親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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目が疲れない程度に読んでくださいね。






普通の中にあった、確かな決意

 

 

 

 

 

「ーーーえ?」

 

 

随分と間抜けな声が出てしまったと自分で思った。心の底から唖然とし、告げられた言葉に対して反射的に漏れたそれは口を半開きにした男には似合いすぎているほどにバカっぽい。

 

それを本人が気付くことはない。本人は今、鼓膜を通じて頭に流れ込んできた言葉をどうにかして咀嚼しようと頑張っている最中だ。

 

残念なことに、覚悟としていながらも『死』という単語には未だに耐性がなかった。あれほど死という概念を味わっておきながらも、しかし彼は唐突なそれに処理が追いつかずにいる。

 

 

 ーー間違えなく死ぬわ。

 

 

数秒前に言われた死亡警告。この雰囲気で嘘を語るような真似は決してしないラムが言ったためにリアルさしかないそれ。逆に、嘘だと疑える理由が一欠片もないことに恐ろしさすら感じた。

 

それでもテンは粛々と受け入れる。一つしかない言葉の意味を頭で理解し、心に理解させるために無理やり飲み込む。

 

それから、唖然の時間を通り過ぎたテンは、心が理解した焦りや不安といった負の感情を何度も抑え込んでからゆっくりと息を吐き、

 

 

「どういうこと? そもそも、俺のゲートはどうなっちゃったのさ」

 

「マナを枯渇するまで過度に消費し、加えてオドまで使ってまで魔法を行使した結果、テンテンのゲートは異常なまでに歪んでしまった。ーー現状を簡単に説明するならこんな感じよ」

 

 

「心当たり、あるんじゃないの?」と、頬杖をつきながら首を傾げてくるラムにテンは目を落とす。問いかけに対して瞑目し、視野情報の一切を脳から遮断する彼はあの夜の出来事を今一度振り返った。

 

思い出されるのは二度と経験したくないと強く願う戦い——対魔女教徒戦。自分のポテンシャルが百パーセント以上に引き上げられても尚、生存確率がゼロパーセントに等しかった戦い。

 

正直なところ、あの時の記憶は曖昧だ。断片的な光景として思い出せることはあるものの、全てを鮮明に呼び起こせるわけではない。

 

ただ、心が感じ取った感情だけは鮮明だった。

 

血と殺戮の舞台——飛び散る血肉と殺意の中で精神が受けたそれは未だ健在で。特に、人を斬る感覚だけが頭一つ抜けている。

 

皮膚を無理やり引き裂くようなあの感覚。肉の抵抗を無視して刃を振った瞬間から柄を握る手に伝わる生々しい感覚。あれだけは一生忘れられそうにない。思い出すだけでも鳥肌が立ちそうだ。

 

死んでいても何ら不思議でなかった激闘、そう言い表すのが適している。

 

その中で自分がどれほどマナを使用したか。レムとラムを逃した時点で既に四分の三を使い果たしていたのだから、その後の戦闘で魔法を使えば枯渇するのも当然の話。

 

そこに微小ながらも常時マナを使い続ける『流法』という要素が加われば、マナが乾き切らない方がありえない。現に、あの長剣使いと戦った時点でマナはゼロに等しかった。

 

そしてトドメの一撃——オドの使用。どうやら、命を削るついでにゲートすらも削ってしまったらしい。多すぎるマナの放出に追いつけぬゲートが疲労しているところにオドの追い討ち。

 

 結果として、

 

 

「ゲートが歪んだ、と。まぁ、元から質が良かったことが裏目に出たのかな。燃費が良く、貯蔵量の多いマナを使い果たすとなれば、ゲートに掛かる負荷も相当なものになると」

 

「ゲートも身体的な機能と変わりない。使えば使った分だけ疲労し、許容値を越えれば生命に影響を及ぼす前に何らかの形で警告音を発するものよ」

 

「で。今の俺は正にその、警告音が鳴り響いている状態ってことね」

 

 

高威力の魔法を連発すれば反動がくるように。許容しきれないマナをゲートを介して短時間で使用すれば当たり前のように反動がくる。

 

要は、身の丈に合わない力を使用すれば使用者の肉体が崩壊するようなもの。テンの許容範囲をテン自身が飛び越えた結果としてゲートは歪んだのだ。

 

ゲートの質が良く、無駄にマナの貯蔵量が多いオドを得たものの、結局は扱い切れていなかったことが主な原因だろう。与えられた力のスペックを引き出し切れていない、未熟者の自分にはお似合いの結果だ。

 

大きな力にはそれ相応のリスクが伴う。無反動で高威力の魔法を連発することも、限界を飛び越えて魔法を使うことも、それらが簡単にできるほど世界は甘くない。

 

