原作の3章に入ったら、プリシラやアナスタシアの口調難しすぎ問題から失踪する予感がします。というか、王選候補者の口調、全員再現できる気がしません。
んーー。勉強して練習あるのみですね。この小説を書き始めた時は「ラムの毒舌口調、どうやんの!?」とか思ってましたし。今もそう思うときは多々ありますけど。
今現在。登場している、原作の登場人物を忠実に再現できている気はあまりしてません。違和感とかあったら容赦なくぶっ叩いてくださいね。参考になりますので。
レムの愛が暴走し、テンが勢いに任せかけたことで危うく一線を越えそうになっていたとしても、時間の針は無感情に時を刻みゆくもの。
二人が暗闇の中で人知れずイチャついていようがいまいが、一日の終わりは刻一刻と迫っている。時間とは常に平等なのだから。その中で何が起こっていようとも、気にせずに進んでいく。
要するに。
「では、食事にしよう。——木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」
ロズワールの号令に従って合掌し、聞き慣れた定型文を耳に入れながら瞑目。頭の中で勝手にその文章が作り出される程に聞いたそれが終わると、ロズワール邸に夕食の時間が訪れた。
その時間はロズワール邸の住民が唯一、同じ場所に揃う時間と言っても過言ではない時間。
仕事をしていたり、勉強していたり、引きこもっていたりと。割と各々のする事で忙しいのがロズワール邸の住民。こうして集まるのは貴重な機会だったりする。
尤も。パックだけは今現在、結晶石の中で眠っている。彼は夕方以降は出てこれない大精霊なのだ。
そんなこんなで、定刻通りに食堂に集まった屋敷の住人。例の如く、ほのぼのとした世界がテンとハヤトを中心に広がると、周りもまたその雰囲気に包まれていく。
「ーー? どしたよ、テン。お前、なにハンバルグと睨めっこしてんだ?」
食事が開始し、席に着く人間が配膳された今晩の夕食、ハンバルグに手をつける中、同じく手をつけようとしたハヤト。彼は机を挟んで正面に座るテンの様子に違和感を感じ、その名を呼んだ。
因みに。ハンバルグとは、日本で言うところのハンバーグのこと。名前のニュアンス的に理解できなくもないが、こうして似たような料理名が出てくるとテンとハヤトは少しだけ混乱したりしなかったり。
名を呼ばれたテン。彼は今、ハヤトが指摘したように眼下にあるハンバルグと睨めっこ中だった。お腹が空いてないのか「ん? あぁ、いやなんつーか」と適当に返事すると、
「俺のハンバルグだけで妙にデカいし、数が多くね? と思ってさ」
右隣に座るエミリアの皿と自分の皿を交互に見ながら言い、テンはハヤトに「どう思う?」とでも言いたそうに視線を向ける。言われてみれば、確かにそう見えなくもなかった。
テン以外の皿に乗っかるハンバルグの大きさは大人の握り拳、一個半より少し大きめで、配られた数は四つだが。テンの皿に乗っかるハンバルグの大きさはその倍以上もあり、個数も八個とそれなりのボリューム。
「どう考えてもデカいし多いな。成長期真っ只中の子どもが親に出されそうな勢い。なんだお前、そういうのはベアトリスにやってやれよ。コイツ、背丈も
「喧嘩売ってんのかしら。………ん? 背丈『も』ってどういうことかしら! 背丈『も』って!」
フォークで乱雑に切った一切れを口の中に入れながら当然のようにハヤトは言うが、頭に手を添えられながら言われたベアトリスは心穏やかではないらしい。
「他に何が小さいのかしら!」と反抗の声を軽く上げながら乗った手を払い、釣り上げた目で真顔のハヤトを見上げて睨む。そこで笑っていない彼の表情から察するに、自分を揶揄ってるわけでもないのだろう。
その様子により一層、怒るベアトリスだ。冗談で言ったならまだしもこの男は本気で言っている。精霊である以上は別に気にしてもないが、改めて指摘されると無性に腹が立つ。
