親友とリゼロの世界に飛ばされたお話   作:ノラン

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夜空より来る

 

 

 

 

 ——柔らかい部位を全て探し、相手の動きに体を慣れさせる。

 

 

 

この二つは現段階でハヤトがしなければならないことだ。必ず、絶対に、自分が命を懸けて成さねばならぬことだ。理由は簡単、その二つが実現しなければ相手の懐に飛び込むことが容易にできないから。

 

今の自分の体がどの程度動き続けられるか不確定な中、のんびりと戦うつもりはないが。だとしてもまずは、相手の弱点を探ることから始めなければ仕留めにかかれず。

 

加えて、ドラゴンという初見の魔獣の攻撃に体を慣らさなければ決死の一撃を放つには至らない。

 

これまで戦ってきてハヤトが分かったこと。

 

一つ。自分の攻撃が殆どの部位にまともに通らない事。斬撃も、魔法も、相手の鋼の鎧に虚しく阻まれる。全霊の力を込めて振るった場合は反動が振動として全身を震わせ、特大火力の火球は翼でのガードで無傷。拳は論外。

 

一つ。それでも、刃が通る部位は確実に存在している事。先程斬撃を加えた脇は今のところ最も柔らかく、事実として皮膚からねっとりとした血液が生じ、大剣を濡らした。削れる部位はある。

 

一つ。相手の攻撃に一度でも当たれば並の被弾では済まされない事。右翼が直撃した右半身が未だにじわじわと痛む。防護の加護がなければどうなっていたことか。逆に、加護の恩恵を受けてこの被害。

 

一つ。このドラゴン、割と頭の働く魔獣である事。一直線に突撃してくるが、適当に攻撃をしているわけでもないらしい。こちらに回避を誘発させて不意をつく挙動が何度も見られた。尤も、脳筋に来られても今のハヤトには厳しい戦いだが。

 

以上。これら四つが短い戦闘で分かった事だ。

 

要点だけをまとめると。自分の攻撃は僅かな部位にしか通らず、それ以外は無駄どころか反動として肉体にダメージ有り。相手の攻撃は全てが大打撃で、頭の働く魔獣が故に常に神経を尖らせる必要性がある。

 

 改めて思う。この戦い、

 

 

「絶望的すぎるだろーーッ!!」

 

 

再確認した絶望にハヤトが叫ぶ。僅か数分間の戦闘の中で結論づけた彼は、しかし言葉とは裏腹に最高潮に昂っている。表情はおもちゃを前にした子どものように無邪気なものだった。

 

鉤爪はモロに受ければ上半身と下半身が分離し、突進でもされれば骨という骨が砕け、尾の薙ぎ払いに足元を掬われれば巨大な肉体に押し潰され、極め付けは一撃必殺の炎の光線(ブレス)

 

全部が全部致命傷とは、まさにこのことを言うのだとハヤトは心底思う。何度となくその事実を理解してきたが、やはり受け入れ難いものがあることに違いはない。

 

だがしかし、その程度でハヤトは止まらない。手に汗握る戦いの中で得られる全ての事が心を昂らせ、それは毎秒更新されていく。つまりは、彼が弱ることなど一切無いということだ。

 

——下克上上等。その言葉を心に刻み、相手の命に手が届くまで彼は戦い続ける。例えそれが、どんなに危険な事だとしても関係はない。

 

 

「さて……。次はどこを狙うか」

 

 

一撃離脱の戦闘を展開するハヤトが弾かれたままに跳ね飛び、慣性を力の方向へと逃しつつ地表に足裏を合わせる。流石に鉤爪と正面切ってやり合うのは愚策、鋼の刃であったとしても虫を払うような雑な動作一つで弾かれた。

 

腕に伝わる振動に体が徐々に慣れ始めたことを僅かに感じつつ呟くハヤト。彼は正面から突っ込んで来る巨体を前に目を細める。無策で突っ込むのは終わらせ、頭を働かせた。

 

現段階での弱点は脇。腕を薙ぎ払った直後に生まれる隙間に体を入り込ませて与えた斬撃が確実に皮膚を裂いた。もちろん、相手がそれを知らないわけがない。二度目は簡単に入らないはずだ。

 

ならば、次は他の部位を狙おうとするのが定石だが。

 

 

「この状況で狙えれば、の話だけどな」

 

 

四足歩行で猛進、前へ進む力を乗せた右腕がハヤトの体へと斜めに振り下ろされる。丸太のように太い腕だと『振る』というよりも『叩く』の方が表現としては正しいか。どこぞのダイナミックお手と同等の威圧感と速度がある。

 

なんにしても直撃は避けたいところ。重心を後ろに倒したハヤトが地面を蹴り上げ、余裕を持った跳躍が彼の肉体を後方へと後退させる。

 

あえなく宙を殴りつけた腕はそのまま地表へと到達、付属する三本の鉤爪によって叩きつけられた地点が爆発する。一切緩まぬ特大火力が頑健な岩肌を砕く光景はいつ見ても爽快感があった。