それをテンは改めて痛感し、己の未熟さに悔やむ。もっと強ければ、こんなことにはならなかったはずだ、と。

 

となればラムが告げた死亡警告の意味は、

 

 

「魔法……というよりもマナを……ゲートそのものを使うことが厳禁ってこと? 歪んだゲートを使うと壊れる可能性があるから、とか」

 

「その通りよ。過度な使用で異常なまでに歪んでいるのが現状。損傷していなかったのが不幸中の幸いといったところかしら」

 

 

「なるほど」と。そこまで聞いたテンは納得するように何度も小さく頷きながら腕を組み、

 

 

「魔法を使うと死ぬ、ってそーゆーことね。正確には魔法を使うためのマナを使おうとすると自動的にゲートが使われる。んで、今の状態でゲートを使うと壊れる可能性があるから。実質、死ぬってわけ」

 

「理解が早くて助かるわ。長ったらしい説明は面倒だもの」

 

「にしては飛躍しすぎだろ。すっ飛ばしちゃだめな説明まですっ飛ばしてどうすんだ」

 

 

点と点が線で繋がった感覚。

 

自分が火の魔鉱石にマナで呼びかけようとした途端にラムが必死に止めようとした理由も、陽の魔鉱石に呼びかけた時に『違和感』を感じた理由も、大体分かった。

 

自然と肩から死の緊張感が下りる。説明を省きすぎて『死ぬ』という結果だけが独り歩きしていたが、肝心な部分を聞けば強く神経質になることでもないとも思えた。

 

内心、ほっと一安心するテン。が、彼は瞬間だけ緩んだ心を刹那で整えると、

 

 

「んで? その歪みは治るの?」

 

「自然治癒か、王国最高峰の治癒術師を頼るかの二択。そうでなくても最低でも一ヶ月は魔法の使用は禁止だそうよ。絶対、ゲートに負荷をかけないことをベアトリス様は念押ししていたわ」

 

「最低でも……。なら、最長は?」

 

「分からない。二ヶ月か三ヶ月か、それよりも長いか。テンテンの体に治癒魔法を施したベアトリス様もそこまでは把握できなかったそうよ。簡単に戻せるものでもないし」

 

 

完全治癒までの見通しがついていない事実に、テンはいつの間にか前のめりになっていた姿勢を後ろに下げると、そのまま背もたれに深く腰掛けた。

 

体重を背もたれに預ける彼は意味もなく斜め上を見上げると「そうなんだ……」と吐息。生じた感情を吐き出す様は、感傷に浸り気味なようにラムには見えている。

 

否、浸っている。テンは今、感傷に浸っている。

 

包み隠さず伝えられた事に、己にとっての戦う術を失ったような気がして。やりきれない思いがふつふつと込み上げては、口から声として溢れそうになるのを飲み込むのだ。

 

静まっていたはずの鼓動の音が声を上げ始めたのが分かる。感情の海に深々と沈む心が、動揺という波に揉まれて強く揺れ動いているのが分かる。

 

魔法というのは、それ程までに自分にとってなくてはならない武器だ。魔法だけではない、身体能力を底上げする流法という技術も、戦う上では必須。

 

それらをゲートが歪んだことで失った。一時的なものだと適当に笑えたなら、この心も苦しくなかっただろうに。最悪なことに完全治癒までの時間は未定だった。

 

二ヶ月、三ヶ月、四ヶ月——突飛な想像をすれば一年かかるかもしれない。そうなった場合、自分はただの役立たずだ。

 

戦う力のない自分に、何の価値があるというのか。騎士になるために努力してきた日々は、なんだったのか。

 

歪みが完全に治癒されるまで自分は本来の力を発揮することはできず、以前のようには戦えないことに直結する。それはつまり、分かりやすい弱体化。

 

 けれど、

 

 

「レムとラムが守れたなら、それも本望か」

 

 

目の前の女の子を見ると、それもまた一興なのではとテンは思うことができた。自分の犠牲一つで守れた人達がいるなら、ゲートの歪みなど安いもの。

 

それにずっとではない、一時的なものだ。時間が経てば自然と治癒されていくものならば、それを待てばいい話だろう。

 

色々と思うところはあるが。起こってしまったものはしょうがないし、元より代償もなしに戦いを終えれるなんて甘い考えは頭の片隅にもない。真正面からその事実を受け入れ、納得した。

 

気持ちを入れ替えたテンは天井に彷徨わせていた視線を下へ。目の前に座るラムに合わせると、驚いたように目を見開いているのが見えた。

 

 

「驚いた。ラムの中のテンテンはこの事実で気落ちしているのだけれど、実際のテンテンは違ったようね。……精神的にも、ちゃんと強くなったようで安心したわ」

 

