聞こえてくる声に思考を止めるテンが声の方向に視線を送ると、そこにはメイド姿のレムがいた。こちらに歩いてきている彼女。その両手にはトレイが持たれて、その上にはいつものティーセットが置いてあった。
まさか、ここで飲むつもりか。そんなことを思うテンは今までの考えを一旦手前に下げる。それから身体を起こし、
「こんな時間にどうしたの?」
「お茶をするためにお部屋を覗いたらいなかったので、もしかしたらと中庭を見てみたらテン君がいたので」
「レムもここにきました」と、顔を傾けて微笑むレムがそう言いながらテンの隣に座る。トレイはテンの反対側に置き、彼との体の間に何も邪魔するものがない彼女はその距離をほぼゼロ距離に詰めた。
肩と肩が触れる距離、というか触れている距離で彼女はテンの隣を陣取る。どうしてそんなことをするのか、身体が勝手に動いていただけだ。
彼女が突然訪れた事の追撃として、その行動をされたテンは心臓が飛び跳ねた。安定したリズムを刻んでいた鼓動が一度だけ大きく跳ね上がり、しかしそれらを必死に意識外へと追いやる彼は頭を軽く振る。
彼女が距離を詰めてくることなんて最近はよくあることだから。焦る必要はない、その行動に大した意味はないのだから。
「テン君はこんな所で何をしていたんですか?」
慣れ親しんだ動作でティーカップに紅茶を注ぐレムが問いかける。その行動から察するに今夜のお茶は夜空の下で行われるのだろう。いつもはテンの部屋で開かれるそれも、今夜はテンが中庭にいたから場所も移ったと。
静かにお茶の時間が開かれる気配を感じたテンは彼女の問いかけに対して若干の沈黙を貫いていたが、「そうね…」と繋げて、
「少し今日のことを振り返りながら、ここに寝転がって天体観望してた。あとは、変に動くと全身が痛むから何も考えずにぼーっとしてたのもある」
「それはいけませんよ。そんな薄着で夜風に当たられては風邪を引いてしまうかもしれません。今のテン君は魔獣との戦いで疲労しているんですから早くお休みになられたほうがいいんですよ?」
紅茶の入ったティーカップを渡すレムがそう言って見上げる。距離感、身長差諸々が重なって無意識に上目遣いになってしまった形に再び心臓が跳ね上がるテンは、それを受け取るとむず痒そうに視線を夜空へと。
今のは卑怯すぎる。こんな環境でそんな事をされれば男の子として余計な事を考えてしまうのが当然で、それから必死に目を逸らすテンはしばらく空と睨めっこ。
ーーおほしさま、いっぱぁい。
感情を言葉で埋め尽くす。
そんな葛藤を知らないレムはいつも通りに自分の分も紅茶を淹れ、お茶の時間は本格的に開始されることになった。
星々を眺めるテンと、テンを眺めるレム。
「ーーーー」
「ーーーー」
不意に訪れる静寂に両者は言葉が口から出ない。否、テンは心の中の葛藤を鎮めるために意識を集中させているから声は出ず。
レムはといえば。心の奥底から湧き出てくる温かい感情に心を包まれそうになっていた。今こうして彼の横顔を眺めているだけなのに、それだけで彼女はうっとりとしてしまう。
少し前からそうだった。いつもと同じ接し方でいようとするのに。彼を前にすると、どうしても胸の高鳴りが抑えられなくて。近くにいるだけで満足できるのに、もっと先を望む自分が体を勝手に動かしている。
彼と一緒に過ごした一ヶ月半の月日。その中で、自分の中での彼が変わりつつあることが自覚できないほどレムは子どもではないし、この温かさの名前が分からないわけでもない。
でも、まだちゃんと分からない。彼に向ける自分の感情が本当にそうなのか。経験したこともないそれにどうしようもなく心を締め付けられるせいで上手く認識できない。
「……ふぅ」
テンの口からため息が溢れ、疲労感を思わされるそれが静寂の雰囲気を壊したような感覚がしたレム。この時、彼女は場違いな不満感を抱いた。
先程から彼は夜空ばかり見ている。今ここには、彼の隣には自分がいるのに、夜空という景色を見ている。確かに夜空に浮かぶ星々は見ていて飽きることなどないが、今ここには自分がいるのだ。
「テン君、今日は本当にお疲れ様でした」
紅茶で喉を潤したレムが空を眺め続けているテンの意識を自分に向けさせた。声だけだと足りないから服の袖を摘んで軽く引っ張るオプション付きで。
可愛らしい動作を受け、テンも意識をレムに向けざるおえない。葛藤の整理は鋼の自分がなんとかしてくれたからいいが、今のはやはり心臓に悪い。彼女に小動物を彷彿とさせる動作をされて動揺しない男がどこにいるか。
「ん、ありがとう。レムも治癒魔法かけてくれてありがとうね。助かったよ」
「いえ。レムにできることはあれくらいしかありませんでしたから。お役に立てて良かったです」
