親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

41 / 171



○○名前、○○名前シリーズ第二弾。タイトルに困った時はこれに頼ることにしました。タイトルが全てを物語ってるシリーズもそのうち出てきます。






笑うロズワール、吹っ飛ぶハヤト。

 

 

 

魔法。それは、大気に満ちるマナや自身の中にあるマナやオドを触媒として現出される摩訶不思議な現象のことを指し。己の中にあるゲートと呼ばれるマナを吸収.放出するための窓口の質に魔法の質も依存する。

 

これらは、この世界に住まう人間ならば一度は耳にしたことのある説明文だ。魔法を使用する上で必須の知識として師に教え込まれ、頭の中に一つの概念として染み込ませる。

 

そうして魔法は人間の中で成立する。

 

身体に染み込ませるのは頭が理解してから。魔法は想像力次第でいくらでも形を変える。故に、頭で理解しなければ魔法は使えない。

 

 と、いうのがテンの持論であった。

 

ゲートからマナを取り出す感覚、頭の中でイメージする想像力、発したものを制御する能力。その他諸々。魔法を使えるようになるには様々な知識を身につけなければならない。

 

尤も、魔法を日常的に使えるようになった人間はテンの持論通りならば、どんな魔法でも形上は使えるはずなのだ。頭で理解し、体を動かす。精神と肉体に寸分のズレもなく成功する。

 

つまり、テンが何を言いたいか。

 

 

「……分かんねぇ。どうやるんだよ」

 

 

言い、大袈裟にため息を深くついたテンが全身の力を抜くようにして背もたれにしている樹木に寄りかかる。胡座を崩して手足を伸ばし、両腕をダランと垂れさせる姿は側からみれば疲労気味。

 

しかし、顔色は悪くない。それどころか健全そのもの。鍛錬の時には決まって流れる額からの冷たい汗も見られず、落ち着いたペースで呼吸を保ち続けていた。

 

ならばなぜこんなにも疲れて見えるのか。その原因は一つ。

 

 

「流法。難しすぎる」

 

 

そう、何がなんでも習得すると決めた流法のことであった。体ではなく頭をフル回転させて行う鍛錬は思った以上に疲れるのだ。

 

 

 現在、お月様が天から見下ろす時間。テンはいつもの場所で鍛錬をしている最中だ。

 

 

今となっては慣れ親しんだ戦闘用の服を着用し、けれど刀だけはエミリアが頑なに返そうとしてくれないため、無手の状態での鍛錬。

 

中間試験の傷跡が完全に消えるまでは返してくれないと彼女は言っていたが、テンとしてはもう八割は回復している感覚。痛みが消えたわけではないがほぼゼロに等しい。

 

ならば「返して」とはテン基準の話。そこにエミリア基準が介入すれば「まだだーめ」と刀は没収されたままであった。

 

尤も、今夜からは流法を習得するための鍛錬をするから、刀の有無は然程気になることではない。もっと気にする点は他にある。

 

 

「マナを循環……。体に熱を巡らせる感じで」

 

 

ブツブツと独り言を言い続けるテンが流法会得のために意識を向ける。刀など今はどうでもいい、流法。とにかく流法に意識を向ける必要がある。

 

 

「んー。イメージが足りなかったかな」

 

 

鍛錬を始めてかれこれ三時間ほど経つが、未だにその感覚は掴めておらず。何度頭の中で想像力を働かせ、より鮮明にやろうとしても発動の予兆すら見えない。

 

マナを使うことは同じだから、流法自体は簡単に発動することができるーーと思っていた自分が腹立たしく思える。魔法とはまた違ったマナの活用法、活用法だけでなくそのやり方すらも魔法とは違う。

 

つまり手探り状態。何もかもが分からないから、まずは頭の中に流法を使う方法をイメージとして理解させる必要がある。この感覚は魔法の鍛錬を始めた頃に近いか。

 

 

「よし。もっかい」

 

 

気を取り直すテンが背筋を伸ばして胡座をかく。垂れ下げていた両手を組んで座禅の体制、そして瞑目。こうすると集中できる。目を瞑ると要らない情報が全て遮断され、それだけに意識を向けることができる。