 

感心するハヤトを他所にドラゴンの攻撃は終わらない。この魔獣が己の攻撃をたった一撃で完結させるほど優しいわけがなく、岩肌を蹴り上げる後ろの二本足が大きく爪痕を残しながら肉体を前へと押し出した。

 

右が空振ろうとも左がある。後退に追いつく左腕の鉤爪が先程とは逆の方向から振り下ろされ、動線を目で追うハヤトは尚も後退。二回の跳躍で二連撃を回避、形として交差した六本の鉤爪がハヤトの影をズタズタに引き裂いた。

 

攻撃の回数と比例して頑健な岩肌がどんどん崩壊していくが、目の前の魔獣は気付いているだろうか。否、血走った赤の眼光は依然としてハヤトしか見ていない。周りのことなど頭には無かった。

 

お陰で飛び散る大岩にも気を使う必要がある面倒な戦闘フィールドが徐々に広がっていく。転がる岩の欠片に躓いて致命傷を負うことだけは避けたい。仮にそれで死ねば、死因が情けなさすぎる。

 

逆に利用できないかと思うが、悠長に考えている暇もないらしい。瞬間的に視界の明度が低下し、ドラゴンの影がハヤトを取り込む——流れるような三連撃目が真上から叩きつけられようとしていた。

 

見上げた先、後退に追い縋る巨体がのしかかるように倒れてくる。瞬間的に自分の視界が暗くなったのは巨体が世界を照らす月光を遮ったからだろう。

 

交差した両腕を振り上げる要領で肉体が縦に大きく起き上がり、俗に言う『ばんざーい』の体制が体幹を支える後ろ足を支点に大気を押し進めながら落下してくる。

 

 ——好機

 

視界を覆い尽くす死を前にハヤトの瞳が不意に尖る。獲物を見つけた獣のような鋭い眼光が注意深く目の前の動きを観察し、肌に接する寸前まで引きつけ、引きつけ、引きつけ——、

 

 

「ドーナぁ!」

 

 

 間隔、僅か数センチ。

 

死の半歩手前まで回避のタイミングを遅くしたハヤトの両足が溜めていた力を解放、撃ち出されたと言っても過言ではない速度で真横に跳ね飛んだ。

 

直後。獲物を仕留め損った巨体が岩肌へと倒れる。衝撃部を中心に振動が地表へと波紋し、空間に軋むような音が響いた。恐らく下層の方で軽くひび割れでも起こしたか。

 

しかし、詠唱したハヤトはその事実を振り切る。既に自分の攻撃は展開されているが故に、彼は意識の全てをドラゴンに集中させ、相手が晒した好機へと喰らいつく。

 

飛び出したハヤトの向かう先、その軌道上には主の呼び声に呼応した柱が一つ。攻撃にも防御にも使われぬ魔法が再び呼び出され、機動力を得るための足場として今回も役目を担った。

 

低空に身を置くハヤトが体を横に倒す。跳躍の流れに身を委ねる彼の足裏が数秒と経たずに柱に合わせられ、今この瞬間だけ肉体が横倒しの状態で宙に固定された。

 

地表と並行に姿勢を保つハヤトが睨むのは『ばんざーい』の体制で倒れるドラゴンの姿。完璧に横っ腹を晒した無防備な魔獣が視線の先にいる。

 

これを好機と言わずしてなんと言う。

 

攻撃をギリギリまで引きつけた理由がこれ。余裕を持って避けると対応する攻撃モーションに変化が生じ、脳内で完成した好機の光景にノイズが走る。相手が自分を殺せるーーそう確信した瞬間に避けるのが大事。

 

 

 ーーピンチこそ、最大の好機だな

 

 

今までロズワールと戦ってきて嫌と言うほどハヤトは実感してきた。自分が追い詰められた時こそ、最も相手が隙を晒す瞬間だと。極地まで達した人間がそうなるのならば、ドラゴンとて然程変わりはないはずだ。

 

そして今この瞬間、その実感はハヤトに確かな好機を呼び込んだ。睨んだ先、全身を大きく伸ばして倒れ込んだ事で隙だらけになった狙うべき部位がある。

 

それは、間違えなく好機の瞬間——。

 

 

「はァーーッ!!」

 

 

狙いは一点。

 

己の記憶を頼りに見当をつけた柔らかいであろう部位へと一直線に跳び出す。蹴り上げた柱がへし折れる程の力がハヤトの体を矢のような速度で射出させた。

 

ドラゴンが地面に倒れた直後、ほぼノータイムで襲いくる反撃に反応できるわけもなく。防御用に全身を覆うはずの翼すらも迎撃の挙動は見せず。完全にハヤトの誘いに釣られたと悟った時には、

 

 

「捕った!」

 

 

