親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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タグにほのぼの展開をつけました。シリアスな雰囲気は今のところ少だけ出てくる予定です。

そして、感想欄でフレデリカについてのご指摘を受けて原作を確認してみたところ。原作の通りに進むと、この時点ではまだ彼女は屋敷にいることになるんですよね。 ということで原作改変入ります。

彼女はテンとハヤトが来る一ヶ月前に屋敷を出たことにしてください。でないと書き溜めが水の泡となって消えてしまう悲劇が起こります。勝手な言い訳ですよね。

ほんと、原作ガチ勢の方々ごめんなさい!





全てはここから始まった

 

ロズワールとの話し合いが終了した今、緊張した雰囲気から解放された食堂では再び朝食が開始されていた。団欒の時、とまではいかないものの落ち着いた雰囲気が戻ってきている。

 

その中でも、相変わらず「うまいな、これ」と、どっかの呼吸使いを思わせるセリフを連呼しながら胃の中に朝食を詰め込むハヤト。テンに怒号を飛ばした彼に大した変化は見られない。

 

彼の態度は一貫して変わらなかった。あの状況下の中でも堂々とし、男らしく自分の意思を貫き通した。

 

本当にハヤトは凄いとテンは思う。自分とは真反対の性格をしているからかもしれないけれど、彼のこういう部分には少しだけ憧れを抱いてしまうものだ。

 

自分もこうなれたら、自分もハヤトみたいに。

 

彼の男らしさに同じ男としてカッコいいとテンは密かに思っていた。自分なんて、こんな弱々しくて態度も一貫してなくて、決意も揺らぎまくって。

 

情けないにも程がある。少しでも彼の背中に追いつけるようにと必死な思いだ。でも、どんなに頑張ってもハヤトには追いつく事はできないのだろう。人間としての差がありすぎる。

 

 

「…疲れた。それだけに限る」

 

 

お皿を一まとめにするテンが、余ったスペースに突っ伏す。先程までの態度が虚勢なだけあって緊張感から解放された彼は弱々しい。完全に肩の力を抜き、脱力といった具合だった。

 

その態度の変わりように苦笑している人が数人。ハヤトは「よく頑張った、流石だぜ」と肩を叩く始末。これではテンに女々しい男というレッテルが貼られることか。

 

否、時すでに遅しの気がしなくもない。

 

ちなみに、彼は元の席に戻っている。ハヤトの隣でありエミリアと席を一つ挟んで隣ーーのはずだったが。ハヤトが椅子一つ分を詰めたために必然的にエミリアの隣に座ることになった。

 

そんなこんなで今。彼は脱力中なのだ。

 

 

「はぁ、ほんとに疲れた。ハヤトが肉体的なこと以外で使えないのは分かってたけど、ここまで俺が引っ張ることあるかい」

 

「引っかかる言い方だな。つまりそれは、お前が肉体的なことではポンコツってことになるが。それでもいいのか?」

 

「いいよ。間違ってないし」

「自信持てよ。言ったばっかりだろ」

 

「それとこれとは話が別だよ。つか、口に物いれながら話すな。食べ終わってから話せ」

 

 

無音の空間に二人の話し声が何度も響く。否、二人以外の声が一音たりとも響かない。

 

基本、ロズワール邸の食事時は全員が口を閉じていることがほとんど。そのため彼らのやりとりが物珍しいのか、全員が口を挟まずに聞いていたのだ。

 

机に頬をつけながら疲労気味に話すテンと、食べかけのサンドイッチ片手に楽しげに話すハヤト。二人の態度が先ほどから真反対すぎる。とは屋敷の住民共通の考え。

 

そんな真反対なテンとハヤトだが、関係は深そうに見える。性格が正反対にも関わらず相性がいいのだろうか。会話を聞いていた感じではお互いのことを親友と語っていたのを覚えている。

 

 

「二人って、ほんとに仲良しなのね。もしかして子どもの時からずっと一緒だったり?」

 

 

疑問に思ったエミリアが声をかければ、横からの声に首を回して反対の頬を机にくっつけるテンと視線をエミリアに移すハヤト。彼らは「んーー」と喉を低く鳴らして、悩む素振りを見せた。

 

数秒後、先に口を開いたのはハヤト。

 

 

「一緒ではねぇな。コイツとは高校の三年間の付き合いだ。だが、過ごしてきた時間よりも内容が濃すぎたな。俺の中では上から数えた方が早く名前の上がる親友だぜ」

 

 

