親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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間話が長いです。終わりません。書きたいことを書くために間話を書かなければならないとは。これだからこの小説は先が長くなる。

原作までが……、果てしなく遠い……!






鍛錬パートver2

 

 

翌日。

 

 

中間試験から二日目の朝日がテンの顔面に照りつける。毎朝ご苦労なことだ、ほぼ決まった時間に「起きてください」とでも語りかけるように窓の外から優しい温かさを届けるのだから。

 

意識が覚醒しつつある。暗がりに沈んでいた自分の魂がその光に導かれるように、或いは救いあげられるように。ゆっくりと上へ上へと光に近づいてゆく。

 

この感覚は嫌いではない。睡眠不足はとっくに解消されて安眠をした翌日、実に寝起きのいい朝を迎えることができた。

 

起きてください。そんな風に語りかけてくるのをテンは錯覚した。"語りかけるように"から、"語りかける"へと昇格した朝日が朝の知らせをカーテンの隙間から差し込ませる。

 

頬に当たるひんやりとした感触がした。どうやら自分は寝ぼけているらしく、太陽の光一つで頬に手のようなものが添えられていると変な風に解釈していた。

 

 

「起きてください。テンくん」

 

 

いや。実際に語りかけられていた。そして頬に手が添えられていた。手のようなものではなく、本物の手が。

 

 

「もう朝です。早く起きて、洗濯物を干しに行かないとですよ」

 

 

目を開けたテンは語りかけていた光、その正体を知った。自分の真正面、足をまたぐようにして自分が寝ていた寝台に乗ってきている青髪の少女。

 

自分の頬に手を添えて微笑み、眠っていた意識を覚醒させた少女。こうして起こされるのはこれで何度目になるのだろうか、数えてないけど、二十回は超えてきそうな気がする。

 

初めは大変だった。朝起きたら自分の真横でレムが微笑んでいるのだから。寝起きドッキリにしては心臓に悪すぎる。が、二十回もしていれば流石に慣れてくる頃合いーーーー。

 

 

「ーー! ふわぉ!?」

 

 

 

 

そんなことを思った数秒、彼はそんなことはないことを知ることになった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

朝一番に横で微笑んでいるレムなど、もう敵ではないとテンは思っていた。彼女によって不本意にも鍛えられている鋼の心はその力を遺憾なく発揮してくれるだろうし、何の問題もない。

 

そう思っていた時。ふと、自分の状況にテンは気がつく。真正面にレムがいて、頬に手を添えられて、天使のような微笑みを向けられて。

 

いつもとは全く違う光景だ。

 

まず、場所が違う。いつもは真横だったのが今日は真正面、体制を起こしたすぐそばにレムの身体があった。

 

なんの悪戯か。彼女は足、厳密には膝の辺りを跨ぐように座っていたため距離感がバグっていることに驚き、肩を跳ねさせたのは男としての経験値の低さが仇となったか。あれは流石に恐怖心すら抱いた。

 

更に頬に手を添えられていたこと。正直な話、これが一番堪えた。「寝ぼけていた頭が一気に目覚めて良かったよ」なんて言葉で動揺を隠そうとしても、多分レムには通用しない。

 

実際に一気に頬が紅潮したせいでレムに「テンくん、頬が赤くなっていますよ」なんて言葉でからかわれた始末。今すぐにでも窓に干した布団の中に飛び込みたい気分だった。

 

 そして、現在。

 

 

「あのさ、レム。朝起きてあの状況なのは流石に心臓に悪いからやめてくれると嬉しいんだけど」

 

「それではレムがテンくんを起こすことができなくなってしまいますが。それでも?」

 

「起こすのってレムが自主的にやってるんじゃなくて?」

 

 

朝方、まだ屋敷の住民の殆どが布団の中で夢の世界へと旅立っている時間帯。二階の廊下に小さく木霊する二つの声があった。

 

もちろんテンとレム。二人はこれから洗濯物を洗う作業と干す作業をしに浴室の脱衣所へと向かう最中。洗濯物を取りに行くことから二人の仕事は始まる。

 

そんな二人の話の中心にあるのは朝にあった出来事。レムのモーニングコール(物理)についてテンが物申していた。物申す、と言ってもそこまで気にしていない様子だが。

 

 

「自主的にと言えばそうかもしれませんが。少し考えてみてください。ここ最近のテンくんは早起きすることが難しくなってきていませんか?」

 

「と、言いますと」

 

