親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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タイトルが思いつかなさすぎてネタに突っ走りました。

通算UAが5000を超えましたね。お陰様で早朝はいい感じに目が覚めましたよ。皆さんのおかげでお目めぱっちりです。

重ね重ねにはなりますが。読んでくださっている方々、ありがとうございます!







からかうエミリア 逃げるテン

 

 

朝、それは誰もが睡魔との戦いに勤しむ時間帯である。睡魔とは時と場合によって強さのレベルを変えてくるもので。

 

寒い日などは普段の何十倍もの力を駆使して人間を眠りへと誘い。反対に、暑い日などは何十分の一になって眠りから引き剥がす。

 

そこに布団というオプションが加われば、睡魔の力はより一層強化or弱体化するもので。ある人は起きた途端から睡魔を消しとばし、ある人は睡魔に負けて昼過ぎまで寝過ごし。

 

 またある人はーー、

 

 

「………。今日は来たのか」

 

「はい、今日は来てしまいました」

 

 

太陽に照らされる熱さに音もなく目を開け、のしかかる睡魔と共に身体を起こすテン。彼の目に一番初めに映ったのはすぐ横、椅子に座りながらこちらを見つめている青髪の少女ーーレムの微笑みであった。

 

ただ、何の混濁もない純粋な笑み。それを文字通りに朝一番で向けられると、睡魔とか簡単に吹っ飛んでいくテンである。心臓に悪い寝起きドッキリに内心焦りつつ彼は冷静を装い、

 

 

「偶に、こうして俺の寝起きに遊びにくるのはなんでなの? 少し、心臓に悪いというか」

 

「昨晩は鍛錬でお疲れのようでしたから。テン君の朝寝坊防止のために、レムがお力添えになろうかと思いまして」

 

「ご丁寧にどうも。でも、そんなに心配しなくても大丈夫だよ? 眠い時はレムに目覚ましをお願いして、仮眠取ってるしさ」

 

 

布団から身体を出すテンが寝台を降りて大きく背伸びの体制、太陽の光を浴びながら「んーー!」と声を溢した。そんな彼にレムは「それとこれとは別ですよ」と微笑むだけで。

 

少し話は遡るが。鍛錬と仕事に明け暮れて疲労困憊になって夕方に寝落ちた時のこと。それが彼女にバレて眠い時は自分に起こしてくれと声をかけてくれと言われたから、テンもどうしてもという時は頼らせてもらっていることもあり。

 

その時は起こしてもらうから、彼女がテンの寝起きに付き添うのは必然。なのだが、最近は今回のような自主的にレムがテンを起こす時が多々あり。今のような形が生まれている。

 

理由は先程彼女が言った通り。眠そうなテンが寝過ごさないために自分が様子を見ると。流石にそこまでされると精神的にキツい。男の子として。

 

どうして彼女がそうしてくれるのか、それは分からないことだが。分かるのは、レムとのわだかまりが解消されて以降これが始まったことくらい。

 

 

「レム。扉を開けてくれない?」

「分かりました」

 

 

だからテンは、あまり深くは考えないようにしている。善意でしてくれているのだから、突っぱねるような真似はしない。

 

前々から、朝から部屋に顔を出してくれることがあったからそれの延長線上にこの行為があっただけだと。

 

果たして、本当にそれだけで済ませていいのか少し不安が残る部分はあるが。

 

 

「テン君。今夜も鍛錬の日ですか?」

 

 

全ての窓を開けるテンの背中にそんなレムの声がかかり、彼が振り向くと使用していた布団を綺麗に畳むレムが視界に映る。

 

何も言わなくても勝手に開始される作業に、この子、やりやがる……。なんて下らないことを考えるテンは「うん」と首を縦に振ると、

 

 

「今日も鍛錬の日だよ。一週間に一回はお休みの日を入れて、それ以外は鍛錬の日にしようと思ってさ。ハヤトに少しは休めって言われたんだよ。それに、レムにも」

 

「当たり前ですよ。あれほど疲労困憊になられてはお屋敷のことを任せられませんから。もしよろしければ、休みの日を一週間に七回にしてはいかがでしょうか?」

 

「それ、毎日休めって言ってるようなもんだよね。そうなったら、何のために俺がここにいるのか分からなくなってきちゃうよ」

 

 

ボケなのか真面目なのか判断しずらい発言を軽く受け流し、ハンガーにかけてある制服を取り出そうとタンスを開けるテンが「あれ?」と首を傾げた。

 

