親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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ここ最近、ほのぼのを書いてこなかったせいか、テンとラムに呑気な会話をさせていたら止まらなくなって10000文字。

前回のお話と合わせて約19000文字という意味不明な文字数。なんでいつもこうなんですかね。要点だけをまとめればコンパクトに収まるものなんですかね。

まぁ、お話をどうぞ。





無限に駄弁れる二人

 

 

 

 

「熱いから火傷しないように」

「ん。ご忠告どうもね」

「火傷されたら困るのはラムだし」

「一言余計だよ」

 

 

時間は数分進んでラムの手料理が完成した頃。二人が戯れ合っている間にも作業の手を止めなかった彼女のお陰というべきか、もしくは単純な作業しかないことが理由か。

 

なんにしても、見事なふかし芋を二つほど完成させたラムがそれらを平皿に乗せながら机に置いた。流石、得意料理なだけはある。普通に美味しそうな出来栄え。

 

試しに片方を二つに割ってみると中からほくほくとした身が顔を出し、見るからに熱そうな湯気が薄く立ち上っているのが分かった。

 

出来立てなのだから当然な話だろうが、猫舌なテンからすれば食べるのに覚悟が必要そうな予感。言われた通り、火傷に気をつけなければ痛い目を見るのは確実だ。

 

食欲と猫舌がせめぎ合い、僅かながらに表情が固まったテン。それを察したのか、使用した調理器具をさっと洗ったラムはテンに「ふっ」と笑いかけ、

 

 

「出来立て。いえ、蒸かしたてよ」

 

「そのキメ顔、何回練習したの?」

 

 

左目でウィンクしながらの微笑。美少女が微笑をするとただでさえ破壊力が増すが、ウィンクというオプションが追加攻撃を仕掛けてすれば、その破壊力が何千倍にもなることは言うまでもない。

 

そして今、テンは画面の中の光景を見た。同じ言葉で、同じ声色で、同じ表情で、何もかも変わらない『それ』をテンは今、目の前にしている。

 

咄嗟の軽口で動揺を誤魔化せたのは良い方。表情にも態度にも出さなかったのは百点満点。唐突なそれに対応できた自分をテンは心の中で褒め称えた。

 

画面の中のラムと比べたとき、目の前のラムは破壊力が桁違いすぎるのだ。画面の中ですらあの完成度——実際に目の前にするとなると、ここまで揺さぶられてしまう。

 

恐らく。否、絶対に意図してやった。キラン、とでも効果音が付属してきそうな彼女の笑みは、明らかに自分を揶揄うためにやったことだ。

 

 

「練習なんてしてないけど。だって、これ以上の完成度を誇ってしまったら使い所に困るもの。……悩殺してくれてもいいわよ?」

 

「さっきの話を引っ張ってくんな。変なことしてないでとっとと座らんかい。この小悪魔が」

 

 

小悪魔ここに極まれり。悩殺という単語が出てくる時点で揶揄うためにしたと自白したようなもの。己の武器(可愛さ)を頭で理解しているラムのやり口はタチが悪く、揶揄われる側はたまったものではない。

 

なら、尚のこと良い反応を見せるわけにもいかないテン。彼は表に出かけた反応を内側でフルボッコにしつつ対面の席を指差した。彼女の揶揄いに真っ向から付き合う事はせず、緩く受け流す。

 

会話の流れを無理やり断ち切るテンにラムはまるで、その内側を見透かしたような嘲笑を一つ挟みながら指された椅子に腰を下ろした。人を小馬鹿にするような笑み——ラムの代表的な表情。

 

 

 ーー多分、バレてる

 

 

目の前に座ってきたラムにテンは、ばつが悪そうな表情。心の中でそう呟いた彼は努力の甲斐なくあっさりと見破られた誤魔化しをなんとなく察すと、更にその表情は深まった。

 

全てを掌握された気分。ラムに手の平の上で遊ばされている感覚を得ると、自分と彼女の間に築かれた人間関係があからさまに露出したような気がして、その小悪魔っぷりにはため息しか出てこない。

 

レム然り。エミリア然り。ラム然り。エミリア陣営が誇る美少女三人組には小悪魔しかいない。それも、魔性を含んだ厄介なもの。

 

