親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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いい感じのタイトルが思いつかなくなってきたので、それっぽいタイトルにしました。




魔法の使い用

 

 

ハヤトに色々と言われた翌日。

 

朝の仕事をあらかた終わらせたテンとハヤトの二人は庭園にて、朝食の支度の時間が来るまで暫しのリラックスタイムをとっていた。

 

 

「疲れは取れたか?」

 

「大体は。これから周期的にオフの日を入れても悪くないかと思う」

 

「そうしろ。俺だってそうするつもりだからな」

 

 

胡座をかき、隣り合わせで座る二人。テンの顔色を見る限りはだいぶラクそうになったことが分かるハヤトは言って良かったと空を見上げてほくそ笑む。

 

親友関係だからこそ言いたい事を遠慮なく言うことのできるハヤトは、言うか言わないかで迷ったら言う人。

 

親友のみに適応されるそれが今回は吉と出たらしい。そのうち、テンの琴線に触れて大喧嘩にならないか懸念する部分もあるが、

 

 

「そうなったら、拳で語り合うまでよ。男と男が語り合うのに言葉はいらねぇ。拳一つあれば十分だ。親友関係なら尚更な」

 

「急になに怖い事言ってんだよ。意味分かんないこと言い出すなよな」

 

 

決意を固めるハヤトが拳を握りしめ、自分の中だけで言葉を完結。なんの脈絡のない拳で語り合う宣言に、テンは恐ろしさしか感じない。

 

仮にそうなったとしても、呆気なく負ける未来しかテンには想像できない。相手は空手の黒帯保持者。自分はただの一般人。経験の差がありすぎるだろう。

 

謎に燃えるハヤトを横目に空を眺めるテンだが。ふと、昨日のことを思い出したときに思い至り、

 

 

「ってゆーかさ。お前、陽属性は使えないの? 身体能力を上げる魔法なら使えたら今よりも飛躍的に強くなれると思うんだけど」

 

 

昨日のことだ。鍛錬の成果を見せるために魔法を披露してくれたハヤトだが。その中に陽属性のものが入ってなかった。彼ならば真っ先に習得しようとするとテンは思っていたのだが。

 

そんな問いかけにハヤトは難しそうに顔を顰めると「それがよ」と首を横に振り、

 

 

「この屋敷に陽属性を使える人間はいねーから。あ、ロズワールに教えてもらうってのは論外な。アイツの使う魔法が、今の俺に使えるわけがねぇ。陽属性が一番適性あるのにこれじゃ意味がないっての」

 

「確か、身体能力の強化だっけ。もし使えたら今のお前とは一線を画すと思うんだけど。使い方が分からないって……」

 

 

武道の心得を宿すハヤトが陽属性を使いこなした場合、身体能力爆上がりの彼が爆誕。軽々しくバク転とか宙返りとか、拳一つで大岩を砕いたりできたりするのだろう。

 

もしそうなれば、自分はハヤトとの差に更に頭を悩ませることになるだろうとテンは内心苦笑い。

 

自分は自分、彼は彼。抜かされたなら追いつくまでと割り切ってはいるが。どうしても比べずにはいられないのだ。

 

 

「なぁテン。お前ならなんか知ってんじゃないか?原作に陽属性の魔法とか、無かったか?」

 

「そうね。あるとすれば"アクラ"くらいかなぁ。プリシラっつー王選候補者が使っていた覚えがあるような、ないような」

 

 

記憶を探るテンが空を仰ぐまま考える。その隣では「アクラか…」と聞いた事もない魔法に若干の希望の光を見出しているハヤトが小さく頷いていた。

 

どちらかと言うと、原作の知識はテンの方が幅広く蓄え。世間一般で言うリゼロオタクである彼はどんな魔法があるのか調べたことがあり。その中で今のを見つけたことがある。

 

他にはロズワールも触れていたが、指先から熱線を放出するジワルドなんて魔法も存在している。尤も、今のハヤトにはまだ制御しきれないから習得するのは先の話。

 