カラオケに行ったり、飯を食べに行ったりと様々な経験を思い出すハヤトがしみじみとした風に語る。ハヤト自身、まさかテンとここまで仲良くなれるとは思っていなく彼からすれば嬉しい予想外だ。

 

エミリアとしても予想外だったのか。彼女は、「へぇ」と驚くような声を上げ、

 

 

「その、コウコウはよく分からないけど。たった三年でそこまで仲良くなれるのね。私から見たら二人って、なんだか兄弟に見えるけど」

 

「そんなわけないな。顔が似てなさすぎるだろ」

 

 

エミリアなりの二人の捉え方にハヤトは苦笑。とても仲良しと思われているのは伝わってきたが兄弟は行き過ぎな気がしなくもない。

 

それに彼女の言うことが現実となると、

 

 

「どっちが兄でどっちが弟だ?」

「ハヤトがお兄ちゃんで、テンが弟」

「だと思ったよ……」

 

 

ハヤトが興味本位で問いかけた疑問に、エミリアが即答し、黙って成り行きを見ていたテンが静かに落ち込む。三人の反応が順番に起こり、最後にテンの落胆で他二人の笑声が口から漏れた。

 

分かっていた答えにテンは苦笑すらできず、ため息を一つこぼす。先程のやりとりを見ていればそう思われるのも普通な話だろう。本日何度目かの情けない自分を認識する彼の口は反論を発することはなかった。

 

 と、

 

 

「ロズワール様。あのお客様二人を使用人としてこの屋敷に雇うのは如何でしょうか。名目上での立ち位置は身分を示すのに必要になるはずです」

 

 

そんな中、ラムがロズワールの後ろで声を発した。今まで一度も声を発さなかっただけあって耳の良いテンは視線をそちらに向けると声の主と目が合う。ハヤトにも聞こえたらしい、会話を中断する彼も視線を向けていた。

 

視線の先には声の主であるラムと「ふぅーむ」と顎に手を当てて悩んでいるロズワールの姿が見える。使用人、というからには屋敷の事をあの二人と一緒に管理すると思われるが。

 

 

「君達はそれでもいいのかい?」

 

「だって、どうするよ」

 

「使用人でしょー、別に良いんじゃない? 屋敷に置かせて頂いてる身だから。少しでも貢献する事は大切だよね」

 

 

提案に一つ返事で乗っかるテン。ここまで来たのだからなんでもやってるよの心構えをする彼は躊躇もなくそれを受諾した。突っ伏しながら言われると投げやり感満載に思えてしまうハヤトだが。

 

ハヤトもハヤトで、テンの意見には賛成だった。確かに自分たちは屋敷に住まわせてもらう身だから恩返しのつもりで手伝うのは当然。

 

気の抜けた手をふりふり振るテンと、グーサインのハヤト。二人の言動を受け取ったロズワールは頷く。

 

 

「では、その方向で行こうか。とぉりあえず、朝食が済んだらエミリア様はいつも通りのスケジュールでお願いします。ラムには彼ーーハヤト君に屋敷の案内を。レムは普段通りに食器を片付けた後、テン君と厨房に……とその前に」

 

 

きびきびと指示を出すロズワールの姿は、さすがに屋敷の主と言われるだけはある。慣れた口運びで指示を出す彼はテンとハヤトににんまりと笑うと、

 

 

「そぉの前に、自己紹介しなきゃだぁね。居ないのが二人、それ以外の屋敷の住居者は全員がこの場にいるわけだから」

 

「居ない奴……。ベアトリスと、あと一人?」

 

 

茶で喉を潤すハヤトが淡々と話すが、その言葉にテン以外の全員の肩に驚愕が走る。ピクリと反応した彼らの視線を一度に向けられるとティーカップを持ったまま困惑するハヤトである。

 

なぜ? と視線をロズワールに向けると彼は細めた目で興味そうにハヤトを見ながら、

 

 

「ハヤト君、なぜ彼女の名を?」

 

「さっき会ってきた。部屋に戻ろうとしたら俺が寝てた部屋が書庫みたいな場所に変わっててよ。そこで少し話したんだよ。アイツ、見かけによらず良い奴だな」

 

 

少し頭を撫でただけで頬を赤くする様は年相応、可愛がり甲斐のありそうなベアトリス。魔法でぶっ飛ばしてくるのには頭にくるが、それさえ突破できれば彼女を阻むものは何もない。

 

うんうんと頷くハヤト。またしても予想外なことにテンの隣に座るエミリアが前のめりになり、重ねるように言葉を彼に掛けた。

 