優しく微笑むレムが嬉しそうに声を弾ませるのを真横にテンもまた小さく笑った。彼女の微笑み方があまりにも魅力的で、それに見惚れそうになる自分を押し付ける彼は紅茶を喉に流し込む。
それと一緒に心の中にある感情を奥底へと流し込んだ。それは良くないと、錆びついた鎖で施錠された牢屋に閉じ込め、目を背ける。
「今夜の紅茶はどうですか?」
「おいしいよ。甘すぎなくて喉に優しい」
そう言って吐息する彼は頬を緩ませると、
「やっぱり。レムの(淹れてくれる紅茶)は(飲みやすくて)好きだ。ずっと飲んでいられる」
ほぅ。と一息つくテンが再び紅茶を飲む。ゆっくりと体を休めている時に、ほんのり甘く温かいそれを喉に流すと、自然と疲れが抜けていくような感じがした。
週一、鍛錬がお休みの日に決まって紅茶を部屋に持ってくるレム。その度に「どうですか?」と聞いてくるから、良し悪しを言うことになり、その結果として彼女の紅茶はテンにとって飲みやすいものになってきているが理由か。
「……レム?」
紅茶の感想を素直に伝えたテンが隣からの反応が返ってこないことに違和感を抱き、彼女の方に視線を向ければ様子がおかしいことに気づく。
テンの口からその言葉が出た途端から、彼女は俯き、指には掴んだ袖にシワができるくらいの力が込められている。顔を背けるように俯いているから表情を伺うこともできず。ただ、耳が少し赤いのが見えた。
「えっと……」
言葉を返してくれないレムを見た時、脳裏に似たような映像が過った。それはいつかのエミリア。彼女も自分の言葉を受けて俯いてしまったことがある。
本当によく似ている。ならば、前と同じ対応をすればいいのか。それとも、姉に教わった方法に背く形で対応するべきなのか。
二つの選択肢の狭間でウロウロするテンがどうしたらいいか分からずにあたふた。沈黙した彼女を前に男としての経験値の低さが浮き彫りになった。
なんとかしようとするも掴まれた袖は依然として離してくれないし、力も抜けてない。何かを堪えているようにも見える。
「……今のは、少しずるいです」
そんな時、いつもより声が甘くなったレムの声がしたと思えばテンの肩に小さな衝撃が伝わった。コツンと、優しく叩かれるような。
否、軽めに頭突きされていた。横に頭を振る要領で彼女の頭がテンの肩にぶつけられた。驚き、顔を覗き込めば、両頬に少し空気を含ませたレムが「むっ」として、もの言いたげな目をしている。
「テン君、今のはどういう意味ですか」
そのままレムはティーカップを小皿に置き、何も分かってないテンに身を回して言い寄る。ただでさえ近かった距離感で寄られれば、それはもはや友人関係、仕事仲間の距離感を通り越した。
足を伸ばしてリラックスの体制だったのが吉と出たか凶と出たか、わざわざ膝の上に移動するレムはテンのことを逃す気配はない。
ーーやばい、近い、近すぎる。しぬ、心がしぬ。
事がいきなりすぎて全く体と心が追いつけないテンは、情けないことに平常心を保つので精一杯。目の前に頬をほのかに紅くしたレムがいる、膝を跨いでいる、頬をふくらませている。それだけで凪だった心は荒波になった。
「あ、えと。ど、どういう意味というのはどういう意味で」
「読んで字の如くです。さっきテン君が言った言葉の意味を教えてください」
そう言われてテンは動かない思考回路を無理やりフル回転させて考える、自分がした発言の何によって彼女がこうなったのか。
発したことと言えば紅茶の感想と(レムが目の前にいる)治癒魔法の件について(レムが目の前にいる)だが、その中に彼女の琴線に触れるような発言が(レムが目の前にいる)あったかどうかは(レムが目の前にいる)は不明。
レムが、目の前に、いる。
「ごめん。本当になんのこと?」
申し訳なさそうに声の調子を落とすテンが精神的に気押されする。原因を考えようとした結果、レムが目の前にいるという事実一つで思考が乱されるせいで自分の中で考えがまとまらない。
鼓動が早い。目の前にいるレムから目が離せない。離したくても、彼女がそうさせてくれない。そうしようとすると意識を引き寄せてくる。
「…そうですか」
何が言いたいのか分からない。そんなことを語るテンにレムは寂しそうに目を伏せた。受け取る言葉に対して俯く彼女は、本当に寂しげで。
無言の悲しみ。それを向けられた途端にテンの背筋に冷たい汗が流れ、やってしまったかとまたしてもあたふた。
感情が紛糾しすぎているせいでテンは先程から態度が行ったり来たり。彼女を前にするとどうしても心が暴れるせいで感情の変化に心が追いつかない。
しかし、そんな彼にレムは「ふふっ」と微笑みを浮かべると、