そのターゲットにされる人間の気持ちにもなってほしいところだった。ラムの場合、自分がハヤトと違って恋愛初心者だとバレているから揶揄われる回数も増える、と。

 

増えるどころか、照準が自分の方にしか定められていない気がする。ハヤトはターゲット外。あの男にこのような揶揄いは通用しないのだ。

 

 

「まぁ、それはそれとして」

「誤魔化してるの知ってるから」

「それは! それとして!」

 

 

もはや誤魔化した事を隠す気もないテンは、机を弱く叩きながら断ち切った話をぶり返されぬよう完全に断ち切る。バレてるならしょうがない、堂々と話を切り替えさせてもらう気概。

 

しかし、その様子すらもラムは楽しんでいた。無駄な抵抗を止めたテンが開き直る様は、やはりいつ見ても面白いものがある。それ知ってるからこそ、敢えて泳がせたのだ。

 

随分と久しぶりに感じる、ほのぼのとした雰囲気に心が温まっていくような錯覚を起こしたラム。彼女は眼前で子どもじみた反応を見せるテンにもう一度だけ嘲笑。

 

変にムキになった表情のテンに「はいはい。それはそれとして、なに?」と小さく首を傾げた。

 

割り切れない感がしなくもないが、与えられた話題転換の機会をテンが逃すわけがない。大袈裟に咳払いして彼女に操られつつあった空気を一度リセットすると、

 

 

「えっと……。ラムの手料理も完成したことだし、そろそろ食べていいかな?」

 

「ダメだと言ったら?」

 

「はい、降参します。頼むからもう揶揄わないでくれ。今度、また今度相手するから」

 

 

一度は引いた揶揄いの波が再び戻ってくる予感に、ついにテンが両手を軽く上げて降参の構え。今度は隠さずに潔く白旗を早々に上げて切り上げる。

 

ただでさえ先程の余韻が内側から消えてないというのに追撃を仕掛けてくるとは。流石ラムと言ったところか、相変わらず鬼である。

 

当の本人は興という興を味わい尽くしてご満悦。引いたと見せかけてぶっ刺した揶揄いが見事に不意をつき、完全に油断していたテンの表情が情けなく緩むのを正面に彼女は見下すように鼻をならす。

 

その瞬間。失った『何か』を取り戻した安堵感に、あの日からずっと強張っていた糸が緩む感覚がした。体の内側で無意識にピンと張っていた緊張がゆっくりと和らいでいく。

 

きっとそれはラムにとって、いつの間にか大切になっていたもの。大切にしていきたいと思っているもの。欠けてはいけない、自分にとって必要としているもの。

 

 それは————。

 

 

「冗談よ。……いいわ、貪りなさい」

「言い方。わしゃ犬か」

「似たようなものでしょう」

「おい」

 

 

脊髄反射で問答を重ねるようなテンポの良さで会話が進み、厨房に到着してからだいぶ長引いた余興が終わると、空腹すぎて空腹を感じなくなってきた現象を横目にテンは漸く手を合わせる。

 

「木よ、風よ、星よ、母なる大地よ。ついでにラム様よ」と丁寧に言葉をつらつらと並べ、最後に「いただきます」とラムの目を見て一礼。作ってくれた人への感謝を済ませた彼は半分に割ったふかし芋に手をつけた。

 

初めて食べるラムの手料理。シンプルながらに普通に美味しそうな見た目のそれ。外側は良いが内側はダメでした、なんてありがちな結果にならないことをほんの少しだけ思うが、

 

 

「む……。うん。普通に美味しい」

 

「当たり前よ、ラムの手製だもの。疑ってたわけ?」

 

「まさか」

 

 

そんな懸念は口の中に広がった甘味で完全に相殺された。ラムに揶揄われた時間はどうやら無駄ではなかったらしい、自身の尊厳と引き換えに激アツなふかし芋がいい塩梅で冷めている。

 

猫舌なテンとしては嬉しい予想外。出来立てほやほやも悪くないと思うが、悲しいことに熱すぎて食べれないというのが自分という男。少し冷めたくらいがちょうどいい。

 