 

流法をする上でテンが頭の中で想像していること、それはハヤトに提案したアクラと同じようなものだ。

 

今までは、マナを外に放出してそれを結びつけるように魔法を使ってたなら。今度はそれを自分の体の中で。ゲートから取り出したマナを全身に行き渡らせる感じで。全身に熱を行き渡らせて、それを循環させ続ける。

 

熱を体内で循環させる。マナを全身に行き渡らせるイメージ。今までは外に働きかけていたマナを今度は自分の内側に。

 

ハヤトはそのイメージでアクラという一つの魔法を成立させていた。なら、自分も同じようにやれば上手くいくーーと信じたい。

 

正直な話。魔法とは違ったマナの活用法と言われている時点で、今まで培ってきた魔法を使う感覚を頼りにしていいのか懸念が残っていた。

 

なにせ、流法は魔法ではなくマナの技術体系の一つ。魔法を使う感覚のままに成立するのか、と。

 

ゲートからマナを取り出すまでは同じ。しかし、そこから取り出したマナを"魔法"に使うか"流法"に使うかで分岐するとしたら。魔法の感覚なんて当てにならない。

 

その場合、またしてもゼロからのスタート。イチではなくゼロ。魔法という概念の他に流法というもう一つの概念を自分の中に生み出さなければならないという、中々に鬼畜だ。

 

 

「雑念だ、考えるな。今は流法に集中」

 

 

自分を咎めるようにテンは頭を軽く左右に振る。余計なことは考えない。できないならできるまで努力すればいいだけの話。努力した分だけ自分に返ってくるなら尚更。

 

やると決めたのならやり通す。できなきゃ前に進めない。こうしている間にもハヤトはどんどん前に進んでいくのだから。置いてかれるわけにはいかない。

 

 

「循環…、熱が全身を流れるように」

 

 

ゆっくりとしたリズムで深呼吸を繰り返す。思い出すのは魔獣の森で無意識に流法を使っていた時の感覚。ゲートからマナを引っ張り出して全身に回し続けるような。

 

思い出せ、掴み取れ、覚えさせろ。

 

少しでも予兆が見られたらそれを逃さないように捕まえて、頭の中に覚えさせる。覚えたら自分の中でそれを流法と名づけて一つの概念として染み込ませる。そうすればきっとできるはずだから。

 

そう、できるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理でした。寝まーす」

 

 

 

その言葉はそれから数時間後。深夜二時を過ぎたあたりの言葉であった。

 

エミリアも自分が魔法の鍛錬をしているとは思わなかったらしい、今夜はひとりぼっちの鍛錬に終わる。

 

 

 

 流法。その予兆はまだ見えない。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

またまた翌日。中間試験を終えてから三日目の朝が過ぎ、そして午後が訪れていた。そんなことがあろうとなかろうと基本的に屋敷内で動く者達の行動は変わらないもので。

 

ある人は夕食の下準備を。ある人は屋敷の装飾品を磨き。ある人は庭園で観葉植物の剪定。そして最後に残った一人。

 

その人物は一人と同じく庭園に立っていた。ならばその人物も一人と同じように中庭での仕事をしていると想像できるが。今回は少し違った。

 

その人物の正面にはピエロみたいな長身の男が一人。ニヤニヤとその人物を見ている。普段は粘着質なそれだが今に限っては少し熱を帯びているようにも捉えられた。

 

それを向けられたその人物ーーハヤトは拳を軽く握りしめる。

 

芝生に跡が残る力で大地を踏みしめる彼は制服ではなく戦闘服を着用していた。背中に大剣は無い、しかし拳が彼にはあった。

 

 

「さぁーて、今回からハヤト君に体術を教えるわけだぁーけど。とりあえず君の実力を見せてもらおうかなぁ」

 

「中間試験で把握してるんじゃないのか?」

 

「実際に戦ってみないと分からないからねぇ。それに君が口にしたカラテという型も私としては気になる。それにそれに、君の場合は変に言葉で教えるよりひたすら打ち込んだ方が教えやすいと思うから。習うより慣れろってやーぁつ」

 

 