「自分が弱々しい事で色々とやらかしてたことに気づいてさ、この程度で落ち込んでらんねぇなって思えたんだよ。俺だって、そろそろ男としてやるべきことをしないとだし」

 

 

言い、テンは「へへっ」と笑声を漏らしながら口角を釣り上げ、人差し指で鼻の下をこする。その発言自体がらしくない行動だった彼は、やった後の若干の照れ臭さにむず痒くなった。

 

けれど、これからはこれを自分らしさにしていかなければならないのだ。弱々しい自分はもういらない、色んな人に迷惑ばかりかける精神弱者なソラノ・テンはここから先には不必要。

 

魔獣の大群に単身で飛び込むハヤトを見て。自分も行くと泣きついてきたエミリアを見て。自分にレムの命を頼んできたラムを見て。いかないでと必死に縋ってきたレムを見て。

 

それがよく分かった。思い知らされた。

 

弱々しい自分じゃダメなのだと。

 

安心して背中を預けてもらうような自分にならなければダメなのだと。

 

それができるくらいの器にならないと男としてダメなのだと。

 

 

 ーー今の俺じゃ、悲しい顔をさせちゃうから

 

 

イヤなんだ。ラムのあんな弱った顔を見るのは。

 

 

 ーー今の俺じゃ、大切な人たちに涙を流させてしまうから

 

 

もっとイヤなんだ。レムの涙も、エミリアの涙も。もう見たくないんだ。悲しませたくないんだ。

 

高望みだって分かってる。身の丈に見合わない願いだってことは誰よりも理解している。けど、そう思ってしまったんだから仕方ないだろう。

 

 

 ーーそれなら、もう頑張るしかないでしょ?

 

 

故に今の自分には人としての成長が求められている。成りたい自分に成るためにも、その自分に一歩でも近づくためにも。

 

——自分の気持ちと向き合って、レムの気持ちを受け止めるためにも。

 

 

「いつまでも支えてもらってちゃ情けないもんな。ハヤトにも、エミリアにも、レムにも、勿論ラムにも。俺はいろんな人に支えられて、やっとここまで強くなれた。ーーなら、今度は俺の番だ」

 

 

正直、まだ心の整理はついていない。

 

これまでずっと目を背けてきた自分の想いと、レムに向けられる想い。その二つと向き合って、何かしらの答えを出さなければならないのに。

 

なら、これから向き合おう。今この瞬間を超えた先で自分は二つと正面から向き合おう。あの悲劇を受けて心のあり方を見つめ直した今、自分がどう在りたいのかを明確にして。

 

 

「俺がみんなを支える。支えられるように、心の拠り所になれるような男になってみせる。騎士として、友人として、男として。俺は、お前達にとっての『安心できる人』になるよ。絶対にね」

 

 

——もう、やめよう。

 

自分なんか、なんて言葉で変わることから逃げるのはやめよう。そんな甘えは今から自分自身が許さない。

 

自分なんて、なんて弱音で何もかもを諦めることはやめよう。自分のことを否定してなんになるのか。そんな自己否定したところで意味なんてない。

 

前を向け。背後を振り返るな。お前が守りたいと思う人たちはそっちにはいない。今と全力で向き合え。向き合って、前に進んで、進んで、進み続けろ。

 

そうでなきゃ、ハヤトには追いつけない。

 

 

「だから俺は、俺なりに頑張ることにしました。エミリア陣営の騎士として恥じないような人になるために、色々と頑張ります」

 

 

「現在進行形で頑張ってます」と、テンは真摯な態度でラムと向き合う。これらの発言をすること自体がとてつもなく違和感の塊で、テンとしてはめちゃくちゃ頑張っているのだが。

 

しかし彼は吐いた言葉は曲げない。今ここで——ラムの目の前で己の決意を語り切る。ラムという、自分の甘えを許さない少女の前で、ソラノ・テンという青年は全てを伝えた。

 

 

「そう……。毎回毎回、励ますのは勘弁してほしいと思っていたからちょうどよかったわ」

 

「人が決意を固めてるところにお前というラムはどうしてこう、茶化してくるかな」

 

「森の中で弱るテンテンを励ましてあげたのはどこの誰だと思っているの?」

 

「それに関しては言葉もございません」

 

 

人が本気で決意を表明していれば容易く出鼻をくじかれる。前回と同じやりとりをラムと交わしたテンはそれまでの決意一色に染まっていた態度から一転、机に突っ伏す彼は額をぶつけながら項垂れた。

 

そうする以外に抵抗できないのが面倒なところだと木目と睨めっこしながら思う。現に、恐らく自分のことを嘲笑うかのように見下しているであろう彼女の言う通りなのだから。

 

