ここから少しずつ、二人が騎士となるために力をつけていきます。
さて、うちの小説でまともな戦闘描写が描かれるのは何話後になることやら。それまでは気の抜けた物語しか展開しないのでご了承ください。
やっぱり、リゼロを読む方々、というか小説を読む方々ってシリアスとか激しい戦闘描写の方が読んでて楽しいのでしょうか。完全に私の思い込みかつ偏見ですが。
昼過ぎ、昼食を終えたテンとハヤトはロズワールに呼び出されていた。取り敢えずついて来いと言われたから不審に思いながらも彼の後についていく二人。
案内されたのはロズワール邸の倉庫。一際大きな扉を潜った先にある寝室と同じ広さの部屋。その中には見慣れない物がたくさんある。所謂、ガラクタ倉庫といったところか。
「んで。俺とハヤトを何でこんな場所に?」
探索するハヤトを横目に、扉の前に立ち塞がるようにして佇むロズワールへと視線を向けるテンは警戒するように問いかける。
ロズワールの考えていることなんて理解できるわけもなく、どうしてこんな場所に連れてこられたのか。目を細めるテンにロズワールは「まぁまぁ」と手を横に振ると、
「君たちは次期、エミリア様の騎士となる人材だからねーぇ。そんな人たちが手ぶらで騎士を名乗るなんて、みっともないと思わないかい?」
「……つまり?」
「形からでも騎士に近づければ、と思ってね」
部屋の中に視線を巡らせるロズワールに釣られるようにテンも視線を巡らせる。灯をつけられて分かったこと、この倉庫にはガラクタだけでなく刃物もその辺に立て掛けてあった。
短剣、大剣、長剣、ナックル、ガントレット等。ロズワールの趣味なのかは曖昧だが、使えそうな武器となる道具が沢山ある。
今のロズワールの発言。そしてここにある武器。騎士となる自分達が手ぶらだと格好がつかない、だから形からでも騎士になれ。ということだろうかと予想するテン。
事実、ロズワールはその中にある武器の一つに手を添えて、
「この中から幾つか、好きなのを選ぶといい。それが君達を騎士と象徴する刃となるからねーぇ」
「それにぃ?」とロズワールは続けて、
「強くなりたいのだろう、ならば避けては通れぬ道だ。逃すのは実に愚の骨頂だと思うけどねぇ」
「確かに。魔法一本で強くなれるとも思えないし、武器はあった方がいいかもしれない」
埃を被った短剣を一つ持ったテンが考えるように呟く。この世界は魔法使い以外はみんな何かしらの武器を持っている人が殆ど。騎士ならば尚更。自分が騎士道を歩む上で必要となる剣を。
そうでなくても一つでも武器は使いこなせるようになった方が男として格好がつくのではと。そんな風にテンはごちゃごちゃと考え、不意に彼の肩が不意に叩かれて彼は顔を向けた。
「なぁ、テン! 俺はこれとこれ使って騎士を目指すことにするぜ!!」
拳に金色のナックルをはめ、自分の背丈程の大剣を担ぐハヤトが目をキラキラと光らせてテンのことを見ていた。その様子は魔法の存在を教わった時と全く同じもので。
こうしてハヤトの真っ直ぐに物事を受け入れることのできる対応を目の前にすると、色々と考えていた自分がバカみたいに思えてきたテン。
「そういう、物事を真正面から受け止める姿勢。私は嫌いじゃない。テン君、君も偶には色々と考えるのはやめにしたらどうだい?」
「俺がそれをやめたら収集つかなくなりますよ。でも、今はその方がいいっスね。ロズワールの意見には賛成ですし」
ニヤニヤするロズワールと、目を光らせるハヤトの二人に乗せられた感があって若干の気持ち悪さを抱くテンは後頭部を掻きながら、ハヤトの次の番として部屋の中を探索し始める。
部屋の中はこうした武器以外にもカーペットやら家具やら。意味の分からない書物が置いてある。全部埃を被っていて息を思いっきり吹き掛ければ咳が止まらなくなった。
「んーー。どうしよ」
視界に流れる武器に、どれを手に取ろうかと悩むテンが唸り声を一つ。武器なんて平和な日本に住む自分達からすれば無縁の代物。修学旅行で興味本位で購入した木刀は、親に勧められて二年前まで運動程度に振ってたことがあるが、それ以上でも以下でもない。