既に膝裏に灼熱が刻まれている。それも、深々と抉るように。気合の声が鼓膜に轟き、それが皮肉にも鋼の鎧がドラゴンの役に立たなかったことを意味した。

 

真下で押し潰したはずの声が一瞬にして視界の外へと消えた途端、真後ろへと回り込み、声は左から右へと熱を刻みながら一筋の線のように通り過ぎる。

 

一連の動作に迷いなど一切無く、意図的に実行したとドラゴンは頭の中で判断するが。走った熱を確認すべく上体を起こしたドラゴンは、それよりも優先すべき事実が足元で血溜まりを作り出していることに気がつく。

 

うつ伏せの体制で倒れ込んだ応酬。無防備に晒されていた左の膝裏が狙われた結果として、柔らかい部位が的確に削がれている。鋼の鎧を抜けた刃の侵入を容易く許していた。

 

 

「これで二箇所。へへっ、流石のドラゴンも全身に鋼を着てたら動けねぇもんな。必ず柔らかい部位はあるってこった。人間と同じで助かったぜ」

 

 

初期地からV字を描くように動き、斬撃を繰り出した結果は左脚の膝裏を抉った事で表れ。ようやくまともに入った一撃の感触が柄を介して伝わってきたことにハヤトが楽しげに笑った。

 

その巨体だ。体内に巡る血の量も人間など比にならず、刻んだ裂傷からは血液が滝のように流れ始め、癒す力もないドラゴンには継続的な被害を与え続けている。

 

やっと、ようやく、死ぬ寸前まで攻撃を引きつけてまでして。目に見える傷跡が生まれた。

 

 

「やっとまともなのが入ったか……」

 

 

戦闘を開始して何分経ったか。体感的にはまだ一分も経ってないが、現実の時間では少なくとも五分は経過しているはず。

 

仮にそうだとして。五分経過してようやくまともな一撃が入ったことは良しと捉えるか、悪しと捉えるか。深く吐息するハヤトはその二択に数秒間だけ思考を止めたが、

 

 

「……良しと捉えよう。そうじゃねぇとやってらんねーっての。咆哮がうるせぇわ、動き一つ一つが殺戮兵器だわ、攻撃がほぼ無効化されるわで。昂り以上に絶望が膨らんじまう」

 

 

良しと捉えることにするハヤトは尚も挑戦的な表情を宿して血振り。与えた斬撃も致命傷にはならなかったが、出血という一つの成果として自身の行動を褒め称えた。

 

戦いの中で悲観は要らない、自分を褒めて褒めて褒めちぎる。良い結果だけを視野に入れ、自分自身の心を励まし続ける。高揚感に呑まれ続ける。

 

付け加えると、絶対に声を絶やさない。自分の昂りを音として鼓膜に殴りつけ、自分はまだ戦えることを自分に言い聞かせる。

 

そうしていないと、ふとした拍子に心が折れそうになる。正面で鼓膜を引き裂くような大咆哮で森中を震撼させている魔獣に、「自分は勝てないのではないか」と思いそうになる。

 

 

「はっ! つまんねぇ冗談考えてる暇があったら体の一つでも動かしたらどうだ!? お前はその方が性に合ってんだろ!」

 

 

刹那だけ過ぎった負の感情を鼻で笑い飛ばし、己を奮い立たせる。近くで戦っている相棒も頑張っているのだから、自分がその程度の絶望に怯んでいいわけがない。

 

悪循環に陥る前に抜け出すハヤトが「アクラ」と強く詠唱、呼応したのは既に纏われ済みの黄金色の覇気。

 

「待ってました!」と言わんばかりの風圧が生じた直後。薄みがかっていた覇気が色濃く浮かび上がり、心身共に彼を高揚感で満たしていく。それは、毎秒更新される続ける昂りの更新だ。

 

今一度、ハヤトは大剣を構え直す。同時に精神を整え、圧倒的な絶望に抗い続けることを表明した。

 

 

「脇に膝裏。名も知らぬドラゴンよ、次はどこを刻まれたいか? 俺はまだ余裕だぞ?」

 

 

恐らく、自分の前にいる魔獣は今まで何者にも傷を付けられたことがなかったのだとハヤトは言いながら思う。一度目の時もそうであったように、今のドラゴンは傷つけられたこと自体に怒り浸透の様子。

 

今回も身に走った違和感を凝視した直後、憤慨の大咆哮。空気を振動させる轟音と共に小規模な地響きが生じ。ドラゴンほどの魔獣が吠えると衝撃波までもが伴い、周囲の木々が騒めいた。

 

お陰様で耳の奥でキーンという爆撃を受けた後に聞こえる音が鳴り始めたハヤト。彼は「高級耳栓とかないかな」などと余裕な考えをしつつも、正面より特攻を開始した標的からは一切視線を逸らさない。

 

 

 ーー来る

 

 

数秒と経たずに巨体を活かした全身タックルが前方から一直線に迫り。回避のための初速をハヤトの肉体が得ると、その身が弧を描くように背後へと最小限の動きで回り込む。

 