「違いねぇな」と笑うハヤトが軽く体をほぐし、昨日は出鼻をくじかれたが今日は違うとばかりに彼は気合を入れる。やっと自分のやりたかったことができると思うと、心身共に疼きまくってるところだ。

 

頭で覚えるよりも体で覚えるハヤトとしてはロズワールには感謝。変に言葉で教え込まれるよりも、コッチの方が自分には性に合っている。

 

向こうもその方がやり易いと考えたのか、身から溢れる闘気がハヤトには伺えた。

 

 

「あ、そうそう。アクラを詠唱するのを忘れないように。その魔法は君の力の源、これから先も助けられるだろうし。少しでも慣れておきなさい」

 

 

言い、ロズワールが口角を釣り上げると好戦的な笑みを浮かべる。それを挑発と受け取るハヤト。ならば「受けて立つ」とばかりに彼はアクラを詠唱。

 

途端に淡い光がハヤトの周囲に発生。彼の全身を包み込み、黄金色の輝きが肌の上にヴェールを生み出す。

 

体をすっぽりと覆うその金色の光、まごうことなきアクラによる現象だ。身体能力に比例して、闘志もまた底上げされる。

 

 

「さぁ、いつでもきなさい」

 

 

ハヤトの様子を見て、軽く準備体操を始めるロズワール。背伸び、屈伸と戦闘前にしては随分と余裕な様子。否、余裕しかないのだろう。

 

緩く構えるロズワールと、今にでも爆発しそうな雰囲気が漂うハヤト。両者ともに準備は整った。

 

 

「でも、いいのか。アクラを詠唱したら、今の俺だって結構やれるぜ?」

 

 

強気に出るハヤトが口角を釣り上げる。左半身を少し前に出して体を左右に動かす彼はいつでも動ける体制。もちろん、負ける気など一切ない。

 

あの魔獣の群れを一人で相手にした時だってあったのだ。流石にナメられては困る話だろう。そういうこともあってアクラを詠唱した自分は結構いいところまでは行けるとハヤトは踏んでいる。

 

そんな自信満々のハヤトだが、しかしロズワールはオッドアイを細めて「ふっ」と息をこぼし、変わらない態度でただ一言。

 

 

「やれるものなら、ね」

 

 

一言、たった一言。

 

しかしハヤトの闘気を最高潮にするのには十分すぎる一言だった。その言葉に向けた右手をクイッと手招きする動作が加わればハヤトが駆け出すのに時間はかからない。

 

軽く息を吐いて、肺の中にある余分な力を抜く。肩に入る力も緊張も。それら全てをその息に混ぜて吐き出す。その次に、新鮮な空気を取り込んで。

 

 

「ーー上等!」

 

 

踏みしめた地を蹴り上げ、前へと跳躍。テンが折角整えた芝生が削られたがハヤトの意識にはそんなものは入ってこない。入ってくるのはロズワールの情報のみ。

 

一度の跳躍でロズワールとの距離を一気に詰めたハヤト、彼はそのまま懐に入り込む。元々距離は離れていない、彼でも瞬間的に詰められる距離。真正面からの戦闘を好むハヤトらしい初動だ。

 

ロズワールが驚く様子はない。まだ余裕の態度を貫き、懐に入るハヤトのことを見下ろしている。ならばそれを崩したくなるのがハヤト。その余裕の裏から焦りを絶対に引きずり出す。

 

 必ず。必ずだ。

 

 

「らァーーッ!!」

 

 

前に進む勢いをそのまま振り抜く右腕に乗せる。右半身ごとロズワールにぶつけさせるように、肩と腰を入れた一撃を捩じ込んだ。タイミングが完璧だと自分でも思うそれだが。

 

打ち込んだハヤトが感じ取ったのは振り切ったはずの右腕が伸び切ってないことによる歪な感覚。そして、打ち出した瞬間に理解した事実。

 

 

「まーーッ!?」

「そんな程度では私には届かないよぉ」

 

 

ハヤトの右手。それは、ロズワールが右手の平で軽々と受け止めていた。声と同時に前へと進むインパクトが右手と右手の間で小規模な衝撃波を起こし、しかしその衝撃すらも受け止める。

 