揺らぎ続ける覚悟をいつも励ましてもらった。最後の最後、レムと戦う寸前まで弱々しかった心に喝を入れてもらった。それで、どれほどの苦労をかけてしまったかなど想像するまでもない。

 

本当に——本当に助けられてしまった。どれだけ感謝の言葉を積み重ねても足りないだろう。否、足りないと分かっているから、こうして真面目に決意表明を彼女の前でしたのだ。

 

結果として項垂れることになったが。絵面としていつも通りである。

 

ただ。違うところがあるとすれば、

 

 

「ーーーふ」

 

 

テンを見下ろすラムの表情が、とても穏やかなものになっていること。綻んだ口元から、心に留めておきたいという意志に反して、笑声が僅かながらに感情()を奏でたこと。

 

奏でられた音色は『喜び』。鈴を転がしたような綺麗な声で項垂れる男に対して抱いた思いを静かに音にする彼女は今、喜んでいる。

 

彼の言葉を聞いて何も思わなかったわけがない。弱々しい姿を見ることが殆どの男が自分に対してそう言ってくれたことに、何も感じなかったわけがない。

 

だって、テンはハヤトの真反対なのだから。

 

共通してある箇所は少なからずあれど、自信という点においては清々しいまでの真反対で。ハヤトが自信に満ち溢れているのなら、テンは自信の欠片もなく。どうにかしてほしいと思っていた。

 

そんな彼が今の発言に至ったことがとても嬉しい。どんな心境の変化があったのかはまだ分からないけど、自分の口から自分の意思でそう言ってくれたことが大きな成長に感じる。

 

それは、弱々しい自分を受け入れたはずの彼がその自分を初めて否定したということに他ならず。今のままではダメだと、変わろうとして必死に足掻いている証拠。

 

そんな様を見せられれば、彼の今までを近くで見守ってきたラムは口元が勝手に綻んでしまう。緩んで、弱くも足掻く姿に喜びを感じてしまう。

 

自分はどうして、こんなにも口元が緩くなってしまったのだろうか。きっと、仲良くなりすぎたせいだ。テン然り、ハヤト然り。

 

特別、異性として好きでもないにも関わらず、それと同等の信頼を寄せ。この人の隣にいれば大丈夫という、根拠のない信頼を押し付け。自分という存在を遠慮なく表に出せる。

 

そんな存在が常に隣にいるせいで、意図していない口元の緩みが偶に歯止めを失う。色々とあって精神が揺れていることも理由の一つとしてあるだろうが、最たる理由はそれだろう。

 

 

 あぁ情けない。こんな顔、絶対に見せてやるものか。自分という人間のために。

 

 

「話が脱線したから戻すけど」

 

「脱線と。俺の決意をラムは脱線と言いますか。はい……どうぞ……好きに戻してください」

 

 

通算するのも面倒な何度目かの笑みをさっと引き締めると、ラムは澄まし顔で淡々と話を戻す。

 

己の決意表明を『脱線』という表現で片付けられれば、テンはその表情に気付くことはない。彼は今も尚、項垂れている真っ最中。自分の決意が軽く受け流されたと思っている。

 

そうなれば、ラムの心だけが知っている笑みは、正しくラムだけの笑みとなった。

 

その笑みが彼女に宿ることは、恐らく当分ない。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「それで、ゲートのことだけど」

 

「うん。最低でも一ヶ月は魔法の使用禁止。んで、完治までの見通しはついてない、って話ね」

 

「そのことで一つ提案があるわ」

 

 

「ていあん?」と聞き返してきたテンがふと思い、ケトルの中を確認。いい具合に仕上がったなと嗅覚を撫でた甘い香りで判断した彼がラムの分から紅茶を注ぎながら「提案とは?」と聞き返せば、

 

 

「そのゲートを完全に治すことができる人間に力を借りる。そうすれば、今の状態が長期化せずに済むわ」

 

「そんな人が……」

 

 

いるの? そう聞こうとしたテンの口が止まる。

 

紅茶を注いだティーカップをラムに差し出す彼は「ゲートを治す」という発言を頭の中で何度か反復し、思い当たる人物が一人だけ候補として挙がっていた。

 

脳裏に過るのは「にゃはっ」と笑うネコミミ少女——少年。女性的な声帯と体型だが、性別は完全に男性と。見る人によっては性癖にクリティカルヒットする風貌の人物。

 

それは、原作でも主要人物として活躍した王国最高峰の治癒術師。魂が抜けていなければ瀕死の人間だって蘇生してしまうという、破格の力を持った治癒術師。

 

 それは——、

 

 

「『青』の称号。フェリックス・アーガイル。ルグニカを代表するちゆじゅちゅち」

 