前のめった瞬間。突っ伏すテンの嗅覚をふわりと漂ってきた女性特有の甘い誘いが刺激し、彼の心臓が一度だけ跳ねたことは誰も知らない。

 

 

「ちょっと待って、ハヤト。もしかして、禁書庫に入ったの?」

 

「入ったと言うか、入れられたと言うか。つか、あの書斎みたいな場所。禁書庫って名前なのか」

 

 

納得するように声をこぼすハヤトだが、その事実にエミリア達がその性質を知っているが故にさらに驚いた仕草を見せた。

 

聞けば、ベアトリスが招かなければ禁書庫へは立ち入ることができないのだとか。

 

禁書庫自体が屋敷の扉のどことでも自室に繋げられる魔法『扉渡り』の効果で、何処にあるか検討も付かず。手当たり次第にドアを開けるというゴリ押し法もあるが、この広い屋敷の中でその方法は愚策。

 

けれど、対応から察するに自分はベアトリスには招かれざる客だと伝えるハヤト。つまりハヤトはベアトリスの許可なく禁書庫に入ることができたということになる。

 

 

「私でも手当たり次第でなぁかなか辿り着けない禁書庫に、ベアトリスの許可なく繋がるなんて……相性がいいんだろね、ハヤト君」

 

「よく分からん。まぁ、なんでも良いだろ。それに『扉渡り』っつっても特別なことはなんもしてないぜ? ただ、違和感のある扉を開くだけだ」

 

 

色々と難しい話が展開されているが、取り敢えずなんでもいいだろの一言でハヤトは片付ける。その一言で片付けるには待った得ない話だと彼が自覚するのは少し先の話。

 

屋敷の誰もが発見に苦労する禁書庫をハヤトは感覚一つで引き当ててしまうのだから。流石のロズワールも「その一言で片付けるのかい」と惜しむように声を呟いていた。

 

 

「話が脱線してるよ。自己紹介でしょ。最後の一人はどこに居るの?」

 

 

そろそろ体制を起こすテンがほぐすように何度か肩を回すなどの動作をしつつ、辺りを見渡す。尤も、そうしたところで見つけられるわけでもないと知ってはいるが。またしても知らないふり。

 

そんな彼の肩をエミリアが叩いた。優しい衝撃に顔を向けると彼女は微笑み、

 

 

「パック、って言うんだけど…。今は出て来れそうにないから。また今度でも良い?」

 

「パック、って言うんだ。うん、名前が分かったからそれで良いよ」

 

 

微笑み返すテンが頷く。分かっていた事だから特に追求することもない。

 

彼女の精霊である灰色の猫。原作ではエミリア関係でやらかしてくれた結構恐ろしい存在。今は結晶石の中でお休み中。

 

姿が見えなかったからそんなことだろうと思っていたが強ち間違ってもなかったらしく。胸元の依代に手を添えるエミリアが「もう、こんな時に」と言葉を紡いでいた。

 

エミリアの視線が依代に向き、釣られるテンも視線を彼女から依代に移す。それは必然的に彼女の胸元にも視線を向けることになる。豊満な、魅惑的な、悩殺のーー、

 

 

「くたばれ、おれ」

 

 

数秒間の直視に対する罰として彼は頬をぶん殴った。女性の胸元を見るとはなんて変態行為、彼女に悟られれば平手打ちは覚悟として受けることになる。

 

が、お咎めはエミリアではなくても飛んでくる。

 

 

「いやらしい」

「そこ、聞こえてるからな。俺は耳が良いんだ」

 

いやらしい

「だからって声小さくすんな」

 

 

テンの奇行におたおたするエミリアの後方。塵を見るような冷たい目つきのラムがそれと同等の凍てついた言葉をテンに投げかけ。強かったのか、殴った頬に手を添えるテンがそれに反応した。

 

隠す気も無いらしい。視線をテンにガン向けするラム。対するテンはその言葉を軽く受け流した。いちいち間に受けていたら身が持たない。

 

僅かに睨みを効かせるテンにラムはなんの悪びれもなく「ハッ」と鼻で笑うと、隣にいたレムも頷いた。

 

 

「だってお客様…改め、テンテンと脳筋って立場が同じの下働きでしょ?」

「だってお客様…改め、テン君とハヤト君は同僚になるのでしょう?」

 

「俺をどっかの忍者にすんな」

「俺が筋肉だけの人間に見えるか?」

 

 

