親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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ほぼ戦闘のみのお話。動きの一つ一つを描写できるのは文字で表す小説の良いところですよね。私がそれを可能としているかは別ですが。




魔獣の巣窟

 

 

 

「フーラ!!」

 

 

背中に感じる勇ましい声に刺激されるテンが声を上げる。左腕を振り払う勢いで上からのしかかるようにして飛びかかってくるウルガルムへと風刃を放ち。結果として、宙という身動きの取れない空間に身を晒すそれを一刀両断。

 

その結果を見届けないまま正面から迫る二匹のウルガルムへと再び風刃を放った。

 

風を切るような音が連鎖し、こちらへと向かってくる獣達をバラバラにする切れ味を誇るそれが空中をひた走る。当たれば確実に息の根を止められるであろう不可視の刃。

 

 それを、

 

 

「ーーーっ。避けた」

 

 

本能の成せる技か、あるいは意図的にか。二匹のウルガルムはテンが放った風刃を横に跳ね飛ぶことで回避していた。

 

動揺する暇もなく反撃として牙と爪が左右から迫る。右は右腕の爪で切り裂こうと、左は牙で噛みつこうと。なら、前方への回避を選択すれば避けれる。

 

軽い跳躍で挟み討ちの状況から抜け出すテンの行動は早い。刀の柄を両手に握りしめる彼は再びフーラを詠唱。今度は正面からではなく上から打ち下ろすように。

 

 

「ーーーしっ!!」

 

 

直後、自身の体を前へと押し出す。姿勢を低く構えた体制のままに彼はウルガルムへと肉体を躍り出させた。ウルガルムの赤い眼光がギロリと睨むが竜に比べたら可愛いものだと恐怖を振り切る。

 

特攻するテンに対するウルガルムの攻撃は単純。同じように特攻。そもそも、近づかなければ噛み付くことも引き裂くこともできない。

 

一匹と一人が接触するのには、そう時間はかからなかった。元から距離の縮まった中で駆け出せば数秒も掛からず牙と刃は交差する。

 

 

「らぁ!!」

 

 

気合一閃。後ろ足を蹴り上げて跳躍してきたウルガルムが薙ぐ右腕を回避したテンが反撃でその部位を切り落とす。冷静になって見れば避けれない攻撃ではない、見える攻撃だ。冷静になれる状況ならの話だが。

 

流れるように両腕を鞭のようにしならせて近づく首へと刀を斬り上る。下半身に力を込めて重心がブレないように、刀に体が持っていかれないように。

 

 

「うらぁ!!」

 

 

テンが自分の手で作り出した隙、それを自分のものにした彼が斬り上げた刀は見事な勢いでその首を貫通、斬り飛ばす。二週間の努力の成果が一匹の獣にたった今発揮された。

 

ボトリと落ちた首の断面からは内臓と血がぶち撒けられるショッキングな光景が展開され。嘔吐感に苛まれるがなんとか飲み込む。こればかりは慣れるしかない。

 

 と、

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

安堵したのも束の間。二匹のうちのもう一匹が相方が一瞬のうちにして殺された怒りを牙に乗せて吠え散らかし、テンの背中へと飛び掛かる。

 

挟み討ちを回避された直後からもう一匹は彼の背中から奇襲を仕掛けるべく彼の背後を取っていた。だから、テンが特攻した時には一匹しか姿が見えなかった。

 

ガラ空きになった背中へと飛び掛かるウルガルム。一匹を殺したと油断しているその無防備な背中をぐちゃぐちゃにしてやろうとそれは手を伸ばし、

 

 

「ーー良かった」

 

 

その背中に手が届く寸前。呻き声すら上げる間も無く一瞬で命を狩り取られる。何もなかったはずの場所でそれは身体を五枚おろしにされていた。

 

何が起こったのか。真上から降ってきた五枚の風刃によってバラバラになっただけのこと。

 

茂みに隠れているところや、挟み討ちにしてくることから少なくとも知能はあると踏んだテン。彼は自分の背後、その真上に風刃を滞空させ。わざと背後を取られるように動いた。

 

二匹いたうちの一匹が消えていたことは気づいていたから。あとは、向こうから罠に入ってきてくれるのを待つだけ。結果として仕留められた。

 

戦いの余韻が残る中、数秒間は追撃はないかと辺りを警戒していたテンだが。それもないかと姿勢を緩ませる。

 

 

「……ほぅ。なんとかなった」

 

 

時間にして一分にも満たない戦闘。肉体的にも精神的にも、そこまで疲労しているわけでもないことに今度こそ安心するテンは安堵の息を吐いた。

 

初めての割には動けた方だ。魔法の精度も悪くはない。頭の中は常に冷静になれてる。あの何が何だか分からない中で竜と戦ったことが意外にも精神的な安定剤として役立った。

 

あれを越す魔獣なんてこの森に生息しているはずもない。それと比べればウルガルムなんて子犬同然、だいぶ可愛く見える。

 

 ーーありがとう竜。二度と出てくんな竜。

 

 

「お前も終わったかよ」

 

 

戦闘を終えたハヤトが肩を回しながら近づいてきた。右手につけたナックルが若干血に染まっているあたり、拳でぶん殴ったことを察したテン。

 

魔獣を殴る。今の自分には考えられない戦闘をなんの躊躇もなく選択するのもさることながら、それで戦えるのがハヤトの凄いところ。

 

