話にならない。最低限のことを熟せるようになってからが、やっとスタートラインなのだ。

 

 

「くぅー! 異世界召喚されてからやりたい事ができないこのムズムズ感が痒い! 早いとこ仕事に慣れて文字覚えねぇと!」

 

「そうね」

 

 

気合を入れて頑張ろうと意気込むハヤトにテンが微笑した。どんなことにも気持ちの切り替えが早いところもハヤトの良いところ。

 

目標にむかって正面から向き合うことのできる、一々難しく考えずに今やれることを全力でやる。壁にぶつかっても取り敢えず正面から衝突していくのがカンザキ・ハヤトだ。

 

テンもそこは見習わなければと思いつつ、追いつくことは無理だと心の中で諦めていたり。なんにしても、今は自分がやれる事を全力でやるしかないなと思うのだった。

 

 

「明日、起きれっかなぁ。俺、朝は弱いんだよ」

 

「起こしてやろうか? 俺の部屋は、一番初めに朝日が直で当たる天然目覚まし時計付きの部屋だから。起きれると思うし」

 

「意識高すぎな。そうしてくれると助かる」

 

 

そうして話しているうちに二階の廊下を歩くハヤトの足が止まった。彼が選んだ部屋は、真ん中あたりに位置する部屋。

 

尤も、部屋の中身は全く同じだから場所が部屋の優劣に関係することはないが、場所の選択にその人の性格が出たか。ど真ん中に陣取ると。

 

片手を軽くあげるハヤトは扉を開けると、

 

 

「じゃ、俺ここだから。また明日」

 

「ほーい。おやすみ」

 

 

 パタン、と。

 

その扉が閉まった。その後は特に何も考えずにテンは自室へと足を進めていく。一番端っこの部屋だけあって廊下にしてはそこそこの距離を歩くことになるため、ボーっとしながら歩く。

 

見れば見るほど、ホテルの廊下みたいな感覚だ。よく分からない絵が飾られて、等間隔に優しい光に上から照らされる。そして左右対称に扉が置いてあれば正にホテル。

 

これから毎日この廊下を通って自分の部屋に帰るとなると、庶民的な暮らしをしていた身の自分には違和感のある話だが。

 

 

「……寝るか」

 

 

これからハヤトは眠い中ラムと勉強をすると思うと、早起きを強制される使用人としてはご愁傷様と心の中で手を合わせておいた。

 

そんな下らないことを考えながらテンは扉を開けて、

 

 

「待っていましたよ。テン君」

 

 

 

自分も今夜は寝れないと悟り、精神的に力尽きる日が近いことを覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

時刻は冥日の十時。あれから一時間が経った今、ハヤトの扉がノックされた。

 

 

「脳筋、入るわよ」

 

「入りながらいうなし」

 

 

何のためのノックだったのか。ハヤトが言葉を返す前に我が物顔で部屋へと足を踏み入れるラムはベッドにて羽を伸ばしていたハヤトを横目に、「ハッ」と小さく鼻を鳴らす。

 

言葉にすらしない侮蔑の意思をぶつけられて、もはやハヤトもお手上げのだんまり。そんな彼の前をつかつかと横切り、ラムが向かうのは窓際にある小さな木製の机だ。

 

一応、書き物などをするためのスペースとして各部屋に用意されているのだが、こちらの世界の読み書きができないハヤトにとっては無用の長物となっている。もちろん、日本語で書き記すことはできるだろうけども。

 

そして、テンの予想が正しければその文字を勉強するための時間が今から開始されると。

 

 

「あれか? 文字の勉強か?」

 

「あら、脳みそが筋肉でできた割には察しがいい。なら話は早いわね。早く座りなさい」

 

 

色々と考えていた自分の頭の中が一瞬にしてクリアになっていくのをハヤトは感じる。

 

やはりテンの予想したとうりになったと苦笑すると机の上を見やり、そこに真っ白のページが広がるノートと羽ペン、赤茶けた背表紙の本を見つけた。

 

冗談でも悪ふざけでも嫌がらせでもなく、本気で純粋に文字を教えてくれようとしているらしい。

 

僅かに残っていた甘い展開が風と共に消失する音を鼓膜の内側で聞いたハヤトは、重い腰を上げて椅子に座る。何度か座り心地を確かめるようにみじろぎ。

 

 

 

「朝にテンテンが執拗に"何も知らない"と言っていたのを、ロズワール様がお察しになられたのよ。そうでなくても仕事を見ていれば分かったわ」

 

「なるほど」

 

「だから、それを教える。読み書きができなければ買い物のメモもできないし、用件の書き置きもできない」

 

 

彼の態度を勉強の準備と捉えたラム。彼女は聞かれてもない勉強の意図を口にした。テンがしつこいくらいに"何も知らない"と言っていたのはまさかこれを察せさせるためかと感心するハヤト。

 

