親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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○○名前 ○○名前シリーズ第二弾。良い感じのサブタイトルが浮かんできませんでした。




相談に乗るハヤト 乙女なレム

 

 

 

「……ん?」

 

 

貴族街を出ることを禁止されました。

 

淡々と告げる内容ではないことを告げたレムに、数秒間の思考の停滞をテンは許した。言葉自体の意味は理解できるが、その内容があまりにも唐突すぎる。

 

隣のハヤトも「おぁ?」と変な声を溢し、レムのことを見ていた。が、対するレムとラムの反応はあまり気にしてないような様子。

 

彼女達の様子から察するにそこまで深刻でもないのかと思うテンがその理由を困惑気味に問い掛ければ。

 

 

「ロズワール様が執筆なされた論文は本人確認のために申請の許可に時間がかかるんです。宮廷筆頭魔導師ですから、念入りにと」

 

「本人確認って……。もしかして、俺達が論文を偽装してるかもって疑われてるの?」

 

「悪く言えばそうなります。ロズワール様のことを良く思わない輩も中にはいるようですし、陥れるような行為を働く者もなきにしもあらず」

 

 

亜人や混血などを好き好むロズワール・L・メイザース。どうやら、そんな人間が宮廷筆頭魔導師なんて偉い立場についたことを良く思わない連中も世界に入るようで。

 

レム曰く、今までにもロズワールの従者を名乗る者が怪しい論文やら文書やらを届けに来たことがあるのだとか。だから今現在、自分達もその類の人間ではと疑われているらしい。

 

なるほど。だから貴族街から出ることも不可能になると。もし偽装だとしたら立派な犯罪、お縄につくのだとしたら、衛兵の目が光る衛兵の詰所よりも外側には出さないほうがいい。

 

つまりは、

 

 

「もし俺達がロズワールの関係者を装っていた場合、すぐに捕まえられるように手の届く範囲にいろ。っつーことか」

 

「はい。そうです」

 

 

頭の中で情報を整理、そこから広げて状況の把握をしたテンが詰所の中をチラと覗くと数人の騎士様に睨まれる。威圧だろうか、めちゃくちゃ怪しまれてるらしい。適当に笑って返した。

 

隣のハヤトも自分なりに解釈したのか、「あんな魔導師の従者を装る人間がこの世界にいるのか」とロズワールの嫌われようを認識した彼は感情の入ってない声で笑っていた。

 

しかし、そうなるとこれからの動きをどうするかが問題になってくるが。

 

 

「じゃあ、俺達は今から二時間。暇ってこと?」

 

「えぇ、そうなるわね」

 

 

テンの最終的な現状確認にラムが軽く頷く。待たされるのが嫌な彼女は少しご機嫌ななめな様子、つま先を貧乏ゆすりの如くテンポを刻ませる彼女は苛立ちを隠す素振りもない。

 

とは言えど、二時間も暇を潰せる場所なんて土地勘に疎いテンには思い付かず。本当にどうしようかと真面目に悩むが。そんな時に声を上げるのは決まってハヤトだ。

 

「じゃあよ!」と楽しげに笑みを浮かべながら手を挙げる彼は自分に意識を集めさせると、

 

 

「今から二人に分かれて王都の中を歩き回ろうぜ。こんだけ広いんだ。歩いてりゃ繁華街でも何でも出てくるだろ。ここにいてもつまんねーし、どうせすることないならその方が有意義だろ」

 

 

何を思ったか。テンとレムのことを交互に見たハヤトはニヤニヤしながらそんな発言。両手を広げて辺りを見渡す彼は楽しげに話し、「な?」と同意を求めるように三人を見た。

 

幸いにも二ヶ月間のお給金を使う機会が無かった二人、遊べるだけの金額は所持している。なんならテンは全額を持ってきている。

 

多少は奮発しても問題はないはず。ならばこの機会にでも思うハヤトは三人の反応を窺うが。

 

 

「別に、ラムは構わないけど」

 

 とは、ラムの言葉で。

 

