親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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お気に入りが二百人になりましたね。評価も8.0を超えたり超えなかったり。そうなる度にご期待に添えているような物語を書けてるか毎度のように不安になる作者です。

つまりあれですね。少なくとも約二百人の方の暇を潰せている、ということですね。嬉しいです。こんなほのぼのしかない物語を読んでくださってありがとうございます。

余談はこれくらいにして。

今回はいつもの二人です。なぜか、この二人を中心に物語を書くと迷走した挙句に意味不明な方向に突っ走りますので、「二人は仲が良いんだなぁ」ってことが伝わったら満足です。






ロズワール邸は騒がしい その2

 

 

とある日。

 

 

ロズワール邸の中に何十とある扉の中の一つが勢いよく開かれた音が響き渡る。中にいる人間のことなど一切考えない傍若無人を発揮したのは一人の男だ。

 

これで何百回目か。数えるのも面倒になる程にこうしてこの部屋に突入する彼の瞳が映し出したのは、見慣れた光景。

 

辺り一面を囲むは本、本、本。テンやハヤトの身長よりも高く、無駄に長い本棚が軽く十を超える勢いで綺麗に並べられたその部屋。図書館よりも数多の本を揃えた本の森——禁書庫。

 

いつ見ても思う。やはりこの部屋は見応えがあると。本好きの人からすれば天国のような空間で、目に優しい色合いのここは、一々飾られた外よりも落ち着く。

 

が、それもたった今突入した男によってぶち壊されてしまった。落ち着くとは禁書庫の管理人だけしかいない時の話で、この男が入ってくると途端に騒がしくなる。

 

始まりは決まって同じ発言からだ。ドアを開き、満面の笑みを浮かべ、その男——ハヤトは口を開き、

 

 

「よぉー! ベアトリスぅー!」

 

 

バン! という音と共に音の元凶がそれ以上の声で入室。遠慮という言葉を知らない彼は、禁書庫の管理人であるベアトリスの事情などそっちのけ。

 

毎度の如くベアトリスが被害に遭うのは言うまでもない。彼が部屋に入ってくるのは基本的に不定期だから予測できるわけもなく、ホラゲー並みの衝撃が彼女の肩に走る。

 

今回は声には出さなかったらしい。代わりに心臓と肩が大きく跳ねたせいで近くにあった本の山と接触、大きく音を立てながらボトボトと崩れた。ベアトリスからすればいい迷惑である。

 

 

「お、お前はどうしていつもそうなのかしら!? もっと平和的に入ってくるのよ! お陰で積んであった山が崩れたかしら!」

 

「それは悪いと思っている。だが、心配すんなよ。本は俺が積み直してやるから」

 

「悪いと思うのはそっちじゃないかしら! そもそもの話のことを言ってるのよ! どうせ開けるならもっとゆっくり開けるかしら!」

 

 

開始早々にドタバタする二人。相変わらずのハヤトに叫び散らすベアトリスは三脚に座りながらも、焦った様子で両手をブンブン振っている。

 

この発言をしたのもこれで何百回目か。何度言っても彼は平和的に開けてこないことに彼女は声を上げることしかできない。上げたところで無駄だ、この男はそういう男なのだから。

 

しかし、その理由一つで声を上げることをやめればベアトリスはハヤトに屈したことになる。上げることに意味はなくとも、行動そのものに意味はあるのだ。

 

だからベアトリスは抗う。いつの間にか真横にまで接近していたハヤトという名前の男が折れるまでは、自分も折れるわけにはいかない。

 

 

「ふんっ。なんでこんなことになるのかしら。不愉快極まりないのよ」

 

「そんなこと言うなよ、ベアトリス。ほら、テンが買ってきたクッキーでも食え」

 

「なんでお前が偉そうなのよ。……って! 勝手に食べるんじゃないかしら!」

 

 

もはや自宅のようなリラックス感のハヤトが読書のお供として小机に置かれた茶菓子を一つまみ。お上品な味わいを堪能しつつ、ベアトリスの声を適当に受け流した。

 

口の中に広がる甘味と彼女の声を感じつつ、ハヤトは崩れた山の再構築。入室の仕方に罪悪感は感じていないものの、山を崩したことは話が別。数秒して元通りに。

 

「うし、完了」と一仕事終えた感のあるハヤトが額から垂れる汗を手の甲で拭う仕草。実際に垂れているわけではないが、彼的にはこの一連の流れをそれで終わらせたらしい。

 

