親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

133 / 169



これが、血の夜から続いた悲劇の本当のハッピーエンド。

テンの行動に色々と言われそうな気はしますが、とりあえず関係が着地するまでの『過程』として長い目で見守ってくれると嬉しいです。





もう一つのハッピーエンド

 

 

 

     。

 

 

深く沈んだ暗闇の中、一つの声が聞こえていた。静寂に満たされ、自分の鼓動が空間に小さく木霊する世界に、それは聞こえていた。

 

 

    ま。

 

 

意識を闇の底から引っ張り上げてくる声が、自分のことを呼んでいた。いつも、決まった時間に決まった起こし方で起こしてくる声が、無意識の彼方に浮かぶ自分を求めていた。

 

 

   さま。

 

 

ひどく心地よく感じる、随分と久しい声。鼓膜を撫でるそれは、ひっそりとした声の大きさで、けれど沈み切った意識へと確実に潜り込んで、「起きてください」と。そう言って体を緩やかに揺らすのだ。

 

 

  ぇさま。

 

 

この声を聞いたのは、何日ぶりだろうか。穏やかで、和やかで、健康的な声。一時的に失ってから、それがあることの大切さに気付かされた。

 

毎日のように名を呼ぶ声が聞こえていた事、そうして起こされていた事——それが自分にとってどれほど幸せなことで、かけがえのないことだったのかと。

 

 

 ねぇさま。

 

 

もう、すぐに起きるから待っててくれ。ただ、貴方の姿と向き合った時に、涙を流さないように心構えをさせてほしい。きっと、今の貴方と顔を合わせたら、泣いてしまうから。

 

だって分かる。貴方の心が、感情が、想いが、爆発的に流れ込んでくる貴方の全てが。眠っていても、貴方が感じていることは全て筒抜けだったから。

 

悲しみも、切なさも、寂しさも、怒りも、絶望も、喜びも——幸せも。全て、全て。考えている事は解らずとも、感じている事は分かるから。

 

姉妹の心は、通じ合っているのだから。

 

 

「——姉様」

 

 

分かった起きる。起きるから待ってくれ。

 

もう少しだけ準備をさせてほしい。温かくて、幸福で、つい心を掻き毟ってしまいたくなる、波紋した貴方の想いを宥める時間が欲しい。

 

皮肉にも、宥めても宥めても、いつまで経っても落ち着いてくれないが。

 

嬉々とした感情が立てる貴方の波が次々と押し寄せてくる。一つを宥めても、また次の波が。それを宥めてもまた次の波が、次の、次の、次の——止めどない。

 

あの男、随分と派手にやってくれたものだ。

 

何をしたのか大凡の検討はつくが、これは予想を遥かに超えている。お陰様で、あの子が共感覚を全く制御できていない。だだ漏れじゃないか。

 

それか、抑えていても漏れるほどの

 

 

「朝ですよ。姉様」

 

 

あ、もう起き

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 目を、開ける。

 

 

自分にしてはすんなり開けられた方だとラムは思う。寝つきはいいが寝起きは悪い自分にしては、普段よりも覚醒に至るまでに使った時間は短い。すっと起きることができた。

 

違う。既に意識は活動開始に向けての再起動を始め、深い眠りから浅い眠りに切り替わっていたから、完全に目覚めるまでの道のりが短かっただけだ。

 

見えたのは天井。どうやら、仰向けの体勢で眠っていたらしい。

 

 

「おはようございます。姉様」

 

 

聞こえてきた声に、ラムはゆっくりと体を起こす。肩までかけていた毛布がはだけ、ぽすんと音を立てて落ちる。ぼんやりした瞼を人差し指で擦り、不意に浮かんだあくびを一つ。

 

それで意識の再起動は済んだ。眠りの質が普段以上に良かったのだろうか。夜中に起こされたというのに、いつもよりもよく眠れた気がする。不思議と、肩に乗っていた重みが消え、心が軽くなったような爽快感を得ていた。

 

その理由は分かってる。というよりも、真横にいる。真横にいる、自分の名を呼んでいる妹の声で。

 

こうして起こされたのは久しぶりかもしれない。なんてことを少しだけ考えながらラムは声の方向に顔を向け、

 

 

「今日は気持ちの良い朝ですね。姉様」

 

 

見えたのは、満面の笑みだった。

 

闇に塗りつぶされて、光なんて一筋もなくて、もう一生このままなんじゃないかとすら思えていた妹の、陰りなんて一つもない快晴の笑み。

 

今まで強張っていた頬がふにゃりと緩み、尖っていた双眼が柔らかく細められ、その中から顔を出す青色の瞳には確かな希望が宿っている。文句なしの満点の表情。

 

幸せそうにふわりと綻んだ唇が、その表情をより輝かせていた。いつもの——いつもの自分の妹が、自分の瞳には映し出されていた。

 

分かってはいた。分かってはいたが。

 

 

