親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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忙しくて書く時間が取れねぇ……。次のお話を更新するまでにも何日か間ができそうです。やっとのんびり更新のタグが息をしてきましたね。

さて、今回のお話は一部の人には少しだけ不快に感じてしまう要素があると思います。ので、先に忠告しておきますとテンが『チート主人公』に対して若干のアンチっぽくなります。

読む際はご了承ください。







ロズワール邸は騒がしい その3

 

 

 

それは、ある日のことだった。

 

お空に青みがかかり、暗がりが完全に消え、そよ風と朝の静けさが満ちている世界、つまりは朝のひと時。ある庭園に二人の男がいた。

 

一人は芝生に腰掛け、胡座をかくハヤト。眠たげにあくびをする彼は瞼についた涙を人差し指で拭う。働き始めてからあと少しで三ヶ月が経とうとしている今でも朝は弱いのか、その後も何度かあくびを繰り返した。

 

そんな彼の耳に聞こえてくるのは「ほっ!」やら「はっ!」やら「とっ!」などの気合を入れる声。跳躍する時に人間が発する音声だ。それが意味するのは行動、つまりは近くに跳躍をする人間がいるということで。

 

その他に聞こえてくるのは肉体が芝生に打ちつけられるような鈍い音。ドスっと音を立てるそれが、声の回数分だけ聞こえてくる。痛そうな音だが、死を超越する地獄を日々味わう人間からすれば生ぬるい。

 

故に、どれだけその音が聞こえてこようともハヤトが動じることはなく、依然として眠たそうな雰囲気で音の発信源——前に回転する度に背中を芝生に打ち付けているテンを眺めた。

 

早朝の分の仕事を終えた二人は庭園にて暇を持て余した結果、特にやることがないから二人揃って庭園で朝のひと時を過ごしていたわけで。

 

朝の数十分の間に庭園に行ってできることなど限られている。それは、今のハヤトのように芝生に腰掛けてのんびりすること——なのだが。

 

何を思ったか。不意にテンが「体を動かしたくなった」と言って準備運動をするとハンドスプリングの練習を開始、かれこれ三十回は続けているものの完璧に着地できる気配はない。

 

そのせいで前に回転しては永遠と背中を打ち付けるテンと、それを眺めるハヤトという中々に異様な光景が庭園の一角で展開されることになった。

 

 

「ほんと、お前って不思議くんだよな」

 

 

度重なる失敗に試行錯誤を繰り返すテン、地道に努力する彼にハヤトは声をかけた。かいた胡座に頬杖をつき、目の前の男がハンドスプリングの練習を開始したことに苦笑。

 

前々からテンの行動には親友ながらに理解しかねる。一体どんな思考回路をすれば朝の休憩時間にハンドスプリングの練習をするに至るのか、純粋に気になる。

 

しかしハヤトの声はテンには届いていない。現に「違うな……もっと背筋を逸らして……」とブツブツと呟くテンは全く反応を示さなかった。

 

呼吸を整え、体をほぐすテン。彼は「よし」と顎を引くように頷くとその場から助走のために何歩か駆け出す。

 

勢いそのままに手をつき、足を思いっきり振り上げて、背筋をこれでもかとえび反り、柔軟な身体が悲鳴を上げるようなブリッジが完成した。

 

今回は背中は打ち付けなかったらしいが、代わりに反ることに意識を向けすぎて下半身に上半身が続くよりも前に足裏がつき、かなり角度のあるブリッジ。最終的には両手両足が力付きて芝生に背中がついた。

 

ばんざーいの体制で芝生に倒れるテン。これで何十度目かのトライとなったが、未だに形になることのないハンドスプリングにイライラが不意に爆発し、

 

 

「のわぁぁー! うわー! うがー!」

 

「何だよ急に」

 

 

足をバタつかせて声を荒げる。行き場に困ったストレスが意味不明な言葉となって空へと解き放たれた。近くでハヤトが目を細めて驚くが、視界に入らない。

 

朝に上げるにしては少しばかりうるさい声。お陰で、遠くにいた精霊とお話し中のエミリアが心配するようにテンのことを見ている。この静かな空間で叫べば流石に気づくか。

 

しかし、テンは自分に向けられた二つの視線など眼中にない。ここ数分で蓄積されたストレスを全て解き放つ彼は尚も声を上げる。

 

