親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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今回は切りが悪かったのでいつもより少なめ。次回からが本番って感じです。






この悲劇に終止符を

 

 

 

 

「ラムの妹のこと、よろしくね。テンテンの声なら、きっと届くとラムも信じてるから」

 

「届かせてみせるよ。レムのためにも」

 

「じゃあ、ラムは寝るわ。後のことは任せるから。……任せるから」

 

「二回も言わなくていいよ。言ったでしょ。期待には必ず応える、って」

 

 

 

「おやすみ、テンテン」

「おやすみ、ラム。起こしてごめんね」

「全くだわ。ラムの貴重な睡眠を阻害して。景気付けに一撃、殴ってから寝ようかしら」

「待って待って待って」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 ーーこの扉を開くのは、これで二度目か

 

 

徐々に遠くなっていくラムの背中を横目にしつつ、テンはそんなことを考える。少し歩いただけで荒っぽくなる呼吸を整えながら、真面目な顔持ちで、記憶を回想する。

 

思えば、彼女の部屋に入るのもこれで二度目だ。いつもは彼女が自分の部屋に突撃してくるのが定型だったからその機会も極端に少なく、入ることの方が珍しいと言える。

 

初めに開けたのは確か、『一生の贈り物』を渡したときだったか。あの時は今ほど()()()もいなかったから流石に緊張したとテンは振り返る。

 

ノックすることすら躊躇していたくらいだ、開けることなんてできるわけがない。今思うと、よく扉の取っ手を捻れたなと過去の自分を褒めてやりたい。ぎこちなくでも、笑みを作れた自分を讃えたい。

 

 

 ーーレムはずっと、笑ってたっけ

 

 

あの時のレムは終始ニコニコしていた。肩と肩が触れてしまいそうな距離感を保ちながら、幸せそうに、楽しそうに、彼女はずっとずっと笑顔だった。

 

その笑顔の意味を知れたなら、理解してあげられたなら、あの時に言えたこともあったろうに。それ以前に、ハートの首飾りを付けられた時点で色々と察するべきだった。

 

 

 ーー付けられた時に、抱きつかれたもんな。好きでもない男に抱きつくわけねぇよな

 

 

首飾りを付けられた瞬間、テンはレムに抱きつかれたことを覚えている。ただ、あの時は処理が追いつかなかったから処理落ちし、反応できなかっただけで。覚えてるには覚えている。

 

一体、想いを寄せていない男に抱きつく女があるか。

 

幼馴染という分類に属する男女関係でその絵面を見かけるが、テンとレムの関係は幼馴染でもなんでもない。

 

稀に、妹が兄貴に抱きつく光景もあるが、あくまで二次元の話。実際の妹は甘くない。「お兄ちゃんお兄ちゃん」と可愛げに近寄ってくる妹など、そう簡単には存在しないのだ。

 

ともかく。テンとレムは幼馴染でも兄妹でもない。正真正銘の異性としてお互いを認識している男女関係。「好き」という感情が芽生えてもなんらおかしくない関係。

 

そんな風に捉えている男にレムは抱きついた。肉体的な接触を試みた。これを好きであると言わずしてなんと言う。そうでなくとも気はあると言えるはずだ。

 

なんで分かってあげられなかった。なんで察してあげられなかった。

 

自己中心的な考えがあったからだ。芽生えかける自分の気持ちを抑えるので精一杯だったからだ。

 

 

 ーーほんとにお前って奴は

 

 

どうしようもない男だな。その罵声を心の中で言いかけ、テンはそれを止める。強く握りしめた拳が途端に熱を帯びていった。

 

もう、後ろを振り返ることはしない。今は前を向くべきだ。前を向いて、これからのことだけに魂を燃やすべきだ。後ろを向いている暇があるなら。そんな余裕があるなら。

 

 

 ーー変わったんだろ。変わるんだろ。情けない自分は卒業するんだろ

 

 

もう二度と、自分の弱さが理由で誰にも迷惑をかけたくないから。今まで——屋敷に来てから今の今まで、ずっと迷惑をかけてきたから。支えられ過ぎてきたから。

 

精神的な弱さで迷惑しかかけてこなかったテンがそれを思うと、他とは重みが違いすぎた。屋敷のほぼ全員に一度は心を支えられたテンがそれを決意することには、大きな意味がある。

 

 だからテンは、ここに来た。

 レムを——初めて本気で好きになった人を、優しく包み込むために。

 

 

 ——広い廊下のど真ん中で一人、彼は屋敷に何十とある扉のうちの一つ。その扉の前に立っていた。

 

 

