親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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タイトルが全てを(以下略)のやつです。ロズワール邸に使用人として働くなら外せないお話だと思ったので。

ただ二人が村に行くだけで一話分書くって、どんだけゆっくり進むんでしょうね。この小説。





いざ、アーラム村へ

 

 

テンが魔法の鍛錬を始めるようになってから三日後。魔法を使うこと自体に慣れることを目標とする彼はそれを着々と達成しつつある。

 

まだ初めて三日しか経ってないが、魔法を使うだけならマナをゲートから取り出すことに慣れてきたから、割と安定してきていた。尤も、無意識下でそれをするのはまだ遠い道のり。

 

それを自覚しているからテンも寝る間を惜しんで魔法の練習に時間を費やしていた。

 

 故に、

 

 

「…はわぁ」

 

「仕事中にあくびなんて、感心しないわね。少し待ってなさい。冷水持ってくるから」

 

「待て待て待て」

 

 

厨房にて、昼食の支度をしている使用人四人の中でテンが大きなあくびを眠たそうに一つ。その声からしても彼が眠そうなのは理解できた。ただナイフ片手にそれをされると危険。

 

隣で作業するレムが気にかけるように顔を覗き込むなどの動作を受けたラムが、冷水を容器に溜め始めた。

 

が、それを止めるテンが顔を左右に軽く振った。

 

 

「一回のあくびでそこまでしなくても。それに、昼時って眠たくなってくる時間じゃない?」

 

「人それぞれね。ラムの場合は規則正しい生活を送ってるから、そんなこともないけど」

 

「それ、遠回しに俺のことディスってるよね」

 

 

苦笑するテンを横目にラムは容器に溜めた冷水の中へと両手を突っ込み、至極当然だとでも言いたげな表情で手に溜まった水をデコピンの要領でその顔面へとぶちまけた。

 

「うへぇ」と変な声を上げ、近くにあったタオルで軽く水分を拭き取るテンにラムは「ハッ」と嘲笑し、

 

 

「さっさと目を覚ましなさい、テンテン。今日は脳筋と二人で買い出しに行くんだから仕事も早く終わらせるの。寝ぼけてる暇があったら身を粉にして働くことね」

 

 

言いながらいつも通りの皮剥き作業へと戻るラムにテンも「へーい」と片目を擦る。依然として眠たげな態度は抜けてないが、少しはマシになったようだった。

 

実際のところ、最近のテンは睡眠時間が限りなく少ない。仕事が終わるは大体八時半。そこから仕事関係の処理をして夜の九時頃。だから仕事が終わるのは実質九時。そこから三十分間ほど休憩を入れて魔法の練習の開始。

 

終了するのが大体夜中の二時を半分過ぎた時間帯。そこから浴場で汗を軽く流してそのまま就寝するのが三時。そして、太陽の光に叩き起こされるのが早朝五時。

 

長くても二時間しか睡眠を取っていない生活がここのところ続いていた。その甲斐もあって確実に魔法には慣れてきたが、いかんせん眠い。

 

若干のショートスリーパーであるテンは一時間寝ればその日は活動できるが、翌日の午後に反動がやってくる。とてつもなく眠くなる時間が約十五分の間、彼の心を眠りに誘惑してくる。

 

その時は今のようにラムが叩き起こしてくれるのが一連の流れ。今のところは、彼女のお陰で睡魔もフルボッコにされているようだ。

 

 

「…あまり仕事に支障を来さないようにしてくださいね」

 

「へーきへーき。一週間もすればこのサイクルにも身体が慣れてくるよ」

 

 

野菜を細切りにするテンの隣。鍋で具材を煮るレムが平然とした声で話す。その声には大した感情も宿っておらず、ただ言っただけのように聞こえたのはきっと勘違いだと思うテン。

 

あの日以来、レムの紅茶は飲んでない。基本的に夜は鍛錬に回しているから部屋にいることなんて殆どないし。そうなれば必然的にレムとお茶する時間もなくなる。

 