 

「その、アクラってどうやって発動させんだ?」

 

「知らね。でも、魔法って想像力が根源だから。名前が一緒でも発動の仕方は人それぞれ。詠唱はそれを形にするためのものだからそこに至るまでの過程は何通りもある。だから、お前なりの方法で習得すれば?」

 

「それが分かったら苦労しないんだよなぁ」

 

 

魔法とは術者によって何にでも成れる無限の可能性を秘めた概念。一つの魔法でも想像力と熟練度次第でどんな姿にもなれる。水属性なら、今は氷柱しか作り出せないが、盾だったり剣だったりと応用することはいくらだって可能。

 

ハヤトの場合は、それが分からないから苦労している最中。頭を柔らかく、想像力を豊かにしてもまだそのイメージは確立しなかった。

 

希望の光が薄れる気配に途方に暮れるハヤトがテンと同じように空を仰ぎ、彼を横目に依然として空を仰ぐテン。二人して苦笑いした。

 

しかし、分からないなら一緒に考えてもらうのがハヤトのやり方だ。

 

 

「お前ならどうする? お前がこれを使うとなればどうやって発動する?」

 

 

隣にいるテンに頼ることにしたハヤト。彼は自分よりも想像力豊かで火球の数を増やすのにも貢献してくれたから、今回も画期的な案を出してくれるのではと。

 

強い眼差しを向けられ、なおも視線を空から外さないテンは「んーー」と数秒間悩み続けていたが「そうね」と声を出すと、

 

 

「今まではさ、マナを外に放出してそれを結びつけるように魔法を使ってたなら。今度はそれを自分の体の中でやるとかはどう?」

 

「もっと分かりやすく言うと?」

 

「ゲートから取り出したマナを全身に行き渡らせる感じで。全身に熱を行き渡らせて、それを循環させ続けるみたいな」

 

 

人差し指を円を書くようにグルグルと回しながら説明されたことに「なるほどなぁ」と自分では思い付かない発想に感心。やはり、彼の方がその面に関しては上手だった。

 

熱を体内で循環させる。マナを全身に行き渡らせるイメージ。今までは外に働きかけていたマナを今度は自分の内側に。

 

言葉だけでは理解できてもそれをやれるかどうかは別だが、突破口は見つけたとハヤトは笑みを浮かべる。

 

 

「そして、その魔法をアクラと名付ける。とか」

 

「やっぱお前に聞いて正解だな。ありがとうよ、その方向で今夜やってみるぜ」

 

「うん、頑張れよ。一番適性のある属性なんだから使いこなせなくちゃだもんね」

 

 

ガッツポーズで気合を示す。やり方さえ分かれば、あとは感覚で覚えるハヤトが陽属性習得へと一歩近づけたことに嬉しがる様子。適性の高い魔法ならば尚更だ。

 

テンもテンで。それを習得されたら本当にどうしたものかと内心懸念していたが。ハヤトが喜んでくれたならそれも良しと微笑む。

 

 けど、本当に。

 

 

「お前が陽属性習得して、身体能力上がったら俺はどうなんのさ。完全に俺、劣化版ハヤトじゃん」

 

「なに言ってんだよ。お前は俺よりも想像力が豊かだから、魔法に長ければいい話だろ。その時でお前は劣化版じゃねぇ。俺は俺の強さを、お前はお前の強さをつければいい」

 

 

悩みの種を、そこはかとなく発散するテンだが。コンマ数秒でそれを否定したハヤト。相変わらずの態度に心が跳ねるような感覚に陥ったテンは軽く息を溢すことで反応を示した。

 

ハヤトはハヤトの強さを、自分は自分の強さをつければいい。そう割り切れればどれだけラクになれるのか。実力だけではない、精神的にも自分はハヤトに劣っているから。そう割り切れたなら少しはマシになるのか。

 