勿論、レムの部屋に繋がる扉の前だ。この状況で自室に帰るなどと馬鹿な行為をテンがするはずもなく、ラムとの会話を終えた彼は紅茶とふかし芋を片付けてやってきた。

 

ならば今すぐにでも部屋に入るべきだよなと、テンは思うが、生憎と入れない理由がある。先程、物思いに耽っていたのはそれを誤魔化すための時間稼ぎ。

 

どうしてすぐに入らないのか。別に今更、緊張する心などない。そんなものラムの言葉で溶かされた。

 

正直なところ、既に心にあった縛りは自分の中から完全に消えつつある。この世界に来てから何度となく過ぎってきた『原作の通りにーー』という呪いのような言葉は、取り除かれつつある。

 

だって、分かったから。

 

今、自分が生きている世界は人の手によって創り出されたアニメの世界なんかじゃないと。設定なんて言葉で飾られた人間は、この世界には誰一人としていないと。

 

確かに、土台はそうかもしれない。それが基となってこの世界は存在しているのかもしれない。それが無ければ、この世界は成り立たなかったのかもしれない。

 

けれど、そうであると断言するにしては、この世界の人たちは人間味がありすぎている。普通の人——自分が故郷で接してきた人とこの世界の人は、なんら変わりないのだ。

 

嬉しいことがあれば頬を緩ませ。苛立つことがあれば怒鳴り。悲しいことがあれば涙を流し。楽しいことがあれば笑みを浮かべる。

 

くだらない話をして思いっきり盛り上がることもあれば。神妙な話をしてとことん真剣に話し合うこともある。気持ちをぶつけて怒鳴り合ったことだってあった。

 

心が揺さぶられる出来事があれば性格に変化が生じることだって。ありえない、そんなこと言うはずがないと思っていたことが容易く覆されて。

 

ここの人たちは原作と全く違う姿を見せて、設定された性格をよく知るテンからすれば驚かされることばかりだ。

 

それらを肌で感じ、テンは思ったのだ。

 

 

 ーー原作とか、もうどうでもよくね?

 

 ーー単に、俺が神経質になって気にしすぎていただけなのでは?

 

 

例え、人の手によって創り出された存在だとしても、ここの世界で息をする人たちには心があって。それは時間と共に全く別の方向へと変化することだってありえるのだと。

 

そして、テンはその、全く別の方向へと変化した人を知っている。今まさに、その代表的な人物が目の前の部屋で寝ている。苦しんでいる。寂しがっている。

 

だから、テンは思うのだ。

 

 

 ーーつまり俺って、超すごいバカ?

 

 ーー別に、気にしなくてもいいことを壮大に気にしている。側から見れば、くだらないことで悩んでるアホ?

 

 

原作(運命)なんて言葉など捨ててしまえと。大して気にすることでもないことを気にして、先のことばかり考えてなんになる。考えたところで意味なんてない。

 

だって、自分達が生きている世界は一つの世界として存在しているのだから。

 

《Re:ゼロから始める異世界生活》という一つの物語の舞台として存在しているのではなく、自分達の物語の舞台として存在しているのだから。

 

なら、自由にやるのがいい。だって、この物語は自分達のものだから。自分達の手で、原作とは違う道を、違う筋書きで、違う未来を歩んでいく。

 

自分とレムの関係を、原作(運命)なんて言葉に邪魔されてたまるか——そう思えた途端、何か、自分の中にあった固定概念が破壊されていく音がした。

 

その音が完全に鳴り止んだ時、自分は縛りから抜け出せるのだろうか。そうであってほしいものだ。

 

 

「……さて」

 

 

そういうわけで。今のテンは精神的な余裕がいつも以上にあり、レムと向き合う準備は整いに整っている。いつでも、彼女の心と真正面からぶつかることができる状態だ。

 

故に、理由は他にある。それは、

 

 

 ーー早く治んねーかなぁ。この呼吸

 

 

貧血による症状。少し歩いただけでも呼吸困難に陥ったとすら錯覚する荒ぶりし息。今、テンが部屋の前で立ち止まっている理由はそこにある。

 

因みに、貧血だと分かったのはラムに言われたから。レムの部屋に行く過程で自分の貧弱さを知った彼女にそう言われた。流れた血の量が多すぎるからテンテンは貧弱だと。

 

 

 ーー流石に、キツい

 

 

レムの部屋は三階、そして厨房は一階と、病み上がりにはハードすぎる道のりを歩き切った結果としてテンの呼吸は乱れた。幼少期に喘息を経験した記憶が過ぎったのは、それと同等の辛さだと本能が理解したのだろう。

 

