親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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本当はね、このお話で終わらせるつもりだったんです。でもね、書きたいことを全部書くと最終話の総文量が軽く2万文字を超えるんです。軽く、ですよ。軽く。

そんなに長いと、読む気も失せますよね。ですので、とりあえず小分けして投稿します。お話としては、一話として捉えてください。

なんか……書いてることと違うことが多すぎてごめんなさい。





嘘も、隠し事も、全部吐き出して

 

 

 

 一歩。また一歩と、歩みを重ねる。

 

 

見慣れた光景を見ながら、長い廊下を歩く。戦いの後遺症に蝕まれる体に無理をさせないよう、気を遣いながら。自分一人の足で、自分一人の力で、彼女の下へ。

 

ハヤトには、部屋を出る時に声をかけろ、と言われたけど、自分だけで行く。今くらいは、一人で歩きたい気分だった。

 

目指す場所はロズワール邸の三階。踊り場を西棟へと抜けた、階段側から数えて三番目の扉。

 

幸いにもレムの部屋は、ラムの部屋と同じ階の同じ西棟にある。階段の上り下りをせずに済んで助かった。ラムの部屋を出てそのまま踊り場へと真っ直ぐに歩けば、一間分と経たずに目的地に到着する。

 

 だから、

 

 

「もぅ、来るのが遅いですよ。日を跨いでしまうのではと思いました」

 

「ごめんね。色々と済ませてたらこんな時間に。もう大丈夫。全部、済ませたから」

 

 

そう言い、扉の前で待っていたネグリジェ姿のレムに申し訳なさげに笑いかける。笑いかけると、レムは微笑み返しながら小走りで胸の中へと飛び込んできた。

 

甘えたがりで、くっつきたがりで、わがままな彼女を、テンは包み込むように抱きしめながら。

 

 言った。

 

 

「今から俺は、レムのことしか考えない。レムのことだけに意識を注ぐから。それで許してほしいな」

 

 

今から、全てに決着をつけるのだと。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「本題に入る前に、レムとお話……しませんか?」

 

 

レムの部屋、その扉を潜ったテンに一番初めに投げかけられたのはそんな提案だった。

 

扉を静かに閉め、それ以上の静かさで自然に鍵をかけ。自分とテンだけの世界を一瞬にして作り出す彼女は、テンが背負う疲労を感覚的に察したのだろう。

 

いきなり本題に入るのではなく、まずは落ち着く。落ち着いているだろうけれど、雰囲気作りも兼ねて。

 

 それに、

 

 

「テンくんのために、紅茶をご用意しました。レムが数ヶ月に渡って研究に研究を重ね、試作に試作を積み上げた結果です。テンくんのお口に合うような仕上がりになっていますよ」

 

 

言いながらレムが手を向けるのは、彼女が普段から使用する寝台。釣られて見れば、視界に映り込んだのは寝台の真横に添えるようにして置かれた長机と、その上にティーセット。

 

週に一度、鍛錬がお休みの週初に決まって開催される二人だけのお茶会——どうやら、その準備は万端らしい。「こちらへどうぞ」と、手を引っ張るレムに促されるがまま、「あぁ……うん」と、テンは寝台に腰掛けた。

 

 

「温かい紅茶を飲みながら心を落ち着かせて。少しだけレムと甘い時間を過ご………お話をして。それから本題に入りましょう」

 

 

「夜は、長いのですから」と、穏やかな声で本心を隠すレムの手際は実に洗練されたもの。体に染みついた動作を幸せそうな表情で進める姿は美しく、それ一つだけで絵になっていた。

 

液体が落ちる柔らかい音がカップの中で生じると、褐色の湯面から淹れたての湯気が淡く立ち昇る。嗅覚をくすぐる仄かな甘みを宿すそれは、間違えなくテンの好みに左右された結果だろう。

 

微糖が好みであるとは既に把握済み。数々の試作品を飲んでもらった果てに、甘さ控えめな紅茶が誕生したのだ。初めの頃は来客用にと思っていたものは、今となってはテンに限定とされている。

 

 

「甘えたいなら、素直に言えばいいのに」

 

「聞こえていましたか」

 

「レムと甘い時間を過ご、まで。ちゃぁんと聞こえていましたよ。もう聞き逃さない。その俺は必要ない」

 

 