まさか故郷で培った空手がこんな場所で活かせるとは本人も考えていなかったことだろう。

 

 

「うん、終わったよ。なんとかなった」

 

「俺の方はヨユーだぜ。この調子で行けば中間試験何で楽勝だな」

 

「すぐ調子に乗る。ここでそれやったら死ぬよ」

 

 

刀を振って血切りするテンはハヤトの額をデコピン。痛がる彼を横目に魔鉱石を頼りに走り始め、ハヤトもテンを追いかけるために駆け出す。

 

隣に並んだかと思えばデコピンに対しての小言を言ってくるハヤトにテンはため息。その自信満々な態度にはいつも救われてるが、今のように命を賭けている場合は掬われるのだ。

 

 

「あんな、ハヤト。お前のその自信満々な性格はいいと思うけどね。でも、本当に危険なんだよ?相手が命を狙ってきてるときにそんな様子だったら絶対に足を掬われる」

 

「お前がいるからその心配はねぇよ。今みたいに俺が油断してる時でもお前はそうやって俺のブレーキになってくれるしよ。安心して慢心できる」

 

「他力本願な思考はやめましょう。自分のことくらい自分でなんとかしろ」

 

 

茂みを掻き分けるテンが作った道を更にハヤトが切り開く。こうして話している間でも駆ける足は一秒たりとも止めることはない。少しでも早く森を抜けることが今の目標、それにまたウルガルムに襲われれば面倒なことになる。

 

尤も、そう思っているのはテンだけで。ハヤトは「かかってこい!」の姿勢。弱気でないだけマシだと思うべきかどうなのか。

 

そのハヤトはテンが自分のことを止めてくれるから安心して慢心できると言い切った。安心して慢心するとは、いったい何なのか。

 

 

「あ、そうそう。火の魔法は使わないようにね」

「なんでだ?」

「森が火事になるよ」

 

 

周りを見渡すテンがそう言って首を傾げると手の平に乗る大きさの火球を現出。近くにあった小枝を拾い上げると、それに着火。あっという間にその小枝は塵となった。

 

その様子に肝を冷やすハヤト。彼の言うとうり、この自然の多い中で火球でもぶっ放せばあたり一面焼け野原。面積の大きい魔獣の森が一瞬にして火事になり。

 

そうなった場合、道標でしか出口が分からない二人は煙の中でそれを見失い。最後には二酸化炭素中毒でじわじわと死んでいく。

 

 

「……気をつけるわ」

 

「そうしてくれ。お前ならやりかねない」

 

 

ついさっきの戦闘でドーナとアクラだけを使っていて幸運だったとハヤトは思う。ゴーアを使わなかったのは本当に偶然、意識がそっちに向いていれば彼はなんの躊躇もなく火球を放っていた。

 

 ーーゴーア、だめ、ぜったい。

 

そう心の中で呟くハヤトは自分の口がその言葉を叫ばないように固く誓った。

 

 と、

 

 

「伏せろ!」

 

 

テンの背後で茂みが動いたと同時にハヤトが叫ぶ。彼がその声に反射的に膝を折ってしゃがみ込めば、頭上で肉を断ち切る不愉快な音が立ち、黒い血がぶちまけられた。

 

落下してきたのは首と胴体が分断されたウルガルムの死体。それの残骸を全身に浴びたテンは腹の底から迫り上がってる不快感に本気で吐き気を催した。が、不意にハヤトの足の間から見えたもう一匹の獣に反応した彼は右手に携えた刀を刺突。

 

股抜きの要領でハヤトの股から突き出てきた刀。視覚外からのそれにはウルガルムも反応できずに顔面を貫かれ、それに気づいたハヤトが続けて叩きつけた大剣で仕留めた。

 

 

「わりっ」

「こちらこそ」

 

 

軽く言葉を交わし、背中を合わせる二人。彼らを取り囲むのは、赤い双眸。視線をぐるりと一周させれば、それが数え切れないほど茂みの中から覗かせているのが見える。

 

 

「囲まれてるね」

 

「そうだな。だが、やってやるよ」

 

 

行動が速すぎる魔獣に睨みを効かせるハヤトの背中でテンが頭を回す。

 

ついさっき戦闘したばかりにも関わらずもう次の集団が来てるとなると。この先も戦い続けながら移動する羽目になるか。

 

臭いか、或いは音か。犬型だから鼻や耳も人間の何倍も効きやすいと考えるならば動きが早いのにも納得がいく。先の戦闘音を聞きつけ、人間が発する匂いを嗅ぎつけ。

 

 集団で一気に殺しにかかる。

 

統率の取れた奴らだと思う。数の有利を活かして戦う戦法は獲物を殺す上で有効的となり。加えてここは魔獣の巣窟、今ここにいる集団なんてその一カケラに過ぎない。

 

ここで激しく戦闘すれば、その音を聞きつけたのが次から次へと湧いてくるわんこそば状態となるはず。

 

 

「……地獄かよ」

 

 

不意に、口角が釣り上がる。自分達が放り込まれた場所が地獄と分かった瞬間、唇が三日月のように歪み、自然と表情に笑みを刻ませている。

 

人間、危機的状況になると笑うことが多いとは映画やアニメで観てきたが。まさか自分自身がそれを実演することになるとは。ハヤトも同じようで、殺る気満々の彼は迸る闘気を溢れさせて口角を釣り上げている。