「時間の範囲内でなら問題ないと思いますよ」

 

 とは、レムの言葉だ。

 

 

この二人の了解が得られたのなら決まったようなもの。あとは、「んー」と喉の奥を悩むように鳴らすテンの返答次第。その様子を見ると、まさか否定されるのではとハヤトは内心軽く驚くと同時にあることを思い出した。

 

そうだ。彼は修学旅行で水族館に行った時、一緒に回る人がいなくて約三時間、涼しいところで一人ベンチに座っていたボッチの猛者。彼からすれば高々二時間程度、その辺で適当に座っていると言い出さないとも言い切れない。

 

 

「俺は…。詰所の中に居ようかな。変に歩き回りたくないし」

 

「ほらきた」

 

 

呆れるハヤト。自分の予想通りの展開になったことに彼は大きくため息。一体誰のためにこれを言い出したのか全く理解できていない様子のテンを見るとぶん殴りたくなった。

 

しかし、テンは動かなければならない理由があることをハヤトは覚えている。数日前、彼はある人物に茶菓子を買ってくることを約束したのだ。

 

その人物とは、

 

 

「テン。お前、ベアトリスに茶菓子を買って帰るんじゃないのか? 約束してたろ」

 

「……あ。そうだった」

 

 

指摘されたことで思い出したテン。流法のことが頭の中を埋め尽くしたせいですっかり忘れていた約束に彼は「あ」の口のまま怠そうな表情だ。

 

目は口ほどに物を言うとはいうが、その最たる例が今ハヤトの目の前にいる。確実に面倒そうな表情のテンは「えぇーー」とでも言い出しそうな雰囲気。

 

それでも彼の中で割り切ったのか「分かった」と声を上げると、

 

 

「じゃあ俺は、ベアトリスに茶菓子でも買うとするよ。約束は守らないとだし」

 

「うし、決まりだな」

 

 

三人の了承を得たハヤトが楽しげな様子でガッツポーズ。一体何のガッツなのかは彼にしか分からないが、良くないことを考えているのはなんとなく分かったテン。

 

とりあえず成り行きを見守る彼はこの後のハヤトの発言に神経を尖らせる。そうして尖らせた神経を逆撫でしたのは彼の発言ではなく、意外にもラムの発言と行動だった。

 

唐突にテンの腕を掴むラム。「投げられる!?」と身体に染み込んだ感覚が危険信号として彼の本能を刺激したが密かに鎮め、突然の行動に目を細める彼にラムは口元を緩ませると、

 

 

「なら、ラムにも何か奢りなさい。竜車での件、まさか忘れたわけじゃないでしょう?」

 

「竜車……? おいまさか、盗賊を客車の中にぶち込んだやつじゃねぇだろうな。あれ、冗談じゃなかったのかよ」

 

「当たり前じゃない。ラムはそんな程度の低い冗談はつかないわよ」

 

 

言いつつ、ラムは掴んだ腕をグイグイと引っ張る。身体ごと持っていかれそうな勢いのある彼女にテンはもちろんハヤトも目を丸くしていた。何がどうなればそうなるのか、不思議でしかない。

 

そも、ハヤトがこの提案をした理由はテンとレムを二人っきりにさせるため。彼女に関係を進める機会を作ろうとしたからであって、テンの財布を空にするためではない。

 

レムは良いのだろうか。そんなことを思うハヤトだが、テンを連れていく前にラムは一度振り返ると、

 

 

「レム。脳筋に聞きたいことは今のうちに聞いておきなさい。隅から隅まで、ね」

 

「はい、頑張ります!」

 

 

姉妹間で笑みを浮かべ合いながらやりとりされる会話にハヤトは理解が追いつかない。聞きたいこととはなんなのか。レムが自分に聞くようなことなど無いと思うが。

 

それ以前に、なにか裏で作戦でも立てていたのかと思えるほどに行動の早い二人に違和感をハヤトは抱いた。ラムの行動然り、レムの反応然り。明らかに不審だ。

 

