親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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駄文です。色々と考えた結果、ほぼ原作と同じルートを辿るという強行突破にでました。その上無駄に長いという。

少ない文字数で内容の濃い物語を書ける方に尊敬しかないです。


未来への道を歩くために

 

 

二人が朝食の場として案内された場所には既にこの屋敷の人達は殆どいた。レムとラムが居ないのは食事の用意をしているからだろう。

 

ベアトリスが不在なことに違和感を抱くハヤトだが、隣にいるテンはある一人の人物。こちらへとニヤニヤしながら距離を縮めてくる人物だけを見ていた。

 

 

「おーぉや? 昨日運んできた時は死んだように意識を失っていたから心配していたんだぁーけど。元気そうでなによりだぁーよね」

 

「ソラノ・テンです。お陰様で。その節はどうもありがとうございました。感謝してもし切れません」

 

「カンザキ・ハヤトだ。俺からも礼を言うぜ。ありがとうな」

 

 

濃紺の髪を長く伸ばした長身は、要求してもない自己紹介を口にした二人を見て楽しげに近寄る。

 

二人が見上げる身長は百八十センチの半ばだろうか。もやしではないが太ってるわけでもない、どちらかと言えば細身に分類される身体。印象的なのは黄色と青のオッドアイ。そしてピエロを彷彿とさせるメイクと服装。そして口調。

 

紛れもない、ロズワール・L・メイザース。

 

色々とハヤトと話さなければならないことを全部無視してこの人と会ってしまった。それだけは避けたかったのに、この場に呼ばれてしまった。「まぁ、仕方ない」とか思っていた呑気な自分が憎い。

 

顔を引き攣らせるテンに、テンションが上がったのか楽しんだ様子のハヤト。態度の違いすぎる二人を一瞥するロズワールは二人の肩を叩き、

 

 

「ハヤト君はだいぶ自然体でいるようだぁーけど。まぁまぁ。そんなに緊張することはないよ、テン君。とにかく二人は席に座ってくれたまえ」

 

 

言い残して上席へとロズワールは足を進めて行く。その背中を視線で追いつつ、言われた発言にハヤトの発言を思い出したテンは内心「コイツ、なに敬語崩してんの!?」とか思わなくもない。

 

相手はこの屋敷、否、この領土の中で名目上は一番偉い人。そんな人に向かって「ありがとうな」とか、思い出して心臓が軽く跳ね上がった。

 

テンが自分に対して控えめな殺意を向けているとも知らず、ハヤトは釣られるように足を進めて行く。あまりにも能天気すぎる態度、流石のテンも「待った待った」と彼の手を掴んで体を引き寄せると耳元に口を近づけ、

 

 

「いいか、俺たちは何も知らない人間。何を言われても初めて聞いたように装え。原作なんて説明しても理解されないからな」

 

「あー、分かった」

 

「あとお前、ロズワールが何者か知ってるよね? 御領主様だよ? 偉い人なんだよ? そんな態度してたら殺されるかもしれないんだよ?」

 

「それは流石にないだろ。別に緊張することなんてないぜ。ほら行くぞ」

 

 

用心深く、おどおどするテン。

能天気で、堂々とするハヤト。

 

正反対の様子の二人は短く言葉を交わし、ハヤトが先導するように歩き出した。追いかけるテンも足早に彼の隣に並ぶ。相変わらずのハヤトにはため息しか出てこないが、とりあえず余計なことを言うのは防いだと彼は安堵の息をこぼした。

 

今の自分たちは異世界に召喚された世間を知らなさすぎる二人。まして、誰が王選候補者か公の場に公表されてない以上「エミリアはそれだろ?」なんて口を滑らせた時には首が飛ぶ。

 

何も知らない。知ってない。知るわけがない。

 

この言葉を常に心に留めておく。

 

そう思うと、自分達の身元をどうやって説明すれば良いか。よく分からなくなった。目を開けたら森にいましたーーとか不審な人物すぎる。

 

 ーーどうしよう。

 

頭を悩ませる要因がまた一つ増えたことに、テンは別の意味でため息を吐いた。

 

 

「それじゃ、お邪魔します……」

「なら俺はお前の隣だな!」

 

 

心が沈んでいくテンがそう言ってエミリアから椅子を一つ挟んで座り、その隣に心が踊るハヤトが陣取る。人数が少ない割にやたらと椅子が多いのは何故なのか。

 