「以前はレムがお部屋に着いた時点でお目覚めのようでしたが。今はそうではありません。つまり、レムが起こさなければテンくんは寝坊をしてしまうかもしれない、ということです」

 

 

首を傾げるレム。自分の顔を覗き込むように視線を向けてくる彼女を横目に、テンは少し考えた。

 

確かに彼女の言う通りかもしれない。前はレムが部屋に来る前に起きれていたけれど、今は彼女に起こされている。これが何を表すかといえば、自分の起きる時間が遅くなっているということ。

 

基本的にレムが部屋に来るのは朝方五時を十分ほど過ぎた辺り、天然アラーム(太陽の光)が発動するのは朝方の五時丁度。つまりレムに起こされてる時点でアラームを無視していることになるのだ。

 

屋敷に使用人として働き始めたばかりは、仕事に慣れてなかったために「早く起きて仕事を少しでも早く始めよう」という危機感強かったから、身体が自然と目覚めるようになっていた。

 

今はそれほど危機感は抱いていない。仮に朝の仕事をやらなくても時間の範囲内で終わらせることも可能。前のように「早くやらなきゃ」とは考えておらず。

 

もしかしたら、その気の緩みのようなものが起床時間を遅くしているのかもしれない。

 

 

「それでも流石に問題が……」

 

 

自分の中で起床時間が遅くなっていることを確認したテンが呟いた一言、他でもないレムの起こし方に関してだ。

 

元を辿ればこれが始まるきっかけは使用人として働き始めてから一週間後。早朝から仕事をするために早起きするテンの部屋にレムが顔を出し始めたことだ。その時も疑問には感じていた。

 

その次、彼女が部屋に乗り込んでくるようになったのは相合い傘事件の少し後。鍛錬に疲れた自分の寝坊防止のために力になると言って彼女は自主的にモーニングコールを始めた。

 

その時は寝台の横、椅子に座るようにしていたから良かったものの。今回の場合、彼女はついに椅子を通り越して自分の上に乗っていた。なんの冗談か、頬に手まで添えて。

 

こうして振り返ると、初めと比べて彼女との距離感が狂ってきている気がした。扉の前→真横→真正面とは、健全な男子大学生からすればSAN値をゴリゴリに削られる。それに朝方に上に乗られるのはマズい、何がマズいか。男性ならばきっと分かる。

 

そんな、女性関係が皆無に等しいテンからすれば恐怖心すら抱き始めてきた距離の詰め方をさも当然かのように行うレム。テンに対する彼女の一言といえば、

 

 

「なにか問題でも?」

 

 

これである。

 

やけに距離が近いレムがなにも理解していないような仕草で首を傾げ、考えるような素振りを見せた。そんな分かりやすく惚けられても困るのはテンの方だ。

 

レムの思う問題点は恐らく『目覚ましとして機能しているか』だろう。しかしテンの言う問題点は『その起こし方』だ。せめて以前のように横に座る形にしてほしい。

 

自主的に目覚ましをすることに関してはもう何も言わない。言っても彼女は起こしにくる、絶対に来る。だって断っても翌日には来るんだもの。

 

 

「問題……、うーー。なんというか」

「なにか問題でも?」

 

 

問題点を指摘しようとしたテンだが、同じ言葉を繰り返したレムが食い気味に詰め寄る。右肩に当たる柔らかな感覚にテンはやりづらそうな表情を鈍く浮かべ始めた。

 

やっぱりおかしい。ここのところ、というか中間試験の後からレムが異様なまでの距離の詰め方をしてくる。まだ二日しか経ってない中でそう感じさせるのだから、その変化は火を見るより明らか。

 

まさか。あの夜に言っていた「覚悟してくださいね」はこのことを指していたのか。自分が上に乗るから覚悟して起こされろ、と。恐ろしい話である。

 

 

「起こし方に、問題が……」

「なにか問題でも?」

 

 

柔らかな感触から逃げるように半歩距離を空けるテンが音もなくレムから離れ、空いた距離を詰めるレムが音もなく半歩距離を詰める。もっとやりづらそうな表情をテンは顔に浮かべた。

 

対応しずらい。こういう時、どんな反応をするのが正解なのか分からないテンは声にならない声を喉の奥で鳴らすことしかできなかった。

 

半歩距離を空ければ、半歩距離を詰める。空ければ、詰める、空ければ詰める、空け詰める。空けようとしたら壁があって逃げれなくなった。

 

 

「なにか問題でも?」

 

 