体制を低くし、伸びる動作と同時に振り抜いた腰の入った一撃。それは、棒立ちのまま腕を伸ばしただけの長身の男が簡単に防いでいた。これにはハヤトも驚嘆とばかりに目を見開く。

 

が、そこで止まらないのがハヤト。受け止められた感傷を秒で振り切る彼は咄嗟に受け止められた右手を引き寄せ、片足を蹴り上げた。掴まれた右手を引き寄せればロズワールの体制も崩せる。

 

そこにロズワールの対応がなければ、の話だが。

 

 

「うおっ!?」

 

 

瞬間的にハヤトの身体がひっくり返る。ロズワールを睨んでいたはずの視線は何故か天地を行ったり来たり。何が起きたのか理解不能の中、追撃として背部に掌底が打ち込まれ軽く吹っ飛んだ。

 

投げ出されるように地面に叩きつけられるが、受け身をとって衝撃を最小限に。幸い、吹き飛ばされることにおいてはベアトリスに不本意ながらに鍛えられている。

 

立ち上がり、たった今自分の身に何が起こったか理解しようとハヤトは困惑顔を浮かべる。自分は攻撃を仕掛けたはずがいつの間にか宙に投げ出され、吹き飛んでいた。

 

ダメだ、文字だけでは理解できない。

 

 

「単純なことさ。力の方向に君をかるぅーく受け流しただけ。たったそれだけのこと」

 

「……この野郎」

 

 

防ぐのに使った手を緩々とした態度のロズワールがハヤトの心を読んだかのように短く解説。言葉だけでは単純だが、それがどれだけ難しいことかを知っているハヤトは明らかな動揺を見せた。

 

決して重くない体重。それを最も簡単にちゃぶ台返しの要領でひっくり返し次撃を放つ。一連の流れに乱れなどあるわけもなく、吹き飛ばされたハヤト自身がその光景に感心してしまう。

 

 

「さぁ、どんどん打ってくるといい。一発でも当てられるといいけどねぇ」

 

 

言い、口角を釣り上げるロズワール。楽しそうに構える姿は自然体そのもので、ふとした拍子にあくびでもかきそうな気配がハヤトにはしてきた。その余裕の理由は相手と自分の格の差か。

 

 

 ーー遊ばれている。

 

 

たった一合。それだけでロズワールとの実力の差を肌で感じ取ったハヤト。まだ一撃、それも手加減に手加減を重ねた一撃しか受けてないのにも関わらずそう思うのは間違えではないだろう。

 

今この瞬間、ロズワールという一人の男の背中に 阿修羅のような存在を感じ取る。気のせいかそうでないかの話ではない。確実に居る。

 

 

「来ないのかい。まさか、怯んでるとでも? 猪突猛進の君が? 壁があったらとりあえず正面から突っ込む君がぁ?」

 

 

肌がピリつく。とはこういう感覚のことを表すのかと初めて実感するハヤトがなかなか動かない事を察したのか、ロズワールが挑発するような言葉を発した。

 

向けられたオッドアイから覇気に近い異様な気配が飛ばされる。押し込むように威圧するそれは正に武の達人が取り巻くものに他ならず。

 

しかし、それを前にハヤトは笑う。

 

握りしめた拳を今一度強く握りしめ、すくみそうになる両脚に喝を入れる。姿勢を低く、まだ自分の心は折れてない。

 

 ーー怯む? ふざけているのか。むしろ、自分より遥かに強い相手と戦えることに感極まりそうなくらいだ。

 

 

 

「その余裕、ぜってぇに崩してやらァ!」

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

その戦いは初めからハヤトに勝ち目などないものだった。ハヤトが仕掛ければロズワールが軽くあしらうという形が永遠と続き、あしらわれた直後に軽く打ち込まれる。

 

単純に格の差がありずきた。いくら空手で武の心得があるハヤトと言えど所詮は常人並み。アクラを詠唱しても常人は超人には勝てない。

 

攻撃を仕掛けては流され、受けられ、避けられ、最終的には反撃を入れられる。自分の力の無さを嫌でも自覚させられるが、それだけで止まる理由にはならない。

 

 

