親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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30話にしてようやくまともな戦闘描写……。上手く書けたどうか微妙なところです。





いざ、魔獣の森へ

 

 

 

「ーーーー」

 

 

ハヤトが屋敷前の玄関に向かってから約一分後。恍惚とした表情のテンが力の入ってない両腕をゆらゆらと揺らしながら、扉を潜って玄関前へと出てきた。目が明後日の方向を向いている。

 

もちろん、彼がそうなる理由も聞いていたハヤト達。この場にいる全員がその理由を一言一句聞き逃さずに聞いていた。

 

逆に、この静かな空間でレムがあれだけはっきり叫べば聞き逃す方が難しいと言える。

 

因みに、今この場所には精霊二人を除いたレム以外の全員が揃っている。レムはテンに叫んでからパタパタと彼の前から逃げるように去って行ったきり、顔を出してくれなくなった。

 

口を半開きにしたテン。彼がまず初めに発した言葉といえば、

 

 

「死亡フラグ、立っちゃったかも。もしかしたら、今日が俺の命日かもしれない」

 

「縁起でもないこと言わないでよ、テン。ダメだからね! 絶対にちゃんと無事で帰ってくるの! ちゃんと帰ってきて私に元気な顔見せるの!」

 

 

心ここに在らず。レムに言われた言葉が衝撃的すぎて割と洒落にならない言葉を発したテンにエミリアが本気で心配していた。彼の肩を掴んでぐわんぐわん揺らす彼女の声色はまだ不安そうに震えている。

 

二人が行こうとしている場所はそれだけ危険な場所なのだ。命日かもしれない、だなんて心持ちで足を踏み入れれば本当に死んでしまうほどには。

 

 

「いいこと、テンテン。ラムの可愛い妹にあそこまで言わせたんだから、何がどうなろうとも無傷で帰ってきなさい。死んで帰ってきたら殺すわよ」

 

「死んで帰ってきた人を殺すとは。オーバーキルにも程があるだろ」

 

 

エミリアに肩ぐわんぐわんの刑を実行されている中、テンの背後から忍び寄ったラムが結構な勢いで背中を叩く。彼女もレムが言った言葉を聞いていたし、感じて(・・・)いた。

 

だからこそ、今の言葉だ。自分の妹にあのような感情を抱かせてる男、傷ついて帰ってきたらレムが悲しむに決まっている。故に、

 

 

「絶対に無事で帰ってきなさい。幸いにも魔獣はテンテンと脳筋と似た部類だから、動きも単純。始末することなんて造作もない。最悪、傷がついてもそれをラム達に悟らせないでちょうだい」

 

「無理難題すぎるんだけど。つか、俺とハヤトのことを遠回しに貶してるの気づいてるからな」

 

 

知らず知らずのうちに自分達が魔獣と同レベルの知能と思われていることは置いておくテン。彼は、エミリアとラムによってふわふわした精神状態から帰ってきた。

 

物理的な衝撃によって乱された心が再び凪になる彼が、二人の攻撃から身を縮めてスルリと抜け。乱れた服装を整える。レムによって乱されていたその他諸々を整えたテンはハヤトの隣に立った。

 

テンの肩に手をかけるハヤトはその光景に苦笑するしかない。戦いの前にあんな言葉をかけられれば仕方ないとも思うが、今の一言は言うべきではなかった。

 

 

「で、どうだったよ。女の子からの応援は」

「この上なく幸せです。今なら竜とも戦える」

 

 

拳をグッと握りしめるテンが空を睨む。声色から察するに覚悟などとっくに決まった様子、戦いを前にした彼の心にはハヤトと同様の燃え盛る炎が轟々と猛っている。

 

普段の彼を知っているからこそ、その時との差が激しすぎて本当に同一人物なのか疑う部分もあるが。そんな彼を見れば必然的にハヤトも触発されるもので。

 

自然と心の中にある感情が燃え上がるハヤトは、溢れ出る笑みを抑えられなかった。普段からこうなっててほしいと思う反面、普段からこうじゃないからいいのかとも思う。

 

 