四度目。同じ言葉を繰り返すNPCとなったレムが逃げようとするテンに言葉を投げかけた。左側には壁、右側には距離感がバグり始めたレム。自分はなんの尋問をされているのかと思い始めたテン。

 

外していた視線をレムに向ければ、彼女は周囲に、浮遊する光球を幻視させるレベルの満遍の笑みを浮かべていて。

 

 

「なにも、もんだいは、ありません」

 

 

その笑みの裏側になにか恐ろしいものを見当違いに感じ取ったテンは、首を縦に振ることしかできないのであった。

 

 

 

 

 

 

 ーー拝啓、お父さんお母さん姉ちゃん。僕は今、初めて女性の恐ろしさを実感しました。女の子って恐いんですね。

 

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

時間は進んで太陽が天辺を過ぎ、お散歩をするのに適した時間帯。テンとハヤトの二人はロズワールの部屋に呼び出されていた。

 

昼食の時に「時間ができたら来るように」と言われ、仕事がひと段落した今、彼らはロズワールの待つ部屋へ。

 

扉を開けるとそこには椅子に腰掛けるロズワールと、二人と一人の間にある長机ーーその上に数日前にボロ布同然となったテンとハヤトの衣服が畳まれてあって、

 

 

「それ、君たちが魔獣の森でボロ雑巾同然にちゃったやつね。一応、確認してみたけど大凡は修繕されてるかぁら、問題なく着れるはずだよ」

 

 

そんな言葉を聞きつつ二人は二日ぶりに帰ってきた戦闘服を手に取り、なにとなく広げてみると。ロズワールの言った通りにその服は完全に修繕されていた。

 

爪やら牙やらで破かれた跡は一つも残っておらず、縫い目すらも残っていないという技術に二人は内心驚く。テンのTシャツも元の形に元通りと、匠もびっくりの職人技だ。

 

その反応を見抜いたのか。ロズワールは何気ない顔で服を指差すと、

 

 

「レムに感謝するんだよぉ。ソレ、修繕したのは彼女だーぁからね」

 

「マジか。すげぇなアイツ」

 

 

綻び一つない服をまじまじと見つめるハヤトが感心するように声をこぼし、隣のテンも「おぉ」と驚きの声を漏らしていた。布切れ同然のものが二日後に完璧な状態で帰ってくれば当然だろう。

 

なにをどうしたら縫い目も残らないのか。それに普通、服の穴の空いた箇所を塞ぐには代わりの布を用意するか、両端を糸で縫い合わせるかの二択。

 

必然的に跡は残るはずなのだが、レムの場合はそれもないと。二つとない戦闘服ーーハヤトからすればお気に入りの服が返ってきてご満悦様子だった。

 

 

「あ、そうそう。その服、私が少し手を加えさせてもらったから」

 

 

レムの修繕技術に感心する二人の意識を引き寄せるロズワールは、そう言って指をパチンと鳴らした。服を畳んで抱えるテンと適当に折って抱えるハヤトは彼に対して首を傾げるが、

 

 

「『防護の加護』。君たちのその服にはその術式を編み込ませてあってねぇ。簡単に説明すると、君たちのマナが尽きない限り、見た目以上の頑健さを発揮してくれるよ」

 

「おぉ、そりゃすげぇな!」

「へーー」

 

 

分かりやすくはしゃぐハヤトと適当に流すテン。相変わらず真逆の対応をする二人にロズワールは無反応。この光景も慣れたもの。逆に同じ反応をする時が珍しい。

 

防護の加護ーー読んで字の如く。その術式が編み込まれた衣類、鎧の防御力が上がる便利な加護だ。

 

ちなみに少し説明すると。加護とは、世界からもたらされる福音ーー簡単に言えば生まれながらにその人が持った特殊能力のようなもの。もちろん、全員が与えられるわけではなく、正に選ばれた者にのみ許される力だ。

 

流石ロズワールと言うべきか。選ばれ者の力を衣服に術式として編み込むという難しそうなことを平然とやってのけ、更にその服を当然のように差し出すのだから。

 

 

「ってことは、これ着てれば殴られても痛くないとかってあるのか……あるのか!?」

 

「ある程度は吸収してくれるだろうけどねーぇ。許容できなければ貫通するだろうし、そもそも衝撃は全て身に受けると思うよぉ」

 

「でもすげぇな! やっぱお前、すげぇわ!」

 

 

最強の装備でも貰ったかのような勢いではしゃぐハヤト。加護やら術式とはなんぞやと思わなくもないが、世界で自分だけの装備を貰えた嬉しさが勝った。

 

