親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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リアルが忙しくて小説を書く時間が作れない。
(社会人生活、しゅごくたいへん)

でも、リゼロ系統でなにか書きたいと思うこともある。
(創作意欲はそこそこある)

でも、本編の超絶シリアスパートが上手く書けない。
(数ヶ月間、リゼロから離れていたせい。ブランクある)

でも、やっぱりなにか書きたい。
(小説を書く時間を確保できないわけじゃない。でも、シリアスパートが上手く書けない)

あ、だったら頭を使わずに書けばいいんだ!
それなら書けそうな気がする!
(ひらめき)

前作でほのぼのなお話を書けばいいんだ!!
それでブランクも取り戻そう!
(決意)


という経緯で生まれた、生存報告ついでのお話。
ほんと、本編が書けず申し訳ないです。

本編はいつか絶対に進めます。
失踪はしないことは断言します。





雷の鳴る夜に① ←【2026年 追加】

 

 

 

「——うっへぇ。すっげー嵐」

 

 

夕食と入浴を終え、鍛錬も剥奪されたお陰で、読書か寝る以外になくなった、とある夜。自室で寝巻きに着替えたテンは窓から外の景色を眺め、変な感嘆の言葉を添えて呟いていた。

 

眼前にある窓には止めどなく大粒の雨粒が打ち付けられ続けており、激しく音を立ている。弾丸のようなそれを運ぶのは雨以上の騒音を鳴らす暴風で、それら二つに窓が悲鳴を上げて揺れていた。

 

そんな音に引き寄せられるがまま窓辺に立ち、外を眺めてはいるが、なにか見えるかと聞かれれば答えは『いいえ』だ。晴れた夜は星空観察に向くこの窓辺も、今は暴風雨のせいでなにも見えない。

 

 ただ、

 

 

「お、光った」

 

 

大雨と暴風の目隠しの奥、空を覆う漆黒の曇天により月光が遮られ切った世界で一瞬の閃光、瞬きのような煌めきにテンが反応した数秒後———雷鳴が吠えた。

 

 

「おぉお、すげー。かなり近いな」

 

 

空がひび割れるような轟音、『ゴロゴロ』なんて擬音では足りないレベルの雷鳴に、テンが興奮気味に頰を引き攣らせる。静かに高鳴る心音を横目に、彼は窓枠に腕を置いて寄りかかった。

 

あえて部屋の灯りを消し、真っ暗な状態で耳を澄ませ、なにも見えない窓から外を眺める。暴風と雷鳴の音、不規則に世界を白く染める閃光、それらを五感で浴びようとした。

 

 

「ーーーー」

 

 

 ——今夜は嵐。否、大嵐。

 

夕方の時点で空の様子が怪しいとはラムと話していたし、庭仕事中にハヤトが「今夜は騒がしくなるぜ」とかキザなことを言っていたから、なんとなく予想はついていたが、予想以上の荒れ模様。

 

台風と例えてもいい。この世界にそんなものがあるのかは知らないが、この天気は台風のそれと遜色ない。雷が轟々と鳴り響いていることも加味すると、台風の中の台風、大台風。

 

『ザーザー』と大雨が地に叩きつけられ、『ビュービュー』と暴風が木々を殴り、『ピカピカ』と雷の閃光が瞼を焼き、『ゴロゴロ』と雷鳴が世界を震撼とさせる。

 

擬音のオンパレードな大嵐の夜、一歩でも外に出れば雨風に襲われて悲惨なことになるだろう。

 

仮にこの窓を少しでも開ければ、隙間から侵入する風に窓が全開にされ、一秒も経たずに部屋と体がびしょ濡れになってご愁傷様。

 

 

「そう思えるくらい、今日はすげー大嵐。流石にここまでのを経験したのは初め、あ、また光った」

 

 

怖さ半分、楽しさ半分。この世界にきてから初めての大荒れな夜を過ごし、テンは新鮮な気持で無心に外を眺める。

 

ひょっとしたら、これまで経験した嵐の中で一番かもしれない。なにせ、目の前にある窓が割れるのではと思うほど迫力のある大嵐なのだから。時折、雷鳴で床から振動するし。

 

 

「——テンくん」

 

 