「ーー!」

 

 

息が詰まったような挙動が小さく見られた直後、ラムが動く。「わっ」というレムの驚くような声が僅かに上がると、彼女はレムの首に両腕を回しながら抱きついた。

 

そのまま足を寝台から下ろして立ち上がると、レムはラムによる無言の抱擁を受けることになる。頭を押さえつけられた胸の中、姉の温もりを全身に感じながら。

 

 

「ねぇ、さま?」

 

「ーーーー」

 

 

予期しなかった行為。テンを信じた結果として辿り着いた状況に追いつけないレムが、抵抗はしないものの困惑の声を漏らす。が、ラムの意識には届かない。彼女は今、衝動に駆られているところだ。

 

分かってはいた。分かってはいたが。

 

それが、襲いくるこの激情を抑え込むことができる事とイコールではないということをラムは今、思い知っている。世の中には、心構えをしていても我慢し難いものがあることを今、ひしひしと感じている。

 

心の奥底から噴き上がる感情。妹の笑顔を視界に捉えたことで今までの苦しみが一つ残らず解消されていく開放感。ずっと見たかった最愛の表情が見れた幸福感。失っていたものが帰ってきたことへの充足感。

 

一度に襲いくるそれらの感情が激しい衝動となり、ラムの行動を決定した。考えるよりも先に、体が勝手に動いていた。姉として、そうしないと気が治らなかった。

 

ラムにとって妹の笑顔とは、それ程までに大きなものだったのだ。

 

テンの損失と、背負った罪に苦痛を強いられ、精神を限界の限界まで抉られ——死んでしまってもおかしくなかったレムが咲かせた満面の笑みは、彼女の心を揺らすには十分すぎる。

 

 

「……よかった」

 

 

震えた声で言い、ラムはレムを力一杯抱きしめる。

 

寝起きの自分が出せる力などたかが知れているが、好都合だ。妹を無理に苦しめずに済む。遠慮せずに思いっきり両腕で包み込んだ。

 

情けない姿を晒してもいい。それでも今はただ、この温もりを抱きしめていたい。

 

 

「レムが、いつものレムに戻ってくれて……、本当に、本当によかった……っ」

 

 

抱えて、溜め込んできた不安がレムに降り注ぐ。解消されて箍が外れたように溢れた想いが、テンにぶつけてほぼ曝け出されていた中の最後の一雫が、彼女の中から全て吐き出された。

 

嬉しい。嬉しい以外にない。レムが、自分の妹が自分の知る妹に戻ってくれて、とてつもなく幸せに感じる。同時に、テンのことを信じて良かったと心の底から思えた。

 

自分が寝ている間、彼は頑張ってくれたのだろう。あとは任せたと。そう言った自分の期待に応えるために、色々と許容範囲を超えて頑張ってくれたのだろう。

 

当たり前といえば当たり前だ。自分があそこまで言ったのだから。あんな言葉を言わせておいて「無理でした」なんて結果になろうものなら、彼への信頼を完全に失っていたはず。

 

それでも、彼はやってくれた。

 

自分が託したものを背中に背負って、レムを絶望の底から救い出してくれた。レムの闇を、気配すら残さず消し去ってくれた。

 

無責任な信頼——それがテンという人格者を見続けてきたラムの評価だったが。今回の件で、それが揺るぎないものになった気がする。

 

彼は、いざというときはできる男の子なのだ。

 

普段はのほほーんとしているけど、その気になったら人が変わったように頼りになる。ハヤトと真反対の背中が、その時だけは寸分の狂いもなく重なる。

 

それが、ラムが信頼するソラノ・テンという人間だ。

 

 

「ご心配をおかけしました、姉様。ですが、レムはもう大丈夫です! テンくんに救われちゃいましたから。……色々と」

 

「そう……。当然のことよ。ラムが励ましてあげたんだもの。レムが救われなかったらラムはテンテンを八つ裂きにしていたわ。いえ、八つ裂きで済むならマシな方ね」

 

 

胸の中で見上げて元気に言ったレムに、ラムは一瞬だけ微笑ましそうに笑い。それからいつも通りの自分を作り始める。

 

レムがいつも通りの自分で向き合ってくれているのだから、自分もいつも通りの自分で向き合おう。いつも通りであることが、全てが終わったことの証明の他にないから。

 

終わった——終わったのだ。血の夜から引きずってきた全てが、生き地獄のような時間が、妹を縛っていたものが、それら全てに決着がついたのだ。

 

 これでやっと、前のように。

 

 

「あの、姉様。そろそろ身支度をしませんか? 元より、レムはそのつもりで姉様も起こしに来ましたし」

 

 

言いながら身を捩るレムが姉からの抱擁を脱しようと試みる。

 

時間的にも使用人として動き出さなければならない事を知っている彼女は、妹としてもう少しこうしていたい欲を切り捨てるが、

 

 