 

 ーー激戦になる。

 

そう察したテンは不意に大きく息を吸うと。ハヤトの体を地面に叩きつけんばかりに押さえつけ、

 

 

「アル・フーラぁ!!」

 

 

直後。暴風が吹き荒れ、詠唱に呼応した風のマナが取り囲む魔獣へと殺到した。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

今まで最上位の魔法を使用してこなかったテンが初解禁するアル・フーラ。それが解き放たれた力とばかりに暴れ回るのをハヤトは地面に伏せながら感じていた。

 

初めは何事かと思った。しかし、無意味な行動をテンがするはずないと彼は準ずるように身をかがめ。その次に魔法の効果範囲から自分が外れていることに気がつく。

 

もしかして、フレンドリーファイアを懸念して自分のことを庇ってくれたのかと。ゲームの世界でなら「てめぇ、なにすんだよ!」で済ませるが、こっちの場合その程度で済ませられる訳もない。

 

テンを中心として円状に展開された不可視の刃。次第にそれは、支配する領域を押し出すように広げていき、二人を取り囲んでいた魔獣をその辺の木々もろとも吹き飛ばしていく。

 

辺り一面が真っ赤に染まり、聞こえてくるのは魔獣達の断末魔。

 

全身を訳も分からず切り裂かれる事実にそれらはただ声を上げることしかできない。厚い毛皮を貫き、皮膚を切り裂き、肉を抉られ、骨の髄まで不可視の刃の侵入を許した。

 

その暴風が約十秒間も暴れ回れば、その跡地には辛うじてそこに木があったと分かるぐらいの切り株しか残っておらず。

 

 

「少し、やりすぎたかな……」

 

「やりすぎだわ!? お前、この後のことちゃんと考えねぇだろ!? そういう脳筋プレイは俺だけで十分なんだよ!?」

 

 

視界良好。

 

薄暗かった森があっという間に太陽の光がギラギラと照らす見事な空間となった。テンを中心に直径二十メートル程度それが広がれば、もはや小さな広場とも捉えられる。

 

驚きの感情に身を任せて叫ぶハヤトが辺りを見渡す。幸いなことに魔鉱石が括り付けられた木は無事だから道に迷うことはないだろうが、流石にやりすぎだろう。

 

いくら囲まれた状況だったとはいえど、あそこまで大胆にやる必要はなかったはずだ。

 

おかげでテンが一瞬にしてフラフラのヨレヨレに。ハヤトの肩に全体重を寄りかからせる彼からは喘息を思わせる呼吸音が苦鳴として聞こえてきた。

 

テンにしては珍しい脳筋プレイ。色々と言いたいことができたハヤトだが。しかしそんな彼に、額から滝のように流れる汗を脱ぐテンは乱れた呼吸とチカチカする目眩を整えると、

 

 

「次、来るよ」

 

「えっ?」

 

 

刀を構えるテンが神経を逆撫でするような獣特有の唸り声に身を固めて睨みを効かせる。聞こえたのはハヤトも同じらしく、テンに背中を合わせる彼も大剣を構えた。

 

視線の先に見えるのは森の闇に紛れた赤い眼光。先程よりも数を増してそれらが二人を睨んでいた。太陽の光にギリギリ照らされない闇と光の境界線に身を置き、二人のことを取り囲んでいる。

 

巣穴から出てくる蟻のように次から次へと湧いてくるウルガルムに苛つくハヤトが舌打ち。

 

 

「完全に囲まれてるな。流石に二人でこの数を捌き切れるか?」

 

「さぁね。でも、あの暗闇で戦うよりは何倍もマシだと思うけど」

 

「お前、まさかこれを想定してあんな大規模な魔法をブッ放したのかよ?」

 

 

感心するような声を背中越しに向けるハヤト。彼に頷くテンは視線を正面のウルガルムへと向けたまま背中越しに言葉を返した。

 

 

「二回目の襲撃のスパンが短かかったから何かしらの方法で位置を特定してると思うし。それがあの集団で止むとも思いずらい。多少は知能もあるらしいから奇襲をされないように開けた土地で戦った方がいいかと思ってさ」

 

 

姿勢を低く構えるテンが握りしめた刀の柄を再度握りしめる。手の甲に血管が浮き出る程の力で握られたそれは本人の気合の入り方を雄弁に語っていた。

 

たった二度の襲撃でそこまで考えられるテンには関心と感謝しかないハヤト、言われてみて彼も納得する。

 

思い出せば、初めに戦ったウルガルムは左右から挟むような攻撃を展開してきた。その後も明らかにハヤトの懐に入るような動きをとっていた。

 

それ以前に茂みに隠れて奇襲してくる時点で知能は持ち合わせていると推測できる。

 

なら、あの大群に囲まれた中でテンが切り開く前の暗闇で戦っていたら? そう考えると嫌な予感しかしないから考えないことにした。

 

それに、あまり話している時間もなさそうだ。

 

二人が見据えるは赤い光点が二人めがけて全方位から一斉に飛びかかってくる悲劇的な光景。

 

太陽の光に晒された体が次第に輪郭を結び、漆黒を身にまとう猛獣が牙をむき出して襲いかかってきているのだと見てとれる。

 

少なく見積もっても二十匹は余裕で越すであろう大群を前に。しかし二人は凶暴そうに「ニシっ」と笑った。

 