広い食堂には白いクロスのかかった大きな卓が置かれ、奥の上座から手前の下座まで十席近く椅子が並んでいる。すでに食器の置かれている席がいくつかあるので、そのどれかが二人の席だろう。

 

単純に考えれば下座のどれかが該当席。座った場所が間違えではないといいが。

 

 

「……はぁ」

「どうしたの、テン?」

 

 

椅子に座り、脱力。机に突っ伏すテンはこれからのことを考えると憂鬱になりそうな予感。そんな彼に声をかけたのはエミリア。またしても魂の抜けそうな顔になった彼に彼女は心配そうに目を細めていた。

 

テンがチラと横を窺うと、ハヤトが周りをキョロキョロと見回していた。自分とは違い緊張なんてまるでない様子。それもまたテンの憂鬱の原因。注意喚起したから大丈夫だろうが万が一口を滑らせたなら間違えなく死ぬ。

 

そんな緊張感の中でテンはこの場をどうにかして乗り切らなければならない。のに、ハヤトがこれでは頼りになりそうにない。

 

 

「白髪、増えそうだなぁ」

「白髪? 全然大丈夫そうだけど」

「物理的な問題じゃないんだな。これが」

 

 

挟んだ椅子に手を乗せて身を乗り出し、顔を覗き込んでくるエミリアを片手で戻しつつ、テンは深くため息をつく。

 

ハヤトは楽しそうで、テンは憂鬱そうで。そんな真反対の二人にロズワールは鼻を鳴らして笑い、

 

 

「そんなにため息ばかりついていると、君の中から幸せが逃げてしまうかもしれなぁーいよ?」

 

「なら、もう全部逃げ切りましたよ。色々とありすぎて一度のため息で自分の中の幸せが一気に無くなりましたよ」

 

 

窓から覗く空を見ながら、誰とも目を合わせずに憂ごとを呟く。全てを受け入れる人間となった心の中に色々な壁が埋め尽くし、許容範囲を超える寸前までいったことでテンの精神がおかしくなりそうになっていた。

 

やる前から色々と考えてその重みに押し潰されるテンの悪い癖だ。心配性というか、深く考えすぎる癖があるから、取り組む前から余計なことまで考えてしまい勝手に落ち込む癖がある。

 

 だから今も、

 

 

「おい、しっかりしろよ」

 

 

そんな時だ。その声と同時にテンの背中がハヤトによって強めに叩かれる。背中から肺にかけて貫通し、腹部から突き出る紅葉型の衝撃に上体を起こして咳き込むテンだが。ハヤトは言葉を続け、

 

 

「テン、それはお前の悪い癖だぜ。やる前からそんなに心配してて何になる? 何事もまずはやってみる事からが始まりなんだからよ。問題を考えるのはその後からでも遅くはねぇだろ?」

 

「ーーーー」

 

 

真面目な顔のハヤトがそう言い、テンと顔を合わせる。能天気な雰囲気を纏いつつ彼は芯のある声でテンの意識を自身に向けさせた。

 

確かに、何かをする前に問題ごとを予想するのは悪くないことだと思う。潰せる問題はやる前から潰せた方がいいに決まっている。

 

しかしテンの場合、それをそのままに放置することがほとんどだ。問題を挙げるだけ挙げ、それを前にして壁の多さと高さに「あぁ、無理だ」と諦めてしまう。

 

だからハヤトは彼の背中を再びバシンと叩く。皮膚が皮膚を打ち付ける鈍い音が聞こえ、強かったのか、げほげほと咳き込んでいるテンだがハヤトはそれを無視して、

 

 

「大丈夫だ! 俺とお前がいればなんとかなる! そうやって変に緊張するより自分に自信持てよ。自信の無い奴には何も成せねぇんだから。それにお前は何も持たずに竜に単身で突撃していった奴だぞ? その勇気を自信に変えるんだよ」

 

「そうだけどよ、でも」

 

「あーうるさいうるさい。お前の弱音なんて聞きたくねぇよ。まずはやってみる! いいな。問題事はそれから考える! それでいこうぜ!」

 

 

ニカッと笑みを見せるハヤトにテンは顔を顰める。言われたことにイマイチ納得していない様子だ。しかし、ハヤトの言い分にも一理あるのも事実だ。

 