独特の呼ばれ方で名前を決められた二人。ハヤトに関しては体付きが良いからだろうが、テンの場合はもはや名前×2しただけの安直すぎる名前である。どうせなら突飛なものを期待していたが。

 

しかし、立場が騎士ではなく使用人から始めるとなると幸先不安になるテン。彼はロズワールへと視線を向け、

 

 

「立ち位置としては、使用人として雇われた二人という事で? 騎士ではなく」

 

「仕事をするなら、ラムとレムの二人の指示で屋敷周りの仕事を手伝ってもらうのがベストだろうねぇ。なにか不満でも?」

 

「何も。全くねぇよ」

 

 

首を横に振るテンとハヤトがこれから先のことを想像した。バイトとはまた違った正社員的な立ち位置でのお仕事。掃除、洗濯、料理などの家事スキルの習得が必要と思われる。

 

勿論、二人はバイト経験者だ。掃除とかは嫌と言うほどやらされているし。各々が家で何かしらのスキルは身につけているはずだが。

 

 

「俺は掃除とかしか出来んが。お前は?」

 

「幼少期に親に教えられて皮むきなら…。掃除はやり始めたら止まらない人間なので。過去に皮剥きして右手の人差し指をバッサリいきそうになるトラウマを背負いました」

 

「マジかよ」

 

 

苦笑するハヤトにテンが噂の人差し指を見せた。そこには言葉どうり、第二関節に切り裂いたような傷跡がしっかりと残っていた。十年以上も前の傷が未だに消えてないとは驚きだ。

 

それ以来、怖くて包丁を握ることができなくなるというトラウマを背負ったテンの悲しいエピソードをハヤトが聞くが、周囲はそんな二人に感心するような様子だった。

 

 

「姉様、姉様。仕事がほんの少しでもはかどるとレムは少し希望を持ちました」

「レム、レム。人は見かけによらないとは正にこの事ね。あの何も出来なさそうな男二人が」

 

 

「お前らマジでいい加減にしろよ?」

「あまり期待しないでね。少しづつ覚えるから」

 

 

二人の言葉に微かな希望を抱いたのか言い方はアレだが、二人に期待色の混じった瞳を向ける双子姉妹。そうされると、応えたくなるのがハヤト。そしてプレッシャーに感じるのがテン。

 

と、そんな時。不意にエミリアがテンの胸板に手を当てた。その逆セクハラに「ふわっ!?」と、思わず声が出てしまったテンだが、そんな彼を無視したエミリアは「あのね」と前置きして、

 

 

「ハヤトは体つき良く見えるからきっと力持ちだと思うんだけど。テンも結構なのよ? ほら、こことかちゃんと、ここも」

 

 

後ろから回された白い手に腕、胸板、腹部とテンは順番に触られる。意識を失っていたとはいえ、彼の身体を見たことのあるエミリアは楽しげな様子で筋肉の形を確かめた。

 

当の本人はそれどころではない。触られた瞬間から条件反射の如くピーンと背筋を伸ばし、両腕が触れる手をどうにかこうにか払おうと動くが脳からの伝達が上手いこといかず、カタカタと震えている。

 

 

「あ、ぉあ、ちょ、えみ、りあ、りぁ!」

 

「やめろエミリア! それ以上はテンがあぶない! 色々と!」

 

 

突然のボディータッチにロズワールとの話し合いに耐え切ったテンが最も簡単に壊れた。本人としてはなんの悪びれも無い、テンがハヤトに劣ってないことを示すためにしたことなのだが。

 

テンとしては意味不明な行動に思考がショート。口から出る音は名前にはならず、呂律が崩壊。このままでは彼の脳内がピンクに染まると隣にいたハヤトが全力でテンのことを回収、彼女から引き剥がした。

 

 

「いやらしい。このど変態」

「テン君も困った方なんですか」

 

「おかしい、その反応は絶対に違う。被害者と加害者を見極めて。事実はここにある!」

 

 

エミリアから逃げるように一歩下がるテンの背中に届くのは双子姉妹の軽蔑するような声と、ドン引きするような視線。振り返り、必死に弁解するが、彼に降りかかるもう一つの声があった。

 

 

「テン、そりゃねぇぜ。お前、この短時間でエミリアになに吹き込んだんだ?」

 

「それ乗っちゃいけない悪ノリだよ、ハヤト! 乗っていい悪ノリとそうでない悪ノリの区別くらいちゃんとつけてください!」

 

 