「ほいほいっと。一回一回の攻撃に力が入り過ぎ。感情に流され過ぎないこと。それは、君の美点であり弱点だぁーからね」

 

「おらァ!!」

 

 

打ち込み、止められ、掴まれる。

 

直後、怪人のような怪力を以ってしてロズワールはハヤトの肉体を地面に押さえつける。外見の細身からではとても想像できないありえない力が前に進む彼を地に伏せさせた。

 

抗うことすらできない力とは、このことをいうのだろうと土の感触を頬で感じるハヤトは思う。抗う、というか、抗うことを考える暇すら与えられぬまま気付けば自分はロズワールにやられている。

 

強いのは知っていたが。こうしてそれを向けられると改めてこの男の人外さが身に染みる。魔法だけでなく体術までもが至高の領域だ。尤も、今の彼は半分の力も出してない、余裕モードだろうが。

 

だが、そうだからこそ燃える。自分よりも強い相手と戦える、自分よりも強い相手がいる。どれだけ手を尽くしても勝てない相手に挑むのは嫌いではない。

 

だからハヤトは地に押さえつけられ、伏せられた状態だとしても決して攻撃の手を緩めることはしない。炎が燃え尽きる刹那まで猛り続ける。

 

 

「ナメ…、んなぁぁ!!」

 

 

そう吠え猛った直後、ロズワールの真下で暴風に近い衝撃波が荒れ狂う。呼応するように、彼に纏われた黄金の闘気が勢いを増し、押さえつけたロズワールもろとも飲み込みにかかった。

 

「ほぅ」と感心するように息をこぼすロズワールへの応酬は倍以上に増加した怪力が地面を蹴り上げたことによる衝撃。全身を押さえつけられながらも残った左足のみでハヤトは跳ね起きた。

 

無理やり体を起き上がらせ、尚もハヤトは止まらない。腕の筋肉が膨れ上がり、一瞬だけ闘気を爆発させた直後、掴まれた両腕をロズワールごと薙ぎ払ってぶん投げる。瞬間的にアクラの許容上限を超えて強化し、力でゴリ押しした形だ。

 

予想外か、それとも気を抜いていたか。不覚にもぶん投げられたロズワールだが対応にラグは無い。危なげなく着地しーー真上に大きな影が覆いかぶさった。

 

 

「しゃらァーーッ!!」

 

 

叩き込まれんとするのは跳躍したハヤトによる踵落とし。許容上限を超えてアクラを使用したことによる反動を引きずりながらも彼は肉体を踊り掛からせた。

 

僅かながらに力の均衡を破ったハヤトが本能的に選択した一撃必殺。常人の骨ならば軽々しくへし折ることを可能とする純粋な暴力。

 

ロズワールが着地したとほぼ同時に迫るそれには回避という選択肢が無い。それは一時的にアクラを許容上限のギリギリまで使用したハヤトが奪い去った。

 

完全にハマった。心の中でそう確信するハヤトが歯を食いしばり全霊の力を込めて叩き付ける。幾度となくあしらわれた屈辱をこの一撃にーー!

 

 

「惜しい」

 

「なーーっ!?」

 

 

が、相手は宮廷筆頭魔導士。まだハヤトの手が届くような相手ではない。

 

まさかの光景に何度目かの驚嘆の声をあげるハヤト。それもそのはず、確実に決まったと思った一撃を受け止められたのだから。

 

真上から叩きつけられた踵落としが捉えたのはロズワールの頭天ーーではなく脳天で交差した両腕。回避できないなら受けとめるまで。あたかもそう語るように彼の動きに乱れはない。

 

しかし、それなりに代償はあった。衝撃箇所から内側へと伝うようにロズワールの身体の中で骨が軋む音が連鎖し、受け止めた両腕が軽く痺れた。力を込めてなければ体を持っていかれる。

 

 

「今のは良かった。けど、少し決定打を急ぎ過ぎたねぇ。焦らないこと。これ重要だから」

 

 

不敵に笑うロズワールが接した足首を両手で掴んで地面に叩き付ける。ついてくるハヤトの肉体が背部からの衝撃に耐えきれず血混じりの酸素を吐き出した。

 