 

 

「ぜんっぜんできない! 今までやったことないから難しすぎる! ハンドスプリングってどうやるのさ!? 流法で身体能力高めても形そのものの感覚が掴めてないからできねぇっての!」

 

「そもそも、なんでやろうと思ったのか俺は聞きたいところなんだが。まぁ、いい。叫びたいだけ叫べよ。あんまりやりすぎるとエミリアが来るから程々にな」

 

「あ……、そっか。なら叫ぶのは我慢するか」

「急に冷静かよ。お前ほんっと、態度の変わり方が激しすぎるだろ」

 

 

瞬間でストレスが爆発したテン、彼は周りの声など眼中にないはずだったのだが。エミリアという単語だけは別だったのか、ハヤトの口から彼女の名が出た途端、我に返った。

 

数秒前までの彼はどこへやら。相変わらず切り替えが早すぎる彼を前にハヤトは「やれやれ」といった具合でため息を一つ。

 

なぜ彼女の単語に反応を示したのかは不明だが、これで本人がテンを心配してやってくる心配は無くなった。

 

 

「んで? お前は何でハンドスプリングなんて練習しだしたんだ?」

 

 

テンが我に返ったことで練習が一段落したことを察したハヤトが同じ疑問を問いかける。

 

普段から何考えているか読めない彼のことだ。今回もハヤトが予想もしないことが理由だと思うが、

 

 

「なんでって……、カッコいいからに決まってんじゃん」

「意外とありきたりな理由だった!」

 

 

跳ね起きるテンが芝生と衝突した背中を大きく伸ばしながら言った答えが、あまりにもありきたりすぎて思わずハヤトは前に転がる。顔面から芝生に突っ込んだため、「へぶっ」と声を上げた。

 

もっと破天荒な答えを密かに期待していた。例えば「理由なんてないけど?」とか「理由なんて必要?」とか。

 

拍子抜けというかなんというか。転がった体を起こす彼は、体制を整えながら受け取った答えに残念がった。

 

 

「俺さ、思うんだよ」

「なにがだ?」

 

 

立ち上がった彼は練習を再開するわけではなく、ハヤトの正面に体育座り。膝を抱えて小さく丸まると「あのさ」と言葉を繋げて、

 

 

「異世界系の主人公って、元は普通の一般人なことが多いわけじゃん。戦う力のない、ごく普通のその辺にいそうな人なわけじゃん。まぁ、異世界に行った後に力を授かるからその辺は正直どうでもいいんだけどさ」

 

「確かにそうだな。だが、この世界の主人公みたく元からハンドスプリングとかのカッコいい技ができる奴も偶にいる感じはするな」

 

 

「そうそう」と相槌をうつ、アニメの話となると途端に饒舌になるオタクの顔が姿を出したテンにハヤトは頷く。

 

このような話は彼の方が何倍も知識があるため、ハヤトはなんとなくでしか話を合わせられないが。一応、彼の言いたいことを理解するために頭を回した。

 

目の前の親友が自分の話に頑張ってついてこようとしていることなど知らないテン。彼は「でも」と先ほどの言葉と今から言う言葉を結びつけ、

 

 

「今回は、元からハンドスプリングとかの技ができない人が異世界に飛ばされた事を前提に話を進めるから、それは一旦置いておくとしてだよ」

 

「おん」

 

「さっきも話したけど、力がある人間が異世界に飛ばされるってケースはあんまりないんだ。もしかしたら俺が知らないだけで沢山あるのかもだけど、大体は一般人だよね」

 

「まぁ、そうだな」

 

 

それは自分達にも当てはまる事実。ここ数年間で異世界系のアニメ.小説が活発化し、テンのようなアニメ大好き人間が歓喜に震えている中で、ものの見事にチート主人公が量産されているわけだが。

 

テンが話していることは、そのほとんどが一般人であるということ。与えられた力が破格すぎて忘れられがちだが、元は力を持たないただの一般人なのだ。

 

稀に力の持った人間が飛ばされるが、今その話は空の彼方に放り投げておくとして。

 

 

「重要なのはそこ——元は一般人であるということ。ハンドスプリング、バク転とかの体操競技ができない人であること。もっと突っ込むなら、運動が苦手な人であること」

 

「……つまり?」

 

 

