親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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タイトル、なんとなくオシャレだと思いません? あ、思いませんか。

長いです。久々に14000文字を越しました。





雨傘の下に書かれた名前は

 

時間は進み、陽日の二時。

 

 

 

「それじゃあ、テンテン。買い出し頼むわよ」

「ん、行ってくるね」

 

 

ラムからのメモを受け取るテンが屋敷の玄関扉を開けて、玄関前で大きく背伸び。硬くなった身体をほぐしながら長い道のりへと足を進めようとしていた。

 

 

 ーー事の始まりは、昼食の支度の途中に香辛料が心許ないとレムが呟いたことだ。

 

 

ならば、買いに行けばいいじゃないかとハヤトが言い。ならテンが行けばいいじゃないかとラムが言った事で本人の居ない場所で話がトントンと進んだ結果、今に至る。

 

なんてことか。これでは完全にテンの発言権が剥奪されていることになる。しかし、決まってしまったものは仕方ないと割り切るテンもその話に乗ることに。

 

言い出したのはレムだから、自分もついて行くと彼女が提案してきたが。買いに行くのは香辛料。然程の量でもないと断った。

 

そうと決まれば後は早い。普段の仕事をパッパと終わらせたテンはアーラム村へと向かうために玄関扉を通ったというわけだ。

 

 

「なぁ、ラム」

 

 

外に出て空を見上げた時、視線の先に怪しい雲行き。今日の天気は曇りと太陽が顔を見せてないことや、雲の色が明らかに雨雲の色をしていることから雨が降ることを懸念した彼がラムの名前を呼んだ。

 

名前を呼ばれ、振り返るラムにテンは雲行きの怪しい方向を指差しながら、

 

 

「もしかしたら、雨が降るかも。洗濯物は早いとこ取り込んだ方がいいと思うよ」

 

「テンテンの天気予報は当てにならない気がするけど……。そうね、テンテンの以外は取り込んでおくとするわ」

 

 

声に誘われるラムが玄関前で空を見るテンの隣まで移動。彼の指差す方向を見れば、確かに怪しい空模様だ。

 

残念なことにテンが向かう先にその雲がかかり、雨が降るかもしれない場所に突撃すると思うと気が重くなり、テンは肩を落とした。

 

 

「俺のだけ律儀に残すってある意味面倒だよね。それに、今から俺はあそこへと向かうんだけど。つか、ラムだよね。俺に行けって言ったの」

 

「ええ、そうよ。当たり前でしょう? 昨日の朝は仕事をサボったのだから。雨に降られようとも気合で帰ってきなさい。香辛料を濡らしたら承知しないわよ」

 

「前半の文章が理不尽すぎるのに加えて、雨の中で俺よりも香辛料を心配するラム先輩。まじ意識高すぎるっス」

 

 

昨日の朝。レムに休んでろと言われて朝食の用意だけお休みした事がラムにはよろしくなかったらしい。今日は、その分を買い物で取り返してこいと中々に鬼畜だ。

 

晴れた午後なら喜んで行くが。生憎と太陽は雲に隠れ、青空も雲の隙間からしか見えない。更に、向かう先には怪しい空模様。悪天候がここまで重なると仕組んだのではとさえ思える。

 

自分よりも香辛料を大事にするラムの意識の高さに先輩としての威厳的なものを感じるテンだが。当の本人は自慢げに胸を張り、

 

 

「当然よ。ラムよりも意識の高いメイドがいるなら今すぐに連れてきなさい」

 

「五分以内に連れて来れるよ?」

 

 

軽口を叩きながら遠い目をして空模様を伺うテン。そんな彼の背中を軽口と同じ度合いでラムは軽く叩いた。

 

 

「無駄口を叩いてる暇があったらさっさと行きなさい。雨が降るよりも前、濡れる前に帰ってくれば問題もないでしょう。安心なさい、タオルは用意しておいてあげるから」

 

「濡れる前にとか言っておいて、濡れることを前提に話を進めるのやめない? まぁ、別にいいけどさ。雨に濡れることくらい、今に始まったことじゃないし」

 

 

押されるがままにゆっくりと歩き出したテンは、ブツブツと呟きながら今度こそアーラム村へと向かって行く。

 

不意に肌を撫でた風が冷たくて、本当に雨が降るのではと思い。傘を取りに帰ろうか少し迷ったがきっと大丈夫だろうと呑気に歩くのだった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

吹く風が徐々に冷たさを増してきた頃。怪しい雲行きを察知したハヤトが洗濯物を一足先に取り込んでいた。そして、その隣には剪定を終わらせたレムがいる。

 

雨に濡れるといけないからと、自分の仕事をある程度終わらせたレムがハヤトの仕事を手伝ってくれているのだ。まだ乾き切ってないけれど、濡れるよりはマシ。

 

淡々と作業を熟す二人。そんな中、不意にアーラム村へと買い出しに行ったテンのことが脳裏に過ったハヤト。彼は確か、傘とかは持ってないはず。

 

