親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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ほのぼの
「た、だ、い、まぁぁぁぁぁぁぁ!!!」







はっちゃけ少女、レム

 

 

 

 

世界共通の最悪、魔女教の襲撃を発端として引き起こされた騒動。

 

それは、事態の深刻さにいち早く気付いたレムが単身で突撃し、彼女を助けるためにラムがハヤトとテンを引き連れて森へと向かい、アーラム村を巻き込んで、更にはベアトリスまでもが出陣する事になった悲劇。

 

その裏で、エミリアがテンと約束したものを守るために一人静かに心の中の葛藤と壮絶な戦いを繰り広げた物語のある悲劇。

 

一人は、自分以外のみんなを守るために。

 

一人は、世界でたった一人の妹を守るために。

 

一人は、親友に託された背中を守るために。

 

一人は、大切な人達と結んだ約束を守るために。

 

一人は、『その人』だと信じたい人を守るために。

 

一人は、青年と交わした約束を守るために。

 

心に留めた大切なものを守るための戦いは、それぞれの心に大きな変化を齎して、ようやく幕を閉じることになる。

 

『血の夜』として激戦を生き抜いた人間の記憶に刻まれる悲劇は、一番の傷を負ったレムが救われたことで本当に終わりを迎えた。

 

要は、ハッピーエンドということになる。

 

 なるのだが。

 

 

「あの、レム」

 

 

困惑と幸を半分ずつ混ぜた声色をしつつ、最愛の名を呼んだのはテンだ。色々とあった後に訪れたレムとの甘い一時をゆったりと過ごす彼は、緊張の糸が完全に切れたのか完全に頬が緩んでいる。

 

そんな彼にレムは「はい。なんですか?」と、甘ったるい声で微笑む。普段は完璧メイドとして努め、硬い表情を一切崩さないレムも。今だけは、否、彼の前でだけはふにゃりとしていた。

 

なんとも可愛らしい女の子だと思う。それが自分だけに向けられると思うと、凄まじい幸福感に満たされてしまう。

 

可愛い、可愛すぎる。色々と吹っ切ってから彼女のことを真正面から見ると尚のこと可愛く見える。実際に可愛い。とにかくかわいい。

 

 

「可愛らしいのはいいんだけど……いいんだけどさ」

 

「テンくん……?」

 

 

可愛いのはともかく。薄く半笑いのテンは物申したいことがあった。笑みに困惑が含まれたのはそれが原因だ。今の彼には一つだけ、レムに言いたいことがある。

 

その半笑いにはレムも気付いた。依然として溌剌とした彼女は、見えない尻尾を子犬のようにぶんぶんとばたつかせながらテンに甘えているものの、僅かに不思議そうな色を瞳に浮かべている。

 

その様子だと、彼女は外の景色が全く見えていないのだなとテンは思いながら、

 

 

「気が済むまでいていい、とは言ったけど。いつまでくっついてるつもりですか。ほら、太陽も昇ってきちゃってるし」

 

 

言い、レムの頭を撫でていた手で窓を指差す。そこからは二人を暖かく照らす朝日が差し込んでいた。

 

指と声に釣られるレムが見るのは青みがかかりつつある空。所々に雲が点在している空は快晴とは言えずとも、見ていて清々しいものがある。

 

それ以外に見たのは朝の気配が漂いつつある世界。太陽が徐々に上へ上へと昇り始めたことで夜明け直前の薄暗さを抜けた世界は、世界そのものが寝起きのように静かな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「それにさ。ほら見てよ、魔刻結晶も緑色が満ちてる。風の刻も終わってもうすぐ火の刻、早朝の六時だよ。レムが甘え始めたのが大体…日の出からで、日の出の時間が大体…早朝五時だから。約一時間くっついてることになるよね。……なんでおれ、こんな計算してんだ?」

 

 

「あれぇ?」と、自分の思考回路に自問自答しているテンを横目にレムは部屋の扉近くに設置された魔刻結晶をチラと見る。色と、その色の濃さで時間を示す魔刻結晶は確かに緑色が満ちようとしていた。

 