「イヤよ。レムの体からテンテンの匂い(この刺激臭)が消えるまでこうしてる」

 

「わわっ。それは困ってしまいます。テンくんの匂いはレムだけのものなんです。例え、姉様であったとしても嗅ぐことは許しません。断固拒否です」

 

「困る方向性が違う気がするのだけれど……」

 

 

どちらかといえば時間的な意味合いで困ってほしかったのだが、レム的にはそれで成立しているらしい。より、抵抗に拍車が掛かる。が、ラムはそれを良しとしない。

 

包み込む両腕に熱が宿ると、ラムの抱擁が強まった。きっと、テンに抱きしめられでもしたのだろう、こびりついた匂いが誰のものかなんとなく分かった。

 

ならば自分ので塗り替える。彼の匂いが無くなるまで。眼下で「姉様ぁ」と抵抗の声を弱く上げるレムを無視しながら。

 

抵抗の声を上げながら、しかし無理やり抜け出そうとしないところを見るとレムの心がなんとなくラムには分かった。伝わってこなくとも、妹の安心したような表情を見れば、全て分かる。

 

だからラムは胸に抱いたレムを抱きしめて離さない。離してあげない。離してあげるものか。

 

我が子を慈しむ母親のように優しい顔つきで、それ以上の優しさをもって彼女はレムの頭を撫で下ろした。ずっと、ずっと、撫で下ろし続けた。

 

麗しの姉妹、その抱擁。この場に第三者がいるならば実に目の保護になる絵。写真に収めれば一生の宝になる一枚。静かで、邪魔の入らない、姉妹だけの空間。

 

 

 そんな時だ、

 

 

「テンのバカ! もう、すごーくバカ! いっぱい、いっぱい心配したの!! それなのに、そんな風にのほほーんってして……バカ! バカバカ!」

 

「いた、いたたたた! 抓らないで! 爪立てて握りしめないで! 脇腹も割と痛いかな! とりあえず起きようか! うん!」

 

 

その雰囲気をぶち壊す騒音が聞こえてきたのは。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

テンの体調など知らんぷりの全力タックル。

 

可愛らしい女の子走りから繰り出されるそれは、受け止めたテンが思っていたよりも勢いがあって。あの走り方にしては衝撃の威力がおかしいと振り返る。

 

以前。寝落ちたエミリアのことをお姫様抱っこして部屋へと運んだ際に、彼女の体が天使の羽のように軽いことを知っていた彼は「まぁ、なんとかなるだろ」なんて思っていたのに。

 

ぶつかられてみればこの結果。体全体で受け止めて後ろに大きくのけ反りながらも無事に慣性を殺し切る——ことはなく。胸の中に飛び込まれ、ものの見事に吹っ飛んだ。

 

踏ん張る足が床から離れた瞬間に全てを察した。察したところで因果は変わらなかった。

 

体が仰向けに傾き、ぴゅーっと彼女の体と一緒に床と並行に空中移動、そこからは自然の法則に従って床へと背中から落ちる。そのまま数メートルほど床を滑れば、あとはご察しの通り。

 

開始されるのはエミリアのマシンガントーク。

 

血の夜において、屋敷へと帰還したテンに乱射したように。溜め込んだものを爆発させる彼女が、心の中にある有り余った鬱憤を全て晴らしにかかる。

 

 

「おそい! おそいおそいおそいおそいおそい! どれだけ待たせたと思ってるの! 今日で八日目! 八日目! よ う か め! わたし、テンがいない間、すごーく! すごーーく! すごーーーく! 寂しかったんだから!」

 

「分かった、分かったからとりあえず降り——」

 

「テンのせいなんだからね! テンが、そうやってわたしを甘やかすから、こうなったんだもん! テンが優しすぎるのがいけないんだわ! そうに決まってるわよ!」

 

「はい分かりました。お怒りの程はよーく分か——」

 

「テンがいなくなって、いなくなったら寂しくなって、いつもよりも胸がズキズキしてぎゅーー!ってして、色々と大変だったもん! テンはいつもそう! どうしてわたしにこんな想いを抱かせるの! こうなるなら知らない方がよかったのに!」

 

「ちょ、やめっ……ポカポカ叩くな! 普通に痛い! 跨ったままされると尚のこと——」

 

「あとは、えっと、んっと…………色々よ! 色々は色々よ! テンのバカ! おたんこなす! とーへんぼく! ちゃらんぽらん!」

 

「ちゃらんぽらんは初めて聞いたな。あと、分かったからその手を止めろ」

 

 

抵抗待ったなしに鬱憤を連射するエミリアにテンは成す術なし。単発やバーストならまだしも、フルオートで闇雲に放たれるそれらを防ぐ手立てはない。勿論、弾は無制限、反動ゼロのチート武器。

 

飛びつき直後、銀髪を大きく靡かせながら体を起こしたエミリア。テンの腹部に跨る彼女はテンの胸をポカポカと叩き始めたのだ。

 