「おし! お前の準備も整ったようだな。なら、いよいよ決戦の時だ。覚悟はできてるよな?」

 

 

スイッチを切り替えるハヤトが肩にかけていた手を離すと拳を突き出す。いつもの、親友同士だからこそできる意思疎通の方法。拳を合わせるだけなのに、たったそれ一つでお互いの気持ちが通じ合うような気分になれる。

 

真面目な顔つきになったハヤトにそれを向けられれば、自然とテンも真面目な顔つきになる。気持ちを引き締めさせられる表情のハヤトに気持ちを切り替えさせられた。

 

 

「当たり前でしょ。死んで帰ってくるわけにもいかないし。信じられてるんだから、それに応えなくちゃいけないから」

 

 

突き出されたハヤトの拳に自分の拳を合わせるテンがそう言って頷く。

 

覚悟なんてとっくに決まってる。エミリアにあんな事を言って、レムにあんな事を言われて。これ以上ないくらいに定まった。

 

二人の少女から「無事で帰ってきて」なんて言われたのだ。安い男の覚悟を硬くさせるのなんてそれだけで十分すぎる。

 

気合十分。ボルテージMAX。昂る気持ちを解き放たないようにするので精一杯。それが今のテン。

 

 

「いい、二人とも。絶対に、絶対に無事に帰ってきてね! 傷ついたら私が治癒魔法かけてあげるから。とにかく、絶対に帰ってくるのよ!!」

 

「ラムに男を見せなさい。エミリア様をお護りする騎士なんだから、同格の魔獣共にくたばったら承知しないから。それに二人がいなくなったらラムはどうやって楽をするの」

 

 

拳を合わせる男子二人を前にした女子二人。

 

もう二人を止めることは叶わないと理解したエミリアが二人に詰め寄り、何度も「無事で帰ってきて」という言葉を連呼。心配そうな様子は抜けないけど、引き止めることはしなかった。

 

ラムもラムで何気に二人のことを気にかけてくれているのか、言い回しは相変わらず分かりづらいが「帰ってこい」という意思は伝わってきた。最後に私欲が混入していた事は無視することに。

 

そんな二人に、テンとハヤトは「おう」とだけ。これ以上余計な言葉をかける必要はないと判断したのか決意みなぎる表情を向けるだけとなった。

 

 

「さて、そろそろいいかなーぁ?」

 

 

声をかけられて振り返れば、そこにはロズワールの姿。どうやら、話が終わるまで律儀に待ってくれていたらしい。手を振る彼は二人を交互に見ると、

 

 

「あまりのんびりしている暇もなくてねぇ。準備が整ったのなら始めようと思うのだが」

 

「おう、分かった」

「なら始めましょう」

 

 

時間は有限。お話をするのはここまでと境界線を引いたロズワールが二人を手招き。それに頷く二人もエミリアとラムに軽く手を振ってから彼の元へと足を進めた。

 

自分の前までやってきた彼らの格好を一瞥するロズワール。少し前まで魔法の使い方も知らなかったひよっ子とは少し想像しずらい立ち姿に彼はニヤリと表情を歪ませる。

 

やはり、光る原石。まだ磨き甲斐はある。

 

 

「さて、今から君達に中間試験を受けてもらうわけだけど。詳細は歩きながらとしよう。ついてきたまえ」

 

 

玄関前から正門へと身体の向きを変えるロズワールがそう言って歩き出す。今からどんな事をするのか。彼の考えてることなんて一ミリも理解できない二人は顔を見合わせて頷き。

 

 

「行くか」

「うん、行こう」

 

 

彼の後を追いかけるように駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

徐々に遠くなっていく二人の背中を心配そうに見つめるのはエミリア。握った拳を胸元に添える彼女は、その二人から視線を逸らす気配はない。

 

胸の中は心配な気持ちで一杯一杯だった。まだ本格的に戦えると決まったわけでもないのに魔獣が蔓延る危険な森に行くなんて、ロズワールの考えていることが理解できない。

 

でも二人は行ってしまった。本当は止めたかった。そんな危険な場所には行ってほしくなった。

 

 でも。

 

 