「ごめんなさい。テン君を見ていたら、少しだけからかってみたくなりました」
「からかうって……」
小悪魔的な笑みを浮かべ、小さく笑うレムにテンは顔を引き攣らせる。やりづらそうな表情を浮かべる彼は彼女の対応に困った。
彼女の言う通りなら、さっきまでのは演技ということになるが、いかんせん完成度が高すぎる。寂しげな目からは哀愁しか漂ってこなかった。
「でも、テン君のせいでもあるんですよ」
「俺のせい?」
「はい。テン君のせいです」
「なんで?」
記憶を探るも、やはりレムがいる事実一つで思考を掻き乱されるテンは原因が分からず。彼は首を傾げることしかできない。
ここまで言っても分からないなら、本当にそうなのだろう。嘘を言っているようにも見えないと感じ取ったレムは、
「内緒ですっ」
そう、言った。
軽快な言葉運びで理由を閉ざすレムが人差し指を唇に当てて、笑みを浮かべる。今までのとは少し違う意味合い、まるで堪えていたものが思わず溢れてしまったかのような笑みだ。
準ずるように声色が高くなったような気がテンにはした。状況に飲まれ過ぎか、そうでなくてもいつもより彼女が近いのは気のせいではないはず。
ーーやばい、これはやばい。
理性と本能の意見が合致した瞬間だった。気のせいが重なるせいで彼女がいつもより魅力的に見えてしまう。仕草、動作、それら一つ一つに変に意識が回るせいで頬がとてつもなく熱い。
錆びついた鎖で施錠した檻の中に閉じ込めた感情が暴れ回る。ここから出せと、檻を壊そうと力強く叩いている音が心から響いている。
「テン君?」
「あ、ごめん。なんでもない」
芽生え始めた感情に心を乱されるテンをレムが呼び、慌てて咳払いしてそれを誤魔化した。音は、ずっと響いてきているけど無視。聞こえていないフリをし続ける。
そうやって目を逸らせば、その感情は行動にも現れた。
「レム、ちょっと近い。離れて」
落ち着いた様子に戻ったテンが正面、自分の膝の上に座るレムの両肩を掴んで引き離した。精神的にも、物理的にもその距離を突き放す。これ以上この距離感を保たれると自分を保てなくなる。
離す時、レムの「あっ…」という声が漏れたが。それも気のせいだ、気のせいだと目を瞑った。そう心に言い聞かせれば気のせいになる。
芽生え始めた感情から離れたテンが取った行動。レムからすれば、自分を避けたと思っても仕方ないこと。現に、彼女は切なそうに目を細めていた。
「ーーーー」
「ーーーー」
言葉が出なくなった二人。自分に十割非があるのを分かっているテンは、その後のフォローの言葉が上手く完成せず。レムは自分がテンに避けられたと解釈して心が沈むような感覚に陥り。
どちらも、またしてもすれちがう。気持ちの入れ替え一つでどうにかなる問題も、それができないから躓いてしまう。
だが、奇しくも周囲の空気が悪くなっていくのは感じ取った二人。何とかして、その空気を元の和やかな空気に直さなければと頭を回した。
回して、回して。最初に口を開いたのはーー、
「ーーテン君。レムとの約束を守ってくれてありがとうございました」
膝を跨いでいたレムが身を回して隣に座り込む。ゼロだった距離は少し離れて、でも、ゼロに等しい距離で。温かさが遠のく感覚に両者ともにやるせない感情を抱いた。
しかし、そのゼロに等しい距離感こそがレムのテンに対する気持ちの表れであった。避けられてると思っても離れたくなくて、近くにいたくて。
紅茶でそれを濁すレムはどうにかそれを脱したらしい。気持ちを切り替えてテンに話しかけていた。便乗するテンも、喉につっかえた言葉を紅茶と一緒に流し込み気持ちを切り替える。
無理やり空気を変えたレムにテンが便乗した形。先程の良くない空気は抜け出せたと思うテンは、藪から棒な彼女の言葉に少し考えるような動作を見せ、
「もしかして、森に行く前の?」
「そうです」
問いかけに頷くレム。しかしテンは苦笑するように息をこぼし「そんな」と繋げて、
「守れてなんてないよ。無事に帰ってきてってのが約束で。あんな形してんのが無事って言えるの?」
「生きてる。生きててくれてる。それだけでレムは満足ですよ。こうして無事にいられているなら、レムはそれでいいんです」
「でも、傷だらけだったんだよ? エミリアとレムがいなかったら危なかった」
「死んでたかもね」と、冗談には聞こえない言葉を付け足すテンが分かりやすいため息をついた。心なしか表情にも影が差しつつある。
そのことを思い出すと、思考の手前に下げていたハヤトよりも劣っている自分が頭の中を陣取るせいで気落ちしてしまうテンだ。
一度思い出せば次々とその感傷は溢れ出てきて。無理やり押し込んでいたものが一度に流れ込んでくる感覚に、ついさっきまでレムのことで精一杯だったはずの心はたった一瞬でそれだけに染まった。