それを察してなのか彼女もその話を切り出す事が少なくなってきたような気がする。別に紅茶を飲む相手くらい、いくらだっているからさほど気にかけることでもないと思うが。

 

 

「そういや、テン。俺も今日から魔法の鍛錬をするからよ。一緒にやらね?」

 

 

そんな考えは、ラムの正面で椅子に座りながら皮剥きを担当するハヤトに声をかけられたことで片隅に押しやられた。

 

背中越しに彼の声を受けて「んー」と悩むテンは振り返らないまま「そうねー」と繋げて、

 

 

「いや、ここは別々でやろう。魔法の使い方はロズワールに教わったんでしょ? ならあとは反復作業あるのみ。俺も一人の方がやりやすいし」

 

「えーー。お前がそう言うなら強制はしねぇけどよ。どうせなら一緒にやろうぜ。アドバイスとかし合いながら楽しくとかさ」

 

 

「それによ」とハヤトは自慢げに言葉を重ね、

 

 

「俺、ロズワールから言われたんだ。お前よりも魔法の適性が高いから、一緒にやれば飛躍的に伸びるだろうってよ。だから、やろうぜ。俺とやれば、お前にもいい影響はあるはずだ」

 

 

楽しげな様子で語るハヤト。彼ら自分とテンが鍛錬の中で切磋琢磨する光景を脳裏に思い浮かべてワクワクさんとなった。

 

しかし、テンはそうでもないらしい。

 

 

「ーーーー」

 

 

たった今、ハヤトが言った言葉を耳に入れた途端テンの動きが止まった。

 

野菜を切る音が一定のリズムで聞こえてきていたのがピタリと止み、問いかけに対する答えを発さないせいで部屋に静寂が不意に流れ始める。

 

きっとハヤトは何の悪意もない、親友関係として当然の発言をしただけだ。二人で強くなろうと言う彼からすれば普通のことを言っただけに過ぎないのかもしれない。

 

だから、その発言を止めることもできない。故に一人でやりたがるテンの手を掴んでしまった。

 

それをどう受け取ったのかはテンにしか分からない事。しかし、作業を止めるテンは小さく息を溢すと、

 

 

「一人がいいんだよ。それくらい分かれ」

 

 

テンの言葉を聞いた瞬間、ハヤトの体は数秒間の停滞を許し、訪れた歪な感情に無意識に背筋が伸びる。聞いたこともない低いトーンのテンの声に、感じたこともないような怒気を察した彼の肩が一瞬だけ大きく跳ねた。

 

それは彼に限った話ではない。

 

レムやラムも、いつもの気怠げな声とはまるで違うそれに視線を向けた後、自分の作業に戻った。気にしつつもそれから目を逸らすように。

 

一瞬ではあれど、初めて聞く彼の声に動揺してしまった三人。当の本人は何事もなかったかのように作業を再開しているが。

 

たった一言で部屋の温度が下がったと錯覚したハヤト。突然に、予兆もなしに、何が彼の琴線に触れたのか、それは理解できないが「ま、まぁ。分かったよ」と笑みを作ると、

 

 

「つかよ、お前いつも何処で鍛錬してんだ? 休憩がてらに庭園に出ても見つからねぇしよ」

 

 

そうやって静かになった空気をもとの暖かい空気に戻した。先程の空気は例えるなら、背景で流れていた音楽がピタリと止んで静寂に包まれるような不穏な空気が流れていた。

 

そうだと察せる三人もさすがだが。僅か一言でそうさせるテンも中々に恐ろしい。あの空気は変えなければならない。それに、ハヤトが空気を戻しに来れば必ず乗ってくれる人はいる。

 

またしても背に受けた言葉に「んー?」と首を回すテンは「そうねー」と繋げて、

 

 

「ないしょー」

「いやらしい」

 