深く考え込みすぎて変に落ち込むのが自分の悪い癖だなんてこと、何度も理解している。理解はしているのだが、どうしてもやめられない。

 

これは癖なのだから。簡単に抜けていくものでもないし、これのおかげで救われてきた節もある。けれど、迷いもなく笑うハヤトを見ているとそう思える彼が少し羨ましくも感じられて。

 

しばらく葛藤するテンは口に声を発させようか迷う仕草を見せてたが。彼はそれらを吹く息と一緒に吐き出し、

 

 

「分かった…。お前の言うとおりにするよ。色々と考えるのはやめにする」

 

「おう、そうしろそうしろ。なんならもう一回背中ぶっ叩いてやってもいいくらいだぜ?」

 

「やめろ。意外に痛かったんだぞ」

 

 

楽しそうに笑うハヤトに薄い笑みを浮かべるテンの二人。彼に背中を叩かれて余分な力が抜けたのか、歪ながらも一応、形としてだが笑顔がテンには浮かび上がっていた。

 

正直、助けられたテンである。こういう場面ではハヤトの自信満々なところには本当に救われる。自信の無い人間に誰がついて行くのか。どこかの名言集でそんな言葉を聞いたことがあるが、正にそうだった。

 

根拠のない自信、ハヤトには常にそれがある。何がきてもどっしりと構え、真正面から向き合っていく彼の姿勢はテンの心を安定させてくれた。

 

 

「二人ってとっても仲良しなのね。ハヤトの言葉もすごーく良い言葉だと思うわ。ちょっとだけ感動しちゃったかも」

 

「まっ、俺とテンは昔っから親友だからな。その付き合いも長いよ。俺とは真反対の性格してるから、かなり捻くれてる野郎。付き合い方にはちょっとコツがいるがな」

 

 

そんな二人のやりとりをいつの間にかテンの隣に座っていたエミリアが微笑ましく見守っていた。その瞳に若干の憧れの光が灯っているが、ハヤトが気付くことはない。

 

実際のところ、今の言葉はエミリア自身にも中々に響くものがあった。自信の無い奴には何も成せない。確かにそのとうりだと。

 

ロズワールはロズワールで「ほぅ」と興味ありげにハヤトのことを見ているし。無意識にも彼の株が上がった瞬間だった。

 

 

「失礼いたしますわ、お客様。食事の配膳をいたします」

「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳を済ませるわ」

 

 

不意に食堂の扉が開かれ、その流れが中断される。

 

台車を押し、食堂に入ってきたのは双子のメイドだ。今日の朝食はサンドイッチなのだろうか、レムがサンドイッチなる物の乗った台車を押し、ラムが取り分ける皿やティーカップなど食器の乗った台車を押している。

 

二人はテーブルを挟んで左右に別れると、慣れた手つきで配膳を開始。二人追加された予定外にも焦ることなく一糸乱れぬ連携で食卓が完成していき、ものの数秒で整った。

 

 

「おぉ、すげぇや。こんなの生まれて初めて見る。これは………現実なのか」

 

「そこまでいってくれるなんてねーぇ。私としても嬉しいものがあるよ」

 

 

貴族ならではの上品な朝食を前に、ハヤトが食欲に喉を震わせる。目の前に広がるのは、サンドイッチとは言えど中身が一級品、売店のおばちゃんが「はいよ!」とか言ってくれるものとはわけが違う。

 

加え、添えられたお茶なのか紅茶なのか分からない飲み物がゆらめかせる湯気が、ほんのりと甘い香りを漂わせ喉の渇きを誘ってくるのだ。

 

 ーーこれぞ貴族の暮らし。やべぇや。

 

まだその一端を見たに過ぎないが、一端ですら感動をハヤトは覚えてしまう。庶民的な暮らしが張り付いた自分のような人間にはこの食事は高すぎると。

 

ふと、無言のテンが気になるハヤト。彼の横顔を見ると彼はとある方向を見ていたーーこちらを見つめるロズワールのことを。

 

食事ではなく、なぜそっちに興味があるのかと思うハヤトだが。その視線をロズワールは急かされたと受け取ったらしい。「うんっ」と満足そうに彼は頷いたあと、

 

 

「では、食事にしよう。ーー木よ、風よ、星よ、母なる大地よ」

 

 