不思議とずっと見ていられる光景を記憶に焼き付けていると、不意にレムの柔らかな声が真横から聞こえてきて、右肩が二度、トントンと優しく叩かれる。

 

やや驚き、次いで衝撃の方向に人の気配を感じ、テンは視界の右端に青髪の少女の姿を捉えた。顔だけ向けると、ゼロ距離にいるその少女とばっちり目が合い、

 

 

「おぉ、レムか。誰かと思った」

 

「勝手に入ってしまってごめんなさい。でも、レムはちゃんと扉も叩きましたし、声もかけたんですよ?」

 

 

無断で入ったわけではないアピールをし、頰に微笑みを湛えたのはネグリジェ姿のレム。テンの顔を覗き込むように小首を傾げる彼女は、そう言いながら彼に身を寄せる。

 

自然、テンが右腕を上げると脇下に潜り込み、腰に手を回して右半身に密着。お返しに手を腰に回し返されると、嬉しそうにニヤけて鼻を鳴らした。

 

夜、レムがテンの部屋に訪れるのはルーティンのようなものだ。彼女にとって一日の疲れを癒すための至福の時間、だからテンも彼女が来ること自体には反応せず、こうして甘える恋人を甘やかす。

 

レムが甘え、テンが甘やかす。いつも通りの構図が完成したところで、二人して窓の外に視線をやり、

 

 

「今日は大荒れですね。庭園の低木や常緑樹が倒れてしまわないか心配です」

 

「多分、大丈夫でしょ。ハヤトとロズワールが地魔法で一個一個防壁みたいなの作って、丁寧に覆ってたし、倒れることはないんじゃないかな」

 

 

手入れをする身としては不安で仕方ない暴風にレムが憂鬱そうに溢すと、彼女の頭を撫でながらテンがその思いを晴らそうとした。

 

無駄に広いロズワール邸。その庭園には等間隔で並べられた低木や、常緑樹を剪定して動物を造形したトピアリーが飾られており、そのほとんどがレムによって整えられている。

 

この嵐でそれら全てが破壊されれば、修繕作業にレムが頭を悩ませる——予期したハヤトが地魔法で防壁を作って対策を講じているうち、興味を示したロズワールが参加したのだ。

 

低木、トピアリー、その他諸々の観葉植物。それら一つずつを防壁で覆うという、気の遠くなるような対策に。

 

 

「どちらが多くの防壁を作れるか、ロズワール様に挑まれてましたもんね。ハヤト君。これも鍛錬の一環にしたい、と。すごいと思います」

 

「無謀にもね。勝てるわけないのに」

 

「勝てない戦いに嬉々として挑むのがハヤト君の良いところですから」

 

「悪いところでもあると思うけどね。アイツ、ロズワールに限らず、自分よりも強い相手としか戦いたがらないから。根っからの戦闘狂に振り回される身にもなってほしい」

 

 

もっと撫でろと言わんばかりに擦り寄ってくるレムの柔らかな感覚を味わいつつ、テンは向上心の塊のような親友に苦笑。

 

強敵に臆せず挑む精神力は大したものだと親友ながらに感心する。が、それについて行かされる身としては勘弁してほしいのが本音。

 

 

「え? 俺ぁアイツに挑むけど、テンは来ねぇの? みたいな感覚で当然のように一緒に化け物と戦わされるの、本当に面倒なんだけど」

 

「でも、もしハヤト君が危険な相手と戦うとなったら、テンくんは迷わずハヤト君の隣に立って一緒に戦いますよね?」

 

「もちろん。じゃないと後でうるさいし、単純に心配だから」

 

「ーーーー」

 

「……なに? その顔」

 

「いえ、素直じゃないなと」

 

 

抱いた体をぎゅーっと抱きしめ、レムは胸元からテンを見上げる。こちらの胸の内を見透かしたような笑み、いや、実際に見透かしている彼女にやりづらそうに吐息し、テンはため息を誤魔化した。

 

強敵に挑むハヤト。その隣に立っていないと、置いていかれる気がしてムカつく——心の奥底にある子どもじみた感情、張り合いのようなものが、テンがハヤトの隣に立つ大きな理由の一つ。

 

言葉にしていないのに、レムにはバレていたらしい。表情で語る彼女のニヤニヤしたそれをどうにかしてやろうとテンは考え、

 

