親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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タイトルの通り。絶対雑に扱ってはならない人を0章では雑に扱います。この人とまともにお話しするのはもう少し先ですね。




一般通過最優

 

 

 

「二人とも、遅いね」

 

「待ってれば帰ってくんだろ」

 

 

合流してから数分後の話。約束の二時間が経過したため、レムとラムの二人が申請状況を確認するべく近衛騎士団詰所の中に入って行き、残りの二人は入り口付近でその帰りを待っていた。

 

どうせなら自分も行きたいとハヤトが言ったが。相手はお偉いさん、万が一変なことをしてしまったらロズワールの名前に傷が付きかねないとラムが突っぱね、今に至る。

 

詰所の壁に寄りかかるテンとハヤトの二人。今日は何かと待つことが多いと感じるのは二人共通のことだった。しかし、ハヤトとて節度は弁えられる人間、今回は我慢した。

 

となれば、後はテンとくだらない話をするしかない彼は適当な話題をと彼を見た時、目に止まるのは抱えている紙袋。

 

ハヤトは自分の荷物は竜車の中に置いてきたがテンは「持ってる」と言って聞かず。結局は抱えた状態となったそれ。

 

 

「大事そうに抱えてるけど、その中身ってなんなんだ?」

 

「これ?」

 

 

紙袋を指差すハヤト。全財産を使ってまで彼が購入したかったものとはなんなのか、純粋に気になる。彼が欲しがりそうな物ーー。ダメだ、全く検討がつかなかった。

 

深まる紙袋の謎にテンは「これはね」と指で小さくつつきながら、

 

 

「日頃の感謝の気持ちを込めて。とある三人にブレスレットを購入しました。さて、この三人とは誰でーー」

 

「レム、ラム、エミリア」

「つまんねーやつ」

「分からん方がすごいわ」

 

 

ちぇ、と口を尖らせて不満アピールの気配を漂わせるテン。彼は「つまんねーやつ」と連呼するも、ハヤトは笑いながら右から左へと受け流す。子どものような彼に構う気配はない。

 

ブレスレットと聞いて大凡の検討はついていたことに加えて、三人と言われれば彼女たちで確定である。しかし予想は的中したが意外だったとばかりにハヤトは小袋の中身を覗き、

 

 

「お前がアイツらに贈り物をか、少し意外だな」

「なんで?」

「だってお前、そういうの興味なさそうだし」

 

 

あっけらかんと言われることに精神的な攻撃でも受けたか、テンが顔を顰める。が、ハヤトの言葉に嘘偽りはない。本気で彼がそういうことに興味がないと思っている。

 

現に、故郷でもピアスやネックレスを付けた姿なんて一度たりとも見たことがない。それ以前に、「お金の使い道がない…」とかふざけた発言をしていたことをハヤトは一生忘れない。

 

 

「た、たしかに興味は無いと言えなくもないけど。それとこれとは別でさ。ほら、あの三人にはいつもお世話になってるから偶には感謝の気持ちを伝えてもいいんじゃないかなって思ったんよ」

 

「ほぉ、お前がねぇ」

 

「それに、女の子ってこういうの好きだって姉ちゃんから聞いたことあって。実際に付けてるところも見たことがあるし、それを当てにしただけというかそれ以外の気持ちはなくてただ普通に感謝の気持ちをね。ほら、ね?」

 

「ほぉ、お前がねぇ」

「なんだよその笑みは」

 

 

途端に口数の増えたテンにハヤトはニヤニヤと笑みを浮かべる。いつものような感情の読み取りづらい彼がこうも分かりやすく照れ隠しすると、なんだか新鮮な気がした。

 

多分テンは、本当に感謝の気持ちを伝えるために自分の財産を削ってまで贈り物を購入したのだろう。が、その照れ隠しの仕方だと好きの裏返しでしか思えない。

 

尤も、それを指摘すればテンの「は?(真顔)」が飛んでくることか。

 

 

「お前が女の子にプレゼントを贈るようになったか。うん。なんか、成長を感じるよ」

 

「何がだよ」

 

「だってお前、そもそも恋愛とか興味なさそうに見えるし。それ以前に女性に興味あるのかすら不安だったしよ。そんなお前が女の子に……。あの三人には感謝しないとな」

 

 

彼が女の子のためにお金を使う時点で異性経験が何歩も前進していることにハヤトは嬉しく思い、感慨深く頷いていた。その感情が全面的に押し出てくるのはまだ先だとは思うが、少なくとも異性に贈り物ができる彼は前とは確実に違う。