やめられない、とまらない。一口目を口の中に入れて以降、忘れていた胃の中の乾きが潤いを強く求めると二口目、三口目と凄まじい勢いで進み。半分になったふかし芋が数十秒もせずに姿を消した。

 

次に手が伸びたのは半分にしたふかし芋の片割れ。今食べたものは一本分ではなく、一本分を半分に割ったもの。つまりテンはこれを食べ終われば一本分を食べたことになる。

 

ただ黙々と食べるテンにラムは「喉に詰まらせて死なないでね」とだけ。「うん」と小さく返してきた彼に澄まし顔の内側で優しく微笑んだ。

 

 

 ーー八日も飲まず食わずなら、当然の光景と言えるわね

 

 

心の中だけで言い、ラムはテンが八日間も寝ていたことをふと思い出す。

 

それは、人生で最も長く感じた八日間。それは、ずっと寝ている彼を見ると本当の本当に目覚めないのではと嫌でも考えさせられた八日間。

 

それだけの時間を寝台の上で過ごしたのならば今のようになってしまうのも仕方ないことで、食の進みが早まるのも必然か。

 

普段から食べるのが早いテンならば尚更、早く感じる。否、早い。とてつもなく早い。

 

現に、こうしてラムが考えている間にも彼は二つのうちの一つを食べ終え、己が用意した簡易的なサラダに手をつけていた。それでいて綺麗に食べ進めるところ、彼の性格がよく現れている。

 

 

「……なに?」

「別に」

 

 

見つめていたことを不審に思ったのだろう。近くにあった口拭き用の布巾で軽く口を拭くテンが不思議そうな目でラムを見るが、ラムの反応は簡潔なもの。

 

目にかかった前髪を人差し指で整える彼女はそこから先の言葉を紡ごうとはしない。寧ろ、話の流れをバッサリ断ち切る彼女は逆に見つめてきたテンに目を細め、

 

 

「なに?」

 

「いや。ラムの寝巻き姿を見るの、何気に初めてかもしれないと不意に思ってさ」

 

 

普段から露出度が高く、初見ならば目のやり場に困るメイド服の姿を多く見るラムは今、桃色のネグリジェに身を包んでいる。レムとは色違いだ。

 

体の輪郭をふわりと覆うそれはラムの絶妙なプロポーションを仄かに表現し、彼女の女性らしい美しさを優しく語っている。

 

寝巻きのエミリアやレムをゆるふわ系とするならば、ラムは清楚系。名を上げた三人の中では、寝巻き姿に限定した場合、清楚の雰囲気が一番強い気がした。残りの二人はゆるふわの方が強い。

 

 

「なんか新鮮だなぁ」

 

 

 と。

 

おっとりとした口調でテンはラムを眺める。その視線に邪な感情や意思は一切混入しておらず、ただ本当にそう思っただけという意味合いが全面的に押し出ていた。

 

事実として、視線を向けられるラムは不快感の一切を感じ取っていない。感じ取っていれば「気持ち悪い」だの「気色悪い」だの「死になさい」だのと蹴散らせたものを。

 

そんな素直に言われてしまえば反応に困ってしまう。強いて言うなら、素直に返す他に反応の選択肢がない。

 

 

「そう……。なら好きなだけ拝んでおくといいわ。女神様とでも言いなさい。まぁ、それでテンテンの許容量が超えてもラムは知らないけど」

 

 

言った直後、テンの喉が「ん?」と驚いた風に低く唸る。口の中の物を飲み込み、サラダを完食した彼は空いた皿を片付けるために立ち上がる。

 

使用した銀食器を片手にシンクに移動しながら、

 

 

「そんなこと言ってくれるんだ。なんか意外。てっきり、気色悪い。とか、この野獣が。とか、そんなこと言われると思ったのに」

 

「そう思わないわけじゃないけど、テンテンは脳筋とは違うから。別に構わないわ。それに、寝巻きを見られても別に気にする関係でもないし」

 

「……なんか。雰囲気、柔らかくなった?」

「気のせいね」

 

 

即答されつつも、しかしテンはラムの明らかな変化に気付く。ぶっ刺さりまくる揶揄いや、烈火の如くぶち込まれる毒舌は、相変わらず孤高の毒舌美少女として成立しているが。

 