 

「それって、結構ヤバくね?」

 

「どうかなさいましたか、ハヤト君」

 

 

頭で考えていたことが言葉に出てたのか、洗濯物を抱えたレムが不思議そうな目をして問いかけてきた。わざわざ隠すこともないだろうと判断したハヤトは「あのよ」と繋げて、

 

 

「テンがさっき買い出しに行ったじゃん。そんでアイツ、傘とか持ってなかった気がしてよ。雨とか降ったら濡れるんじゃねぇかなと」

 

「…そうですね。風も冷たくなってきましたし、あの雨雲ですから。小降りでは収まらないかもしれません」

 

 

言い切るレムが雨雲を見る。釣られるようにハヤトも視線をそちらへと向ければかなりヤバそうな雨雲が近づいてきていた。一眼見ただけでも、「あ、これは降る」と分かる雲行き。

 

最悪なことにその方向にアーラム村があるという事実。仮に行きは大丈夫だったとしても帰りは土砂降りの中、走って帰らされる羽目になりそうな予感がしてきた。

 

どんまい、テン。と心の中で手を合わせるハヤトの隣。何かを考えるように目線を下に向けるレム。彼女はそれから何か思い立ったのか一人でに頷き、視線をぐいっと上げた。

 

 

「ハヤト君。ここをお願いできますか?」

 

 

洗濯物を籠の中に畳んで入れるレムがメイド服を整えながらそんなことをハヤトに尋ねた。突然どうしたのかと今度は彼は不思議に思うがレムは間髪入れずに言葉を続けて、

 

 

「レムは今からテン君に傘を届けに行って来ようと思います。風邪を引かれても、困りますからね。ハヤト君もテン君に風邪を引かれると困りますよね? そうですよね? ですから、ここは任せてもいいですよね?」

 

 

少し前のめりに言葉を発するレム。普段と比べれば詰め寄り方が強めの彼女の様子に、「まさかこれは……」とあり得そうであり得ない展開が引き起こされそうな予感がしたハヤト。

 

数日前から、彼女がテンのことをそれとなく気にかけているのは薄々感づいていた。ラムも同じようで二人の間でこっそりと『テンとレムを見守る会』が結成されているのは当の二人は知らないこと。

 

どうしてレムがテンのことを気にかけるのか、姉であるラムも理解不能。けれど、何かしら惹かれてるのだからきっとそういう意味なのもしれない。

 

それをはっきりと表に出さないレムだから、真意を探るのが難しいところ。が、そんな今。レムが雨が降りそうだからとテンの元へと傘を持って行こうとしている。

 

たったそれだけ。しかし、基本的に平常心を貫くレムの瞳に淡い甘い感情が揺らいでいるのをハヤトが見逃すわけがなかった。普段から平常心を保つなら、尚更分かりやすい。

 

 

「おう、任せろ。テンのことをよろしくな」

 

 

だから、ハヤトはなんの戸惑いもなくレムを行かせた。彼女の歩みを止める気になるわけもなく。まだそうと決まったわけではないけど、少しでも彼女の助けになれるのならと快く見送る。

 

「ありがとうございます」と笑みを浮かべるレムが一礼。手を上げて返事した彼に背を向けたレムは小走りで屋敷の中へと戻って行く。心なしか上下する肩が弾んでいるように見えた。

 

見送り、その場に一人となったハヤト。雨が降らないうちにとっとと片付けようと手早く作業を再開。

 

 

「それにしても、まさかだな」

 

 

親友にもついに春が来たのかと不思議と頬が緩むハヤトが息と一緒に笑みをこぼした。レムがテンのことを好きかどうかはまだ不明だが、少なくとも気にかけていることに心が弾む。

 

元の世界では自分と違って彼女はおろか、女子友すら経験のないテンが。あの個性の塊のような性格をしたテンが。やっと自分の春を掴めるかもしれないという事実。これだけでも嬉しい。

 

親友としても絶対に成功させてやりたい。気が早いかもしれないけれど、レムはテンに対して確実に恋色の感情を抱いている。本人はまだ自覚すらしてないかもしれないが、外から見れば。

 

 そうならば、

 

 

「…あとは、テン次第か」

 

 

 ーー推し=好きってわけじゃないだろ。確かに、そうなれたら嬉しいけど。俺なんかじゃ釣り合うわけないよ。会えただけでも充分満足できる。

 

 ーーそれにレムにはもうその相手はいるから。俺が入る隙なんてないよ。

 

 

過去にテンがそんなことを言っていたのを思い出したハヤトは呆れるような声を吐く。レムが良くてもテンがダメなら、その恋はきっと実らない。肝心な相手があんな様子では空振りに終わってしまう。

 

女性側ではなく男性側に問題がある珍しいケースに直面したことに、ハヤトは心の中を激しく燃え上がらせる。もしも、レムが本気でテンのことを好きになってくれたなら。

 