そんな状態でレムの部屋に行くわけにもいかず。今、テンは壁に寄りかかっている。呼吸が落ち着くまで深呼吸を何度も繰り返している。

 

 

 ーーもう朝か

 

 

息が整うまでの間、特にすることもないテン。ふと窓の外を見ると、世界には夜が明ける気配が訪れていた。

 

太陽が顔を見せ始めた時のような暗がりに包まれながらも、差しつつある光の筋に世界に満ちた闇が晴らされていく。吸い込まれてしまいそうな空の闇に、僅かながらに青みがかかる——夜明け前だ。

 

ラムと話した時間が長かったのか、或いは自分の起きた時間が早朝に近い夜中だったのか。なんにしろ、ラムの寝坊ルートは確定した。

 

 

「……よし。いける」

 

 

ラムの寝坊をなんて弁護しようかと呑気に考えていたところで、テンは己の呼吸が正常な音を立て始めたのを感じた。ヒューヒューと鳴っていた喉は形を潜め、心臓の鼓動はうるさくない。

 

ならば行こう、今すぐ行こう。覚悟などとうに整っている。今になって物怖じする心はない。その自分はもういない。

 

言い聞かせるテンの行動はスムーズだ。気迷いという言葉がない彼は浅く息を吐くと、初めてレムの扉を開けた時とは比べものにもならない早さで取っ手に手をかけ、

 

 

「いいか、ソラノ・テン。あとはお前次第だ。お前の働き次第で、レムの運命が決まる。気張れよ。ラムの信用に全霊で応えてみせろよ」

 

 

部屋に入る前の最終確認。心にその言葉を強く深く刻む。何度も刻んできたことを、最後の最後で口に出して絶対的なものにした。

 

今から自分は、レムを絶望の底から引っ張り上げる。なんとしてでも。なにがなんでも。是が非でも。

 

姉であるラムに託されたのだ。やるしかないだろう。間接的に「妹のことをよろしく」と伝えられたのだ。レムを助け出す以外の結果など許されない。

 

さぁ、ここからが、ソラノ・テンにとっての正念場。

 

異世界に来て何度となく潜り抜けてきた正念場の中で最も『正念場』と言える場面に、テンは気を引き締める。

 

レムを助けるためにどんな言葉をかけよう。どんな気持ちをぶつけよう。どんな考えを投げかけよう。

 

否、考えるだけ無駄だ。レムを助けるために魂を燃やせばいいと言ったはず。それなら、感情のままに言葉を発するのがいい。

 

一筋縄にはいかないことは分かっているけど、自分の本心なら、きっとレムには届いてくれるとテンは信じているから。

 

ありきたりな理由で、ありがちな感情論(綺麗事)だけど。それがなによりも力を宿していると、テンは信じているから。

 

 迷い、戸惑うことなどない。

 

 

「絶対に助け出す。それでハッピーエンドだ」

 

 

 取っ手を捻り、テンは扉を開けた。

 

 今、ゆっくりと彼は、レムの世界に入っていく。

 

 

 ——この悲劇に、終止符を打つために。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 ぼふっ、と。

 

とある空間にふわりとした音が弱く反響する。それは何かが何かを、或いは、誰かが誰かを、優しく受け止めた時に生じる音だ。

 

細かく表現するならば、柔らかな素材が物体を受け止めた音。場合によっては包み込む音と言い表してもいいそれ。優しく、抱き止めるように。

 

更に細かく表現するならば、

 

 

「……ふう」

 

 

自室に戻ったラムが、寝台に倒れ込んだ音。レムの部屋に向かったテンを見届けたラムが、やることを終えて眠りつくために布団に身を投げ出した音。

 

しばらくして寝台の上で衣擦れ音が聞こえてきたのは、彼女が睡魔を促進させるための温もりを求めて布団の中に潜り込んだからだ。枕に後頭部を預け、ひんやりとした空気から避難。

 

途端から、自分の内側に引っ込んでいた疲労感が外側へと浮かび上がる気配にラムは疲労の吐息。やはり、こうして柔らかな布団の中に潜り込んでぬくぬくするとどうしても気が緩んでしまう。

 

 

「……静かね」

 

 

そうして疲労の余韻に浸り、自分が静寂の中に溶け込むとラムの部屋(世界)は一瞬にして眠りにつく。

 

まるで、世界に帰ってきたラムに「なんぞや?」飛び起きたものの「何でもないか、ならいいや」と二度寝へと突入するような静まり方。

 

困る話だ。こちらはテンと話し続けたせいで目が覚めてしまったというのに。

 