胸に抱く感情は恐怖でも、まして絶望でもない。今二人が胸の中に抱く感情。

 

 それはーー、

 

 

「生きるよ」

「死ぬなよ」

 

 

 

生きて帰る。ただ、それだけだ。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

その戦いを敢えて言い表すならば『数』対『個』だった。

 

『数』は、二十を超えるウルガルムの群れ。大量の足音を鳴り響かせながら牙を剥いて迫り来る光景は中々に背筋を凍られるもの。

 

これが、ただ前に突っ込んでくるだけの本能的な魔獣ならば良かった。しかし、相手は割と狡猾。挟み討ちや奇襲などの理性的な戦い方を展開してくる厄介な相手だ。

 

対するのは、『個』であるテンとハヤトの二人。大群を一箇所に集中させないためにわざとバラけて個々に戦闘を展開していた。

 

魔獣よりも理性的に頭を働かせる二人の立ち回りは明らかにそれを上回り。『数』の不利に立たされながらも必死に抵抗する姿は勇敢とも言えるが見る人が見れば無謀とも言える。

 

 

「数が、多いなぁ!」

 

 

二手に分かれたのは失敗だったかもしれないと今更後悔するテンが後方から飛びついてきたのを振り向きざまに切り裂き、致命傷を負わせた途端に真横へと身を投げる。

 遅い。

 

懐に入った太い前足の爪に脇腹を抉られる。服が破けてしまった、気にしてる時間もない。傷跡から流れる血とそこからじわじわと感じる痛みが死を思わせるが、彼は足と思考だけは決して止めない。

 

ふとした瞬間に視界がぐらつく。頭から沈み込みそうになる倦怠感に動きが鈍り、背中に爪痕が四本刻まれた。衣服に走る爪痕が被害の度合いを語り、それがテンの生存本能を煽り立てる。

 

 

「うご、けよぉ!」

 

 

倦怠感を断ち切るために声を大にして叫ぶ。挫けそうになる魂に呼びかけ、奮い立たせる。

 

先程の魔法の余波がまだ体の中に残っているのか、歯を食いしばらなければきっと倒れてしまう。燃費の良いゲートを制御なしで爆発させた当然の因果だが、どうせなら健全な状態であってほしかった。

 

中途半端な補正。ゲートの質が良く、常人よりもマナの貯蔵量が高いとはなんなのか。たった一発の最上級魔法を放っただけでこの有様。マナの枯渇が倦怠感としてそのまま傷を抉っている。

 

どうせならこの大群を秒で蹴散らせるようなチートが欲しかったと思う。腕を一振りしたら全方位が爆発するとか、ないものねだりだ。

 

主人公補正? 現実を舐めてるのか。

お気楽余裕で勝ち組? 冗談じゃない。

俺TUEEE? なにそれ。

 

そんな甘い架空はもう捨てた。全属性が簡単に使えるとか、簡単に生き物を殺せるとか、実は超強いスキルを持ってたとか。縋るだけ無駄だ。

 

今の自分にやれることを精一杯やる。培ってきたことを全て尽くし、今を生きることだけに思考を回せ、それがこの世界で許された力のみを扱う人間が選択できる戦う手段。

 

視線を巡らせる。前後左右三百六十度、視界に映る全てに対応できるように。

 

 

「くーーーッ!!」

 

 

右から飛び掛かる一匹を受け流し、左から大口を開けて噛み付く一匹の顔面に氷柱をねじ込み、懐に入られた正面の一匹に反射的に踵を蹴り上げて後退すれば、後方からの衝撃に前に押し出されて体制を崩した途端、四方から複数匹が飛びかかる。

 

 ーーヤバい、死ぬ。

 

たった一度の連携攻撃でこの被害。圧倒的に相手の方が数で勝っている分、手数でそれを上回らないと状況を打破することができない。歯を食いしばって痛みを堪えるのにもいずれは限界がくる。

 

なら、一撃で一気に数を減らすだけーー!

 

 

「舐めるなよ……!」

 

 

 想像する。

 

刀を薙ぎ払うと同時にそこから波紋するように伸びる不可視の刃を。刀の延長線上に、それを一気に伸ばすようなイメージで。魔法は想像力がその核を担うなら、それさえ確立できればきっと世界は応えてくれる。

 

グッと刀を握りしめ、この一撃に四方を取り囲む奴らを蹴散らせる力を宿らせる。初めての事だからやれるか不安だが。

 

 

 ーー絶対に、無事に帰ってきてください!

 

 

やれるか。ではなく、やる。やってみせる。

 

 

「エル・フーラぁ!!」

 

 

取り囲む複数のウルガルムの狂気がテンの体をズタズタにする直前。柄にもなく吠え猛る彼の体が地を蹴り上げて勢いよく横に一回転、足を滑らせてぐるりと回転切りを繰り出した。

 

その瞬間。詠唱によって現出した不可視の刃が刀に重なり、容易にその侵入を許した魔獣達が彼の周囲で次々と赤い華を咲かせ、その命を散らしていく。太く硬い材質の原木ですら容易に断ち切れる切れ味を宿した風刃は視界を赤に染め上げた。

 

しかし、当然ながら刀を携える右肩の稼働範囲を超えた斬撃を繰り出せる訳もなく、全てに刃を届かせられたわけではない。未完成な回転切りだ。

 

