親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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そういえば、いつの間にかUAが一万を超えましたね。始めた当初はこんなことになるとは考えもしませんでした。

つまりはあれですね、私の小説が少なくとも一万回は皆さんの暇を潰せている。ということですね。






一週間の過程:中

 

 

 

 四日目、午後

 

 

 

「ほがぁーーっ!?」

「うらぁ!」

 

「はぁーい、お疲れさまぁ」

 

 

中庭に男二人の気合の声と断末魔、男一人の気の抜けたような声が絶え間なく聞こえ続ける。同時に肉体と肉体が打ちつけられるような鈍い音、芝生が激しく揺れる音、更には叩きつけられるような音も聞こえてくる。

 

音の発信源はその三人。

 

 

「う、らァ!!」

 

 

一人ーーたった今、回し蹴りを繰り出したハヤト。黄金色のオーラを纏う彼は通常の何十倍にも軽くなった肉体で正面に捉えるニヤけ面の長身へと攻撃を繰り出した。

 

速度は十分、素早く身を回した回し蹴りは大気を押し退けながら標的の横腹へと一直線薙ぎ払われていく。

 

 

「ほいっと。良い速さだねーぇ」

 

 

もう一人ーー回し蹴りを軽い跳躍で回避したロズワール。余裕そうな彼は過ぎ去る足を見限ると不意に背後へと裏拳を打ち込んだ。宙に身を晒した状態でも彼の動きに乱れはない。

 

手に当たる肌の感触にロズワールが不敵に笑えば豪速で振り抜かれたそれが三人の中の一人、最後の男の顔面に直撃、力の方向に吹っ飛んでいく。

 

その一人ーー受け身を取るテンだ。ノールックで頬に捩じ込まれた痛みを無視する彼は再度、ロズワールの肉体へと自分の肉体を踊りかからせ、二対一の構図が完成、三つの影が入り乱れた。

 

 

「くっそ……!」

「おおーーッ!」

 

 

背後と正面。反する方向からの暴力に、しかしロズワールは余裕そうな態度を決して崩さない。

 

後ろへの一撃でテンを黙らせ、正面から迫る太い腕を掴んで投げる。追撃に跳躍すれば長い足がうねりを上げてハヤトの腹に叩き込まれた。着地を狙った蹴りが背後から迫れば、素早く身を回して打ち落とす。

 

薙いだ足が地面へと叩きつけられたテンは続く蹴り上げに対して咄嗟に顎をしゃくるように体を逸らし、晒した土手っ腹に掌底の威力が捩じ込まれてまたしても吹っ飛んだ。

 

 

「やっぱダメか……?」

 

 

芝生を転がるテンは流法が解かれた感覚に舌打ち。どうやら、強い衝撃を受けると流法は解け、再度発動する必要があるらしく。一撃入れられるごとに解けるものだから、戦うのも一苦労だ。

 

加え、ハヤトよりも武術に関して疎いテンでは二人の戦いには追いつけない。現に、こうして呆気なくやられた。

 

依然として彼の正面では格ゲーを思わせる体術と体術の激しいやりとりが交わされ続け、それを見ていると自分の蚊帳の外感が否めないテン。しかし、彼は流法を使い、果敢に挑んでいく。

 

 

 

その結果はーー、

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 四日目、夜

 

 

 

「ハヤト」

 

「おう、どした?」

 

 

ハヤトの鍛錬場所にテンは顔を出した。この時間、いつもなら自分の場所で集中しといるはずの彼は見慣れたシャドーボクシングをするハヤトの下へ。

 

聞こえた声にハヤトが振り向き、その視線の先には、脱いだ上着を手に持ちいつになく真面目な顔をしたテンがそこにいて。珍しい表情、自分のことを真っ直ぐ見てくる瞳にハヤトは「どした?」と二度、問いかける。

 

不思議そうな表情のハヤトにテンは「あのさ」と言葉を繋げると、

 

 

「俺に、体術を教えてくれ」

 

「……もしかして、今日のこと根に持ってる?」

 

「もちろん」

 

 

即答するテン。一言ながらに熱のこもったそれにハヤトは苦笑し、数時間前ーーロズワールと二対一をした時のことを思い出した。

 

あれはテンにとっては自分の無力さを改めて実感させられる事とだったとハヤトは振り返る。テンはハヤトと違って魔法寄りの戦を好むため、体術だけの戦いについていけるわけもなく。結果としてテンはロズワールに吹き飛ばされ続けた。

 