自分自身で思う。感情の移り変わりの激しい人間だと。気持ちの浮き沈みが激しすぎる性格だからいつも大変だ。情緒不安定とも言える。
と、
「いてっ」
気落ちした彼の肩に再び衝撃が走った。さっきのとは威力が違う。意図的にその行為をする者が起こす衝撃であったことに痛みの声をテンは漏らす。
視線を向ければ、視界に映ったのは青髪の頭が肩に頭突きしている光景。先程とは違い、額でしてるところ意図的に行ったのだろうと分かる。
当然、レムだ。彼女がテンの肩一直線で頭突きを繰り出していた。今度は何を言ってしまったのかと思うテンだが、
「生きています」
その言葉を聞いて原因を把握した。テン的には冗談で言ったつもりだったが、レム的には見逃せない部分があったのか彼女は怒るように「むっ」と顔を顰める。
「テン君は生きています」
そのまま押し付けられた額を擦りつける彼女は尚もその言葉を掛ける。悪ふざけで言っていい言葉ではないと彼に自覚させるために。この一日、どれだけその言葉のせいで胸が苦しくなったかを教えるために。
たくさん心配した。仕事だっていつもより手につかなかった。玄関前を通る時は、勝手に視線が扉に引き寄せられて。ふとした時には手が止まって、何もないところを見つめては彼のことを考えた。
今この瞬間にも危険な目に遭ってるかもしれないと思うと、とても怖くなって。テンが死ぬ。言葉を聞くだけでいたたまれなくなる。
「もう二度と、そんなこと言わないでください」
聞きたくないし、そんなことあってほしくない。生きているのに。死んでたかも、だなんて言葉で胸を締め付けないでほしい。彼は生きている、こうして自分の隣にいるのだから。
「……ごめん。もう、言わない」
「そうしてください」
先程よりも哀愁漂うレムに絞り出した謝罪の言葉を一言。テンはそう言って口を閉じた。
なにが彼女の心に触れたのか。理解できないわけではなかった。けど、どうしてそこまで触れたのかが分からない。
エミリアにも心配されたがレム以上でもないし。ラムやパックも。ロズワールやベアトリスなんか心配する気配すらしなかった。彼女だけがこまで気にかけてくれている。
一体、どうしてなのか。というか、頭突きされた場所がやけに痛む。ただでさえ全身が痛んでるところに力が加われば無視できない痛みが走る。
「テン君。治療の続きをしませんか?」
「治療?」
そのことを察したのか。もしくは、偶々なのか。何にしても、今日は藪から棒な言葉が多いなぁ。なんてことを考えるテンが首を傾げる。
治療は屋敷に帰ってきた直後にしてもらったからその必要はないはず。風呂場で確認した感じ、傷も癒やされて傷跡ひとつない完璧な状態にまで癒やされている。
治療されることなんて一つもない。
「傷は治してもらったし…。それ以外って言われると思い当たらないよ。なんの話?」
「テン君の想像している通り、傷の治療のお話です。確かに傷口は塞がりましたけど、お身体はまだ痛むはずです。言ってましたよね? しばらくは痛みと格闘することになると」
「んまぁ、言ったけど。今も少し痛いし。仕方のないことだとは思うけどさ」
「でしたら、レムがその痛みを少しでも和らげるように治癒魔法をかけてもよろしいでしょうか? レムの微弱な力でどれだけできるかは分かりませんが」
言って、「それでもやらないよりずっと楽になるはずです」とテンを上目でうかがうレム。疲れた身であるテンからすれば願ってもない事に興味を惹かれないわけでもない。
けど、テンはレムも疲れているはずだと首を横に振る。屋敷の大部分を一人で補う彼女にかかる負担は相当なものとなっているはずで、それに比例して疲労も体に重くのしかかるだろう。
「いいよ、レムに悪いし。それに、我慢できる痛みだし。これは自分の弱さが招いたことだしさ。レムが無理することなんてないよ」
「無理はしてませんよ。それを言うなら、テン君の方が無理をしています。我慢できる痛みって結局は我慢してるわけですから」
「でもほら、このぐらい我慢できないとこれから先が辛くなると思うんだよね。そうやってレムに甘えてて、いざとなった時にこのぐらいの痛みで辛いとか言ってられないでしょ?」
「ですが今は"いざ"という時ではないと思います。それにテン君は頑張ったんです、少しくらい誰かに甘えても、いいんじゃないですか?」
「本当に平気。それに、レムに悪いよ。俺なんかのためにわざわざ魔法使わなくても」
テンが言い、レムが返す。そんなやりとりが永遠と続く。治癒をゆるりと抜けようとするテンがああ言えば、それを逃すまいとするレムがこう言う。話が平行線となっていた。