 

「ーーっ! びっくりしたぁ」

 

「今のは大きかったですね。レムも少し驚きました」

 

 

そんな二人の甘い雰囲気を破るが如く、特大の雷鳴が世界を震撼とさせた。音で床が揺れるほどの規模にテンの肩がビクッと跳ね、レムの背筋が少し伸びる。

 

思考を中断させられ、再び視線が窓に向く二人。依然として光景は変わらず、むしろ悪化していく一方。時間が経つにつれて、徐々に勢力を上げているようにも感じる。

 

 

「これ、いつまで降るんだろ」

 

「せめて明日の朝までには止んでくれると助かります。洗濯物が干せませんし」

 

「そーなったら室内干しして、俺の火魔法でちゃちゃっと乾か」

 

「魔法の使用は禁止ですよ、テンくん。少し回復したからといってすぐ調子に乗らないでください。お身体は回復してもゲートは回復してないんですから」

 

「はいはい、すみませんでした。冗談ですよ、冗談」

 

 

体を押し付け、強めの声色で釘を刺してくるレム。こちらを軽く睨みつける彼女に即行で白旗を上げ、テンは右真横から向けられる視線を、そのまま外へと受け流した。

 

過保護にも感じられるが、彼女をそうさせているのはテン自身。死にかけて、怖がらせて、二度と生きて会えないのではと彼女に思わせてしまった。

 

だから彼はレムの心配には反抗せず、素直に従う。自分がテンの安全を守るのだと、そう意気込むレムの姿も可愛いことだし。

 

そうしている間も窓の外では絶えず閃光が煌めき、その度に雷鳴が轟き、世界を震わせていて。

 

そんな光景を見ていると、ふと、思い出すことがあって。

 

 

「……ふふ」

 

「ーー? どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっと思い出し笑い」

 

 

脳裏に過ぎる過去の光景に吹き出したテン。脈絡のない笑いを不思議に思ったレムに疑問を投げられると、彼は「懐かしいなぁ」と感慨深そうに、

 

 

「昔……昔っつっても俺が五歳とかのころだけど。まだ母さんと一緒に寝てたころ、雷が鳴ってる夜とか、怖すぎてずっと母さんに抱きついてた記憶があってさ。そんときのことを不意に思い出した」

 

「それって……テンくんが元の世界にいたころのお話ですか?」

 

「そそ。俺がこの世界に来る前、故郷に住んでたころの話」

 

「そのお話、聞かせてください」

 

 

途端に興味を示すレムが少し食い気味に詰め寄り、力強い目つきになると表情を熱心なものに変えた。

 

レムはテンの事情を全て知っている。全て、そう、全てだ。彼がこの世界ではない別の世界からやってきた人間であることも、この世界の土台がアニメ(御伽話)の世界であることも。

 

けれど、テンの過去のことはよく知らない。彼がどんな世界で、どんな生活を、誰と送ってきたか。

 

テンに深く心酔するレムにとって、知りたいと強く思うのは当然だ。だって、好きな人のことなのだから。

 

「早く早く」と続きをせがむレム。尋常でない食いつき方を見せる彼女にテンは「大した話でもないよ?」と前置きし、

 

 

「子どもの頃の俺は、大きな音がとにかく苦手でさ。雷はその筆頭で、ピカって光る度にビビり散らかし、ゴロゴローって音が鳴って大恐怖の二段構えだった。ほんとに懐かしい」

 

「それなら、今夜みたいな日はずっとお母様に抱きついて寝ていたんですか?」

 

「恥ずかしい話だけどね。今となってはいい思い出だよ。今となってと言うより、今の状況になって、の方が正しい気もするけど」

 

 

言い、ふっと、テンの目が遠くを見つめ始めたのがレムには分かった。雨風で濁った窓、そのずっと向こう側をぼうっとした目で、なにかを探すように。

 

寂しさが色付くその目に苦痛を感じ、レムは体の位置を変えてテンの正面に立つ。彼の視界の中心を陣取ると、背中に手を回して引き寄せ、胸元に顔を埋めて見上げ、

 

 

「テンくんのお母様のことも聞かせてください。知りたいです」

 

 