「ま、強いて言えば……………。いや、なんでもねぇ。少なくとも声がデカいのは明らかだな」
「今、ベティーのどこを見ながら言ったのか、詳しく聞かせるのよ」
「気にするなよベアトリス。その人の価値、ってのは物の大小で決まるもんじゃねぇ。中身で決まるもんだ。お前は外側は小さいが、内側は大きい。だから決してお前の身体的な部位を見たわけでは——」
「ぶっ飛ばすかしら!」
正面、わちゃわちゃする二人を見ながらテンはため息。「食事中だぞぉー」と緩く声を挟ませながら、今のは恐らくハヤトのみが使うことを許される発言だと思う。
親しき中にも礼儀ありを心がけるテンからすれば、流石にデリカシーに欠ける発言なのだが、揶揄われたベアトリスはいつも通りの対応。多分、揶揄われたこと自体に反応して、内容に関しては気に触れていない。
とりあえず。ハヤトを見るラムとレムの視線の温度が絶対零度に下がったの感じつつ、テンは「それで」と仲良し二人組を意識から切り離すと、
「どうして俺の分だけこんなに量があんの?」
言いながら視線を向けたのは左隣に立つレム。既にこれをした犯人に大凡の見当をつけている彼は、視線を受け取った彼女と視線を絡ませる。ハヤトに突き刺していた絶対零度を瞬時に引っ込めるレムは、こちらにニコニコとした笑みを向けていた。
もはや答え合わせのようなものだろう。表情一つで察したテンは「どうして?」と再び問いかけるとレムは「はい」と誇らしげに頷き、
「たくさん栄養を摂取して、少しでも早い貧血症状の緩和を図ってもらうためです。昼食の支度をしている時に話していたの、ちゃんと聞いてたんですからね」
「あぁ……、そーゆーことね。だからたくさん食べろと」
「もちろんです! 今のテンくんは、レムの介護無しではまともに歩く事もできない程に弱っていますし。レムとしてはずっとその状態でも構いませんし、寧ろ、レム無しでは生きていけなくなっても構いませんけど。テンくんの立場上、そういうわけにはいきませんから」
「さらっと、とんでもない発言をするのはやめようか。今、ヒヤッとしてゾワッとしたよ」
にこやかに微笑むレムにテンは苦笑い。途中まではただの可愛らしい笑みに見えていたのが、一瞬にして怖い笑みに見えてきた。
嘘なのか真なのか。真実は彼女しか知り得ないものの、性格的に把握できてしまうのが本当に恐ろしい。テンの事となると途端に口数が増えるレムにロズワールですらも苦笑を浮かべている。
当の本人は未だにニコニコしていた。ニコニコ、ニコニコと、テンに対する愛情と表現すべき感情が誰が見ても一瞬で分かる程に全身から溢れ出ている。
昨日までの彼女とは大違いで安心できる。とは、そんな妹の姿を見守り続けるラムの思い。不意に迫り上がる姉としてのそれを飲み込むため、彼女は密かに生唾を飲み込んだ。
「ということで。たくさん食べて、早く元気になってくださいね、テンくん」
「…………うん。でも、もう少し減らしてほしい気持ちはあるかな。この量は流石にキツい」
「と、思う」と、テンは眼下に八個もある大きめのハンバルグを見下ろす。この大きさだと最高でも五つが限界な気がする彼の表情は先ほどから曇りっぱなしで、今日以降の夕食を想像すると先が思いやられる。
なら、量を調節しろとレムに言えばいい——そう思った矢先、「何を言いますか。食べないと元気になれませんよ?」と先制攻撃を優しくねじ込まれた。
更に、「レムの、愛情いっぱいのハンバルグです」とまで言葉を添えられたら、テンに拒否権という言葉は消えた。語尾が気持ちよく跳ねた声色は、ハートマークでも付属されているのではなかろうか。
「なに? レムの……ラムの可愛い妹の愛情を蹴るつもり? 自分の立場くらい分かっているでしょう。断るなら無理矢理にでも口の中にねじ込むけど」
「女性の好意を蹴るなーぁんて、男性としてあるまじき姿だ。ここは一つ、テン君には頑張ってもらっちゃおうかなぁ。まぁ、レムの考えにも一理あるしぃ?」