レムが紅茶を淹れている間に、テンが彼女の隠した本心を一言で暴き。隠し通せていなかったと知った彼女は困ったような顔をし、小さく肩を竦める。

 

その後に聞こえた声色が、どこか己を咎めるような口振りに聞こえたもののレムは追及しない。そんなことよりも意識を引き寄せられることが直後にあった。

 

 

「別に誤魔化さなくてもさ。そんな関係じゃないでしょ? 甘えたいなら、好きなだけ甘えていいよ。俺は、レムの、そーゆー人なんだから」

 

「ーー! また、そういうこと言う……。甘えていい、って。そのようなこと言われてしまったら、レムは我慢できませんからね。無かったことにはできませんよ」

 

「今まで俺をおもちゃにしてきておいて、今更なに言ってんの。朝にも話したでしょ。我慢とか、遠慮とか、そーゆーの要らないよ。って。わがままでいいよ。って」

 

 

当たり前のように言うテンに、レムは瞬間的に今すぐにでも飛びついてしまいたい衝動に駆られるも、なんとか自制。乱れのない手際に乱れが表れる寸前で、己を抑えた。

 

今の発言。レムにとっては、とてもじゃないが堪えられそうにない。後ろに手をついて気を緩めるテンは呑気に言ってくれたが、彼女的には理性が危うく崩壊するところだった。

 

早く自分の分の紅茶も淹れなければ。テンの分は淹れ終わったから、あとは自分の分。慣れた動作を一秒でも早く終わらせて、好きなだけ甘えなければならない。

 

自分の心が、彼を欲している。喉が乾けば本能的に潤いを求めるように、心もまた潤いを求める。それが水分であるか温もりであるかという話。

 

底知れない渇望が、欲望となって心を埋め尽くす。そしてそれは、作業を終えたレムがテンに抱きつく行為に繋がった。

 

 

「準備、完了致しました」

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

 

自分とテンの分の紅茶を淹れ終わったレム。紅茶が作られたケトルを机に置く彼女が準備完了の合図を声として発すると、テンは頭を下げて一礼。

 

レムがテンに抱きついたのは、彼がその動作を見届けてから数秒後のことだった。

 

 

「ではでは。お言葉に甘えちゃいますね」

 

 

素早い動きでテンの真横へと腰掛けるレム。寝台の一部が二人分の重さにぎしっと音を立てて沈み込むと、声から幸福感が溢れ続ける彼女が潤いを求めて愛しい人に身を委ねた。

 

胸板に寄りかかり、脇の下から背中にかけて両腕を回す。腕を使って彼の体を引き寄せ、自分の体と密着させる。温もりを直で感じれるように間隔は開けさせない。

 

これだ。この感覚を求めていた。

 

 

「テンくん」

 

「ん?」

 

「撫でてください」

 

 

猫撫で声に等しい声と共に、前髪をさらりと揺らしながらレムが頭を左右に小さく振る。正しく、猫が飼い主にかまってほしくて頬擦りをするような仕草で、頭の撫でりこをねだった。

 

撫でてくれますか、とは言わないレムだ。前の自分だったらそう言うのが当然だったかもしれないけれど、今の自分は違う。

 

言われたように、我慢も遠慮もしない。大好きな人に甘え続ける女の子として、いっぱいわがままになるのだ。

 

だって彼は、その自分を受け止めてくれるから。

 

 

「ぅん」

 

「ちょっと。変な声、出さないで」

 

「ごめんなさい。でも、気持ちよくて」

 

 

背中から回った手に頭を撫で下ろされると、レムは上擦った声を抑えることがどうしてもできない。瞬間の快楽に緊張の糸を限界まで緩められ、意図せずに色っぽい吐息が漏れてしまう。

 

こればかりは、何度経験しても慣れそうにない気がする。割れ物を扱うように丁寧な手つきで優しく触れられると気持ちよくて、自然と鼓動が高鳴ってくる。

 

彼に撫でられるのは好きだ。安心できる。嫌な事とか苦しい事とか全部忘れられる。疲れた心と体が癒されて、ふとした瞬間から瞼が重くなりそうになる。

 

自分は、この人の温もりが、大好きだ。

 

 

「……レムはさ」

 

 

世界一心地良い感覚に溺れていく今、喉をごろごろ鳴らすレムの鼓膜が不意にその声を拾う。静かな世界——カーテンを完全に閉め切った、月すら部屋の中を覗く事のできぬ『二人だけの世界』にポツリと呟いた声が落ちた。