その罪悪感を入室に向けてくれればいいものを。悪いと思った事に関しては素直な彼にベアトリスは怒るに怒れない。偶に真面目な表情で「悪かった」と頭を下げられるものだから調子が狂う。

 

変なニンゲンだとは思う。けど、そこまで嫌いではないニンゲンだとも思う。

 

 

「それで。今日は何の用かしら」

 

「いや、別にこれといった用事はねぇよ。強いて言うならお前をからかいにきた」

 

「ぶっ飛ばされたいのかしら!?」

 

 

うそだ。嫌いだ、大嫌いだ。とっとと部屋から出て行け。

 

何の目的があるかと聞けば、何の目的もないと当然のように返し。敢えて理由をつければ自分をからかいにきたと語る。

 

少しだけ彼の捉え方を改めようとしていた自分が馬鹿だった。やはりハヤトはハヤトなのだ。この事実だけは会った頃から何も変わらない。

 

いつも通りのうざったくて、うるさくて、毎日自分の部屋に来ては声をかけて、太陽のような笑みを浮かべてくれる——変わらない男だ。

 

だから自分はいつもいつも、意識していないと彼に釣られて笑顔になってしまう。ふとした瞬間から頬が緩んで、情けない声が溢れそうになる。目の前の男に、手を伸ばしそうになる。

 

どうしてかは分からない。けど分かるのは、彼を前にすると思っている事と反対の言葉を口にしてしまうということで、

 

 

「あぁもう、お前といると調子が狂うかしら。さっさと出ていくのよ」

 

 

ハヤトの入室からここまで数分の出来事。穏やかだった禁書庫が一気に騒がしくなった気配にベアトリスはため息、しっしと顎を突き出して扉を指す。

 

心に訪れた知らない感情から目を背けるために心とは反対の言葉を口にして、彼女はハヤトのことを遠ざける。尤も、この程度では帰らないことなど理解しているが。

 

 今日は少し、予想外なことが起こった。

 

 

「そうか。じゃあまたな、ベアトリス」

 

 

途端、聞こえた声に頭よりも先に心が反射的に反応したベアトリスの瞳がピクリと動く。抱えた本がガタンと揺れたのは恐らく、本を置いている膝が跳ねたからだ。

 

頭の片隅にもなかった返し。ふざける時と真面目な時との差がありすぎる彼が、ひどく真面目な表情で自分のことを見ていた。それが何を意味するのか、理解できないベアトリスではない。

 

瞬きの間に変化したハヤトの雰囲気。刹那で冗談めいた態度を引っ込めた彼の瞳は本気の色をしている。今までにも何度か見てきたその色はベアトリスの心を確かに震撼させた。

 

本気で行くつもりなのか。向けられた背中を見た瞬間からそう思うことしかできず。だとしたらベアトリスが言うべき言葉は、

 

 

二度と来るんじゃないかしら(いかないで)

 

 

どうしてだ、どうしてだ。どうして反対の言葉が口から出るのか。本心とは真反対の言葉が当然のようにポンと出てくる。

 

違うそれじゃない。自分が本当に言いたいことはそんなものじゃない。言いたいのに、言えない。どうして言えないのか、分からない。否、分かりたくない。

 

ベアトリスの意志とは裏腹に出てきた突き放すような声。いつもならば適当に返すはずのハヤトだが、今はやはり様子がおかしい。

 

ふざけた態度が一向に姿を現さず。代わりに出てきた真面目な態度が口を開き、振り向く彼は簡単に言った。

 

 

「分かった。じゃあ、もう来ねぇよ」

「ぇ……」

 

 

何か、胸を貫かれたような気がした。一直線に飛んできた言葉に、心に宿っていた感情が射抜かれて、鼓動を刻まなくなっていく寂しさを感じた気がした。

 

たった一言。しかしそれがベアトリスという一人の少女にどれほどの動揺を与えたか、きっと本人ですら理解できない。

 

言うはずないと、どこかで思っていた。この男は自分がどれだけ突き放しても離れて行かないと、心の奥底で確信していた——のに。

 

 

 ーーもう来ねぇよ

 

 

期待していたことが裏切られる感覚。自分の感情もろともバッサリと切り捨てられ、再び向けられた背中が自分から離れていくことを語っている。

 

意図せず口から寂しげな声が溢れる。意識していたはずの頬は悲哀に緩み、呼び止める片手がゆっくりと持ち上げられる。

 