「まだ何も言ってねぇよ。てか、返すの速ぇな」

 

 

ラムが返すまでコンマ数秒。自分の言葉を予期していたのかと思ってしまうくらいの毒舌の速さに苦笑するテンに、いつもの空気は戻ってきたかと安堵するハヤト。

 

見れば、ラムも腕を組みながらハヤトに「これで満足かしら」とでも言いたげな表情。ラムもラムであの凍りついた空気は変えねばと密かに考えていたらしい。

 

いつもは適当な癖に、こういう場面の時は真面目に対応してくれるラムにハヤトは「あんがとよ」と彼女にしか聞こえない声で呟き、ラムは鼻で笑うことを返しとした。

 

そんな二人の頑張りなど勿論、テンは知る由もない。ただ、部屋の空気が戻っても彼の中では空気が戻る事はなく。

 

 

「お前といると、自分が悲しく思えてくんだよ」

 

 

誰にも聞こえない声で寂しげに呟いた声は、彼の中に大きな悩みの種を植え付ける。決して解決することのできない問題。埋めることのできない大きな溝。超えることの不可能な壁。

 

 ーーお前よりも魔法の適性が高い。

 

今の発言は、それらを彼にとって改めて認識させるのには十分で、心を抉るにしては痛すぎる一撃だった。

 

 

 

 

 

その、誰にも聞こえないはずの声が。たった一人の少女の耳に聞き届けられていることなど、テンは知らない。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「んじゃ、行ってきまーす」

「パパっと行って帰ってくるぜ」

 

 

そんな言葉をかけて、二人は予定通りにアーラム村なる場所へと出かける。時間的には午後の四時頃、顔出しついでに買い出しへと駆り出されたのだ。

 

アーラム村とは領主の屋敷のすぐ側にある村のことで。比較的規模が小さく、住んでいるのはせいぜいが三百人前後だとか。距離としてはおおよそ、徒歩で二十分ほどの距離。直線距離にすれば三キロもない程度の距離だ。

 

その道も分かれ道は何個かあるものの、順番さえ覚えていれば間違える事はなく。迷うことはほとんどない。

 

 

「にしても、アーラム村か。実際に行くことになるとは。人生何があるか分からないもんだね」

 

「いや、これはねぇだろ。生きてるうちに異世界召喚されるって」

 

 

トコトコとアーラム村への道を歩く二人。気温も過ごしやすいもので、そよ風が心地いい散歩日和ということもあって清々しい気分になった。

 

アニメの世界だけだったお話が今自分の目の前にある。初めこそは戸惑ったが、今ではすっかりその世界に溶け込んでいる二人はこれから訪れる村へと思いを馳せる。

 

原作ではちょっとしか触れられてなかったから何があるのか少々気になるところ。

 

 

「まぁ、行ってみないと分からないということで。さっさと行こうよ」

 

「おう」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

二人が村の入り口を潜るなり、まず出迎えたのは村長らしき人と老人一人だった。年齢は七十近くだろうか。結構元気そうなご老人二人にテンは取り敢えずお辞儀すると、

 

 

「えっと…ロズワール邸で使用人として扱われていますソラノ・テンです。こっちは」

 

「カンザキ・ハヤトだ。よろしくな!」

 

 

お辞儀するテン、グーサインのハヤト。礼儀というものがなってないと思うテンだが。対する老人二人の反応は温かなものだった。

 

いや、少々温かすぎるがしれないとテンは自分の尻に感じる寒気に驚きながらも気づいた。

 

 

「うっへぇあ!?」

 

 

村長らしき老人が自分の尻を弄っていることに反応し、背筋を伸ばして飛び上がるテンが親の背に隠れる子のようにハヤトのことを盾に。急な逆セクハラに変な声を上げた。

 

気味の悪いお婆さんに目を細めるテン。そのお婆さんは弄った手をわきわきさせながら景気良く笑う。

 

 