言葉だけでは飽き足らず、ついに実力行使。

 

色々な意味でテンに心を許す彼女に遠慮という言葉は無い。テンとエミリアの関係性にその言葉は適応されず、そのせいでテンはポカポカを両腕で防ぐ羽目に。これで割と痛いのが辛い。

 

 

「エミリアが元気そうでよかったな」

 

「そうだね。これでやっと、ボクも一安心」

 

 

そう言ったのは腕を組みながら壁に寄りかかるハヤトと、彼の顔の真横に浮かぶパック。テンとエミリアのわちゃわちゃを少し離れたところから見ながら、二人して頷き合った。

 

今までのエミリアを知っているなら尚更だ。元気になってくれて良かった、その一言に尽きる。その代わりとして、未だにテンが彼女からの制裁もといポカポカを受け続ける羽目になっているが。

 

 

「当然……だな?」

 

「当然だとも。リアを悲しませたんだから、そのくらいの制裁は受けてもらわないと」

 

 

「や、やめなさい!」と痛がるテンを見るパックは妙に清々しそうな表情。ハヤトの心を読んだ彼は、頭の上に小さく疑問符を浮かべるハヤトと同じポーズ。腕を組んで「ふん」と清清したように鼻を鳴らしていた。

 

そんな彼を真横にハヤトもまた鼻を鳴らす。彼の場合は、ただ単に絵面が面白かったから鼻で笑っただけ。女の子に跨られて愚痴られる相変わらずな親友の姿に、不意にもほのぼのを感じていた。

 

 

「もぅ。ほんとうに、何回も何回も、心配……かけないでよ」

 

 

回数にして約五十回のポカポカ。

 

それは彼女の気が静まるにつれて徐々に勢い衰えていき、最後にはテンの胸を肩たたきのような弱さで叩くだけになっていた。

 

それでも止めないところ、彼女の怒り度合いがテンにはよく分かった。今、感じている痛みが、彼女の痛みの何億分の一。

 

行き場のなかった苦しみが、テンの体に叩きつけられている。彼だけにしか発散できないものを、エミリアは子どものように叩きつけている。

 

パックと彼の前でだけは精神年齢が容姿とはかけ離れるエミリア。紫紺の瞳が潤わせながら「ばか……ばか……ばか」と。それしか言えないから、それを弱々しく吐き捨てる。

 

そんな彼女の手が掴まれたのは、その時のことだった。突然の行動に息が詰まり、はっとするエミリアにテンは「とりあえずさ」と宥めるような声色で言葉を繋ぎ、

 

 

「身体、起こしたい。から、退くか足にずれるか、どっちかにしよっか」

 

「………ずれる」

 

「ん」

 

 

腹部にあった命の重みが膝付近に移動すると、テンは体を起こす。この絵面は数分前にも見たなと不意に思いつつ、彼は背中の痛みに意識を引き寄せられた。

 

強打したせいか、地味に痛み始めている。仕方ないといえば仕方ないだろうか。そうだろう。これもまた受け入れるべき痛みだと無理やり納得させた。

 

とりあえず一段落したかと、テンは吐息。溜まった酸素を肺の中から吐き出すと、正面で今にも泣いてしまいそうな表情をしているエミリアを見た。唇を固く閉じているのが見える。

 

この短時間で二人の女の子にこんな顔をさせてしまうとは、ひどい男だと思う。こんな風になるつもりじゃなかったのに。涙を見たくないから、頑張ったのに。努力の甲斐なくだ。

 

己の弱さが招いた涙。もっと強ければ、こんなことになることもなかったろうに。分かってはいたが、やはり胸にひどく残酷に突き刺さってくる。何度となく貫通したそれが今、再び。

 

故に、その償いをする必要が今のテンにはあった。

 

 

「色々と言いたい事とかあるけど。まず初めにこれだよね」

 

 

伸ばした自分の足に跨るエミリアを一直線に見つめ、テンは落ち着いた声で言う。眼前、手を伸ばせば簡単に頬に触れることのできる彼女に、テンは笑いかけた。

 

変に強張った肩が凍えるように震えている。嗚咽を飲み込む喉が何度も唾を飲んでいる。溢れる感情を抑える口元が固く閉ざされている。涙を堪える瞳が陽光を反射させて薄く煌めいている。

 

それら全てを一瞥し、テンは頭を下げた。

 

 

「心配かけてごめん。辛かったよな……俺のせいで、すごく苦しめちゃったよな。ごめん、なんて言葉で済むことじゃないことは分かってる。けど、言わせてほしい」

 

 

誠心誠意。テンはエミリアに謝罪の言葉を告げる。その言葉には、溢れんばかりの悔恨の念が込められていた。

 

エミリアを悲しませたことへの後悔。自分の力不足への後悔。こんな風でしか償えないことへの後悔。もう見たくないと誓った大切な人達の涙——それを流させたことへの後悔。

 