タンスの中には故郷で来ていた服と、この世界でロズワールから譲ってもらった服。そして、使用人の制服が二着と寝巻きの五着しか入ってないから探すのに手間はかからないのだが。

 

 

「制服、どこいったし」

 

 

手当たり次第に収納スペースを開ける。が、どこにも入ってない。そんなに探す量は入ってないはずなのだが、いくら探しても見つからず。一つならまだしも二つともない。

 

一つは洗濯に。もう一つは行方不明。

 

いつもはタンスの中にある物干し竿にハンガーと一緒にかけてあるはず。

 

 

「テン君、一つ聞いてもいいですか?」

 

「うん。なに?」

 

 

制服探索にて。最後に見たのはいつなのかと悩み、テンが記憶を探っている最中。レムの声が耳に届き、半ば聞き流し程度に彼は言葉を返した。

 

制服を最後に見たのは仕事終わり、私服に着替えて鍛錬をする前だ。脱いで、畳んで。それから確かハンガーにかけたはず。ならタンスの中に入ってるのが普通。

 

誰かが盗む、なんてことはありえないこと。となると、自分の記憶が曖昧な鍛錬直後に寝ぼけてその中を弄ったのか。

 

 

「先程、一週間に一度お休みをとると言われましたが。厳密には一週間のいつですか? それと、何時から何時まで鍛錬をされてるんですか?」

 

「休みは週の始まりだよ。一週間の始まりは休むって決めてるから。時間は大体冥日の九時を半分過ぎた頃から…。そうね、バラつきはあるけど夜中の一時頃までかな」

 

「そうなんですか。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。……おっかしーな、マジでどこにしまったんだよ、昨日のおれぇ」

 

 

聞かれたことに対して上の空状態で返すテンは、背後でメモ帳らしきノートにレムが熱心になってペンを走らせていることに気づかない。

 

ペンが走り終わった時。彼女の手元にあるメモ帳には『週初の夜、テン君とお茶』と綺麗な文字で記されていた。その他にも『仕事終わり、中庭』やら『朝、五時起床』やら『紅茶は甘さ控えめが好み』などの情報が箇条書きで記され。

 

本人が見たら中々に戦慄しそうな内容のものが少々。本人の知らないところでレムが確実にテンのことを把握し始めていた。

 

パタン。音を立てずにメモ帳を閉じると、それをペンと一緒に懐の中へとしまうレム。彼女は満足そうに頬を緩めた。が、テンがタンスを閉めたことで振り返ると思ったのか、さっと緩みを引き締める。

 

 

「なぁレム。俺の制服どこにあるか……、知るわけないよなぁ」

 

 

腕を組み、首を傾げるテンが大きく唸る。隈なく探しても結局は制服は行方知らずのままで。これでは仕事が出来なくなると懸念される。

 

 

「それでしたら、ここにありますよ」

 

「いや、レムが持っとるんかい!」

 

 

が、その懸念はレムの一言で振り返ったテンが、丁寧に畳まれた自分の制服を抱える彼女の姿を見たことで砕け散った。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「はっ!」

 

「違ぇよ。もっとこう! 剣は身体を真っ直ぐにしたままで下ろす! 体幹に力を軽く込めて全身のバランスを整えて!」

 

「せいっ!」

 

「なんか違ぇ! 腕がヒョロヒョロな状態で振るなんてあり得ねぇだろ。振る瞬間に一気に力を込める感じだ! それ以外は軽くでいい」

 

「しぃ!」

 

「そうだ、そんな感じだ」

 

 

昼過ぎ、庭園の一角にて。

 

次のお仕事に暇ができたテンは同じく暇ができたハヤトに剣の指導を行ってもらっていた。ハヤトも素人同然だが、自分よりは感覚を掴めている人間。共有できる情報はなるべく共有した方がお互いに好都合。

 

幸い、体はそこそこに仕上がっているテンは刀を振れるか否かについては問題なく。ただ、何百回も振れるかと聞かれたら「無理だ」と即答するレベルだ。

 

だから、まずは振り方の感覚を掴む。正しい姿勢で、正しい振り方で、正しい呼吸で。幸運なことにテンの隣には感覚を掴むことに関しては何倍も優れているハヤトがいる。

 

尤も、そのハヤトもまだまだと言える。しかし、感覚だけは掴めていたから。彼も相談を受けた時は魔法の恩返しのつもりで快く乗った。

 

 

「お前って、剣道でもしてたのか? 刀を振る姿がやけに様になってるというか。身体の動かし方がそこまでぎこちない感じに見えるけど」

 