 ーー俺達はお前の騎士となる存在、高々魔獣程度で引き下がれるほど生半可な覚悟じゃねぇんだ。

 

 

ハヤトに力強い言葉をかけられれば。

 

 

 ーー大丈夫、大丈夫。心配しないで。俺とハヤトがいれば怖いものなんてないよ。

 

 

テンにそんな風に言われてしまえば。

 

 

 ーー俺たちの事を信じて待ってろ。絶対に帰ってくる。

 

 

信じて待ってろーーそんな言葉を言われてしまえば。エミリアは二人を引き止める事なんてできなかった。止めたくても、二人の決意を蔑ろにする事なんて彼女にはできない。

 

 

 

「テンテンと脳筋が心配ですか?」

 

「うん。すごーく、心配」

 

 

もう見えなくなった背中。しかし、その先にいる二人のことを見続けるエミリアの心を察したラムが彼女の見つめる先、その二人を見た。

 

自分の妹にあんな言葉を言わせる存在。そして、その場にいるだけで周りの雰囲気が明るくなる存在。その二人のことを。

 

 

「ご心配する必要はないと思います」

「え?」

 

 

思いもよらない言葉にはっとしたエミリアが口から声をこぼし、隣にいる依然として前を向いたままの真顔のラムを見た。

 

あまりレムやロズワール以外に興味を示さない(と思っていた)ラムがその言葉を言うとは思わなかったエミリアからすれば少し予想外の気遣い。

 

彼女から視線を向けられたラムは使用人としての表情を変えぬまま、

 

 

「少なからず一ヶ月間、鍛えきたわけですから。それに、ロズワール様から魔法をご教授されているようですし」

 

 

生きて帰ってきて当然の話です。と言葉を切るラム。事実を言っているだけなのに、しかしどこか感情的に聞こえるのは気のせいなのか。

 

「それに」と言葉を紡ぐ彼女は僅かに微笑むと、

 

 

「エミリア様は、ご自身の騎士達が信用できませんか?」

 

 

言葉と一緒にエミリアに視線を向ける。それには普段ならば、ラムがあまり見せないような優しさが含まれていて。それを向けられたエミリアは少しの沈黙。

 

己の中に生まれたいくつかの葛藤を押し殺し、「うん。そうよね」と微笑んだ。

 

 

「あの二人なら大丈夫よね」

「はい」

 

 

言い聞かせるようにエミリアは口にする。あの二人が大丈夫だと言った、信用しろと言った。ならそれを信用するだけ。誓ってくれた、約束してくれた。ならそれを守ってくれると信じるだけ。

 

ラムのお陰でそう思えることができたエミリアは彼女に体を向けると、

 

 

「私を気遣ってくれてありがとう、ラム。やっぱりあの二人が来てからラムは優しくなった気がする」

 

「この上ないまでの侮辱ですね」

「えっ、そんな事ないわよ!?」

 

 

微笑みを崩すラムがそう言いながら背を向けて屋敷の中へと入っていく。自分のせいで彼女が気を悪くしてしまったのかと不安に思うエミリアだが。

 

ラムは不意に足を止めると、

 

 

「ですが、少なからず影響されてるのは否めませんね。ラムも。エミリア様も。ーーあの子も」

 

 

そう、言葉を残して彼女の視界から外れた。

 

遠ざかっていく足音を聞きながらエミリアはラムが置いて言った言葉の意味を考える。

 

確かに、あの二人がこの屋敷に来てからレムとラムの雰囲気が柔らかくなったのは感じているし。表情が豊かになってきたようにも思う。

 

二人だけではない。今この場にいなかったベアトリスも。最近は食卓の場に顔を出すことも増えてきて、心なしが雰囲気が明るくなってきている気もしている。

 

それに自分自身も。彼らが来てから毎日が楽しくなって。夜にテンの鍛錬にお邪魔することも自分の中ではお楽しみに入っていて。

 

 

 ーー少なからず影響されてるのは否めませんね。

 

 ーー絶対に、無事に帰ってきてください!