 その瞬間だった。

 

 

「冗談だって! 何もそこまで真面目に受け取ることねぇだろ? 流石に俺もやりすぎた感はあったから謝るが、そんな声出すことねぇって」

 

「ーーーー」

 

 

不意に振り向くハヤトが今までの態度を一変させ、ふざけた雰囲気を一気に押し上げた彼は大慌てで笑みを浮かべる。少しからかっただけなのだが、やり方が悪質すぎた。

 

だからそのお返しとして彼はネタばらし。今までのは全て冗談だったと語り、ベアトリスの眼前にまで迫る。そのまま流れるように脇に手を当てて高い高い。

 

 

「お前、ほんっと可愛いやつだなぁ! 言っただろ? 今日はお前のことをからかいにきたってよ! これもその一つだから本気にすんなって。俺がお前の前から勝手にいなくなるわけねぇだろ」

 

 

言い、ハヤトは彼女の中に生まれた寂しさを埋めるように明るく振る舞う。普段は適当にからかってやるのが流れなのだが、今回はイタズラが過ぎた。

 

基本的に高い高いをすると彼女が照れて、最終的に魔力の壁でぶっ飛ばされるのがオチ。もちろん、そんなこと知っている、知っているからこその高い高いだ。

 

やってから気づく過ち。彼女にだけは今のからかい方をするべきではなかったと。

 

部屋から出ていく自分の背中を彼女がどんな気持ちで見送るか。それを分かっていながら、今この瞬間だけ遊び心が勝ってせいで行動に移してしまった。

 

感情に流されやすい自分の美点であり弱点である部分が、まさかこんなところで露出する事になるとは。やらかしたことに気づいた時には既に遅し。普段ならテンがカバーする場面も、今はハヤト一人。

 

だからハヤトは、このまま彼女に思いっきりぶっ飛ばしてもらうつもりだった。理由は何であれ、物理的にサンドバックになる事で彼女の感情を発散させ、許しをもらうつもりだった。

 

 その、はずだった。

 

 

「ーーーー」

 

「あれ? ……ベアトリス?」

 

 

なんとかして雰囲気を明るくしようと頑張るハヤトだったが。彼は不意に、持ち上げた小さな体が全く動いていない事に気づく。電源を切られた機械のように反応を示さない。

 

それだけではない。「やめるかしらー!」と暴れるはずの四肢からは力の抜けてダラリと垂れ下がり、俯く彼女の表情には明らかな陰りがかかっていた。

 

なにより、溌剌と声を発するはずの声帯から音が一音たりとも聞こえてこず。

 

禁書庫の番人が静まり返ると、禁書庫自体もまた無音の世界へと様変わり。先程までの和やかな世界は、空気の凍てつく世界へと。

 

ハヤトの次はベアトリス。態度を一変させた彼女を前にした彼は途端に背筋が凍りつく。やばいと察した時にはもう遅い。

 

やらかしたとは思ったものの、どうせ許してくれるだろうとも思っていた。しかしそれは淡い期待で無責任な自分の結果だと知り、取り返しがつかないことをしたと理解した。

 

 

 ーーどうすればいい?

 

 

「……下ろすかしら」

「お、おぉ……」

 

 

この先の展開を考えていたハヤトだが、その一言でそれら全てが消し飛ぶ。怒るはずの彼女の声はひどく冷酷で、ぶつけられたのは魔力ではなく拒絶で。

 

声に操られるハヤトは抱えた彼女をゆっくりと下ろす。三脚に座らせ、抱えた拍子に膝から落ちた本を拾い上げると、揃えられた膝に置いた。

 

その間、ベアトリスはハヤトと一切目を合わせようとはしなかった。否、目どころか意識すら合わせようとせず、完全に目の前の男を拒絶している。俯く彼女はあり得ない程に残酷だった。

 

 

「出ていくかしら」

 

 

その声に感情はなかった。膝下の本を開く彼女はそう言って口を閉じ、それ以降開くことはない。ハヤトの想像を絶する態度を表に出したベアトリスは、完全に彼のことを意識外に追いやっている。

 

今まで一度も見たことのない一面。彼女のこれを見た時、それはきっと二人の関係の終わりを意味するのだろうと本能的に察したハヤト。

 

それだけはいやだ。悪いのは全て自分で、謝らなければならないのも自分。過ちを犯した自分のことは後で咎めるとして、今は彼女に謝る方が最優先だ。

 