テンはレムも疲れてるからする必要はないと主張。レムはテンが我慢してると知ってるから無理するなと主張。自分のことではなく相手を気遣うことが原因で言い合う不思議な光景だ。
尤も、初めからその言い合い、テンに勝ち目などない。テンがそれっぽい理由を並べてきたらレムは必ずこう言う。
「レムがしたいんです」
「ーーーっ」
「レムがテン君にしてあげたいんです。なのに、どうしてテン君はレムに悪いと思うんですか?」
そう言われたテンは言葉が喉でつっかえた。
自分のことを気遣うテンに自分自身が大丈夫だと伝えれば彼はなにも言えなくなる。卑怯な手だとは思う。けど、全くの正論だから間違ってるとも言えない。
だからその先にある、言い返すための言葉が出てこなくなった。口を尖らせるテンは困ったように目を細めると、
「ずるいよ。そんなこと言われて、断れるわけないじゃん。俺だってレムが疲れてるから…」
「レムは大丈夫です。それに、テン君と一緒にいると不思議と疲れも無くなってくる気がするんです。ですからレムのことは心配しないでください」
テンが自分のことを気にかけてくれてる。それ一つで心が空へと浮かんでいくような感覚に包まれるレムはふわりと微笑む。
嘘は言っていない、静かな環境でゆったりとテンと話しているとレムは本当に心が安らいでくる。疲れも取れて、その日はよく眠れるのだ。その感覚を彼にも感じさせてあげたい、その一心でレムは自分を動かしていた。
理由はそれだけではないけど。もう一つは心の中に留めておくことにした。これは自分だけの中で密かに抱く方がずっと温かい。
レムからの純粋な好意を向けられたテンは、少しの間葛藤の表情を顔に彷徨わせていたが。諦めたように息をこぼすと、
「分かった。なら、お願いしようかな」
「はい。お願いされました」
渋々といった具合でテンが提案を受けたことに、レムはホッと胸を撫で下ろすように微笑む。それから彼女は素早く身を回してテンの肩に背後から両手を置いて触れる。
小さく、華奢な指先がうなじをくすぐり、その感触にこそばゆいものを覚えながら、じんわりと熱が広がる感覚にテンは身を委ねた。
しばらくして訪れるのは安らぎ。彼女の両手を起点として青色の光が淡く発した途端、優しい熱が身体の中に流れ込み、循環するように身体の隅々まで行き渡る。
「どうですか、テン君?」
「いい、すごく落ち着いてくる。痛みが取れる感じがするよ」
「それは良かったです。でしたら、このまま続けますね」
後ろでレムが小さく笑う気配がした。釣られるように笑みを溢すテンは流れる温かさに身を委ねるばかりで。
布団に入っているときに感じる温かさでもなく、
湯船に浸かっているときに感じる温かさでもない。
優しく人肌に包まれるような、そんな柔らかな感覚に包まれ始め、軋むように痛んでいた全身が彼女によって和らいでいく。
優しい。その魔法を言葉に表すならそれに限る。エミリアの時とは少し違う優しさ、寄り添われているのは同じなのにレムの場合はどこかそれに心を奪われそうになる。
ふと、
それに身を委ね続けていれば、思い出したくもないことが心を過った。人間はこうした環境に身を置けば様々なことが頭を過り、良くも悪くも思い出すことがある。当然、テンもその中の一人。
一度過れば、それは心の大部分を占めた。
「レム……。俺ってさ、強くなれてるのかな」
突然の問いかけ。声のトーンが一つ下がったテンが背中にいるレムにそんなことを尋ねた。何のことか分からないレムは首を傾げるが、テンは言葉を紡ぐ。
「魔獣の森でさ、ハヤトと一緒に戦ってて思ったんだよ。やっぱり、あいつは俺なんかよりも何倍も凄い奴だって。戦う姿も勇ましくて、あんな重そうな大剣を軽々しく振り回してる。どんな時でも諦めなくて、俺がいなくてもあいつ一人でどうにかなったんじゃないかって思うんだよね」
テンが語る姿はどこか弱々しくレムには見えた。いつものような態度とは違う、今にも泣いてしまいそうな様子。
自分とハヤトのことを比べて意味もなく心が傷ついていくテンはそのせいで言葉がどんどん溢れてくる。一度溢れたら止まらない感情は言葉として口から溢れた。
「対して俺はどうだよ。アイツみたいに機敏に動けたわけでもないし。拳だけで仕留められる力もない。ハヤトがいなければ俺はとっくに死んでた。アイツが隣にいたから戦えた。結局は全部全部全部ハヤトの力なんだよ」
自分の中での事実となったことをつらつらと並べ立てるテンは心が沈んでいく。曲解をしてることに気づかない彼は、自分の力がハヤトの力だと悪い方に錯覚していく。
ハヤトがいたから、ハヤトがいたら。そんな言葉が何より先に浮かぶせいで全部がそれに塗り替えられて、彼の努力は彼自身によって無かったことにされた。