仕方ないことではあると思う。テンはこれまで流法に専念してきたのだから、ハヤトとは体術を学んだ時間が違う。追いつけないのも当然。だがそれをテンは良しとしない。

 

 

「一芸だけで騎士をやれるとも思えないし、それに俺も自分の体を操れるようになりたい。お前みたいにカッコよく体術を使えるようになりたい」

 

「そうか。んで、本音は?」

「ロズワールの顔面をぶん殴りたい」

 

「それが聞きたかった」

 

 

取り繕った理由を剥がして出てきた本音にハヤトは楽しげに笑う。そうだ、彼だって男、やられるだけやられて終わるほど落ちぶれていない。それに無力感を感じつつも彼は戦いの場から逃げる事など決してしなかった。

 

その時点でハヤトは、テンがロズワールに対して野蛮な感情を抱いているとは何となく察していた。だって自分だってそうなのだから。やられたい放題されて終われるわけがないだろう。

 

拳を合わせるハヤト。彼は「うし!」と一声上げると、

 

 

「なら、俺からは体捌きと蹴り技と相手の殴り方の三つを教えてやるよ。足捌きはやってりゃ勝手についてくるから、まずはその三つをお前の体に叩き込んでやる」

 

「よろしくお願いします」

 

 

腕を組んで楽しげにハヤトが口角を上げる。なんだか、弟子ができたような気がした彼はなんとも言えない満足感が心に訪れて。

 

そんな彼に腰を折るテンは密かに拳を握りしめ、必ずやり返す事を心に固く決意した。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 五日目、昼。

 

 

 

「これでどうかしら!」

「ふげぁ!? もっと!」

「なら、こんなもんかしら!」

「いぎゃあ!? まだだ! もっと!」

「ったく。いつまでやるのよ!」

「ふべぇ!? まだだぁぁあ!!」

 

 

中庭にて一人の男の声と幼女の声が澄み渡る青空へと高く高く木霊する。それだけではない、不意に発生する突風のような衝撃波に芝生が煽られていつにも増してざわめき、同時に男の声の唸り声が遠くへと飛んでいく。

 

声だけ聞くならば完全にSMプレイまっしぐらだが、生憎と幼女に踏まれて喜ぶ性癖は持ち合わせていないその男ーーテン。彼は魔力によって生じた衝撃波に吹き飛ばされる。

 

受け身をとって体制を立て直せば再度、身体に熱を纏わせて、「まだ、もっとじゃあ!」と半ば投げやり感を見せつつ彼は正面の幼女ーーベアトリスへと疾走していく。

 

むきー! とでも言いたげな表情のベアトリスはその度に手を前に突き出して魔力の衝撃波。厚い壁に押し出されるようにテンは成す術なく後方へとぶっ飛ばされていった。

 

 

「……ちょっとやり過ぎじゃない?」

 

「テンなら大丈夫だろ。頑丈だからな」

 

「ベティーもにゃんか楽しそうだし、ボクは別に良いと思うけど」

 

 

その会話はテンとベアトリスが作り出す光景を外から見ている者達。上から順に、テンのことを心配そうに見つめるエミリアと腕を組んで傍観するハヤト、最後にエミリアの膝に乗っかるパックによるものだ。

 

木陰に座り込んだエミリアが膝の上で毛繕いするパックの毛並みを整えるのを横目に、仁王立ちでテンの鍛錬を見守るハヤト。それら三人に二人の間に割って入るような気配は見られない。

 

 

 ーーなぁベアトリス。ベアトリスってハヤトのことよく吹き飛ばしてたよね?

 

 ーー言い方に語弊があるかしら。ベティーはただ、ベティーの領域にずけずけと踏み込んだ不届き者を追い出しただけなのよ。

 

 ーーじゃあそれ俺にもやってよ。

 ーーついに頭がおかしくなったかしら。

 

 

事の始まりはそんな会話からだった。

 

パックが食卓に顔を出す時に限って同席するベアトリスにふと思い立ったテンの口からまさかの発言。聞いていた人間は、ついにテンの頭がイカれたのかと本気で疑った。

 

しかし当の本人は至極真っ当な表情、ふざけている様子など一切ない。理由を聞いてみれば、

 

 

 ーーだって、俺の流法。外部から衝撃受けて意識が乱れたら直ぐに解けちゃうんだもん。なら、ハヤトを吹き飛ばし慣れたベアトリスならいい感じに優しく俺のことも吹き飛ばしてくれるかと。

 

 ーー煽ってるのかしら。絶対に嫌なのよ、お前の要件なんて聞く義理はベティーにはないかしら。

 

 ーーそこをなんとか! ベアトリスちゃん、さん、様、精霊様、大精霊様、殿方、閣下、武将!