「ご飯は残さず食べなきゃいけないのよ。世の中には食べたくても食べれない人だって沢山いるんだから。残したりしたら悪い子だって、そう言うからね」
試しに周囲の人間に助けを求めてみれば、返ってきたのはそれ。エミリアだけズレた返しだったが、他二人の意見は一致。まだ言い合うハヤトとベアトリスは論外。
要は、意地でも食べるしかないということ。朝にあったお酒の件といい、今回といい、相変わらず自分の味方がいない陣営にいっそ清々しさすら感じてくるテン。
「分かった。頑張って食べよう」
そう意気込み、彼は目の前のハンバルグと格闘を始めたのだった。
▲▽▲▽▲▽▲
「うぅ………気持ち悪いぃ」
そして案の定、こうなるわけである。
椅子に座ったまま両腕に顔面を押し付けて机に突っ伏し、レムの愛情ハンバルグを全て胃の中にぶち込んだ彼は見事に撃沈。大食いでもなんでもない彼が、あの量を無反動で平らげられるわけがなかった。
食べたはいいものの、やはりその後に襲いくる反動に「うぅぅぅ」と声にならない呻き声を喉の奥で鳴らしている。「あぁ苦し、はぁ苦し、うぅ苦し」と、口を開けばその単語が出てきた。
「おいおい、大丈夫かよ。頼むから吐くなよ? レムが泣くし、ラムがキレるし、俺が介護せにゃならんし」
「誰一人として心配してくれないのね」
「バカ野郎。心配した上で、だよ。お前のことを心配しねぇ奴はこの屋敷に一人としていないよ」
「え、なにそれ。恥ずかし」
「お前ホント、そういうとこピュアだよな」
そんな彼の声を背中越しに聞きながら苦笑するのは、流し台にて夕食に使用した銀食器を洗っている真っ最中のハヤト。
首だけ振り返る彼は、自分の後ろで椅子に座りながら飲んだくれの様に潰れるテンを見ると失笑する。突っ伏す彼の近くにマグカップが置いてあるものだから、絵面が完璧に飲んだくれと重なってしまう。
そんなことテンは知らぬ存ぜぬ。膨らんだ腹に手を添えては「苦しいぃ」を連呼し、それしか言わなくなった彼に、ついにハヤトが耐えきれずに失笑を通り越して笑いをはっきり音にした。
「マジで大丈夫か?」
「大丈夫と言えなくもないし、大丈夫じゃないと言えないわけでもない。お前が大丈夫であると判断したんなら俺は大丈夫だし、大丈夫でないと判断したんなら大丈夫じゃないし。従って、結局はその人の捉え方次第で俺はどちらにだって転べるような気がするよね」
「ん?」
「そうなると『大丈夫?』と問いかける必要性について少し考えてみたくなる。それは相手を心配してのものなのか、状態を把握するためのものなのか。様々な意味合いが含まれるけど、少なくとも聞いたところで相手が本心を答えるとは限らないし。大丈夫ですか? と聞いて、大丈夫じゃないです! なんて馬鹿正直に言う人なんてそうそういないし、大丈夫に見えるか!? とか、心配される筋合いはない! って逆ギレされるかもしれない。つまるところ、結局は聞いた人の気休めにしかならないのではないかなと数秒間だけ思いました」
謎の語りを済ませた直後、声を出していたテンが沈黙したことでハヤトもまた沈黙。
断続的に響いていた人間二人の音声が尾を引きながら途絶えると、空間にはお湯の流れる音と、お湯に浸かる食器同士が湯の中でカチャカチャと音を立ててぶつかる音の二つしか存在しなくなった。
「なぁ、ハヤト」
「なんだ?」
そんな空間で机に突っ伏したままのテンがその名を呼ぶ。声に反応したハヤトが振り返ると、そこには感情を読み取らせない真顔のテンが体をゆっくり起こしていた。
視線が交差する両者。絶妙な空気がその間に充満し、流れるお湯の音だけが無音の均衡を保つ中、表情一つ変わらぬテンは小首を傾げ、
「俺、なに言ってんの?」
「こっちが聞きたいわ」
▲▽▲▽▲▽▲
ーーレム、ラム。二人って、もう今日の分の仕事は終わってんだよね?