 そうなったら、

 

 

「アイツのねじ曲がった性根は、俺が拳で叩き直してやる。アイツの性格が原因でレムがフラれるなんざあってたまるかよ」

 

 

テンがレムをフることは無いと思う。けど、なんらかの形で反対するはずだ。自分に自信がない、ただそれだけの理由で。

 

それはハヤトが許さない。そんな下らない理由で自分の気持ちと相手の気持ちを無駄にするなんてことあっていいはずがないからだ。そこは男らしく在ってほしいからだ。

 

ハヤトから見てもテンは自分とは真反対の人間だと理解しているし。彼自身がそれを、それとなくコンプレックスに感じていることも言葉だけでは分かる。

 

だから自分のように自信を持てとは軽はずみには言えない。けど、

 

 

「アイツは、ここぞって時は誰よりも頼りになる。竜の時だってアイツがいたから生き残れた。そんな奴が自分に自信が無いってか?」

 

 

ふざけるのも大概にしてほしい。彼は単に自信が持てないだけで、自信を持ってもいいくらいの実力は既に備わっている。ソラノ・テンには誇ってもいいくらいの持ち味はちゃんとある。

 

彼はそれを自覚しなさすぎている。そもそも無いと判断しているからあることにすら気づかない。それじゃダメだ。彼の良いところがどんどん錆び付いていく。

 

 

「なら、俺が親友として教えてやるしかねぇよな。アイツはいつも俺を助けてくれるから。俺なりの恩返しとしてよ」

 

 

錆びるのなら、磨くまで。

 

そこを磨けば、彼は今よりももっと輝けるはずだとハヤトは信じている。彼が、男らしくなれると信じている。

 

 

「……まぁ、暫くは様子見って感じか」

 

 

ラムともそういう話になっている。ここから先はどうなるか分からないけど。取り敢えずは外から二人の様子を見守る形。

 

ラムの場合はなぜレムが彼のことを気にかけるのか、本当に不思議そうにしていたが様子見で許してくれた。

 

 

「やべ、降ってきやがった」

 

 

そんなことを考えていると、額に冷たい感触がしたと同時にそこが濡れる。思考を一時中断したハヤトは、やばいやばいと急ぎ、残りの洗濯物を全力で取り込み始めた。

 

 

 

 

雨は、まだ降り始めたばかり。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「バカか、俺は」

 

 

アーラム村の一角。子ども達が遊ぶ公園らしき場所。そこにあった雨宿りできる場所で気を呑まれたように、前の道に叩きつける大粒の雨を見ているテンがそう呟く。

 

 

「大バカだよ、お前は」

 

 

しばらく雲を見つめて、雨の小やみを待っていたが。小やみとは反対に雨は強まるばかり。雲行きを窺えば、雨雲が空を覆い隠していた。

 

走って帰れない雨ではないが、それでも本降りとなった勢いはそれを躊躇させるレベル。屋根に当たる雨音が一つの弾丸の如く弾け、それが止めどなく続くものだから屋敷に帰らずに今日はここで過ごそうかとも思える。

 

椅子に腰掛け、袋に入った香辛料は濡れないように守る。幸いにも後ろと横は板の壁で守られてるから前から来ない限り濡れることもない。

 

 

「さて、ここからどうしたものか」

 

 

一息ついたところで、これからのことを考えるテンが憂鬱げに苦笑い。まさかこんなにも早く雨が降るとは思わなかったから何の対策もしてない。

 

傘を持ってくればよかったとは後の祭り。今更悔やんでも仕方ない。無い物ねだりしても無い物は無いのだから。

 

どこかの家に傘を借りるという手段もあるが、残念なことに顔も知らない人間の扉を叩いて傘を貸せと言える程テンは人間として出来上がってない。

 

それに貸してくれると思いずらいのが現実的なところ。となれば、

 

 

「……どうしよう」

 

 

走る選択肢以外ないことに途方に暮れるテンが恨むように空を睨む。雨はちっとも止む気配がなく、睨んだテンのことを嘲笑うように屋根を伝う水滴が鼻頭に落ちた。

 

当然ながら、いつも公園で遊ぶ子ども達も居るわけもなく。外に出歩く必要のない人は家に篭っているためいつもは村人が行き交うアーラム村も今は人通りが少ない。

 

故に、自分のことを気に留める人間もいないだろうという八方塞がりに再びため息。気にしてくれる人がいたらその人には申し訳ないけど傘を貸してもらって帰れるのに。

 

 

「いっそのこと開き直ってずぶ濡れで帰るか……。いや、それだけはダメか」

 

 

ここまで降られたら全力疾走で屋敷まで帰るのも一つの手。開き直れば身体が濡れることも気にはならないはずだ。

 

しかし、それだと香辛料も濡れて買い物に来た意味がなくなり結果として自分がずぶ濡れただけになるから却下。

 なら、本当にどうするか。

 