それは無理だとテンは思った。自分は分かっていながらも止めない人間だから。ハヤトとの差に頭を悩まされる事はこれからも沢山あるだろう。

 

 

「物理特化ではなく、魔法特化の超魔法使いとかにでもなれば?」

 

「嫌だ、俺も刀使いたい。お前みたいになりたい」

「子どもか」

 

 

それでも頑張ると決めたから。テンは諦めるような事はしない。それらを理由に目を背けることなどカッコ悪いのだ。そこくらいは、せめて男らしくありたいのだ。

 

子どもじみて、単純な理由だけど。自分の心を支えてくれる大切な感情。その灯火が消えないようにこれから先も、ハヤトの背中を追い続ける。

 

いつか、自信を持って隣に立つために。

 

心の中で決意を固めるテンと、子どもみたいな発言にツッコむハヤト。そんな和気藹々とした雰囲気の二人。

 と、

 

 そこに二つの声が入ってきた。

 

 

 

「テン、ハヤト。二人ともおはよう」

「今日は元気そうだね、テン」

 

 

声の方向に視線を傾けると、微笑みながら二人に近づいてくるエミリアと、彼女の肩に座っているパックが見えた。

 

ここにきたということは、朝の日課は終わったという事だろう。精霊さん達とのお話タイムを終え彼女は少しの間リラックスタイム。

 

そんな二人に手を振るコッチの二人。招かれるように二人の前にアッチの二人は腰掛けた。

 

 

「もう朝の日課は済んだの?」

 

「もちろん。二人は何をしてたの?」

 

 

腰掛けたエミリアが、膝に乗ってきたパックの毛並みを整えながら首を傾げる。この時間帯にここにいる事が珍しいから気になったようで。

 

二人は顔を見合わせると、

 

 

「何もしてない。ただ、会話してただけ」

「親友と親友の語らいってところよ」

 

 

熱の入り方にだいぶ差のある回答に「ん?」と理解できてないエミリア。テンは話していただけと、ハヤトは語っていたと。似ているようで違う反応に困惑気味。

 

それでも、二人の間では理解が通っているのが凄いところ。なんの違和感もなく彼女の困惑は素通りされた。

 

そんな彼女の反応を見ながら、先程の会話を思い出していたハヤトがふと思い立ったように、

 

 

「つかよ。エミリアって魔法使えたりすんのか? パックみたいな精霊がいる感じだと、使える感じはあるけどよ」

 

「うーんとね。私は魔法使いじゃなくて精霊使いだから、使うのは魔法じゃなくて精霊術。魔法とは少し違うけど、原理としては一緒なんだけどね」

 

 

言った直後。何もない空間からガラスがひび割れるような音が連鎖し、彼女の拳の上に氷柱が出現。それを見たハヤトが「うぉっ」と小さく声を溢して驚いた。

 

今、彼女は無詠唱で氷柱を出したことがハヤトにとっては驚愕。それをすることがどれだけ困難なことか深く理解している彼は、なおさら彼女の凄さに驚愕。驚愕に驚愕を重ねられて言葉も出ない。

 

さすがエミリア。彼女自身の戦闘力が高いのに加えて、大精霊パックと契約しているだけはある。自分と彼女との差に途方に暮れ、もっと頑張らねばと思わされた。

 

そんな風に決意を再確認するハヤト。彼は「ってことはよ」と文脈のない言葉から繋げ、

 

 

「氷柱を出してるってことはエミリアは水属性なのか? ほら、テンだってよくやってるし」

 

「氷なんだけど、これって実は火のマナなの。火は主に熱量に関わるマナだから、熱いのも冷たいのも大局的には火に分類されることになるわ」

 

「つまり?」

 

 

エミリアの説明を受けたハヤトが頭の上に大きな疑問符を一つ浮かべる。

 

今の説明で隣のテンは理解できた、というよりも原作の知識に確信が持てたのだが。ハヤトの場合は原作の知識とか全く知らずにちんぷんかんぷんだ。

 