なるほど。彼の言うことが正しいなら自分は約一時間、寄りかかった彼の胸に顔を埋めていることになる。感情が爆発しすぎて全く気が付かなかった。

 

 が、

 

 

「それがどうかしましたか?」

 

「え? いや、だから……」

 

 

見上げ、あどけない表情で言い、レムは小首を傾げる。

 

自然、抱きつきながら上目遣いの状態が完成した彼女に、その仕草をされたテンが悩殺されたのは言うまでもなく。

 

 

「一時間しか甘えていないことが、どうかしたんですか?」

 

「ーーーー。ーーーー。……どうもしません、わすれてください」

 

 

その発言に、トドメを刺されることになった。たった二言で、テンはレムの可愛さの中に含まれた甘々度合いに撃沈。

 

一時間 しか 甘えていない——これは無自覚だろう。彼女は本心でそう言っている。きょとんとした顔つきのまま、まだ自分はテンに甘え足りないと、間接的にアピールしている。

 

これだからこの子は卑怯なんだ。

 

女の子というものは時に偶発的に、時に意図的に、男の子もいうものを困らせてくる。魔性だ、この子が向けてくる全ては自分にとって麻薬のようなものだ。だから男の子は女の子には勝てない。

 

 

 ーーだめだこりゃ

 

 

気の抜けた吐息を僅かに開いた口から漏らし、テンは心の中で呟く。

 

「好き好き! 大好きー!」状態になったレムには何を言っても無駄なようで、彼はひたすらに甘えてくる彼女の頭をなでりなでりことするしかできない。

 

テン自身が言い出した事なので受け入れないわけにはいかないのだが、テンに対してだけ我慢と遠慮を消し去ったレムの甘え方が半端でないのだ。テンが予想していた範囲を余裕で超えている。

 

これまで溜め込んでいたものが炸裂している分、最初にちょっと出過ぎてしまっているだけだと信じたいが、この調子でこられると今のテンでは太刀打ちできそうにない。

 

ならもう、いっそのこと開き直ってこちらからも仕掛けてしまおうかと考えるが。あくまで考えるだけに留まるのがソラノ・テンの残念な現状であった。

 

 

「あぁ……たまりません。素敵な匂いです」

 

 

胸元でスンスンと鼻を鳴らす彼女は今、テンの匂いを堪能しているらしい。恍惚の声を小さく上げながら、喉をごろごろと鳴らしている。そろそろ、子犬なのか子猫なのか分からなくなってきた。

 

スンスン、スンスン、と。自分の世界に没入するレムは「テンくんの匂い……」と幸せそうな微笑を一つ。次第に目元がとろけてきた彼女は、無言で聞き入れるテンの表情が若干、引き攣りつつあることなど知る由もない。

 

だって、止め時が全く見つからない。大好きな彼に甘えたくて甘えたくて仕方なく、『止める』という選択肢が今のレムには存在していない。冗談抜きでずっとこうしていられる。

 

彼と話し始めた時間から計算すると、二人でくっついていた時間は一時間をゆうに超えるのに、まだ抱きついていられるのが証拠。

 

あれほど肌と肌を重ねたにも関わらず、体温と体温を感じあったにも関わらず、不思議なことに全然飽きる気配が訪れることはなく。寧ろ、足りないとすら思える。

 

もっともっと、と。自分は彼を欲しているのだ。

 

欲しい。彼が欲しい。彼の全てが欲しい。彼の持っている全部を自分だけのものにしたい。独占したい。独占して、自分から離れられないようにしたい。自分なしでは生きていけないようにしたい。

 

胸元から上へ。どこか、ぼーっとしている彼の首筋へと顔を近づけ———、

 

 

「ーー!? くすぐったいくすぐったい! やめろ、止まれ。やめろ止まれ! やめっ……やめろぉー!」

 

 

鎖骨付近にレムの吐息が掛かった直後、ふとした瞬間から窓の外に広がる空に意識が引き寄せられていたテンが帰還。妙なくすぐったさを感じた彼は急接近したレムの行動に度肝を抜かれる。

 