木刀と真剣は比べ物にならない。木刀は斬れないけど真剣は簡単に斬れる。刃に皮膚を当てて振り切れば途上にある物体は容易く切り落とされる。
重さ的には木刀の方が真剣よりも重いと聞いたことがあるが、実際のところどうなんだろう。
「……これ」
一周した所で、テンの目が部屋の片隅に置いてある一本の刃が目に止まった。紺色の柄と鞘。比較的目立ちにくい色合いをしている。手にとって刀身を半分ほど引き抜けば灰色の刃が顔を覗かせた。
所謂、刀だった。長剣のような両側が斬れる武器しかリゼロには出てなかったはずだが。どうやらこの世界には刀の概念があったらしい。思えば、ハヤトの持っている大剣とナックルの二つも初めて見る。
「いや、確かヴォラキア帝国最強の剣士が二刀の刀を使っていたような気がしなくもない」
「それは知ってるんだねーぇ」
肩を叩かれて首だけ振り返れば、ハヤトが選んだ二種類の武器を持っているロズワールがいた。話を聞かれたと苦笑するテンに彼は、
「君の言うとうり、ヴォラキア帝国最強の剣士にして四大国最強の一人とも言われている人物もそれと同じようなカタナを携えている。尤も、彼のカタナは少し特殊だけどねぇ」
「何すかその心踊る話。深く聞きたいところですが。……それは、またの機会に」
リゼロの解説動画を出している人が、四大国別の最強に君臨する者達を紹介してきたのを見てたから居るのだろうとは思っていたが。実際に最強の中の一人として君臨していたようで。
絶対に会いたくない。そんなことを思うテンは「ははっ」と感情の入ってない笑みを浮かべた。ありえないだろうが、もし邂逅した暁には一瞬で首が飛ぶ。
「まぁ、そんなこぉとは置いといて。テン君はそれで決まりかい?」
「そうですね、一応。何処かに持っていくんですか?」
「勧めたのは私だからねーぇ。可愛がっている期待の騎士候補のために私も頑張ろうかなぁ、とね」
何年間も倉庫の中で眠っていた武器達。勿論、それは時間と共に埃を被り刀身は錆び付いていく。テンとハヤトが手にとった武器も鞘から刀身を引き抜いてみれば錆びれた箇所があった。
そんなものを使わせるわけにはいかないらしく、ロズワールが研磨してくれるのだとか。二人からすればその辺の知識は皆無だから助かる話。
「お願いします」と頭を下げて頼んだテンとハヤト。真摯な対応にロズワールも満足そうに頷き、「任せてくれたまえ」と言ってくれた。
▲▽▲▽▲▽▲
その後、テンが倉庫の中から衣服を貰いたいと申し出たためロズワールが理由を聞き返せば。
少しでもまともな服装が欲しいから。
と、彼は話した。近い将来に騎士になるのならば元の世界のような服装も使用人としての服装も使い物にならなくなる。だから、マシな服装をこの中から拝借したいとのことだ。
結論として頷いてくれたロズワール。それから数分かけて二人は服を選んだ。
テンは上半身は白のTシャツ。下は丈は足が隠れる程度の紺色のカーゴパンツ。動きやすいようにガチガチに硬いズボンではない。故に腰をベルトで締める必要がある。
その上からフード付きのサイドポケットのある和式パーカーデザインの羽織を被れば気分はちょっとした暗殺者だ。いい感じのが見つかってロズワールに感謝。
ハヤトは何やら上下真っ白の服を着ていた。テンはそれに疑問を抱いたのだが、ハヤトは満足そうにしていたので口は挟まなかった。
テンが見た感じ、その服装は柔道着? 空手? のような見た目で。全身を白で包んだような上下布製の装備。
黒い帯のような物でヒラヒラしている羽織を縛ればその様は正しく武道を極めた者という言葉が似合うほどに威圧感を発揮させていた。
テンは紺色、ハヤトは白色。色の濃さで見ればほぼ対照となる二人にロズワールは色までも真反対になるのかと苦笑。性格、態度等が真反対なことは知っていたが、まさか色合いまでも逆になるだなんて。