今のラムは以前と比べてどことなく柔らかい気がする。普段と変わらない——変わらないのだが、そんな気がしてならない。

 

追求は多分、受け付けてないだろう。出した水でフォークと皿を軽く洗い流し、水切りカゴの中にそれらを入れるテンは深い追求はせず「そうか、気のせいか」と軽く流した。

 

「じゃぁさ」と、話を元の路線に戻したテン。手についた水滴を拭いた彼は徐に食器棚を開くと中からケトルとティーセットを取り出しつつ、

 

 

「ハヤトだと何がいけないの? ほら、俺はハヤトと違うから、ってやつ」

 

「テンテンは脳筋と違ってラムを襲わないでしょう? そんな度胸あるわけがないし。仮に襲ってきたとしても刎ねる首が一つから二つに増えるだけだけど」

 

「なんだろう。馬鹿にされてるのか信用されてるのか分からなくて微妙な気持ち。つか、ハヤトは襲うこと確定なんだ」

 

「そうでしょう。テンテンの真反対なんだから」

 

 

それが理由として成立してしまうのが悲しいところ。何があっても絶対に手を出せないのがテンだとして、ハヤトはその真逆だからラムにとっては危険度も高いらしかった。

 

完全に舐められているテンだ。ならばここは一つ、男としての威厳を——とケトルに水を汲みながら思うが、結局は思うだけに留まるのだからラムが語った理由も立証され、確かなものになった。

 

実際、自分が女の子に手を出す絵面などテンには考えられない。知識として備わっているだけでそれが実践に活かせるわけがなく、仮に行為に及んだとしても、どうしたらいいか分からずに目を回す予感しかしないのだ。

 

苦笑。耐熱性の高い板に火の魔鉱石を敷き詰めた——故郷で言うところの、ガスコンロ的な立ち位置のそれ上にケトルを置くテン。

 

己の情けなさを一旦、頭の端っこに追いやる彼は湯を沸かすべく魔鉱石にマナで呼びかけようと、

 

 

「ーー!? 待ちなさい!」

 

 

テンの作業を気になったラムが振り返った途端、顔色を変えた彼女が勢いよく立ち上がる。

 

夜中ということを完全に無視した声量が一度だけ鼓膜を思い切り殴りつけると、肩を跳ねさせたテンの動きがピタリと止まった。

 

反射的に自分のことを見てくるテンにラムは心底戦慄したような表情。声を荒げることが珍しいのに加えてその表情を向けられれば、テンは困惑せざる負えない。

 

 

「今、何をしようとしたか説明しなさい」

 

「えっと……。俺とラムに紅茶を淹れようとして、お湯を沸かすために火の魔鉱石にマナで呼びかけ、よう……と……してまし、たぁ」

 

 

訳も分からずに取り敢えず行動の経緯を説明するテンだが、その声は後半に進むに連れて歯切れが悪く、萎縮するように弱々しくなっていく。

 

どうしてか。普通のことを話しているはずの彼は、ラムの顔色がどんどん悪くなっていくのを真横に動揺が浮き出たのだ。

 

レムやロズワールのこと以外で動揺する彼女を見るのは珍しい——否、ありえないことを知っているから尚更その異常性を理解できて、何が彼女を焦らせたのか不思議で仕方ない。

 

血相を変えた彼女に言い終えたテンは「なんで?」と不安がりながらも問いかけると、テンに詰め寄るラムは唐突に飛来した考えに厨房を照らす光——頭上の陽の魔鉱石を指差し、

 

 

「あの魔鉱石にマナで呼びかけたとき、何か違和感はなかった? 具体的に言うとゲートに普段とは違う感覚とかしなかった? 些細なことでもいい。あるなら話して」

 

「ゲートに違和感?」

「正直に答えなさい、でなければ殺すわ。下手に心配かけないように無理しても殺すわ。そんなくだらない見栄を張ったところでラムには一瞬で見抜ける。ラムの洞察力を甘く見ない方がいいわよ」

 

「ラム、急にどうしたの? 静かにしないとみんな起きちゃうよ」

「そんなの知らないわ。起きたら起きたよ。それよりもラムの質問にさっさと答えなさい。誤魔化したら本気で許さない、ラムが真剣に聞いてるなら真剣に返すのが筋なことくらい分かるでしょ?」