ーーはい。この後の事もありますし。
ーー終わってるけど。なにか?
ーーじゃあ。俺とハヤトが皿は洗うから、二人は先に風呂にでも入ってきなよ。ハヤトもそれでいい?
ーー別に構わんが。
ーーそう。じゃあそうさせてもらうわ。テンテンと脳筋が、レムとラムが浸かったお湯に浸かりたいと思う変態じゃないことを祈って。
ーーその発想は思いつかなかった。
そんなこんなで、夕食の後片付けを二人ですることになったテンとハヤト。彼らは今現在、一足先に使用人としてのお勤めを終わらせて入浴中の姉妹の代わりに、厨房で作業中であった。
つい先ほどの意味不明なテンの語りはさておき。ハヤトは先ほどのように流し台の前で皿洗い中、その後ろでは食べ過ぎで立てないテンが椅子に座りながら彼が洗った銀食器の水分を拭いている。
ハヤトが洗い終わった食器を水切りかごの中へ入れ、それをテンが拭くというコンビプレイ。
息の合った連携に調子に乗ったハヤトが平皿をテンにノールックで投げ、完璧にスルーしたテンによって割れるという一件もありながら、親友同士の下らない会話に花を咲かせつつ事は順調に進んでいた。
そんなときだ。
「ちょっと真面目な話、してもいい?」
何十往復と言葉を交わし合う中で、不意にテンの声が真剣味を帯びる。いつもなら呑気であることが当たり前な彼の声色が真っ直ぐになると、背中越しに聞いていたハヤトが手を止めて振り返った。
いつも通り、くだらない話をずっと交わし続けるのだと思っていた。実際に自分とこの男が二人だけの時はそれが基本で、その形が崩れる絵面は考え難い。
しかし、振り返った自分を見るテンの表情がその形を容易く崩していることにハヤトは息を呑む。
ドラマやアニメなどで、普段から呑気な態度を一貫する人物から飄々さが消える瞬間に立ち会うと周囲の人間が驚くことがあるが、まさにそれ。
ほのぼのとした空間には似合わない、至極真面目な顔をしていた。自分のことを一直線に射抜く目が、彼の本気度合いを物語っていた。一ミリも逸らさない視線が、その重要性を表していた。
ふざけていい場面と、そうでない場面の境界線を一刀両断し。前者をバッサリ切り落とした以降からふざけることを一切許容しない雰囲気が、たったそれだけで空間に漂い始める。
数秒前まで纏っていた雰囲気を容赦なく断ち切るテンの切り替えの速さには、毎度のように驚かされるハヤト。思わず呆気にとられる彼は、テンの雰囲気に置いていかれまいと首をぶんぶん横に振って動揺を振り落とし、
「どれくらい真面目だ?」
「おふざけ一切無し」
「分かった。ちょっと待ってろ。あと少しで全部洗い終わるから」
「ちゃんと向き合って話そうぜ」と、即答された返しに簡単に言葉を終わらせてハヤトは手元に意識を集中させる。「ん。おっけ」と軽く頷くテンも、自分の真摯な態度に同等の態度で応えてくれる彼に待ちの姿勢をとった。
そこからは、特に会話が弾むことはない。テンが雰囲気を作り始め、便乗するハヤトが満ち始めた真面目な空気に溶け込み、話し合いの場が着々と整えられていく。
時間が経つのと比例して、無言の空間からほのぼのとした雰囲気が消え。代わりに、形を潜めていたシリアスなそれが「待ってました!」と言わんばかりに存在を激しく主張し出す。
「因みに。真面目な話って、悪いニュースか?」
「ううん、そんなんじゃない。ただ、レムとの関係に一区切りをつける前に、お前に話しておきたいことがあってさ」
なんのことか。
そんな意味合いを込めてハヤトは「なんだそりゃ?」と首を傾げて、頭上に大きな疑問符を一つだけ浮かべる。言葉の意図がイマイチ不透明なのに加えて、気になる発言があった。