イマイチ話の見えないハヤトが結論を急ぐ。遠回しに語っているテンに痺れを切らす彼は顔を顰めて首を傾げた。

 

一般人であり、テンが練習していたような動きが日常的にできない、それがなんだと言うのか。ハヤトには全く分からない。

 

 

「だから、今の俺みたいに練習しないとちゃんとできるようにならない人達ってことだよ。当たり前でしょ? 元からできない人間が異世界で力を得た瞬間、全て完璧にできるようになるとでも? 今の俺を見てもそう言えるの? ぶん殴るよ?」

 

「言われてみれば」

 

 

顰めっ面が引っ込んだハヤトが喉の奥を唸らせる。

 

何が言いたいのかは未だに分からないが。取り敢えず、異世界に飛ばされたのが自分達のような一般人ならば、アクロバティックな動きはすぐにできるわけではないと言いたいのは分かった。

 

確かにそうだ。彼の言うことが全て正しいというわけではないが、一般人が異世界に行った場合、例え力を得たとしても化け物じみた動きが途端にできるようになるわけがない。

 

だから、その動きを成立させる場合はテンのような練習が要求されるわけだ。

 

 わけなのだが。

 

 

「さて。ここで一つハヤト君に思い浮かべてほしいんだけど。正直な話、今までのお話は前置き。こっからが本題」

 

 

手を叩いたテンが前置きを終わらせると、話の本題に入る。前置きを簡単にまとめると、『異世界に飛ばされた人間は大体が一般人であり、アクロバティックな動きを苦手とすること』である。

 

これを頭の中心に置かせたテンがハヤトに想像してほしいこと。それは、

 

 

「頭の中で、今まで見てきた異世界系の肉断戦を思い浮かべてみてよ。んで、その大半に共通して言えることを教えてほしい」

 

「んーー。肉弾戦か」

 

 

言われてハヤトは頭の中で記憶の引き出しを手当たり次第に漁る。生きてきた中で大量に保管された内の一部、必要な情報のみを取り出す彼は手に取った記憶を映像として見た。

 

ド迫力な魔法、剣戟。接近する肉体と肉体の間で数十にも重ねられた剣と剣、特に練習した描写も描かれずに、淡々と一般人が成立させていく数多のアクロバティックな機動力。

 

敵の攻撃を回避するためにバク転。走り込みながら前宙、回転力を乗せた剣の振り下ろし。横への回避のためにロンダート。跳躍と同時に身を翻し、空中で一回転。前方へ跳ねながら身を横に回し、回転を重ねて剣を叩きつけ。

 

なるほど。引き出し、漁った記憶を見たハヤトは納得した。

 

 

「共通して言えること。それは、例え一般人だとしても化け物並みの動きで相手を圧倒することだな」

 

「そうだよ! そうなんだよ! 何なんだよアイツら! いつそんな練習したんですかって問いただしたいですねぇ!」

 

 

ハヤトが記憶から導きだした答えにテンががなる。相変わらず感情の緩急が激しい人間だなとまたしても思うハヤトだが、目の前のテンはそう思われていることなど知らない。

 

両手を芝生にバシバシ叩きつける彼は「なんなんですかねぇ!?」とじわじわと痛み出す拳を握りしめると、

 

 

「なんでアイツら力を授かった瞬間から動きまで化け物になるんだよ! 普通そーゆーのは少しずつ練習してやっとできるもんでしょうが! え? なんですか? 「感覚でできるから余裕です」って現実ナメてんのかよ!」

 

 

その言葉が恐らくスイッチだったのだろう。チートのこととなると途端にうるさくなるテンの声色に熱が宿ると、語り出す彼の口が火を噴いて早口になった。

 

常々感じていたこと。自分達と主人公を比べた時、チートを獲得してないことはともかく力を獲得している点においては同じ。身体能力が上がることに関しても同じ。

 

しかし、そこから先が違う。なぜか、主人公は前例に挙げた機動力を軽々しく成立させ、それを戦闘という思考回路の定まらない場面でさも当然のように使用している。

 

 

 ーーおかしい。ほんとにおかしい

 

 

心の中で何度も呟かれたテンの言葉だ。魔法を使用するにしても剣を振るうにしても、ただの一般人がそれらを成立させる時間が早すぎる。

 