故に、その反撃として視界いっぱいに広がる血のカーテンを突き抜けた一つの爪に対応し切れない彼は、腹部に鋭利な爪が突き刺さった。

 

 

「るぁぁーーッ!」

 

 

皮膚を破られ、肉を貫通する激痛に表情を歪めるテンが歯を食いしばり、突き刺さる爪めがけて右腕を力一杯振り下ろした。これ以上爪を進行させれば中身に影響が出ると感覚的に察知した彼の行動は何よりも速い。

 

叩っ斬られた腕が宙をくるくると舞う中、飛び散る血に紛れて奇襲してきた一匹が視界に飛び込み、反射的に半身を逸らしたテンが側面を取った。

 

腹部に感じる灼熱の痛みに追い込まれながらも、そのチャンスは絶対に逃さんばかりに目をかっ開く彼の手の中で柄が回る。逆手に持ち替えられたそれを真上に振るい、快音とともに胴体から一刀両断。

 

 

「止まるな、止まるな止まるな!!」

 

 

己の心に命じるように叫ぶ。そこに普段のような気怠さはない、今を生きることに全力を注ぐ生気あふれた人間がそこにはいた。

 

一秒でも足を止めれば、一斉に飛びかかられてぐちゃぐちゃにされて壮絶な最期を迎えることになる。腹部から既に出血が始まってるが、爪が深く切り込まれる前に腕を切断したから傷は浅い。

 

とは言えども放って置けるものではない。

 

鋭い眼光が目まぐるしく動き一瞬で周囲を把握。首を回して全方位を確認。まだ数は多く、囲まれている。たった数匹相手にするのだけでも割とキツキツなのに、これでは殺されるのも時間の問題か。

 

 ーーやれるのか、自分に。

 

 

「考えるな! 生きるんだろ!」

 

 

負の方向に考えが行こうとしたテンが頭をブンブン振ってその自分を振り払う。弱気になっている場合ではない、今は生きることだけに頭を回すとき。

 

下らない弱音など刹那で振り払え、そんな自分なんか今は必要ない。それに言い方は違えど少女三人から「生きて帰ってこい」と言われたのだから。

 

それに全力で応えるのが、

 

 

「今の俺がやるべきことだろ!!」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

少し遠くでテンが善戦している中。ハヤトもまたウルガルムに囲まれながらも、猛き炎の如く己の心を燃やしていた。

 

両手に携えた身の丈程のリーチを誇る大剣を一振りすれば、正面から飛び掛かる二匹の顔面が吹き飛び。

 

長いものには間合いを詰める賢い動きをするのがいれば、本職である拳と剛脚がそれらの体を暴力で捩じ伏せ。怯んで距離を取れば真下から岩の棘が突き出てくる。

 

近づけば大剣の圧力で殺され、懐に入れば暴力が振るわれ、距離を取れば魔法がくる。自分のペースに確実に持ち込みつつあるハヤトは、囲まれ、傷つきながらも勇ましく戦い続ける。

 

身体中に漲る力を武器に変えるハヤト。アクラを詠唱した彼からは淡い覇気が漏れ出し、その時から彼の身体は通常よりも遥かに動けることを許していた。

 

その圧倒的な暴力に魔法の力を重ねた彼の一撃は数で襲いかかってくる敵に対して有効的に立ち回ることを可能としていた。

 

 

「かかってこいよ、犬どもがァ!!」

 

 

赤い双眼に睨まれてもハヤトは絶対に怯まない。逆に、それ以上に威圧する勢いで彼は吠え猛る。高々この程度の数なんて事ないと挑発的に剣呑な光を瞳に宿す彼は全身に力を込めた。

 

その敵意を向けられる魔獣たちの心中は穏やかではないらしい。吠える獣達が数の暴力を見せつけるように中心にいるハヤトへと突貫、対するハヤトも感情に押し出されるがままに走り出す。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

そのまま群れに突っ込むハヤトは己の体をしならせて大剣を叩きつける。叩きつけた地面に軽く亀裂を入れるそれをモロに受ければ魔獣の皮膚など簡単に切り裂けた。斬撃というよりも、打撃に近い。

 

振り返るがままに薙ぎ払う。ただ、それがそこにいるという本能のままに体を動かした。振り返る彼の視界に映るのは三匹の魔獣、それの腹部が自身の大剣によって掻っ捌かれていた。

 

けどまだ足りない、あともう一歩。

 

 

「お、らァァ!!」

 

 

大口を開け、準じて大声を上げるハヤトが足を滑らせて中途半端に振られた大剣を確実に振り切る。途上にあった三匹はそれによって絶命、血と内臓をぶちまけて無惨に転がり落ちた。

 

これで三匹。なら次のをーー、

 

 

「ーーがッ!?」

 

 

不意に訪れる激痛の箇所に目をやる。生まれて初めて刻まれた痛みの根源は左腕、爪に引っ掻かれていた。それも、かなりの勢いで皮膚を抉られている。切り傷なんて言葉で表すなんて生ぬるい。

 

赤い血が飛び散り、それが自分の体に流れる液体だと理解するのに時間は掛からなかった。今まで感じたこともないような皮膚を抉られる痛みに思わず身を歪めそうになるハヤト。

 

しかし、彼はそれを気合一つで堪える。

 

 

「ぬ、ぉぉぉ!!!」

 

 