「修学旅行に行ったときに興味本位で木刀を買ったことがあるんだよ。それを見た親から運動程度に振っとけって言われてさ。二年前まで素振りしてたことはある。感覚なんて忘れてると思ってたんだけど」

 

 

「それだな」と指を鳴らすハヤトが納得がいったと軽く頷き。左手に刀を握るテンがそれとは反対の手、右手を開いたり閉じたり。握力を確かめる彼は顔を顰める。

 

若干のぎこちなさはあるが過去の経験のお陰で刀を振れたのにも関わらず、満足のいかない表情を浮かべたテンにハヤトは「ん?」と疑問の声を溢し、

 

 

「どうしたんだ? 右手に違和感でも?」

 

「握力が少し弱くなってる。それに腕の筋肉もまだ詰めが甘い。数回程度振るならまだしも、これじゃ百回が限度な気がする」

 

 

刀を鞘に納刀。地面に優しく置いたテンが腕を揉み解す。今しがた試しに五十回振ってみただけで既に両腕に重さを感じていることに、先が果てしなく長いことを再実感するテンが遠い目。

 

持つ、握る、振る。刀を振るために必要な動作はできるが、それを継続させるとなれば話は別だったようで。身体はヒョロではない自信は少なからずあったが、現実は甘くはなかった。

 

 

「もっと素振りして、筋力を鍛えないといけないね。基礎的な筋力だけじゃこの先は生きてけないと思うし。体力トレーニングもやらないと」

 

「確かにそうだな。魔法に慣れてきたからそろそろ俺たちもそっち方面に切り替えるとするか」

 

 

これは自分の第一の刃となる武器。戦闘では主軸として活躍してくれることになるだろうから今よりも動きを洗練させる必要がある。

 

剣速は今よりも速く、鋭く。何千回振ってたとしても乱れがなく。身体に感覚を染み込ませて手足のように扱えるようになって漸く一人前と言えるのだから。

 

 そうなると、

 

 

「…体捌きと足捌きも覚えないとダメか。刀を振るに加えて、それを持ったときに体が追いつかないなんてことが起こらないように」

 

「なるほどなぁ、確かに言えてる。ただ剣振れるようになっても体が動かなきゃだもんな。拳みたいに体の機能の一部じゃねぇし」

 

 

テンが言い、腕を組むハヤトが頷く。

 

手に持って扱う以上、拳のように神経が繋がっているわけではないから体が剣の動きについて行けるとも想像しずらい。故に、拳を振っている時と同等の動きができるようにならないと扱い切れないのだ。

 

でないと、どこかで動きに誤差が生じてしまう。鍛錬の最中ならば修正可能だが、それがもし命の取り合いの最中だったらどうなるか。想像しなくても簡単にわかる。

 

死ぬ。その事実のみ。

 

 

「前途多難。まずは、刀をちゃんと振れるようになることから始めるとするか」

 

「やることが多いってのは良いことだな」

 

 

魔法を習得して、次は武器。この世界に来てから高すぎる壁と毎日衝突しながら過ごしている二人が改めてその壁の高さを自覚。

 

越えるたびに高くなる壁を前に、ため息を溢すテンと拳をグッと握るハヤト。反応の差こそあれど更なる努力を重ねることを二人は心の中で決めていた。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

鍛錬に勤しむテンはいつもなら魔法の鍛錬をしているが、今夜はその前に刀の素振りを真面目にやっていた。魔法は身体に馴染んだから次は刀を馴染ませる。

 

ハヤトも同じことをしているようだから、自分も負けるわけにはいかないと気合を入れる彼は気合を入れて柄を握りしめる。

 

目標回数は二百回をお互いに設定した。百回が限度だからそれを二セット。百回やったら休憩を挟んでまた百回、これを今日から毎日やる。こればかりは地道な努力の積み重ねだ。

 

 

「ーーっひゃく!!」

 

 

素振りを始めて何分経ったか分からないテンが声を大にして一セットの終わりを叫ぶ。途端に腕に入っていた力を全て抜いて刀を木に立てかけた。

 

脱力。腕の次は全身の力を抜いて芝生に盛大に寝転んだ。そのまま額から流れる汗をハンドタオルで拭き取り、ひんやりとした草の感触と、満天の星空を見上げて吐息。

 

軽く乱れた呼吸を整えるテンは両腕から伝わる確かな重みを感じ、この鍛錬が無駄ではないことを理解した。

 

辛いということは、効いていることの他にない。このまま続けていればそのうち百回も二百回も慣れてくる。……と、思いたい。

 

 

「……継続だ。慣れると信じて続けることだけに意識をむけよう。雑念は鍛錬の邪魔だ」

 