「もっと強くならないと、これじゃ、ハヤトに全然追いつけない。もっともっと努力して。アイツみたいになりたいよ」
俯き、言葉を地面に落とすテン。彼はそう言って喉につっかえていた感情を全部吐き出した。
「ほんっと俺って。劣化版ハヤトって感じがするよね。アイツに追いつける未来なんて想像できないよ……。本当にダメだなぁ、おれ」
震える声で発したテンが、静かに嗚咽を堪える。自分自身を嘲笑うように声を溢し、悔しげに唇を硬く閉じた。
この時、彼の姿を見ていたレムは心が苦しくなるような気持ちになった。自分のことではないのに、自分のことのように感じてしまって。感情の共有でもしているのかと疑う程に、彼の気持ちがレムにはよく分かった。
周りからすれば「何を言っているのか」と言われる発言をテンはひたすらに重ねる。それも彼の努力を知っている人の前で。だから、レムはテンが言っていた言葉の意味が理解できなかった。
当然だ。それが普通なのだから。
ハヤトの劣化版? ふざけているのかと思う。
強くなれてる? 当たり前じゃないかと言おう。
追いつけない? 隣に立ってるではないか。
そんなことを心の中でレムは思う。けれど、口に出すことはしない。彼は本当にそう思って言っているのだから。それを受け止め、心を痛めているのだから。全面否定するようなことは言えない。
「そんなことないと思いますよ」
「ーーーぇ?」
だから、レムは寄り添う形で答えた。
「テンくんは、ちゃんと前に進んでいます。ハヤト君の劣等品なんかではありません。レムはそう思います」
不思議と、自分の影が重なる。その人に。
▲▽▲▽▲▽▲
レムが言い、テンが驚くように肩を跳ねさせる。レムは微笑んでテンのことを見つめ、テンは狼狽えるように声を詰まらせていた。
振り返ろうとするも、その前にレムがテンの両肩に触れた手をわずかに動かし、後ろから包むようにテンの首に触れたことでそれは中断される。
テンからすれば思ってもみない発言。本気で自分が前に進んでいないと思い込んでいる彼は言葉の意味を理解する前に飲み込めなかった。
「どうしてテンくんはそんなことを思うんですか。自分が前に進めてないだなんて。そんなわけないですよ」
「…どうして、そう思うの?」
心のままに声を発するテンにレムは「だって」と言葉を繋ぐ。そこから発せられた言葉はただの事実だった。
「テンくんはあの森から生きて帰ってきたんですよ? まだ戦いも慣れてない中でそれができるということは、強くなっている証拠です」
「でも、ハヤトがいたから」
「ハヤト君、言ってましたよ。自分一人じゃ帰れなかったかもしれない、と。テンくんが隣にいたから自分も頑張ろうと思えた、テンくんが勇ましく戦う姿に心が熱くなった、と」
何の脚色もない事実をレムは語る。彼の中で生まれた誤解を解くために、彼の中の彼を変えさせるために。弱い弱いと蔑む彼自身の意識を悪循環から救い出すために。
テンは再び言葉が出なくなった。ハヤトがそんなことを言っていると聞かされて、自分の心が軽くなるような安心感を得ていたからだ。それに、思い出せば彼は、自分にもそのようなことを言っていたことが分かって。
「ですから、テンくんもちゃんと前に進めていると思います。いえ、進めているとレムは言い切ります」
「ーーーー」
「魔獣と戦い、暗闇を走り、その手に携えた武器と魔法だけであの森の中を生き抜いたテンくんは前に進めていると、レムはテンくんに言い切ります」
言葉を訂正するレムは力強く言い切った。テンがそう思っていたとしても、レムはテンの中のテンを否定する。彼の中にいる、自分のことをゴミのように扱うテンに「そんなことない」と寄り添う。
彼は自分に対して辛辣すぎるのだ。いつもいつも「こんなんじゃだめだ」と言って無理をして、苦しくても我慢して。それではいつか壊れてしまう時が来る。耐えきれないものに押し潰されて、崩れてしまう。
だから、
「テンくんはもっと、自分のことを労ってあげてください。自分の努力を、誰かの力だなんて言葉で否定しないでください」
首に当てていた手をさらに伸ばし、テンを背後から抱くような形になったレムがそう言った。
背中に受ける確かな重みと、それと同等の優しさを向けられたテンは、心の中にあった絡み合った感情が解かれたような安堵感を得る。彼女の言葉一つ一つが胸の奥に染み渡り、曲解していたことが正しく理解される。
そうして、再自覚する。
「……また、悪い癖が出てた」
周期的にくる「あぁ、俺ってダメだな…」の癖が無意識に出てしまっていたらしい。思えば、ハヤトと自分を比べた時点でその癖は音もなく心から顔を出していたのかもしれない。