 

「あれ、テン?」

 

 

そんな時だ。不意に自分のことを呼ぶ声が雨音に紛れて聞こえ、視線をそちらの方に向ければ。長靴を履いて、可愛らしい傘を差したペトラが近づいてきていた。彼女だけではない、後ろから追いかけてくる一人の女性。母親だろうか。

 

こんな雨の中でよく出歩く気になったなと子どもパワーに感心するテンは取り敢えず片手をゆらゆらと振り、女性に一礼。

 

 

「こんにちは、ペトラちゃん。それと…、ペトラちゃんのお母さん?」

 

「はい、私はこの子の母親のルーナ・レイテです。貴方様は、ソラノ・テン様で合ってますよね?」

 

「合ってますよ。それに、"様"を付けられるほど俺は偉い人間じゃないですから普通に呼んでも構いません」

 

 

座ったまま話すのは礼儀としてどうなのかと思うテンが屋根の中への入ってきた二人に立ち上がると、互いに軽く自己紹介。

 

原作では全く触れられてなかったペトラの母親に内心「美人さんだなぁ」と考える。まだ二十五歳超えてないとひと見ただけでも思わされる美貌。ペトラが十二歳であの可愛さだから、それが成長したらここまでになるのか。

 

なるほど。いつか来るであろうスバルはもしかしたらこの女性ともお付き合いすることになるのかとテンは変なことを想像した。

 

そんなことを考えているとも知らないペトラの母親改め、ルーナは「それで」と繋ぎ、

 

 

「テン様はここで何をしていたんですか?」

 

「買い物に来たらこの雨で。傘も持ってないので取り敢えずここに雨宿りしてるんです。小降りになるのを待ってるんですが勢いは強まるばかりで」

 

 

困っちゃいますね。と苦笑するテンにルーナは口元に手を当てて「まぁ、大変」と心配するような声色。初対面の人を心配してくれるルーナさんが優しすぎな気もするが。この村は基本的にみんな優しいからこれが普通なのかもしれない。

 

一応、ロズワール邸で雇われた人間として周知されているのに加え、ハヤトが打ち解けたことで近くにいるテンも平気みたいな謎の理解で村の人達は温かく迎えてくれるが。

 

自分だったらこんな所にいる人間、気味が悪くて近づくわけがない。子ども用の遊具のある公園で一人、心が抜けたような顔で雨宿りする十八歳。怪しすぎる、色々な意味で通報案件だ。

 

そんな彼に横からペトラが「あのね」口を挟むと、ある方向。おそらく村の入り口がある方向を指差し、

 

 

「さっき、レムお姉ちゃんがテンのこと探してたよ? ここに居るって伝えてきてあげようか?」

 

「……え、レムが?」

 

 

うんうん。と頷くペトラが発した言葉を理解するのに数秒使った。どうして彼女が自分のことを探しているのか分からない。もしかして、傘を持ってないことを知ってて迎えにきてくれた、とか。

 

そんな都合の良い話、あるのか? 疑心暗鬼になりかけるテンはルーナへと確認するように視線を移すと。彼女も思い出したかのように頷き、

 

 

「そういえば、レム様がテン様のことをお探しになってました。傘を持ってないだろうから迎えにきたと」

 

「…そう、なのか」

 

 

そんな都合の良い話、あった。レムが傘のない自分のことをわざわざ迎えにきてくれていた。そんなことがあるのかとまだ疑っているが。嘘をつく理由もないだろう。きっと本当だ。

 

ただ、その理由がイマイチ分からない。仕事面で彼女が抜けるのは手痛いことだし。ならハヤトが迎えに来るはずなのだが。

 

 

「テン様、少しここで待っていてください。レム様にこのことを伝えてきます」

 

 

ペトラ、行くわよ。と、足早に去って行く親子。声をかける暇すら与えてくれなかった。色々と考えていたことが仇となり、呼び止めることもなくこの場所がレムに伝わることに。

 

なんて行動力のある親子だろうか。こちらの有無も聞かずに飛び出して行ってしまった。

 

 

「まぁ、いいか。濡れずに済むし」

 

 

行ってしまったことはどうにもならないと切り替え、ベンチにゆっくりと腰掛けるテンが先程のことを考え始める。

 

どうして彼女が迎えに来るのか。ラムが来るとも思えないし、エミリアが村に来るのも想像しづらい。レムは前述した通りの仕事面に関しての理由で来るとは思えない。となると、残るはハヤトしかいないのだが。

 

そのハヤトも、この雨の中迎えに来てくれるとは思えない。流石の彼もわざわざ雨に濡れてまで自分のことを迎えに来てくれるだろうか。

 

結論として誰も迎えにきてくれない説が自分の中に浮上したが。それら全てがレイテ親子によって悉く粉砕される。

 

 

 レムがここに来ている。

 

 自分のことを迎えに来ている。

 

 