 

勿論、自分の頭を撫でているテンの声。頭上からの声に「なんですか?」とレムが見上げると、テンは明るい表情に少しばかりの陰影を無意識に生じさせ、

 

 

「レムは今、幸せ?」

「幸せですよ」

 

 

神妙な声色で問うたテンに刹那で返されたのは、レムの果てのない親愛。考えるよりも先に口が動いたような彼女は、テンの声に己の声を重ねるようにして食い気味に言葉を割り込ませた。

 

今の問い、レムにとっては愚問を極めている。愛する人の隣に居れて幸せじゃないわけない。その上、こうして甘えているのだから。幸せで、頭がどうにかなってしまいそう。

 

将来を誓った相手に甘える乙女の気持ちが分からないテンではないと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。どことなくほっとした雰囲気の彼にレムは「むっ」と顔を顰め、

 

 

「なんですか。テンくんは、レムが幸せでないと思っていたんですか。幸せでないと思っていると、そう思っていたのですか」

 

「いや。そんなんじゃなくて。なんとなく聞きたくなっただけというか、なんというか………」

 

「では。レムが察した、ほっとしたような雰囲気は、レムの思い過ごしと言いますか?」

 

 

強めな物言いを続けるレム。テンに対する計測不能な愛を、他でもない本人に浅く推し量られたような気がした彼女は言い淀む愛人に目を細め、

 

 

「嘘ですよね。なんとなく聞きたくなったわけでは、ありませんよね」

 

「嘘じゃ……」

 

「それも嘘です」

 

 

テンの弱々しい反論を真っ向から弾くレムの糾弾。最後まで言わせなかったのは、言わせてしまうと彼が更なる嘘を重ねてしまうから。

 

嘘を一度でもついた人間は、その嘘を隠すために次の嘘を重ね続ける負の連鎖に陥る。一つだけのはずが、次から次へと重ねているうちに、いつの間にか嘘に塗れる。

 

そんな彼は見たくない。だからレムは、その連鎖を力ずくで捻じ曲げる。それ以上に、自分に対して嘘をついてほしくなかった。自分と彼の間に隠し事は無しなのだから。

 

正面。ゼロ距離。首に両腕を回しながら身を乗り出すレムは口籠るテンの嘘を当然のように見抜くと、緩んだ頬をふっと引き締め、

 

 

「レムに隠し事は無駄ですよ。テンくんのことは、なんでも分かります。ずっと……ずっとずっと、レムはテンくんのことを考えているんですから。テンくんだって分かっているはずです」

 

 

真摯な眼差しを向けるレムに言われ、頭の中で作り上げられた反論が崩れていく音をテンは聞いた。膝に乗っかってきた、目と鼻の先にいる青色の瞳に、嘘をついたことを強く咎められる。

 

ほっとしたような雰囲気を出した覚えはないし、表に浮かび上がらないように気をつけたはずだ。心を殺すことなんて今に始まったことじゃないから、できていたはずなのに。

 

レムには、バレていた。甘い雰囲気に呑まれっぱなしになってくれない彼女は今、ご立腹な様子を隠すことなくムスッとしている。

 

 ムスッとしていたが、

 

 

「テンくん。レムは今、本当に幸せですよ」

 

 

愛おしげに名を呼び、幸福の一端を語った直後。体を前に倒すレムが、固い表情を崩しながらテンにもたれかかる。首に回した両腕はそのままで、彼の心音を聞くために胸に顔を沈めると片耳を当て、

 

 

「こうして大好きな人の鼓動を聞いて、体温に包まれる……ただそれだけのことがレムにとってどれほど幸せなことか。もっと、抱きしめてください」

 

 

声だけで分かる幸福感を察すると、レムの願いを叶えるテンが彼女の体を二本の腕で包み込む。一つは腰から、もう一つは脇から回って、後者の手が抱く女性の後頭部を再び撫で下ろした。

 

手櫛で髪を梳かすような柔らかさ。指先一つ一つで愛でられている感覚にレムはくすぐったそうに鼻を鳴らして身じろぎし、

 

 

「一時は、愛してはいけないと本気で思っていた相手に再び愛を捧げることができる。想いが繋がって、愛し合うことができる……それが、レムにとってどれほど嬉しいことか。もっと、強く抱きしめてください」