手を組み、目をつむってロズワールは何事か呟き始める。それにならうエミリアと双子。それが食前の祈りだと気付くとテンとハヤトも所作を真似る。

 

食事前の作法はどこへ行っても同じらしい。食べ物に感謝、作ってくれた人に感謝、生きとし生けるもの全てに感謝。貴族がこれなのだから、意外と信仰深いのかもしれない。

 

 

「それじゃ、テン君、ハヤト君。いただいてみたまえ。レムの作った食事が見た目だけではないことを味覚で堪能してねぇ」

 

 

聞こえてきた声に目を開けばテンとハヤト以外は既にサンドイッチ(仮)に手をつけている。いつ終わったのか曖昧なそれに、とりあえずレムに頭を下げるテン。そしてサンドイッチ(仮)に手をつけるハヤト。

 

触った感じ、普通のサンドイッチ。この世界でなんて呼ばれてるかは知らないが、何の変哲もないごく普通のサンドイッチ。

 

 尤も、味は一級品だが。

 

 

「…朝食に出していいレベルじゃないくらいにうめぇ。つか、朝食食ったの何日ぶりだ?」

 

「うん。美味しいです」

 

 

そのままの意味でホテルの朝食の味がする。「お金を払ってください」と言われても、「はい」の一つ返事で財布をポケットから出してしまいそうな程に美味しい。

 

手にした時から美味しい美味しいと言い続けながら食べ続けるハヤト。朝食にこんなもの食べたことなんて一度もなかった。それに、レムの手料理がこうして食べれる幸せもある。

 

 

「いやー、ほんとに冗談抜きでうまい」

「ーーーー」

「店に出せるくらいにうまい」

「ーーーー」

「な、なぁ? テンもそう思うよな?」

「ーーーー」

 

「そっか。こいつ無言で食べるタイプだったんだ」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

「もう食べ終わってる?! え? あれ? え?」

 

 

ハヤトがエミリアやロズワールと話しながら食べている最中、隣で黙々と食べていたテンがレムから渡されたナプキンで丁寧に口の汚れを拭くなどの動作を見るハヤト。

 

彼の前にあった朝食は姿を消していた。否、彼の胃袋の中に収められていた。朝食が始まってからまだ五分も経ってないのに彼は完食。完食まで残り三つのハヤトとは違い、食べかす一つ残さないところ性格が知れる。

 

サンドイッチ片手に驚くハヤト。テンは彼に首を回すと、

 

 

「食事中に話すのは、スマホを触るのと同等の行儀悪さがあると思わない? 少しならまだしも口に物入れながら話すなよ」

 

「ド正論だけど、それよりももっと見逃せないことが俺の目の前にあるんだが」

 

 

驚くハヤトに、至って普通の表情のテン。しかし、ハヤト以外の人達も少し驚いた様子だった。目を離したわけではない、普通に彼は朝食を取っていた。驚くべきはその速度だが。

 

元からテンは食べるのが早い。夕食なども五分程度で済ませる人間だ。親からは食事中に私語は慎むようにと躾けられているせいでより一層のこと早い。

 

スマホなんてもってのほか。以前、姉がスマホを弄っていて父親にへし折られてたのはトラウマとして脳裏に刻まれて忘れられないだろう。

 

そんなこんなで元から早い上に、話さないのならば食事がより進む。だからといってこの速度は少し異常だが。

 

尤も、テン自身が食事中に話すのが嫌だから、こうして早く食べたのもある。

 

 

「レムさん。ごちそうさまでした、おいしかったです」

 

「はい、お粗末様でした。喜んでいただけたのなら幸いです」

 

 

ナプキンを回収しにきたレムに一礼。同じく一礼で返したレム。優しく微笑んでくれるものだから「やばい、すごくかわいい」と心が一瞬だけ荒れた。

 

カップに入った茶らしき飲み物で喉を潤し、同時に荒れた心も落ち着かせると彼は「……よし!」と数秒間の沈黙を得て覚悟を決めたように立ち上がり、

 

 

「俺が朝食を早く食べたのは、ロズワールさん。貴方に色々と(・・・)聞きたいことがあるからです。これは俺は、俺とハヤトの生きるか死ぬかを決める話し合いをするつもりなので、作業片手間にやりたくないんですよね」

 

「ほぅ、私に聞きたいこと。まぁ、見たところ君達は何も知らない風に見えるけどねぇーえ。エミリア様への態度といい、この私に対しても」

 