 

 ーーじゃ。せいぜい頑張るかしら。

 

 

「本当にーー。そうかもしれないな」

 

 

一人でに言葉を呟くエミリア。視線を外して背を向ける彼女は屋敷に入る前に再び、これで最後とばかりに視線を彼らの背中へと向けた。

 

 

 

「信じてるからね」

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

ロズワール邸から歩いて数分。見送るエミリア達の姿が見えなくなった頃、不意にロズワールが足を止めて二人に振り返った。

 

 

「さて。それじゃあ、試験内容を説明するわけだぁーけど」

 

 

彼が足を止めたことで足を止める二人が「うん」と頷いた。何も聞かされてないから聞き逃さないように完全に口を閉じて聞き手に回った二人。

 

普段は騒がしいハヤトも今は静か。テンは言わずもがな。気持ちを切り替えた二人は中間試験という一つの壁と本気で向き合う姿勢をロズワールに見せた。

 

 

「まず、日が落ちるまでに森を抜けて屋敷に帰ってくることを合格の条件とし。それまでに森から抜けれず、抜けたとしても屋敷に帰って来れなかった場合、不合格とするよぉ」

 

「まるで、俺達がどこか場所も把握できない森の中に放り込まれるみたいな言い方しますね」

 

「もちろん、そうだとも」

 

 

意気揚々と試験内容を伝えるロズワールの言った言葉に硬直するテン。さも、当然かのように森の中に放り込まれようとしている事に戦慄した。ハヤトも同様なのか、目を見開いている。

 

言われたことの意味は分かる。しかし、大雑把すぎて試験内容の想像がつかない二人にロズワールはポケットから赤く光る魔鉱石を取り出すと、

 

 

「私が森の適当な場所に放り込むから、君達にはこの魔鉱石を道標に森から抜けてもらう。安心しなさい、辿れば確実に森から抜け出せるよ」

 

「それ、本当に中間試験ですか? 期末試験並みの難易度課せられてる気がするんだけど」

 

「森の適当な場所に放り込むというワードを当然かのように言うか。やっぱ恐ろしい奴だな」

 

 

予想外、森で戦うだけのはずが森から抜け出すことに課題をシフトされた。それも午前中の今から日が沈むまでに。というタイムリミットを考えると、

 

 

「…どんだけ遠くに飛ばす気ですか?」

 

「うーん。歩いてざっと五時間」

 

「鬼畜か!」

 

 

淡々と告げられた衝撃的な事実に思わず声を上げるハヤトと顔を引き攣らせるテン。森の中に入って魔獣と戦うつもりが、まさかの魔獣蔓延る森の中で歩いて五時間もかかる道のりを日没までに走り切る超難関なものに。

 

道標を用意してくれるだけマシと考えるべきか、どうなのか。

 

 

「でも、俺達をどうやって森の中に放り込むんですか? そんなに長い道のりをわざわざ歩くわけでもないでしょうに。それに、移動するところを俺達が見てたら道のりも簡単に分かる」

 

 

明かされた試験内容をなんとかして受け入れるテンが首を傾げて質問。流石に全てを飲み込んだわけではないが、やると決めたものを今更引き下がる気にはならない。

 

質問をされたロズワール。彼はイヤな方向で高鳴る鼓動を抑えるテンとハヤトの肩に手を置くと、

 

 

「簡単なことだよねぇ?」

 

 

 

瞬間、二人の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

ふと、肌に感じる冷たさを感じ取る。芝生ではないゴツゴツとした岩のような感触、でも岩よりも柔らかい。例えるならば土に近い感触。

 

更に嗅覚を刺激する草の匂い、植物特有の鼻につく匂い。それが辺りに充満し切っている。その二つの情報だけでもここが先程いた場所ではないことくらい理解できるが。

 

 目を開けて、体を起こせば。

 

 

「……やりやがったな、ロズワールの野郎」

 

「そのようだな」

 

 

辺り一面に広がるは木、木、木。或いは茂みなどのこの場所が森だと理解させられる光景が意識を取り戻した二人の視界に広がっていた。これに関してはデジャブ感のある二人である。

 