全て自分が招いたことだ。自分のせいだ。自分がこんなんだから今がある。責任は、自分の肩に重くのしかかっている。一生の責任が、傷痕として深々と刻まれている。

 

だから言う。許されなくてもいいから言う。許されるために謝るんじゃなくて、謝りたいから謝る。

 

 

「弱くて、ごめんなさい。ちゃんと無事で帰ってこれなくて、ごめんなさい。自分を犠牲にしないと近くの人を守れない俺で、ごめんなさい。………それを待つのが一番苦しいよな。それを、二回も。ほんと、ごめんなさい」

 

 

「なにやってんだ、俺」と、ゆらゆらと首を横に振るテンが同じ罪を同じ人に重ねた事を理解し、項垂れて自嘲。少し離れたところで壁に寄りかかりながらこちらを見守るハヤトを見ると、自分との差が垣間見えて、自嘲は加速した。

 

傷痕も、後遺症も、ハヤトは何もない。何事もなかったかのように彼は目覚めている。対して自分はどうだろうか。強大な敵と戦ったことは共通しているのに、こんなにも差が開く。

 

彼のようになれたら、どれほどよかったのだろうか。彼のような、周りの人間を後ろ姿で安心させられるような——そんな人間になれたなら、悲しむ人もいなかったのに。

 

弱い。弱すぎる。足りない。足りなさすぎる。

 

何のために鍛錬をしてきた。何のために強くなってきた。守るため——なら、どうしてエミリアは、レムは、涙を流している。悲しい顔している。

 

守れてないじゃないか。心を、一番守らなくちゃいけないものを蔑ろにして。何のための力だ、それができなくて力に何の意味がある。

 

下手をすれば死んでいたんだ。自分は、彼女達に二度と癒えない傷を負わせるところだったんだ。取り返しのつかないことを、自分はしかけていたんだ。それで騎士を名乗るとか、冗談も大概にしてほしい。

 

 

「……いい」

 

 

止まらず、終わらない後悔。

 

レムと同等の自己肯定感の低さを持ち、未だに悪い癖として偶に発症する彼のそれを止めたのは、エミリアの絞り出したような掠れた声だった。

 

ふとした瞬間から自分の中に引きこもりそうになっていたテン。意識を外側へと向ける彼がふっと顔を上げると、視界に飛び込んできたのは頬を伝りながら滴り落ちる雫。

 

エミリアが、泣いている。

 

 

「いい……いい、からぁ。そんなに自分を責めないでぇ……。ゆるす……許す! 許すから! 私はテンを許すから! それ以上、がんばった自分をいじめちゃだめ!」

 

 

言霊に込められた想いと共にエミリアの両腕が伸びる。掴んだのはテンの両肩。呼吸が落ち着かない中でも懸命に言葉を紡ぐ彼女は、ぐっと、指先一つ一つで鷲掴みにするような掴み方で彼を捕まえる。

 

自分をいじめる——そう言われたことはなかったテン。エミリアだからこそ言える言い回しに驚き、彼の瞳が彼女に固定される。その一言で根こそぎ意識を掻っ攫われた。

 

引き寄せられた意識。そのまま距離を詰めたエミリアは掴んだ肩を揺さぶり、テンに強く言い聞かせる。

 

 

「テンは弱くない! とっても優しくて、強くて、頼りになるってこと、私は知ってる! すごーく辛くたって、へっちゃらな顔して頑張れる人だってことを、私は知ってる! だって、頑張るテンの姿をたくさん見てきたもの!」

 

 

自信満々に語り、エミリアは大袈裟に頷く。一度ではなく何度も。テンのそれは間違っているのだと、そう仕草で伝える。少々大袈裟すぎるが、彼女にはそれをできるだけの事実があった。

 

だって。自分がどれだけ、彼の頑張る姿を見てきたと思っている。

 

まだお屋敷にきた頃、毎晩のように慣れない魔法の鍛錬を何時間もして、武器の鍛錬もして。その上、ロズワールに半殺しにされてまで強くなろうと彼は必死に頑張っていた。

 

何度失敗しても、何度気絶しても、何度死にかけても、何度打ちひしがれても、諦めることだけはしなかった。

 

それをエミリアは知っている。窓から心配そうに見守っていた彼女は、彼の必死な表情を知っている。自分の騎士になるために頑張っている背中を、知っている。

 

それを否定することは許さない。テンがテン自身を否定するなら、自分がテンを肯定する。その努力が無駄であったと嘆くならば、そんなことはないと何度でも言ってやろう。

 

 

「それにね。生きててくれただけで、私は満足なの。私は、テンがこうして元気でいてくれることがすごーく嬉しい」

 

「でも——」

 

「もちろん、傷付く姿は見てて怖いからイヤよ。テンのあんな姿は、もう見たくない。でも、また前みたいに平気でいてくれる、それがなにより。傷付いたし、死んじゃうかと思ったけど、でもいい」