引っ掻かれた左腕、その拳を握りしめるハヤトが傷をつけたウルガルムの脳天目掛けて思いっきり叩きつける。引っ掻かれてから数秒も経たぬうちに反撃に出た、痛みを堪えた気合いの抵抗に反応できないそれは物理的な重さで体が沈み込む。

 

流れるようにその拳ーーナックルの装備された部分を渾身の力を込めて殴りつければ、頭蓋骨の割れる不快な音とともに頭が弾け飛ぶ。

 

 

「っは。まだだ、動け!」

 

 

上がりそうになる呼吸を必死に抑えるハヤトが、太陽の光を遮って覆い被さる複数の影を見てその場から大きく飛び退く。

 

危なかったと戦慄。あと少し反応が遅れていれば牙で背中が穴だらけになっていた場面に肝を冷やした。けど、そこで止まってはおしまいだ。

 

 

「動けェェ!!」

 

 

地を蹴り上げ、前方に跳躍。たったそれだけで跳び掛かったウルガルム達との間合いに入ったハヤトがその中の一匹に大剣を振り下ろした。まるで小枝のように振われるそれは刃の領域に入る存在の命を決して許さない。

 

縦に真っ二つ、息の根を止めた肉体を目眩しに向かってきた別の個体に蹴り飛ばす。痛みを振り切り、疲労を無視して畳み掛ける彼の動きに迷いはない。

 

血のカーテンを切り裂き、途上にいた一匹の前足を斬り飛ばす。機動力は奪ったとばかりにそれを見限ると、その次は真反対から飛び掛かる一匹に対して身を屈め、アッパーカットの要領で腹をぶん殴る。

 

重い、かなり重い。この腕を振り上げることができるか否か、拳を打ち付けた瞬間にハヤトの理性は理解した。が、理解したからなんなのか、それができない理由には繋がらないと本能が猛る。

 

 

「ふるぅぅ、らァ!」

 

 

気合の声を張り上げるハヤト。途端、ゲートが火を噴いてマナを解放し、彼に纏われた黄金色の覇気が爆発する。中でも拳に収束するそれは瞬間的に彼の怪力に力を貸した。

 

振り上げ、決して軽くない大型犬が中空を舞う。追い討ちに飛びてきた岩の柱に串刺しに。結果を見届けぬまま次の獲物へと視線を巡らせるハヤトの背中に鋭い熱が走った。

 

 

「らぁぁ!!」

 

 

停滞は一瞬。その次には動き出す彼の戦闘速度に追いつけなかった一匹が大剣を握る拳のナックルに鼻頭を貫通して顔面を砕かれる。傷つけられたはずの彼はそれを力に変えて激しく吠え猛った。

 

次、唸り声を上げて四本足を回転させる五匹が正面から走ってきていた。作り出される死体を見てハヤトのことを強敵とみなしたらしい、数の有利で確実に潰しに来ている。

 

対するハヤトに怯みはない。返り血を浴びながらも彼は己に宿る魂に猛き炎を注ぎ続け、同じく真正面から挑みにかかる。

 

 

「ウル・ドーナ!!」

 

 

ドン、と地面を踏みしめる。足元から地面を伝うのは彼によって放出された大量のマナ。それが地を這う蛇のように何も知らないウルガルムの足元へと一直線に伸び進む。

 

基本、ドーナ系統の魔法は地形の隆起に影響するものが多く。正面の敵に牙を剥いてくる相手ならば不意打ちにはもってこい。故に、ハヤトもそれを有効活用した。

 

現れるのはウルガルム程度の魔獣ならば容易に串刺しにできる岩の柱。それも、先端が鋭利に尖るオプション付き。トラップを踏んだかのように足元から生えてきたそれに三匹、絶命した。

 

どうやら運のいいのも居たらしい。残りの二匹がそれを避けていた。後方で走っていたのが吉となり、前三匹が貫かれるのに反応して左右に散開している。

 

 

「上等!!」

 

 

避けられた事実を惜しむ暇もなく駆け出すハヤトが一匹のウルガルムに向けて突っ走る。挟み討ちにされるなら、片割れを早めに仕留めれば問題はない。

 

そろそろ疲労してきた頃合いか、呼吸も上がってきたが、しかし足を止めることだけはしない。止めたらきっと動けなくなる。それに、テンも戦っているのだから自分も負けるわけにはいかない。

 

 それに、

 

 

 ーーじゃ、せいぜい頑張るかしら。

 

 

「んなこと言われて、死ねるかーーッ!」

 

 

ツンデレが。あの、人のことを見下すような態度をしたツンデレ以外の何者でもないベアトリスが。自分に頑張れと言ってくれた。たったこれだけの事実でハヤトはなんでもできる。

 

何度も見た飛びかかり、後ろ足を蹴り上げて前足で切り裂く。それを前にハヤトの行動は単純なものだった。

 

前足で切り裂こうとすれば必然的に脇がガラ空きになる。なら、

 

 

「おぉぉぉーーッ!!」

 

 

身を沈め、広がる脇から懐に入り込むハヤトが乱れのない動きで大剣を袈裟斬りで斬り上げた。斜めに一刀両断、今まで一番に入る美しい切れ目を見せながらウルガルムは絶命。

 

血と内臓の雨を浴びる不快感を視界の端っこに追いやるハヤトは休む暇もなく後ろからくる一匹。それへと意識を向ける。既に眼前にまで迫るそれに息を止める彼は、拳を振おうと握りしめた。