「なはは、若返る若返る。お二人の話は聞いてるよ。頑張ってるんだってねぇ。若いのに偉いもんだねぇ」

 

「ハヤト、逃げよう。この人やばい。若返るとか言いながらセクハラしてきたよ」

 

「っはは! なんだ、硬い態度取られるよりその方が俺としては助かるよ」

 

 

猫のように毛を逆立てて警戒するテンを背中にしたハヤトは楽しそうに笑みを浮かべる。初顔合わせだからどうなるかと思ったが、村長的な人がこれならきっと周りも大丈夫だろう。

 

尻を触って若返るのは意味不明だが。目の前で元気そうに笑っているお婆さんが悪い人だとは全然思えない。

 

 

「ワシはミルデ・アーラム。この村の村長じゃ」

 

「ワシはラスフム・アーラム。この婆さんの弟じゃよ。この村ではムラオサとも呼ばれておる」

 

 

 

上からミルデ・アーラムことこの村の村長。一眼見てもこの人が村長だなと理解できるような穏やかな雰囲気を纏ってる優しそうなご老人。

 

どうやら、尻を触るのはテンに限ったことではなく、若者を見つけたら手当たり次第「若返る若返る」とか言いながら触りにいくのだとか。

 

次にムラオサこと村長の弟さん。背の低くて腰の曲がったお爺さんだ。頭頂部が禿げていて、代わりに角のように左右から白髪がみょんと伸びた特徴的な髪形をしている。

 

立派なヒゲも真っ白であり、鋭い眼光も合わせて見た目は完璧に『できる村長』といった雰囲気の村民。簡単にいうと『最近の若いもんはおじさん』らしい。

 

どちらもテンとは別方向のベクトルで癖の強い人間だが。その手に関しては耐性のある二人。特に気にすることもなくスルー。

 

 

「そうなんですね。まぁこれから沢山お世話になると思うので。どうぞ、よろしくお願いします」

 

「なぁんにもない村だけど。いつでも来ていいからね。また尻を触られにおいで」

 

「そんな不穏なこと言われて来る人はいませんよ!」

 

 

本気で勘弁してほしいテンが、尻を隠すためにバックステップという独特な移動方法でその場から早々に立ち去り、ハヤトも一声かけてから彼の後を追った。

 

隣り合う二人。彼らは村を見渡す。

 

村の雰囲気としては、家々が立ち並び中央に大広間があるような、ごく普通の迷うことのない一般的な村。だからこそ、村!って感じがしてテンションが上がるハヤトだった。

 

 

「なんか、普通に迎えられて良かったな」

 

「そうねー。俺としては尻は勘弁だけど」

 

 

散歩ついでに村の中を歩く二人は、すれちがう人に声をかけられながらも流れる光景を眺める。声をかけてくれる人は警戒する様子など一切なく、友好的に接してくる人が全員。

 

レムやラムならば顔見知りだから話しかけられるのは当然だと思うが、二人に関してはまだ顔も知らない赤の他人。

 なのだが、

 

 

「なぜ、名前がバレている」

 

「ラムとレムが言ったんじゃね? アイツらちょこちょこ買い出しに行ってたしよ」

 

 

その一方で二人もまた、いつの間にか存在だけは周知されていたらしい。実際に足を運ぶのは初めてだったにも関わらず、名前まで呼ばれて話しかけられるものだからびっくりした。

 

テン様ーー、と。親しげに呼ばれるものだから。つい普段の癖で「お前誰だよ」と言いかけるのをハヤトに抑えられるなどの事もあったりなかったり。

 

ハヤトの場合は、割とすんなり受け入れていたからいつも通りのハヤトで「おう! 元気か?」なんて気さくに話しかけていたり。性格の違いが分かりやすく対応に出た。

 

 

「でも、良かったな。こんなに優しく受け入れてくれるなんてよ。遠慮せずに歩けるってもんだ」

 

「まぁ、警戒されるよりは」

 

 