 

恋愛感情に発展するかは分からない。けど、感謝の気持ちだとしても贈り物を渡すことができるようになったことは、この先絶対大きな意味を持つはずだ。

 

特にレム。彼女もまたテンに贈り物を購入したのだから。お互いにプレゼントを渡し合うことでその関係がグッと縮まってくれると嬉しいーーとはハヤトの勝手な妄想か。

 

 

「そーゆーハヤトはどうなのさ」

 

「何がだ?」

 

 

やられた分の反撃とばかりに食い気味に言葉をかけるテン。彼は頭の上に疑問符を浮かべるハヤトに「とぼけるなよ」と目を細めて睨み、

 

 

「お前だってベアトリスに髪飾り買ってたって言ってたじゃん。さしずめ、俺と同じで感謝の気持ちとかでしょ。それと一緒だよ」

 

 

そらきた。とでも言いたげに笑うテンが口早に言葉を継ぐ。

 

ハヤトだって自分と同じくベアトリスへの感謝の気持ちを込めて髪飾りを買ったに違いない。ならニヤニヤされる理由も、自分が弟を見るような目で見られる理由もない。

 

贈り物に込められた感謝の気持ちという共通点に飛びついたテン。彼は自分勝手な思い込みで話を進め、

 

 

「いや、単に似合いそうだったから買っただけだが」

「コイツ、俺と違って慣れてやがる……!」

 

 

それは自分勝手な思い込みで終わったと知った。

 

平然とした様子で語るハヤトは特に焦るわけもなく。焦るテンと冷静なハヤトという、いつもとは真逆で真反対な態度の差がテンの表情を驚愕に染める。

 

自分はラムの言葉もあったにも関わらず「本当に似合うかな……」と余計な心配して、購入に至るまでに時間がかかったのに対し。ハヤトの場合は「お、これ似合いそうだな」の直感で購入と。

 

 

 ーーマジか、こいつ

 

 

まさか、こんなところで女性経験の差がハッキリと浮き出るとは思わず、余裕そうなハヤトにテンは反撃する口を閉じるしかなかった。

 

 

「贈り物ってのは案外、直感で選ぶのも一つのやり方だぜ? 選んで選んで、悩みに悩みまくっても悪くないが、一番はやっぱ直感よ」

 

「これが俺とお前の差か。やっぱ、俺とお前は違うのか。お前は谷を一つ挟んだ向こう側の人間、縮まる事のない差があるよ……」

 

「なに言ってんだよ。お前だってこれからそういう経験をしていけばいい。焦る必要はねぇよ」

 

「そんな経験がいつかできると良いんだけどさ。俺のことなんて、誰も好きになってくれないと思うよ。俺なんて誰の目にも止まらない」

 

「それは思い込みだ。見てる人はちゃんとお前のことを見てる。お前はそれを知らなさすぎるだけの話だよ」

 

「例えば誰だよ?」

「自分で気付け」

「ひどい」

 

 

テンが返し、ハヤトが返す。やはりどんな内容でも無限にやり取りを交わすことができる二人は口数がどんどん増えていく。相性が良いからか、もしくは話していてネタが尽きないからか、理由は挙げれば挙げるだけ出てくるのだ。

 

 と、

 

そんな最中。不意に詰所の扉が開き、中から一人の青年が出てきた。

 

長身の青年だ。身長は二人より十センチばかり高く、大凡百八十センチ程度だと分かる。髪の色は青みのかかった紫だ。

 

体つきは細々としているが決して貧弱の分類には属さず、しなやかと形容すべきだろう。恐らく、内側は引き締まった肉体が隠れている。

 

その身に纏うは純白。汚れの一つもない近衛騎士の象徴たる衣に袖を通し、腰にはレイピア風の剣を下げる姿。

 

その青年が二人の真横を通り過ぎて行く。軽く言い合う二人を横目に、しかし言葉は生まず。詰所に背を向けて去って行った。

 

 

「ーーーー」

「どした、テン。急に黙ったりしてよ」

 

 

直後、瞳が大きく開いたテンの口が止まる。扉に背を向けるように立っていたハヤトと違い、青年の姿を瞳に捉えていた彼はそれが誰なのか瞬時に判断、頭の中が真っ白になり、心臓の鼓動が興奮で高鳴った。

 

通過した青年の背を視線で追うテンの様子を不審に思えば、ハヤトも彼の視線の先になにがあるのかと視線を飛ばしーー、

 

 