「盛大に噛んだわね。なに、ちゆじゅちゅちって? 教えなさい」

 

「うるさい。さっきの余韻がまだ抜け切ってないんだ」

 

 

思考に意識を回しすぎたか、口元が厳かになったテンの滑舌が一瞬だけ崩壊。それを見逃さぬラムの瞳の奥が鋭く光るとすかさず煽る。対するテンは軽く受け流し、自分の分の紅茶を注いだ。

 

お茶を濁すテンは取り敢えず注いだ紅茶を一口、未だ熱湯という事実を忘れていたために舌を火傷。「あつッ」と体を跳ねさせて、終いにはむせて咳き込む始末。

 

噛んだことを濁すはずが悪化させたテンを前に、ラムは整った動きで一口。こちらは目の前の男とは反対に優雅な姿で乾いた喉を甘みで潤し、落ち着いた様子で吐息。

 

一口目の様子が違いすぎる二人。胸を何度も叩くテンにラムは嘲笑するような笑み。嘲笑するようなラムにテンは苦虫を噛み潰したような苦笑。

 

 

「流石のテンテンもフェリックス・アーガイルのことは知ってたか。知らなかったら笑ってやろうと思っていたのだけれど。期待外れね」

 

「期待する方向に私利私欲しかないんだよ。……それくらいは知ってます。『青』と『最優』と『剣聖』。ルグニカでは知ってて当たり前の名前だよね」

 

 

何事もなかったかように会話を再開。ラムの煽りを回避したところでテンは再び紅茶に手をつける。一度目では全く潤せなかった喉を潤すと、彼は「ほぅ」と一息ついた。

 

『青』フェリックス・アーガイル。

『最優』の騎士ユリウス・ユークリウス。

『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレア。

 

この名前を知らぬ者はルグニカにはいない。

 

それぞれが常人には持たぬ加護を保有し、尚且つそれに胡座をかくことなく絶え間ない努力を重ねた結果として名を馳せた者達。一名は公式公認のチートのため、本当にそうかは定かではないが。

 

一人は、先も説明したフェリックス・アーガイル。彼の手にかかれば大抵の病や傷は癒せてしまう凄腕の治癒術師。彼ならばゲートの歪みも、どうにかなってしまうのだろう。

 

一人は、二番目に挙げたユリウス・ユークリウス。六属性の準精霊と契約し、虹の輝きを剣に宿しながら戦う姿が印象に残っている、近衛騎士団の序列三位。

 

一人は、最後に挙げたラインハルト・ヴァン・アストレア。この男はチート、以上だ。これ以上に適切な表現などない。

 

今回はその中の一人、フェリックス・アーガイルに焦点が当てられたようで。

 

 話の流れから察するに、

 

 

「その人にゲートを治してもらうように頼む、ということ?」

 

「大方、そんなところよ」

 

 

理解力の早いテンが『青』と『ゲート』という単語から連想した予想にラムは頷く。やはり彼は話が早くて助かると内心思うが、そんな胸の内など知らぬ存ぜぬテン。

 

「フェリックス・アーガイルねぇ……」と感慨深そうに喉を低く唸らせる彼は、数秒間の沈黙の末「ん?」と声に疑問符を持たせると、

 

 

「でも、そんな人に頼むんだからそれなりの対価は支払うことになるんじゃないの? ほら、質の高い治癒を受けるんだからさ。その辺はよく分からんけど」

 

「分からない割には鋭い指摘ね。……えぇ、もちろん。王国最高峰の治癒術師に治療を申し出るのだから、こちらの要望を受理させるためには相応の対価は必要になる。当たり前の話でしょう」

 

 

とんとん拍子で軽快に話を進めていくことで得られた情報にテンは再び喉を低く唸らせる。今度の唸りは葛藤を含んだ唸りだ。

 

流石に無償で治してくれる、なんてことはなかった。そもそも彼の助けを望む人間は自分以外にも数多といるはずで、そんな人たちを押し退けて治療をお願いするのだから当然の話か。

 

ならばと、テンは自分の事と支払う対価を天秤にかける。机に両肘を立てて手を組み、組んだ手の上に顎を乗せる彼は、自分の事を取るかエミリア陣営の事を取るか頭の中で二秒ほど会議。

 

 結果、

 

 

「ならいいよ。俺なんかの……俺のためにエミリア陣営にとって不利益になるような真似はしなくていい」

 

 

満場一致でエミリア陣営の事を取った。

 

僅か二秒という前代未聞の会議時間。その内容は「エミリアに迷惑をかけたいかーー!」という議題に対して全員が「無理です!」と片手を聳え立たせるというもの。

 