しかしあの夜とは違い、日の高い時間になってから森の中に入ったため。日没後に比べれば視界は遥かにクリアだが、それでも覆い茂る枝葉の深さに見通しは悪い。

 

森の深さは入り込んだ人間の方向感覚すら狂わせるのか。前を見ても後ろを見ても同じ光景が続き。もし道標がなければ出口すらわからず遭難並みに迷ったかもしれないと割と本気で思う二人。

 

間違えなく、この場所は魔獣の森。

 

 

「ひとまず状況を整理しようか」

 

「おうよ」

 

 

焦る気持ちを落ち着かせるテンが深呼吸。服についた土を払いながらハヤトに近づいた。それから彼はあたりを見渡し、

 

 

「まず、ここは既に魔獣の森。多分、ロズワールになんかされて意識を奪われ、連れてこられた感じ。確かにその方が場所が分からないからね」

 

「そうだな。そのおかげで見事に遭難した感じになっちまったけどよ」

 

「笑えない冗談だね」

 

 

「簡単なことだよねぇ?」とか言われたかと思えば意識を奪われて。次に目を開けた時は森の中に放り込まれてました。まさか、人生で二回もその経験をするとは思わなかった二人である。

 

そのせいで、彼の魂胆のままに二人は現在地を全く把握できていない。視界は薄ぼんやりとしか把握できず、日が沈む前に戻ってこいと言われた意味が分かった気がした。

 

ならば、行動を起こすなら早い方がいいはずだ。

 

 

「なぁテン。魔鉱石ってあれか?」

 

 

肩を叩かれたテンがハヤトの指さす方向に視線を向ければ、そこには赤く光る魔鉱石が木に括り付けてあった。この闇の中だけあって、その光も見つけやすい。

 

光に導かれるように集まる二人。見た感じ先ほどロズワールが所持していた物と同じ物だと判断。ならその次の魔鉱石を探そうと視線を回し、

 

 

「……なるほど。お菓子の家に導かれたパターンと同じか」

 

「あれか? パンくずを道標にしたってやつ」

 

「そうそう」

 

 

頷くテンに「ほう」と声をこぼすハヤト。二人が見つめる先には木に括り付けられた魔鉱石が等間隔で置いてあった。

 

しかし元ネタのように直線的に置いてるのではなく、ご丁寧に右やら左に散りばめているあたり性格の悪さが知れる。非常に探すのが面倒な道標だ。

 

だがしかし、文句を言ってる暇はない。既に中間試験は開始され、日没までのタイムリミットは刻一刻と迫っている。今の時間は分からないが屋敷を出た時間が昼前だとすると、

 

 

「今の時刻を正午だとして。日没が大体五時だから。結構ギリギリ」

 

「それは歩いたらの場合だろ? 駆け足で行けば少しは余裕も出てくるはずだ」

 

「だといいけどさ。ーーとにかく、行こう」

 

 

話している時間すらないと、その場から駆け出すテンとハヤト。舗装されてない獣道を走るのは結構難関だが、それも中間試験のうち。体力に関しては仕事で鍛えられたのだから根を上げるわけにもいかない。

 

それよりも問題視するべきはやはり魔獣の存在。前と違って対抗手段を身につけているから大丈夫だとは思うが。いかんせん、動く相手との戦闘は初めて。上手く立ち回れるか不安だ。

 

魔法も使える、武器も使える。戦う力は一ヶ月間で身につけた。けど今の二人には実戦経験が乏しすぎる。もしかしたら、それを養うことを含めての中間試験かもしれない。

 

 

「まさか、ぶっつけ本番で魔獣と戦わさせられるとはね」

 

「竜と比べれば大したことねぇだろ、大丈夫だ。お前はあの竜に単身で突撃した男なんだぜ? なんの問題もねぇさ」

 

 

魔鉱石を道標に森の中を駆けるテンがポツリと呟いた僅かな弱音。それを前にするとどうしても弱い自分が顔を覗かせてしまう。が、そんな彼の肩をハヤトが強く叩く。

 

肩を並べて走る二人。乱れのない動きで素早く木々の間を走り抜けながらハヤトはテンへと視線を向けた。

 

 