自分達は魔法の熟練度が基準値に達するまで約一ヶ月かかったのを、剣をまともに振るえるまでに二週間は真面目に素振りしたのを、テンの場合は身体能力強化の力を得るために死にかけたのを。

 

 

「なんで主人公はあんな簡単に済ませちゃうわけ?! いるよ、そりゃ努力して力を扱えるようになる、俺からしたら尊敬するべき主人公達もちゃんといるよ!」

 

「例えば?」

 

「そうね……。プルスウルトラな緑髪のヒーローかな! あの人は本当にすごい、マジで尊敬する。努力して強くなることがどれだけ難しいことかを知って俺ん中で努力の先生になった」

 

「遠回しに表現する意味は分からんが。誰のことを言いたいのかは分かった。あれこそ王道の主人公って感じがするよな。途中から力のインフレがエグいが」

 

 

彼もまた見方を変えれば最高のヒーローからチート並みの力を与えられたと言えなくもないが。彼の場合は力に似合う器を作るところから始め、必死に努力しているから好感が持てる。

 

それこそ、魔法の適性がありゲートの質がいいと言われたテンとハヤトのように。二人は今、与えられた力に似合う器を頑張って作っている最中なのだから。

 

「だがしかーし!」と両手を前について前のめりになるテンは、ハヤトの表情が引き攣る勢いで声を上げると、

 

 

「その人達が俺最強系主人公に埋もれちゃってるせいであんまり陽の光を浴びてくれないのが悔しい! 確かにそれ系統のアニメは爽快感があるし読んでて面白いと思うけど、もう少し努力してよ! 一回でいいから半殺し以上にされてみろよ! 俺なんて昨日、ロズワールに五分間本気で来られて久々に家族の顔(走馬灯)が脳裏に過ったんだぞ!」

 

 

「日常的に走馬灯見るってなんだ?!」と、だんだんとテンの思考回路がチートアンチよりになってきている気がしなくもないハヤト。彼は語り出したら止まらないテンの饒舌さに苦笑すらできず、「お、おう」と頷くしかできない。

 

ハヤトの予想では、きっとテンはそれらと自分達のことを比べている。

 

同じ異世界に飛ばされた一般人だというのにこの差はなんだ、と。ご都合主義、テンプレ、その他諸々の力が働く世界で無双する人間達のことが理解できない、と。

 

しかし、テンと違ってハヤトはあまり気にしていない。流石の真反対はこんな時でも真逆の意見を持っていた。

 

それが何だというのか、自分達も努力して強くなればいい話。むしろその方がいい。

 

初めから強かったらつまらないだろう。弱いから頑張ろうと思える。負けるから勝とうと思える。普通の力がチートに勝つのが面白いのだ。下克上上等。緩い世界などハヤトは望まない。

 

 

「主人公補正ってどんな人間でもあんな風にするもんなんですかね? 分かる、分かるよ、分かるさ、分かるとも、分かるだろうどもさ。そーゆーのは主人公が無双するのが売りだって。でも、実際に飛ばされてみてあの人達の異常性がよく分かった」

 

 

チートを得てないからこそ出てくる発言。これまで地道に努力してきたからこそポンポンと出てくる嫉妬に近い感情。

 

妬み、どうして自分達にもあのような力がないのかと。割り切っていても、ふとした瞬間に思ってしまうことがある。

 

繰り返すが、二人がこの世界にやってきてからあと少しで三ヶ月が経つ今。世界を基準として二人の力は低く見積もっても弱い中の強い分類。しかし、それでは原作の戦いについてゆけないのが事実。

 

ならばチートを保有する主人公ならばどうか。

 

敵をバッタバッタと薙ぎ倒し、近くにはかわいい女の子がたくさんいて、スキルやらギフトやら異能やらで無双して。三ヶ月もあれば敵対する幹部の一人や二人倒していてもおかしくはない。

 

この差はなんなのか。否、チートがあるかないかの差である。全てはそれである。

 

 

「恨むぞチート。憎むぞ主人公補正」

 

「チートチートって言うが。お前も似たようなことやってね?」

 

「俺があんな派手な動きしてるとこ見たことあるか? あるとしても受け身だぞ。バク転? バク宙? ハンドスプリング? 前宙? 主人公さんたちの裏の努力を俺は知りたいものですわ」

 

 