完全なる睡眠を好むラム。部屋のカーテンを完全に閉め切って寝る派である事が今回は裏目に出た。質の良い素材で作られたカーテンは夜明け前の僅かな光ならば簡単に遮断してしまう。

 

故に、真っ暗。故に、静寂。

 

 

「ーーーー」

 

 

静かで邪魔の入らない、自分だけの真っ暗な世界の中で一人、ラムは目を瞑る。寝れる気はしないが、瞑っていればそのうち睡魔も湧き出てくるだろう。それまでの辛抱だ。

 

しかし、そうして静寂の中で瞑目していると、この暗闇も相まって色々と物思いに耽ってしまうのが人間という生き物。

 

暗闇と静寂は、人間に等しく考える時間を強要する。考えたいこと、考えたくないこと、別に考えなくてもいいこと、考えなきゃいけないこと。それら全てを心に呼び起こす。

 

それは、ラムも例外ではない。色々とあった時間を越えてきたならば尚更。

 

彼女は色々と考えてしまうのだ。

 

 

 ーーそれにしても、まさかテンテンとレムが恋人関係になるなんてね

 

 

初めて出会った時は想像もしなかった。否、想像という次元の話ではない。ありえない事として頭の中にそんな考えなど一欠片もなかった。レムが誰かに惚れて、恋をするなんてことも。

 

だって、テンはハヤトと共に主人に森で拾われてきた人間。「拾われてきた人間」という衝撃的すぎる言葉が通用する常識外れすぎる男。そんな男にレムが惚れるとは、あの時は姉として複雑な気持ちだった。

 

ラムから見たソラノ・テンの第一印象は、『よく分からない男』というもの。何を考えているのか無理解で、考えてるのかすら無理解で、自分の理解を超えた行動をする意味不明な男。

 

そこから少しずつ彼のことを知っていくうちに、次第に印象は『鈍感で自己肯定感皆無のハヤトの真反対な男』というものに変わった。

 

自信なさげで、弱々しくて、覚悟を決めても決めきれない、男として未完成すぎる男。そこに鈍感という追加要素が加われば、ラムがレムの恋心に複雑な気持ちを抱くのも必然だった。

 

だから王都でレムからテンのことが好きだと伝えられた瞬間。頬を赤く染めながら「レムは、テンくんが大好きなんです」と言われたとき、自分の妹は何を言っているのかと本気で思った。

 

決して、その時の自分はテンに信頼を寄せていなかったわけではない。別に、彼が嫌いだからそう思ったわけではない。今ほどではないにしろ、その時点でもある程度の信頼関係は築けていた。

 

だが、それが自分の可愛い妹の恋人として相応しい事には繋がらない。できることなら、もっとマシな男にしてほしいとその時の自分は心底思っていた。もしかしたら、願っていたのかもしれない。

 

 でも、今は違う。

 

 

 ーーあの時のラムに今の光景を見せたら、どんな顔をするのかしらね

 

 

少しだけ、見せてやりたい気持ちがないわけでもない。テンと出会ったばかりの頃の自分、レムの恋心が発覚した頃の自分、相応しくないと思っていた頃の自分——今に至るまでの自分。

 

その自分に今の景色を見せてやりたい。驚くに決まっている。自分自身ですら未だに驚いているのだから。

 

満面を笑みを見せるに値すると思うことが。全幅の信頼を無意識のうちに寄せていたことが。妹のこと任せられると思うことが。

 

全てがあの頃の自分からすれば驚愕の事実。今のテンを知らなければ信じてくれないかもしれない。否、信じてくれないだろう。

 

けど、これらは全て紛れもない事実だ。

 

ソラノ・テンという人間は変わった。完全に変われたわけではないだろうけれど、変わる決意をした。今までの弱々しくて情けない自分を否定して、レムの想いを受け止めると語った。

 

その時点で、前とは明らかに違う。自分自身を見つめ直した彼は、ラムが全幅の信頼を寄せてもいいと思えるほどに前に進んでいる。

 

きっと、そこに至るまでの過程で彼なりに様々な葛藤があったのだとラムは思う。根拠はないが、あの表情を見てしまったラムにはそう思えて仕方ない。

 

ラムにはラムの苦悩があったように、テンにもテンの苦悩があって。その中の一つがテンも話していた『縛り』。

 

自分の想いとレムの想いの二つに挟まれて。間で四苦八苦しているうちに抜け出せなくなって。次第に本人しか理解できない縛りに囚われて。彼はどうするべきなのか迷った。

 

そうして想いに迷いが生じ、好きになられた事と素直に向き合うことができなかった——さっきまでは。

 

 

 ーーテンテンなら、もう大丈夫。ラムはそう信じてる

 