 

わざわざ椅子をロズワールの前に持ってきて正面に座るテンの様子。更に彼の瞳の色が確実に変わったことから相手が本格的に話を切り出してきたと身体の向きを変えるロズワール。

 

改めて前にすると気圧されそうになるのをテンは口内を歯で噛む痛みで誤魔化す。ここからが自分の仕事。昨日、ハヤトは頑張ってくれたから。

 

肉体的な仕事は自分にはできそうにない。ならばこのような場では自分が頑張るしかないのだ。

 

 

「それで、君は私に何を聞きたいのかな?」

 

 

話し合いの場をテンが強制的に作り出したことで食堂が静まり返った。冷静になったり焦ったりと、態度がコロコロと変わるテンが初めて見せた男らしい態度に全員が邪魔しないようにと自然に思わされたのだ。

 

ロズワールもそんな彼の態度の変わりように面白そうに目を細めた。

 

緊張の雰囲気。その中で最初にテンが問うこと。真面目な表情、真剣な態度、その彼が問うこと。

 

 それはーー、

 

 

「ちょっと、お手洗いの場所を」

 

 

 

直後、ハヤトが音を立てて椅子から転げ落ちた。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

「お前、マジで雰囲気考えろよ。このシリアスブレイカーが。お前が頑張って作り出した雰囲気をお前が壊すって、お前なにしたいの?」

 

「だって紅茶?を飲んだら緊張とか相まって急に来たんだもん。そう、急に。分かる? 緊張したら急にくるもんジャンっ!」

 

「ジャンっ! じゃねぇよ。時と場合を考えろって……あぁもういい、早く話してくれ」

 

 

テンのお手洗い発言から数分後の話。レムに案内されて事を済ませてきたテンに一番初めに突っかかったのはハヤトだった。親友のまさかの第一声に椅子から転げ落ちた彼は相変わらずのテンに困惑しかない。

 

張り詰めた空気の崩壊する音があれほどハッキリ聞こえるのも珍しい。自らが作り出した場を自らでぶち壊すとは、彼の思考回路が全く読めなかった。

 

真面目な表情、真剣な態度。そこからのそれ。

 

ロズワールですら「ん?」と出鼻を挫かれたような困惑の気配を、ピクリと動かしたまつ毛で表していた。

 

そんなこんながあって今。テンは再び用意した椅子に座る。己の中の空気を変えるように瞑目して深呼吸。次、目を開いた時にはそこにいたのは先ほどの真剣なテンだ。

 

本当によく態度が変わるとロズワールは思う。或いは切り替えが早いだけかもしれないが、何にしても真面目な態度をされれば、こちらもそれ相応の態度で迎えなければならない。

 

 

「……話の出鼻を挫いたことは謝ります。それでは今から本格的な話をしたいのですが。よろしいですか?」

 

「構わない。君が何を話すのか、大体見当はつくが、思うように話すといい」

 

 

背筋を伸ばし、圧迫感のあるオッドアイと目を合わせるテン。そんな彼にロズワールは態度を変えず、深く頷いた。

 

話し合いが開始される。誰もがそれを確信した時、テンの口は既に開いていた。

 

原作の知識を総動員、知らないことに違和感を持たさせないように、ここで知らなければならない事を全て知ると。

 

 

「ではまず。あなたの素性について、気になったので教えてください」

 

「この緊張した中で初めに、私のことを問うとは。テン君、君は中々に不思議な人だぁーよね」

 

「実際問題、あなたの後ろにメイドさんが二人いる時点で偉い人なのは分かります。尤も、先程エミリアと話した時にこの屋敷の名前にロズワールと入っていたので、大方御当主様とかでしょうけど」

 

 

間違いないですか? と首を傾げるテンにハヤトが感心。おそらく原作の知識を総動員して会話しているとはいえど、アレを前に言葉を繋げられる彼のことを素直に尊敬した。自分の原作の知識がないわけでは無いが、恐らく彼ほどではない。

 

そういった意味でもこれから先、テンにはこのような場面で助けられそうな気がしてくる。

 

 

「ほぅ、中々に良い勘してるじゃぁーないかね。では、改めて名乗ろう。私はこの屋敷の当主、ロズワール・L・メイザース。君の言う通りだよ」

 

 

「そうなんですね。知りませんでした(・・・・・・・・)