 

頭をブンブン振ってそれまでの雑念を振り払うテンが休憩を終わらせる。まだ少し疲労は残っているが、完全に回復した状態でやるより疲れている所に更に追い討ちを掛けるスパルタスタイル。

 

ランニングと似たような類。ラストスパートでそれまでよりももっと追い込むように、自分の両腕に悲鳴を上げさせるべく刀を握りしめる。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「ーーアクラ!」

 

 

気合の声と共にハヤトの身体には黄金のオーラが淡く揺めきだし、地の底から湧き上がってくるように力が一気に溢れ出す。魔法によって通常の何倍にも強化された身体能力は、彼にこの世の頂点にでも立ったかのような気分にさせた。

 

テンが第二セットを開始した頃、ハヤトもまた大剣の素振りを開始。テンと同じように百回を二セット、二百回を目標に。

 

ただ、テンと違うのはそこにアクラを詠唱して身体能力を高めた状態でやることだ。それをすれば一時的に筋力も強化され、素振りも捗るというもの。

 

別に、ラクをしたいわけではない。この魔法は自分が最も活用することになるであろうと予想して少しでも慣れるためにしているのだ。

 

前回で許容範囲を超える使用は諸刃の剣だと痛感したし。そもそも、これを使う上で制御する力も必要になってくる。だから、大剣を振るついでにアクラも使い、その感覚を少しでも掴むのが目的。

 

手足を動かす感覚で力の制御もできれば、あのような事態に発展することもない。

 

 それに、

 

 

「この方が、速く振れるしなっ!」

 

 

強化された肉体で、大剣を枝を振るような速さで振りまわすハヤトがニヤける。風を斬りながら振られ続ける大剣はその速度が緩むことは決してない。それどころか、徐々に速さを上げてきている。

 

これも、アクラを使うことの利点。身体能力が強化されるなら大剣を振る速度も自然と速くなり。素早く終わらせることも可能だ。

 

尤も、速く終わらせることが主軸ではない。一回一回に意識を向け、姿勢を正すことを忘れない彼は全身に力を込める。

 

 

「ふっ! はっ! ほっ!」

 

 

短く息を吐きながら一定のペースで素振り。辛い速度を一定に保つのは中々に難があるが、泣き言を言うなとハヤトは己に喝を入れる。

 

七十回を越したあたりから額から流れる汗が頬を滴り、ポタポタと何滴も垂れる。まだ体は動くが滴る汗が肉体の疲労を物語っており、例え強化したと言えど彼の体はまだ発展途上だと雄弁に語った。

 

 

「ーー百!」

 

 

三分程度で一セットを終わらせたハヤト。大剣を地面に落とした彼は滝のように流れる汗をタオルで拭い、思い出したかのようにアクラを解除。

 

 した途端、

 

 

「ーーーっ!?」

 

 

体にお相撲さんでものしかかってるのではと錯覚する重みに、彼の身体は耐えきれずに膝をついた。落ち着いていた呼吸が一気に乱れ、次第に眩暈がしてくる。

 

なるほど、納得するハヤト。

 

アクラは単に身体能力を強化するだけで肉体そのものを強化するものではないらしい。肉体の最大値を底上げするものではなく、肉体の最大値に上乗せして力を与えるものだと。

 

今の状況で例えるなら、肉体の最大値が50だとして、素振りで消費する肉体の値が40とする。

 

肉体の値がそのまま疲労感に依存すると仮定すると、このまま鍛錬をしたら肉体の値が10となり。今のハヤトのようになる。

 

しかしここにアクラ、身体能力を強化する値が40だとして。それが上乗せされると、肉体と強化した分を合計して90となる。そうなれば、例え鍛錬で肉体の値を削られたとしても強化で補えるから体は動く。

 

が、それを解いた今。上乗せしていた40は無くなり。ハヤトの体には10の体力しか残っておらず結果的に今のようになる。

 

 

「アクラは単に都合の良い魔法ってだけじゃねぇってことか。使ったら使った分だけ、解除したときにその反動が返ってくるのか」

 

 

胡座をかきながら深呼吸を繰り返し行い、精神統一。アクラについて知識を深めながらハヤトは心を静める。

 

この魔法、初めは単に強くなれるだけのものだと思っていたが。そうではなく、己の肉体も強化していかなければならない。

 

でなければ、逆に魔法に身を滅ぼされる事態に繋がりかねないことを理解。二度と調子に乗らないようにすることを肝に銘じた。

 

 

「正に、ロズワールに言われた通りになったな。身に余る力は己を滅ぼす、マジで危ない」

 