「あれ、なんで俺。こんなに緊張してんだ」

 

 

先程から思考回路がそれ一色に染まるせいで"レムが迎えに来る"ということが何周もする。何度考えてもやはり考えてしまう。

 

胸の高鳴りが抑えられない。そんなわけないと、思っているのに。そんなわけない事を、思ってしまう自分が心の端っこにいるせいでどうにも落ち着かない。

 

ひとまず頭の中を空っぽにするために背もたれに寄りかかる。目を閉じて、雨の音だけに耳を澄ませる。明るかった世界が闇に包まれて、雨の音以外何も聞こえなくなった。

 

それからは「無」を心がける。何も考えず、ただ雨の音だけに身を委ね、この雨音に気配を呑まれるようにした。雨の音をBGMに目を瞑るのはやはり心地がいい。

 

リラクゼーション効果[特大]とかありそうだ。夜の静かな世界も好きだけど。こうして、環境音に満たされた世界も悪くない。

 

深呼吸。大きく息を吸ってゆっくり吐き出した。心が徐々に落ち着いてくるのが分かる。いつも通りの自分が戻り、波打っていた鼓動は形を潜めつつある。

 

そんなことをしていると、眠くなってきて。

 

 

「ーーそんな所で寝てしまうと、風邪をひいてしまいますよ」

 

 

ふと、鈴を転がしたような綺麗な声がテンの鼓膜を優しく叩き。不思議と口元が緩んだ彼は閉じていた目をゆっくりと開く。

 

暗かった世界に光が差し込み、その中で、声の少女は微笑んでいた。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「迎えにきました、帰りましょう。テン君」

 

 

 

ニコリと口元を緩ませるレムがそう言って、座るテンの片手を掴んで立ち上がらせる。来ることは分かってたし、心を落ち着かせたことでそれを受け入れたテンもまた拒むことはしない。

 

傘の中に招かれたテン。随分と大きな傘だなぁと彼は思う。自分とレムが入っても余裕のある程にそれは巨大で。

 

 一つしか、傘はなくて。

 

 

「…あの、レム。俺の予想では傘を届けに来てくれたと思ってたんだけど」

 

「はい、傘を届けに来ましたよ?」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 

一つ傘の下。予想外のことにテンが微妙な表情。それもそのはず、彼の中では傘を届けに来てくれたから傘は二つあるものだと思っていた。が、傘はレムが使っている大きな傘しかなく。必然的にテンもその中に入り。

 

 所謂、相合い傘の形になる。

 

異議を申し立てるが、レムの反応といえば何を当然のことを言ってるんだ? みたいなテンが変なことを言ってるような態度。

 

 

「えっと…。もう一つとか、無かったの?」

 

「すみません、他にも探したんですが。今はありませんでした。なので、今回はレムとテン君が二人で入っても大丈夫そうな傘をご用意しました」

 

 

これなら、濡れませんよ。と一歩距離を詰めよられたテンは口から変な声が出そうになるのを堪える。始めからこの調子では後々キツそうな雰囲気がしてきた。

 

レムのことを見ても、彼女が他の傘を持っているなんてのは無い。本当にこの傘しかなかったのだろうか。

 

これなら屋敷を出る前に傘を持てばよかったと、別の意味で後悔する羽目になったテン。しかし無いものは仕方ないと頑張って割り切り、変な想像をしそうになったが頭を左右に振ることでその思考を振り払う。

 

明鏡止水。抜け殻。虚無感。悟り通り越して無の世界へと心を旅立たせたテンはその中にはいる覚悟を決めた。

 

 

「うん、なら仕方ないね。俺なんかと一緒の傘に入るなんて嫌だろうけど。帰るまで我慢してね」

 

「……そんなこと、ないですよ」

 

「ん? なんか言った?」

「いえ。気にしないでください」

 

 

傘の持ち手を自然な動作を奪い去るテンにレムがこの事態の核心に迫る言葉を呟いたが。彼女の呟きは雨音と一緒に地面へと流されたせいで真横にいるテンには届かない。

 

テンも何かを言った事には気づいたが、彼女が気にするなと言うのだから気にしないことに。そうしたら、その言葉はもう届かなくなった。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

不思議なことに、自分がそこまで緊張してない事実にテンは内心ホッとしていた。

 

 

この世界に召喚されてから約二週間が経とうとしているが、その僅かな時間でも他でもないレムによって女性耐性は備わってきたようで。

 

流石に相合い傘は緊張はするけど、それを表に出してしまうほどではない。そのことによって今も平常心を保てているのだ。

 

村を発ってから十分、屋敷まで後半分という地点まで帰ってきた二人。傘から落ちる雨だれを眺めながらテンはレムに話しかけられては、適当に返すやりとりを続けていた。

 

内容の薄い。なんの取り止めのない日常的な会話をひたすらに返す。ただそれだけで。レムが一方的に話しかけている形が完成しつつあった。

 