人がせっかく振り切りかけた悩殺メーターをリセットするために意識を空へと旅立たせていたというのに、なんてことか。数秒、たった数秒だけ彼女から目を逸らしただけでこの始末。

 

目を見開き、上体を後ろに倒すように身体を引き下げるテン。ふわっと漂ってきた彼女の甘い香りに頭がおかしくなりそうな予感を感じた彼は、下がった分だけ距離を詰めてくるレムの肩を咄嗟に掴んだ。

 

しかし、そうしようとも止まってあげないのが今のレム。掴まれた身体を大きく捩り、軽い拘束から容易く抜け出した彼女は、心の底から温泉の如く湧き上がる嬉々とした感情を顔いっぱいに波紋させながら、

 

 

「イヤです。止まってあげません。もっとスンスンさせてください」

 

「スンスンさせてください、ってそれ文章として成立してるのか……って、嗅ぐな嗅ぐな。それ、妄想逞しい大学生には猛毒だからやめろ……お嬢さん、聞いてます?」

 

 

身体を預けたテンの胸に両手を添え、スンスンと鼻を鳴らすレムは聞いていない。というよりも聞く気がない。語尾にハートマークが付属され始めた彼女は欲求に突き動かされるがまま、彼の匂いを心ゆくまで味わっている。

 

当然、病み上がりの体力と筋力では争いようもないそれにテンの抵抗は虚しく散る。まさか、こんなところで自分の弱体化が形として現れるとは思わなかった。

 

 普通に悲しい。

 

 

「どうして嗅がれるのを嫌がるんですか。いい匂いですよ?」

 

「それ、たぶん洗剤の匂い。屋敷で洗濯する時に使う洗剤って鼻に優しい匂いするよね。分かるよ」

 

「いいえ、テンくんの匂いです。とっても安心してきます。……こうして嗅いでいると、レムは体が熱くなってきてしまいます」

 

「熱く、なって、きて、しまい、ます?! 分かった。素直に言おう。匂い云々じゃないんですよ。嗅ぐ行為自体に問題が………」

 

 

 問題がある。

 

そう言い繫ぐはずのテンの口は言葉を出し終わる前に固まった。この状況(レムの暴走)を少しでも抑制しようと働きかけた口上は、言葉を全く聞いていないレムを見たことで終わる。

 

なるほど。この子は、自分の言葉をまともに聞く気がないらしい。不意に、遠慮するな、甘えたいだけ甘えていいよ。と、そう言った自分を呪ってやりたい衝動に駆られる。

 

別に、甘えてほしくないわけではない。まだ、ちゃんとした形で恋人関係にはなっていないが、好きな人に甘えられて彼氏冥利に尽きるというもの。自分なんかで満足してもらえるなら嬉しい限り。

 

ただ、ある程度は抑えてほしい部分があるだけ。今のレムは色々と爆発してはっちゃけているから尚更。このままだと、少し前のレムが遠い過去のものに感じてくる。

 

 

「俺の知ってるレムって、もっと控えめだったような気がするんだけどなぁ」

 

「テンくんのせいです。テンくんがレムをこんな女にしたんです。言っておきますが、既に言質は取っていますからね。テンくんがレムに贈って下さった言葉は——もう、引っ込められませんよ」

 

「思い当たる節がありすぎて、どれのことを言ってるのか分からないのが恐ろしい」

 

「思い当たる節、全てだと思いますけど」

 

「まじかぁ」

 

 

我慢しなくていい。無理しなくていい。抱え込まなくていい。泣きたいなら泣いていい。甘えたいなら甘えていい。

 

俺はレムが好きだ。レムの抱えてるものは無条件で受け止める。好きな人の言葉はなんでも聞こう。なんでも受け止めよう。俺の全てを尽くして、レムがレムで在ることを全肯定する。

 

自分がレムに贈った言葉を僅かに回想しただけでこの有り様。一つ一つを思い返せば羞恥心に弾け飛びそうな羅列に、テンは恥じらいを隠す両手で顔を覆った。

 