「ーーえ?! あれって、え? いつ通った?」

 

「今さっき。俺とお前が下らないやり取りしてる間に、お前の後ろをスッと横切って」

 

 

遠くなっていく後ろ姿に興奮気味のハヤトが目を凝らし、まさかまさかと楽しむように口角を釣り上げる彼は青年の正体を知る。

 

あの背筋を伸ばした後ろ姿だけでも分かる、間違えなくあれはハヤトが会えるかもと密かに期待していた、

 

 

「ユリウス……! おいおい、なんつータイミングで登場してんだよ。初登場が俺らの後ろを通過するだけって、もっと感動させろよ!?」

 

 

『最優』ユリウス・ユークリウス。まさかの初登場の瞬間である。

 

折角ならちゃんとした場で出会いたかったとハヤトは興奮する。あまりにも短く、自然な、それも一方的な出会い方に彼は嬉しいような悲しいような、微妙な気持ちになった。

 

ハヤト的にはもっと劇的、例えば戦闘の最中に颯爽と現れたりなんか期待してたりしたのに。まさかのこうした日常の最中、それも真後ろを通り過ぎるだけという。

 

声の一つでもかけてくれればいいのに。相手にすらしてもらえずに素通りされた。それはそれでなんとなくイラつくハヤトだ。

 

 

「行くぞテン。今なら間に合う!」

「ちょちょちょ! 行ってどうするの?」

 

 

遠くなる背中を追いかけるべく駆け出したハヤトをその手を掴んだテンが止める。猪突猛進、理性よりも本能が行動傾向に出やすい彼は考える前に動くことがほとんどだ。

 

その度にこうして隣の男に止められているが、それは今回も同じようで。尚も前に進みたがるハヤトは「決まってんだろ」と歯を見せて笑い、

 

 

「戦いを挑みに行く!」

「死ぬぞーー?!」

 

 

好戦的に笑う彼は冗談を言っているつもりもないらしく、握りしめた拳が彼の闘志を何よりも雄弁に語っている。

 

だんだんハヤトの思考回路が世紀末寄りになってきている気がするテン。盗賊に襲われた時もそうだったが、彼は力が付いてきて以降、戦闘欲が尋常じゃない。

 

挑まれれば迎え撃ち、格上には挑戦状を突きつけることを躊躇なくやってしまう。尤も、ユリウスに挑んだところで十秒と経たずに決着がつくのが目に見えている。

 

 

「離せ、テン! 俺は盗賊共と戦った熱がまだ完全に冷めたわけじゃねぇんだ! 今の俺ならアイツにも勝てるかもしれねぇ!」

 

「数時間経って冷めない熱って、どういう事だよ。てか、それは身の程知らずすぎるって! 今のお前じゃ十秒ももたないよ!」

 

「やってみなくちゃ分からねぇだろ?」

「近衛騎士ナメてんの?」

 

 

前に進もうとするハヤトの手を引っ張るテンは踵でブレーキを掛けながら全体重を後ろへと倒す。これでもズルズルと引きずられるのだからハヤトの力は相当なもの。流法を纏うテンの体ですら気合で彼は突き進んでいく。

 

ひたすらに前だけ見るハヤトの浮かべた好戦的な表情を見て。なにか、イヤな予感がテンの脳裏に過る。今のハヤトは自分の力を過信し過ぎているというか、なんというか。慢心の塊のような気がした。

 

分かりやすい典型的なパターンだが、実際にそれを前にするとこうも危ういものなのかと。

 

自分と真反対だからこそ起こりうる事態の一つとして考えていなかったわけではない。けど、その矛先が『最優』の称号を冠する存在に向くなど一体誰が予想できようか。

 

 

 ーーダメだ、ここで止めないと

 

 

今ここで彼を行かせれば、なにかと面倒な事態を引き起こしかねないと察知したテンはより一層力を込める。が、皮肉にも力はハヤトの方が上だ。

 

 

「うぉぉお! 行かせろぉ!」

 

「ほんと、やめて! お偉いさんに手ぇ出したらお前以外にも迷惑がかかるんだから! 戦いたいなら帰ってからロズワールにでも殴りかかればいいじゃんか!」

 

「だが、ユリウスはここにしか居ないだろ。今ここで逃せば次いつ会えるか分からん」

 

「お前は本当に脳筋なのかーー! そもそも相手にしてもらえるわけないって! おい、聞いてんのか!? 真反対野郎!」

 

 