 

「ラム、ちょっと怖いよ。ほんとにどうしたの? 俺はなんともないから落ち着いてーー」

「なんともないわけないじゃないーー!」

 

 

 怒号。

 

屋敷の人間が起きてこないか本格的に不安になるラムの荒っぽい声が空間に響き渡る。大気中を駆け抜けるそれがテンの鼓膜に飛び込むと、心を振動させられた彼は言葉を失った。

 

様子が一変したラムは饒舌で、テンの言葉を鼓膜から遮断した彼女は呼びかける声に一切応じず、己の意思を歯止めが利かなくなったように無茶苦茶に叩きつける。

 

声を重ねる度に頭は熱を帯び。嫌な不安が膨らむ度に心が震え出し。数日前のベアトリスの言葉が脳裏に過る度に焦燥に身を焦がされ。——それら全てが爆発した。

 

いささか冷静さに欠けるラムは瞳に浮かびかけた不安色を必死に隠しながら、

 

 

「テンテンは自分のこと、何も知らない。今、自分がどれだけ危険な状態なのかも知らないで、いつも通りに接してこないで。ーーちゃんと、正直に、全部話して」

 

 

感情に任せて叫んだ己を咎めるラムの声は低かった。瞬間だけ感情制御の手綱を手放した理性が慌てて手綱を強く握りしめると、彼女は取り乱した態度を少しずつ内側に引っ込める。

 

自分らしくないことをしたと落ち着き、俯きながら熱っぽい吐息を溢すと頭に上った(感情)を冷却。意図せずに込み上げて爆発させてしまったものを飲み込む。

 

そうして気持ちの整理をつけて顔を上げると、

 

 

「浸ってる場合じゃないわね……。テンテン、少し興が乗り過ぎたけど、貴方とのほのぼのは一旦終わりよ。紅茶はラムが淹れるから、とりあえず座りなさい」

 

 

状況の理解ができそうでできず、ラムの気持ちを解ってあげられない事にもどかしさを感じるテンの肩をポンと叩いて、

 

 

「さっさと本題に入りましょう」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「本題……。色々と話したいこともあるし、って言ってたやつ?」

 

「そうよ。テンテンが寝ている間に色々とあってね、話さなければならないことが沢山あるの。その中の一つにはテンテン自身のことも。あなたの知らないことを、ラムは沢山知ってるから」

 

 

取り乱した自分を整えたラムと、取り乱した彼女の気持ちを理解してあげられないテンの二人。彼らは改めて机を挟んで対面するように座りながら落ち着いた様子で話し始める。

 

その間に先のような和気藹々とした雰囲気は無く。代わりに神妙な態度をラムが表に出したことで、和んでいた空気が時間が経つに連れて張り詰めていく感覚をテンは感じ取っていた。

 

挟まれた机にあるのはティーカップ。人数分用意されたそれは紅茶を飲むために使用されるものだが、肝心な紅茶はない。紅茶を作るためのお湯をケトルの中で沸かしているところだ。

 

加えて、数分前にラムが作ったふかし芋が一つ。時間が経ってしまったから恐らく冷めていると思うが、そのようなことなど今の二人が気にするはずもない。意識は、互いに目の前の存在に注がれているのだから。

 

構図が完全にお茶会のそれ。しかし雰囲気はそれとは真逆と、少しばかり歪な光景が厨房内で完成している今。

 

話し合いの場は整ったとばかりに真剣な顔持ちを向けるラムは「それで?」と先ほども指差した頭上にある陽の魔鉱石を再び指差し、

 

 

「さっきの質問に答えなさい。あの魔鉱石にマナで呼びかけたとき、何か違和感はなかった? 具体的には……話した通りよ」

 

 

「誤魔化しは利かないから」と念押しするラムが再度、同じ言葉で問いかける。優しい言葉遣いの割には詰問するような目つきの彼女が正面のテンをジッと見つめ、逃がさないという意思を念として送った。

 

この質問、問いかけたのには意味がある。当然、取り乱したのにも理由があるし、テンの行動を全力で止めたのにも明白な訳がある。

 

