不死者たちの喧騒   作:エルデの王

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不死人たちの動乱

「狼、貴公に聞きたいことがある」

 

「…………なんだ」

 

褪せ人は神妙な顔をして尋ねた。狼は無愛想に答えた。

 

「まずはこれを見て欲しい」

 

褪せ人が狼に示したのは、一つの映像記録。

 

長い赤髪、翼のような装飾があしらわれた兜。その右腕には、金色に輝く精巧な義手が装着されている。逆の腕ではあるが、忍び義手を装着する狼とは似たような装いだ。

 

 

ミケラの刃、マレニア。

 

大いなるデミゴッドが一柱にして、最強の片割れを謳われた者。褪せ人を散々ぶっ殺した、非常に、ひっっっじょうに強大な力を持つ恐ろしい敵である。

 

その剣技は舞踊のごとく、水流のような連撃は止まることを知らない。

 

 

若干のトラウマに苛まれながら、褪せ人はマレニアの戦闘の一部、とある動作を指し示した。

 

空中に飛び上がり、三度の突進と共に無数の斬撃を繰り出す絶技。その名も水鳥乱舞。

 

「これ、貴公のとこの渦雲渡りじゃないの?」

 

「……知らぬ」

 

狼は無愛想に否定した。

 

 

 

 

「なんだったか、確か狼殿の出身は……葦名の国?」

 

「…………そうだ」

 

狩人は狼のプロフィールを反芻しつつ、ついで褪せ人に問いかける。

 

「狭間の地のサムライの出自は……」

 

「葦の国だったな」

 

「なんだ! 二人は同郷であったか!」

 

ナハハ! と豪快に笑いながら太陽賛美のポーズを取るのは、なぜかバケツを被ったヘンテコな不死人。

 

灰の人は彼のことを「亡者の王よ」とか言って祭り上げようとする変な連中との会合に赴いており不在なため、彼に変わって黒い森の庭(ロードラン)から二代目薪の王が出張してきたのだ。

 

 

「俺はサムライではないのだが……」

 

褪せ人は不死人の発言を一応訂正しておいたが、月隠を始めとする数々の名刀にお世話になってきたので強くは言えない。

 

というか件のマレニアが使う武器、通称マレニアの義手刀もカテゴリとしては刀である。

 

やっぱりマレニアはサムライじゃないか!

 

 

「あぁ、それと狼、これも見てくれ」

 

「…………」

 

そう言って示すのはまたまたマレニアの攻撃。

 

唐突に飛んでくる回し蹴り、迂闊に手を出したら続く連撃に切り裂かれる恐ろしいキックだ。

 

「これもなんだか見覚えがあるぞ。仙峰脚とかいう流派技ではないのか」

 

「……知らぬ」

 

遠回しにお前ら(葦名一味)がマレニアにいらん技術を与えたのでないのかと冷たい視線を送る褪せ人と、目を閉じてむっつりと押し黙る狼。

 

褪せ人の、散々刻まれ嬲られ殺され続けた恨みは深い。しかし狼としても、ちょうど渦雲渡りを扱う葦名某に片腕を切り落とされ、仙峰寺拳法を扱う腐れ坊主どもにボッコボコにされた身。謂れなき恨みを買う気などほとほとない。

 

結果として生まれた険悪な空気を打ち破るのは、果たして怖いもの知らずの狩人だ。

 

「そういえば私の知り合いにも極東出身らしき者がいたな! ヤマムラ、とか言ったか。生憎と、少々話が通じなかったが」

 

それに極東と言えばこれも、と狩人が取り出したのは、複雑な波紋が刻まれた刀。銘を千景と称する。

 

「ほう! 私もシバとかいう男をぶっ殺してムラクモなる武器を扱ったことがあるが、それに負けずとも劣らぬなかなかの業物! どうだ狩人、暫し私に触らせてくれないか?」

 

「勿論だとも!」

 

コレクターの血が騒いだのだろうか?

 

バケツ頭の下に明らかな喜色と興奮を滲ませた不死人が、何やら狩人に詰め寄っている。

 

狩人も朗らかに笑いながらそれに応えていた。やはりミコラーシュを追いかけるような輩は並大抵の変人には動じないようだ。

 

「……そうだ、これも見てくれ」

 

「…………」

 

狼のまたか? という視線を無視して示したのは、黒き刃の刺客との戦闘。

 

あるアイテムを使わないと姿が見えない此奴は、こともあろうに背後から致命の一撃を入れてくる。

 

「忍殺だろ、これ」

 

「…………………知らぬ」

 

流れる沈黙が痛々しかった。

 

 

「──そこで、こいつをこうすると……そう、血を纏う」

 

「血刃か! 良いではないか良いではないか! フハハ太陽万歳! 黄金の残光万歳!」

 

「あっ貴公、あんまりやりすぎると……」

 

 

血が出た!