彼にもっと分かりやすい説明を要求されたエミリア。彼女は「えっと……、そうね」と、どう説明するか悩むように視線を右往左往。不意にテンの瞳を見ると「うん!」と元気よく頷いた。

 

何がどうして「うん!」になるのか全く分からないテンは「あ?」と思わず腑抜けた声が出てしまうが、その間にもエミリアは自分の目の前にまで近づいており。

 

「こういうこと!」と溌剌とした声と共に細い腕が伸び、彼の肩に触れた瞬間ーー、

 

 

「ーーーっ!? つめ、さむ、冷たい! 冷たい冷たい冷たい冷たい冷たたたたたた!」

 

「こういう感じでね。火のマナは温度を操ることができるから。マナを冷やして凍らせて、氷柱を作ってるって風に思ってちょうだい」

 

 

淡々とした講義のように説明しているが、真横で震えているテンのせいでハヤトはそれどころではない。彼女が彼の身体に触れた途端、何かに反応した彼の体が大きく跳ね、カタカタと震え始めている。

 

これが熱量関係の火のマナ。周囲の温度を下げることを可能とする魔法は、触れた存在の体温すらも下げることが可能なようで。

 

彼女もそれを説明したかったのだろう。やり方は少々サイコってる気がしなくもないが、実演の犠牲者となったテンからすればいい迷惑である。それを止めるハヤトも大慌てで引き剥がした。

 

 

「えみりゃ、えみりあ! さぶ、さぶぃい!」

「エミリア! しぬ、それ以上はテンがしぬ!」

 

「あ、ごめんなさい! そんなに強くしたつもりはなかったんだけど……」

 

 

芝生の上を滑るテンがハヤトに回収され、彼の体に触れたハヤトはその体の異常なまでの冷たさに戦慄した。たった数秒程度しか触れてないのにも関わらず、彼の体温が冷水並みに冷たい。

 

小刻みに震えるテンがそれを一番理解しているはずだ。自分の身に降りかかった死を思わせる絶対零度、脳裏にカチカチになった原作主人公が過ぎった。

 と、

 

 

「待っててね、すぐに温めてあげるから。私のせいだから、私がちゃんとテンの体を元に戻してあげる!」

 

「いい! 結構です! だ、だいじょうぶだから! ちょっと寒いけど、もんだいないから!」

 

「大丈夫、今度はちゃんと調節するから! 絶対の絶対に大丈夫だから! ほら、いい子だから。ハヤトもテンのこと渡して?」

 

 

申し訳なさそうに表情を暗くするエミリアが、しかしどこか楽しそうな様子でテンの体にじわじわと迫り。首を横にブンブン振ってテンは彼女の後始末を彼女に受けるのを否定。

 

大分前にあったボディータッチ事件といい、脅かし事件といい、今回といい。割とトラウマになりそうなエミリアの無邪気さに心を震わせつつ、彼は真横にいるハヤトに視線を向ける。

 

 

「ハヤト、お前は俺を渡しはしないよな?」

 

 

縋るように、助けを請う瞳を向けられたハヤトは笑みを浮かべるーー黒い笑みだった。

 

 

「悪ぃ。ちょっと面白そうだと思っちまった」

「おまっーー!」

 

 

葛藤する様子すらなかったハヤトが回収したテンの体を強く押し出し、芝生の上を滑るテンはそのままエミリアへと背中から突撃。「あっ、死んだ」と本能的に察した彼は瞬間で訪れる背中に触れる二つの紅葉型の感触に身を固めーー、

 

 

「どう? 温かい?」

 

「ーーーー。うん、あたたきゃい」

「きゃい?」

「きゃい」

 

 

二度と発せられない謎の語尾がこの瞬間だけテンの口から顔を出し、エミリアがそれに首を傾げる動作を背中に本人は静まる。両手から伝わり、流れてきた優しい温度に寒さが溶かされていた。