テンの肩に手を置くハヤトが、罪を犯した親友に自首しろとでも言いそうな態度で彼に呆れる素振り。どこを見ても敵しかいない中、テンは自分にそれを吹き込んだエミリアへと縋るように視線を向けた。

 

彼女しかいない。この状況を打開するには彼女の言葉しか不可能だからーー、

 

 

「ーー? どうしたの?」

「どうしたの? じゃないからねっ!?」

 

 

当の本人は完全に罪の意識がない。それどころかこの騒ぎの原因が自分だということすら気づいてない様子だった。恐るべしエミリア、おのれ純粋少女。

 

首を傾げて「ん?」と可愛らしく頬を釣り上げる彼女にテンは全てを悟る。この中に自分の味方は誰一人としていないのだと。双子姉妹には軽蔑され、親友には犯罪者扱いされ、挙げ句の果てには加害者に微笑まれる。

 

世界は残酷だ。無性に青空を眺めたくなり、窓に視線をやるも、ちょうど太陽が雲に隠れていた。お天道様にすら見放されたテンは「はは」と感情の消えた笑みをこぼすしかない。

 

それを見てほんの僅かに笑みを浮かべる双子姉妹と「冗談だ」と肩を叩くハヤト。未だに状況を理解しておらず笑みを浮かべるエミリア。

 

既にテン弄ることで軽口を叩き合うことのできる使用人グループとエミリアを見ながら、ロズワールは満足そうに「うんうん」と顎に触れながら頷いて、

 

「仲良きことは美しきかな。お互いのわだかまりもなぁいようで、雇い主としても大いにけっこうなぁことだよ。ねぇ?」

 

「そうだな。これから一緒に働くんだからどうせなら接しやすい人が良いしさ」

 

「それが俺という一人の犠牲の上に成り立っていることを忘れないでね……」

 

 

疲労気味にテンがそう呟くのが、この長々と続いた朝食の場の騒がしいやり取りの締めくくりの一言となった。

 

軽く手を叩き、ロズワールは五人の視線を集めると、それから壁に掛けられた額縁のようなものを指差す。つられてそれを見やり、ハヤトは困惑に眉間に皺を寄せる。

 

その額縁にはめ込まれているのが、これまで廊下などでちらほら見かけた風景画などでなく、拳より少し大きいくらいの結晶だったからだ。

 

紅葉のようにほんのり明るい赤色、結晶はそんな妖しげな光をまとい、ぼんやりと食堂の中で五人の視線を受け止めている。それを指差しながら長身は、

 

 

「ほぉら、そぉろそろ火の刻も半分が過ぎてしまう。時間は有限だよ、テキパキといこうじゃぁないか。ーーラムとレムはさっき言った通りに。エミリア様は私の部屋に一度寄ってください。それじゃ、解散」

 

 

ロズワールのその言葉を最後に、完全に朝食の団欒は終了だ。レムが食卓に並ぶ食器類を手早く片付け始め、エミリアが今後のスケジュールを思ってか物憂げに吐息。ロズワールはそれこそ弾むようなステップで二人に歩み寄ると、微妙に置いてけぼりな彼らの肩を叩き、

 

 

「それじゃぁ、君達の仕事ぶりに期待させてもらうよ。もちろん、雇ったからにはお給金も出すし、そこの心配はしなぁいようにね」

 

「おぉ、そりゃ助かる。ありがとうよ、ロズワール」

 

「ご丁寧にありがとうございます、ロズワール様。えっと、…なんて呼べば?」

 

「あはぁ、客人の前でなければ呼び捨てで構わないよ。テン君はともかくハヤト君に様をつけられるのは気持ちが悪いからねぇ」

 

「おい、どういう事だコラ」

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

その後、二手に分かれた。テンにはレムが、ハヤトにはラムがそれぞれ教育係として付き。皮肉にもテンにレムが付いてしまったことで彼がハヤトにニヤニヤされながら脇腹を小突かれる事態が発生した。

 

テンとしてはラムの方が良かった。ラムはある意味では壁のない接し方をしてくれるから友人感覚で話せるはずなのに。よりにもよってレム。

 

俺を一人にしないでくれ。と、子犬のような視線を送るテンを受け流したハヤトはそのままラムと食堂を出て行った。

 

そして今。

 

 

「それじゃ、脳筋」

 

「だから脳筋って。せめて名前の原型を……まぁいい、もうそれでいいよ」

 

「ええ、そうね。脳筋、ロズワール様のご指示だから、まずはあなたに屋敷の案内をするわ。ついて来なさい」

 

 