何も思わずにラムがあんな突発的な行為をするわけがないのだ。そうさせるまでに大きな理由が、目の前にあったのだ。

 

 

 ーー二ヶ月か三ヶ月か。明確な時間は分からない。けど、最低でも一ヶ月間は様子見かしら。絶対の絶対に魔法は使わせない。ゲートに一切の負荷を与えない事が重要。

 

 

テンが火の魔鉱石にマナで呼びかけようとしているのを見た瞬間、電撃の如く過ぎったのはその言葉。テンの容体を細かく説明してくれたベアトリスの淡々とした声。

 

それは、酷使しすぎた結果として信じられない程に歪み、損傷こそしなかったものの完治するまでに何ヶ月間の時間を要するか不明なまでに壊れかけた、テンの体の中に備わったゲートのお話。

 

彼女が告げた処置は魔法を使わせないこと。歪んだそれを介してマナを使用することが危険な行為だとは考えるまでもなく、故に負荷をかけないことが大切。

 

絶対の絶対に魔法を使わせない。更に深く言えば、マナそのものを使わせない。マナを使う行為は程度の差はあれどもゲートを介すことに直結し、負荷をかけてしまう。

 

それを知っていてのあの出来事。

 

正直、マナで呼びかけようとしたテンを見た瞬間は心臓が飛び跳ねた。何も知らない彼が自分の体を破壊するような真似を無意識に行おうとしていることが、たまらなく怖かった。

 

もし、あれでゲートに何かあったら——考えたくもない現実(悪夢)が実現してしまう。

 

仮にゲートが損傷、最悪の場合を想定して壊れ。彼から、マナを外へと放出するための『ゲート』という機能が失われたとしよう。

 

例えその機能が失われたとて、テンの中にあるオドから湧き出すマナが消えてなくなるわけではない。むしろ、出口(ゲート)をなくしたにも拘わらず、マナだけは次から次へと作られるのだ。

 

そのまま放置しておけば、テンの体内で行き場をなくしたマナが暴走し、マナを貯蔵するオドがマナの許容値を超えた事によって爆発——テンは死ぬ。確実に、死ぬ。

 

そんなこと認めないし、させない。

 

だからこそ、今、ラムはテンが陽の魔鉱石にマナで呼びかけた事実に戦慄しながらも強く質問している。変に隠し事をさせない彼女は、テンの気遣いを蹴散らした。

 

そんな、深い理由があるとは知らないテン。彼は「えっとねぇ」と記憶を思い出すように陽の魔鉱石を見上げると、

 

 

「違和感はあったよ。ゲートが疼くというかなんというか、刺す痛みがするような感じ。ごめんね、語彙力が皆無だから上手く言えないや。でも、違和感があったのは本当だよ」

 

 

聞いた途端、ラムの喉が戦慄に凍る。二つに重なった戦慄を頭が理解すると、理解の波紋が伝わる心も凍りついた。

 

喉と頭と心。言葉を生む三つの要素が凍ったことで、ラムは返答に対する返しを口から音として溢すことができずに停滞。不覚にも動揺している。

 

ポンと語られた事実。しかし、割と本気で冗談にならないとラムは思う。

 

魔鉱石に呼びかける際に使用するマナの量は小鳥の涙よりも少ない。つまりは、日常生活には何の支障も来すことはないということ。

 

魔法の素質を持たぬ人間——マナを使用する事に長けていない人間でもごく普通に扱える。それ程までに魔鉱石が食うマナというのは極小なのだ。

 

しかしテンはその、小鳥の涙よりも少ないマナを使用して「違和感がある」と言った。魔法を使わぬ人間ですら影響を及ぼさない量を使用して、魔法を多用するテンは「違和感がある」と言った。

 

たったその程度の量でゲートが疼き、更には痛みまでも伴った。マナの消費に歪んだゲートが過剰に反応している証拠だろう。

 

果たして、これが何を意味するか。

 

 

「んで。違和感があるからなんなの? ゲートになんかあるの?」

 

 

未だ悲劇の後遺症が色濃く残るテンにやるせない感情を抱かざる負えないラムを放って、テンは訪ねる。澄まし顔のまま眉がひとつ動かない彼女に首を傾げると、彼は返答を待った。