レムとの関係に一区切りをつけるとは。二人のイチャつき度合いから、既にやる事はやっていたと思っていたのだが、テンの態度から察するにそうでもなかったらしい。
もしくは。告白したが、ちゃんとした形ではなかったから改めて告白しよう——とでも考えたか。彼の考えることは読めないからなんとも言えないけども。
親友関係として過ごして三年が経つが、未だにこの男の思考回路は分からないままだ。分かるのは、自分と真反対という事と、割と単純という事。
考える時は考えるくせに、衝動に駆られると命すらポイと投げ捨てる程にテンは単純。大切な人が命の危機に晒されれば、不利益や勝算を度外視して危険に単身で突っ込むだろう。
彼は、そういう男だ。そこだけは自分と共通している、世界で一番頼りになる相棒であり、宿敵であり、親友。この世界に来てからずっと一緒に頑張ってきた戦友とも言っていい。
それでも、まだ全てを理解できないのが彼の恐ろしいところ。それだけの時間を共にし、友人関係を限界まで高めても尚、ハヤトはテンという男を丸ごと理解することができない。
「まっ。それが、お前がお前である所以かもしれんかだな」
「なに?」
「お前を理解できるのはこの世界に一人としていない、ってことだよ」
「そんなことないよ。レムには隠し事をしたら一瞬でバレる。なんか、不安とか心配事とか抱えてると、何も言わなくてもバレるし」
「彼女、本当にすごいと思う」と、感心した様子で語るテンにハヤトは「そうか、良かったな」とだけ添えながら、表情を微笑みで薄く彩る。
今までのレム——テンに自分の恋心を察してほしくて頑張ってきたレムを知る彼からすれば、彼女が報われて心から嬉しかった。好きな気持ちを素直に出せるようになってくれて、本当に喜ばしい。
それなら、愛が暴走しても仕方ないかと不意にハヤトは考える。約三ヶ月間、ずっと溜め込んできたのだから、初日の今現在ならば致し方ない。
彼女の、テンを独り占めしたいという気持ちが全面的に押し出るのは必然だろう。
「よし、終わった」
そんなことを考えていたハヤト。最後の銀食器を洗い終えた彼は手の持ったそれの水を軽く切ると、背にした机の上に置いてある水切りかごの中へと入れる。
その中の半分は既にテンが拭き終わっていた。結構量があったはずなのだが、作業が早くて結構なことだ。なら、さっさと全部拭いて話し合いに集中したいところ。
流したお湯で手を洗った彼は「さて」と一息つきながら、机を挟んでテンの正面の椅子にどかっと座り込み、
「待たせたな」
「それ言っていいのはダンボールに隠れる伝説の傭兵だけ。はい、お前も食器を拭くの手伝って」
「へいへい」
投げられた布を片手に、ハヤトもテンの作業に合流。洗浄の作業を終えた彼は残る作業を片手間にしながら、テンとの真面目な話し合いに意識を向けることに。
机を挟んで対面するテンとハヤト。深夜に話したテンとラムの構図と全く同じ絵面が完成すると、話し合いの場は完璧に整えられた。
「それで、話ってなんだ。改まってんだから、それなりに重大なんだよな?」
落ち着いた環境の中、ハヤトが止めていた話し合いのキッカケをテンに作り出す。大事な話はこうして向き合って話したかった彼はテンと向き合った今、その話を投げかけた。
投げかけられたテン。彼は自身で語った通り、おふざけ一切無しの雰囲気をその身に纏い始めると一度だけ深呼吸。
それ一つで気持ちの切り替えを済ませると表情を真剣一色に染めて、
「俺ね。ちゃんとした形で、レムに告白することにしたんだけど」