一体、いつから自分はそんな人間になってしまったのか。キザな台詞を息をするように吐くような、自分が嫌っていた人間になってしまったのか。

 

恥ずかしい。本当に恥ずかしい。同時に、それら全てがレムの記憶に厳重に管理され、撤回することが不可能になった事実に様々な意味で後悔。

 

今になって気にしても後の祭りだが。その一つ一つの言葉がレムと自分の関係に適応されるとするならば、今の彼女はテンに対しては躊躇がないはずで。

 

つまりは。遠慮知らずで我慢知らずな、甘々でわがままな少女——レムが完成してしまったことになる。完成、と表現するよりも、本性を曝け出した、の方が正しい気がしなくもない。

 

果たして。これから先、自分はどうなってしまうのだろう。どうにもなってしまいそうな未来しか視えない。

 

期待と一抹の不安が混ざり合う感覚に、テンは腑抜けた面に苦笑を混ぜた。尤も、その不安は器の大きさ次第で解決できるのだが、レムに意識を根こそぎ奪わられているテンは気づかない。

 

未だにスンスンしているレムに、全てを掻っ攫われる。止められない。止め方が分からない。というか、止めたくない。

 

が。時間は有限だと知っているテンはレムの肩を掴んで彼女と一緒に身体を起こした。

 

青色の瞳がぼうっとし始め。何にのぼせたか、上気した頬がほのかに赤みを帯び。徐々に吐息が色っぽくなりつつある彼女の情熱的な眼差しに、不覚にも理性が切れそうになりながら。

 

しかし。俯いて深く吐息することで平常心を辛うじて保ちつつ、

 

 

「レム、そろそろ離れよっか。もう、ハヤトとかラムが起きる時間だよ。いつまでもこうしてたら二人に見つかって面倒なことになる」

 

 

言い、テンは見ているだけで理性が保てなくなりそうなレムを視界から外すために窓の外へと目をやる。直後、直射日光に眼球を焼かれる眩しさに目を細めた。

 

今日はいい天気。こんな日には異世界の定番である、草原の木陰に寝転がって昼寝をしたいところ。そのまま夜まで寝過ごして風邪をひくに違いない。レムに叱られる未来が視えた。

 

くだらないことを考えて頭を冷やし、軽く笑いながらテンは外に向けていた視線をレムに戻す。そんな彼の視界が捉えたのは不満げに頬をプクッと膨らませたレム。

 

「むぅ」と可愛らしく反論する彼女は、やはりテンに引き剥がされた事をお気に召していない。もっとくっついていたいー! とでも言いたげな両手が肩を優しく掴む彼の手をぎゅっと掴むと、

 

 

「……イヤです」

 

「えぇ……。でもさ、使用人としてのお仕事があるでしょ?」

「もっとくっつきます」

 

 

とにかく甘えたりないレム。テンへの愛が暴走状態となった彼女は、彼の力が弱体化していることをいいことに力ずくで肩を掴む手を取り外すと、彼の体に再びくっついた。

 

力に物を言わせたゴリ押し。今までのレムという女性像を軽々しく破壊してくる彼女に密着されたテンは、それでも無理やり引き剥がすと。

 

 不意に、思いついた。

 

 

「続きはまた後で。な?」

 

「もっと……もっとぉ。レムはまだ、我慢していた分を取り返せていませ——」

「お仕事を頑張ったらご褒美をあげます」

 

「何をしているんですか、テンくん。時間は有限ですよ。早くお仕事に行きましょう!」

 

 

言われたレムの反応は刹那。『ご褒美』に何を連想したのか、溌剌度合いが過去最高潮に昂った彼女は寝台から飛び起き、あれほど離れたくないと駄々を捏ねていたテンの体から即座に離れた。

 

分かりやすい手のひら返しにテンが苦笑。ポンと快音を立てて頭の中に生まれた打開策の効果は絶大だったようで、今、即効性のあり汎用性のある単語として彼の中に記憶されている。

 

そんな彼が見るのは、身支度を開始するためにいそいそと準備をしているレム。ニコニコする彼女は頭の中で『ご褒美』を思い浮かべているのだろう、「ご褒美……ご褒美……」と呪文のように紡いでいた。