「それにお前の隣には俺がいるし。俺の隣にはお前がいる。ビビることなんてなんもねぇ、俺達は一人じゃねぇんだ」

 

「分かってるよ。お前が俺の隣にいてくれること、すごい心強い。信用してるぜ、相棒」

 

「おうさ! 俺も信用してるぜ、相棒!」

 

 

薄暗い森の中でも笑っていることが簡単に分かるほどの笑みを浮かべるハヤトに、テンが息を噴いて笑った。なぜか、彼の太陽のような笑みを向けられると自然とテン自身も元気になってくる。

 

この男になら背中を預けられると思わせてくれる彼は、やはりテンにとって精神的な支柱的存在。そしてハヤトにとっても、そんなテンがいるからこそ安心していられる。

 

相棒。そう呼べる男が隣にいるだけで、二人はどんな事にでも笑って立ち向かえる勇気が心の底から湧いてくるのだ。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

ふいに生じた違和感に息を詰め、二人は足を止める。空気が変わる、という感覚が如実に肌に伝わり、体内の温度が急激に低下していくのがわかった。

 

肌を針でつつくように刺激するのは、濃密な存在感が無意識に放つ威圧の余波だ。そこにある、というだけで止まる足が一歩たりとも前に出ない。

 

ついさっきまではただの森としか認識できなかったそれが、簡単にひっくり返る感覚。取り巻く大気の温度が下がったと錯覚させているそれは、二人の前から近づく生臭さ。

 

それが何を意味するのか。感覚的に分かる。

 

 

「ハヤト」

「分かってる」

 

 

途端、己の刃を抜刀する二人が背中を合わせる。足を止める二人はそうして臨戦態勢、意識を研ぎ澄ませる。音、匂い、感覚。敵を捉えるためのありとあらゆる神経を逆撫でする存在を見逃さないように。

 

 

「冷静になれよ」

「分かってる」

 

 

聞こえてくるのは辺りの茂みが何かによって揺らされたことによる摩擦音。そして、地面に転がる小枝を踏み折る不愉快な音。静寂を貫く二人とは反対にその音は大きくなるばかり。

 

すぐそこまで来ている。目視できないが、直ぐそこまで。きっと合図一つで飛びかかってきそうな距離まで詰め寄られている。

 

 なら、

 

 

「フーラ」

「ドーナ!」

 

 

静寂を切り裂く合図が二つ上がり、目視できないのならば見当をつけた場所への先制攻撃を仕掛ける。同じことを考えた両者が同時に魔法を放った。

 

テンが放った風刃は術者に従って微かに動く茂みの中へと一直線に進み、皮膚が引き裂ける音を立て。ハヤトが地面から伝えたマナがある一点へと突き進み、棘の柱としてそれは対象の目標を突き刺した。

 

茂みの中で赤い血が飛び散り、それを合図として音の正体が一斉にテンとハヤトを取り囲む。茂みから出てきたその正体は、

 

 

「ウルガルム。原作と同じ」

 

「ただの犬。ビビるこたぁねぇよ!」

 

 

それは森の深い闇と同化する漆黒の体毛をまとっていた。四本足で直立するそれらは大型犬にも引けを取らない体格、まともにのしかかられればまず逃げ出せない。

 

発達した獣爪と、口の中に収まり切らない牙は、正しく狂犬。獲物の肉体を爪で抉り、牙で食い散らかす絵面が容易に想像できる。

 

闇の中でも確かに光る赤の双眸だけは空間に溶け込めてないが。そのせいで濃厚な殺意が獲物の精神をこれでもかと追い詰めているようにも見えた。

 

 

「ざっと六匹。三匹ずつやるよ。絶対に噛まれんなよ、呪われるから。噛まれてもすぐに殺せ」

 

「任せとけ!!」

 

 

迷いはない。怯んでる時間もない。その前に動く二人。一声掛け合った次の瞬間から両者は別々の行動をとっていた。

 

 

 地を蹴り上げて駆け出すハヤト。

 

振られる大剣は横に一閃。リーチのあるそれが近くに接近したウルガルムの顔面へと刃を一気かに伸ばし、無鉄砲に突っ込んだ結果として顔が半分に叩っ斬られた。

 