てっきりテンがレムと、自分がラムと歩くものだとばかり思っていたハヤトからすれば予想から斜め横に逸れた展開。言葉を交わしたラムはテンのことを連れ去り、二人の後ろ姿がどんどん離れる。

 

自分の中で立てた作戦が一瞬で崩れ去る感覚に呆然と立ち尽くすハヤト。そんな彼の肩をトントンとレムは叩いた。反射的に顔を向ければレムは「申し訳ございません」と言葉を繋げて、

 

 

「実は詰所で姉様とこれからについて話していたんです。その結果、レムはハヤト君と、姉様はテン君と行動することになりました」

 

「いやいや、謝ることねぇって。頭上げろよ」

 

 

軽く腰を折るレム。別に怒っているわけでもないのにそんなことをされると何故か罪悪感が湧いてくるハヤトは慌てて彼女の身体を起こした。

 

やはり裏で口裏を合わせていた。ハヤトの勘は間違ってはいなかったようで、どうやらこうなることは既に姉妹の中で決まっていたらしい。それならラムの行動の違和感にも納得がいく。

 

 納得はいくが。

 

 

「でも、なんでだ? お前ならてっきりテンと一緒に行くと思ったんだが。それに、俺に聞きたいことってなんなんだ?」

 

 

不思議そうに問いかけるハヤト。百歩譲ってラムの違和感はなくなったが、問題はその内容。なぜレムは自分と二人になったのか、テンが好きなら当然の話、テンを選ぶはず。

 

加えて、ラムは聞きたいことを聞いておけとレムに言っていた。何が聞きたいのかと思うハヤトが頭の上には疑問符が次々と浮かび上がる。

 

そんな彼にレムは「それなんですが」と言い、数秒間の沈黙を得て、意を決したように真摯な瞳を向け、

 

 

 

「ハヤト君。少し、レムの相談に乗ってくれますか?」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「ここ、本当に繁華街?」

 

「案内板にはそう書いてあるわね」

 

 

ラムに強制連行されたものの、なんだかんだで受け入れたテンとその張本人の二人が目の前に広がる繁華街の入り口、その奥に広がるおしゃれすぎる光景に目を見張る。

 

まず、繁華街の入り口には宝石で美しく装飾された自己主張の強い門がお出迎え。その両サイドには鳳凰のような生き物を彷彿とさせる石像がでんと鎮座していた。

 

その奥は白レンガで舗装された、横に広く縦に長い一本道。両サイドに見上げるサイズの様々なお店が建ち並び、その一つ一つが手の込んだ建物というだけあって見応えは相当なもの。

 

色合いは門とは対照的に白や黒と落ち着いたものだが、外見からでも高級ブランド店だと分かるそれは明らかにその辺の店とは違う。

 

それだけにとどまらず、人が歩く道すらも観葉植物やらで飾られているのだから、海外のオシャレな街並みそのものだ。

 

 

「……住宅街じゃなくて?」

 

「どこからどう見ても繁華街よ。ほら、こんなところで立ってたら邪魔になるから、さっさと歩きなさい」

 

 

軽く背中を叩かれるテンが圧巻の光景に硬直させられていた身体を解かれると、彼は首をあっちこっちに巡らせながらも歩き出した。その隣を歩くラムはこれといった反応はない。

 

正直、圧倒的な場違い感があるテンだ。周りには近衛騎士っぽい服装をした人や、ドレスを身に纏う人に執事を思わせる風貌のある人など、財力のありそうな人達ばかり。

 

対するコッチは全身紺色で腰に刀を差した青年と、白と黒のエプロンドレスの少女。ラムの方はメイドだから周りからは「偉い人の使者なんだなぁ」と思われるだろうがテンの場合は「なんだこの男は」とか思われそうだ。

 

 

「俺、服装とか変じゃない? 大丈夫だよね、周りから変な人だって思われてないよね?」

 

「外側だけならなんとか。ただ、その腑抜けた顔と髪型と雰囲気が整えたそれを悉く壊してるから、大した意味も無いけど」

 