自分の温もりをテンに感じさせ、存在を示すレム。テンの心に飛来した感情を察した彼女に問われると、テンはレムを抱き返しながら「んー、俺の母さんかぁ」と悩む。

 

過去の記憶を漁りつつ、母親の人物像を思い出しながら、ぽつりぽつりと言葉を溢した。

 

 

「少し天然で、口下手で、どんなときでも口調が柔らかくて、ずっと優しくて、子どもに世話焼きで、俺のことを常に気にかけてくれてた。まぁそれは、母親だからって言葉で片付けられちゃうけど」

 

「テンくんみたいです」

 

「そぉ?」

 

「テンくんだって、天然っぽいところも、言葉足らずなところもありますし。口調だって常に優しいですし。ときには荒っぽくなるときもありますけど」

 

 

「でも、そこがすごく好きです」と、破顔するレムが額を胸元に擦り付ける。全てを肯定し、良いところも悪いところも愛してくるレムに、「そーかよ」とテンは照れ隠しに荒っぽい言葉を添えた。

 

二十秒ほどすりすりしたところで動きを中断すると、レムは「テンくん」と低い声で彼の名を呼ぶ。先とは変わり、調子が落ちた声色に異変を感じるテンを見上げると、

 

 

「家族に会いたいと、そう思うことは」

 

「あるよ」

 

「ーーーー」

 

「寂しい、って。たまに思う」

 

 

意を決して投げかけられたような問いに即答し、テンは言葉に詰まるレムに立て続けに答えを付け加える。

 

紛れもない本音だった。この世界に来てから忘れたことのない次元の違う寂しさ——二度と家族に会えないと思うだけで、体が芯から凍りついていくような、捨て場のない寂しさに苛まれることがある。

 

きっと、どれだけの時間が経っても、この寂しさだけは消えてくれないんだと思う。

 

永遠の別れを伝えたい。

育ててくれた感謝を伝えたい。

 

それに、

 

 

「それにね、生まれて初めて恋人ができました、ってレムのことを紹介したい。どんな反応してくれるか想像するだけでニヤニヤするね」

 

 

少しだけふざけて、けれど真剣に、テンは寂しさ以外の感情もあるのだと口にする。

 

悪戯な笑みを浮かべる彼のそれに一瞬だけ呆然とするレムだが、それがこちらを気遣ってのものだと刹那で理解すると、真摯な顔持ちで「はい」と深々と頷き、

 

 

「レムもテンくんのご両親とお会いしたいです。ご挨拶して、テンくんと結婚を前提にお付き合いしていますと伝えなくては」

 

「そーだな。レムは俺の婚約者だもんな」

 

「そーです。レムはテンくんの婚約者ですから」

 

 

照れくさそうなテンの荒っぽい言葉を、レムは頬を赤らめながら幸せに満ち溢れた声で真似した。見惚れる笑顔を向けられたテンは伝播した幸せに釣られて笑みを溢し、二人して笑い合う。

 

その状態で抱き合えば、そこから先は二人だけの領域だ。愛し合う男女が二人、崩れることのない幸せな未来を思い描き、

 

 

「……いつか、挨拶しに行こうな」

 

「絶対に行きましょう。約束です」

 

「ん、約束」

 

 

その未来が実現するかなんて分からないけれど、約束し合う。二度と故郷に戻れないかもしれない、その確率の方が高い気もするけれど、信じることくらいはさせてほしいと。

 

 と、

 

 

「ーーっ!? あーびっくりしたぁ。マジでビビったぁ」

 

「全く空気の読めない雷ですね……」

 

 

二人だけの世界に入っていたところで、再び特大の雷鳴が割り込む。閃光が煌めき過ぎて予兆を見逃したか、テンは不意を突かれて声も出せずに驚き、レムは雰囲気を壊されて苛々。

 

まるで自分の存在を主張するかのような轟音、二人が窓に視線を向けると、挨拶するかのようなタイミングで再び閃光が煌めき、数秒後に雷鳴が吠えた。

 

 

「今の雷で、またふと思ったんだけどさ」

 

「なんですか?」

 

「話は変わるんだけど。エミリアさ、雷とかって大丈夫なんかな」

 

「………どう、なのでしょうか」

 

 