それに関しては、二人からは「それは、必然だ」と反対色になったことを肯定されて更に苦笑いしたのは別のお話。そこは同じ意見だった。
「おま、その服装はなんだよ。上下真っ白に黒帯て……空手大好き人間か。それともなにか?『俺より強い奴に会いに行く』って?」
「お前こそ。白の上からほぼ黒に近い色とか、フードまでつけちゃって、小説の主人公にでもなったつもりかよ」
「どちらかと言えば俺は脇役の方が合ってる気がする。主人公はお前でいいよ。俺はお前の活躍を文字で読む一般市民な」
「脇役にすらなってないんだが」
「そもそも主人公って定義するもんなのかな。その人がその人を『主人公』だと思えば、それはもう主人公になるのでは?」
「つまり?」
「俺は村人Vだ」
「どゆこと? つか、Vまできたら一周回ってかっこよく見えるな」
そんな風に互いの服装に軽くコメントし合い、選んだ武器や衣服をロズワールに預けた二人は各々の仕事を全うしたのだった。
ーーそして現在、冥日の九時を半分過ぎた頃。
大方、使用人としての仕事を終えた二人はそれぞれ別のことをしていた。
ハヤトは現在入浴中、その後はイ文字を覚えるための勉強を。テンとは違ってまだ怪しい点のある彼はラム指導の元、あと二日は勉強に励むのだとか。因みに、テンが作った五十音表は彼にも好評だった。
そして、テンはというと。
「テン君。今夜の紅茶はいかがですか?」
ベッドの上に腰掛けたテンが目の前に用意された机に用意されてあるティーカップを取り、温かい紅茶を喉に流す。ほんのり甘い香りが嗅覚を刺激した後に口の中に広がる緩い甘み。
甘さ控えめの喉に優しい紅茶。一日の疲れを癒してくれるのには十分すぎる出来栄えだった。そして、隣で微笑んでいるレムの笑顔もテンの心を揺さぶるには十分すぎる。
「いつも通り、美味しいよ。甘さ控えめで喉に優しい」
「そうですか。良かったです」
嬉しそうに声を弾ませるレムがそう言ってテンの方を見た。初めに比べたら、だいぶ笑顔を見せてくれるようになったレム。
どうしてか、会った日から彼女には気に掛けられているテンは彼女と接することも多い。いつだかロズワールにそのことを言われた時はなぜかと不思議に思った。
ーーテン君。君はレムに気に入られてるようだね。
なぜ? 自分なんかが? 彼女が気にかけるような理由など一つも見当たらないし、そんな理由は作った覚えもない。何か悲劇的な出来事かあったわけでも、ましてこの一週間で関係をそこまで深めれたとは一切思ってない。なら、どうして?
そんなことを考えているとテンの中にある仮説が浮かんできたのだ。原作理解者だからこそ浮かんでくる、もしかしたら正解かもしれない仮説。
テンとハヤト、レムとラム。
この二つを見比べた時。テンはレムと、ハヤトはラムと。ある一つの共通点がある。考えすぎかもしれないが、もしかしたら見落としてはいけない明確な同じものが。
その共通点とは、
ーー同族嫌悪ってやつっスかね。
ーー当たらずとも遠からずってやつかぁな。
テンはハヤトを、レムはラムを自分よりも遥かにすごい人間だと思っていること。
自分なんかより、彼の方が上手くできる。
自分よりも、もっと彼女の方が早くできる。
自分よりも凄い、自分よりも大きい。自分よりも自分よりも、自分なんかよりも、自分なんてーー。
テンはレムに、「俺はハヤトの劣化版だから」と言ったことがある。
レムも自分のことを「姉様の代替品だ」と原作で言っていた覚えがある。
その二つは似たような意味合いを持ち。レムからすれば自分のような考え方をする人間は初めて見るから少し興味が湧いているのか。もしくは、似ているからこそ嫌な気分になるのか。
ーー少なくとも嫌っているわけではないからねぇ。テン君も、仲良くしてあげるんだよ。
ーーあまり、嬉しくない気に掛けられ方ですが。もちろんですよ。女の子と話すのに慣れておきたいですし。
ーー理由が男として情けないと思ったことはないのかい?