聞こえてくる子ども達の遊ぶ声。確かこの村には次期メイドさんとなるペトラがいるはず。その子もあの遊び声の中に混じってるのかと思う。

 

穏やかなものだと二人は思う。感覚としては、過ごしやすい気温の中で公園のベンチに座って子ども達の遊ぶ声を聞いている感覚に近い平和な村。争い事や、大きな喧嘩等も殆どない平穏で豊かな村。

 

静かで、ゆっくりできて、眠くなってくるような。

 

 

「おい、テン。子ども達……こっちに向かってきてる気がしないか?」

 

「……俺達の気持ちを返せ」

 

 

そんな事はなかった。

 

静かだった平穏を壊す存在が真正面からとんでもない勢いで迫ってきている。ハヤトの名前を呼びながら、突進するんじゃないかって勢いで猪の如く迫る存在が。

 

敵勢としては五人と少なくない。対してこちらは二人。否、一人。

 

 

「ハヤト。俺、ラムから貰ったメモを参考に買い出し行ってくるから。あの子たちの相手はよろしくね」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

精神的にも物理にも突き放されたハヤト。背中を前に押されればテンはその直後にダッシュで曲がり角を曲がり、姿を消した。そうなればここにいるのはハヤト一人である。

 

突然の裏切りに呆気に取られつつ、正面からくる子ども達をハヤトは見据える。その中にはペトラの姿もあった。

 

差し詰め、この村の子ども達の何人かと言った具合だろう。無邪気で無防備で、目をキラキラさせながらこちらに向かってきている。

 

ならば、ハヤトがすることは決まっている。

 

「ふっ」と鼻を鳴らし、両手を叩いて大きく広げると、

 

 

「っしゃあ! こいや、ガキどーー」

 

 

 

瞬間、ハヤトの腹に子どもの頭部が突き刺さった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

自分の腰あたりまでしか身長のない、小さな子どもたち。その数は五人。いずれもハヤトに体に木登りのようにして登るなり、ずっとしがみついている。

 

年齢は十歳に満たず、小学校低学年くらいだろう。ハヤトの視線ににへらと笑う少年少女。それにしがみつかれるハヤトはさぞ幸せな気分になることか。

 

鍛えていた身にはさして重くない体重を五人も体に纏わせた彼はそうして笑いかける。

 

 

「それ、やってて楽しいのか?」

 

 

右腕にしがみつくミルドという名前の少年を見やる。子どもらしい少し丸い体型のした心穏やかそうな子ども。「たのしー!」と返してくれたミルドに「そうか」と満足げに頷くハヤト。

 

左腕にしがみつくリュカという名前の少年を見やる。年齢は十歳にも満たないような茶髪の少年。上裸にマフラーと日本ならば捕まりそうな服装のわんぱく少年。「オレも、オレも!」ミルドに続いてしがみついてきた時は少し焦ったハヤト。

 

右脚にコアラのようにしがみつくダインという名前の少年を見やる。つんつん頭のこの中では特に元気のある少年。「リュカだけずりーぞ!」とか言いながら足へとダイブ。

 

左脚にかなりの力でしがみつくカインという名前の少年を見やる。ダインの兄弟と、髪型に大分差のある少年だ。「オレもハヤトに乗らせろー!」と言って笑顔でしがみつく姿はなんとも愛らしい。

 

最後。首を後ろに回して肩車するペトラという名前の少女を見やる。この中では唯一の少女ということもありハヤトの肩を独占中。他にも女の子はいるだろうが、これでは疑似姫プレイ。

 

両腕、両脚、更には肩車。ここまで細かく説明すればハヤトの現状況が簡単に理解できる。

 

 

「わぁー! ハヤト! もっともっと!」

「オレも! オレの方も!」

「腕も振ってー!」

「ハヤトってでっけーな!」

「きゃはは! たかい、たかーーい!!」

 

 