「マジありえないわぁ」と手を広げて呆れるテンが盛大にため息。いつどこでその技を身につけたのか本気で問いただしたい。

 

 

「けど。俺達も回し蹴りとか、踵落としとか、割と派手な動きしてると思うが」

 

「それはあくまで、人間の常識の範囲内でできることでしょ。お前、日本でバク転しながら拳を避ける人間を見たことあるかよ」

 

「なるほど。お前の言いたいことは理解した」

 

 

テンの言いたいことをやっと理解したハヤトが手の平に拳をポンと打ち付ける。これまでの熱論を頭の中で整理整頓し、彼が何を言いたいのかを頭の中で結論として出す。

 

テンのチートアンチが爆発して会話の内容が意味不明になったが。超簡単に要約すると、『チートを得た人間が動きまでチートなるのはおかしい』ということ。

 

例え肉体が強化されても、それが超人的な機動力に直結するわけじゃない。日々の地道な努力が積み重なってやっと戦闘で扱えるようになるのだ。

 

 

「なんでアイツらは与えられた力を、さも自分のもののように扱ってんのさ。自分がどれだけ恵まれてるかをもっと自覚するべきだよ」

 

 

主人公の呼び方が定まらないテン。察するに相当心に熱が宿っているらしい、熱論する口が収まる様子のない彼は「そりゃ」と自分の胸に手を当てると、

 

 

「俺たちだって属性の適合が多くて、ゲートの質も良いものと恵まれてると言えなくもないよ。少しは補正の恩恵を受けてると言えるよ。でも、アイツらに比べたらどうなるよ」

 

「天と地の差だな」

 

「バク転とかもできないし……。なんでアイツらあんなに回転したがるんだよ。後ろ回避なんてバックステップでいいじゃん、横もサイドステップでいいじゃん。俺らがショボく見えるてくる……」

 

 

事実として、テンとハヤトはそのような動きを戦闘中に一度もしていない。受け身を取る時に無理やりやったことは何度かあるものの、意図してできたことはない。

 

回避も跳び跳ねるだけで事足りる。のに、なぜか戦いに慣れた人間はアクロバティック機動を好き好むためにくるくる回る。ここまでくると利便性があるのかと真面目に疑った。

 

 

「アイツらは魔法の鍛錬を地道にしてるか? してても成長の度合いがイカれてんだよ。与えられた素が違いすぎるんだよ。バカやろう」

 

 

体育座りに体制を戻すテンがそう言いながら人差し指で芝生をいじくる。

 

しょぼくれたように見える彼は、主人公達と自分のことを頭の中で比べ、短い時間で向こうの方が成長していることに気づいた。尚更アンチに磨きがかかる。

 

 

「おまえ、ハンドスプリングの練習してる異世界召喚者なんて多分、俺一人だぞ。魔法とか剣とかもっと他にある中で、体操て……しかもできないし」

 

 

自分で言ってて情けなく思ったのか、テンはゴロンと芝生に寝転ぶ。大袈裟に大の字になり、乾いた笑い声を溢した。

 

言いたいことを言い切った彼は熱を吐き出し、彼の暴走が終わったと察したハヤトもまた吐息。数分間に渡って熱論された結果として、自分達はコツコツと頑張らなくてはと再自覚した。

 

 

「……なんでだ。なんで俺達と同じ一般人なのにアイツらは馬鹿げた動きができんだよ」

 

 

軽く上がった熱を冷ますテンはしばらくの間お空と睨めっこ。永遠の謎を頭の中の自分に私怨として投げかけるも、返された答えは「あるとすれば一つだけ」の一言。

 

しかし、その一言だけはテンの中では禁句として扱われているために拒否した。決して口にしてはいけないタブーとして捉えられ、考えた自分のことを心の中でぶん殴り、

 

 

「だがな、テン。世の中には『ご都合主義』という言葉があってだな」

「シャァラップ! その言葉だけは言うな!」

 

 

禁句を口にした者へと牙を剥く。

 

瞬間、空を眺めていたテンが飛び起きてハヤトに飛びつく。胸ぐらを掴んで服もろとも彼の身体をグワングワン揺らし、テンはその先の言葉を決して言わせない。

 

分かっている。分かっているとも。

 

自分達二人が恵まれた人間(主人公)のように破格級の力を宿してないことくらい。理を壊すような力ではなく、()()()()()()()()()()しか宿していないことくらい。