別に、レムのことが嫌いだからとか。話したくないからとかではない。単に、話すことが見つからないから話しかけることもない。女性の扱いが上手な男性なら少しは彼女を楽しませられたものを。自分がやるのは、困難な話だ。

 

テンが思うのは一つ。早く屋敷に帰りたい、それだけである。理由は単純かつ明快、自分なんかと相合い傘なんて彼女が嫌がっていると思うから。

 

こんなつまらない自分なんかと一つ傘の下で肩を並べて歩くなんて、彼女に申し訳なさすら感じてくる。ハヤトならこんな時どうするのだろうか。

 

彼なら、少しはマシな対応をすることができるのだろう。少なくとも自分なんかよりはちゃんと向き合えてるはず。

 

だから早く、早く帰りたい。この状況から抜け出したい。

 

足を早める。早歩きよりも早い、いつもよりも早いテンポで。傘の主導権を握っているのは自分。なら、自分が足を早めれば彼女もーー、

 

 

「テン君。もう少し、ゆっくり歩きませんか?」

 

 

そんな彼の足を止めたのは、この状況を嫌がっていると思っているレムだった。声と一緒にテンの袖をつまみ、グイッと後ろへと引っ張ることで物理的に彼の歩みを止める。

 

予期してなかったことに、理解できないテンは真横にいるレムに視線を傾けると。

 

 

「そこまで急がなくても、お仕事は滞りなく済んでいます。洗濯物もハヤト君が取り込んでくれましたし。お夕飯の支度も殆ど終わっていますよ」

 

「えっと……」

 

 

どうやら彼女はテンが仕事のことを懸念して急いでいると思ったらしい。残念なことに、その面に関しては全く心配してないテンだ。

 

テンが急ぐ理由はレムが嫌だと思っていると思っているから早く帰ろうであり。しかし今、その本人に足を止められて不思議に思う。

 

そんな彼を置いたレムは香辛料の入った小袋をテンに預けると、今度は自分が傘の主導権を握った。

 

小袋は片手では持てない大きさだから持つとなると自然と両手が塞がり。傘から手を離したことでテンは傘を奪われてしまった形。

 

困惑の表情を隠しきれないテンにレムは楽しそうにクスっと堪えきれず笑みを溢し、

 

 

「アーラム村から約十分。半分まで来たので交代しませんか? レムが傘を持つのでテン君は小袋を持ってください」

 

「……俺はいいけど。レムは、いいの?」

 

 

声を潜めるテンが確認するように一言。ここまでされておきながら自分の許可を取りたがる彼にレムは「はい」と頷いた。

 

 

「レムがこうしたいんです。焦って帰る必要もありませんから。ゆっくり帰りましょう」

 

「レムがいいなら……。いいけど」

 

 

引き気味に答えるテンに、レムが「はい」と頷ずく。その言葉を終わりに、レムが歩き始めたことでテンも歩き始めた。

 

傘の主導権を握るレムに歩幅を合わせるテンが視線を向ければ、それに気づいた彼女が微笑み返す。

 

その時に、さっきから彼女の口元が軽く緩み続けていることに気づくテンは、自分と同じ傘に入るのが嫌ではなかったのかと考えさせられるが。

 

でも、それならなんで嫌じゃないのか。女性は基本的に相合い傘は親しい男としかしないものというのがテンの常識。自分はレムとそこまで親しいのかと聞かれれば首を横に振る。

 

 なら、どうしてーーーー。

 

ゆっくりと、ゆったりと。昼下がりの穏やかな草原を散歩してるような歩速で歩くレム。テンに比べればその歩速さ格段と遅くなっていた。否、普段のレムの歩速よりも遅い。

 

 

「レム。いつもは、もう少し歩くの速い気がするんだけど」

 

「そうですか? 気のせいですよ」

 

 

ほんとかよ。と言いそうになるのを抑えたテンが苦笑。内心そんなわけあるかいとツッコミをレムに入れる。

 

一週間の教習期間もとい使用人育成期間のうちにレムの後ろを歩くことがたくさんあったお陰で、彼女の歩速は感覚的に分かる。それと比べた時に今の方が圧倒的に遅いことも。

 

なぜなのか。どうしてなのか。今のレムは、いつも以上によく分からないテンだった。

 

 

「テン君。もっとレムに寄って下さい。テン君とレムが入っても余裕のある傘を選んだのに、どうして肩が濡れてるんですか」

 

 

テンのことを見たレムが不満げに目を細め、二人の間に体半分の距離が空いていることに更に不満がる彼女が顔を顰める。普段から感情をあまり外に出さない彼女が目に見えて分かるくらいに感情を表に出した。

 

彼女の視線を「あははー」と適当に受け流すテンは視線を明後日の方向。雨雲へと移し、

 

 

「なんでゆーか。ここから先は俺が踏み込めない領域っつーか。俺の中での境界線が壊されてしまいそうな危うさがあるんだよね。うんうん」

 