変化球すぎる話題の変え方に心が追いつかず、若干の沈黙を挟んだレムが小首を傾げて考える。同時、テンもまたエミリアを心配して想った。

 

見た目に反し、精神年齢が子どもっぽいのがエミリアという少女。雷の脅威に怯えるという、子どもが一度は通りそうなありふれた展開が、彼女にも訪れていないだろうか。

 

 

「まぁ、多分、大丈夫か」

 

「大丈夫ですよ。エミリア様も、流石にそこまで子どもではありませんし」

 

「うん。だよね」

 

 

理由もなく適当に信じたテンが楽観視すると、同じく思考を放棄したレムが同意。

 

色々な意味合いで粒揃いのエミリア陣営に、まさか雷で寝れない人がいるわけないだろうと、己を納得させて思考を完結させた。

 

 と、そこへ、

 

 

「——テン? 起きてる?」

 

 

瞬間、ピシリと音を立てて部屋の空気が凍りつき、テンとレムが表情が固まる。この騒音の中でも聞き間違うことなどない声——今、間違えなくエミリアの声が扉の奥からした。

 

扉の向こう側に人の気配を感じる二人。一旦、離れる彼らは窓を背にし、真正面にある扉と向き合うと、

 

 

「マジだと思う?」

 

「いえそんな……でも、エミリア様ならもしかすると」

 

 

完結させたはずの思考が再来し、数秒前のやり取りが思い出される二人。

 

あり得ないと捨てたはずの可能性が現実味を帯びたような気がして、彼らは深刻な表情で扉を睨む。

 

 

「テン? もしかして……寝ちゃってる?」

 

「起きてるよ! うん、起きてる」

 

「ホントに!? よかった!」

 

 

不安と恐怖が混合したエミリアの呼びかけにテンが反射的に返事してしまうと、騒音に負けないくらいの声量で、エミリアの安堵の声が扉を貫通して聞こえてきた。

 

「おいおいマジかよ」と微苦笑するテン。

「恐らく、そうかもしれません」と苦笑うレム。

 

今ので、エミリアが部屋の扉の前まで来ていることは確定した。問題はその先、なぜ彼女が来ているか。二人にはその理由に心当たりしかなく、半信半疑で次の反応を待つ。

 

そんな二人を他所に、部屋の扉がゆっくりと開く。奥から姿を見せたのは勿論エミリアで、

 

 

「夜遅くにごめんなさい。でも、ちょっと相談したいことがあって……、あれ? レムもいるんだ。もしかしてレムも雷が……あ、いや、そーじゃなくて……!」

 

「ーーーー」

「ーーーー」

 

 

 二人は、悟った。

 

来て早々、本音が口から出た正直なエミリア。

 

フリル裾なキャミソールワンピースの上から紫色のガウンを羽織った姿は、どこからどう見ても寝巻き姿で。

 

焦って弁解する彼女の胸元には、両腕で強く抱かれすぎた結果二つに折れ曲がった枕の姿があって。

 

 察するに、

 

 

「ダメだったみたいだね」

「ダメだったみたいですね」

 

「ふ、二人してどーしたの? どーしてそんな呆れた目で私を見るの?」

 

「雷が怖くて寝れない?」

「雷が恐ろしくて一人で寝れませんか?」

 

「ーーっ!? そ、そそ、そんなんじゃないもん! 私はただテンが怖がってないか、寂しがってないか心配で来ただけだから!」

 

「答えは出たな」

「お顔に書いてあります」

 

「だから違っ、違うの! ホントのホントに違うのーーっ!」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「要するに、雷が怖くて俺の部屋に逃げてきたと」

 

「私のお話、ちゃんと聞いてなかったでしょ? 怖くない。ただ、テンが心配だから来てあげたの。ほら、テンって時々おっちょこちょいなところがあるでしょ? そこがすごーく子どもっぽいなって思って、雷とか怖がってたらどーしよって思って、偶然、そう偶然! 今日は私も珍しく寝付けないから———」

 

 

テンの寝台に腰掛け、身振り手振りし、エミリアはばたばたと力説。自分がなにを言っているのか理解していなさそうな彼女のそれを、テンは真顔で聞いていた。

 

一の結論に対して百の言い訳で返してくるエミリア。彼女が部屋に来た理由は、雷が怖くて寝れないから。それだけだ。

 