 

 

宝石のような輝きを放つ雫を何滴も溢しながらエミリアは笑う。色々とあったし、色々と言いたいけど、そのようなものを全て無視して彼女は輝かしい笑顔を見せる。

 

テンがまたこうして自分の前に元気な姿を見せてくれたことが、たまらなく嬉しいから。彼の姿を見ていると、不思議と心が満たされていくから。

 

 だから、

 

 

「生きててくれてありがとう、テン。生きて、またこうして私に元気な姿を見せてくれてありがとう。なんでかな。テンの元気いっぱいな姿を見るとね、悲しいこととか苦しいこととか、全部忘れられるの」

 

 

「だから、すごーくありがとう」と。そう言ってエミリアは笑顔に笑顔を重ねる。幸せいっぱいに弾けた彼女の笑みが瞳に映ると、テンはいつの間にか止まっていた呼吸を再開。

 

いつ、呼吸は止まった。分からない。分からないけど、とりあえず彼女の笑みがレムと重なったのは分かった。重ねていいのかは分からない。分からないことだらけだけど、重なったことだけは明確だった。

 

 

「これは素直に、ありがとう、って言わせてもらおうかな。テン」

 

 

そんな時、ハヤトと一緒に存在感が空気となりつつあったパックがテンの右肩に着地。幸せ弾ける愛娘の姿に胸を打たれたような彼の声に、普段のような飄々さは一ミリたりとも含まれていなかった。

 

基本、どんな状況においてものんびりとした態度を一貫しているパック。重要な話をしていても、そうでなくても、彼の声はテンと同じでのほほーんとしていることが多い。

 

しかし、その彼は今、真面目という言葉が最も適している雰囲気を漂わせている。素直に、心から、本気で、テンという一人の人間に感謝を述べている。

 

彼がこんな姿を見せたのは初めてで、内心、テンは少しばかり驚く。そんな心中を察したようにパックはふわりと微笑み、

 

 

「君がいると安心できる、ってことさ。知ってる? リア、テンが寝てる間は、ずーーーーーーっとしょんぼりしてね。寝てるテンの体を、起きて、起きてよぉ。って無限に揺さぶって——」

 

「パック!」

 

 

真面目な声から爆弾発言が飛び出し、事の重大さを理解したエミリアがパックの口を塞ぐべく彼を奪い取るも、時すでに遅し。話の全貌が明らかとなっていた。

 

頬を赤く染め、途端に焦り出すエミリア。秘密を暴かれた子どものようにあたふたする彼女は「なんで言っちゃうのーー!」と小声を突き刺し。

 

彼女の両手に握られたパックは後頭部を片手でさすりながら「ごめんごめん〜〜」と呑気そうに笑っている。意図してやったに違いない。しんみりした雰囲気を壊したかったのだろう。

 

ならば乗ってやろうじゃないかと。テンは息をこぼすように笑うと悪戯に口角を釣り上げ、

 

 

「へぇ。そーなんだ」

 

「ち、ちがうの! あれはただ、ただ、ただ……。えっと、だから、その……そうじゃなくて………あの……うぅ……。んもぅ! パック!!」

 

「なぁにぃ?」

「知らんぷりしないでよ!」

 

 

完全に存在感空気となったハヤトが微笑ましそうに笑う中、彼の視界の中で三人の感情が混ざり合う。

 

のんびりと笑うテン。恥ずかしがるエミリア。のんびりと笑うパック。三人中の二人が適当な性格をしているため、間に挟まれたエミリアがてんてこまいな絵面。

 

これぞ、ほのぼの。屋敷でよく見る光景がハヤトの前に広がっていた。そんな様子に、たまにはこうして、それを外から眺めるのも悪くないとハヤトは思っていたり。

 

以前。テンが、人々が団欒している場に溶け込まず、少し離れたところからその様を眺めている理由として「俺は楽しそうにしてるのを見るのが楽しいんだよ」と話していたが、なんとなく理由が分かった。

 

「忘れて! 今のは忘れてー!」とテンの頭をポカポカ叩くエミリアに、テンが「分かった分かった。絶対に忘れない」と即答し、結果として「ごめんね〜〜」と適当に謝るパックに八つ当たりするエミリア。

 

三人の反応が一周すると、またもう一周。一周すると、またもう一周と。同じ反応を何周も繰り返し始める。その度にエミリアの頬がどんどん紅潮していくのだから、テンとパックの揶揄いも止まらない。

 

 

「愛娘の笑顔が戻って良かったな。パック」

 

 

そう、小さく呟きハヤトは永遠とループする会話に耳を澄ませる。理由があってハーレム反対な彼も、今の仲睦まじい雰囲気では引っかかる気分にもならなかった。

 

 

「と に か く! 忘れること! パックが言ったことはぜんぶぜんぶぜーんぶ忘れて! 別に、テンがいなくても、ぜ……ぜんぜん平気なんだから! さ、さ、さみしく、なんて………ないんだからね!」