 

YOU DIED

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

白いソウルの残滓となって消えた不死人を、狩人は額の汗を拭うことによって見送った。

 

てかあいつ千景持っていきやがった、次会ったら取り返してやる。

 

そう思いながら振り返り、狩人はまるで何事も無かったかのように残る二人に話しかける。

 

「貴公ら、まだやってるのかね。我々は皆貴き御方に仕える者、常に余裕を持って優雅たれ、だよ」

 

「むぅ……」

 

「確かに、俺はラニ様に相応しくあらねばな……」

 

肉塊(アンナリーゼ)人形(ラニ)ショタ(九郎)

 

仕える主人の姿を思い起こして約二名は気色悪い笑みを浮かべた。

 

 

 

「というかそもそも、貴公にも言いたいことはあるのだよ、狩人!」

 

しかし、静寂は長くは続かない。

 

憤懣やるかたない、という仕草で怒りを示し、褪せ人が今度は狩人へ向かって文句を吐き出し始める。

 

「このマレニアなるデミゴッド、よりにもよってリゲインしてくるのだ! それは貴公ら狩人の専売特許だろう!」

 

「おっと、今度は私か……?」

 

 

ここから褪せ人が吐き出し始めた恨み辛みは、かなりの量になってしまうので割愛させてもらおう。

 

一部を抜粋して取り出してみると、やれ超至近距離からの乱舞が避けられないだの猟犬と霧踏みと夜と炎ビームがどうのこうのだの純魔があーだこーだ写し身が強すぎてエルデの王の存在意義がなんたらかんたらエルデの獣は許さんだの返報ガー黄金パリィガー神肌のだいたいふたりガーだの。

 

 

いつの間にやら彼らはどっかり座り込んで、狼がそっと差し入れた竜泉を茹でエビと茹でカニを肴に楽しんでいた。

 

 

「つまりだね、私のところ(ヤーナム)の薄汚い上位者共も褪せ人殿のところ(狭間の地)の胡散臭い二本指やら大いなる意思やら黄金樹やらも、狼殿の国(葦名)に根付いた桜竜とやらも皆等しく外来、我らによって廃されるべき存在なのだよ!」

 

「然り! 故にノクステラやノクローンは地下に宇宙を創り上げたのだな!」

 

「ほう! 褪せ人殿の地では宇宙は地下にこそあったのか!」

 

一方狼は注連縄マンについて考えていた。

 

さもすればアレも外なる神の一柱だったのかもしれぬ。

 

 

 

「神だって?」

 

ぬっ、とカミサマスレイヤーな不死人が現れた。

 

「うわ、貴公さっき死んでなかったか?」

 

「篝火と王の器が無ければ帰ってくることは叶わなかっただろうよ」

 

初めからワープ機能が解放されている他三人には分からない悩みである。

 

「俺の嫁には間違っても手を出すなよ、不死人」

 

「ハハハ、戦技なる珍妙な技と身軽なジャンプを自在にこなす貴公を敵に回そうとは思えんよ」

 

狼や褪せ人は勿論、回避を是として身軽に動き回る狩人も不死人からすればかなり相性が悪い。

 

剣呑な視線は受け流すのが無難な選択だ。

 

 

「あぁ、そういえば貴公、太陽の信徒だったな?」

 

「そうだぞ? 皆も共にやるか、太陽万歳!」

 

不死人が両手を天に高く伸ばし、胸を張りつつ全身でYの字を表現する。これこそが『太陽賛美』、偉大なでっかい太陽へと捧げる誇らしい儀礼である。

 

狩人もそれに倣って『交信』のポーズ。褪せ人も『叡智』を。よく分からなかったが狼も一緒にやってみた。少し暖かい気分になり、自然と小さな笑みが浮かぶ。はちきれそうな銭袋、太陽への祈りはそれに匹敵するのだ。

 

「……いや、そうではなくて。貴公、此奴に見覚えは?」

 

「見よう」

 

褪せ人がそっと差し出したのは、忌まわしき『糞喰い』と呼ばれる男の写し絵。

 

「うわっ、汚いな」

 

「……うむ」

 

後ろから覗き込んだ狩人と狼が思わず漏らしたように、その男の体は筆舌し難いほどに汚れていて、汚濁塗れの身に蝿がたかっていた。

 

なんともおぞましい姿である。狼はなんとなく首無しを思い出してゾッとした。

 

「……貴公、何故()()を私に見せる? こういうのは灰の専売特許だろう?」

 

()()、というのは、主に糞に関する部分についてである。

 

歴戦の猛者揃いでも、流石に糞溜まりの中にズブズブ入っていき遺体漁りをするのは誰だって嫌だ。しかし例外はいる。きっと大好きだったのだろう。

 

「そうじゃなくて、ここ」

 

褪せ人が指差すのは糞喰いの胴体部分。

 

汚れ切った胴鎧に、しかし燦然と存在感を発する一つの光輪があった。

 

 

 

「……おぉ、おぉおおおぉぉお!!!」

 

 

そのなんとも言えない味のある顔!

 

それは不死人の盟友、かのあったかい友直筆の産物ではないのか!?

 

 

「……太陽、()の太陽よぉ…………」

 

 

おもむろに俯いた不死人は、やがて血走った目で懐から何やら多くの脚が生えた蟲のようなものを取り出す。

 

ピカー!

 

太陽虫。かつて不死人の友(ソラール)に寄生し、終に狂わせたその蟲が、不死人の頭の上で眩いばかりの輝きを発した。

 

 

「俺が! 俺たちが、太陽だ!!」

 

 

「まずいな貴公、止めるぞ!」

 

「賜った!」

 

「…………!!!」

 

なにやら雷を手当たり次第に放出し出した不死人は、しかし極めて身軽な不死三人組に袋叩きにされて呆気なく倒れた。

 

一対一なら神にすら打ち勝つが、多対一ではそこらのネズミにすら負ける。ましてや相手が歴戦の猛者なら尚更だ。こういうわけで褪せ人から狼及び狩人への詰問はうやむやになり、狩人の千景は不死人に持って行かれた。




でもマレニア戦は割と楽しい
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