 

 

 今日の出来事。

 

彼を傷付けた自分に彼を愛する資格などないと、本気で思っていた。だからもう彼を好きになっちゃいけないのだと、心の底から苦しんでいた。この気持ちは封じ込めるのだと、死にたくなった。

 

苦しんで、葛藤して、踠いて——最終的に何もかもから目を背けるために蹲って。どうしたらいいか分からなくなった時、彼は自分の下へやってきて、自分のことを救ってくれた。

 

テンが、レムの英雄になったのだ。レムという少女を過去のしがらみから解き放ち、全てから救った英雄が、レムの凍りついた時間と心を甘く溶かしたのだ。

 

 

「レムは、テンくんのことが大好きなんです。好きで好きで好きで、世界一好きなんです。愛しているんです。愛していると、そう言えることが今のレムにとってどれほど身に余ることか」

 

 

正直、テンを傷つけた自分を許す気はない。許せるわけがない。許していいと思わない。故に、罪深き自分が今のように愛を伝えられるのは本人からすれば奇跡に等しい。

 

その上、今までテンにしてほしいと切に願っていたことが次々と叶えられていく現状。これを幸せと言わずして他になんと言うというのか。レムには分からない。有るなら、是非とも教えてほしい。

 

 有るなら。

 

 

「そんな人のお傍に居ることができて、幸せじゃないわけないですよ。ですから、自分がレムのことを幸せにできていない……だなんて変なこと、考えないようにしてください」

 

「ーーーー。なんで分かった」

 

「レムはテンくんの恋人だからです」

 

 

見事にテンの胸の内を暴いたレムが自慢げに語ったものは、理由としては不十分すぎるものだった。けれどテンとレムの関係性を省みると、途端に十分すぎるものとなる。

 

それはなんて、論理性の欠片もない、なのに絶対に逆らえない根拠なのだろうか。レムは自分の恋人だから一言も話していない心の声を察した——凄まじい事を平気でやってのける女性だ。

 

 

「これは、本格的に隠し事ができなくなってきたな」

 

「そんなことしたら怒りますよ。隠してもすぐ見透かされるんですから、素直に話してください。テンくんの考えそうな事くらい、レムには分かるんですから」

 

 

隠したかった事を容易く暴かれたテンは気まずそうな表情。そんな彼を胸元から見上げるのはレムの不満感を大っぴらに露出させた表情。

 

自分のことを一直線に射抜くレムの視線にやりづらさを感じたテン。彼は困ったように喉を低く唸らせると彼女から目を逸らし、一秒たりとも逸らす事を許さないレムの手が秒で引き戻す。

 

身を捩り、一生包まれていたい抱擁から一時的に抜け出るレム。逸らした顔を自分の方へと無理やり戻した彼女は、「いいですか、テンくん」と左右の手で頬を板挟みするように戻した顔を固定し。

 

言い聞かせるように、確認するように、

 

 

「レムと、テンくんに、隠し事は、無しですよ」

 

 

一つ一つを強く刻み込ませながら、絶対的な信頼関係を堂々と言い放った。

 

互いに自分の心を預け合えなければ言えない言葉を、ひどく真面目な表情でレムは語る。声色すらも真面目なのだから、本気の本気で本心を共有し合うつもりだろう。

 

その事実が、テンには深々と突き刺ささっている。隠し事は無し——そうあるべきだとレムに言われてしまうと、彼女に隠し事ばかりしている自分が不意にも多大な被害を被った。

 

そうなった瞬間、思い出したように心が傷みだす。

 

 

「隠し事は無し……か」

 

「ーー?」

 

 

その心の痛みにはレムも気付いた。唐突な声色の変化に小首を傾げる彼女は、テンの僅かな変化を感覚的に察している。察せれたのは、愛が成せる技。

 

一段、声の調子が下がったと言うべきか。心なしか雰囲気も暗く沈んで、澱んでいる感じがする。なんとも漠然とした表現だと自分でも思うが、感覚的に察知したのだから漠然で当たり前だろう。

 

 

「テンくん……?」

 

 

困惑げにその名を呼ぶレム。その視線の先には瞑目するテンの姿。精神統一をしていると表現してもいい様子は、明らかに己の中の気持ちを切り替えているように見えた。

 

 

 ーー本題に入るつもりですね

 

 