 

「うん。そうだねぇ。寂しくないねぇ。強い強い。ひとりでお留守番できてえらいねぇ」

 

「テーン!」

 

「はいはい分かりました。もう、言いません」

 

 

揶揄いに揶揄われたエミリア。その一言がトドメとなった。

 

ぼふっ!と音を立てて頭のてっぺんから湯気が上がると、テンが伸ばした足の膝付近に座っていた彼女の体が前へスライド、僅かに揺れ動くと太ももに移動。

 

一段と距離が縮まると、パックを手放すのと引き換えに空いた両手がテンの頬を板挟み。パチンと乾いた音が小さく鳴り響くと、物理的な方向性で口封じを図り始めたエミリアにテンは両手を軽く上げた。

 

口を閉じ、眼前で、プクっとかわいらしく頬を膨らませているエミリアと睨めっこ。変に泳ぐ紫紺の双眼と無言のやりとり。

 

そんな中、彼女の後ろの方でハヤトが「お前も大変だな」とでも言いたげな苦笑。罰から逃れたパックがクスクスと失笑しながら「身代わりありがとうね」と合掌するのが見えた。

 

他人事にされているが、全く他人事じゃない。止めてくれてもいいものを。もし、今この瞬間にレムが部屋から出てきたらどうするつもりだ。

 

修羅場まっしぐら。ラムを起こしに行ったということは、彼女の身支度も一緒に済ませるはずだから、それが終わる前にエミリアとの一件を終わらせたいところ。

 

尤も、こうして彼女と絡んでいる時点でレムに悟られそうな予感しかしない。彼女は嗅覚が優れている——この一文だけで、もう全ては遅いのだと思えてしまうのが恐ろしい。

 

 

「あんまり揶揄わないで。寂しかったのは嘘じゃないし、パックが言ってたのは本当だけど………、テンに知られるのは……すごーく、恥ず、かしい、よぉ」

 

 

赤みを帯びた頬を隠すために俯き、声を上擦らせながらエミリアは恥ずかしがる。

 

本気で恥ずかしかったのだろう。頬から離れ、テンの服を握り始めた両手には明らかな力が込められていた。

 

 

 ーー悪ノリが過ぎたかな

 

 

自分らしからぬ行動を振り返り、途端に罪悪感に駆られるテン。心の中でそう呟いた彼は無意識に彼女の頭に手をそっと添え、

 

 

「少し揶揄いすぎた。ごめんね」

 

「あ………」

 

「おやおや?」

 

「あ。やりやがった」

 

 

自然な流れでテンがエミリアの頭を撫でる。さらさらした銀髪に指を滑り込ませ、寝癖を手櫛で整えていくように、一定の間隔で上から下へと撫で下ろした。

 

その様子に三人の反応は三者三様。

 

不意なテンの行動に一瞬だけ肩を跳ねさせるも、しかし戸惑う様子を見せないエミリア。彼女は目を瞑って気持ち良さげに目を瞑る。抵抗しないまま、甘えるように頭を近づけた。

 

あまり見ない愛娘の姿に首を傾げ、薄々勘づいてはいた彼女の変化に眉毛をピクリと反応させたパック。親心というものが激しく反応する絵面だが、嫌がる素振りを見せないエミリアに空気を読んだ。

 

親友の明らかな変化に驚愕したハヤト。自分が寝ている間に一体何があったのかと彼は目を見開いた。なにか、色々と吹っ切れたような感じは滲み出ていたが、まさかこうなるか。少し違和感に感じてしまう。

 

そして、その違和感は当人であるテンも気付いた。撫で始めから数秒して手が止まると、目の前に広がる光景を凝視。

 

視覚情報を正確に把握すると、彼はやらかした事実にギョッとする。自ら作り出しておきながら——と思うが、完全に無意識の領域だった。

 

自分は無意識にエミリアの頭を、

 

 

「やべっ……。ごめ「だめ!」

 

 

ごめん、と。咄嗟に手を引こうとしたテンの行為はエミリアの両手によって阻止される。心地よい感覚が離れる気配に嫌がった彼女が、自分の頭を撫でる手を捕まえた。

 

焦り、困惑し、いつドアの開閉音が鳴るか分からずレムの姿が脳裏から離れていかないテン。手を離そうとしたことをお気に召さなかったエミリアの父親(パック)が冷気を放ってきている事に彼は戦慄。

 

一瞬にして、色々な意味で窮地に立たされた彼は冷や汗が垂れそうになるが。エミリアは依然として気持ち良さげに喉を鳴らし、

 

 

「もっと」

 

「はい?」

 

「もっと撫でて」

 

 

「はい、死刑確定。レムがこわいぞぉ」と。ハヤトの声が恐怖を煽ってくる最中、彼女はそう言いながら掴んだ手を自分の頭に乗せた。テンのことなど気にならない彼女は、自分の欲求を満たすのみ。