魔獣とはまた違った方向の激痛、打撃による被害にハヤトは身を震わす。覚悟していたがここまで通用しないとは男として情けないというもの。

 

自分のやれる全てを注ぎ込んでもこの男には勝てない。息を切らす自分と違って向こうは穏やかなリズム、土汚れの目立つ自分とは違ってロズワールは汚れなどない。

 

格の差がありすぎる。二度目にして驚愕する思いだ。ーー尤も、それを理由に膝をつく方が男として情けないというもの。

 

 

「まだまだぁ!」

 

 

足が解放されるのをきっかけに跳ね起きたハヤトが左腕を振り抜いた。回避され、側面を取られるも振り抜いた拳の裏拳がそれを追跡せんばかりに薙ぎ払われる。

 

半歩距離を取っただけで回避するロズワールに襲いかかるのは裏拳を放つと同時に身を回していたハヤトの右拳。流れに任せて追撃の追撃として慣れ親しんだ動作を選択した。

 

受ければ間違えなく骨が軋むであろうその拳は、ウルガルム程度の魔獣ならば簡単に頭蓋骨を砕ける純粋な破壊。

 

 それを、

 

 

「バケモンかよ、お前は」

 

「酷い言いようだねぇ」

 

 

ドスン、と鈍い音が鼓膜を叩き。それは拳が受け止められていることをハヤトに理解させた。なんの冗談か、ロズワールはその拳を左腕で受け止めている。

 

しかし、軽々というわけでもないらしい。始めたばかりの時とは力の入り方が全然違う。確実に受け止めに来ている人間の力の入り方をしている。

 

それが何を意味するか、分からない。けど、受け流してこないなら展開の仕様はいくらでもある。

 

密着状態にある両者。先に動くのは当然ハヤト。上に意識が向けば下が厳かになると彼は本能的に姿勢を低くして足払い。決して柔らかくない股が悲鳴を上げたが、無視。

 

が、悲鳴を上げる股とは裏腹に軽く跳躍することでそれは回避される。下も警戒されていたのか完全に振り切られた。けどそれでいい。大事なのはロズワールが空中に身を晒すことだ。

 

 

「っら!!」

 

 

身に迫る蹴り上げを寸前で回避したハヤトが地面を叩いて立ち上がり、「ほっ」と息を吐く。神経を研ぎ澄ませ、感覚に身を委ねる。狙いは一瞬、そのタイミングに意識を集中させた。

 

視界に捉えたのは地面に着地する寸前のロズワール。両足が地面にくっつき、その足裏が完全に合わさった瞬間、

 

 

「ここだぁ!!」

 

 

ここぞとばかりに咆哮したハヤトが全身を横に回して激しくローリング。着地したばかりの男の横っ腹に回し蹴りを叩き込んだ。速さは上等、遠心力を加えた蹴りは狂いなく突き進む。

 

ハヤトが狙った瞬間。それは、ロズワールが着地した直後だった。両足が地面に着地し、下へとのしかかる重力を全身が吸収する瞬間。ほんの僅かに人間は動きに乱れが出る。

 

日常的には些細な遅れだが、戦闘中となれば話は別。それを味方にした方に軍配が上がる。ならばこの勝負はハヤトに軍配が上がるだろう。

 

 が、

 

 

「んー。ほんと、惜しいねぇ」

 

 

その声を聞いた途端。ロズワールを捉えていたはずの視界は後ろを向き、横に蹴ったはずの脚が真上にかち上げられる。

 

何があったか、ロズワールが真横から豪速で薙ぎ払われたハヤトの脚に合わせて自分の足を蹴り上げただけの話。

 

そこそこに鋭い攻撃だった。しかしロズワールからすれば視える速度、横の攻撃に対して真上に捻じ曲げるという離業を最も簡単に成し得て、回し蹴りを迎撃。そのまま上に流された自分の脚に体が持っていかれてハヤトの肉体はひっくり返る。

 

落下によるラグを感じさせない流れるような動きが、横の力を真上に捻じ曲げる。横に薙ぎ払われた足の軌道上に自身の蹴り上げを割り込ませ、ドンピシャで当てる。

 

一連の流れを文章にすると、単純かつ明快だが。その中にどれほどの技術が詰め込まれているか。考えたくもない。

 