 

 ーーおい、お前の中のベアトリスがどんどん捻じ曲がってるぞ。

 

 

と、テンが膝をついて頭を下げるなどの一件もあった。

 

テンのしていることを簡単に要約すると。現在の流法の熟練度では、外部からの衝撃で意識が乱れたら強制的に解かれてしまう。だから、そうならないように対策しようというもの。

 

それで導き出した答えの脳筋ぶりに誰もが「馬鹿なのか、コイツは」と思ったがベアトリスとラム以外は口には出さなかった。

 

 

 ーーそう言えば、ちょうど茶菓子を切らしていたのよ。ベティーの言いたいこと、お前なら分かるかしら。

 

 ーー分かった、買ってくる!

 ーー交渉成立なのよ。

 

 

思い出したようにそう言ったベアトリスにテンが食いつけば「コイツ、単純だ」とでも言いたげに彼女は笑い、交渉は成立。

 

 そして今に至る。

 

 

「まぁ、菓子ひとつでテンの頼みを引き受けるベアトリスも大分単純な奴だけどな」

 

「彼女なりの優しさなんだと思うよ。ベティーはああ見えて少しだけ恥ずかしがり屋さんだから」

 

「少し? とんでもねぇな」

 

 

ハヤトに頭撫でられたくらいで頬を真っ赤にする幼女のどこが『少し恥ずかしがり屋さん』なのだろうか。『超恥ずかしがり屋さん』の間違えじゃないだろうかと息を溢した微笑をハヤトは浮かべる。

 

加え、普段は寂しそうな雰囲気を出してないくせに。ハヤトが部屋から出ようとすると、必ず僅かな哀愁を漂わせるベアトリス。

 

彼女は「やっぱ、もう少し残るわ!」とハヤトが言いながら戻ると、嬉しさを隠すように「ふん、早く出ていくかしら」と言うという。

 

 

「やっぱ『超』じゃなくて『パイパー照れ屋さん』にしたほうがいいな、うんうん」

 

「それ、本人には黙っておいた方がいいと思う」

 

 

自分の中のベアトリスがパイパー照れ屋さんにランクアップした気配に一人でにハヤトが笑えば、横からエミリアが苦笑するように声をこぼした。

 

 と、

 

 

「ふっ! ほっ!」

 

 

前方、例によって海老反りする形で吹き飛んできたテンが宙で脚を振り上げると低空で半回転。天と地が逆さまの状態ーー逆立ちの体制でテンは両手を芝生へと叩きつけて跳ね飛ぶ。

 

バク転のような軌道を描く脚は彼はそのまま芝生へと足裏を合わせる、柔軟な身体を存分に活かした見事な着地だ。

 

 

「おぉ、受け身上手くなったな。今のはカッコよかったぞ」

 

 

「おー」とパックとエミリアが軽く拍手を送る横でハヤトも受け身の上達度合いに感心した。ロズワールとの戦いを見た感じ受け身を取るのは得意そうな雰囲気だったが、ベアトリスによって不本意にも更なる磨きがかけられていたようで。

 

基本、この鍛錬を始めた時からテンは突撃しては飛ばされての繰り返し、かれこれ五十回は超えてきただろうか。そんな中、三十回を超えた辺りからテンの受け身が唐突な上達を見せていた。

 

受けた衝撃を地を転がるように身を回して散らし、或いは跳ね飛ぶなどと。受ける被害と反動を最小限に抑えて彼は素早く起き上がる。そうすればベアトリスに特攻、吹っ飛ばされる。

 

そんな動きを見せた当の本人は既にハヤト達の前から消えていた。賞賛の声をガン無視する彼は常人には到底発揮できない速度で狼のように駆け出して行く。

 

 

「なんだろう。テンの動きがさっきより良く見えてるのは私だけ?」

 

「いや、気のせいじゃねぇと思う。感覚でも掴んできたんだろうな」

 

 

ベアトリスの声と同時にぶっ飛んだ瞬間、素早く身を回して地面を転がって跳ね起き、再度突撃。数分前と比べたらその動きに無駄がないことに気付いた傍観者たち。

 

付け加えると、彼の動きもキレキレになってきた。吹っ飛ばされてから突撃するまでの間隔が回数を増すごとに短くなっているのだ。

 