村の中を賑やかな声が歩き回る。声に釣られて人々が視線を向ければ、楽しそうに笑顔を弾けさせる子ども達の姿と、それを見て微笑むハヤトの姿があった。

 

警戒心のカケラもない子どもの全身ダイブを身体で受け止めたハヤト。その後は、子ども達の遊びの輪に入って、幾度も炸裂する打撃や身体を木登りにされたりと大変だったが。

 

ペトラに「肩車して、ハヤト!」と目をキラキラさせて頼まれるものだから。彼女のスマイルに心を射止められたハヤトは快く実行。が、予想外にも「オレも、オレもーー」とペトラを羨ましかる子ども達が体によじ登り、しがみついた。

 

一人当たり二十キロだとしても総重量百キロを超える重みがハヤトの体にのしかかる。が、そこはラムから脳筋と言われるだけはある。余裕の表情で軽々と担いで見せた。

 

 

 そして、今に至る。ただしがみつかせているだけではつまらないと村を散歩することにした結果だ。

 

 

足を動かせば、しがみつく子どもの笑顔が咲き、手をブラブラと振れば、しがみつく子どもの楽しげな声が響く。

 

一歩、歩くごとに肩車したペトラが「わー!」といつもよりも何倍も高い視線の高さに歓声の声を何回も上げていた。

 

これだけでもかなり体力トレーニングになるなと思いつつハヤトは周り、大人達からの優しい目線に軽く頭を下げる。自分の姿を見かけるなり微笑ましそうに見てくるものだから気分は休日のお父さん。

 

それも、子どもの数が半端なく多い大家族。子どもを五人も養うなんて大変そうだ。

 

 

「まっ、それも当分先の話だがな」

 

「どーしたー、ハヤト」

「お腹痛いのー?」

「お腹すいたー?」

「もっと脚上げてー!」

 

 

纏う子ども達からの声に意識を引き戻せば、ニヘラと笑う少年たちと目が合う。ペトラは依然として高いところからの景色をお楽しみ中だ。

 

かれこれ数分間この体制を維持しているが、脚と肩車している三人はともかく。腕にしがみついている二人はそろそろ疲れてくるかと思う。が、服の汚れなどそっちのけで靴の履いた脚も絡ませてくるからそうでもなかった。

 

別に構わないけれど、少しは気にしてほしいものだ。しかし、子どもだから仕方ないと許してしまう部分もあって。

 

 

「それこそが、お前達の特権だよな。ほんと、子どもってだけで世界は優しくなる。羨ましいぜ」

 

「なに言ってんだー?」

「頭ぶつけたー?」

「お腹壊したー?」

「もっと脚振ってー!」

 

「どれだけ俺を大食いだと思ってんだよ。あと、さっきから聞いてるぞ、ダイン。無限の彼方までかっ飛ばしてやろうか」

 

 

ハヤトがそう言うと、子どもたちが一斉にけらけらと笑い出す。おそらくはネタとして面白かったというより、『無限の彼方』の部分に反応したのだろう。

 

あまり聞かない言葉で、語呂がいいものを使えば大抵はウケるのは世界を移動しても共通らしい。そんな風に笑われるものだから、ハヤトの頬も自然と釣り上がっていた。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「ハヤト。帰る……よ」

 

 

 

それから数十分が経ち、子ども達と戯れるハヤトをテンが迎えに来て、彼の顔が引き攣った。野菜をいっぱいに入れた袋を両手に抱えるテンが初めに見た光景、それに顔が固まった。

 

見えた、光景。ハヤトが上裸にマフラーを巻いた子どもをジャイアントスイングしていた。それはもう、ズボンが脱げてしまうのではと思うほどに。

 

本気でしているわけではないだろうが、もしこれで子どもがきゃっきゃしてなければ一発通報。虐待と思われても仕方ない光景。

 

さすが子どもパワー。溢れる好奇心と何でも楽しく思えてしまう少年少女にはあの程度、なんてことなかったようで。

 

