脇役になりたくないTS転生者   作:有機栽培茶

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アニメのメディックちゃんかわいい


幕引き

 

「けほっ、けほっ……」

 

 

 口内に入った砂を吐き出します。ジャリジャリしたり涙が出てきたりしますが、あれだけの量の砂に包まれてこの程度なら運が良かったといってもいいでしょう。怪我もありませんし。

 

 状況が理解できない。龍門付近に砂漠地帯はなかったはずです。それに都市内に突然こんな、しかも人一人持ち上げられるような砂嵐が現れるなんて自然ではあり得ないでしょう。だとしたら予想できるのは何者かによるアーツ。しかしこれほどまでに卓越したアーツ…一体誰が?自慢ではないのですが、私はアーツ戦──特に相手のアーツに干渉し無効化することに関しては得意分野なのです。あの化け物揃いのロドス内での模擬戦で唯一黒星よりも白星が優ったモノですしね。

 

 となると一体誰が…?龍門で実力者として挙げられる者はチェンさんやホシグマさんにスワイヤーさんなど。そのどれもが相当な実力者ですが、アーツの面で言えばそこまでではなかったはず…

 

 しかしいくら思考しようと答えは出てこない。そして…────ああ、これは悪い癖だ。状況の整理がつくまで周りの様子を確認できないという致命的な。

 

 

「フォッフォッフォ、目が覚めたかの」

「っ!!……まさか…ああ、なるほど」

 

 

 肩をポンッと軽い調子で叩かれた衝撃に思考を中断し、振り返る。後ろにいたのは予想外の予想外。大物中の大物であり、私がこの都市で会いたくないと思っていた人物ランキング第二位に見事ランクインされた方だった。

 

 そして同時に線と線がつながった。確かにこの方はウェイさんと共にこの龍門を築き上げた功労者と言われ、そしてそれ相応の実力者であると。この人なら、あれほどのアーツが使えても不思議ではない。そして、この騒ぎに介入する理由も存在する。

 

 

「貴方ほどのお方が私に何の用ですか?鼠王」

「そう睨むでない。可愛い顔が台無しだぞ?」

 

 

 真っ白な高そうなコートに身を包み、これまた高級そうな杖をついた鼠の老人。龍門の裏の顔、鼠王その人がそこにいた。

 

 

「…私は、貴方たちとの約束は守っているつもりです。龍門の市民を傷つけない。龍門に敵対しない。そして、龍門の掟を守ること。それを条件に貴方たちは私がロドスの元で生きることを許してくれた。だから私もそれを守り、龍門に不利益になる様なことはしてこなかったはずです。今回、私が手を下したマフィア達は龍門人ではなく、シラクーザ人。それに、彼らに危害を加えられていた方々の救助だってしました。……それでも、それでも貴方が私を排除したいというのなら私は──────

 

「そうことを焦るでない」

 

 

 そう鼠王が言った瞬間、私が影で作り出していた源石製のナイフはアーツによる制御を失い崩れ落ちました。信じられないほどの威圧感。それを感じたのはかつての上司、ジャスパー・ランフォードの物や、雪原で出会った怪物、ウルサスの近衛兵の物など、たった数度。ブルリと身が震え、膝から崩れ落ちてしまいました。

 

 

「む、おっとっと…すまんの。お主のアーツはちと危険すぎるのでの」

「〜〜っ!……ハァ、ハァ、ハァ…」

「安心せい。今日お主を殺す予定はない」

「…ケホッ…では…なぜ?」

 

 

 呼吸を整えながら鼠王にその理由を問います。今この場で私を殺さないのならなぜ私を連れてきたのか。彼ほどの人物がわざわざ私一人を攫っていくなど、何かしらの企みがあるのだと考えたから。

 

 しかし帰ってきたのは──

 

 

「なに、ちょっとした年寄りの戯れじゃよ」

「………は?」

 

 

 そんな一言でした。

 いや、違う。きっとこれはあれです。敵の黒幕的人物が企むやばい計画を“お遊び”と呼ぶ様に、きっと彼も何か壮大な計画を描いているに違いない。

 

 

「やはり物語のフィナーレは主役(ヒーロー)お姫様(ヒロイン)を救い出して幕を閉じる物じゃろう?」

「……は?」

 

 

 いや、いやいやいやいや。待て待て、まって本当に。

 

 

「ほ、ほんとにそれだけ…?」

「そうじゃよ」

「え、いや、そんな……えぇ…?」

 

 

 えぇ…?

 

 

「それにこの騒動もそろそろ終わらせないとならないからの」

「…そうですね。あの害虫どもが…」

「ワシもここまでの規模は想定していなかったしの……人形遊びも上手くいかないものじゃ。その点ではお主の方が優れていると言えるじゃろうな」

「はぁ……?……?……はぁ!?!?」

 

 

 人形遊び。その言葉に鼠王を二度見します。確かにこの御仁や龍門の切れ者ウェイさんが龍門での蛮行を見過ごすはずがない。にも関わらず奴らシラクーザマフィアは民間人に危害を加え我が物顔で暴れ回っている。このことに疑問がなかったといえば嘘になりますが…

 

 

「ま、ままままさか…!」

「おや、気づいていなかったのかの?あのサンクタのお嬢さんは気づいておったが…お主の考える通りじゃよ。あのシラクーザ人もペンギン急便との争いも、ワシが彼奴らが龍門に少しばかり面白い利益をもたらすと考えて仕組んだものじゃ」