「あれ、もしかして俺の存在が否定されてる?」

 

 

服装に関しては問題ないけど、どうやら容姿と雰囲気がそれらを相殺しているらしい。なるほど、つまり自分の存在そのものが貴族街には相応しくないという事か。

 

テンが澄まし顔のラムを見ると、彼女は彼の上から下を視線でなぞるように眺めたのち「ふっ」と思わずといった風に嘲笑を溢していた。

 

 

「安心なさい。テンテンがこの場に似合わなかったとしてもラムが隣にいるから」

 

「その心は?」

 

「何を隠そう、ラムは可憐な美少女メイドだもの。貴族の使者ーーその下僕くらいには飾ってあげる」

 

「根本的な問題は全く解決されてないんだが」

 

 

自分が隣にいるから、例え似合わなくとも存在としては成立すると自慢げに語るラムだが。そもそも似合わない問題を解決したいのであって存在を成立させたいのではない。

 

なんの戸惑いもなく自分のことを美少女、それも可憐なを付け加えられるあたり、相変わらずの自己高評価の鬼。テンのような自己低評価の鬼とは対照的な考え方。

 

諦めるようにため息を溢すテンに、ラムは「ラムに感謝しなさい」と言ってくる始末。この傲岸不遜お嬢様には手も足も出ない様子だった。

 

ポケットに手を突っ込むテンがそれから黙れば、真横で歩くラムもまた黙り。会話の一区切りがついた両者は街並みを眺めつつ本命の茶菓子を購入するために視線を巡らせる。

 

不思議と、合わせたわけでもないのに歩幅が合う両者。遅くもなく速くもない速度で歩く後ろ姿は一つの男女関係に見えなくもない。が、それは通り過ぎる人達の見え方である。

 

二ヶ月も同じ屋根の下で過ごしたのだ。家族関係とまではいかなくてもそれに類似する関係性であるとテンは自分の中で思っている。

 

他人から仕事仲間に、仕事仲間から友人に。そして恋人ではない方向のその先へーーーー。

 

 

「……なんてね」

 

 

ラムと自分の歩く姿を客観的に捉えたテンは、そう言って小さく笑う。まだ二ヶ月だ、家族関係に類似する関係になれてるわけがないだろう。自分がそう思い込んでいるだけで彼女自身が同じだとは限らない。

 

良くて友人、悪くて仕事仲間。最低限の関係は築けてると思いたいテンだった。

 

 

「ちょっと」

 

 

不意に服の裾を微小な力で引っ張られ、顔を向ければそこにはいつになく真面目な顔をしたラムが瞳に映る。何事かと思うテンにラムはある店、その看板を指差す。

 

そのお店は、スイーツ店とでも言い表そうか。店の前に置いてあるガラスケースの中にパフェらしきレプリカが横一列に飾ってある。遠目だが、中を覗いた感じお洒落な雰囲気のそれ。

 

指差した人差し指が彼女の要求を雄弁に語るが、頭に疑問符を浮かべるテンは敢えて気付いてないフリを貫く。するとラムは僅かに頬を緩ませた。

 

 

「あれ、美味しそうに見えない?」

 

「直球で言え」

「奢りなさい」

 

 

珍しく遠回しに仕掛けたラム。その様に少しだけ「あれ、こいつ可愛い?」とか思ったテンだったが、化けの皮を剥げばいつも通りのラムが偉そうな態度をしながら堂々と出てきた。

 

しかし、元よりそのつもりだ。例え、貯金が全て吹き飛ぼうとも許容する覚悟を決めている彼は「わかったよ」と一歩、前に出て首だけ振り返り、裾が掴まれた手を軽く引っ張ると、

 

 

「じゃ、行きましょうか。食べたいもの食べてくださいよ」

 

「えぇ。そうさせてもらうわ」

 

 

応じたラムが、ほんの刹那の瞬間だけ唇をゆるめたのがテンには見えた。そのまま、裾に引っぱられる彼女は隣立って歩き出す。

 