が、追随する鉤爪はその動きも織り込み済み。ハヤトが描いた軌道上を逆からなぞるように腕が薙ぎ払われる。当たれば死に直結する怪力が瞬間で目の前に。

 

回避を誘発させて不意をつく——やはり狡猾。自分の見立てが確立したところでハヤトは咄嗟に膝を折り曲げて屈み込む。脳天を豪風が突き抜け、不意をついた大振りを空振らせたと本能的に判断した直後、

 

 

「しャらァ!」

 

 

曲げた膝がバネのように伸び、隙を晒した脇腹へと大剣が牙を剥く。伸ばした腕を振り切れば脇が開く。当然の因果であり、それはもう一つの隙として理解している。

 

故に、ハヤトは回避を行った。

 

自分が大振りを隙であると理解していて、ドラゴンが理解していないわけがない。必ず何かしらの対応が来るはずだ。つまり、今の大振りは追撃に見せかけた誘い。

 

現に、光景として誘いは証明されていた。斜め上に高く跳び上がるハヤトが眼下に見たのは、先ほど火球を見事に無効化してくれた翼が巨体に叩きつけるかの如く鞭のようにしなっている光景。

 

物質が懐に入った状態でそれが閉じれば中の物体はプレスされる。勿論、ハヤトも例外ではなく、あのまま攻撃に転じていれば今ごろ翼と肉体に挟まれて縦に潰れていた。

 

 

 ーーコイツ、ある程度の傷は許容する気で突っ込んできてやがる

 

 

敢えて脇腹を晒して攻撃を誘わせる。己の方が有利状況にあることを大前提とした肉を切らせて骨を断つ戦法は、不利状況にあるハヤトにとっては面倒すぎる。

 

骨どころか身体ごと断たれそうな予感を感じつつ——、

 

 

「ーーーぁ」

 

 

予感が、予知に変わった。

 

跳躍したことで肉体が宙に浮いた僅かな時間。普通ならばハヤトは重力に従って落下するはずだが、彼は右足に太い線が絡みつく歪な感覚を不意に得たことで普通が崩壊した気がした。

 

戦闘の中で受信したことのない感覚。まるで何本ものツタが地面から伸び、足首に巻きついて拘束されているような。鼓膜の内側で何かが軋む音が薄く響き、音源が歪な感覚だと理解し——、

 

 予知が、光景と成りて破壊を齎す。

 

 

「ごぁ……っ!」

 

 

体が無理やり引っ張られたと知った時には痛覚が悲鳴を上げる。岩肌に叩きつけられ、抗いようのない激痛が顔面を含めた全身に直撃。内側で血が沸騰し、酸素と共に血が口内を赤く染めながら外へと吐き出された。

 

宙からハヤトを引きずり下ろした元凶は右足に絡みついた尻尾の先端。端っこまで自由に動かせると思わなかったことが仇となり、怪力で拘束された部位の骨が粉砕の警告音を軋みとして知らせている。

 

一度は狭まった視界が再び開けると、途端に体が高く浮き上がる。眼前にあった岩肌が遠くなり、地表からどんどん離れ、離れ、最後にはドラゴンの顔の高さまで吊り上げられた。

 

右足を捕まれて宙吊りになったハヤト。彼は天と地が反転した世界で意識を朦朧とさせ、

 

 

 ——赤色の眼光が、凶悪に光る。

 

 

もう、何もかもが手遅れだと知った。

 

 

「ーーー!」

 

 

唸り声が強く発せられた瞬間から、ハヤトに攻撃の主導権などなかった。尾が鞭のようにしなり、連動する肉体が豪風を纏いながら地表に叩きつけられる。

 

一度では済まなされない。何度も何度も、体が壊れるまで衝撃は継続される。遠心力が単純な暴力となって数秒間の間に何度と襲い掛かる。

 

縦に落ち、横に落ち、回数が増すごとに世界の音が遠のく。視界が狭まり、開け、回数が増すごとに意識が失われていく。

 

足首を拘束されたことがハヤトにとっては最大の失敗だった。尾が振られる度に顔面から陥没の激しい地表に押し付けられる。衣服を通じて肌が地表の中へ食い込み、時折数センチ程度沈む気がするのはきっと気のせいではない。

 

 

 ーーやばい

 

 

数々の激痛を耐え切ったハヤトも、一撃が過去最大のを連続して喰らえば怯まざる負えない。気合と昂りで許容できる範囲を軽々と超える破壊に、呼吸する暇すら訪れず、脳が麻痺していく。

 

多分、遊ばれている。自分は今、ドラゴンの遊び道具にされている。その気になれば一撃で殺し切ることもできたはずだ。宙吊りにした時点で鉤爪を使えば、ハヤトに成す術はない。

 

そうならないのは、今こうして叩きつけられ続けているのは、目の前の魔獣が自分で遊んでいることの理由に他ならない。

 