 

 

化粧で目立つ口元をさらに大きくゆがませ、テンに笑みを向けるロズワールが名前を名乗る。まずは一つ目の知りたいことは知れた。

 

しかし、それがロズワールを取り巻く雰囲気の急変に繋がったことをテンは肌で感じ取る。

 

笑ってはいるがロズワールの纏う雰囲気、向けられる瞳の奥に宿る不気味な感情。更には、目の前の人間がまるで自分とは次元の違う存在だと本能が認識してしまう歪な違和感があった。

 

まるで品定めするような、上から下を外側から内側を、自分という存在全てを見抜くような粘着質な視線。向けられたことない恐怖に、無意識に服の裾を強く握っていた。

 

 

「本当に不思議だぁね、君達は。ルグニカ王国のロズワール・L・メイザースが収める森の中に突如として現れ、何も知らないってぇ言うんだからぁ。どうやって入国審査を抜けてきたんだい?」

 

「まぁ。それに関しては俺らもよく分からん。気がついたら森の中で倒れてましたーー。みたいな感じだからよ」

「ハヤト……っ!」

 

 

口を挟むハヤトが淡々と語る様に、焦ったテンが彼の名を掠れ声で呼ぶ。「余計な事をいうな」と視線で伝える彼はハヤトを睨んだ。

 

嘘は言っていない。しかし、そんな話など誰が間に受けてくれるものか。そんな事を言えば怪しまれるに決まっている。最悪、殺される事だってあるかもしれないのだ。

 

が、口から出た言葉を撤回する暇はない。二人目として口を挟んだエミリアがテンとハヤトの顔を交互に見ると、

 

 

「呆れた。そんな事言ったら怪しそうに見えなくても怪しく見えちゃうわよ。これで私たちが報告したらどうなると思うの? 問答無用で怖い人たちにボッコボコにされちゃうんだから」

 

「ボッコボコにはされかけたんだけどね。あの森の中で」

 

「茶化さないの。ロズワールが言うには魔獣の森で二人は倒れてたって聞いたけど、本当に二人はどこから来たの?」

 

「それ含めて何も知らないから、こうしてロズワールさんに色々と聞いてるの」

 

 

ハヤトに黙っているように指示し。エミリアの言葉を軽く受け流すテンが深く息を吐いてロズワールに向き直る。少しのミスも許されない状況下で今、ハヤトに続いて自分も凄いことを言ってしまった気もするが。

 

 

「…話を続けても?」

 

「もちろん。私も君たちには少し興味が湧いてきたところだぁーからね」

 

 

折れ曲がりそうになる心を背筋と一緒に立て直し、「では二つ目」と続けて、

 

 

「この国の現在の状況を教えてください。もうこの際、命はどうなってもいいので。取り敢えず全部教えてください」

 

「えっ!? ちょっと」

「おいおい、テン。命がって……」

 

 

軽く拳を握りしめるテンが愉しそうに口角を上げるロズワールに爆弾発言。当然のようにハヤト、そしてエミリアの横槍が入るが。横目で睨みつけて鎮めるテンは「いいか、ハヤト」と言葉を強くして、

 

 

「今の俺達、素性の知れない輩。俺達自身も何があったのか分からずに説明不可能。そんな中で、知っちゃいけないことを知ったら確実に首を刎ねられる。状況によっては素性の分からないだけでも警戒されて、殺される。どの道殺されるなら。ーーなら、全部知りたい」

 

 

深呼吸。先程から何度も深呼吸をしているのを見ると本当にテンは緊張しているのだと察することのできるハヤト。彼に言われてやっと気づいた。

 

彼の言うとうりだ。森の中で意識のなかった輩が自分の屋敷で朝食を取っている。そしてその輩の素性は輩自身も分からない。そんな中で知ってはいけない情報を知った場合、口封じに殺されるかも知れない。

 

そんなことまで考えていたのかと納得する反面で、彼がどれだけの覚悟を持って望んでいるかがよく理解できた。深く考えすぎて自分を追い詰めていることも。

 

 

「……震えているね。私達が怖いかい?」

 

「はい、声が震えないので精一杯です。でも、もう何も残されてない。俺とハヤトにはこれしか道が残されてないんです。なら、知ることを知ってそれから生きていく術を模索するしかない」

 

 