悪夢に魘されたとか、体調が悪いとか、特別な理由があるわけでもなく、単に雷が怖くて寝付けないのだ。

 

一応、彼女の中では、寝付けないのは自分ではなくテンということになっているらしい。彼女が部屋に来てはや五分、ずっとその方向性で言い訳を羅列している。

 

つまるところ、先ほどまでのテンとレムの会話は前置きに過ぎず、本編はここからである。

 

 

「だからこの場合、怖がっているのは私ではなく、テンなのですっ!」

 

「いや、なにも説明できてないから。キメ顔しても意味ないから」

 

 

あれこれ理由を並べた末、ビシッと人差し指をテンに向けたエミリアがドヤ顔で論を閉じる。

 

椅子に胡座をかいて座り、呆れた様子のテンは「はぁ」とため息をつき、

 

 

「いい加減に認めたら? 別に雷が怖いことが恥ではないんじゃない? それは時間と共に克服されるもんだと思うし」

 

「認めるってなにを? 雷なんて怖くないし、怖いと思ったことなんて一度もない。怖がってるのはテンの方、そーやってへっちゃらな顔して、実はおっかなびっくりしてるん……、ひぁ!?」

 

 

エミリア節が炸裂しまくる中、爆発でも起きたような雷鳴が部屋に響く。

 

閉じた力説を再び開き、怖がっているのはそっちだと主張するエミリア——その音に可愛らしい声を上げたのは他でもない彼女であり、テンは無反応。

 

じーっと、真顔で、エミリアを見つめるテン。

 

抱いた枕に顔を埋めたエミリアは、そこからそっと顔を離すとテンと目が合う。すると、みるみる頬を真っ赤にして、

 

 

「ち、違う! 違うから! 今のは音にびっくりしただけだから! お部屋が明るいせいで光ったのに気付けなかっただけだから!」

 

「もうそれ、自白してるようなもんだよ! 君やっぱり、自分がなに喋ってるか理解しながら話してないな!? 頭に浮かんだ言葉ぁ脊髄反射で口にしてんだろ!」

 

 

雷への苦手意識を頑なに認めようとしないエミリアにがなり、無意識に口調を荒げたテンはこの娘をどうしようかと四苦八苦。

 

ちなみに、先ほどまで暗かった部屋は今は灯りをつけて、かなり明るくしてある。

 

なぜか、真っ暗だと閃光の煌めき——雷鳴の予兆である『空がピカッと光る現象』の影響を顕著に受けるため、エミリアが縮こまって小動物のように怯えるのだ。

 

それでもまだ怖くないと言い張るあたり、彼女の我慢強さと意地の強さがよく光っていると思う。

 

 

「君、よくここまで一人で来れたね。道中、怖かっただろ。真っ暗な廊下の中一人でここまで来たんだろうし」

 

「そんなことないわ。ぜんぜん、へっちゃらよ」

 

「ふーん」

 

「なにその顔、信じてないって顔してる」

 

「枕を抱きしめながら言われても説得力の欠片も無い。つーか、それ俺のだし。エミリアが抱いてきた枕はこっち」

 

「え?」

 

 

平然とした態度で、自身の足元を指差すテン。そこにはくたっと倒れた枕があり、現在進行形でエミリアが抱く枕よりも大きめのサイズ。

 

立ち話するわけにもいかないからと、部屋に入ってきたエミリアを寝台に座らせる際、真っ暗な部屋に閃光が煌めいて驚き、落ちたものだ。

 

部屋が明るいのはその一件があったからで。その後、エミリアは手近にあった枕を勢いで抱えたため、取り違えに気づかなかったのだろう。

 

つまり、気づかぬほどに動揺していたわけだ。

 

 

「はい、この枕を抱いて。それ返して」

 

 

腰を曲げてエミリアの枕を拾い上げ、「どーぞ」とテンは持ち主に渡そうとする。

 

自分の胸元にあるテンの枕、テンの手にある自分の枕。エミリアは二つを交互に見ると、前者の枕をぎゅっと抱きしめ、

 

 

「こっちの抱いてるからいらない」

 

「枕さんが可哀想」

 

「いらないったらいらない」

 

「えぇ……」

 

 