 

「ぐーーっ!」

 

 

似たような光景をついさっき見た気がする。と、心の中で思うハヤトの視界の天地が、またしてもひっくり返り。お返しとばかりに横っ腹に捩じ込まれた衝撃に彼の肉体は強制的に流され、

 

 

「これもダメかよぉ!?」

 

 

 

まだ自分では敵わない相手だったかと痛感することに、彼は捨て台詞を残して壁に衝突するのだった。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「うん、今日はこれまで。基本的な動きはできているが、対人戦はまだまだ未熟だ。まぁ、回数を熟せばそれも改善されると思うけどねぇ」

 

「お、おぉ」

 

 

ハヤトを見下ろすロズワールが感心するような声色を発しながら息を吐く。ハヤトといえば、芝生の上に倒れ伏してる真っ最中であった。額からは汗が垂れ続け、服の所々に打撃の跡が残っているところ、相当な戦いをしたのだと予想できる。

 

対するロズワールは汗一つかいておらず、それどころか土汚れ一つ無い。そんな姿を見ると、彼には疲労の二文字がないのかと疑問に思い始めたハヤト。やはり相手にすらなっていないのだろう。

 

ボロボロのハヤトと、ピンピンしてるロズワール。正しく格の違いが形としてハッキリと表れてる一場面だ。

 

 

「まぁー? 初めてにしてはいい方だと思うよ。筋も悪くないしねぇ。わぁーたしも中々に楽しめた。久々に時間を忘れてしまっていた」

 

「この野郎、余裕かよ。だが、言い返す言葉も見つからねぇよ。完全に遊ばれてたし」

 

「何度か焦らされた部分があったことは否定しないであげるとも。まっ、九割は子どもと戯れてる感覚だったけぇーどもね」

 

 

初めの評価に対して「はぁー?」と口から変な効果音を溢すハヤト。本気でやりにかかったけれど、ロズワールからすれば子どもと戯れてる感覚だったと。実際にそうだった。

 

攻撃を仕掛ければ。自分の体は宙を舞って転ばされ、或いは吹き飛ばされ、或いは投げ飛ばされ、或いは仕掛け返される。受ける場面も何度かあったが殆どが軽々しく受け流されていた。

 

改めてロズワールという男の強さを実感したハヤト。この男は強い。魔法だけではなく武術までも。

 

 

「覚えとけよ、ロズワール。次やる時はその土手っ腹に重たい一撃ぶち込んでやるからな」

 

「ほぅ、そぉれはそれは。楽しみにしているよ」

 

 

闘志みなぎるハヤトが見下ろすロズワールに睨むような視線を鋭く送り、受け取ったロズワールは楽しそうに笑う。

 

今のハヤトは、戦いや熱が冷めきっておらず。そこそこ血気盛んな雰囲気を纏っているが、それに怯む様子など特に見られないロズワールだった。

 

またしても完敗した気分になったハヤト。鋭い視線を送っても尚、ロズワールは相手にすらしてくれない。自分への挑戦者、その悪あがきを嘲笑うようにただ笑う。

 

いつか必ずやってやる。ハヤトは今この時を以て心に決意した。近い将来、今日の雪辱を晴らすために、或いは雪辱することになる日々の仕返しをするために。

 

 

「それじゃっ、私は屋敷に戻るとするよ。ハヤト君、今日はお疲れ様。次も楽しみにしているよ」

 

「おうよ! 俺の方こそ、次もよろしくな!」

 

 

強気に笑うハヤトにロズワールも笑い返し、それをキッカケに鍛錬は終わりを告げる。数時間と休憩なしに永遠と続いていた鍛錬は終了した。

 

 

「……ふぅ。疲れたな」

 

 

全身の力を抜いて脱力。ふと、空を見上げると空色が夕日の色に染まりつつあった。確か、稽古を始めたのがお昼過ぎだったから数時間単位で没頭していたらしい。

 

気づけなかった自分も自分だが、ここまで長引かせたロズワールもロズワールだろう。休憩の時間すらもなくひたすらに打ち込むだけとは。

 

 

「くそ……。一撃も打ち込められなかったか」

 