ここで殺されるとしても。そう、言葉を切るテンが立ち上がり、目を鋭くした。握りしめた拳はカタカタと震えている。硬く閉じた口の中では歯が食いしばられ、体を強張らせていた。

 

今まで経験したことのない恐怖。死ぬかもしれないという事実に心が押しつぶされそうだった。動物的な野生の恐怖とは違う。人間に殺されるという恐怖。

 

でも来た以上は何もしないで死ぬのは嫌だ。知ることを知った上で、生きる術を見つけてみせる。それでダメならーー。

 

その覚悟をテンは堅く決めていた。

 

 

「自身の置かれた状況を理解しつつ、その上で足掻き続ける、か。中々見られない蛮勇かつ優秀な人材だ。あの竜に生身で立ち向かったのにも今ので納得がいった」

 

「どういう意味ですか」

 

「いやいや、君の覚悟は受け取った。ということだぁーよ。良いだろう。君の聞きたいことを自由に聞くと良い。まずはこの国の状況だぁーよね」

 

 

強張った身体を解すようにロズワールがテンの肩を叩き、彼の椅子に座らせる。足を組み声のトーンを一つ落としたロズワールは茶で喉を潤した。

 

数秒の瞑目の後、テンの瞳を覗き込むように黄色と青色のオッドアイを開くと、

 

 

「今、この国ルグニカは戒厳令が敷かれた状態なんだよねーぇ。特に他国との出入国に関しては厳密な状態だ。間者が発見されれば即排除、なんてこともぉ? おかしな話でない」

 

「戒厳令……。なんですか、それ」

 

「今のルグニカ王国には王が不在なもんだからねぇ。王が不在、こぉれほどの危機が他にあると思うかぁい? 故に『何も起きない状態』を保つ必要があるんだぁーよ」

 

 

口から出た疑問に対して結論を簡潔に出したロズワール。その言葉を吟味し、持ちうる原作の知識と照らし合わせながらテンは頭の中を整理していく。

 

 ーー頭がすごく痛い。

 

こんなに考えたのは生まれて初めてかもしれない。そして原作を読んでおいて良かったと心の底から思う。でないと、今の状況で冷静を保てる気がしない。

 

 

「それは、俺たちが聞いてもいいことなんですか?」

 

 

知らないを装い、首を傾け、頭の上に疑問符を分かりやすく浮かべる。

 

その事実が国民全土に知れ渡っている事は周知のことだから聞いても問題ない、知っているとも。しかし何も知らないと強調した以上はそれを貫く必要がある。それを悟られることもあってはならない。

 

今の自分は大丈夫だろうか。周りに動揺している風に見えてないだろうか。ハヤトは助けてくれるだろうか。そんな疑問が心臓の鼓動を静かに速め、呼吸を荒くさせていく。

 

そんな彼にロズワールは安心させるような柔らかな笑みを浮かべると、

 

 

「心配はご無用。今じゃ知らない人間のほうが少ないまである事実だからーぁね」

 

「そうですか…」

 

 

一瞬の気の緩み。テンが、魂が心から抜けたような腑抜けた表情を表に出す。彼とてこのような経験は一切ない。思考回路をフル回転させているから心配事が潰れると安心する。

 

これで二つ目。心の中でそう呟くテンは、頭を軽く振って緩んだ気と姿勢を引き締め直す。まだ聞かなくてはならないことは残っている。

 

 

「後継者とかって、居ないんですか? 例えば、前の王様の子どもが継ぐーーみたいな風に。まぁそれ以外にも方法はあると思いますけど」

 

 

日本でも同じように、天皇陛下が交代するときはその相続が受け継ぐのが基本的な流れだ。しかし、そうならないのには何か理由があるのか、と。

 

その至極当然の問いかけにロズワールは頷き、

 

 

「まぁ、普通ならそうなるよねぇ。だぁけど事の起こりは遡って半年前。王が御隠れになった同時期に、城内で蔓延した流行病の話になる」

 

「流行り病?」

 

「ちょこーぉっと厄介な病でね。そぉーれが原因で王とその子孫は全滅。そして、今に至るってこと。お分かり?」

 

「はい。なんとなく」

 

 

誰の施しを受けても手も足も出ずに、それで上の人達がばったばったと死んでいった。国のトップが死んだ。それは中々にヤバい状況な事くらいは、例え何も知らなくても流石に分かる。

 

 