「言ってる意味が分かりませんし。答えになってませんよ」

 

「俺が分かってるからいいし。答える必要なんてないんですよ」

 

 

そんな言葉を交わし合いながら、傘の中に入ろうとしないテンに入れと説得するレムは首を横に振り、強い眼差しを彼に向けた。

 

その眼差しを向ける瞳の中に、淡い甘い感情が混ざっていることにテンは気づかない。視線を合わせてないのだから。

 

 

「それはいけませんよ。それでもしテン君が風邪を引いてしまったら困るのはーー、テン君自身なんですよ?」

 

「残念なことに、俺は気温の変化に弱い人間だから。風邪なんてしょっちゅう引いてるんだよね。だから引いても免疫あるから一日で治る」

 

 

一瞬だけ言葉に詰まったをレムを軽々と聞き逃しテンは適当に返す。思い出せば、自分は気温の変化に体が追いつけずに季節の変わり目などはいつも体調を崩していた。

 

そうでなくても急激な気温の変化には弱いから。毎度の如く弱る。その日の朝方に「あ、今日は風邪引くな」と感覚的に分かるくらいには崩していた経験がある。

 

しかし、今それを言うのはダメだったことにテンは気づいた。風邪を引くなと言うレムに対して、引くことを前提に話を進めてしまった。適当に返事をしていた罰か。

 

 

「それは、なんの解決策にもなってませんよね。風邪を引くことを前提に話を進めるのはおかしいと思います。その前に風邪を引かないようにしてみませんか?」

 

「あー、やっぱりそう来ますよね」

 

 

予想していた返しが返ってきて、やっちまったとテンは空笑い。真隣にいるレムは「それに」と畳み掛けるように言葉を繋げ、

 

 

「気温の変化に弱いなら尚更。冷たい雨に濡れるのは良くないですよ。気温も肌寒くなってきましたし。テン君、もっと寄って下さい」

 

 

依然として眼差しを送ってくるレムとは目が合わせられないテンが喉の奥を鳴らして唸り声。表情も彼女の提案を受けることに渋っているように見える。

 

ここまで言っても彼は自分の近くに寄ろうとしてくれないことにどうしたものかと考えるレムだが、不意に思考の中に降りてきた名案があった。それを実行すると思った時、頬に熱が宿り、赤色として薄く浮かび上がった。

 

 

「テン君が来てくれないのは理解しました」

「そうなの。ならーー」

「ですから。レムがもっと寄ります」

 

 

 半歩。

 

体半分の距離をそれだけで詰めるレムがテンの体に自分の体を沿わせた。肩と肩が触れて、やけにそこが熱っぽく感じる両者。

 

身長的にはテンの肩にレムの頭がくる、彼女の顔がそのままの意味でゼロ距離に。驚くがままに彼女の方へと視線を向ければ、頬をほんのりと紅くさせたレムが笑顔を弾けさせているのが視界に映った。

 

 

「テンくんのせいですよ。テンくんがレムに寄ってくれませんでしたから。レムが動かないといけなくなってしまったんです」

 

 

驚きすぎて声が出ないテンに、声色が少しだけ甘くなったレムが体をギュッとくっつけながらも声をかける。

 

こうした途端から、自分の心が大きく跳ねるのを自覚したレムが彼の名を呼ぶ時。彼女でも分からないくらいの度合いでそれが変化した。もちろんテンがそれに気づくことなんてありはしない。

 

当の本人は、突然の出来事に明鏡止水やら抜け殻やらなんやらで「無」を貫いていた心が困惑を通り越して完全なる思考の停止を許した。

 

何も考えられない。ただ、それだけに意識が持っていかれるせいで。レムのこと以外、頭に入ってこない。

 

 

「れ、れ、れれむ。は、離れてくれない?」

 

「それはできません。離れたらテンくんはもっと離れてしまうでしょう?」

 

「し、しない。離れない、離れないと約束する。離れないから離れて。うん、離れようか」

 

 

頭では考えられないから、ひとまずこの状況をなんとかしようと、感情の入った声で呼びかける。

 

流れで、ピッタリくっ付くレムから離れようとするが。その度に近づいてくるものだから心が更に揺さぶられる。

 

頬が一気に紅潮したせいで、そこがやけに熱い。頬が、頬が焼けるように熱い。風邪でも引いたかと錯覚するレベルで熱い。心の端っこにいる自分が「恋の病」とかふざけたこと言ったから消し飛ばす。

 

そんな風に、心の中で葛藤するテンのことなど知らないレム。彼女はテンの言葉に耳を傾けるが、首を横に振って強く反対した。

 

 

「それは約束できないことです。傘が大きいからと言っても半人分の間隔が空いてしまえば濡れてしまいますから」

 

「俺が離れていくって?」

 

「はい、離れていきます」

 

 

至極当然のように言い切るレムにテンは全く信用されてない事実を突きつけられたような気がして感情のない笑いをこぼす。

 