 

正しく言葉通りの結末を辿りそうになったことに肝を冷やすハヤト。次はアクラ無しで素振りをすることにした。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

時間は進み、夜も深まってきた頃。刀の素振りを無事終えたテンはいつも通り魔法の鍛錬に切り替えていた。

 

右手に纏われるのは風、小規模な旋風がテンの右手を緩く旋回し続けていた。これをしている理由は特にない。ただ思い付いたからやってみただけである。

 

理由を付けるとしたら、過度に魔法を使った状態を長く保てるようにするため。あとは、風属性の熟練度を上げるため。

 

魔法の基盤は既に出来上がった。後は、各属性の熟練度と、魔法そのものの熟練度を上げるだけ。その中で魔法の可能性を見つけるために、こうして思い付いたことを取り敢えず実践していた。

 

 

「…旋風か。基本的にフーラ系統は風刃だから。この纏わせてるのに切れ味を持たせたら」

 

 

自分の手がぐちゃぐちゃになります。そう心の中の自分が冷え切った声で呼びかけてきたことで、その思考を断ち切るテンが背筋を冷やす。

 

今この瞬間、その想像通りにマナに働きかけた場合。右手がミキサーにかけられるスプラッターな映像とともに、痛みによるショック死。なんとも情けない終わり方となる。

 

 

「そう考えると、魔法って結構怖いよな。簡単に人の命を奪えるんだからさ」

 

 

人の命を奪う。

 

そんな言葉、平和ボケした故郷に住んでいた一般人にはありえない話。皮肉なことに、ここは故郷ではなくアニメの世界。それも鬱展開が盛り沢山なリゼロ。

 

魔女教やら魔獣やら大罪司教やら、騎士となる自分がいずれ戦うであろう存在達が蔓延る難易度ルナティックの世界だ。エミリア陣営の騎士となるならそれは確実なものになる。

 

そうなった時、自分は彼女を守るためにちゃんと戦えるのか不安になるテン。確かに魔法はカッコいい、異世界感があって目を見張るものが殆ど。しかし、実際は命を奪う魔法。

 

何かを守るために、相手の命を奪うことのできる一つの刃だ。今まさに、右手に纏われる旋風も。

 

 果たして、自分はそれを相手に向けることができるだろうか

 自分を、身近な人を殺そうとする相手に殺意を向けることができるだろうか。

 

 人を、殺すことが、できるだろうか。

 

 

「騎士になるんだもん。弱気になっちゃダメだよね。エミリアに、そう言ったもんね」

 

 

不意に生じる弱き自分をブン殴るテンが息と一緒に苦笑する。そんな弱音を吐いている暇なんて自分にはない、後ろを向くなどあってはならない。

 

あの朝に誓ったのだから。他でもないエミリアに。自分は騎士になると。騎士になって君を否定する全てから君のことを守ると。

 

我ながら気色悪い発言をしたと今更ながらに思う。あんな黒歴史まっしぐらの発言をしたのは文化祭の劇以来か。あの場に故郷の友達がいたら煽り散らかされていたはず。

 

しかしここにハヤト以外の友達はいない。いるのは、いずれこの世界で自分が守りたいと心の底から思える人たち。

 

 

「なら、うだうだ考えてる暇はないよね」

 

 

大きく息を吐くテンが心に溜まっていた感情をそれ一つで全て吐き出す。時間は有限、そんな下らないことを考えてる暇があるなら鍛錬に集中。

 

今はやるべきことをやるだけ。心を切り替えるテンは、そうして右手に纏わせた旋風に少し力を加えようとして、

 

 

「ーーあ、まだいた。もぅ、こんな遅くまで鍛錬してるなんて。身体に悪いんだから」

 

 

背中にしていた大木。そこからひょこっと顔を出したエミリアに叱られた。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止でーーす」

 

「私はテンの関係者だもん。だから、入っても大丈夫なはずよ?」

 

「……因みに、どんな関係で?」

 

「私がお姉ちゃんで、テンが夜遅くまで起きてる悪い弟よ」

 

「まさかの家族関係? てか、夜遅くまでって、まだ日は跨いでないと思うけどね」

 

「テンと私じゃ、"夜遅く"の基準が違うと思うの」

 

 

意味不明なやり取りが初っ端から開始されるなどの一悶着もあったものの。取り敢えずの形としてエミリアはテンの領域へと入ることに成功。

 

元から場所は知っている彼女は夜の日課が終了し、普段なら屋敷に帰るはずの足を彼の下へと進ませて、お邪魔。

 