時々顔を出すラムの素直な一面。やはり、その姿がレムと重なってしまうテンは毎度の如く心を揺さぶられる。普段は毒舌美少女のくせして、こういう場面ではふわりと微笑む。だからラムの態度を咎めることができない。

 

そんなことを考えながら、ラムと二人、目的の店へと足を向けていると。ふと、店に飾られた立て看板が目に入る。メニュー表だろうか、文字の横に値段が書いてある。

 

どれも銀貨八枚以上が必要なそれは、明らかに高級なスイーツ。

 

銀貨ーー銅貨よりも一つ上の通貨だ。因みに、その上が金貨で更にその上が聖金貨となる。

 

日本円にすると、仮にリンガが百円だとして銅貨二枚を必要とするから。銅貨一つで五十円と言ったところか。

 

この場合、仮に十倍ずつ価値が上がるとして、銀貨一つは五百円、金貨一つは五千円、流石に五万円は行きすぎな部分があるから聖金貨は一万円とテンの中では適当に成立している。完全に適当、絶対に間違っていると思うが。

 

 

「……ん?」

 

 

そこまで考えた時、テンは立て看板、その料金表を一瞥する。簡単に分かることはどれも銀貨が八枚は必須ということだけで。

 

 

銀貨が八枚(500×8)は必須。それが最低条件。

 

 つまり、

 

 

 

「一個、四千円だと……!」

 

 

 

貴族の嗜み、恐るべし。

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

落ち着いた大人な雰囲気が漂い、流れる音楽が自然と安らぎを得させてくれるような気がしてくるような場所。そこに椅子に腰掛けるハヤトとレムは机を挟んで対面していた。

 

二人を囲むのは二人と同じような光景。一対一で机を挟んで腰掛けている人がたくさん、それもケーキやティーカップを添えて会話を楽しんでいる人達がいる。

 

その場所。所謂、喫茶店だ。貴族の住まう街の喫茶店は並のものではないのか、シャンデリアが天井に飾られてたり、床がカーペットだったりと、一々豪華なものだった。

 

 

「ハヤト君。それで、相談の内容なのですが」

 

「おん」

 

 

深く椅子に腰掛け、机に置かれたティーカップの中身をゆっくりと掻き回すレム。何やら照れ臭そうな彼女は「うん」と小さく頷き、決心したようにハヤトに視線を向け、

 

 

「実は、テン君のことなんです」

 

「お? レムがテンについて、俺に聞くなんて珍しいもんだな。おういいぜ、どうした?」

 

 

 ーーついに来たか

 

内心テンションの上がりつつあるハヤト。しかしそれを悟られぬように彼は平常を保つ。意を決したような目を向けられた時点で薄々察してはいたが、間違ってはいなかった。

 

つまりこれは恋愛相談。なるほど、だからラムは「聞きたいこと聞いておきなさい」とレムに言ったのか。ならば、彼女の手助けをするのもまた親友としての勤めだ。

 

 

「ありがとうございます。あの、ですね。その、ですね……。テン君って、どんな女性が好みか。分かりますか?」

 

 

ド直球な問いかけ。初回だから遠回しに来るかと勝手に思っていたハヤトだが、今のレムは恋する乙女、感情の赴くがまま真っ直ぐに問いかけた。

 

しかし好みの女性を聞かれるとは思わなかった。改めて考えると彼の好みがどんな女性なのかハヤトは悩む。

 

普段から女性に対して異性的な興味を示さない彼は情報が少なすぎるし、恋愛話なんてしないから検討もつかない。そんなこんなで、なんでも答える気ではいたが早くも頭を捻る結果にハヤトは頬杖をつくと、

 

 

「女性の好みかぁ。どうだろうな、あいつとはそういう話をしないから俺もよくわからんのよ」

 

「そうですか……。ハヤト君でもダメですか」

 

 

目に見えて落ち込むレム。テンのことになると分かりやすい彼女はやはり恋する乙女。常日頃から纏っている使用人としての雰囲気はいつの間にか純粋な少女のものへと変わっていた。