 

火のマナの恐ろしさ。それを身をもって知ったテンは首根っこを掴まれた子猫のように固まり、体の震えが止まっていく感覚に喉に詰まっていた息を吐き出すと、

 

 

「エミリアは怒らせてはダメ、怒らせたら凍らされる。これから長いこと一緒にいるであろう人として覚えておくよ。ついでレムとラムも。屋敷の女性はみんな怖いな……」

 

「あ、ベアトリスも追加な。でもアイツの場合は怒ると面白いぞ」

 

「二人って、すごーく真面目な顔してすごーくおかしなこと考えるよね」

 

 

戦々恐々と肝に銘じるテンと、真面目に考えるハヤトの二人に苦笑するエミリア。「はい、もう大丈夫よ」と彼女はテンの背中を軽く押し出し、定位置としてハヤトの横に戻ったテンはもう震えてなかった。

 

突発的に始まった火のマナの実演授業。エミリアの無邪気さがテンという被害者を出したそれは、彼の身体が安全な状態に戻ったことで終わる。

 

両手を後ろにつくテンは色々と疲労気味で、エミリアは依然として楽しそうで、ハヤトは二人の面白やりとりに笑うばかりで、口を挟まないパックは和やかな場面に頬を緩ませて。

 

誰が一番えらい目に遭ったかなど考えるまでもないが。みんなが楽しそうならいいかと、エミリアの笑顔に免じて今回は許した。相変わらず女の子に甘いテンである。

 

これぞ日常。と呼べる一場面の中、エミリアの氷柱を振り返ったハヤトが少し思い至り、テンの方を見て、

 

 

「なら、テンのやつはなんで氷なんだ? お前も火のマナで氷作ってんのか?」

 

「いや、俺のは水のマナだよ。水を凍らせて氷柱を作ってんの。そうか……、火のマナで温度を下げる要領でも作れるのか。なるほど」

 

 

ヒューマ。と軽く詠唱するテンの正面に厚さ十センチ程度の氷柱が現出。意識せずとも詠唱しただけで魔法を使用できるようになったことに再び驚くハヤトだが、当の本人は考え事をしているのか特に気にも止めてなかった。

 

つまりは、エミリアの場合は火のマナ。熱量を司るものだから気温を下げる要領で氷を作り出す。マナを凍らせる感覚だろうか。テンの場合は水から氷を生み出すような感覚。似たり寄ったりだ。

 

 

「テン。お前、無意識下でも魔法を使えるようになったのかよ。すげーな」

 

「えっ……? あぁ、そうね。これだけならなんかできてた」

 

 

なんかできてた程度で済まして良いのかとツッコミそうになるハヤトだが、基本的に自分がどれくらい鍛えられてるのかなんて案外自分でも分からないものかと思う。

 

こうしたなんでもない場面でそれが形となる事も多い。そして、今がまさにその場面だ。ここ数日間過度な鍛錬をしてきたテンの成果が一つの形として現れた。

 

本人としては考え事に夢中でさほど気にしてないようだが。もっと喜んだ方がいいと思う。自分を褒める事も時には大切だろう。

 

 

「そう言えば、二人って魔法に適性があるんだってね。ロズワールから聞いたよ」

 

 

親友の成長にしみじみしていたハヤトと、火のマナの使い道を模索していたテンの耳に沈黙していたパックの声が届く。各々考えていたことを中断して視線を向ければ、パックに同調するエミリアが「そうそう」と言葉を重ねて、

 

 

「詳しく聞いてなかったから、気になってたの。二人ってどの属性と適正あるの?」

 

「俺は火と地と陽の三つだ」

「俺は火と水と風の三つだよ」

 

 

誇らしげに言い放つハヤトと、淡々と言うテン。二人の態度に差があるのを気にする前に、エミリアとパックは驚くような仕草を見せた。

 