徐々にテン引きずられる速度が増してきた。残念なことに目の前の男のせいで右腕は骨折したために左腕一本で彼を止めなければならず、しかもその手には紙袋がかけられているため、雑に扱うこともできない。

 

そうなればこの均衡を保っているのは流法のお陰で、仮に解きでもすればハヤトはリードから解放された大型犬のように走り去っていくだろう。

 

 と、そんな時だった。

 

 

「テン君。これはどういう状況ですか?」

 

「やっと面倒な事が終わったというのに、あまり騒がしくしないでほしいんだけど」

 

 

背中にかかる声に首だけ振り返れば、テンの瞳には二人の女神様が映った。一人は犬と飼い主のような光景を不思議そうに見ているレム。もう一人は困るように頭に手を当てるラム。

 

申請が通ったのだろうか。一枚の紙を持ったレムを見たテンは「ヘルプ!」と必死な様相で二人に助けを求めると、

 

 

「このバカ止めて! 『最優』の騎士ユリウス・ユークリウスに喧嘩売るつもりなの!」

 

「は……? 冗談でしょう?」

 

「冗談に見えますかね?!」

 

 

流石のラムもハヤトがそこまで脳筋ではないと思いたかった。が、状況から察するに本気で彼は挑みに行くつもりだろう。呆れる通り越して、もはや感心までしてくる。

 

意図せずにラムは口からため息がこぼれる。何をどうすればそんなに好戦的になれるのか。それを止めるテンもご愁傷様。

 

 

「やることは終わったんでしょ? なら、後は帰るだけだよね。ならなら、早くこいつ竜車の中にぶち込んで帰ろうよ」

 

「おい待て、俺はまだ不完全燃焼。この心に灯る熱き炎は何人たりとも消すことは不可能ーー」

 

「レム」

「はい。姉様」

 

 

呼び声に反応するレムがテンの真横を音もなく通り過ぎ、白く細い手がハヤトの首根っこに伸びる。途端、前に引っ張られる力が消失し、代わりに首根っこを掴んだレムがハヤトを竜車まで引きずって行った。

 

わーわー騒ぐハヤトが抵抗するも、小柄な少女とはとても思えない怪力に彼は成す術なく。最終的には「黙ってください、ハヤト君」の冷え切った声で沈められた。

 

今までのが嘘のように数秒で沈められたハヤト。彼が静かになると辺りも落ち着きを取り戻すように気品のある雰囲気が漂い始める。

 

 

「……お前の妹って、すげーんだな」

 

「当然だわ。ラムの可愛いレムだもの」

 

 

自分では抑えきれなかった事を僅か数秒で鎮圧。ハヤトを竜車の中に押し入れるレムにテンは苦笑し、ラムは誇らし気に胸を張り。

 

感想を共有した両者は顔を見合わせて「ふっ」と笑ってから歩き出す。それは、王都から帰る事を意味し。

 

行きは盗賊に襲われ、王都では二時間拘束され、出発直前には『最優』が通り過ぎると。このままいけば帰りも何かしらのイベントがあるのではないかと懸念が残る中、竜車はその場を発った。

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 竜車は進む、平地を駆ける。

 

 

 

 

徐々に日が傾き始めてきた頃、竜車は帰路についていた。

 

 

「くっそぉ。ユリウスと戦いたかったのに、レムのやつ邪魔しやがって」

 

「邪魔されて当然だよ」

 

 

心に灯る炎の熱に内側から闘志を焼かれるハヤトがつまんなそうに言い、呆れるようにテンが目を瞑りながら返す。特にすることもない二人は、本日何度目かのくだらない会話中。

 

話の話題は勿論、不完全燃焼のハヤト。強制的に沈められた彼は、しかし炎が消えるわけでもなくずっと引きずっている。変わらずの戦い大好き人間である。

 

 

「この戦い大好き人間が。誰彼構わず突撃するのはやめろよな。世の中が戦いで溢れてると思ったら大間違いだぞ」

 

「いいじゃねぇか。日常はつまらん、非日常があるからこそ俺は楽しめる」

 

「俺は嫌だよ。日常が普通、特に危ないこともなく日々が過ぎ去るのが一番」

 

 

拳を握りしめて熱っぽく語るハヤトにテンは目を開けない。フードを被った睡眠体制のままに、眠たそうな様子で、けれどどこか芯のある声で語り返す。

 

戦闘を好むハヤトとそうでないテン。絶対に分かり合えない二人は、本当に、本当に真反対で。けど自分の意見だけは簡単に変えないところだけは同じだから、尚更分かり合えない。