変に緊張する中、ハヤトは口を開き、

 

 

「なーー」

「出ていくかしら」

 

 

その口が言葉を刻むことはなかった。

 

音を発しようとした瞬間に遮る声が無理やり言葉を押さえつけ、心を閉ざしたベアトリスにハヤトの声は届かない。本を捲る彼女は本当に興味をなくし、この調子ならば言っても無駄なのだろう。

 

心に直接刺さるやり方で距離を取られたハヤトは喉に言葉が詰まる。どうすることもできないと本能の次に理性が理解し、意見が一致したことで解決策はないと結論づけた。

 

否、そんなのどうでもいい。ハヤトはベアトリスに謝らなくてはならない。許されなくても、謝る必要がある。それが罪を犯した者ができる唯一の贖罪なのだから。

 

そう思った時から体は動いている。両手.両膝を床につき、ついてくる額を床に打ち付ける。その体制、土下座の体制だ。腰を折るだけでは気が済まない。思い立ったらすぐに行動に移す、頭で考える時間などいらない。

 

目の前のベアトリスがどんな表情をしているか分からない。こちらを見ているのかも分からない。それでもハヤトは思いの丈を言った。

 

 

「悪かった、ベアトリス! 確かにさっきのことはやりすぎたとは反省してる。勢いに乗ってお前にとって良くないことを言ったこと、悪かった。許してくれなんてこと言わねぇ。俺が謝りたいから謝る。ほんとに悪かった」

 

 

床に向かって叫ぶ。本当は彼女の方を向いてやりたいところだが、頭を下げることが何よりの謝罪であると思う彼は決して下げた頭を上げない。

 

どんなことを言われるだろうか。そもそも反応すらしてもらえないことが懸念される。彼女が何かに対して無反応というのは基本的に無いが、先程の態度を見て同じことを言えるわけがない。

 

感情を堪える両手が強く握り締められる。片方の手に宿されたのは遅すぎる後悔の念、もう片方の手に宿されたのは憤怒の念。どちらも自分に向けられたそれが小刻みに拳を震わせる。

 

どんな態度をされても文句は言えない。甘んじて受け止めなければならない。故にハヤトはこの数秒間で覚悟を決め——、

 

 

「……ぷ」

 

 

聞こえてきたのは唇から噴き出たような空気の音だ。それは、堪えようにも堪えきれないものが口から音となって出ていたような。

 

聞き間違えを疑うハヤト。彼はその音をもう一度拾うために耳を澄ませ、

 

 

「ぷは……!」

 

 

今度はハッキリと音を聞いた。空気ではなく明確な言葉として。それもベアトリスが笑う時に必ずと言っていい程にこぼす笑声を。

 

これまでの態度から考えても意味不明な笑い声。事の理解がいかず、頭の中が混乱するハヤトは疑問を全て解消すべく下げた頭を上げる。

 

見えたのはいつも通りのベアトリスだった。

 

いつも通り、そういつも通り。普段から自分の話し相手になってくれる彼女がそこにはいた。表情から陰りはいつの間にか消え、拒絶するような態度は引っ込み。

 

お陰で解消するはずだった疑問が更に膨れ上がる彼は「は?」と間抜け面を晒す。

 

そんな自分を見て、ベアトリスは数回ほど笑声を口元に添えた手の裏側から溢し。笑いの余韻が引いた彼女は軽く息を吸うと、

 

 

「——冗談なのよ」

 

「へ?」

 

 

言われた瞬間、ハヤトは自分でも分かるくらいに間抜けな声を出してしまった。あまりにも唐突な発言に頭の前に心が追いつかずに軽めの処理落ち。

 

王様ゲーム時に処理落ちしたテンのような態度を見せるハヤトにベアトリスは「してやったりかしら」と、自分の足元にいる彼を見下しながら、

 

 

「全部ベティーの冗談なのよ。それもこれも全部、お前に仕返ししてやったかしら! だから、お前の言葉をそっくりそのまま返してやるのよ」

 

 

言い。開いていた本を閉じて本の山の一部に加えると軽く跳躍。三脚から飛び出す彼女の身体が放物線を描いてフワリと宙を飛び、ハヤトの後方に着地。

 

土下座の体制を崩す彼が自分の方に振り返るタイミングを見計らって人差し指を突き出し、

 

 

「真面目に受け取ることはないかしら。お前の冗談くらいベティーなら簡単に見抜けるかしら、甘く見るんじゃないのよ」

 