ハヤトの周りには少年少女が十五人ほど集まっていたのを見ると、まさか全員ぶん回したのではとさえ思える。

 

 

「……お前、怪我させてないよな?」

 

「ったりめーだろ。お前こそ、用は済んだのか」

 

 

リュカを下ろすハヤトがテンから片方の袋を受け取り、中身を覗く。本当は自分もテンと買い出しをしなければならないとだが、どうやらテンが全部終わらせてきたらしい。

 

疲れたように肩を回すテンは頷くと、

 

 

「買い出しは終わったから、さっさと帰ろ。ほらその纏わり付いてる子ども達とバイバイして」

 

「バイバイって、かわいい言い方だな」

「後でぶっ飛ばす」

 

 

怖い笑顔を浮かべるテンに背筋を凍らせながらも、ハヤトは視線をいまだに体中にまとわりついている子ども達へと向ける。

 

少し避ければ離れていく大人と違って「構え構え!」と向かってくる子どもたちと別れるのはハヤトとしても心苦しいものがある。

 

とはいえ、テンが迎えにきたとなれば子どもたちともお別れだ。ハヤトは別れの名残惜しさをいっぱいに瞳に浮かべて、

 

 

「んじゃ、今度また遊ぼうな、お前ら。俺としてはこのまま遊んでたいが、生憎と仕事があるからよ」

 

「えー」

「やだー」

「もっと遊びたいー」

 

「悪いな、また今度だ」

 

 

ぶーたれる子ども達に手を振ってハヤトはいつの間にか歩き出していたテンの背中を追いかける。そうなれば、子ども達も諦めたのか「またなー!ハヤトー!」と元気のいい声を聞かせてくれた。

 

時間としては三十分間しか遊べなかったけどその距離はグッと縮められたことに喜び、個人的に来ようか考えるハヤトだった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「ほーん、楽しそうでなにより。俺がお前を犠牲……犠牲にした甲斐があったよ」

 

「清々しいまでに押し通したな。俺のことを犠牲にしたの認めやがったな」

 

 

アーラム村から屋敷までの帰り道。二人はたわいもないことを話しながらのんびりと歩いていた。

 

屋敷での仕事も夕飯の支度以外は終わり、アーラム村での仕事も終わったから。今日の仕事は終わったようなもの。

 

特に焦って帰る必要もないと、村であったことを話のネタにしていた。大方ハヤトのことを聞いたテンは、楽しそうに話すハヤトにうんうんと頷くばかりで。

 

やはりハヤトは子ども好きだけあって打ち解ける早さも尋常ではないなと思う。子ども達が壁なく接してくるのも一つの要因だろうけど、一番はハヤトの人当たりの良さ。

 

誰にでも壁を作らず、分け隔てなく接することができる彼だからこんなにも早く打ち解けれたとテンは思う。現に、あのベアトリスでさえ徐々にハヤトのことを受け入れつつあるのだから。

 

ツンのデレである彼女は表には出さないだけで、きっと裏ではハヤトのことを受け入れている。ただ受け入れつつある自分を受け入れられないだけだ。

 

理由は……、今は考えなくてもいいと思う。

 

 

「おい、聞いてんのか。テン」

 

「ん? 野菜炒めがどうしたって?」

 

「聞いてねぇな、コイツ。今のどっからその発言が出てくるのか逆に気になるよ」

 

 

自分の世界に浸っているテンに軽めの衝撃。視線を向ければ拳で小突くハヤトが苦笑いしていた。全く話を聞いていなかったテンは適当にはぐらかしたつもりだったが、その甲斐虚しく簡単にバレる。

 

誤魔化し笑いするテンにハヤトは分かりやすくため息をつくと、

 

 

「お前は買い出しの間に誰かと会ったのか?」

 

「会ったよ。一人だけだけど、マキジっていう青年団の団長をやってる人だった」

 

 