鍛錬のお邪魔をするのは良くない気がしなくもないが、昼間に偶に眠たそうにあくびをしているところを見たエミリアは少し心配になったから。念のため様子を見に行くことにしたのだ。

 

 

「んで。エミリアは何のためにここに?」

 

「テンの様子を見るためよ。だって、今日のお昼も眠そうにあくびしてたの、私、知ってるんだから。こんな見つけにくい場所で倒れでもしたら、大変でしょう?」

 

「俺、そんな疲れてるように見えますかねぇ」

 

 

勿論よ。と自信満々に頷くエミリアがテンの横に腰掛けて彼と同じ大木に寄りかかる。必然的に距離も縮まった二人。咎めるように優しく睨んでくるエミリアと、視線を右から左へ受け流すテン。

 

彼女は自分のことを心配してくれてのことだから雑に扱うわけにもいかない。でも、自分のせいで彼女が夜更かししたとパックに知られたら、彼に本気で怒られそうな予感。

 

 

「でも、大丈夫だよ? 俺はそこまで疲れてないから。最近は仮眠も取ってるし。週一で休んでるし」

 

「それじゃダメよ。夜はちゃんと寝ないと、背も伸びなくなるの。それに一日の疲れだって全然取れなくて、次の日はてんてこまいになっちゃうんだから」

 

「てんてこまいって、面白い表現の仕方だな……。まぁでも実例があるから、何も言い返せない」

 

 

取り敢えず苦笑いのテンに、エミリアが「夜は寝なさい」と言いながら詰め寄る。前回のような、子どもじみた距離の詰め方にテンは心の底からやりにくそうな様子。

 

「むむむぅ」と不満げな感情を表に出すエミリア。何がどうしたら彼女がこんな場所にくるのかがハッキリしている以上、その解決法も簡単に分かるが。そうすると鍛錬の時間がなくなる。

 

それはイヤだ。少しでも早く力をつけたい自分にとってこの時間は己の高められる唯一の時間と表しても過言ではない。なら、どうにかしてーー、

 

 

「ーーっ! いっつ……」

 

 

不意に右手に走った鋭い熱に意識を持っていかれる。反射的に視線を向ければ、人差し指が纏わせた旋風によって軽く斬られていた。制御を誤って何もない風に切れ味を持たせてしまったことが原因か。

 

切傷から赤色の液体がタラタラと次第に流れ出す。芝生に落ちるそれは緑の地のごく一部を赤く染めた。

 

ミキサーにはならなかったと謎の安心感が生まれるテンだが、エミリアはそうでもなかったらしい。

 

 

「どうしたの……、その指、血が出てるじゃない!」

 

 

彼の反応に違和感を感じたエミリアの瞳が彼の視線を追うように動くと、すぐに出血に気付く。驚く彼女は咄嗟にその指を掴み、眼前まで持ってくると「まっててね」とあわあわすると、

 

 

「治癒魔法かけてあげるから!」

 

「大丈夫、大丈夫。そんなに気にしなくても大丈夫だよ。心配しないで」

 

 

焦るエミリアだが、当の本人は全く焦る様子はなく逆に落ち着き払っている様子。彼は掴まれた指を解放してもらうと、ポケットから布を持ち出して切り傷に当てた。

 

その様子を心配そうに見つめるエミリアは「どうして?」と言葉を繋げて、

 

 

「だって、血が出てるのに。痛くないの?」

 

「少しは痛いよ。でも、これは初めてじゃないから。魔法の鍛錬してるとさ、偶に制御を誤って傷つくこととか結構あるんだよね」

 

 

「だから、大丈夫だよ」と不安そうに声を沈ませるエミリアにテンは微笑みかける。このようなことは何度も経験していることで、割と慣れていたりもするテン。

 

自分以外には誰にも知られてないこと。そもそも言う必要もない。それに軽い出血など今に始まった事ではないから、そこまで大ごとではない。

 

 

「火のマナを練習してると偶に暴発して浮かべた火球が爆発してぶっ飛んだり。水のマナは頭の真上に氷柱を浮かべちゃったこともあってね、制御を失ったそれが脳天シュートですわ」

 

 

淡々とした様子で話すテンがその時のことを思い出して「ははは」と苦笑い。感情の入っていない瞳が虚空を見つめ、そこに何があるのかとエミリアが視線を追うも、何もない。

 

忘れもしない、魔法練習中にあった悲劇。

 

まだ制御が上手くいかない時にあったテンのみが知る『火球暴発事件』と『氷柱シュート事件』、ネーミングセンスは相変わらずだが、概要は名前のとおり。

 