一瞬の決着。話し合うまでもない彼は「やっぱりそうきた……」と自分に予期していたような声で呟いたラムに「だって」と言葉を繋げ続けた。

 

 

「フェリックス・アーガイルってカルステン公爵家の人間でしょ? なら、対価だって並大抵のモンじゃないはず。金銭的に解決できるとは思えないし、仮にそうだとしても申し訳ないよ」

 

 

必要なものは情報か、武力か、権利か。何にしても一度でも支払えば取り返しのつかないことくらいテンにだって分かる。

 

 

「付け加えると、あそこってエミリアと同じ王選候補者がいる……はずだよね? クルシュ・カルステンっつー名前の。なら、ここで俺なん……俺のために向こうを頼ったら借りを作るような気がする」

 

 

王選候補者の名前が実際に公表されたわけではないが、既に囁かれていること。出所の不明な噂でクルシュ・カルステン公爵が次代の王候補を挙げたとき、筆頭だとかなんとか。

 

王選候補者の情報は、他の王選候補者とそれに関係する人間にしか伝わらないはずなのだが。誰かが漏らしたらしい。あくまで噂程度で王都に流布されていたと聞いたことがある。

 

そんな人の側近とも言える人物を頼るのだから、テンがそのように考えるのも必然で。

 

 

「実際にエミリアがクルシュ・カルステンを頼るわけじゃないけど。それに近い人を頼るなら当然、絡んでくるはず。要は、間接的に、って話になるけどさ。頼ると言えなくもないのではと」

 

 

予想に予想が重なるテンは口が回る回る。いつも以上に冴える頭が先の先まで物事を進ませる。

 

それが正しいかどうかはさておき、自分の中で出した考えを淡々とした口調で語る彼は真剣に聞いてくるラムに鬱屈そうにため息を一つ。

 

 

「そうじゃなくても、向こう側がどんな要求をしてくるか分かったもんじゃない。こちら側が王選候補者っつーことをいいことにエミリアが不利になるような要求を対価としてくるかも」

 

 

可愛げな態度を表に出しながらも、割とエグい事を言ってくるのがテンの知っているフェリックス・アーガイルという男。

 

彼ならばクルシュ陣営が有利に立てるような要件を出す可能性も、はたまたエミリア陣営が不利になるようか要件を出す可能性もあるのだ。

 

可能性などいくらでも予想できる。

 

もし、それでエミリアに不都合があるなら。

もし、それがエミリアを不利に立たせてしまうなら。

 

 

「俺のせいでエミリアが王選に不利になるようなことがあるなら、それは要らない。ゲートなんてそのうち回復するから、そんなの支払う必要なんてない」

 

 

そんなことしてもらうほど自分自身に価値があるとはテンには到底思えない。

 

エミリア陣営にとって重要な何かを差し出すなら、そんな大袈裟なことはしなくてもいい。

 

 

「という理由から。王選候補者が他の王選候補者の人間、或いはその付近にいる人間を頼るのはなんとなく良くない気がしました、まる」

 

 

最後の最後に曖昧な言葉を付け、テンは長く話した言葉を閉じる。喉の渇きを感じた彼は手元の紅茶を空気と一緒に飲み、饒舌になりかけた滑舌を宥めた。

 

口を閉じるテンはラムを見る。全てが予想のために全く見当違いかもしれないと思うことがないわけではないが、即座に反論を挟まないラムを見るとそうでもないらしい。

 

言葉を畳み掛けられたラムは澄まし顔は崩さぬまま。けれどもティーカップの持ち手を握る細い指にほんの少しの力を込めて、

 

 

「それでも、ラム達がテンテンのために対価を支払いたいと言ったら?」

 

 

長い語りを越えて返されたのは肯定。『それでも』と言うあたり、自分の予想が強ち間違えでもないことを裏付けていた。

 

それを遠回しに言われたテンは、向けられた瞳に対して即座に言葉を返すことはできなかった。頭の中で完成しているはずの言葉は、しかし簡単には紡がれない。

 

真摯に見つめてくる瞳が嘘を言っている瞳ではなかったからだ。本気の本気でラムはそう言っている。不利益を被るような要求を対価として差し出すことになってもいいと、揺らぎのない覚悟がそこにはある。

 

ラム達——その中にはレムやロズワールやエミリアのことも含まれているのだろう。全員が、自分のために対価を支払ってもいいと言っているように聞こえた。否、言っている。

 

 

「……俺のために?」

「それ以外にあると思う?」

 

 

確認を兼ねた問いかけに即答されれば、テンは頭の中で用意した拒否の言葉を口にすることが困難になった。

 

誤算だ。どうやらラム達にとってソラノ・テンという存在は思いのほか大きかったようで、重要な対価とテンを天秤にかけた時、重いのはテンの方だった。

 