決して異性的な意味で興味を示しているわけではないことに残念な気持ちがないわけでもないテン。もしかしたら、と刹那でも考えた自分が間抜けだった。
ははっ、と嘲笑するような笑みを溢すテンにレムが首を傾げたが。彼はそれを「なんでもない」の一言で片付ける。
彼女が自分なんかにそのような方向で興味を示してくれるわけがない。初めて見る、自分と似たような人間が物珍しいだけ。ただ、それだけだ。
「あのさ、レム。一つ聞いてもいい?」
「はい。なんですか?」
だが、それだけでは腑に落ちない事が一つだけ。テンの中に一つの突っかかりがあった。物珍しさだけでは納得のいかない事が彼の心の中にずっと居残り続けている。
それを言葉にしたテンはどうせなら直接レムに訊くことにした。レムも自分の言葉を受ける姿勢を取る反応を見せたからテンはそれを訊いた。
「初日にさ、レムは"俺がいなくなるのは困る"って言ってたでしょ? あれは、どうして?」
僅かに息が詰まるレムにテンは続けて、
「なんで、俺なんかにそんなことを? 君と知り合ったばかりの何も知らない俺なんかがここに居なくたってレムが困ることはないと思うけど」
ティーカップを机に置いたテンがレムの視線から逃げるように体を後ろに倒して布団に仰向けになる。そこからグルンと身を半分回し、レムに背中を向けた。
どうしてだろう。でも、今はこうしないと落ち着かなかった。
「……それは」
言いかけたレム。しかし、その後の言葉が口から紡がれることはない。喉に何かがつっかえているのか、そこから先の言葉が出てこなかった。
今、レムがどんな仕草をしているのか。どんな表情を浮かべているのか。それから逃げたテンは把握する事ができない。一つだけ分かることは、レムが声を詰まらせたことだけ。
途端、辺りが静けさに包まれた。夜も深まりつつある時間帯なのだから、生活音や生き物の鳴き声が耳に届くわけでもなく。声が響かなくなれば二人の空間は、それ以外に何もなかった。
気まずい沈黙ーーその状態が約三十秒間続いた後、レムが絞り出すような声でその事実を語り、
「…実は、レムがこの紅茶を出したのはテン君で初めてなんです」
それは、ロズワールとの話し合いでテンがショート寸前の時。レムが渡してくれた紅茶、あれが彼女としてはどうやら初めての試みだったと彼女は語る。続けるように言葉を繋げ、
「それで、美味しいと仰ってくれたので。テン君になら、今後提供しても大丈夫かと思ったんです」
淡々と告げられる言葉。三十秒間の沈黙の末に出された応えは割とテンの心にすんなりと入ってきて、
理解した。どうして、困るのか。
一度美味しいと言ってくれた相手になら同じものを出しても問題ない。自分の試作品を出しても害はないと判断したレムはテンには紅茶を出しても大丈夫だと思った。
そして、そのテンがこの屋敷から居なくなれば彼女は誰に紅茶を出せば良いのか。ハヤトなら平気そうだと思うテンだが、それは前に断られた。
「だから、俺がいなくなって困るの?」
「はい。テン君が居ないと、レムは試作品である紅茶を、誰に飲んでもらえばいいんですか」
背中にかけられた声に、テンが萎縮するように体を窄める。その背中にいるレムの頬が、ほのかに赤くなっていることにも気付かぬまま。
どうしてだろう。そう言われて、心の端っこにある甘い感情がズクリと抉られるような痛みがした。分かりきった答えなのに、受け入れている反応なのに、少し痛い。
ハヤトならこんな時。どんな反応をするのだろう。彼ならば少しはマシな対応ができるのかもしれない。でも、自分はハヤトじゃないしハヤトも自分ではない。
彼のようにできなくたって。別に、いい。
はず。
「…そか。そう言ってくれて良かったよ」
口元が小さく動くテンがそう発すると、体制を起こして、腰掛けていたベッドから立ち上がった。突然の行動を眺めるしかできないレムに振り返るテンは自分の瞳の中に彼女を収める。
レムだ。すぐ目の前に、レムがいる。