そんな彼の隣。それをジーっと見つめるテンは、エミリアのローブにも確か認識阻害の術式が編み込まれていたような気もするなぁ。なんてこと考えていた。

 

認識阻害。テンとしてはソッチの方が欲しかったような気がしなくもない。防護の加護も悪くないけど、実用的なのは認識阻害だろう。

 

他でもないロズワールが作ったのだから、彼より格上か同格の人間でなければそう簡単には見抜けない。尤も、防護の加護に関してもそれと似たような類と言えるため。加護が服に与える防御力は計り知れないが。

 

 

「なぁテン! 今からこれ着るから、試しに力一杯殴ってみてくれよ!」

 

「アホか。それは、攻撃が当たっても大丈夫なようにあるのであって。わざわざ当たりに行くためのものじゃないっての」

 

 

ハヤトに名前を呼ばれ、思考を遮られたテン。彼が隣を見れば使用人の服を脱ごうとしてるハヤトが視界に映ったため手刀を作って頭に軽めの一撃。

 

物理的にそれを止めたテンは「ちぇー」とつまんなそうに尖らせるハヤトに微笑んだ。やはり、こういう場面のハヤトの反応は純粋で見ていて心地良いものがある。感情を豊かに表現できる彼の良いところが出た。

 

もちろん、ロズワールもその感情は同じようで「嬉しそうでなにより。頑張った甲斐があったよねぇ」と満足げに頷いている。

 

 

「やっぱり、ハヤト君のそういうトコろ。私は嫌いじゃーぁないよ。君の反応は見ていて心地が良い。製作者冥利に尽きるってもんだねぇ」

 

「そうか? 俺は単に、嬉しいこととかは抑えたくねぇから全開にしてるだけだぜ?」

 

「残念なことに、私が寝る間も惜しんで刻んだ術式をどこかの誰かさんは「へーー」だけで済ませたからねぇ。反応の違いには天と地の差がある」

 

 

「お前のことだぞ」と肘でテンのことを小突くハヤトと、テンに視線を送ってまつ毛を小刻みに上下させるロズワールの二人。ロズワールの顔でそれをされるとなにか、誘われている寒気がしたテン。

 

自分の知らないところで意見の合致が行われ、間に挟まれた彼は適当に「あははー」と笑って誤魔化すと、

 

 

「話が脱線してますよ、ロズワール。それで、俺たちをあなたの部屋に呼んだ理由はなんなんですか? 服を渡すためだけじゃないでしょう」

 

「流したな」

「流したねぇ」

 

「な ん な ん で す か」

 

 

流したことを指摘されるテンが押し切る。そうして無理やり話を戻したテンに二人はニヤニヤと笑っていたが、テンの顔色が分かりやすく不機嫌そうになったのを見て軽く咳払い。

 

これ以上揶揄うと怒られかねないと察したロズワールは「それなんだけど」と言葉を繋げて、

 

 

「前の中間試験で君達が確実に成長しているのは把握できたし。これからも、今以上に精進するとは思うんだーぁけどね? それだけじゃ足りないとは思わないかい?」

 

「どういうことだ?」

 

「騎士、と名乗るからには一芸だけじゃ務まらないだろう? 切れる手札は沢山あった方が戦闘の幅が広がるし」

 

 

ロズワールの提案に「ほぅ」と腕を組み興味そうに言葉を溢すのはハヤト。ロズワールの言うことにも納得はいっていた。

 

確かに、騎士と名乗ることになれば当然の如く強さは求められる。剣と魔法だけでは足りない、故に新たな力をつける必要がある。

 

アマチュアとはいえど魔獣の群れを命懸けで凌げるレベルに達した剣術と魔法。それ以外の戦闘技法と言えばーー、

 

 

「体術を君達に教えようかと思ってたりしちゃうんだぁーけども。どうだい? 己の肉体を真に操れてこそ、伴う力がある。尤も、ハヤト君は既に我流として型にハマってる感あるけど」

 

「教えられるのか?」

 

「もちろんだとも。これでも体術にはそれなりに自信があるつもりだ。まっ、まぁ、まーぁ? 控えめに言ってぇ? 武術の達人程度かなぁ?」

 

「うぜぇ」

「すげぇ」

「薄い反応をどうもありがとうねぇ」

 

 

椅子から立ち上がり、自慢げに語るロズワールだが。男二人からの冷たい視線と薄い反応を受け取ると転けるような仕草。たった一言なのに、この二人が言うと中々に堪えたロズワールだった。