自分の自尊心を傷つけた相手を傷つけに傷つけるために、わざと死なない程度に攻撃を緩めているのだ。致命傷に至らない傷跡を刻み込ませ、精神もろとも打ち砕きにきている。

 

 

 ーー意識が途切れちまう

 

 

叩きつける動作に引きずる動作が加わり、摩擦によって皮膚が焼かれる。焼かれ、不意に左肩の感覚が消失した。

 

世界の音と共に痛みも遠くなり。意識を維持する力すらも遠くなり。今、手元から大剣が離れた。乱雑に地表に落ち、月光は反射させていない。

 

満身創痍寸前の自分を死へと誘う死神がハヤトの隣にはいた。死という概念が心の中を暗黒で埋め尽くしていき、猛っていたはずの魂の光が徐々に薄れていく。心が先に堕ちれば、肉体は勝手についてくる。

 

 

 ーーダメだ。折れるな

 

 

目が閉じた。意識が深淵に沈む。光が遠い、闇が近い。瞼の裏側にいる死神に生力が吸収される。それでも暗黒の中に僅かに光る魂が抗っている。

 

 

 ーー絶対に、折れるな

 

 

閉じた瞼の内側で瞳が光を失う。掠れるような音を鳴らしていた呼吸がついに絶え、酸素を完全に失った脳が麻痺した。もう体は動かない。心も、もう動かなくなる。

 

 

 ーー折れるな

 

 

死ぬ。あと数秒で死ぬ。感覚などすでにない、痛みなどもはや感じない、意識がどうしてあるのかわからない。

 

 

 ーー折れる、な。

 

 

魂の光が消えかかる。意識の深層まで入り込んだ死神が、最後の光を狩り取るために鎌を振り上げた。振り下ろされれば、自分はその瞬間に死ぬ。

 

力はない。ない、全部ない。抗う心すらも打ち砕かれた。無抵抗な自分は死神が齎す事実から逃げることはできない。

 

 

 ーーーー。

 

 

 今。

 

さいごのさいごまで聞こえていた声が消えた。それが光を守っていたのだろう。姿を晒した光が命を奪い取る鎌によって消え去り————、

 

 

 

 

『ーーありがとう、ハヤト』

 

 

 

 

 

 ——声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 ——ベアトリスの声だった。いるはずのない存在の声は、きっと消失寸前の光の中から。

 

 

 

なるほど。深く沈んだ意識が完全に闇へと葬り去られるまでの間、自分は走馬灯を見るらしい。理由は分からないが理解はいった。

 

死神が見せた温情とでも言い表そうか。なら、さいごくらいはーー自分は記憶に浸ることにした。

 

 

『……お前、相当おかしい奴なのよ』

 

 

思い返せば、ベアトリスとの出会いはその言葉から始まった。自分が異世界に来て初めて出会った人との関係は、そこから全てが始まった。その一言が、自分と彼女のゼロだった。

 

 

『ーーさっさと、出て行くかしら!!』

 

 

そう言って、頭を撫でられたベアトリスは頬を赤らめていた。今思えば、初めて突き飛ばされた瞬間が自分にとって一番記憶に残っているかもしれない。

 

そこから少しずつ、少しずつではあれど、自分は彼女との距離を縮めていった。

 

話してるだけで楽しくなってくる幼女ともっと仲良くなりたくて。向こうが避けようとも、何度も近づいた。食事の時間に料理を届けたことが一番大きいだろうか。

 

 

『よぉー! ベアトリス! また遊びに来てやったぞー!』

『またかしら、また煩いのが来たかしら』

 

 

『てか、お前この時間になるとそうやって待ってるのなんか犬みてぇだな』

『並べた皿ごと机をひっくり返してやってもいいかしら。全く、なんでお前なんかがベティーの食事を運んでくるかしら』

『そりゃ、俺しか正解の扉を引けねぇからだろ』

 

 

『もうとっくに夕食の時間かしら。早く、いつもみたいにやかましい声で夕食を届けにくるのよ』

『……お前、それを言うために起こしたのか』

 

 

流れる記憶に思わず笑声が溢れる。

 

初めはウザがっていたのに、時間が経った分だけ彼女は受け入れ始め、最後には自分を起こしてまで「早く届けに来い」と言ってきた。

 

相変わらず超かわいい幼女で、

 

 

『お前、ほんと可愛いやつだな』

『うるさいかしら。とにかく伝えたのよ』

 

 

真正面からの気持ちに対しては超不慣れなツンデレだと思う。しかし、またそこが自分にとっては魅力的な一面でもあるのだ。

 

ここ最近、自分が部屋に突撃すると彼女は必ずと言ってもいいくらいに表情が明るくなる。恐らく、三ヶ月間ずっと接してきた自分にしか気づけない程度の笑みが、頬にほんのりと色付く。

 

 

『そうか、そうか! ほんっと、お前ってかわいいやつだな!』

『嬉しくないかしら! お前なんて、別に来てくれても嬉しくなんてこれっぽっちも思ってないかしら!』

 