その姿一つで、レムはテンの意図を汲み取る。雰囲気を明確に一変させた時点で脳裏に過ぎってはいたが、今の様子で確定した。

 

非常に残念な事だが。自分との甘い時間は、お終いなようだ。

 

彼は今、恐らく自分と過ごした時間で緩んだ心を引き締めているところ。とても真面目なお話をするのだ、それ相応の態度で望む必要があるのだろう。

 

勿論、レム自身も。彼が真面目にお話をしようとするのならば、自分も同じ態度で向き合おう。その切り替えくらいはできる。彼に甘えたい衝動が暴走するとはいえ、これでも十七だ、自制はできる。

 

本題——この時間を設けた時のテンが語ったのは二つ。一つは、告白のやり直し。もう一つは、彼自身が縛られていた事について。

 

前者はともかく、気になるのはやはり後者。彼は自分のことを好きになる過程で、とある縛りに大きく悩まされたと話には聞いたが、その全貌を聞かされたわけではない。

 

だから今から、彼はその全てを話してくれようとしている。こうして二人っきりの時間を設けてまで、打ち明けようとしている。

 

隠し事は無し——その言葉に実直になってくれている。前者が気にならないわけがないが、そのお陰でレムの中では後者の方が優先度的には高かったり。

 

ともかく、そのお話を聞く準備はこうして考えているうちに整え終えた。

 

 あとは、彼を待つだけだ。

 

 

「………レム、そろそろ本題に入ろう。いつまでもこうしてちゃ、何も終わらない」

 

 

偶然にも、レムが気持ちの準備を整え終えた頃にテンも心を整え終えたらしい。瞼の裏側から顔を出した彼の瞳は、先程と変わって真剣な色に染まっていた。

 

膝の上に跨っていたこともあって超至近距離でテンと見つめ合うことになったレムが、その双眼に密かに見惚れている中、「それに」と彼は言葉を繋げて、

 

 

「隠し事は無し、なんだろ? なら、話せることは全部話すよ。元よりそのつもりで来たんだ」

 

 

レムを膝上から優しく降ろし、隣に腰掛ける彼女にテンは言い切る。

 

靴を脱ぐ彼は寝台に足を乗せると身を回しながら胡座をかき、レムと真正面から向き合う姿勢。自然、同じ動作で寝台に足を乗せるレムが女の子座りでテンと向き合う——この瞬間、話し合いの場は完成した。

 

両者が手の届く距離で面と向かって話す構図が完成したことで、テンは全てを打ち明ける場を整えたと言える。

 

レムは、自分が話すのを待っている。青の瞳に期待を宿す彼女は、話が切り出されるのを心待ちにしてる。ならば、すぐに話を始めなければならない。

 

ここまで来て引き下がるなどと、ヘタレな真似をするつもりは微塵もない。そのための覚悟と決意は十分に定めてきたのだから。

 

レムが淹れてくれた紅茶で乾いた喉を潤し。鼻を突き抜けるほんのりとした甘い香りで全身の緊張を解し。

 

あとは、話を切り出すための最後の一歩を踏み出す勇気を。

 

 

「早朝にレムと話す中で、俺の『縛り』について少し話したの……覚えてる?」

 

「はい。そのせいで大変、苦心していたと。ずっと、一つの考え方に拘っていたと」

 

「そう。今からそれについて話すんだけど。その前に知ってもらわなくちゃいけない事があってさ」

 

 

言えば後には引けない。何が起こるか分からない。先の見えない事態を引き起こしかねないリスクを己の背中に背負うことになる。背負い続けることになる。

 

けど、彼女は知りたいと言った。その自分を知って、その上で丸ごと好きになると言ってくれた。ならば、その程度のリスクなど背負ってやろうではないか。

 

レムのためならば、なんだって背負おう。レムの期待に応えるためならば、なんだってやってのけよう。怖くなんてない。先の見えない未来を歩む覚悟などとうに誓った。

 

 だからテンは、

 

 

「遠回しな言い方は余計に混乱させかねないから、単刀直入に言うね。いい? 言葉そのままの意味で受け取って」

 

 

ずっと、ハヤト以外の誰とも共有することのなかったことを。共有することなんてないと思っていたことを。

 

 

「——この世界が、絵本や小説の中の世界だ。って言ったら、レムは信じてくれる?」

 

 

 今、告げた。

 

 

 

 

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