そうではないことだとしても、自分の中に根付いた『ハヤトの方が凄い』という固定概念のようなもののせいで事実が勝手に書き換えられ。それが原因で今みたいになる。
自覚があるなら対処法はいくらでもあるが、無意識のうちになのが厄介なところ。制御しきれない感情が心をどん底へと押し込んでいくのだ。
つくづく思う。本当に、自分は面倒な性格だと。分かっていることを何度も繰り返しては落ち込み、誰かに助けられる。
前はハヤトに、今度はレム。このままではエミリアにも助けられそうな気がしてきた。そう思う時点で、きっと自分は何も学んでいない。
「情けないな、おれ。こころ、弱いや」
「誰だってそうだと思いますよ。心が強い人なんてこの世界には一人としていません。誰もが、どこかで、心の弱さと戦っているんだとレムは思います」
自身の心の弱さが浮き彫りになったことでテンは自傷するように肩を掻き抱いて縮こまり、穏やかに語るレムが彼の両手を優しく包み込む。
冷たい両手に、温かい両手が添えられて。彼女の温かさが手から心へと波紋するように伝わっていく。身体の痛みも、心の痛みも、彼女によってひとつ残らず溶かされていく。
不思議な感覚がした。今までに感じたこともないような安心感。彼女から発せられた言霊に優しく溶かされるような。言い表すならほっとするというのがきっと合っている。
荒いでいた心は落ち着き、彼は自分の中にある鋭い感情がみるみる消えていく。それはきっとレムのおかげだ。自分なんかのために、迷惑をかけてしまった。
「なんか、ごめーー」
ーーテンが言わなくちゃいけない言葉はごめんなんかじゃない。
その先の言葉を紡ごうとしたテンの頭にエミリアの言葉が過った。数時間前に指摘された自分が直さなくてはいけない部分。
途切れた言葉にレムはなにかと思うが、テンは身を回して彼女と向き合い。「ふっ」と微笑むと、
「ありがとな、レム。レムのおかげで落ち着いた。色々と深く考えすぎてたよ」
「そんな、レムはただーー」
テンくんが心配で。そう言いたかったレムはテンの表情を見て途端に言葉に詰まった。その表情がいつになく真っ直ぐなものだったからだろう。
普段はあまり見せない表情だ。いつもの彼といえば気怠げで、どこか腑抜けた顔をしていて、たまにどこ見てるのか、そして何を考えているのか分からなくなる。
が、今は違った。ただ真っ直ぐに自分のことを見つめている。自分に向ける感情の以外に混濁のない。彼がレムに初めて見せた純粋な表情。
「レムがいてくれて嬉しかった。こんなどうしようもない俺の隣にいてくれて。なんか、心が落ち着いたんだ。だから……。本当に、ありがとう」
笑った。これまでテンが笑うところは何度も見てきたレムだが。どうしてか、今この瞬間に初めて彼の笑った顔を見たような感じがした。
その笑みはどこまでも朗らかで、安心して緩んだ頬は子どもみたいに無邪気で、自分のことを見つめる瞳はとても温かくてーー、
胸が、ドキンとした。
「ーーーぁ」
その瞬間、レムの中で鍵が解除されるような快音が緩やかに響いた。縛りの無くなった扉はゆっくりと開いていき、中から溜め込んでいた感情が心に傾れ込んでくる。とても温かい感情だった。
次第にその温かさがある感情を作り上げていき、一つの感情として出来上がった時。彼によって受けてきた胸が締め付けられるような苦しみは、抑えきれない感情だと自覚した。
薄々勘づいていたことだ。自分が彼に向ける感情の正体。ずっとずっと感じてきた温かさ。
その温もりの名前はーー、
「とりあえず。そういうことだから」
首筋を人差し指で掻き、照れ臭そうに笑うテンがレムに背中を向けた。勢いで言ってしまった発言に対して恥ずかしくなってしまった。
なにやらレムは頬を赤くしてボーっとしている様子。反応は示してくれているようだけど、無言を貫かれると流石に精神的にきつい。何か言ってくれないと困る。恥ずかしくて耐えられない。
その時。ふと、背中に優しい温かさがくっついた。
「ーーはぁ?」
反射的に口から腑抜けた声が出た。身に起きた出来事に対応できずに思わず出てしまった声にテンは自分自身で驚く。しかしそれなりの理由もあって。
レムが何も言わずに後ろから抱きついてきていた。予兆などなかった、というか背中を向けていたからあったとしても気づかない。だとしても彼女の行動の意味が分からない。
「えっ、ぁ。あの、やめ、な?」
突然の事に思考が停止したテンは頭が真っ白になる中、細い両手がスルリと脇から侵入し、腹部に回って引き寄せられる。テンが動揺している間にもレムの行動はどんどん先へと進むばかり。