それが意味するのは流法の上達。受け身の上達も理由と一つだろうが一番はそれ。身体能力が強化されれば自然と体も動かしやすくなって受け身の上達にも繋がると。

 

 

「……掴んできたかしら」

 

 

テンのことを直接相手にする彼女がその変化に気付かないわけがない。二人の意見交換の最中、ベアトリスも気付いたように呟いた。否、少し前から気付いてはいた。ただその確信が持てなかっただけで。

 

けど、確信が持てた。開始時と比べれば格段にキレを増した彼の動きは明らかに"使っている"人間のそれ以外にない。それに、始めは衝撃ひとつで流法が解かれるから発動し直すための時間を設けていたが、今はそれもない。

 

確定だ。自身の発したマナの防壁に対して真横への回避を選択したテンから伸ばされた手を避け、ノータイムでそれを放つベアトリスは密かに頭を頷かせた。

 

 

「にゃっ? 今のは惜しかったね」

 

「だな。あと少しでタッチできそうだったのに。まぁ、あと数分もすればやれるだろ」

 

 

エミリアに毛並みを整えてもらったパックがふわふわと浮遊してハヤトの横に浮かび、顎に手を当てて感心するように目を細める。頷くハヤトも彼の成長ぶりに満足そうな声色だ。

 

そもそも、この鍛錬の着地点はテンがベアトリスにタッチすること。流法の強制解除を克服した彼が流法を纏いて彼女の身体に手を触れさせればその時、鍛錬は終了する。

 

開始時はあまりの悲惨さに無理かと思ってしまったが、ようやくその気配が漂ってきた。

 

 

「ーーしっ!」

 

 

これで何度目になるか。ぶっ飛ばされる感覚に心と体が慣れるという異常な事実を無視するテンは蓄積した痛みを振り切って地を蹴り上げる。それは、いつかのウルガルムを彷彿とさせる疾走だ。

 

空気抵抗を少しでも減らすために、前傾姿勢で走る。両手に力は込めている、いつでも伸ばせる体制で彼は駆ける。

 

身体を巡る熱をじわじわと感じる。流法の強制解除はいつの間にか克服したか、多少の乱れでは解除されなくなった。

 

 ならば、後はこの手を伸ばすのみ。

 

 

「ーーーー」

 

 

無表情、とは言い難いベアトリスの手から放たれたマナの防壁。押し出すような衝撃波を感じたテンは再び真横への回避を選択した。踵で蹴り、前の力を横へと無理やり捻じ曲げるように。

 

それはもう知ってる。側面を取られたベアトリスだが同じ動きが彼女に通用するわけもなく、予測済みと言わんばかりにもう片方の手を伸ばすーー衝撃波の予備動作だ。

 

このままならばテンは成す術なくぶっ飛ばされるのだろう、また特攻しての繰り返しとなる。けどテンとてそれは理解してる。意味もなく同じ行動をしたわけではない。

 

 

「ふっ!」

 

「なーーっ!」

 

 

身を屈めたテンがバネのように起き上がった瞬間、肉体が飛んだ。今までのとは違う、真上に跳躍する彼はほぼゼロ距離で放たれた脅威を回避してみせた。

 

予想外の動きに目を見開くベアトリス。同じ動きに続きのあった事よりも、顔を見上げる高さまで跳躍した事に彼女は驚き。しかし攻撃の手に乱れはない。

 

わざわざ身動きのできない上に飛んでくれたなら変に狙う必要もない。豪快にぶっ飛ばすつもりで彼女は両手を掲げる。手の平の向かう先、そこには身を晒したテンがいる。

 

少々驚かされたが、そこでお終い。彼の健闘を嘲笑うように彼女はニヤリと口角を釣り上げーー、

 

 両者が動くのは、ほぼ同時だった。

 

 

「フーラ!」

 

 

天空へと片手を突き出すテンが突然の詠唱。途端、手の平のから爆発のような風が生み出され、結果として押し出される彼の肉体が地面へと変則的な急降下。

 

額を掠める衝撃波に、しかし体制を崩さずにテンはベアトリスの懐へと入り込む。それは、驚嘆の表情を露わにする彼女の反撃よりも速く。

 

そのまま彼は、流れるように彼女の肩をポンと叩いた。

 

 

 決着だ。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 五日目、夜

 

 

その日の夜。ベアトリスの猛烈な攻撃を受けたテンだが、彼が休むことはない。彼はハヤトの下で体術の心得を身体に叩き込まれている真っ最中であった。

 