当の本人としては対価の方が断然重い。命に関わることでもないなら、そんなものを支払ってまで治してもらう必要はない。

 

勿論、ラムもテンの意思は理解しているだろう。現に今、彼女は不満そうな表情をしている。側から見れば澄まし顔に見えるだろうが、今のテンには感覚的に分かる——あれは、不満そうにしている。

 

物言いたげな口元が開くと、出かけた不満を押し流すような紅茶の投入。己の茶を濁したところでラムはテンの目をキッと睨んだ。

 

 

「何でそんな睨むのさ。治療を受けるのは俺自身だから、最終的な決定権は俺にあると思うのですが」

 

「確かにそうかもしれない。けど、ラムはラム達の好意を蹴ることが好ましくないのよ。テンテンの懸念は承知の上、それでも支払いたい。これはラムを含めた全員の意見よ」

 

 

「尤も」と、ラムは人差し指でテンのことを指差しながら、

 

 

「ロズワール様はテンテン次第だと仰っていたわ。テンテンなら拒否してきそうだから、当人不在の中で勝手に決めるのは英断ではないと」

 

「ほーん。だから俺が目覚めるまで保留にしてたわけか」

 

「決めてもよかったけど。それだと小言を言われそうで面倒だったから。テンテンの性格的にも、どうせ言ってくるでしょ。どうせ」

 

「うん。言うね。ぐちぐち言うよ。どうせ。俺はそーゆー人間だから。知ってるでしょ?」

 

「知ってる」

 

 

差した指を下ろしながらラムは改めてテンという男の性格を再認識。その面倒さにため息が出た。

 

取り敢えず自分のことよりも大事な人を優先する彼は、自分に対しての扱いが雑で、その優先度も低く。自分のために何かをしてもらった際に感謝ではなく申し訳なさが真っ先に出てくるような男。

 

そんな男が自分のために対価が支払われるとなったとき、否定的な態度をするのは明白。仮に本人に内緒で話を進めていた場合、数日間は引きずりそうな予感がする。

 

ラム達としては、危機的状況を脱するために死力を尽くしてくれた彼に少しくらい恩返しをしたいのだが。

 

 テンとしては、

 

 

「そーゆーことで、丁重にお断りさせていただきます。何度も言うけど……俺のために対価を出す必要なんてない。損傷してない限りは、放っておけば治るもんなんでしょ? なら別にいいじゃない」

 

「でもそれは、一時的なものだとしてもテンテンが騎士として戦う術を失う事と同義。以前のように戦うことが困難になるけど。それでも?」

 

「勿論、それは困るよ。いいわけない。でも、それ以上に対価を支払わせる事が嫌だってこと」

 

 

頑なに意見を変えない二人の衝突。机を挟んだ両者が己の意思を真っ向からぶつけ合う。交差した視線の間で火花がジリジリと散り、どちらかが引くまで音が止むことはない。

 

対価を支払いたいラム達と、対価を支払わせたくないテンの、絶対に終結しない口論。両者ともに相手の意思を尊重しつつも、しかし己の意思だけは絶対に曲げず。

 

そして始まるのは無言の言い合い。目で物を語る両者が見つめ合いのままシームレスで攻防戦に移ると、視線を逸らした方が負けを認めることになる戦いに挑んだ。

 

言いたいことは言った。受け止めることは受け止めた。その上で自分の意思を貫く。普段は自分の意思を強く突き通そうとしないテンも今回ばかりは譲る気配が一切無い。

 

 と、

 

 

「……分かった。なら、今はまだ保留にしてあげる。全員が揃った場でもう一度意見を聞かせてもらうから。そのつもりで」

 

「意見を変えるつもりはないよ」

 

「だとしてもラム以外の意見を聞けば、なにか変わるものもあるでしょうし。ラムの一存で全てを決定する権利があるわけでもないし。この場で結論を出すのは軽率にも程がある」

 

 

 パン、と。

 

手を軽く叩いたラムが無限に続きそうな口論を無理やり終わらせる。こんなことで時間を取ってる場合ではないと自分の中で結論付けた彼女はそう言って、場の空気を切り替えさせた。

 

乾いた音が響くと二人の間で散っていた火花が消失。意味するのは無言の攻防戦が一時的な休戦状態に突入した事。

 

あのままでは夜が明けるまで続くのではとさえ考えさせられたが、今回はラムが終わらせた。尤も、根本的な解決にはなっていないため時間を置いたら再開することになるだろうが。

 

今は一旦、頭の片隅に追いやったテン。彼女が切り替えたのなら彼はそれに乗じる。それに、本題はまだ他にも残っているのだから。一つのことに集中していては切りがない。

 