そう言って前を歩くラムに置いてかれないようについて行くハヤト。彼は、様々な場所に案内された。

 

まず一つ目は貴賓室。来客を案内する部屋のことだ。一つの長机を囲むように三つのソファという簡単なスタイル。そこで手を組んで顎を乗せている人間の姿が安易に想像できた。

 

二つ目は浴室。これに関してはすごかった。湯船の広さは二十五メートルプールの半分ほどもある無意味に巨大なスペース。ホテルとかの大浴場みたいな感じだった。

 

三つ目が厨房。ここは、食器入れやら小机の上にまな板が複数。シンクのような場所もあったからここで調理するのだろうと簡単に分かる。

 

そうして、この屋敷の基本的な部屋以外はあらかた案内してくれたラム。次の場所へと言った具合で足を進めていく。

 

画面の中の世界を冒険して心躍る中。ふと、自分を先導するラムの後ろ姿を見てハヤトは思った。

 

 

「つかよ、制服的なのってないのか? お屋敷に勤めるんだから身形を整えるのは大事だろ」

 

「そうね、服装は大事ね。そんな真っ黒だと景観を損ねてしまうわ」

 

「なんだそりゃ。じゃあまずは制服に着替えさせてくれや。その方が気持ちも引き締まる」

 

 

「そうだろ?」と同調を求めてくる彼にラムは両手の指を立て、「んー」と呟きながらその全身を眺める。

 

絵を描く人がペンで全体的な奥行きを把握するような動作をして数秒。それだけでおおよそ服のサイズを測り切れたのか、満足そうに頷いたラムは手で上階を示し、

 

 

「二階に使用人用の控室があるから、着替えはそっちに。脳筋のサイズに合った物を後でとってくるから。安心なさい、男性用よ」

 

「誰がメイド服なんて着てやるか。寒気がしてくるわ」

 

「同感よ。吐き気を催すわね」

 

 

当たり前のことを言ってくるラムを笑い飛ばしたハヤト。男である自分がメイド服を着るなんてありえない、それだけは着てなるものかと断固拒否。

 

テンになら着させてもーーなどと少しだけ思うが、やはり気持ち悪い。頭をブンブン振って浮かんだ彼のメイド姿を消し去る。ラムもラムでハヤトのメイド姿を想像したのか心底気色悪そうな様子だった。

 

 

「なら、今日からその制服って感じか?」

 

「そうね。裾を縫う必要があるならレムに頼みなさい。縫ってくれるから」

 

 

今日に決まったばかりだが、ラムの見立てでサイズを採寸。心配しかないけれど取り敢えずの制服は持ってきてくれるらしい。流石に寝巻きのまま働くわけにはいかないから助かったところ。

 

そもそも、今のハヤトは靴はおろか靴下すら履いてない素足状態。これもなんとかしなければならない。学校のフローリングのような床を歩き続けるのは流石に足が冷たいのだ。

 

 

「なぁラム。使ってない靴下と靴ってあるか?」

 

「なんで……。えぇ、あるわよ。合いそうなのを制服と一緒に持ってくるから、それを履くといいわ。後で着替えもそこでしなさい」

 

「察しが良くて助かるぜ」

 

 

顔だけ振り返るラムが素足のハヤトを見て、なんでこいつ素足なのかと口に出そうとしていたが、彼の姿を上から下まで見て何かを察したのかその口を閉じていた。

 

ハヤト自身、「寝ていたら森の中で目覚めたせいで靴とか履いてない」だなんて言えるわけもなく、結局は詳しいことは話せず。心配なのは、ラムがどのようにその事情を察したかどうか。だが、

 

 

「脳筋って、森に住んでたの?」

 

「全然察することできてねぇや!」

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「二階の使用人控室の……そうね、西側の部屋ならどれでもいいわ。そこが屋敷での脳筋の自室よ」

 

「了解。つってもどこでもいいけどよ」

 

 

屋敷の二階へ案内され、制服と仮住まいが与えられるに当たり、候補として挙げられた部屋を眺めるハヤト。とはいえ、どれも内装は同じだと予想すると別にどこでもいいと思うが。

 

適当に歩く。「どれにすっかなー」と意味もない悩み声を上げながら。歩き、歩き、歩き。

 

不意に流していた視線が一つの扉に固定され、違和感に思うがままにその扉の前で足が止まる。他の扉とは何かが違う、外から見たらなんの変哲もない他と一緒の扉だが、確実に何かが違った。

 

 

「そこでいいの?」

 