「それなら王様の代わりはどうしてるんですか?」

 

「現状の国の運営は賢人会によって行われてるよん。いずれも王国史に名を残す、名家の方々の寄り合いだ。国の政治自体に関しての影響はそこまでじゃぁない。だがーー」

 

 

そこで一度間を置き、息を吸うような時間を作る。酸素を取り込み、頬を固くするロズワールはピエロ顔に反して真面目な表情を作り、

 

 

「王不在の王国などあってはならない。歴史に残る大厄災、直ぐにでも王選を開始し、対応する必要がある」

 

「それは、そうです……ね」

 

 

運営できるんなら別に良くね? とか考えないわけでもないテンだが、彼は頷く。

 

規模を小さくして考えると。部活の部長とか、班のリーダーとか。それらがいないと全体を通して回らないみたいな風に考えたらいいだろうか。

 

ともかく、それらの点を含めて、テンは今の状況に予想どうりだと言わんばかりに「ははっ…」と戦慄したように笑い、

 

 

「俺とハヤト。めちゃめちゃ怪しいじゃん。俺の想像通りすぎて戦慄に戦慄が重なって頭おかしくなってくるんだけど」

 

 

つまりテンとハヤトは王国が王不在という歴史に残る大厄災、更には他国との関係も限りなくゼロに近い中、森に現れた出身不明の不審者。

 

国からしても領土主からしても、下手をすれば疑わしきは罰せよの精神で釈明もできず、その首が飛ぶことも考えられる。

 

正にテンの思い描いた(原作知識)通り。面白いぐらいに原作主人公と全く同じ状況。同じルート辿れば上手くいくのではとさえ考えてきた中で、二人の信頼性のなさが確定して浮き出た。

 

 

「さーぁらに付け加えるとエミリア様に対して接触、メイザース家とも関係を持ったわけだーぁしね。気が早ければそれだけでスパンというわけ」

 

 

戦慄しているテンへさらに追撃するように笑うロズワールが、右手で首を切る動作。間違えなく首が飛ぶと雄弁に語っている。

 

知りたいことが明らかになるにつれて動揺を隠しきれないテンをロズワールが眺める。

 

そんな時だった。

 

会話を黙って聞いていたハヤトがあることに気がついた。もしくは原作どうりに事を進めるために意図して発した援護射撃かも知れないが。

 

 

「つか、なんでロズワールは、エミリアに『様』つけて呼んでるんだ?」

 

 

この屋敷で一番偉い立場にあるロズワールがエミリアを様付けで呼んでいる。それはおかしいじゃないかと口を挟むハヤトが不思議そうに視線を送る。

 

しかし、ロズワールは依然として態度を変えない。寧ろ当然だとハヤトに言う。

 

 

「やだなぁ、ハヤトくぅーん。自分より地位の高いほうを敬称で呼ぶのは、どこでも同じことじゃぁーないか」

 

 

キタ! とロズワールのおどけるような声を聞いてそう思うテンが、ハヤトに心の中で「よくやった!」と彼の援護射撃に賞賛の声を上げる。知りたいことの最後がこれで自然な風に明らかになる! と。

 

もちろん、ハヤトに賞賛の声は届かない。「ん?」と喉の奥を低く鳴らす彼はエミリアの方へと意味不明そうに首を傾ける。

 

 

「別に隠そうとか、騙そうとか、そんなイジワルなこと考えてたわけじゃないからね」

 

「うんいいよ言っていいよ」

 

テンの方を見るエミリアが向けられた視線に照れるような素振りを見せた。テンはというと、句読点すらない言葉の羅列を瞬間で並べた。

 

 ーー言え。言ってくれ、早く言ってくれ。

 

そんな事を思うテン。ここまで頑張った自分を褒める彼をよそに、エミリアは言った。

 

 

「今の私の肩書きは、ルグニカ王国第四十二代目の『王候補』のひとり。そこのロズワール辺境伯の後ろ盾で、ね」

 

 

 ーーやったね! 知りたいこと、ぜんぶ知れた!

 

 

途端、心の中でそう叫ぶテンが何かから解放されたように「へぇ、そうなんだぁ」と笑みを浮かべていた。

 

 

それは、テンが屋敷に来て初めて浮かべた満面の笑みである。

 

 





心理描写が少しくどいような気がしましたが。大丈夫でしたかね。
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