手を伸ばせば身体に届く距離にいるのに。身を寄せ合えることができる距離にいるのに。寄せれば肩と肩が触れてしまいそうな距離にいたのに。
でも、どこか遠くにいる彼女。近くて、でも遠くて。どうせ無理だと諦めても。定められた
そんな、モヤモヤとする気持ちから完全に目を背けるテンは頬を硬くした。
「少し、外に出てくる。前にも言ったけど今日からこの時間は鍛錬のために使うから。レムとお茶する時間も少なくなるかも」
「具体的には何をするんですか?」
「魔法だよ。ロズワールに診査してもらって適性があったから。扱えるようにね」
タンスから上着を取り出すテンがそんなことを言いながら昼下がりのことを思い出した。仕事の合間に十五分間ではあれど、ロズワールに魔法の指導を受けていた時のこと。
ハヤトは二日後。勉強がひと段落したらという話になっている。尤も、二日間の差なんて彼は軽く飛び越えてくるから差して問題でもないだろう。
ともかく、そこでテンは魔法の使い方について簡単に教えられていた。
魔法とは想像力が大事、自身の体の中にあるマナを外に出すことを頭の中で意識すればいいとか。そんな事を言われたテンはそれを行ってみたのだが。
たったそれだけしかできなかった。発動するだけマシだと思った方がいいのかどうなのか。そんなだから今は、魔法を発動することを練習するように言われた。
まずは基本中の基本。ゲートからマナを取り出す作業を無意識に行えることを目標にして、魔法を使いなさいと。
そんなこんなの今。ロズワールから魔法の使い方は教わったから一人でもなんとかなるだろうと踏んだテンは早速、やろうとしていた。
「俺は勉強もひと段落ついたし。元よりコッチが本当にしたかったことだしさ」
上着の裾に手を通すテンがハンドタオルを片手にレムが入れてくれた紅茶を喉に全部流し込むと、
「だから、これからはこの時間に俺の部屋に来ても誰も居ないと思って。基本的に庭園で鍛錬してるから。用があったらそこに来てほしい」
「わかりました」
鍛錬に臨むテンが意気込むように頷く。今からは自分のやりたいことを思う存分やるのだから徹底的に練習して、早く魔法を使えるようになると。
そうしたら次は刀を振り回せるようにならなければならない。その前に肉体的な強化も必要となる。
やる事は多い、前途多難だ。幸いなことに時間は与えられているから焦る必要はないが、かと言って甘えるわけにもいかない。
だから、テンは夜の時間は全部鍛錬に使うのだ。
「んじゃ。紅茶、おいしかったよ」
「ーーテン君」
はやる気持ちを表に出すテンが足早にレムを残して自室の扉へと手をかける。と、その彼の背中にレムの呼び止める声がかかった。
開けかけた扉を止め、彼女の声に振り返れば。
「鍛錬、頑張ってくださいね」
彼女から応援の言葉を受け取る。胸に手を当ててその手を握っているレムが優しさを含ませた笑みを浮かべながら、テンの正面に立っていた。
彼のことを見つめるレムの表情には優しさ以外にもテンには読み取ることのできない感情がいくつか含まれていたが、テンがそれに気付くことは決してない。
「うん。ありがとう」
レムからの応援に頷き返すテンは、今度こそ部屋から出て行った。一週間越しの二歩目を一日の終わりに踏み出すという、だいぶ出遅れてしまった分を取り返すために。
▲▽▲▽▲▽▲
お月様が空の中央に我がもの顔で居座るのを見上げつつテンは庭園へと足を運んでいた。この時間ならば日課である精霊とのお話しをているエミリア以外は誰もいない。
更に、この場所はとにかく広いから自分が来たとしても彼女の邪魔になる事はないだろうし。鍛錬に割り込んでくる人間もいない。一人で練習するにはちょうどいい。
視線を彷徨わせたテンは、誰にも見つからなさそうな場所。緑の一角ーー屋敷から遠く離れたに人目に着かなさそうな、端っこの方にある背の高い木々に囲まれたスペースを見つけた。
「あそこなら平気か」