火球暴発事件。浮かべた火球が何の予兆もなく目の前で爆発を引き起こしたこと。小規模だったため、周囲に被害が及ばなかったのが不幸中の幸いだが、お陰で八メートルほど吹っ飛んだ。

 

氷柱シュート事件。どうしてか、普段は目の前に出るはずのそれが頭上に出現。気づかないまま「あれ? 上手くできなかった?」と集中を解いた瞬間、重力に従って脳天シュート。

 

吹き飛んだり、脳震盪並みの衝撃がきたりと誰も知らないところで死にかけているテン。彼はその時のことを思い出しながら出血の治まった指に絆創膏を貼る。

 

手慣れた手つきを見るエミリア。彼女は屋敷の人間で初めて知らされた彼の悲劇に顔を引き攣らせると、

 

 

「それ、本当に大丈夫なの? 笑いながら話してもいい内容に全然聞こえないのは、私だけじゃないよね?」

 

「いいんだよ。そのうち笑い話になるんだから」

 

「ほんとぉに?」

「ほんとぉに。ほら、もう大丈夫」

 

 

絆創膏の貼られた指を見せつけるテンがそう言ってエミリアに笑う。不安そうに瞳を揺らす彼女を安心させるような態度をとるテンは、無事であることを強調するようにその指を左右に揺する。

 

指が右へと揺れ、追う紫紺の瞳が右に揺れ、左に揺れると左に揺れ、右に左に。メトロノームのように繰り返される動きは、見ているテンが堪えきれずに失笑してしまうほどに面白い絵面だった。

 

しかしエミリアとしてはご不満だったらしい。本気で心配していることに対して楽しげに笑われた彼女はムッとした表情になると、

 

 

「本当に心配してる人に対してそんな態度とる悪い子は許しません。てんばつ!」

「あたっ」

 

 

言い、揺らしていた手を握って引っ張るエミリアが彼の体を引き寄せると額にチョップ。弟を叱る姉のような心持ちで、自分の心配から目を逸らした悪い子に天罰を下す。

 

が、それまでにとどまらず。引っ張る腕に力を込める彼女はテンの体を力一杯引き寄せると自分の真横に倒れさせにかかった。

 

予想外の行動に「おわわっ!」とテンは焦るも、時すでに遅し。状況に追いつけない身体が芝生に前から倒れ、横からつんつんと肩をつつかれる。

 

しかしテンは楽しげに笑うばかりで、それもまたエミリアの不満感を煽る要因。だけど、ふざけているようには見えなかった。ただ純粋に心から楽しんでいるように見える。

 

どうしてなのか。疑問に思うエミリアは肩つんつんを止めると彼の服をちょんちょんとつねり、

 

 

「どうしてそんなに面白そうなの? 私はテンのこと、すごーく心配してたのに」

 

「それは謝るよ。俺のことを心配してくれてありがとう。でも、なんか楽しいなぁって思ったらおかしくってさ」

 

「ぶたれて楽しいの? テンってすごーくおかしなこと言うのね」

「まて。その解釈の仕方は違う」

 

 

体を裏返して上体を起こすテンが誤った認識を慌てて正す仕草。「まて」の声と同時に手の平を彼女に突き出し、良からぬ方向に進みかけた自分の印象の修正を図る。

 

テンとしては彼女のまともに話せていること自体が楽しく感じたのだが。エミリアとしては自分に叩かれたことに焦点を当てたせいで、テンの印象が『女性に叩かれて快楽を得るドM男』に傾きかけている。

 

なんてことか、それだけはいけない。彼女に向けられる視線の温度が若干下がったことを察したテンはあれこれ否定の言葉を走らせ、誤った印象を元に戻そうと口を回す。

 

そんな様子に見覚えがあるのか。冷たくなった視線が元の温かなものに戻るエミリア。彼女は口元に手を当てて「ふふっ」と微笑むと、

 

 

「冗談です。テンがそんな人じゃないことくらい知ってるんだから。焦って弁解する方が怪しく見えちゃうわよ?」

 

「な……っ。じゃあ何も言いません」

 

 

腕を組んで鼻を鳴らすテンが唇を固く閉じる。言われたことを真面目に守る彼はそれから一言も言葉を発さなくなり、エミリアの瞳を見るテンの瞳は「どうだ」とでも言いたげに細められて。

 

初めて見る表情だ。自分と話すことがとても楽しそうな彼は、外見にしては少し幼い態度で、普段にしてはひどく柔らかな顔色で。自分のことを見ている。

 