「え? もう告ったんじゃねぇの?」
予想外、といった具合でハヤトは話し始めてから五秒と経たずに言葉を割り込ませる。その直後に「あ、悪い」と謝れば、思わず口を挟んでしまった事実は確定した。
確かに、自分とレムの接し方を見れば今の発言にそう思われるのも無理はない。テンは「謝らなくていいよ」と首をゆるゆると横に振り、
「まぁ、告ったには告ったけど。あれはそうするしかなかったから、というかなんというか。レムの心を落ち着かせるためにしたことで……別に、告白しようとして告白したわけじゃないから」
「だから……なんつーか、あれだよ」と、声に詰まるテンが上手く言葉に表現できずに肩をすぼめる。言いたい事は明確なのに、それ言い表すのに適した言葉が頭の中で作れない。
尤も、口角を楽しげに釣り上げるハヤトには今ので伝わっていた。というよりも、予想していたに近しい。「なるほどな」と机に頬杖をついて姿勢を前に倒しながら、
「さてはお前、告白のやり直しを申し出たわけだ。俺の想像通りだな。さすが、変なところで律儀なだけはある。お前のそういう丁寧なところ、俺は嫌いじゃねぇよ」
「そうかよ」
テンの考えを見事に撃ち抜いたハヤトは、ぶっきらぼうな返し方に、浮かべた笑みを崩さぬまま笑声を小さく溢す。雑な返しではあるが、否定を挟まないところそうなのだろう。
変なところで律儀だと思う。彼が礼儀正しい事など既に周知のことだが、「そこ気にするか?」と誰もが思うような場面でもその姿勢を貫かれると、より深くそう思える。
彼は『親しき中にも礼儀あり』という言葉が似合うほどに律儀だ。どれだけ絆が深くとも、無神経に踏み込んだ真似はしないし、嫌がる素振りを匂わせただけで一歩下がる男だ。
「それで? 告るからなんだよ。まさかお前、今になってヒヨったとか舐めたこと
「そんなことはないよ。もう整ってるから」
冗談半分の問いにテンは否定を即答。今この瞬間までの間で色々と整えてきた彼に迷いはない。仮に、その問いを肯定するようなことがあれば今頃、ハヤトの拳が顔面に炸裂しているだろう。
そうなると、より一層のことテンの話したいことが分からなくなるハヤト。当たり前のように投げられた否定に彼は「じゃぁ、何が言いたい?」と、先を急かすように問いに問いを重ね、
「それを話すには。まずは、俺がずっと悩んでた事について話す必要がある。から、聞いてほしい」
「おう。いいぜ」
足を揃えて背筋を伸ばし、姿勢を正したテンが話の導入に入る予感。自然、真面目に聞こうとするハヤトも前に倒していた姿勢を戻すと、目の前の男と同じように姿勢を整える。
誰にも打ち明けてこなかった事。否、打ち明けても全てを話すことは叶わなかった事。話したくても、この世界の住民には到底理解のできない事だから。
ハヤトにしか話せない事。ハヤトにしか理解してもらえない事。ハヤトにしか相談できない事。
それ即ち、自分と同じ境遇にある人にしか理解を求めることのできない事。
「俺。実はさ、ずっと前から……レムのことが好きな自分の存在は薄々だけど感じてたんだ。自分がレムのことを好きなんだ、って。心の奥底では分かってたんだ」
一つ一つ、テンはそれを声にして紡ぎ始めた。
次回は、レムを救い出す時にも少しだけ話したテンの『縛り』について。この世界に来てずっと悩んでいたことを、彼がハヤトに打ち明けます。
今までのお話に目を通していた方なら、なんとなぁく分かると思いますが。
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