 

理解している。理解しているとも。

 

地道にコツコツやるしか道はないと。急に強くなれるなんてことあり得ないと。ロズワールに半殺し以上にされないと、騎士に必要とされる力をつけれないと。

 

割り切っている。割り切っているとも。

 

だが。だがしかし。その発言を聞くと、どうしても幻想を捨てきれない自分が顔を出して、掴んだ胸ぐらを大きく揺するのだ。

 

 

「いいか、俺の前でその言葉は絶対に出すなよ。そんな幻想はこの数ヶ月間で儚く散ったけど、いざ言われるとまだ諦めきれねぇんだよ。だから絶対に言うな。言うと思い出すから」

 

「分かった分かった分かった。分かったから揺するな」

 

「俺だって夢見る一般人だもん! チートを願ったっていいじゃない! 恵まれたことに感謝しつつ、もっと要求する心くらいあったっていいじゃない! 悪いか!? あ!?」

 

「誰もそんなこと言ってねぇよ」

 

「頑張るさ! そりゃ勿論、チートでなくとも強くなるためにこれからだって努力してやるよ! それと同じくらい強くなってやるわ! でもやっぱり、いつになってもチートは羨ましいものだよね! 危機的状況に追い込まれると刹那だけ考えちゃうよ!」

 

 

冷めた心が『ご都合主義』というワード一つで燃え上がり、尖る心が嫉妬心となってテンのマシンガントークを加速させる。

 

それがまたテンらしいというか。切り替えが早いくせに、引きずることに関しては永遠と引きずる矛盾を抱えた彼は実に人間味があった。

 

それに、妬みの中に一つの決意が含まれていることにハヤトは聞き逃さなかった。

 

チートに対する嫉妬心が原動力となっているのかは定かではないが、彼は与えられた力のみで強くなると言った。地道な努力でチートに追いつくと固く決意した。

 

勢いに任せた感が否めないが、日常的な会話の中に重要な文章を入れるのがテンという男。つまりは、彼は主人公に嫉妬しながらも自身の境遇と真面目に向き合っているという事。

 

 

「チートすごい、カッコいい、羨ましい。でも、必ず俺は自分の力だけでアイツらに手を届かせてやるよ。破格級の力を持った連中に一泡吹かせてやる」

 

 

勝手に話を進められたハヤトだが、掴まれた胸ぐらを解放された彼は目の前の男の瞳の奥が今だけ燃え上がっていることに気づいた。

 

自分で語って感情が爆発して燃え上がるとは。先程から彼の話す内容が安定しないが、それもまた一興とハヤトは笑う。

 

勝手に始めて勝手に終わらせる。自分の言いたいことだけを殴るように放ったテンは、ぐちゃぐちゃになった感情を「おぁぁ!」と謎に叫び散らすことで発散。

 

キャラがブレまくっていることにハヤトが触れることはない。否、彼は基本的にキャラを安定させることがないため、新たな一面を見たと表現してもいい。

 

 

「ハヤト! 今なら俺、ハンドスプリングできるかもしんない! 勢いに乗った今なら!」

 

「お、じゃあやってみろよ」

 

 

数分間に渡って行われたチートに対するテンの語りは、彼が思考を語りからハンドスプリングに移したことで強制終了。立ち上がる彼は軽く跳ねると体をほぐした。

 

理由は分からない。けど、今なら完璧にできるのではという謎の自信がある。これまでの失敗を基にして、反省点を活かして、後は気持ちに委ねる。

 

 

「ーーしっ!」

 

 

助走のために数歩走り、支点となる両手を芝生に着地させると同時に足を蹴り上げる、必要以上に背筋を逸らさず、下半身に続く上半身がバネのように跳ね上がり——、

 

 

 

「できるかーーい!」

 

 

同じように背中から地面に着地。背骨が異様な音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人はさっきから何をやってるんだろうね」

「うーん。分からないけど、すごーく楽しそう」

 

 

 

 







最近、書いてくうちに内容がまとまらない問題が発生するのですが。それって私だけなんでしょうかね。やっぱり、完成度の高い物語を書ける先輩方には尊敬しかありません。

余談ですが。

ハンドスプリングの描写は実際に庭でやってみました。アレって難しいですね。テンと同じように何回やっても背中を打ち付けました。



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