 

そんな反応をされれば申し訳なさが前に出てくるハヤトは慌てるように「でもよ!」と指の爪で机を軽く叩き、

 

 

「あいつと長い間一緒にいた経験から推測すると、自分のことをしっかり受け止めてくれて、甘やかしてくれるひとが好みだと俺は思うよ」

 

「自分のことを、受け止める……? それは物理的な話ですか?」

 

「物理はわかんねぇけど、精神的な方は受け止めて欲しいんじゃないかな? あいつは他の人間よりも特殊だからさ、ありのままの自分を受け止めて欲しいんだと思ってる。そういった意味で受け止めるだよ」

 

 

瞳に宿る光が落ち込みムードから回復したレムを語り、それを悟るハヤトは彼女の力になれるようにとテンとの記憶を探りながら口早に話した。尤も、分かったことは誰にでも当てはまりそうな定型的な事だが。

 

ありのままの自分を受け止めてほしい、それは誰もが思うこと。飾らず、装飾せず、本当の自分を知って、それでも好きでいてくれる人間は探しても見つからない。故に人はそれを求める。

 

果たして、テンがそれに当てはまるかは正直不安なところ。良い意味でも悪い意味でも型にはまらない人間、それが彼なのだから。

 

 

「それが、テン君にとっての理想的な女性像だとハヤト君は考えるんですか?」

 

「あくまでも推測だがそんなところだ。まぁ実際理想云々より、この人と居たら楽しいとか、一緒にいたい。って思える人が誰でも理想的なもんだよな」

 

 

言い、乾いた喉を潤すハヤトが紅茶を流す。色々と記憶のタンスを開けた頭を甘味で一旦整理する彼は一息ついた。

 

実際のところ、今自分が言ったことが恋愛のたどり着く先だとハヤトは思う。好みだとか、受け止めるだとか、それ以前にこの人と一緒にいたいと思える人を人は好きになる。逆説もあり得るが、大した差はない。

 

「確かにそうかもしれませんね」とハヤトの言葉を真摯に受け止めるレムが頬を緩ませて小さく笑う。甘さひかめえの紅茶に一つ、角砂糖を入れる彼女は小さいスプーンでかき混ぜながら、

 

 

「レムも、そう思います。レムもテン君といると、不思議と落ち着いてくることが多いんです。言葉にできなくて、でも温かいんです」

 

 

ずっと、ずっと前から感じてきた温かさ、胸に手を当てるとじんわりと思い出される言葉にできないこと。敢えて言葉にするなら、それはきっと世界で一番優しい言葉なんだろうとレムは思う。

 

動かしていた手を止め、スプーンをそっと置くレムはハヤトにふっと微笑むと、

 

 

「やっぱりハヤト君はすごいですね。レムがとても悩んでいた答えを一瞬で出してしまうだなんて」

 

「そこに関しては俺の方があいつと長く一緒に居るからだよ。それに、これは俺の答えであってレムの答えじゃない」

 

 

どこか尊敬の眼差しを送ってくるレムにハヤトは楽しそうに笑う。当たり前だ、テンとは高校の三年間、一年の時以外はクラスが違ったものの、ずっとやりとりしてきたのだから。

 

その中で刻まれた記憶は今でも呼び起こされることは多く、挙げれば挙げるほどテンの面白エピソードは増える。二ヶ月間の関係にはまだ追い付かれないだろう。

 

尤も、レムが本気を出した今。自慢げに三年間の関係値を掲げられるのはいつまでだろうかと予想するのもハヤトの楽しみだったり。

 

 

「相手のことをよく見て悩み、好きなところや好きだろうなってところを見出していく。恋愛の醍醐味はそこだから、悩みも楽しんだ方がいいぜ。何せそれが恋愛だからよ。これからだぜ、レム」

 

 

これから。そう、レムとテンはこれからなのだ。もっと長い時間を一緒にすればハヤトにしか見えてこないところがあったように、レムにもレムにしか見えてこないものがあるはず。

 