服と服が擦れる音が鼓膜を刺激し、二人の身体が密着していることを際立たせる。背中に当たる柔らかな感触、深呼吸するような熱っぽく聞こえるレムの息づかい、引き寄せられた身体。
何もかもが突然すぎて、テンはいよいよ頭がオーバーヒートしそうになってきた。「はぁ?」の口の状態で完全に硬直する様は、側から見れば滑稽とも言えるだろう。
「えっと…。どうしたの?」
一体今日だけで何度「どうしたの?」と問いかけたことか。状況は理解できない。が、なんとか冷静を保とうと努力するテンは軽い呼吸を繰り返して、心を落ち着かせ、声をかける。
そうして返された言葉は、
「安心してきます」
「あん、しん?」
一言。安心すると言われてテンは更に困惑した。これのどこに安心要素があるというのか、テンからすれば内心、大騒ぎ通り越して虚無感に突入しそうな予兆がある。
そんなテンに、レムは額を彼の後頭部にコツンと添えるように当てた。
「テンくんにこうしていると、レムはとても心が落ち着くんです。こうしているだけで、心が温かくなってきて、安心するんです」
甘く、溶けそうな声色で話すレムがそう語る。声しか聞こえないのに、笑っているようなレムが想像できてしまうのはなぜなのか。
確かに、安心できるのは分からなくもない。現にレムに言葉をかけられたテンは安心感を抱いていたのだから。しかし温かい理由が分からなかった。
「人肌って、あったかいから」
「そういう意味ではありませんよ」
物理的な方向から答えを見つけ出したテンを緩やかに否定するレム。彼女の否定を受けたテンは、ならなぜなのかと回らない思考回路で考えるばかりで。
そうやって考える姿も、レムにとっては輝いて見えていた。自分が向けている感情に気づこうとしていると思うと、心がもっと温かくなってくる。
「なら、温かいってなんなの?」
状況を少しずつ飲み込み始めてきたテンが声色を落ち着かせて言った。飲み込めても思考が働かず、考えてもその意味は分からず。結果的に本人に答え合わせを要求する。
ーー今、ここで言ってもいいだろうか。
心の中でそう思うレム。やっと形になった感情の名前を彼に伝えるのも悪くはないと思う。そうすれば自分の気持ちを伝えられるし、彼にも気づいてもらえる。
けど、
「内緒です。テンくんには教えません」
ーーやっぱり、今はこのままがいい。
心で呟くレムは隠しても隠しきれない笑みを顔に薄く浮かべる。今はまだ、彼に自分の気持ちを伝えるのはやめにしたほうがいい。今伝えてしまったら、きっと良くないことになる。
だから、今は我慢だ。
「レムと、テンくんの準備ができたら、教える事にします。それまではお預けです」
「準備が必要なの?」
「はい。とても大切な準備がレムとテンくんにはあるんですよ。ゆっくりと、時間をかけて、ようやく完了することのできる準備が」
「ふぅーん。分かった」と何度か頷くテンに、満足そうな表情で頷き返したレム。彼の感じからしてイマイチ理解してない様子が窺えるが、それでもいいと彼女は思った。
今は、これでいい。いや、これがいい。
気づいてないテンと、気づかせようとする自分。これからの毎日ではそんな光景が広がるのだから。その過程を楽しむのも一つの醍醐味だろう。
「テンくん」
その時が来るまで、その言葉は心の中に留める。伝えたくて伝えたくて仕方ないけど、それをグッと堪える。
でも、その代わりに。
「これからは、覚悟してくださいね?」
言い、一度だけ彼の身体をぎゅっと抱き寄せるレムが生まれて初めて男の子を強く抱きしめる。テンの声など無視して、今だけは自分の感情に素直になる彼女が、花を咲かせた感情に心を奪われていく。
奪われたのは心だけではない。彼には沢山の『生まれて初めて』が奪われっぱなしだ。その感情を芽生えさせ、抱きしめさせ、これから自分はどんな『はじめて』を彼に奪われるのかと少しだけ思う。
悪い気分はしない。寧ろ、奪ってほしいとさえ思える。だって、今の自分はそれだけ彼に心を奪われているのだから。
ーーさぁ、ここから始めよう。
何もなかった関係ーーゼロから始まり。時間をかけて、今ようやくイチに進むことができた二人にとってのはじめの一歩。
レムは自覚しているが、テンは無自覚と、不満に思わなくもない。しかし、彼がそれを本当に自覚したその瞬間。想いは絡み合い、結ばれる。
それは、レムとテン。二人の関係を深めるために歩んでいく道の出発点。
自覚した気持ちは、もう我慢しない。心に宿されたそれからは、もう目は逸らさない。彼に余すことなく伝えよう。
直接的な言葉ではなくとも。仕草で、呼び方で、態度で、気持ちで。自分のできることの全てを駆使して彼に気付かせよう。
そしていつか、想いが届いたら。ちゃんと言おう。
ーーレムは、テンくんのことが好きです。
と。