 

しかし実際のところ、ロズワールは宮廷筆頭魔道士でありながら武術の達人でもあるのは本当の話。その鍛え抜かれた長身から繰り出される体術は人間の肉体など軽々と貫くだろう。

 

ふと、武術の達人と聞いたテンが「すげぇ」と言いながら心の中で密かに思い出したこと。

 

原作では、とある事情でロズワールが手刀で心臓貫いたり、蹴り一つで顔面を砕いていたりしていた記憶がある。まさか、それを教えられるのかと思うと控えめに言って戦慄するが。

 

 

「体術っつっても、具体的には何を教えんだ? 俺は空手の型が身に染みてるから、いきなり変えられても困るぞ?」

 

「カラテ。というものは分からないが、少なくともそこまで難しいものじゃない。基盤として仕上がっている型に無理やり入れ込むような真似はしないとも」

 

「ならいいけどよ」

 

 

少し考え込むテンだが、彼の意識はそんなやりとりの間に現実に復帰。「あのー」と意見を述べる彼は控えめに手を挙げると、

 

 

「その話、ハヤトだけにしてもらえますか? 俺は流法を習得することだけに力を注ぎたいんで」

 

「習得できそうなのかい?」

 

「できるできないの問題じゃないですよ。やるしかないんです。なにがなんでも。この力は自分のモノにしないと俺は前に進めない」

 

 

軽いやりとり。しかし、その中にテンの決意に満ちた発言があったことをロズワールはこの瞬間記憶した。いつになく真面目な表情を見せてくる彼に、ロズワールは楽しそうに口角を小さく釣り上げる。

 

人が変わる。は言い過ぎかもしれないが、テンという人間は真面目な態度とそうでない態度の切り替えが速すぎる。穏やかな雰囲気から一転、急に真面目なことを言われれば対応する側にも数秒間の停滞は必須だ。

 

 

「っはは! なんだなんだ、どうしたどうした。いつになくカッケぇな、テン。だがお前のそういうところ、俺は嫌いじゃねぇぜ? できれば常にそう在ってくれると嬉しい」

 

「うるせぇな、コイツ。別になんだっていいだろ。俺は本当のことを言ってるだけなんだし」

 

「それがまたカッケぇな。当たり前のことを言うだけでカッコよく聞こえるとか、名言は日常の中にあるってか」

 

「なに言ってんだ、コイツ」

 

 

そんな中、彼の背中をバシバシと叩いたハヤト。テンと過ごした経験値が停滞の時間をゼロにした彼はニコニコと笑みを浮かべる。

 

割と独特の雰囲気を纏うテンは偶に対応しずらい態度を取ることがあるが、ハヤトにはそんなの関係ない。彼のペースに飲まれつつも、それを彼は笑い飛ばしていた。

 

そんな親友の反応にテンはウザそうに目を細めるだけで。しかし本気で嫌がっているように見えないところ、彼自身も受け入れているらしい。

 

 

「…えっと。そういうことで。いいですか?」

 

 

バシバシと叩いてくるハヤトを両手で押さえるテンは話を戻し、確認するように尋ね。尋ねられたロズワールは「ふぅーむ」と暫しの沈黙。椅子に座り直す彼は机の上に肘を置いて手を組んだ。

 

考える人の体制を取るロズワール。その対応に、まさか、許されないとではと懸念し始めたテンだが。「うん」とロズワールは頷くと、

 

 

「分かった。テン君が専念したいと言うならばそれに任せよう。頑張るんだよ」

 

「うす」

 

 

考えがまとまったのか、はたまた定まったのか。なんにしても右手で丸の形を作り、テンの要求を許した。

 

沈黙の間にどんなことを考えていたのか気になるテンだったが、考えても仕方ないと割り切る。自分のことを射抜く視線がいつになく刺さるように感じるのも気にしないことにした。

 

感じ取った思考と感覚を捨てるテン。そんな彼の隣に立つハヤトは「よし、なら決まりだな!」と拳を合わせると、

 

 

「俺はロズワールに体術を伝授してもらい。テンは流法を自分のモノにする! ここから先のやることが定まったな」

 

「並行して剣術と魔法の更なる向上。加えて肉体的な強化を心がけると。目標があるとやりやすいもんだね」

 

 

ニシシ! と歯を見せて笑うハヤトと決意を新たにするような声色のテン。中間試験での結果を受けてここから先、鍛錬をどうしていこうかと考えていた二人にこの瞬間、明確な目標ができた。