その彼の反応を気にもとめずラムは赤い背表紙の本を示し、

 

 

「まずは簡単な童話集、子ども向けから始めるわ。これからは毎晩、ラムが付き合うから勉強をすること。いいわね」

 

 

となると、テンにはレムが今頃教師役として付いているのか。彼が動揺している様が目に浮かぶハヤトは内心爆笑した。自分にラムが付くなら必然的にそういうことになる。

 

ここに来て、悉くテンの精神をゴッソリ削ぐ出来事が舞い込んでくるが、それはそれで明日の反応が楽しみだなと思うハヤト。

 

自分はラムに関しては友達感覚で接しているが、テンの場合は勉強どこではなくなりそうで不安が不意に沸いてくる。

 

しかし「まぁ、死にはしないだろ」と勉強で『死』という単語が出てくる異常性には気づかないハヤト。彼はテンのことを一旦忘れた。

 

 だって、

 

 

「まずは基本のイ文字から。ロ文字とハ文字はイ文字が完璧になってから」

「三種類もあんのか……」

 

「イ文字を把握してから童話に入るわ。勉強時間は……冥日一時までが限度でしょう。明日もあるし。ラムも眠いし」

「夜中まで……べんきょう……」

 

 

 

割と、自分のことで精一杯になりそうな予感しかしないのだから。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

カキカキと羽ペンの走る音だけが響く空間で机に向かうテンと、それを隣で椅子に座りながら眺めているレムの二人。

 

古代文字を解読する気分で勉強するハヤトと同じように。しかし淡々と文字の練習をするテンは隣に座る存在をなるべく視野から外すべく、文字を覚えることだけに意識を集中させていた。

 が、

 

たまに身を乗り出して文字を覗き込んでくるものだから意識外へと追いやった存在がストレートに戻ってくるため、ビクッとするのがテンだった。

 

 

部屋に戻った時、何事かと思った。

 

 

自分の部屋にレムがいるだなんてカケラも想像していなかったから相当焦ったテン。レムはというと、文字を教えるから座ってくださいとだけ。

 

そこからイ文字を覚えるための勉強が開始されて早三時間。ひたすらに黙々と作業をするテンは、レムに確認をとりながらある表を作っていた。

 

幸いにも、この世界のイ文字は日本で言う平仮名にあたり。なんとなくそれに似ている象形文字が数多いのだ。全く違うものも中にはあるが、雰囲気で読める。書くとなれば話は別だが。

 

 故に、

 

 

「よし、できた」

 

「これは……、表ですか?」

 

 

作業を終えたテンが肩の力を抜き、隣からレムが彼が作った表を覗き込む。ノートには等間隔にこの世界の文字が書かれ、しかし文字一つ一つの隣にレムからすれば見覚えのない文字が書かれていた。

 

所謂、五十音表。テンはこの世界での五十音表をレムに手助けしてもらいながら作成していたのだ。

 

「これは『あ』って読むの?」

「はい、そうです」

 

「これは『ふ』って読むの?」

「はい、あってます」

 

「………えっと」

「それは、『ほ』です」

 

などの、十八歳とは思えない疑問を投げかけることに対してなんの抵抗もなかったかと聞かれれば微妙なところだが。

 

右から順に縦五文字、横十文字で丁寧に書かれたイ文字の隣には平仮名での対応する五十音が丁寧に書かれているそれ。

 

文字を書くよりも、まずはこの表を作ってそれから覚えることを優先したテン。

 

日本にいたときも小学一年生に五十音表をなぞった記憶もあるし。アルファベットを覚えるときも風呂場にポスターのアルファベット表で覚えたこともある。

 

 この方が、親しみがあるのだ。

 

 

「これを使って俺はイ文字を暗記する。部屋に貼って毎日見れば自然と覚えるよ。もう一枚作って、持ち歩けば隙間時間に確認もできるし。後は、ひたすらに書き取り。一週間以内に覚えるよ」

 

 

「んー!」と大きく体を伸ばすテンはそう言うとレムの方へと顔を向け、

 

 

「だから、レムはもう大丈夫。取り敢えずイ文字を覚えることに関してはレムに確認取りながら表も作成したし。部屋に戻って休んでていいよ。朝も昼も夕方も俺なんかの世話焼くなんて嫌だろうし。一人で出来ることは自分でなんとかするよ」

 

 

紛れもない本心をテンは素直に投げかけた。この一日でレムにはかなりの迷惑をかけた自信だけはあるテンは自分なりに責任も感じていた。初心者だからともあるが、やはり自分なんかの相手をするなんてイヤだろうし。

 

疲れている中で夜も勉強の手伝いをするとなれば疲れた体を休める時間を間接的に奪うことになる。それは、テンとしては嫌だった。

 

 

「ですが、ロズワール様から」

 