 

 

「それじゃつまらんな。戦闘があってこそ、あのような事があってこそ。そう、刺激が足りねぇんだよ。俺の世界線は絶対に間違ってねぇ」

 

「もう嫌だこの人、怖い。お前は少し日々の日常を大切にするべきだよ。マンネリ化し過ぎてるかもしれないけど、それでいいじゃない。平和なんだから」

 

 

瞼を瞑っていてもテンには、格闘の構えをとりながら話すハヤトの姿が容易に想像できる。声色一つでそれが分かるのは、ハヤトの感情表現スキルが数値を振り切っているからだろう。

 

多分、彼は無意識にそれをやっている。自分の声色が徐々に熱のこもったものに変わりつつあることに気づいてない。故に、語る口は止まらない。

 

 

「つまんねぇ奴というか、なんというか。お前はもう少し好戦的になった方がいいぞ。男として重要なものが欠落してる。それじゃ、いざって時に困るぜ?」

 

「別に、俺は混沌よりも秩序派だから。なるべく争い事は避けたいんだよ。何事もなく終わる、それが全てだから」

 

「全て? お前の世界はつまらんな。死闘! 激闘! 手に汗握る白熱した戦い! これがあるから俺は強くなりたいと思える」

 

 

淡々とした語りを鼻で笑い、ハヤトは空席に立てかけた大剣を見る。今回は使う機会が無かったが、次あのような事があれば真っ先に鞘から引き抜くと彼は決めていた。

 

それも、テンの語る世界ならば不可能。平和だけの世界など生きてきて何がいいのか。やはり、世界は日常ではなく非日常であるべきなのだ。

 

つまらない、そう言われてもテンは態度を崩さない。言葉を間に受けない彼は眠たそうにあくび、体制を整えるようにみじろぎした。

 

 

「つまらなくて良い。平々凡々な世界が俺は好きなんだよ。それが一番幸せなんだよ」

 

 

 ーー原作が始まればそれも壊れるけど。

 

 

心の中でそう言葉を継ぐテンは瞼の裏側で記憶を呼び起こす。それは画面の中だけだったはずの世界。

 

血、悲鳴、死体、涙、白銀の世界ーー。映るものはどれも悲惨なものばかり。屋敷の人達が、主人公が、村の人達が、みんなみんな死んでいる。そんなの見たくないと目を開けた。

 

光の灯る世界で見えたのは楽しげに笑うハヤトの姿。何も分かっていないような彼は、ただ戦う事を心から待ち望んでいるように見えて。随分とおめでたい奴だと思う。

 

自分の言っていることが彼は分かっているのだろうか、自分も全部全部分かったようなことは言えない。けど、非日常を好むということは、その中にある悲劇を受け止める覚悟があるということ。

 

今の自分にはそんなのものは無い。死体も、血も、涙も。何も見たくない。その覚悟があるとでも彼は言いたいのか。

 

 

 ーーいや、考えるのはやめよう

 

 

悪い癖、これは自分の深読みだ。

 

多分ハヤトは、強い人と戦える日々を非日常と呼ぶのであって悲劇が含まれたものではないはずだ。

 

でなければ、自分は、テンは彼を許さない。

 

 

 

 

 

 ーーおまえは、みんなの死体を見たいのか?

 

 

 

 

 

「……うん。そんなのやっぱり要らない。俺は平和だったらそれで満足」

 

「ダメだなぁ。そんな世界、退屈で死にそうだ。たまには変化を求めて別世界へと己の身を投じるのもありだと俺は思うぜ。強くもなれねぇし」

 

「そうかい、なら勝手にやって。俺は俺のやり方で強くなるから」

 

「別に強制はしねぇよ。張り合いのねぇ奴」

 

 

腕を組むハヤトが頑なに意見を変えないテンを嘲笑するように鼻を鳴らす。しかし、再び目を瞑るテンは反応を見せず、彼はフードを深く被って口を閉じて。どう受け取ったか、ハヤトも口を閉じ、目を瞑る。

 

それを境に二人の間から言葉が消え、客車の中で反響していた声は徐々に失われていく。聞こえてくるのは車輪が凹凸のある平地を回る音一つ。

 

最後の最後まで意見を変えなかった両者が眠りにつく。それは、終わりのない対立が息を潜めるように、或いは分かり合えないと親友ながらに拒絶するように。

 

 

 

 竜車は進む、平地を駆ける。

 

 

 

 

 

 






ようやく帰宅です。王都遠足編が終わるのもあと少し。

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