 

鍛錬を振り返り、拳を地面に打ち付けるハヤトが「ムッ」と表情を歪める。格の差がありすぎると分かっていてもあんなに通用しないとは思わなかった。一撃、たった一撃も入らなかった。

 

何十、何百と打ち込んだ末の結果だ。それを思えばどれだけロズワールが化け物なのかがよく理解できた。今の自分では勝てない、勝てるはずもない。

 

 

「もっと強くならねえとな。今よりもずっと」

 

 

拳を空へと突き出すハヤト。その目を見れば彼の瞳には真っ赤な炎が炎炎と燃えているのが映し出され、心の奥底から赤色の感情が噴き上がってきている。楽しげに頬を釣り上げる彼は満遍の笑みを浮かべていた。

 

その様子を見れば、落ち込む様子など一切ない。完膚なきまでに倒されながらもハヤトは前を向き続け、次へ次へと気持ちを昂らせていく。

 

正直なところ。今ハヤトの中には二つの感情が渦巻いていた。一つはボコボコにされてとてつもない悔しい気持ち。もう一つは自分よりも格上の存在と戦うことができる喜び。

 

どれだけやっても届かない拳、挙句反撃されて倒れる始末。とてつもなく悔しい。けど、本気で挑んで勝てない相手がいると嬉しくなってくる。ソイツを倒すためにもっと頑張れる気がする。

 

ロズワールを倒す。は、ほど遠いからまずはロズワールに一撃入れることからーーーー、

 

 

「ーーいや、ロズワールを倒すだな」

 

 

 ーー何を弱気になる必要がある?

 

 

そう心に喝を入れるハヤトが新たな目標を口に発して大きく頷く。一撃を入れるのでは足らない、そんな心構えで鍛錬していては絶対に届かない。

 

だから、倒す。ロズワールをぶっ倒すつもりでこれからは鍛錬に臨む。目標は大きく壮大に。壁は高ければ高いほど乗り越えた時に気持ちいいのだ。

 

だから、

 

 

「やっってやるよ! 見てろよロズワール、いつか必ずテメェのことをぶっ倒してやるからなぁ!」

 

 

跳ね起きたハヤトが背筋を伸ばして空へと声を上げた。特大の声量で響く声は、いつになく明快なものとして空へと轟き、轟き、轟き続けた。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「なにか言うことは?」

 

「いやマジで悪ぃ。夢中になってた」

 

 

因みに、その会話は数分後のこと。屋敷のことを無視して鍛錬したハヤトの代わりに、彼の仕事を自分のにプラスしてやってあげたテンとの会話。

 

肩を窄めて正座するハヤトと、ポケットに手を突っ込んだ無表情のテン。感情の抜けた無色の瞳に見つめられ、ハヤトは完全に萎縮気味。

 

 

「次やったら窓から突き落とすからな」

「へい!!」

 

 

遠回しに「次やったらぶっ殺すからな」と言われたハヤト。言い返すことのできない彼は、その後しばらく正座したとかなんとか。

 

 

「それでしたら、テン君はお疲れですよね? でしたらお休みになられますよね?」

 

「ん? いや、別にもう夕飯の支度だから」

 

「分かりました! では、ご夕飯の時間になったらレムが起こしに行きますので。ゆっくりしていてください」

 

「俺の声は届いていますか?」

 

 

 

「それで? 脳筋、ロズワール様はどうだった」

 

「強ぇ。とてつもなく。一撃も入らなかった」

 

「当然ね。一撃でも入ると思ってた自分を恥じるといいわ。脳筋なんてロズワール様の足元にも。いえ、比較するのがロズワール様への侮辱になってしまうわ」

 

「素直に傷つくんだが」

 

 

 

そんな会話も、あったりなかったり。

 

 

 

 

 

 






日常を好き好んで読んでくださっている方々には申し訳ないですが、ここから先、戦闘描写が増えてきそうです。二人には原作に向けて強くなってもらう必要がありますからね。

「あれから一ヶ月が経ったーー」みたいな風に進めてもいいんですが。それは、ある程度の力がついてから。どうせなら、二人がロズワールにボッコボコにされる過程をお楽しみください。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。