 

しばしの沈黙を得て時が動き出したラム。重なる戦慄の処理を終えた彼女は「えぇ」と軽く頷くと、

 

 

「決して無視できない事がね。……分かった。なら、まずはテンテンの身体のことから話してあげる。手短に話すから黙って聞いてなさい」

 

「分かりました」

「黙って聞いてなさいと言ったはずよ」

 

「ーーーー」

 

「返事は?」

「理不尽ッ!」

 

 

聞き慣れた声色で騒ぐテンだが彼女は気にも留めていない。振り返り、火にかけた水がお湯になったのを確認すると「黙ってたら怒るし、黙ってなくても怒るし。気分屋かよ……」とボヤく抗議の声を無視して立ち上がる。

 

慣れた手つきでケトルを机に置くと蓋を開け、小袋に入った茶葉を投入。テンが紅茶を淹れようとした理由はよく分からないが、これでひとまずの準備は完了した。

 

 となれば、

 

 

「場は整えた。さて、話しましょうか」

 

「うん。お願い」

 

 

片腕で頬杖をつくラムが一呼吸分の間を置くと、テンは椅子の上で器用に胡座をかきながら背筋を正す。聞く態度を示した彼にラムは頬杖をついてない方の手を向け、

 

 

「身体に関して話したいことは全部で三つ。一つ目は、ゲートについて。二つ目は、傷痕について。三つ目は——その脇腹について」

 

 

人差し指、中指、薬指と。順番に細い指を伸ばしていく。三つ目を語るときだけ若干の間があったことにテンは少しばかりの不信感を抱くものの、黙って聞いてろと言われた彼はそれを言うことはない。

 

そんな彼は二つ目と三つ目については心当たりがあるのか、テンは右目の下に走った一筋の斬撃痕と強い痛みを感じた右の脇腹に手を添えていた。

 

色々とありすぎて困惑必須のそれらを思い出したように。或いは、頭の隅っこに追いやっていた『消えぬ傷痕』という事実が精神的な被害を齎したように。

 

その反応を受けたラムはテンが己の状態をどこまで把握しているのか瞬時に把握。類い稀な洞察力を鋭く光らせる彼女は『消えぬ傷痕』と『その脇腹』をテンは既に見ていると察した。

 

ならば話は早い。「傷痕と脇腹は知ってるようね」と彼女は頷き「なら」と前置き、

 

 

「まずはゲートについて。テンテンが感じた『違和感』の正体がなんなのか教えてあげる。覚悟して聞くことね」

 

「分かった」

 

 

「覚悟」と聞いた途端、テンの瞳の色が変わる。その言葉自体に敏感な彼はそれまでの穏やかな雰囲気を完全に消失させ、二度とふざけた態度をとらない気配を漂わせた。

 

相変わらず気持ちの切り替えが早い時は早すぎる彼を前に、ラムもまた気持ちを完全に切り替える。彼と話していると駄弁に駄弁が重なる傾向が多く見られるが、今はダメだ。

 

言うことを言わなければならない。受け止めることを受け止めさせなければならない。あの夜の悲劇はまだ終わってないことを告げなければならない。

 

きっと、自分が目覚めた理由はそれだから。彼にそれら全てを伝えさせるために、自分は目覚めたから。

 

 故に、

 

 

「詳細の説明を省いて結論だけを単刀直入に言うと」

 

 

立てた薬指と中指を折り、しかし人差し指だけは聳え立たせ、伸ばした指をテンに向け。

 

 

「今のテンテンが前のように魔法を使った場合、間違えなく死ぬわ」

 

 

ラムは容赦なく告げた。それも、かなり飛躍した結論を。

 

 

 

 






やっと本題に入れる……。仲の良さが故に永遠とくだらない事を話し続ける事に関しては何も言わないでください。

まさか、関係を深めるために頑張ってきたことがこんな形で響いてくるとは。まぁ、この物語はオリ主二人がエミリア陣営の人間たちと仲良くなる過程を描くものでもあるので、ダメではないとは思いますが。

流石にこれは少し長すぎましたね。ほのぼの不足が呼んだ結果とでも思っててください。



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