そもそも、どれか一つと適性があっただけでも誇っていいこと。そんな中、三つの属性と適性があるだなんて信じられなかった。けど、診察したのは他でもないロズワールだと言うと嘘ではないと納得する二人。

 

 

「そっか。でも実際、結構すごいことなんだよ。三つの属性と適性があるってさ。使いこなせないと宝の持ち腐れににゃっちゃうけど」

 

「だから頑張って鍛錬してんだよ」

「少しでも早く使いこなせるようにね」

 

 

自分の秘めたる力に浮かれず、日々精進することを心がける二人が当たり前のように言う。それは二人もよく理解していることだから、自分の力にあぐらをかくような持ったえない真似はしない。

 

そんな二人を見たパックも満足そうに頷く。この二人は自分の娘の未来の騎士達なのだから、それ相応の力はつけてもらいたいと思っていたが、それを言う必要もないだろうと。

 

昨日、テンがエミリアに告げた言葉。あれが実現する日をパックは楽しみにすることにすることに。少しずつ強くなる二人を見ているのも悪くないと密かに思うのだった。

 

 

「…さて、ハヤト。俺らはそろそろ仕事に戻ろうか。朝食の支度をしなきゃだし」

 

 

まだ浮かんでいる氷柱を消しながらテンが体についた芝生を払い、立ち上がる。準ずるようにハヤトも立ち上がった。

 

話に没頭しすぎて危うく仕事を忘れかけていたことに気を引き締める二人は振り返ると、

 

 

「じゃあ、俺らは仕事に戻るね」

「またな。二人とも」

 

 

手を振り、二人の前から去っていった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

「でさ、そこで俺は思ったんですよ。やっぱり、寝すぎると頭痛がやばいって」

 

「俺はそうでもねぇぞ?」

 

「そりゃ、お前は昼夜逆転してるからでしょ」

 

 

下らないことを話す二人が厨房へと足を進める。普段から中身のない会話をすることに終わりを知らない二人は、通話を五時間ぶっ通しでやれるレベルだ。

 

それも、一度も会話が途切れることなどない。話題が転換し続けるせいで止めどない会話が永遠と続くのだ。テンもハヤトもそれを最高に楽しいと感じているから意図的に止めることもせず。

 

あるとすれば、第三者の介入。

 

 

「あ、テン君。おはようございます」

 

「おーー。おはよ、レム」

 

 

そんな時だ。

 

二階からパタパタと降りてくるレムが階段を三個ほど飛ばして飛び降り、テンの前へと着地。身軽な彼女に感心するテンが拍手を送るなどのことがあった後、二人は向き合った。

 

普段は階段を飛び降りるなんてことしないはずなのだが、どうしてかと思うハヤト。しかし彼を置いて話は進んでいく。

 

 

「テン君。昨晩はちゃんと寝ましたか?」

 

「寝ましたよ。疲れたから昨日はいつもより早く切り上げてさ。お陰で目覚めも良かった」

 

 

心なしか距離の縮め方が積極的なレムに精神的に押されるテンが微笑み。彼のそれを向けられたレムも嬉しそうに微笑んだ。

 

ちゃんと寝ているかなんて聞かれれば「寝ましたよ」としかテンは答えられない。心の中で夜更かしした時はなるべくレムに会わないようにしようなんて思う。それで今の質問をされれば確実に彼女の表情が曇る。

 

そんなことなどつゆ知らず。レムは「それは良かったです」と両手を軽く握りしめて可愛らしくガッツポーズすると、

 

 

「また仮眠をしたければレムに声をかけてくださいね? そうなれば、レムはいつでも起こしに行きますよ」

 

「それ、なるべく人前では言わないでね。特に、ラムの前では。俺の首が飛ぶから」

 

「はい、分かりました!」

 

 

なんのことやら理解が追いつかないハヤトだが、二人の間では意思の疎通ができているような雰囲気で。いつの間にか仲良くなってる二人に存在を忘れられている彼は密かに苦笑い。