 

ハヤトは自分の身に備わっている体術に磨きをかけ、ロズワールから体術を伝授。本格的に彼の本職が輝き始めてきそうな予感。

 

テンは流法を。ハヤトのように動けるようにと新たな力を求めてそれと向き合う。これを自分のモノにできれば今の自分とは一線を画すだろう。

 

それは、二人が本格的に騎士としての力を身につけるために動き出す一歩目だ。二人が今まで取り組んできた鍛錬は魔法や剣術の基礎となる部分、しかしここからはその基礎を大前提としたもの。

 

土台となる基礎が仕上がったら、次なる段階へ。修行は二段階へとフェーズを移行することになる。

 

 

「よし! よしよし! やる気出てきた! ここからって感じがするな、テン!」

 

「そうね。ここまで約一ヶ月半、基礎は体に染み込ませたから次はその応用ってな」

 

 

気合十分とばかりに両腕をブンブンと暴れさせるハヤトは先程から笑いっぱなし。ようやく自分のやりたかったことができる彼はいつも以上に気持ちの昂りが激しかった。

 

テンもまたその一人。半ば諦めかけていたことができるかもしれないという希望に決意が漲るばかりだった。

 

その二人を正面にすればロズワールも満足そうに首を縦に振っていた。わずか一ヶ月半でここまで成長されるのは良い意味で予想外だが、努力の賜物だろう。

 

その根底にあるものはきっと二人とも同じだ。違うところばかりが目立つが、大事な部分は何一つとして違いなどない。

 

 

「若いってのはいいもんだねぇ。君たちを見ていると昔の私を思い出すよ。頑張るんだよ」

 

「おうよ、任せとけ!」

 

「全力で、全開で、頑張ります!」

 

 

どこか遠い目をして過去に思いを馳せるロズワール。彼はしばしの思案のあとに現在に戻ってくると、二人に「ふっ」と息をこぼし、

 

 

「気合は十分のようだねーぇ。じゃっ、そういうことだから二人はお仕事に戻りなさい。私からは以上だよ」

 

「えっ!? 今から教えてくれんじゃねぇのかよ!?」

 

「今日は私も立て込んでいてね。少なくとも明日からってことでよろしくねん」

 

 

あっけらかんとして伝えられたことに、大袈裟なリアクションでハヤトが驚いた。彼としては今すぐにでも戦うつもりだったのか、昂る気合いを削がれる予感に抗議の声を上げる。

 

が、その甲斐なく結局はテンに首根っこを掴まれて強制的に部屋から退出させられることになった。

 

 

「くそぉ、俺は今すぐにでもやりてぇのによー」

「ロズワールだって暇じゃないんだから。教えてくれるだけでもありがたく思えよ」

 

「いやしかし、今の気合のままーー」

「はいはい。仕事に戻るよ」

 

 

決まったことに対して未だに抗議の声を上げ続けるハヤトだが、そこは制御係テンの本領が発揮されたというべきか。彼のことを右から左へと受け流すテンはドアへと向かっていく。

 

漫才のようなやりとりを正面にしたロズワール。彼は、こういう時は真反対な性格が中々に便利なものだと思っていた。ハヤトが暴れればテンが抑え、逆もまた然り。分かりやすい関係だ。

 

扉を開くテンは楽しそうにこちらを見るロズワールに振り返ると、

 

 

「じゃ、失礼します」

「ロズワール! 明日、明日絶対だからな!」

 

「覚えておこう。これからも頑張るんだよ」

 

 

一礼のテン。指差すハヤト。二人に手を振って送り出したロズワール。三人三種の反応を受けて扉はパタンと閉じられた。

 

扉の奥から聞こえてくる遠ざかっていく二人の声と足音。外でハヤトが抗議の声をまだ上げているのが聞こえてくる。ここまでくると向上心の塊かと思い始めた。

 

 しかし、そうでなくてはつまらない。

 

 

「そう、頑張るんだよ」

 

 

不意に「フッ」と、ロズワールが不気味に笑う。彼の心底にあるもの。それが吐息として溢れる。

 

会話の途中に何度か吐き出した吐息。それに含まれる感情の読み取りが不可能なそれだが。そこにあるのはたった一つの感情、それだけだった。

 

 

 

「私の、駒として」

 

 

 

 

 






またしても不穏な発言。日常描写を書きすぎてシリアス描写がど下手くそな作者です。少しずつ鍛えていかなければ……。




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