「本人である俺が、大丈夫だって言うんだから。何か言われても俺のせいにすればいいよ。俺から出て行けーーとでも言われたって言えばいい」

 

 

反論するレムの言葉を軽々しく捻じ曲げるテンが収納スペースにあった画鋲らしき物を取り出し、正面の壁に貼る。

 

こうすれば、夜に勉強している時以外にも寝る前に少し確認したり。色々と活用する事ができる。「これでよし」と、満足そうに頷くテンは、

 

 

「な? レムは俺のせいで疲れてんだから自分の部屋に戻って休んでよ。また明日から主に俺のせいで忙しくなるんだから」

 

「ですが、テン君の勉強の進み具合を隣で見ていなくてはいけないので。レムはーー」

 

「それなら気が向いたら少しの間来てくれればいいよ。そうね、一週間後。それまでにイ文字を覚えるから、その日の夜に試験的な感じで顔出してよ」

 

 

椅子から立ち上がり、レムの背中をポンポン押していくテンは彼女が口から溢す「あっ」「ですが」「その」という抗議の声を無視。そうして、されるがままになったレムは部屋から優しく出されると、

 

 

「それでは、お疲れ様でした。明日もまた、よろしくお願いします」

 

 

その言葉を最後に扉は閉められた。

 

扉に耳を当て、数十秒後に足音が遠ざかっていくのを確認したテンはよれよれと歩いてベッドへと全身ダイブ。押し付けた布団の中で深くため息を吐いた。

 

 

「つ、辛かった。異性と勉強とか精神的に死ぬ。隣でレムが見てるとか、勉強どころじゃない」

 

 

見事にハヤトの予想が当たったことなど知る由もないテンは気持ちを切り替えて机と向かい合う。自分一人となったのならば後は淡々とした書き取りをひたすらに繰り返すだけ。

 

ここにレムの存在一つが入るだけで思考が僅かながら乱される。暗記の勉強においてそれは大きな乱れになるのだ。基本的に勉強は一人でやりたいテンからすれば暗記ならば尚更。

 

 

「…ふぅ。やっと落ち着ける」

 

 

隣にレムがいる。その事実がないだけでもここまでの差が出るものなのかと一息つくテンが背筋を整えた。

 

なんにしても、これでーー、

 

 

 

「テン君、レムです。少し良いですか?」

 

「えっ? いやでも、もう休んでてもいいよ」

 

「違います、別の用件です」

 

 

ノックと共にレムの声が聞こえたかと思えば、何やら自分に用があるようで。検討もつかない用事に頭の上に疑問符を複数個浮かべるテンだが、

 

 

「まぁいいよ。どうぞ」

 

「ありがとうございます、失礼します」

 

 

椅子の上で身を回すテンは器用に胡座をかき、背もたれに両手を乗せてリラックスの姿勢。そんな彼の目に入ってきたのはティーセットをトレーの上に乗せたレムの姿。

 

ニコッと微笑みながら近寄ってくるものだから、何が何だか分からずに首を傾げるテン。彼にレムは「レムは、言いましたよね?」とトレーを机の上に置くと、

 

 

「レムはテン君に紅茶の試作品を幾つか淹れますので。その感想を参考にさせて下さい、と。お客様に粗末なものを出すわけにはいきませんから」

 

「え、でもなんで今」

 

「今以外に、時間がありませんから。仕方ありませんよね?」

 

 

自分で飲み込んだ提案をまさか、この場面で利用される事になるとは思わず一本取られたように唖然とするテンにレムは微笑む。

 

確かに、今以外にレムの試作品を飲む時間など存在はしないし。少し休憩するだけなら紅茶で喉を潤すのも悪くない。そう、少しだけなら。

 

 

「なので、その時にレムはテン君の勉強を見たいと思います。安心してください、紅茶が無くなったらレムも部屋から退出しますから」

 

「あ、そうなのね。なら安心……」

 

 

テンの気にしている事を的確に解決させてくるレムがそう言ってティーカップに紅茶を注ぐ。それならば安心できるーーはずだったのだが。

 

どうやらにもいかないらしい。レムが紅茶を注いでいる容器。恐らく紅茶が入っていると思われる容器がティーカップ十杯分は余裕で注げる程に大きい。

 

喉を潤すことを目的として飲むから一杯を飲み終わるだけでも少量を何回かに分ける事になりそうなのに。かなり多い量が多分あの中には入っている。

 

 

「どうぞ」

 

 

そう言ってレムが差し出したカップもまた、そこそこの量が入るもので。

 

 

 ーーコイツ、帰る気ないよな。

 

 

微笑むレムを見ながら紅茶を喉に流すテンはそんなことを思う。結局はその勉強を最後までレムと一緒にやり遂げたのだった。

 

 

 

因みに、紅茶はすごく甘かった。

 

 






ここまでがチュートリアル。原作をなぞるのはもう十分。次回から作者ワールドを少しずつ展開していきます。

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