 

右へいそいそ。左へいそいそ。タンスの中からメイド服を取り出し、着替えるために服に手をかけ———、

 

 

「待ぁて待て待て待て待て待て! 俺がいる! ここに俺がいるってばね! 今すぐに出ていくから着替えるのはーー!」

 

「……見ても、いいですよ?」

 

「見! ま! せ! ん! 部屋の外で待ってるから! あと、顔が赤くなってんの見え見えだからな! 恥ずかしいなら無理しないの!」

 

「恥ずかしいのは否定しませんが! テンくんになら見られてもーー!」

 

「年頃の女の子ぉ! お前、マジではっちゃけすぎだろ!?」

 

 

座っていた寝台から飛び起きるテンが照れるレムを横切って扉へと一直線。その様、草原を吹き抜ける風の如く。

 

「そろそろ暴走状態から抜け出そうか!」と、扉を開けた彼は捨て台詞を残して颯爽と部屋から出て行った。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 パタン、と。

 

開いた扉が優しく閉まる。そこで勢いに任せて扉を強く閉めないあたり、彼の性格がよく知れる。

 

基本的に相手への配慮を忘れないのが彼の優しいところ、どんなに荒れていても根っこが優しい彼は気遣いだけは忘れないのだ。

 

もし、そんな彼がそれを忘れるときがくれば、その時は本当に荒ぶっている時に違いない。自分と同じで感情を内側へ内側へと抑え込む癖があるのだから、解き放たれた瞬間は分かりやすい。

 

これが何を意味するか。要は、レムの生着替えを本人から「見てもいい」と言われても、辛うじて彼は理性を保てたということで。

 

 

「……少しくらい、迷ってくれてもいいのに」

 

 

拗ねるような一言を溢し、レムは着用していた衣服に手をかける。肌と布が擦れる音が鼓膜に弱く流れ込むと、彼女は(テンに見せる予定だった)素肌を世界に晒した。

 

出るところと引っ込むところの区別がハッキリとしている瑞々しい美貌だ。その上、女性として発達している部分の主張が少しばかり強く。下着姿とはいえど、その様は見る者を容易く魅了してしまう危険さを纏っている。

 

その美貌をテンは「見ない」と言ったのだ。そうだと断言したのだ。

 

 それも、

 

 

「即答するなんて……。あんなに強く言わなくてもいいじゃないですか」

 

 

本日、何度目かの「むぅ」。脱いだネグリジェを綺麗に畳み、椅子の上にそっと乗せる彼女はメイド服に手を伸ばしながらふてくされる。

 

自分のことを気遣ってのことだからその優しさに胸を打たれるばかりだが、不満がないと言えば嘘になる。言った自分の恥ずかしさを見抜いているのなら尚更。

 

彼の主張は分かる。確かに、今の自分は普段の自分とは比較にならない程に大胆で、自分自身でも制御ができなくなりつつあり、一瞬だけ自制が利かなくなった結果としてあのような発言に至ったと。

 

そんなこと、分かっている。でも、止められないのだ。爆発した愛が自分の力じゃとても止められそうにない。

 

はしたないと分かっていても、淫らな女の子だと分かっていても。彼の前に立つと抗いようのない衝動に心を支配されてしまい、自分自身でも意味不明な奇行に走りそうになる。

 

これでまだ、想いを打ち明けあって半日も経ってないという事実。

 

 

「こ……このままでは、レムが正気を保っていられなくなるのも時間の問題……。いくらテンくんだとしても、受け止められる程度には限りがありますからね。流石に……流石に………」

 

 

自分の中でのセーフティーゾーンを確定するレム。どこまでを良しとして、どこからを良しとしないか。その境界線をビシッと一閃。

 

メイド服を着用し、ホワイトプリムを握りしめる彼女は決意を固めるように険しい表情で、

 

 

「流石に夜這い()()は我慢しなくてはーーッ!!」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「壁は厚いくせに、扉は薄いんだよなぁ。その声量だと丸聞こえなんだよなぁ。だけ、ってなんだよ。だけ、って。ホント、勘弁してほしいんだけど」