 

「いいか、蹴りってのは基本的に蹴る足とは反対の足。つまりは軸足に力を入れんだ。回す方の足に力を入れんのは当たる瞬間だけでいい。あとは体幹だな、体の軸が乱れないようにしろ」

 

 

言いながら前蹴り、後ろ蹴り、回し蹴りと様々な蹴り技を実践するハヤト。流石前の世界で空手を学んでいただけあって彼の動きは外から見ても洗練されたものだ。

 

武術に関しては知識の元に成り立っている彼は時折、ポイントなどを言いながら指導。正しく先生のようにテンに一から教える。教えられたテンはその度に実践、ハヤトに打ち込むのだが、

 

 

「違うな。もっと腰を入れて」

「んー、違う。肩を入れる感じで」

「惜しい。軸足がブレてる」

「いい線いってんだが、まだ甘いなぁ」

「だから、回すんだよ。体全体を」

 

 

などと、打ち込めば打ち込んだ分だけダメ出しが返ってくる。特に、回し蹴りに関してはまだ素人。後ろや前などの基本的な蹴り技ならば数時間すれば少しはまともに扱えるレベルには上達したが、それだけがまだ未熟だった。

 

けど、上達は早い。ハヤトが教えれば、教えたところをちゃんと直してより良い一撃を叩き込んでくるテン。彼は教えれば教えた分だけ知識と感覚を吸収していく。

 

上達が早い理由は、これまでの経験値が素となって彼の体捌きが上達したからだろうとハヤトは考えている。他には今日知った事で一つ。

 

受け身を見ていて思ったが、テンは身体を動かすのが比較的得意そうな人間。流法でそれに磨きがかけられていれば型さえ覚えれば体術が身につくのも遠くはないだろう。

 

 

「よし、もっと打ち込んでこい」

 

 

アクラによる強化で身を固めるハヤトは楽しそうに笑みを浮かべるとテンの蹴りを待つ。ひたすらに打ち込ませる手法は感覚を掴ませるのにちょうどいいと語る彼のやり方だ。

 

呼吸を整えるテン。彼はここ数時間でハヤトに指摘されたことを頭の中で整理、その全てをこの一撃に詰め込むつもりで、右脚を薙ぎ払うーー!

 

数々の蹴りを受けてきたハヤトはテンの整ったそれを見て、その形に鼻を鳴らす。満足するような息をこぼす彼は、

 

 

「っらぁ!!」

「おわぁ!?」

 

 

直後、重たい一撃が受け止めるハヤトの右腕に叩き込まれる。その一撃は彼の予想を超えたもので力の方向に流されて真横へと軽く飛ぶ。防御を貫通するとは、中々の威力だ。

 

「ごめん!」と駆け寄るテンに立ち上がるハヤトは手を振ると、

 

 

「今のは良かった。いい感じだぜ」

 

「マジ? よっしゃ!」

 

 

自分的にも一番良いのを打てたと感じていたことが間違いではなかったと理解したテンがガッツポーズ。割と覚えの良い彼は三時間程度で蹴り技、その基本となる型を付け焼き刃だが習得する気配を漂わせ始めた。

 

ハヤトも嬉しい。自分の教えたことがテンに伝わって、みるみる成長していく。彼も武の道を歩み始めているのだと思うともっと色んなことを教えたくなる一方で。

 

自分の心がアツくなる感覚にハヤトは拳を合わせる。事あるごとに行うその動作だが、大した意味はない。ただ、気合が入るというだけである。

 

 

「テン、もっと打ってこい。まずは前蹴りの型を身体に覚えさせろ。それができりゃ基本の型は覚えたようなもんだから、やれることも増える」

 

 

基本の型を感覚として覚えれば、蹴り技は今のテンならばきっと形にはなるとハヤトは思う。威力は微妙だとは思うが、形としてはやれるようになる。

 

今の彼はその基本を掴みかけた状態。ならば、自分がちゃんと掴ませ、先生として新たな力をつけ始めた彼の道標となろう。武の道を歩み始めた彼の師匠となろう。

 

格闘の構え。身を固めるハヤトはテンに言い、対するテンも頷き一つで蹴りの構え。流れるように前蹴りを繰り出した。

 

 

 

 

 







このお話は元々一話だったものを三話に分けているので、一話一話が比較的短いです。いつもよりかは読みやすいかも。まぁ、人によってそれは変わってきますが。

一万文字は超えてませんよ!(ドヤ顔)


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