どんな部分であれ自分しか知らないテンの素顔が必ず顔を出してくれる。そこを好きになることができたらもっと関係は進み、いずれ想いが届く。

 

特殊な人間だが、テンとて根っこはハヤトと同じで単純人間。彼の意識がレムに向いたらそこからは早い、どちらかが動けば想いは紡がれる。

 

ハヤト自身、早くそうなってほしいところはある。テンに彼女ができる、その一文だけで自分までも興奮してきてしまう。

 

 

「は、ハヤト君」

 

 

テンが「レムがさぁ、可愛くてね」とか話してくれる未来を脳裏に描いてニヤニヤするハヤト。不意にレムの声が彼の意識を帰還させられると、小刻みに瞳を揺らすレムが彼の瞳に映る。

 

細かな変化。しかし、紅茶を飲もうとティーカップの持ち手を握る体制のまま動きの停止した彼女には、明らかな動揺が見られた。

 

不審に思い「なんだ?」と返せば、何度か口元が葛藤に揺れたもののレムは持ち手から離した両手を膝の上に置き、

 

 

「レムがテン君のことを好きだと、知っていたんですか……!?」

 

「ーーーー」

 

 

若干前のめりになるレムは隠していたことがバレたのか、語尾を強くして問いかける。前のめりにになった拍子に、手が机に当たってガタンと音を立てるもレムの意識には入らない。

 

 

 ーーやっちまった。

 

 

心の中でそう呟くハヤトはこの後の収集をどうしようか頭を働かせ、思い返せば数秒前の愚かな自分が「恋愛」というワードを口にしていたことに気付く。

 

鋭いレムのことだ。その辺の言葉に対しての食いついが半端じゃない彼女はそこから派生して自分の密かな想いが勘付かれていたと勘付いても不思議ではない。

 

食い気味に詰め寄るレムにどうしたものかと苦笑するハヤト。ラムとは二人の関係については外からひっそりと見守ることを約束していたが、それもバレてしまった。

 

誤魔化すことはーー無理だ。何をどう言っても誤魔化せる気はしない。ならいいやと腹をくくる彼は「ラム、すまん」と心の中で彼女に謝ると、

 

 

「まぁな。レムのテンに対する言動、悩み、思考、どれをとってもそれは恋する乙女そのものだ。すぐ分かったよ」

 

 

いつからとは言わないハヤト。彼は「何より」と口早に言葉を繋げ、

 

 

「俺にテンの好みの女性像を聞いてくる時点で気になってるってことだろ? 多分、っつーか絶対あいつは気づいてないが、俺はすぐ分かる」

 

「そうだったんですか…。でしたら、ハヤト君と姉様には気づかれてしまいましたね」

 

「えっ? ラムにもバレてたのか?」

 

「というよりも、レムが相談したの方が正しいです。それでこの場を設けさせていただきました」

 

 

バレてしまったことは受け入れるレム。正しく椅子に座り直す彼女は悟られた動揺を抑えるように紅茶を喉に流す。紅茶を飲んで気が落ち着いたか、「ほぅ」と一息ついた。

 

途端、ふと思ったことがレムにはある。ハヤトが気づいているということは、彼とよく話しているテンも気づいてるのではーー、

 

 

「ということは。もしかしてテン君も……!」

 

「それは安心して良いぞ。あいつは恋愛に関しては無知のド天然だ。気づいてるはずがない」

 

「ですよね……。知ってました」

 

 

光が差したように表情が明るくなったレムだったが、瞬時に返された言葉にスッと陰る。自分も察しているのに加えて、ハヤトが言うなら本当だろう。

 

呆れるように、残念がるように声色が沈むレム。なにか、溌剌とした子犬の耳が垂れ下がるような姿を幻視したハヤトに彼女は「だって」と拗ねるように言葉を言い始めた。

 

 

「テン君、レムがどんなに意識させようとしても全然気づいてくれないんです。いつも苦笑いするか、完全に素通りするかの二つで。レムの気持ちなんて分かってくれないんですから」