誰にも邪魔されず、邪魔することもないであろう場所へと足を進めるテン。エミリアもここのどこかで微精霊たちとお話し中だろうからなるべく邪魔をしないように。
庭園は静まり返り、偶に優しく吹く風が肌を優しく刺激し、月明かりに照らされ庭園は不思議とキラキラと朧げに輝く光球を幻視してしまう。それほどまでに美しかった。
こんな中で過ごせる自分は恵まれてるなぁーなんてことを思いながらテンは目をつけた場所に到達。木を背もたれにして、芝生にあぐらをかいて座る。
ここまでして、漸く準備完了。
「…よし。やるか」
瞑目し、気持ちを切り替えるテンが意識を集中し始める。今だけは余計な事は一切考えない。考える事はゲートからマナを取り出すイメージだけ。
自分の中の熱が、外へと放出されるような。蓄えていたものを大気中へと一気に解き放つような。そしてその力を一つの形として具現化する風に。
精神統一。深呼吸を何度も繰り返し行うテンはそれを頭の中で何回もイメージする。魔法は想像力が要だとロズワールは言っていたが、テンは想像力はある方だ。
妄想の世界に浸るのはよくやるし。その度に時間を無駄に使うことも多々ある。けれど今はその想像力を爆発させる。自分の中でのそれをより鮮明に描き、そのとうりに魔法を具現化させる。
「ヒューマ」
目を開いたのと同時に水魔法を詠唱。その途端、自分の中の熱が外へと放出され、その熱は明確な形となってテンの前に現れる。
現れたのは昼見たのと同じサイズのクリスタルの形をした氷柱。それが一つだけ目の前に浮遊し始めた。ここまでは同じ光景だ。
けれど、本番はここから。具現化に成功したら次はそれを維持し続ける練習に移る。前回は意識が乱れたせいで五秒とたたずに砕け散ってしまったから、今は目標を一分間として維持する。
「んーー。難しい」
やった事のない感覚に顔を顰めるテンが眼前にある氷柱だけに意識を向ける。どうやって維持するか分からない以上、今の状態を保ち続ける。
今の状態なら氷柱は形を保ったまま。なら、これを『保てる状態』として身体に覚え込ませることで最終的に無意識下でも感覚的に保てるように。
集中、集中。呼吸のテンポは一定にして精神を落ち着かせる。少しの乱れは失敗につながるから、ゆっくりとした呼吸で、穏やかに。
自分の体から熱が放出され続ける感覚が先程から伝わってくるが。これがマナを取り出す感覚なのだろうか。徐々に体が怠くなってくるようなイヤな感覚だ。
「……あ」
不意に、形を保っていた氷柱が砕け散る。意識は集中させていたはずだから。おそらくマナを使うことに不慣れなのが原因だろうか。なんせ自分はまだ魔法を使ってから一日も経っていない。
意識を集中させていても限界というものは簡単にやってる。時間的には一分も持たなかった。でも三十秒間は耐えたことに軽くガッツポーズするテンは額から流れた汗をタオルで拭う。
呼吸や鼓動は乱れてないものの、肉体的な疲労はのしかかったらしい。額から汗が何滴か垂れてきた。僅か三十秒だけでもこの有様。
まだまだ先は長い。果てしなく長い。
「よし。次だ、次。今は鍛錬だけに集中!」
それを実感するテンは尚のこと魔法の練習に力を入れる。千里の道も一歩から、果てしなく長い道だとしても一日の積み重ねが大切。パックも腕を組んで魔法は一日にして成らずとか言ってたし。
結果を先に求めてはいけない。地道な積み重ねが、いずれ花を咲かせるのだから。いつ開花するかも分からない花だけど、そもそも咲かせようと思わなければ花は咲かないのだから。
「ーーヒューマ」
テンの声が静かな風に乗って庭園からどこかへと届けられていく。誰に届くかも分からない彼の声。
全員が寝静まった後も、それは世界のどこかに静かに届けられていた。
服装に関しては作者のセンスの無さが浮き出ているので「ありがちかよw」とかの感想は心にブッ刺さります。
ようやくまともに始まった作者ワールド。原作から離れた物語なので、読んでくださっている方々の暇つぶしになるかどうか……。