あまりにも不意のことだったために、唇を押し開けた笑声が手の裏側から溢れるエミリア。なんの笑みなのか自分でもよく分からないが、とりあえず分かるのは、

 

 

「テン。その服、裏表が反対かも……!」

「えっ? あ………」

 

 

テンのことを見て気付いた。彼の来ている白のシャツが裏表反対になっている。柄が入ってないため、注視しないと分からなかった。

 

ちゃんとしてそうに見えて、案外テンは抜けているところもあるらしい。見事に気づかれた彼は笑い声をこぼすエミリアを前に、視線を下に向けて固まった。

 

笑うエミリアと硬直したテン。その状況が数十秒間続いたのち。何を思ったのか、大きく息を吐いた彼は突然立ち上がると、

 

 

「鍛錬する気分じゃなくなった。今日はもう屋敷に帰ってお風呂入って寝る」

 

 

そう言い残してエミリアの前から逃げるように歩き出した。怒っている雰囲気はない、どちらかと言えば恥ずかしがっている雰囲気の方が今の彼には当てはまっていた。

 

だから立ち上がるエミリアは駆け足で彼の背中を追いかける。ふてくされたように羽織のポケットに手を突っ込む彼をもっとおちょくるという、彼以上に幼い思考回路の下。

 

ニヤニヤと頬を緩めるエミリアが隣に並び、テンの顔を覗き込むようにひょこっと顔を覗かせると、

 

 

「服の裏表を間違える人っているのね」

「うるさい」

 

 

顔を背けるテンをエミリアは許さず、背けた方向に移動すると再度覗き込む。が、反応するテンが反対の方向に顔を背けた。

 

右へ、左へ、右へ、左と見せかけて右へ。

 

前に進むテンは自分の周りをぐるぐる回るエミリアと目を合わせないように、顔をあちらこちらへと向ける。が、彼に襲い掛かるのは何も視線だけではない。

 

 

「ふふっ。私だってそんなこと一度もなかったのに。もしかして寝ぼけてたりした?」

「うるさいうるさい」

 

 

自分をおちょくる声が耳の中に真横から飛び込んでくる。視線を合わせてないから見えないが、多分。否、絶対に彼女はニヤニヤしているはずだ。

 

だから絶対に目は合わせない。そして声すらも遮断する彼はポケットから出した手で両耳を塞ぐ。対抗策として彼の肩に手をかけたエミリアが手の真横で声を発した。

 

 

「テンの新しいこと知っちゃった。テンは服の表裏を間違えるすごーくうっかり屋さん。それも、気付かれたら照れちゃう、すごーーく恥ずかしがり屋さん」

 

「わーわーわー! 右から左へ受け流すぅ!」

 

「大丈夫。恥ずかしがることなんて一つもないと思うわよ。服の裏表を間違えることなんて誰にだってあるもの。私はないけど」

 

「聞こえない聞こえない聞こえない! 何も聞こえなあーい!」

 

 

どうして自分がこんなに恥ずかしがっているのか。分かるけど分かりたくないテンが頭の中に入ってくる声を自分の声で掻き消す。尚も、かけられ続ける声に対して早足で逃走を図った。

 

それでも真横にピッタリ張り付いてくるエミリアが今は恐ろしくて仕方ない。呪文の如くおちょくる彼女を横目で見ると、彼女は楽しそうに笑みを弾けさせている。

 

 ーーこの小悪魔め、楽しそうに笑いやがって。

 

体に触られたり、机を叩いて脅かされたり、絶対零度で凍らされそうになったりと肉体的に彼女に色々とされてきたが。これは精神的にダメージが大きい。この短期間で一体何度、エミリアに遊ばれてきたことか。

 

からかい上手のエミリアさんとは。中の人が同じなだけあって、おちょくる声が完璧にそれの声にしか聞こえず「あぁ、あの男の子ってこんな気持ちだったのか」なんてことを思いながらテンは屋敷に進み。

 

その後を追いかけるエミリアは、気が済むまで彼にちょくりの言葉をかけ続けた。

 

 

 

 因みに。それが終わったのはテンが寝巻きに着替えた後、それを見たエミリアが、

 

「寝巻きは裏表反対じゃないのね」

 

と最後に一声かけ。両手を上げたテンが、

 

「もうやめてくれ」

 

と白旗を上げたことで終わった。

 

 

 

 

 






タイトル、『からかい上手のエミリアさん』にしようかなぁとも考えましたが、高木さんガチ勢の方々に消し飛ばされそうなので没に。

次回もこんな話を挟み、次次回から少しだけ日常をはみ出します。


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