 

思い出される記憶に胸が熱くなってくる。彼女が自分に心を開いていく過程を見ていると、言い表しようのない感情に目がじわじわと熱せられる。

 

理由なんて分かっている。

 

きっと、もう二度と彼女に会えないから。自分よりも圧倒的に格上な存在に勝てるほど、世界はご都合主義には溢れてなく、故に絶望に抗っただけに終わる。

 

 

 ーー悔しい。悲しい。情けない

 

 

もう会えない。そう思うと、やりきれない思いが込み上げてくる。情けなさに打ちのめされそうになる。

 

声すら発することも叶わない空間では悲痛は音にならず。発散できないベアトリスへの想いが内側で膨らみ続けて。

 

なら、せめて心の中で呟こうと思い。

 

 

 ーー悪ぃな、ベアトリス。もう会えな

 

 

『うんうん、分かった分かった。安心しろベアトリス、お前が待ってる限り俺は何度だってここに来てやるからな』

 

 

 ーーーー。

 

 

『心配すんな、ベアトリス。俺は生きて帰ってくるぜ。生きて、またお前の前に遊びに行ってやるから。寂しがる必要なんてこれっぽっちもねぇよ』

 

 

 ーーーー。

 

 

『心配してくれてありがとうな、ベアトリス。お前の言葉は心に刻んだぜ! 安心しろ、俺はまたお前の場所にちゃんと帰ってくるからよ。何も怖がる必要はねぇ』

 

 

 ーーダメだッ!!

 

 

 瞬間。消えたはずの声が魂に宿り、意志の強さが受け入れかけた未来を全否定する。

 

 途端。自分の中で消失寸前だった光が色を取り戻し始めた。

 

 直後。振りかぶられた死神の鎌が掻き消され、光が持ち主を飲み込んでいく。

 

自分が彼女にかけた言葉の数々が心に思い起こされる度に、死ねないという意志が爆発的に燃え上がり、一気に最高潮にまで熱量は達した。彼女の存在一つが、自分の意志を立ち上がらせた。

 

 

『また来るぜ、ベアトリス』

 

 

 ーーまた来ると言った!

 

 

『期待しないで待ってるかしら』

 

 

 ーー待ってると言われた!

 

 

自分が死ねば、彼女は絶対に悲しむ。これまでずっと仲良くしてきた彼女が泣いてしまう。そんなこと自分が許さない、自分自身を自分は決して許さない。恨む、一生恨む。

 

ふざけるな、死んでたまるか。待ってる人がいるのならば、その人のために意地でも生きて帰るのが待たせている人間の役目。

 

これまでも、これからも。それは変わらない。

 

 

 ーーもう会えないだと? ふざけんじゃねぇ!

 

 

なにナメたこと言ってやがる! 弱音を吐くくらいなら足掻け! 足掻いて足掻いて、自分の帰りを待っている人のために死力を尽くしやがれ!

 

生きる。絶対に生きて帰る。なんとしてでもドラゴンを打ち倒し、彼女の下に笑って帰る。今まで何のために努力してきたのか、まさか忘れたとは言わせない。

 

 

 ーーまだ終わってねぇぞ! 生きてるぞ!

 

 

心に刻め、カンザキ・ハヤト。

 

今、今こそが、お前が人生の中で最も命を燃やすときだ。心を燃やせ。限界を超えろ。否、限界などとうに超えた。ならば、限界を超えたその先へと手を伸ばせ。

 

やることは変わらず、成すべきこともブレず。故に自分が取るべき選択は一つ。

 

 

 ーー絶対に諦めねぇ!!

 

 

淡かった光が眩く輝き、心の中を埋め尽くしていた暗黒が一気に晴らされていく。極光が意識の深層から表層までを白く染め上げ、死を齎す死神の姿が薄れーー死を全否定した意志が己の未来を殴り壊した。

 

意識が光へと上がっていく。小さく華奢な両手が自分の背中を押し上げる。振り返ることはできない。けれど、誰の手かなんて考えなくともーー温もりが、伝わってくる。

 

 

 ーーなんだ、ずっと傍に居てくれたのか

 

 

最後の最後まで抗っていた光は彼女だったことを知った。光の正体は彼女で、自分を励ましてくれたのも彼女で、自分が戦う理由も彼女だ。

 

相棒に託された——それ以上に自分はベアトリスの存在が大きく。相棒に背中を預けられた時よりも遥かに力が漲ってくる。相棒には悪いが、どうやら自分も女の子には弱いらしい。

 

光が近く、闇が遠い。瞼の裏側にいた死神は消え去り。全身に満ちていく光は己の中から死を祓う。沈んだ意識はもう光の目の前だ。

 

 

 ーーあの野郎と決着をつけに行こうぜ

 

 