青年団。村の若者で結成された集団だ。その中の角刈りの体育会系っぽい声の大きいリーダーである人。テンが会ったマキジさん。

 

青年団とは。噛み砕いて説明するならば、村に何かあった時に動く人たち。日本でいう地元警察的な扱いを受ける集団のこと。とはいえ、全員がただの村人であるため武力は低い。

 

 

「青年団なんてものがあるのか。面白そうだな」

 

「お前も知ってると思うけど、あの村の近くには魔獣の森もあるからね。戦える人はいた方が少しはマシになるのではと。結界の管理も、その人達が日替わりで担当してるって話だった」

 

 

頷くハヤトに同調するテンも頷く。

 

魔獣の森ーー二人がここに来て初日に迷い込んだ森だ。まさか、魔獣の森だとは思わなかったし、生息するはずのない竜に追いかけ回されるとも思わなかった因縁の森。

 

もしあの竜がアーラム村に現ていたらと思うと、ゾッとする話だ。青年団と言えどただの若者を集めただけの集まり。超人的な力を宿すわけもない人間が竜に太刀打ちできるわけがない。

 

尤も、そうならないようにエミリアの結晶石が森と村とに境界線を引いて安全を保っているそうだとか。

 

 

「あとね、その青年団なんだけど。さっきの角刈りリーダーを筆頭に、それと似たような人達で構成された『レムラム親衛隊』ってのもあるんよね。俺がそう呼んでるだけだけど」

 

「なんだそりゃ、ファンクラブか?」

 

 

「さぁ?」と首を傾げるテンが興味なさそうに自分の言葉に補足した。

 

『レムラム親衛隊』というのは、とりあえずテンがそう呼んでいるだけの集団であり、本人たちが名乗ったわけではない。なんでも、彼女たちと親しく接する男が気に入らないらしい。

 

ハヤトのいうとうり、確かにファンクラブに近いものをテンは感じていた。角刈り(マキジ)さんはそれを否定していたが、レムとお茶を飲んでいた事を仄めかして伝えたらかなりの勢いで迫ってきた。

 

所謂、双子姉妹ガチ勢だった。これから、アーラム村に行く度にレムラム親衛隊もといガチ勢にネチネチ嫌がらせをされると思うと気が重くなる。

 

 

「まっ、あの二人。顔も整ってるもんな」

 

「そうね。俺らの世界でも可愛い可愛いってみんなの事をヒーヒー言わせてたから」

 

「お前もその一人と」

「えぇ。そうですよ」

 

 

村へと買い出しに行くことも多いであろうあの二人ならば、隠れファンができるのも納得のいく二人。

 

あの美少女と可愛い子を掛け算したような容姿を兼ね備えた二人が村へ足を運ぶとなれば男達が反応しないわけもなく。

 

実際にそうなっているのだから。二人の可愛さは証明されている。あの二人がステージに上がって、レムラム親衛隊が赤と青のペンライトを振り回したら絵面は完璧である。

 

 

「…でもよ。少し思ったんだが」

「ん、どしたの?」

 

 

テンにそこまで説明されて、ある疑問を抱いたハヤト。立ち止まり、テンのことを見ると。

 

 

「守られるほど、二人は弱くないよな?」

 

 

レムとラム。二人は魔法が使えて戦闘経験あり。親衛隊。彼らは魔法も使えず常人並みの力のみ。

 

 それならば、

 

 

「…なら、今日からレムラム親衛隊改め、『双子姉妹ファンクラブ』に名前は変えようか!」

 

「なんだっていいわ」

 

 

絶望的なネーミングセンスを笑い飛ばすハヤト。名案だ! とでも言いたげに鼻を鳴らすテン。

 

 

 

そうしてたわいもない会話はその後も続き、二人は村での話に花を咲かせていた。

 

 

 






ハヤトがどれだけムキムキさんか分かりました? 子ども五人を纏うって文章として成立してるんですかね……。
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