 

 が、

 

 

「んんッーー!」

 

 

真横から飛び込んできたテンが刀を叩きつけて始末したことでその拳が振られることはなかった。

 

突然視界に映り込んできた彼に驚くハヤトだが、彼に背中を向けられたことで準ずるように背中を合わせる。

 

途端、二人を取り囲むウルガルムの群れ。その統率の取れた軍隊のような動きにテンは「ふっ」と上がる息をこぼすと、

 

 

「やばい、数が減らない。しぬ、まじでしぬ。冗談抜きで死ぬ。主人公(チート)助けてください」

 

「軽口が叩けんならまだ大丈夫そうだな」

 

 

お互いに姿を確認した感じ、今の戦闘でかなり傷ついていることが分かった。

 

かすり傷があるのは二人の共通。加えて腹部に爪を刺されたテンと、左腕を軽く抉られたハヤト。そこからの出血が無視できるものではないことに顔を青くする二人は既に血に染まりつつある。

 

 

「確実に数は減ってきてる。戦えないわけじゃないけど、このまま殺り合ってもいずれは数の暴力で押し込まれる」

 

「なら、どうするよ」

 

 

視界を覆うウルガルムの群れに舌打ちするテンが何かないかと思考をめぐらし、使えるものは無いかと瞳を右往左往。警戒するハヤトはそれらを睨むばかりで。

 

現在のウルガルムは包囲網を張るだけに留まり、二人の出方をうかがうように身を低くしている。飛びかかりの予兆はあるものの、動きはない。

 

二人のことを驚異的な存在と判断したか。最初のような無鉄砲な特攻を仕掛けてくる動きは一切見られない。実力の差を理解する知能はあるらしい、今はそれに感謝するばかりだ。

 

しかし、その膠着状態が解けるのも時間の問題。一刻も早く打開策を練り、状況の打破を図らなければかなりの確率で二人は魔獣の餌となる。

 

死へのカウントダウン。死神の鎌が首元に当てられていると錯覚し、ジリジリと身を焦がされる感覚にハヤトが息を呑む。テンが何か良い方法を思いつくのを願うばかりだが。

 

 

「ーー見えた」

 

 

不意にそんな言葉をテンが呟く。彼が向ける視線の先には大きな崖があった。登るのも一苦労しそうな断崖絶壁、その上にある森の中。そこに光る赤色の何か。

 

間違えなく道標。

 

見えたのは奇跡。神様の気まぐれに感謝。ご都合主義もたまには仕事をする。できれば竜と遭遇した時に仕事をしてほしかった。

 

 

「アル・フーラ!!」

 

 

そう判断したテンは即断。それしかないと一か八かで賭けることにした彼は最大級の風魔法を一点に集中させて解き放った。さっきのは円状に広がるものだったのが今回は一直線。

 

途端、今度は吐血した。

 

胸の奥から這い上がってくるそれが喉を通って口内を赤く染め、命の雫が吐き出される。最上級を放った代償は大きく、視界に映るそれが「次は無い」とテンに警告していた。

 

めまい、倦怠感、共に無し。代わりとして吐血したことでハヤトの顔色が一気に青ざめ。テンは細めた視線を彼に飛ばして心配を消し飛ばす。場に似合わない笑みを見せる彼はハヤトに笑いかけた。

 

道を切り開くように放たれた不可視の刃による殺戮。効果範囲にいたウルガルムの肉体がぐちゃぐちゃになるのをテンは見届けるとハヤトの手を引いて切り開いた道を全力疾走。

 

血溜まりを蹴り上げる彼は見えた崖を指さすと、

 

 

「ハヤト! あの崖が見える!?」

「見えるぞ!」

「一番上まで登るから、でっかい岩の柱。用意しといて!」

 

 

何を言ってるんだコイツは。と思わないわけでもないが。その言葉の意味をそのまま飲み込むハヤトが「任せとけ!!」と力強く頷く。

 

彼の判断だ。きっと上手くいくと信用する彼は言われたとうりに岩の柱を頭の中で想像し始めた。見上げる高さの崖だ。生半可な物では登り切れるとは思えない。だから、大きく長い物を。

 

二人が駆け出したことで均衡が壊され、背後から大量の足音が追いかけてくる。追いつかれれば殺される、その言葉がポンと出てくる光景がすぐ真後ろにある。

 

 

「エル・ヒューマ!!」

 

 

振り返るテンが浮遊させた氷柱は三十個、自身の腕程度ものを左手を振り払う勢いで一気に乱れ打ち。いつもなら魔法を維持するのためだけに現出されるそれだが、今回は違う。

 

攻撃魔法として認識された氷柱は使用者の呼び声に応えるように、漸く魔法として使用されたことに歓喜するかのようにウルガルムの群れへと突貫した。

 

威力も速度も申し分ない氷柱とウルガルムの群れが衝突する。だが、ウルガルムとて簡単に当たるわけもなく真横へと回避行動を選択。

 

しかし群れの中央にいた数匹が避けきれず一つの氷柱に貫かれて足を止めれば、身体中に氷柱の追撃が突き刺さり。体に氷柱が埋め込まれたまま絶命。

 

量に対して量で挑む力比べの結果は群れと二人の距離が開くことで現れる。回避行動を取るために前に進めていた足を横に進めるのだから、その間に二人は更に速く駆ける。

 