 

今、テンには二つの選択肢がある。

 

一つは、このままエミリアの頭を撫でる行為を続けること。

 

メリットとしては、パックに凍死させられずに済む。常にエミリアの味方である彼は、彼女の抵抗を押し切ってテンが撫でを止めることを許さないらしい。冷気が背筋を舐めている。

 

デメリットとしては、レムがラムの部屋から出てきた瞬間に修羅場まっしぐら。程度は不明だが、ヤンデレムが発動し、きっと自分は大変な事になる。あとは、ハヤトの視線が尖った。

 

もう一つは、抵抗を押し切ってこの行為を終わらせること。

 

メリットとしては、レムにこのことがバレずに済む——と、思いたいが。残念なことにもう時すでに遅しな気配しかしないため、実質メリットはゼロに等しい。

 

デメリットとしては、ロズワール邸に氷像が飾られる未来が確定する。

 

選択肢は二つに一つ。もはやこうなれば、いっそ開き直ってレムのお咎めを甘んじて受けるしかない。隠そうとすればより一層のこと怒られるなら尚更。

 

ならばもう堂々としていた方がいい、はず。

ちゃんと説明すれば分かってくれる、はず。

流石にそこまでヤンデレムじゃない、はず。

 

 

「ハヤト。あとはよろしくね」

 

「おう、任せろ。お前の骨は拾ってやる」

 

 

悟ったテンの目つきが覚悟を決めると親友に後のことを託し、頼れる相棒に力強く頷かれた彼はエミリアの頭を撫で始める。

 

可愛い女の子の頭を撫でるという至福の時間のはずが、そのせいで死に向かう人間が最期にする別れの挨拶に見えて仕方ないハヤト。思わず吹き出して笑った。

 

そんなドラマが静かに展開されていることなど眼中にないエミリア。彼女は今、テンに頭を撫でられてご満悦。柔らかな手つきから感じる温もりにくすぐったそうに身じろぎしながらも、嬉しそうだった。

 

こうされると、とても落ち着いてくる。それに、安心もしてくる。どうしてかは分からないけど、心臓の高鳴りが静かになってくれそうになかった。不思議と体がぽかぽかしてくる。

 

 

「因みに、いつまでこうすれば?」

 

「私が満足するまで」

 

 

遠慮知らずな我儘お嬢様が二人に増えた確信を皮肉にも得たテン。逃してくれそうにないエミリアに、彼は苦笑することもできない。これはもう、本格的に不味い状況に陥ってしまった。

 

けれど、彼は彼女の頭を撫でる事に専念する他にない。手を止めればエミリアが反応し、エミリアの反応にパックが反応して氷像。止めなくてもレムがやってきてバッドエンド。

 

つまり、道は閉ざされた。どの道、自分には避けられない未来が確定しているのだ。

 

 

「なんだろう。なんで俺、こんなしんみりしなくちゃいけないんだろう。絵面と心境が合ってない」

 

「それが、お前の罪だからだ。受けるべき罰は受けとけ。大丈夫だ。なにも死にゃしねぇよ」

 

「お前はレムの甘えっぷりを知らないからそんな言葉が言えるんだ。経験者は語る、だぞ」

 

 

ため息を一つ。なぜこんな気持ちでエミリアの頭を撫でる必要があるのか。考えても無駄だと判断した彼は、ふと、自分とエミリアの体勢に意識が寄った。

 

今の二人の体勢。床に足を伸ばして座ったテンと、その太ももに跨るエミリア——確実に危険な体勢をしている。

 

 せめて、これだけでも。

 

 

「この体勢もそこそこにマズイ……。エミリア、立ってもいいかな? 足が痛くなってきちゃってさ」

 

「うん。いいわよ」

 

 

気分を良くしたエミリアが声を弾ませると、彼女は立ち上がる。意見がすんなりと通った事に安堵するテンの手を掴んで座り込む体を引き上げると、彼女は「ん!」と頭を突き出した。

 

撫でろ。ということか。引っ張り上げたのも、早く撫でてほしいことの裏返しだと思うべきか。なんとも甘えん坊な少女だこと。

 

なんにせよ、撫でなければこの背中を舐め続けるお父さん——終焉の獣(パック)の絶対零度に魂を冷却されかねない。

 

おかしい、その対応は絶対におかしい。

 

なんてことをテンは考えつつ、「しょうがねぇなぁ」とエミリアの頭に手を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——なにが、しょうがないのですか?」

 

 

 

 

 

 







次回 ヤンデレム 降臨


※過度な期待はしないでください。

どのタイトルが気になりますか?

  • 雷の鳴る夜に
  • (ソラノ・)レムの幸せに溢れた日々
  • お酒少女達には勝てない
  • 恋人っぽいこと
  • ありふれて、ほのぼのとした一日

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。