ウルガルムのような獣型の攻撃などたかが知れている。両足の爪か牙、それか体格を活かした突撃。いずれにしてにしても近づかなければ攻撃は仕掛けられない。

 

尤も。それをした場合、待ち受けるハヤトの大剣が牙を向く。

 

初手で一匹を仕留めたハヤトが取った行動は回避。飛びかかり、左右から挟むようにして噛みつきを行う二匹に身を屈めた。知能はあるらしい、左右から展開とは中々に狡猾。

 

 

「うらぁあ!!」

 

 

真上に浮かぶ獣の腹に大剣の剣先を天を穿つかの如く突き立てる。そのまま穿てば二匹目の土手っ腹から背部にかけて大剣が貫通。ドス黒い血を顔面に浴びたが、気にしない。

 

すぐさま最後の一匹に意識を向けるハヤトは大剣を引き抜こうとするーーが、ここで予想外が起こる。

 

突き刺さったウルガルムが空中で命を散らしたせいで態勢を崩したまま無造作に飛んでいき、スルリと手元から離れる柄に釣られる大剣がそれに持ってかれた。

 

大剣の突き刺さる死体が木に衝突し、地面に転がる。取りに行く暇、ない。真横に爪が迫ってきている。魔法、間に合わない。なら、

 

 

「ーーっら!!」

 

 

地に足つけるウルガルムの爪が迫り、地面を蹴り上げ身を横に投げるハヤトが寸前で回避。転がる彼は怪我の程度を確認した。爪が掠った箇所から出血してる。けど、動きに支障はない。

 

なら良し。息を大きく吐くハヤトは肺の中にある酸素と一緒に余分な力を全て吐き出し、拳を握りしめた。狼のような声を上げるウルガルムを睨むと、ニヤリと笑い、

 

 

「アクラ!!」

 

 

その瞬間、地の底から湧き上がってくる灼熱がハヤトの内側を激しく迸る。迸るそれは彼の内側だけではなく、外側にも。それは金色のオーラという形で現出された。

 

地を踏みしめ、格闘家のような構えを取るハヤトからその覇気が出たとしてもウルガルムが足を止めることはない。本能的に目の前の獲物を殺しにかかる。

 

故に、ハヤトも特攻を選択した。正面から来る相手に正面から挑みに掛かる。もっと他に方法もあるだろう、しかし自分の初陣なのだからやりたいようにやるのだ。

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

飛び掛かる。首を斜めにして牙を向くウルガルムはハヤトの喉元を噛みちぎらんばかりに大口を開けて。単純に考えて、走る速度が速いのは獣であるウルガルムだ。ハヤトの懐に入り込むのもそれの方が早いと言える。

 

しかし、相手は間合いをつめることに関しては。更に本能的に動くことに関しては獣なんかよりも上手な存在。

 

 

「あ、めぇよ!!」

 

 

前に飛び掛かるならば横に避けるだけ。そう言うかのようにハヤトの動きに迷いはない。右半身を横に逸らす、たったそれだけで特攻を軽くあしらった。

 

完全に側面を取られたウルガルムの腹部に捩じ込まれたのは、逸らすと同時に引き絞られたハヤトの右腕、その拳に装着された金属ナックル。身体能力の強化に伴って破壊力を増したそれが肉を抉り取る。

 

至近での撲殺に血飛沫がばらまかれ、頭からその鮮血を浴びた。生まれて初めて出来事に心が揺れないわけがないが、彼はそれを振り切る勢いで全身に力を込める。

 

そのまま腕を力一杯振り抜く。横の力に抵抗できない獣の体は衝撃部から全身に波紋するような打撃になす術なくその方向へと吹き飛ばされ、

 

 

「ドーナ!」

 

 

 

その声を耳にしたとき、もう決着は着いていた。

 

 

 

 

 






どうでしたか? 繰り返し表現とか、しつこくないですか?

自分以外の人に戦闘描写を読んでもらうのは初めてなので、読み難く思われてないか心配ですが。次回もこんな感じでいきます。
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