ラムも同じことを考えたのだろう。「ゲートの話はここまで。次よ」と話を早々に進める————、

 

 

「そういえばさ」

 

 

 ふと、唐突に、思った。

 

ゲートの事を引きずらないためにラムが足速に前に進もうとし、その背中を追いかけようとする中。なんの予兆もなく思ったことがあった。

 

前だけに進む話の真横に脇道が生まれ、吸い込まれるテンはラムとは別ルートの話に考えが持っていかれる。一度でも持っていかれれば、戻れなくなった。

 

またしても脇道に話が逸れ、ラムが「今度はなに?」と半分呆れ気味に問いかければ、

 

 

「王選って今から何ヶ月後に始まるの?」

 

 

脈絡がないとは言い切れない疑問をラムは問いかけられた。

 

どうして今なのか。差し詰め、王選候補者から連想したのだろうとラムは考えるが。相変わらず思考回路が読めない人間の発言には困惑させられてしまう。

 

が、それは見当違いだ。テンがこの問いかけをするきっかけなったのは王選候補者繋がりではなく、全く別の話しから。

 

 それは、

 

 

 ーー原作って、いつ始まるんだ?

 

 

とてつもなく素朴な疑問。

 

屋敷に来た頃は常に意識していたが時間が経つにつれて忘れてしまっていた、決して忘れてはいけないこと。激動の日々を過ごしているうちに、忘れかけていたこと。

 

どうして今、過ったのかは自分も分からない。本当に不意に思ったのだ。思って、その見当をつけなければと意味不明な衝動に駆られて、その糸口に繋がる『王選の開始日』を問いかけた。

 

王選開始は原作主人公(ナツキ・スバル)が屋敷に来てから約一ヶ月後。逆を言えば、王選開始から約一ヶ月前には既に彼は屋敷にいることになる。

 

つまり、ラムの答え方次第では原作開始日の見当がつくということで、

 

 

「今がミラクスの月、八日だから……。王選開始は、今から大体二ヶ月と半月かしら。時間の流れは早いものね」

 

「ってことは、王選開始は今から約二ヶ月後になる?」

 

「どうして半月削ったのかは知らないけど。まぁ、そうなるわ」

 

 

そこまで聞いてテンは頭の中を整理。必要な情報のみに絞った問答を得て、彼は来る原作開始日の大凡の見当をつけ始めた。

 

まず、王選開始が今から約二ヶ月後。そして、原作主人公が屋敷に来るのは王選開始より約一ヶ月前。更に、現在の日付は八日と割と月初め。

 

仮に、現在の月を『一月』として約二ヶ月後となると『三月』に王選が始まる。そして、その一ヶ月前に原作主人公が来るということはつまり『二月』に原作が開始することになる。

 

これらの情報を総合すると、

 

 

 ーー来月には原作に入るのでは?

 

 

恐ろしい事実が発覚した。あくまで推測だが、来月中には原作が開始してしまう。原作主人公がこの世界にぶち込まれて、あの地獄が幕を開けることになる。

 

と、ここでテンは新たな問題に気付いた。気付いたというよりも、自覚したの方が正しい。

 

仮に。来月中に原作が始まるとした場合、

 

 

 ーー俺、戦力外じゃね?

 

 

現在の自分——ゲートの歪みがあるお陰でまともに魔法を扱うことができず。加えて、数分歩いただけで息切れする程に脆弱な状態。たったこれだけの情報から戦闘ができないことは明らかで。

 

そんな人間が原作の展開に追いつけるかと聞かれれば、間違えなく無理だとテンは答える。一章の時点で完全に戦力外だ。腸狩りと戦おうものなら瞬殺される。

 

さてこの現状。どうしたものか。

 

腕を組み、「んーー」と悩ましそうに目を瞑るテンはラムが「話し進めたいんだけど」と苛立ち気味に言葉をかけてくるのをガン無視。

 

頭の中で色々と考えに考え。すぅ、と息を吸い。様々な思いを胸の中でぐるぐるさせながら、

 

 

「まいっか」

 

 

と、清々しい表情で思考を放棄。もう、考えるのも面倒になった彼は紅茶をグイッと飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話を進めてもいいかしら。いい加減にしてほしいんだけど」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「次、脇道に逸れるようなことがあったらその口を物理的に塞ぐから。肝に銘じておきなさい」

 

「はい。以後、気をつけます。ので、ケトルを持ちながら近づいて来ないでください」

 








テンが「ちゆじゅちゅち」と言う流れとか、その後の流れとか。この流れいるか? みたいな描写がありますが、自分でもなんで入れたのかよく分かりません。

書いてる内に話が脇道に逸れる現象……、これって私だけなんでしょうか。



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