魂から四肢に力が伝播し、握りしめた拳が熱を帯びた。活力という活力が意志の強さに噴火し、失われた生力が倍になって全身に迸り。

 

意識の回復と同時に閉じた目が開く。

 

 

 その、寸前。

 

 

 

『ーーありがとう、ハヤト』

 

 

 

再び響いてきたその声が、意識を闇の底から完全に押し上げ————。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

いい感じに遊べたと、ドラゴンは思った。

 

 

 

自分のプライドを傷付けた報いを受けさせることができて清々しい思いだ。今まで自分に喰らい付いた存在は類を見ず、結果としていつも以上に痛めつけた。

 

叩きつけ、引き摺り回し。体が壊れない程度に攻撃をしかけ、肉体の前に心からへし折ってやろうと思っていたが。そんな思惑とは裏腹に、不意に熾烈な攻撃が止む。

 

そして、見た。力の抜けた人間が目を開けていないことを。纏っていた金色の覇気も息絶え、どうやら死んでしまったらしい。なら、その必要もないだろうとドラゴンは尾をしならせる。

 

幾度となく旋回した部位が再び唸りを上げると、ハヤトの肉体を崖へと投げつけた。意識の抜けた彼の体は無抵抗で、右肩から衝突した後に真下へと落ちる。

 

鈍い音が静寂の訪れた空間に小さく響き、肉体はそれ以降、動かない。自分の自尊心を汚した存在が力無く倒れる光景を眼前にしたドラゴンは夜空を仰ぎ、

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

 咆哮。

 

まるで高笑いをしているような。「ざまぁみろ」とでも言いたげな森の主の声が夜空に轟き渡る。森の主へと挑戦状を叩きつけた愚かな人間の息の根を止め、ドラゴンは吠えた。

 

ひとしきり吠えると、今度は大口を開ける。大気中のマナと酸素を一緒に取り込む腹部が大きく膨み、口内で赤色の閃光が乱舞し出した。

 

この一撃で消し飛ばす。

 

心に決めたドラゴンがブレスの準備——跡形もなくハヤトの存在を消し去る気概だ。一度は避けられたが、今度は避けられまい。

 

どうせなら渾身の力を込めてやろうかと思い、ドラゴンは必要以上に力を溜める。過度な使用は自分にも反動が来かねないが、既に戦闘は終わっている。気にすることもないだろう。

 

故に力を溜める。頬張った炎が口内から外へと噴き出し、いよいよ発射準備の整ったドラゴンは余裕綽々で一撃必殺を放ち、

 

 

 ——その余裕が、獲物を仕留め損ねる要因となった。

 

 

「アル・ドーナぁぁ!」

 

 

ブレスの発射直前。照準を定めるために前に突き出したドラゴンの顎が、不意に真下から伸びた岩の柱によってかち上げられる。

 

予想外の攻撃。頭の片隅にもなかった反応できない柱に巨体が大きく反り返り、夜空を向いた口からブレスが放たれる。目論見が失敗した一撃必殺はまたしても夜空の闇に飲まれて消えた。

 

仰向けに転倒するドラゴンの瞳が見たのは超巨大な柱だ。自分の体格と比較しても劣らないそれが夜空を穿いていた。

 

誰がこんな物をーー否。あの人間しかいない。体制を立て直すドラゴンは脳裏に過ぎった男の姿を確かめようと正面を向き、

 

 

 

「俺はまだ……ッ、死んで、ねェぞ!!」

 

 

 二本足で立つ、ハヤトを見た。

 ボロボロにしたはずの男が、立っていた。

 

 

「テメェの前にいる男は、まだ立ってんぞ!」

 

 

ボロボロだった。強打された肉体の至る所に紫色の痣が生まれて、割れた額から赤い筋が何本も滴って——尚も、男は堂々と立っていた。

 

いつ手足が震えても不思議ではない男が息をしている。それどころかあれだけ痛めつけても弱る気配の一切が見られず、むしろ真逆に先よりも激しく燃え盛っていた。

 

男の象徴とも言える黄金の覇気は既に勢い衰え、ドラゴンの瞳に映るのはただの虚勢を張る男ーーなのだが。

 

 

「俺を。俺の意志を。舐めんじゃねェよーーッ!!」

 

 

そう言った直後、ドラゴンは男の背後に黄金の覇気を幻視した。決して纏われてなどいない。が、あまりにも男が放つ威圧が凄まじすぎるせいで幻視せずにはいられない。

 

起死回生の大咆哮——人間の喉から生まれるにしては凶暴すぎる音声に生物の頂点に立つドラゴンですら瞬間だけ怯む。殺意に満ちた双眸に睨まれ、思わず身震いした。

 

どうして、どうして立ち上がれる。あれだけ痛めつけて、あれだけ傷付けて、あれだけ力の差を見せつけて。どうして、どうして折れない。

 

一体何が、男を動かして——、

 

 

「ベアトリスが俺を待ってんだ!」

 

 

想いの力が爆発する。

 