困惑するテンの気も知らず、エミリアは枕を手放そうとしない。その姿は大事な人形を抱きしめる女の子のようで、とても可愛いから本当にやめてほしい。

 

それに、エミリアの隣に座るレムの殺意がすごいことになってる。平常心っぽく見えているが、背後から内に眠る鬼神が化身として顕現しかけているのがテンには見えた。

 

 

「レムもなんとか言ってよ。じゃないと、ずっとこんな調子だよ?」

 

「なんとか、ですか」

 

 

エミリアの隣に座り、静かに話を聞いていたレム。真横で暴れる幼稚なエミリアに終始苦笑いの彼女だが、テンに助け舟を求められると殺意を引っ込めて動く。

 

靴を脱いで寝台に正座し、エミリアを体の正面に捉えるレム。エミリアに「れ、レム?」と不安そうに名前を呼ばれると真剣な表情になり、

 

 

「あのですね、エミリア様」

 

「う、うん?」

 

「実はテンくんも今のエミリア様と同様に、幼い頃は雷が怖かったそうですよ」

 

「うそ、テン()怖かったの!?」

 

「ーーーー」

 

「ーー。あっ……」

 

 

特大の釣り糸に引っかかり、エミリアが声高らかに驚愕。その言葉を受け取ったレムが沈黙したのをきっかけに、自分の失態に気づいた時には遅い。

 

嵌められた、罠に落ちた。理解するエミリアが気まずそうに目を逸らし、枕に顔を埋めて表情を隠す。

 

見事に自白させ、その上で自白させたことを自覚させた策士レム。情け容赦のない彼女はテンに視線を送ると「お願いします」と口パク。

 

やれやれとため息し、テンは「エミリア」と優しい声色で、

 

 

「やっぱり、ちょっとは怖い?」

 

「ーーーー」

 

「言った方が楽になれるよ。さっきも言ったけど、恥ずかしがることじゃないし。レムの言う通り、俺も怖かったから。なんなら、今でも音にびっくりしてるし」

 

「そう、なの?」

 

 

くいっと顔を上げ、上半分だけ枕から出したエミリアの紫紺の瞳がテンに訴えかける。

 

自分の枕にエミリアの顔面が埋まってる絵面。テンはそれなりにクるものがあるそれを無視し、

 

 

「怖がらない方が珍しいと思う。少なくとも俺は」

 

「ーーーー」

 

「やっぱり、ちょっとは怖い?」

 

「ちょっぴり怖い……です」

 

「ちょっぴり、ってのはだいぶ大きめのちょっぴりだったりします?」

 

「ちょっぴりはちょっぴり! もぅ、テンのバカ! イジワル!」

 

 

やっと素直に告白したエミリアに冗談半分で笑いかけると、ぼっと赤面するエミリアが怒り、腕から枕が至近距離で投擲される。避けれないテンの顔面に直撃し、その胡座の中に落下した。

 

ぷりぷりと怒るエミリアに「ごめん。俺が悪かったです」と謝ってなだめながら彼女に彼女自身の枕を返しつつ、テンは自身の枕を胡座に置くと、

 

 

「エミリアが雷が苦手なことが分かったところで、聞きたいんだけどさ。俺んとこにきてどーするつもりだったの?」

 

「レムも気になります。……おおよその見当はついてますけど」

 

 

渡された枕を胸に添え、少しばかり残念そうにテンの枕を見るエミリアは、二人にそう問われると「ん?」と小首を傾げる。

 

それから「えーっとね」と、なにやら気恥ずかしそうに口籠ってはテンの方をチラチラ——この時点で、少し遅れてテンは察する。

 

嫌な予感を察知し、謎の緊張感が走るテン。ジト目でこちらを睨むレムの視線がブッ刺さる中、エミリアは悪意のない笑顔で言った。

 

 

「テンと一緒に寝ようかなぁ、って」

 

 

 ——雷鳴が、吠えた。

 

 







生存報告ついでのはずが、一話完結じゃないという。モチベが上がったので、上手くいけば数日後には『雷の鳴る夜に②』が更新されます。
次回は他のメンバーも出して、もっとドタバタさせるのでよろしくです。

小説を書く感覚ってやつ、取り戻せるように頑張ります。そしたら本編の方も。

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