「いや。そうじゃなくて……。なんかこの扉から違和感があるというか。言葉にできない気配がする」

 

 

腕を組み、感じ取った違和感の気配を探るハヤト。彼は扉ーーその奥から漂ってくる言い表しようのない『なにか』を注視した。この感覚はつい先ほどにも感じている。

 

横から刺さるラムの、なに言ってんだコイツ感のある視線には気にも止めずハヤトは突き動かされるように扉を開けると、

 

 

「ーーまたお前かしら。何度も正解の扉を簡単に引き当てるなんて、腹の立つ奴なのよ」

 

 

開いた瞬間、書庫の中央でハヤトのことをウザそうに見るベアトリスの姿を発見した。読書中だったのだろうか、三脚に腰掛ける彼女は体の半分はありそうな分厚い本を開いている。

 

なるほど。この違和感はベアトリスによるものらしい。正確には彼女の領域『禁書庫』が発するものらしい。他の誰も察することのできないそれが自分には分かると。

 

扉に顔を覗かせるラムも半信半疑だったことが確定し「あら、不思議ね」と小さく呟き。しかしこの後の展開を想定し、音もなくその場から数歩距離をとる。

 

しれっと被害の範囲から逃げたラムのことなど知らないハヤト。彼は「よぉ、ベアトリス」と気さくかつ、馴れ馴れしく扉という名の境界線を踏み越え、

 

 

「数十分ぶりだな。どうだ、また頭撫でてやってもーー」

「冗談じゃないかしら。出ていくのよ」

 

 

今度は容赦がない。踏み越えた瞬間、トラップでも発動したかのような勢いで魔力による暴風がハヤトの前面に直撃。こちらの声すら聞き入れない彼女に彼は豪快にぶっ飛ばされた。

 

背中から壁に激闘、衝撃に揺れる頭の後ろには最悪なことに装飾品を飾る机の角が。後頭部に突き刺さり、痛みの発信源に手を当てる彼が絶叫しながら床を転がり回る。

 

ぐらつく装飾品をラムが押さえる動作を横目に、それでも痛みを我慢した彼は気合いで立ち上がる。手を叩いた反動で前に飛び出す彼は先のドア。いつの間にか閉じていた扉へと一直線に。

 

 

「ごらァ、ベアトリス! よくもまぁ人が頑丈だからって……あ?」

 

 が、

 

気合を入れて足を踏み入れると、そこにはベッドとクローゼットが設置されただけの簡素な部屋が広がっていた。感じていた気配はいつの間にか消えている。

 

静かな部屋で呆然とするハヤト。ついさっきまで膨大な本の森が広がっていたとはとても想像できない狭い空間で、忽然と姿を消した禁書庫に彼は舌打ち。

 

おそらく朝に話していた『扉渡り』の効果だろう。勝ち逃げした幼女の、人を小馬鹿にするような嘲笑面が目に浮かぶ。

 

 

「一度、ベアトリス様が気配を消されたらもう分からないわ。屋敷の扉を総当たりしない限り、あの方は自分から出てきてくださらないから」

 

 

きっぱり敗北を認めろとでもいうようにラムがそう言う。後ろから慰めるように肩を叩かれ、その感触にハヤトは己の敗退を認めざる負えない。熱を冷ますように彼は扉をゆっくりと閉める。

 

彼女の気配が消えたことでひと段落。頭の痛みだけはひと段落どころか一生消えることがないのではと思う程に痛いが。ベアトリスに愚痴ることも今はできないと。

 

 

「くっそぉ。あたま痛ぇし背中も痛ぇし、踏んだり蹴ったりかよ。なにより勝ち逃げされたのが一番腹立つ」

 

 

「今度あったら頭撫で回してやるからな」と私欲がダダ漏れのハヤトが痛みを和らげるために後頭部をさする。溜まった熱を吐き出す彼は心に訪れた鬱屈感にため息をついた。

 

ラムの言うことが正しいならば彼女から出てきてくれることはない。ハヤトの場合は自分から探せばいい話だが、無駄に広い屋敷の中を走り回れば軽く迷子になる未来しか見えず、無鉄砲に動くのも愚策だ。

 

つまり、今回の戦いはベアトリスの勝ち逃げということになる。気持ちは晴れないものの、次回のために取っておくことにした。

 

 

「けど、ベアトリス様の気配が違和感として感じ取れるなんて。変な話ね」

 

 

次なる合戦に向けて気持ちを溜め込むハヤトにラムが首を傾ける。装飾品の落下を防いだ彼女はついさっきまで禁書庫だった扉を見つめ、

 