「ーーーー」

 

 

言い切るベアトリスが嘲笑。ネタばらしを終えた彼女は満足気味に形のいい鼻を鳴らした。相変わらず見下してくる双眸は見ていて清々しい。

 

 

 ーーやってやったかしら

 

 

ベアトリスの心情である。

 

あんな風に言われた挙句、それが自分をからかうためのものだったなんて、許せるだろうか。否、許せないからこうして名演技を披露した。

 

怒るのではなく、からかい返す。同じことをして、それ以上のことを相手に味合わせることが重要。その方が勝負に勝ってやった事に愉悦できる。

 

正直に言うと、最高の気分だ。これまでずっとやられたい放題されてきた分を、この一回で全てやり返せて満足している。

 

あのハヤトを精神的に黙らせて土下座させたのだから、これ以上はない。精神的に彼を黙らせることがどれほど凄いことか、屋敷の人間ならば分かるはず。

 

 

「同じ事で負かされた気分はどうなのよ。いつまでも黙ってないで何とか言ったらいいかしら」

 

 

へたり込むようなハヤトにベアトリスは笑みを崩さない。自分に拒絶されたことが割と心に影響を与えているらしい、ネタばらしの余韻から回復するまでが思ったよりも長い。

 

事実、未だにハヤトは処理落ち。間抜け面を晒している彼は、口を半開きにして突き出された指を眺めている。

 

しかし、それももう少しで回復するといったところ。五感を通じて伝わってきた情報を頭の中で一つ一つ整理、状況の理解を促す彼は凍っていた背筋が解放される歪な感覚を得た。

 

その間にも整理は着々と進み、数秒後にはパズルが完成するように処理もまた終える。そしてハヤトは全てを把握する。

 

この状況、つまりどういうことか。

 

自分はベアトリスにやり返されたのだ。

 

 

「てめぇ、やりやがったなぁ!」

 

「お前と同じことをやってやっただけかしら! 偶には被害者側の気持ちを知るがいいのよ!」

 

「許さん、許さんぞー! こんにゃろぉ!」

 

 

やり返された事実一つで十分なハヤト。それ一つで色々と沈んでいた心が一気に燃え上がる彼が飛び起きるのと同時に駆け出すのは必然だった。

 

やられたらやり返す。やられっぱなしで終わらないのがハヤト。例え仕掛けたのがこちら側で、返り討ちにあったとしても、必ずやり返すの精神で彼は目の前の少女に特攻する。

 

これが以前の、戦闘能力が一般的なハヤトならばベアトリスも対応ができた。が、皮肉にも彼女の目の前にいるのは戦闘能力がそれなりのハヤト。

 

予想を少し外れた速度で距離を詰められ、彼女の身体はあっという間に持ち上げられる。左右の腰に手が添えられて、グイッと視線が高くなった。

 

「わっ!」と声を出して表情を明るくするベアトリス。彼女は見上げるハヤトを見下ろしながら、

 

 

「また同じことを……! お前は何回ベティーの体を持ち上げたら気が済むのよ!」

 

「何回やっても気は済まねぇなぁ。それにこうすればお前は数秒間、手足をバタつかせるから見ていて楽しいし、すげぇ子どもっぽい」

 

 

怒りよりも自分が彼女に拒絶されてなかった事の方が大きいハヤトがベアトリスのことを高い高い。今度は期待通りの反応、手足をバタバタさせる彼女は無駄な抵抗を見せている。

 

この時の彼女は本当に可愛い。異性として、というよりも小学生の妹を愛でるような兄貴の感覚。故郷にも過去に似たような経験のある彼は、既視感のある光景に頬を緩めた。

 

しかし、ベアトリス的には心穏やかではないらしい。手で叩こうと、足で蹴ろうと、わちゃわちゃする彼女は何度となくやられてきた遊ばれ方に対して顔を赤くして声を上げている。

 

これが二人の本来のやりとりだ。

 

ハヤトがベアトリスの領域へと容赦なしに突入し。からかわれたベアトリスがギャーギャー騒ぎながらハヤトにからかい返し。時には色々とあって彼女が高い高いされて、

 

 

 

「やめるかしらーー!」

 

 

 

そうやって、ハヤトは今度こそ魔力にぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

 






誤字脱字チェックするうちに「何でこんな内容になった?」と自問自答しましたが、これもまた一つの日常ということで。


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