 

厳密にはレムがテンにしか意識を向けてないような気がしなくもない。だって、視線がテンからピクリとも動かないのだから。ずっと彼の瞳を見ている。

 

少し前から感じていたこと。レムはテンに対して明るく接することが多くなってきた気がする。それに、話している回数も格段に増えているような感じもする。

 

その理由。パッと思いつく、というかラムとの間でその話をした時に結論付いたことなら一つだけ。

 

ラムもハヤトと同じようなことを思っていたようで、テンが何かしたのかと聞いてきた時のことだ。その場で『テンとレムを見守る会』を結成した時に結論として出たこと。それは、

 

 

「ん、じゃあまた後でね。レム」

 

「はい。また後で」

 

 

聞こえてきた声に意識を思考から切り離すハヤトが世界を見た時。彼の視界には手を振るテンと、彼に手を振り返しながら去っていくレムの二つが映った。

 

なんだ、もう話終わったのかと思うハヤト。彼の方をポンと叩くテンは「いくよ、ハヤト」とレムと親しげに話していた事には触れない。

 

そのまま厨房へと歩き出すが。もちろん、ハヤトがそれを見逃すわけがなく。彼を追いかけるハヤトは隣に並ぶと、

 

 

「最近お前、レムと結構話してないか?」

 

「んーー、かもね。話しかけてくれることが多くなってきた気がする」

 

「なんかしたのか?」

「なんも。何かできると思う?」

 

 

そこで素直に何かできると思えないのがテンの悲しいところである。当然だとでも言いたげに腕を組む彼にハヤトはため息を一つ溢した。

 

もし、立場が逆ならば今の問いかけにも意味があるのかもしれないが。テンの場合、それは愚問に等しい。

 

 

「でも、ここ最近お前とレム。結構仲良さげに話してると外から見ても思うが。ラムも言ってたぜ。お前がレムに何かしたんじゃねぇかって」

 

「なんで俺が何かした事を一番初めに疑うのさ。俺の信頼度皆無じゃん。俺の性格知ってんだろ」

 

 

性格が全て語る。基本、女性に対してガツガツ行かない。距離があるならばそれを保ったままにするのがテン。気になる人がいても近づきすらしない。そうなると相手も興味ないのかって引いてしまう可能性も懸念されるが。

 

今のところ、その相手すらいないのが彼の現状。その心配もないーーと、思っていた。

 

 

「お前、もしかしてレムに気に掛けられてるとかあるんじゃね?」

 

「そんなわけあるかよ。だいたい、俺のどこに気にかける要素があるのさ。この俺に、俺なんかに。アピールポイントなんてありませんよ?」

 

「だから、お前はそれを自覚しなさすぎてるんだよ。もっと、自分のいいところを知るべきだと俺は思うぜ」

 

「知るも何も、ないんだもん」

 

 

だからそれをなんとかしろ。と言ったとしても。だってないんだもん。と話が平行線になるだけと呆れるハヤトである。

 

ここまで自分ことを下に見ていると、わざとしているのかと勘違いしてしまいそうになるが。残念なことに、これで超大真面目だ。彼は本気で自分に魅力がないと思っている。

 

否、思い込んでいる。

 

 

「……ほんと、面倒な性格してるよな。お前」

 

「今更すぎることを改めて言われても」

 

 

困るよ、と笑うテンに。その原因がお前なんだよこのポンコツ、と。心の中で大きなため息を深く長く大袈裟に吐き散らすハヤト。

 

彼が自分のことをそう思っているのは嫌と言う程知れたから。もしも、レムが彼に気があるのならば彼の性格は自分がなんとかすると、ハヤトは密かに拳を握りしめた。

 

 

 






さて、そろそろ二人の関係を一歩前に進めましょうかね。誰と誰の関係かは、次回までとっておいてください。多分、ほとんどの方がなんとなく分かると思いますけど。

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