 

もう、レムに相応しくないと思っているソラノ・テンはどこにもいない。血の夜、何度覚悟を決めても弱々しかったソラノ・テンはどこにもいない。

 

何度だって言おう。ラムは、ソラノ・テンを、信じていると。

 

本当の意味で変わることを、自分に固く誓ってきたテンを心から信頼していると言ってやろう。本人にはもう言ってやらない。恥ずかしいから。

 

だってテンは、それに至らせるほどの姿を自分に見せてくれた。整った覚悟を、決意を、誓いを、変わるという意志を。

 

あのテンが。自分の主人(ロズワール様)にすらハヤトの真反対として認識されているテンが、その姿を見せてくれた。

 

他者からすれば信用するには不十分。しかし、テンのことをよく知るラムにとっては十分すぎる。

 

 

 ーーあの弱々しかったテンテンが、ね

 

 

随分と成長してくれたものだ。あの、戦う力も働く力も信用される力も——何一つとして完成していなかった彼が、いつの間にか自分の信頼を奪い去るまでに育ってくれた。

 

成長する姿をずっと見てきたラムからすれば、感慨深いものがある。己の弱々しさに打ちひしがれていた事を密かに知っているラムからすれば、嬉しいものがある。

 

前まではずっと後ろにいたと思っていたのに、今は隣に立っている存在。隣に立って、エミリア陣営の騎士として、そして、友人として、心を支えてくれることにこの上ない安堵感を不覚にも覚える。

 

その隣にハヤトがいるとなれば百人力。否、百人を通り越している。彼が隣に並べば怖いものなんて何もない。そこにレムが加わればまたいつもの四人組の完成だ。

 

そうして、またいつもみたいに、くだらない話をして四人で盛り上がろう。四人でだ。四人じゃないとイヤなんだ。

 

 だから、

 

 

 ーーラムの妹のこと、本当に頼んだからね

 

 

今、きっとテンはレムの部屋で妹の想いと真正面から向き合っていることだろう。悪夢に魘されて、愛する人を傷付けた罪に押し潰されてしまいそうな妹と対面しているだろう。

 

姉だから分かる。レムを解放することは一筋縄ではいかないと。だって今のレムは、時間をかけて形成された固定概念に苦しめられているのだから。

 

過去の縛り、と表現してもいい。今のレムを形作っているものは他でもない『過去』なのだから。

 

故に、そのためには彼女の過去と向き合う必要がある。レムの全てを知って——ラムですら知らないレムの全てを知って、テンはそれを受け止めなければならない。

 

その上で、レムの心にテンは声を届かせようとしている。一筋縄ではいかないのは絶対だ。

 

 

 ーーでも、あなたなら。あの子が愛している、あなたの声なら

 

 

きっと——絶対に届く。テンならば意地でも届かせてくれる。レムを絶望から救い出してくれる。

 

根拠なんてものはない。否、そんな言葉で飾る必要などない。ソラノ・テンとはラムにとってそういう男だから。根拠のない信頼、無責任な信頼、それを向けるに足る男だから。

 

 

 ーーなら、ラムが気にすることはないわ。安心して眠りましょう

 

 

微笑むような吐息を溢し、ラムは徐々に沈んでいく意識を察する。目を瞑って考えているうちに、気がつけば意識が睡魔に呑まれていたらしい。全身が沈むような感覚が心に訪れた。

 

もう間もなく自分は眠りに落ちる。今まさにテンとレムが運命の時を過ごしている中、自分は信用する男に妹を預けて闇に沈む。

 

 その前にひとつだけ。

 

 

 ーーレム。今、あなたの前にいる人はあなたを全身全霊で愛してくれる人。だから、あなたも全てを預けて、信用してあげて

 

 

最愛の妹に届くはずのない声をかけ、ラムは意識を落としていく。自分にできることは全て尽くしたから、最後の最後にそう伝えて。

 

目が覚めたとき、レムの笑顔が瞳に映ることを大いに期待しながら。

 

 

 

 







テンとレムの間に生じたゴタゴタを解消するときがついにやってきました。

『正式な告白』以外の全てを次回からのお話で終わらせるので、何話続けてテンとレムだけのお話になるか分かりませんが、頑張って書こうと思います。


自責の念に苦しめられ、もうなにもかもが分からなくなってしまい、終いには悪夢に魘され、絶望のどん底に落とされたレムが救われるとき。

話数にして21話ぶりの再開。
小説内の時間にして約一週間ぶりの再開。
リアルの時間にして約2ヶ月と数日ぶりの再開。

さぁ、ここからが、ソラノ・テンにとっての正念場。




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