 

「まぁあいつだからなぁ、逆にレムの反応に照れたりデレデレしてたら気持ち悪いわ‪」

 

「レムだって自分を意識させるのは緊張するんです。それなりに心の準備だっているのに、全然触れてくれなくて。テン君は察しが悪すぎるんですよ。悪すぎで、逆に気づいているのではとすら思ってきました」

 

「お、おぉ。そうだな」

 

「鈍感です。鈍感すぎるんです。初恋の相手が鈍感ってなんなんでしょうね。世の中の女性はみんなレムのような思いをしてるのでしょうか。でしたらレムはその人の背中を優しくさすってあげますよ。もちろん、お相手にはきちんと話をつけてから」

 

 

途端に饒舌になるレムの口が止まらない。適当に相槌を打つハヤトの声など入ってない彼女はその後もマシンガントーク、自分の苦労とテンの鈍感さの二つを合わせた愚痴を珍しく溢している。

 

こんなレムは初めて見た。好きに対して真っ直ぐな彼女は日々、直向きにそれと向き合い、相手のせいで四苦八苦している。なんて微笑ましい光景だろうか。

 

 

「じゃあレムは自分の気持ちがあいつにわかってもらえたら、どうしてほしいの?」

 

 

止まらないトークを遮るハヤトが首を傾げて問いかける。どうしてほしい、改めてそう聞かれると少し言葉に詰まるレムは「それは…」と言葉を止めたっきり口を閉じてしまった。

 

自分の想いが通じたら、彼にどうしてほしいのか。日々の行動が積み重なって、彼の心の中心に自分の存在が陣取って、彼に想いを告げたそのあと。彼にどうしてほしいのか。

 

 

 ーー考えるまでもない。

 

 

「レムはテン君をお慕いしていますから、レムの気持ちを受けとめてほしいと思っています。ーーなんてこと、押し付けがましいですかね」

 

「いや? そんなことないと思うぜ。好きな人にはそう思うのが普通だ。自分のことを好きになってほしい、そう思うのは何も悪いことじゃねぇよ」

 

「そうですか。そうですよね! 押し付けがましいなんてことないですよね!」

 

「当たり前だろ」

 

 

なにやら吹っ切れた様子のレムがそう言って笑顔を弾けさせる。陰っていた顔に再び光が差す彼女は嬉しそうに頷いていた。

 

肘を折り曲げて可愛らしくガッツポーズ。決意を新たにするレムは「よし」と声を溢すと、

 

 

「でしたら、これからはテン君にレムのことを意識してもらえるようにもっと頑張らなければ! ハヤト君、レムは頑張りますよ」

 

「おうおう! ただ、頑張り過ぎても恋愛は上手くいかないぜ? 努力半分、運命半分ってな。タイミングが大事になってくるから、焦らずゆっくり意識してもらえるようにして行くのが必要だぜ」

 

「はい。そうできるように努力します!」

 

 

心を決めたら一直線、前だけ見て突っ走るレムから目に見えて陰りが無くなったのが分かるハヤト。彼女の望む答えを返せるかどうか不安だったが、それも不要だったと彼は分かった。

 

レムに関してはもう心配は要らないだろう。ハヤトという誰よりもテンのことを理解する人間の言葉を聞いたのだから、その人からアドバイスを受けて、更に頑張ると決意したのだから。

 

だから、今ハヤトがレムに贈れる言葉は、

 

 

「応援してるぜ、頑張れよ」

 

 

 ーーやることはやった、あとはお前次第だぞ。

 

 

届くはずもない言葉をテンの心に投げかけるハヤト。唯一の心配があるとすれば彼の心の部分だが、とりあえず今はレムの努力を見守る。

 

それでもダメなら自分が再び出よう。そう決意して、彼はレムに笑いかけた。

 

 

 

 

 

 






正直なところ、テンとレムをどうやってくっつけようか考え中です。この物語の一大イベントですから盛大にいきたいのですが、テンが相手だとゆる〜く終わる展開しか思い浮かばない……。


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