真面目な顔で、声で言われるものだから、本当に信用されてないのだろう。少しはしてくれてもいいとテンは思うが。

 

 

「…俺、そんなに信用できない?」

 

「テンくん、少し考えてみてください。ちゃんと休息を取ってくださいと伝えたはずの人が翌日に疲労困憊だったら。その人の言葉をどうやって信用するんですか?」

 

「ーーーー」

 

 

レムが誰のことを言ってるのか、考えなくても分かるテンは言葉に詰まった。十中八九自分のことを指している。遠回しでも何でもない直球で自分のことを言っている。

 

首を傾けたレムの至極純粋な問いかけ。その話を持ち出されればテンに勝ち目はない。何を言おうとも悪いのは自分なのだから。

 

 

「……レムは、意地悪だなぁ」

 

 

何を言っても無駄なことを理解してながらのささやかな反抗。だが、その言葉を言った時点で白旗を上げたようなものだ。

 

反抗と敗北宣言のハイブリッドな言葉に、レムは「ふふっ」と心の底に宿る甘い感情に動かされて反射的に微笑んだ。

 

彼の困る様子を見て、その反応を楽しんでいる自分がいることに不思議と幸福感を覚えてしまう。どうしてだろう。でも、こうしていると心が温かくなってくる。

 

 

「なんだよ、その微笑は」

「特に深い意味はないですよ」

「うそだ、意味深だ。意味深々だ」

「テン君はレムのことが信用できないんですか?」

 

 

柔らかな表情と、優しい声で答え方に困る問いかけをしてきたレム。悪戯っぽく好奇心に溢れた目で見つめられればテンは何も言えない。

 

視線の向けどころに困るテンは、取り敢えず両手で抱えた小袋の中に入っている香辛料の文字を流し見。イ文字以外の文字も使われているから読み取ることはできないけど、視線は収められた。

 

けど、何の解決にもなってない。今も、レムからの視線は横に感じていて。その問いかけに何で答えればいいのか迷う。

 迷って、迷って、迷って。

 

 

「……信用、してるよ」

 

「ーーーー」

 

「何も知らなかった俺に色々と教えてくれたし。心配とか…してくれたし。レムには、短い間だけど。結構助けられてるから」

 

 

だから、信用してないわけねぇだろ? そう言葉を閉じるテンがレムに視線を向ける。いつもと比べて、少しだけ口調が荒くなった。それにどんな意味合いがあるのかは不明だが。

 

先ほどとは少し違う態度の彼にレムは肩をピクつかせた。それを至近距離で向けられ、揺さぶられた彼女の心に宿る感情が反応を示す。

 

テンが何て答えるか迷って見つけ出した言い方。それは直球で伝えることだった。色々と言いたいこともある。でもそれだけは本当だから。

 

まだ彼女と出会ってから一ヶ月も経ってないけど、彼女に助けられたのは事実で、感謝もしているから。自分のことを心配してくれてる人が一人いる。それだけでも嬉しかったから。

 

 

「だから俺はレムのこと、信用してるよ。レムが俺のことを信用してないのは少し残念だけど。そのうち信用を勝ち取ってみせるさ」

 

 

恥ずかしそうに顔をゆがめ、頭をかいて笑うテンが堪えきれずに視線をレムから外した。ここまで言えただけでも大したものだとハヤトに褒め称えてもらいたいテンは、これ以上は無理だと確信。

 

ここから先の言葉は自分には言えない。今でも結構精神的にきてるのに、こんなセリフを言ってしまうだなんて恥ずかしすぎる。なんだよ信用を勝ち取るって。状況に酔いすぎではないか。

 

言ってから気づく過ち。レムに気持ち悪がられてないかと不安衝動に駆られるテンだが、

 

 

「レムはテンくんに一つ、嘘をつきました」

 

 

そんな、彼に身を寄せ続けるレムは。彼の服の袖をちょんちょんと数回引っ張り、彼の視線を自分の方へと向けさせると。はにかんだように唇を緩ませた。

 

 

「レムも、テンくんのことは信用してますよ。短い間しか一緒に過ごしてないけれど。それでもテンくんは、信用に足る人だとレムは思っています」

 

「……そっか。ありがと」

「はい。レムからも、ありがとうございます」

 

 

レムが微笑んで、釣られるようにテンも微笑む。伝え合った信用の気持ちを交換した二人はそのあとも、しばらく笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 そこから先、二人の間に言葉はなかった。聞こえるのは雨の降り頻る音と。傘に当たって弾けた雨の音。

 そして、歩幅の同じ二人の足音。

 

 ただ、肌寒い中で凍えないように、雨に濡れないように。

 身を寄せ合いながら、ほんのりと温かくなっていく感情に、二人は酔っていった。

 

 

 

 

 

 




どうしてテンがレムと相合い傘をできたかって? それは次回に分かります。

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