 

「やっぱり、相性がいいから?」

 

「おう、そうだな」

「そんなわけないかしらーー!」

 

「「あ、出てきた」」

 

 

ハヤトが頷き。禁書庫だった扉の一つ横の扉が勢いよく開き、真反対の言葉が屋敷に響き渡った。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

時間は少し遡る。ハヤト達が食堂から出て行った直後の話だ。ハヤトに子犬のような視線を送るテンだったがその甲斐虚しく、段ボールの中にいる子犬を見捨てる感覚で彼は見捨てられた。

 

誰もいなくなれば、そこにはテンとレムの二人しかいない。本当に困る話だ。ラムとなら適当に話せると思うのにレムの場合は難しすぎる。というか推しが目の前にいる。その事実だけで弾け飛びそうなのに。

 

 

「…えっと。食器は台車に乗せればいいの?」

 

「はい。そのようにして下さい」

 

 

そんな気持ちを抑え込むテンが淡々と作業を開始している。ロズワールの話が正しければレムの今の作業は朝食の後片付けだから、特に難しいことはしないのかと安心していたり。

 

初日から難しいことを任されることはないだろうけれど、もしそうだった場合「怒らないでね?」と一声かけてから作業に臨むとしよう。失敗しても許してもらえるように努力しよう。

 

ハヤトがいたら「失敗しない努力をしろ!」とか言われそうな感じだが。残念、これが自分ですと頭の中の彼に言った。

 

 

「ーーーー」

 

「ーーーー」

 

 

互いに話すこともないため、静寂の中で作業を進める二人。レムはどうか知らないが、テンはこのような場でも黙っている事が苦ではない。寧ろ、複数人いたらその話を黙って聞くのが好きなタイプだ。

 

例え、二人っきりだとしても話題がなければ一言も話さなかったこともある。加え、女の子と二人とか何年ぶりか。前の世界でお付き合いしている女性がいたハヤトとは違い、テンは場慣れというものがない。

 

それにレムと話すことなんて、あるのだろうか。お仕事のことは食器の片付けが終わってからでも平気だろうし。その場合、いよいよ話すことなどない。

 

 

「紅茶、美味しかったですか?」

 

「ふぇ?」

 

 

そんな時、テンの耳に静寂を貫く声がした。鈴を転がしたように綺麗なソプラノ声が、彼の鼓膜を優しく撫でた。

 

思いにもよらぬレムの言葉に本日何度目かの気の抜けた声を発したテン。声に導かれるように視線を声の方に向ければ、作業を中断したレムがこちらの方に顔を向けていた。

 

 

「その…。先程テン君にお渡しした紅茶はレムが淹れたものなんです。初めての試みでしたので上手くできたかどうか」

 

 

テンに視線を向けられたレムが言いながら作業を開始。視線を合わせていたかと思えば、またすぐに外し。

 

自分と一瞬しか目を合わせてくれなかったことに、軽くテンの心が意味もなく沈んだ。レムはレムで自分でもよく分からないことを聞いてしまって、取り敢えずテンとは目を合わせない。

 

そうして、レムを発端とした互いによく分からない状況が数秒にして展開された。

 

 

「…あぁ。なるほど」

 

 

止まった動きを再開するテンが納得のいったような声を出す。脳裏に思い出されるのは彼女が紅茶を持って来てくれた時のこと。どうですか? と目で訴えてきたのはそれが理由だと理解できた。

 

初めての試みを仮にもお客さんに飲ませるのは如何なものかと思うが。雑に思われている証拠か。別にどうなってもいい人間だから、試作品の紅茶を飲ませても関係ない、と。

 

実際のところ、かなり美味しかった。市販で販売しているのよりも甘みが抑えられていて、よりほんのりとした甘みが際立たされている。

 

テンとしては文句無しの紅茶だった。

 

 

「美味しかったよ、甘さ控えめで喉に優しかった。お陰で緊張がほぐれたしさ。ありがとうね」

 

 

言いながら最後の食器を台車に乗せるテンとレムの視線が、台車を挟んで合わさる。自分の言葉を聞いたレムは「はい」嬉しそうに微笑んでくれて。

 

 

 ーーもう死んでもいいかも。

 

 

そう思ったテンはぎこちなく笑ったのだった。

 

 





お気に入りが10に達し、評価をつけてくださっている方がいることに感動を覚えました。ありがとうございます。

ここからレムのタグが意味を発揮してくれると嬉しいなぁ。とか思ってたりします。


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