 

 

 

「……………………部屋に鍵かけて寝よ」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

随分と甘すぎる境界線を引いたレムが「うん!」と頷く。線を引いた場所が限りなく頂点に近いことなど気にしない彼女はホワイトプリムで髪を飾った。

 

次に向かう先は洗面台。眠気などとっくに吹き飛んでいるが、一応、念のため。顔に生まれた涙の軌跡を拭うために軽く洗い流す。ハンドタオルで余分な水滴を拭き取ると鏡で確認。

 

そしてレムは、目の隈がいつの間にか消えていることに気づいた。睡眠時間をたくさん確保したからだろうか、否、なんだっていい。彼に見られないならそれでいい。

 

 

「あの顔を見られるわけにはいきませんから。変な心配をかけたくありませんし」

 

 

過去の自分、その荒れ様を思い浮かべて苦笑。二度と経験したくない地獄を振り返ると、唐突にテンの胸に飛び込みたくなった。体が物寂しさを感じ、心が彼の体温を欲している。

 

もう、だめなんだとレムは思う。自分は彼の存在無しでは生きていけなくなってしまった。自分の生きる理由が、彼になってしまったのかもしれない。

 

 

「早く準備を終わらせなければ。テンくんを待たせるなんて、レムとしてあるまじき行為です」

 

 

扉の先で愛しの彼が待っている——そう思うだけでレムは舞い上がり、更にいそいそと準備を整えていく。慣れ親しんだ動作で大凡の身支度を整えると縦長の鏡の前で自分の姿をまじまじと確認。

 

乱れはないか。汚れはないか。シワはないか。髪は整っているか。呼吸は上擦っていないか。頬は緩んでいないか。ダメだ、緩み切っている。ふにゃふにゃだ。整え整えと両手でこねくり回す。

 

目元の赤みは仕方ないとして。それで大体は整った。あとは彼が贈ってくれた腕輪を右手首に———、

 

 

「………あ」

 

 

そこまで進み、レムは思い出す。

 

彼が自分のために買ってくれたそれは、既に壊れてしまっているのだと。それはもう修繕不可な状態なのだと。

 

思い出した彼女は徐に歩き出し、勉強用に設置された机に備わっている引き出しを開け、中に入っている小箱を取り出す。もちろん、その中には布で包まれた腕輪が一つ。

 

テンの無事を祈って渡したそれは、戦闘の最中で彼の命を守った代わりに一部分が断ち切られて腕輪として機能しなくなった欠陥品。飾り物としてはギリギリ及第点かどうか。

 

少し、残念に思わなくもない。一生の贈り物だったのだから当然だ。尤も、それが彼の命を守ってのことだと思えばそこまで気にもならない。彼を守れて腕輪も本望だろう。

 

 

「……守ってくれてありがとう」

 

 

本来の役割を担えなくなった腕輪に微笑み、感謝の言葉を告げると、レムは腕輪を布で包んで小箱に入れる。引き出しの中へとしまうと、彼女はくるりと振り返った。

 

ともかく、これで準備は万端。自分を整えに整えた彼女は、ぱたぱたと歩みを進める。向かう先は当然、扉の先にいるテンのところだ。正確には、扉の先にいるテンの胸元だ。

 

血の夜を越えてから色々とあった——本当に色々とあったが、救い出された彼女は、ようやく清々しい一日を送ることができる。辛くもなく、苦しくもない、ほのぼのとした幸せな日々を過ごすことができる。

 

その第一歩目として。レムは扉を勢いよく開き、

 

 

 

「——お待たせしました、テンくん!」

 

 

 

そう言って、愛する人の胸に飛び込んだ。

 

 

 

 

 







シリアス
「私は、必ず帰ってくる……帰ってくるからなぁぁぁぁぁ!!!」


どのタイトルが気になりますか?

  • 雷の鳴る夜に
  • (ソラノ・)レムの幸せに溢れた日々
  • お酒少女達には勝てない
  • 恋人っぽいこと
  • ありふれて、ほのぼのとした一日
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