言い、ハヤトは拳を握りしめた。もはや気力のみで体を動かす彼は、しかし気力では到底発揮することのできない力を今この瞬間に爆発させた。

 

帰るという想いが、ベアトリスに向ける感情が、ハヤトの心をどこまでだって助けてくれる。中間試験の時もそうだったように、命の危機に晒された自分を何度でも助けてくれた。

 

 

「待つことに恐怖してるアイツが、俺の帰りを待ってんだよ!」

 

 

想いの力がマナとなって金色の覇気を纏わせる。

 

待つことにトラウマを抱く彼女が誰かの帰りを待つーーその事実がどれほどの意味を持つのか、ハヤトにも分からない。

 

でも、彼女の中で確かな変化があったことは理解できる。ほんの些細な、過去のしがらみから抜け出すには及ばない変化だとしても、彼女の中で何かが変わりつつあって。

 

 

「だから、俺はアイツの下に帰らなくちゃならねぇ! 今ここで俺が死ねば、その変化も全部終わっちまう……ンなこと誰がさせるか!!」

 

 

心を開いてくれた。一度だけ名前を呼んでくれた。向こうから出迎えることも増えてきた。部屋に入っても邪険にされなくなってきた。

 

それら全てがベアトリスにとっては些細な変化で、ハヤトにとっては最高に嬉しい変化だから。

 

 

「死なねぇ、絶対に死なねぇ! 俺はテメェなんかに殺されやしねぇよ! 今の俺は過去最高を何度も更新する、常に一番強ぇ俺だからなーーッ!」

 

 

吠えるハヤトに応える覇気が過去一番の勢いに達した。戦闘後のことを視野から外した彼の本能が一時的に肉体のリミッターを解除し、限界のその先へと手を届かせる。

 

覚醒——表現としてはそれが一番当てはまっていた。経験した様々な出来事が今、彼の糧となって覚醒のキッカケを作り出し、積み重なった努力がそれの着火剤となり、意志の力が火種となって覚醒へと至らせる。

 

 体は整った。

 心も整った。

 

 

 ーー準備は整った

 

 

「待ってろよ、ベアトリス! 必ず生きて帰るからな! お前を悲しませたりなんかさせねぇからな!」

 

 

駆け出す。己の中に光として強く輝く少女の名を叫びながら。絶望を掻き消す名を声にして、二度と忘れぬように心に言い聞かせた。

 

ある種、それは一つの決意だ。一度は受け入れかけた死を全否定し、相手を打ち倒す。固めた覚悟の上から決意が重なり、それは死の恐怖をハヤトから奪い去る。

 

だから、この先どんなに厳しい戦いが待ち受けようとも自分は決して折れないだろう。だって、自分の心の中にはベアトリスという一人の存在が既に陣取っているのだから。

 

彼女の姿一つでなんでもやれそうな気がする。否、なんでもやれる。自分の帰りを待つ幼女が戦闘意志を無限に煽り立ててくる。

 

 だから、

 

 

「この戦いに決着つけようぜーーッ!」

「ーーー!」

 

 

己の意がままにハヤトがつっ走る。それがドラゴンとの均衡を破ったのだろう。咆哮と共に巨体が獅子のように動き、解き放たれた両者が最後の衝突を————。

 

 

「ーー馬鹿正直に突っ込んで勝てる相手じゃないかしら。頭を冷やして少し下がるのよ」

 

 

不意に、二人の間にこれまでになかったはずの声が響く。直後に降り注ぐ紫色の結晶に咄嗟に飛び退き、両者に間隔が開いた。

 

反射的に顔を上げたのはドラゴンもハヤトも同じなようで。動きが停滞した二つの視線が向いたのは、ハヤトが生み出した柱の上——そこから軽やかに宙を舞い、一人の幼女が降り立つ。

 

ふわりと広がるフリル付きのドレスを纏い、くるりと巻かれたクリーム色の髪に()()()()()()を飾った幼女。その澄まし顔は見慣れたもので、変わらない表情でハヤトを見る。

 

瞬間、彼の瞳が大きく見開く。それは正に予想外な出来事を前にした人間の他ならず、驚愕と歓喜に震える彼の口角が無意識に釣り上がった。

 

なぜなら、その幼女は来るはずのない存在で。

 

 

「だから言ったかしら。ベティーの忠告はちゃんと聞くべきなのよ。まったく、ドラゴンと戦ってるだなんて聞いちゃいないのよ。今日は厄日かしら」

 

 

けれども、隣に並んだ幼女は確かな瞳で自分のことを見ている。面倒そうな顔で呟きながら、軽く服の裾を引っ張ってくる幼女。

 

否、精霊。それも、精霊の中の大精霊はそう言って楽しげに笑い。

 

 

「ま、今回だけは助けてやるのよ。ベティーが特別に、力を貸してやるかしら」

 

 

 

 大精霊ベアトリス——援軍としてここに参戦。

 

 

 

 

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