 

「木に当たるなよ!」

「わーってるよ!」

 

 

広場から抜けて森の中へと入った二人。行く手に立ちはだかる木々を避け、枝葉を掻き分けて進む内、体のあちこちに血のにじむ擦過傷が生まれる。それらの痛みを感じるよりも、ただ速く足を駆けさせる。

 

言わずもがな、魔法から生き残ったウルガルムも追いかけてきている。それも、回避行動を取るときに二分した状態のまま二人を挟むように。

 

一定の感覚で並走するそれらは、二人が進路を変えようとすれば足元を削って牽制。まるで追い込み漁をしているような。

 

 

「フーラ、フーラ! ふーらぁ!!」

 

 

確実にこの先の行き止まりーー崖に誘い込んでいると察したテンが荒々しく詠唱。呼応する風刃が左右の群れへと無差別攻撃、肉の弾け飛ぶ音が連鎖して辺りで血飛沫が上がる。

 

近づこうとすれば殺す。そんな意味を含めた不可視の刃を振り回す彼はチラとハヤトを見た。ずっと集中する様子の彼はきっとこの先すぐに使うであろう魔法の準備中。

 

 故に、

 

 

「近づ、くなーーッ!!」

 

 

素早い動きで身を回すテンがハヤトをウルガルムから庇う。右の肩に深々と刺さるのは飛びかかってきた魔獣の牙だ。追い込むのに飽きた一匹の一撃、ざっくりと肩の肉が抉られ、中身に魔の手が届く戦慄に喉が震える。

 

 が、

 

 

「フーラぁ!!」

 

 

左手を振りかざし、その軌道上を不可視の刃がなぞる。噛みつかれたまま首を切り落としたテンはそれを掴んで投げ捨てた。肩口に突き刺さった牙の感触は浅く、気にする必要はない。

 

それよりももっとマナを回す。全身にマナを循環させてマナの回転を早く。ゲートからマナを取り出して魔法として形にするまでの時間をもっと短く。枯渇するそれを最小限にできるように。

 

 

「フーラ! ヒューマ! ひゅ、ヒューマ!」

 

 

まだ足りない。ハヤトを庇いながら自分の身を守り、痺れを切らした魔獣達の攻撃を凌ぐのにはまだマナの回転が遅い。もっと、もっと速く、全身にマナを巡らせて、回転率を上げなければ死ぬ。

 

その時、全身が熱せられるような感覚をテンは覚える。その時から身体がいつもよりも軽くなっていくような錯覚をした。ーーが、気にする暇はないとばかりに彼は魔法と刀を振るい続ける。

 

あと少し、あと少しで森を抜ける。そうすれば、ハヤトがなんとかしてくれる。

 

 

「だからそれまで踏ん張れよーーッ!」

 

 

じわじわと痛む右肩と自分を叱咤するテンが飛び掛かる一匹の喉元に刀を突き刺し、氷柱でトドメを刺す。その直後、闇に紛れて真上から奇襲してきたもう一匹に風刃をぶっ放した。

 

落ちる肉体を横目に血の雨を浴びた直後、次はハヤトの真横に入り込み攻撃を仕掛ける一匹の前足を切り飛ばす。体制を崩して転がり込むのを見限ると、懐に入り込んできたのを蹴り飛ばした。

 

なんの強化もない常人並みの力から繰り出された蹴りは、しかし大型犬程の大きさのウルガルムを大きく蹴り飛ばして木へと叩きつける。

 

土壇場で火事場の馬鹿力が出たか。なんにしても攻撃は凌ぎ切ったとばかりにテンは溜まった息と力を大きく吐き出す。

 

 

「テン、抜けるぞ!」

「頼んだよ!!」

 

 

熾烈な連携を一人で凌ぎ切った彼の目に映るのは見上げる程の崖。森を抜けたことで一気に視界が開けた。

 

落ちたらまず助からないであろう高さの崖を前にハヤトが叫び。期待という名の脅迫をしたテンが彼の背中を叩く。

 

親友にそんな言葉を掛けられれば期待に応えないわけにはいかないハヤトである。

 

彼は先ほどよりも傷ついたテンの身体を担ぐと。滑り込むように立ち止まり、酸素を肺に取り込むと口を大きく開けて、

 

 

「アル・ドーナぁ!!」

 

 

肺の中の酸素を全て吐く勢いでハヤトが大声でマナと世界に呼びかける。地割れでも起こるのではと思わせる踏み込みを起点に発生するのは、彼の声に呼応した世界との共鳴だ。

 

ハヤトの足元から現れたのは巨大な柱。攻撃魔法としてではなく、足場として地面から伸び続けるそれは彼と彼に担がれたテンの身体をぐんぐん上へと押し出していく。

 

ニヤリと舌なめずりをしていたウルガルムの群がそれを前に吠える。自分たちによって獲物二つをこの場所に追い込んだと勝手に思っていたことが仇となりそれを止めることができなかったことを悔いるように。

 

聞こえてくる群れの遠吠え。それらを耳にした二人は先程のウルガルムのようにニヤリと表情を歪ませると。

 

それらを見下ろして笑った。

 

 

 

「「ざまみろ」」

 

 

 

 






書きに書きまくりました。やっぱり戦闘描写を書くときは戦闘BGMを聴くに限りますね。

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