「っ!…じゃあテキサスが傷ついたのは全部…!」

「そうなるの」

「っ!」

「落ち着け」

 

 

 今にも飛びかかって源石に食わせてやりたくなる衝動を必死に抑える。今私が彼に挑んだところで勝ち目はなく、利益もないのですから。感情で動いてはいけない。

 

 

「だが…あそこまでの戦力が彼奴等に集まったのは想定外じゃった。龍門中のマフィア達が集まったと考えてもおかしくはないのう。それだけペンギン急便が彼奴等に恨まれていたということじゃが………のう?“ペンギンの番犬”アルマ殿?」

「うぐっ……」

 

 

 そこを突かれると弱い。確かにこれはマフィア共を完全に壊滅させることができず、奴らのヘイトを集めすぎてしまった私の責任であったのかもしれない。

 

 …いや待ってください。そもそもこの方がそんなことを企まなければ良かった話では?

 

 

「さてと、そろそろ行くとするかの」

「待ってください、なにかしゃくぜんとしなぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 言葉は最後まで紡ぐことを許されず、視界は再び砂に包まれたのでした。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

「やかましいのう……」

「な!?お前、いつの間に…俺の背後に…」

 

 

 鋭利なナイフで貫かれ、宙に捨てられるエンペラーの亡骸。安魂夜も式典は終わりが近づき、そして最高潮(クライマックス)な時間が訪れようとしていた。

 

 

「このマイクはどうやって使うのじゃ…。あーあー、ゴホン。龍門市民の諸君、こんばんは」

「っ!あれは……!」

 

 

 どよめく民衆と、鼠王が策略によって従えたマフィア達と激戦を繰り広げるペンギン急便。

 鼠王はこの安魂夜最後の、そして最高のイベントを始めようとする。

 この会場のどこかに彼のシラクーザの友人隠した特別なプレゼントが隠されている。それを宣言時間以内に見つけよ、と。

 

 一見普通のよくあるイベント。少なくとも、何も知らない市民の者にはそう聞こえたことだろう。その光景を目に焼き付けていたバイソン少年もまた少しの違和感を抱くだけだった。

 

 

「もし誰もこのプレゼントを見つけられぬ時は残念ながら─────

 

 

 しかし、それは次の一言で違和感から危機感へと一変する。

 

 

「お主らの人生で最後のサプライズになるのじゃ」

 

「ッ!?」

 

 

 鼠王の凶暴な笑みが、嫌に目立った。

 

 

 

「嗚呼そうじゃ。もう一つ、イベントの参加者、ペンギン急便の諸君。君たちに応援コメントがあるそうじゃ」

 

 

 そう言って鼠王は私を掴んで離さない砂を操作して前に出しました。

 

 

「…いや何いえばいいんですか?そもそも貴方が無理やり連れてきたせいで何が起こっているのかさっぱりなのですが…」

「そこら辺は…こう…空気を読んでじゃな?某アクションゲームの桃姫の様にお主の思うヒーローに助けを求めるのじゃ」

「むぅ…」

 

 

 ヒーローに助けを求める…ですか。難しいですね。助けを求める声をかけられたことはありますが、逆に発したことはない。

 んーーーー…思いつきませんね。そういう声をかけられた時はこう、面白そうなおもちゃが手に入っただとかその程度の気持ちしか湧かなかったのですが結構難しいものですね。

 

 …もう適当でいいでしょうか。後ついでに鼠王さんへの意趣返しも込めて…

 

 

 

 

「誰か助けてーこのお爺ちゃんに犯されるー(棒)砂でグッチョグチョに犯され───ムグゥ」

 

 

 

「お、お主何を言っているのじゃ!?」

「いえ、ちょっとした意趣返しをですね…」

「お主はわかっていないのじゃこの重大さを!怒った女性ほど怖い者はない!ワシも若い頃は妻に─────

「あ」

 

 

 

 妙に慌てる鼠王に小声で詰め寄られている、その時でした。

 

 ガタンと、誰かがこの高台の上に飛び乗ってきた様な音が鼠王の背後からなったのは。そして、夕焼けの様な紅色の閃光が光り輝いたのは。

 

 

「剣雨」

「なっ!?」

「うわっ!?」

 

 

 一瞬の出来事だった。圧倒的な強者であったはずの鼠王は天からまさに雨の様に降り注ぐ無数の光刃によって複数人のマフィアごと貫かれ、地に付したのは。

 そして鼠王の砂のアーツから解放されて中を待った私が暖かく、懐かしい匂いに包まれたのは。

 

 

「あ、テ、テキ、サス…さん?」

「………」

「……■■■■■?」

「!兄さん、大丈夫だった?」

「え、ええ、大丈夫ですよ。何もされてません」

「そうか…よかった…」

 

 

 安心した様な、優しい声。しかし、その声にどこか嫌な予感を感じるのは気のせいでしょうか。

 

 

「兄さん……さっきの返事がまだだったな」

「あ、はい、そ、そうですね」

「……」

 

 

 すると彼女はじっと私を見つめ出しました。今まで何度も見つめられることはありましたが、こんな至近距離で見つめられたことは…いや、待ってください。何か忘れている。これは初めてじゃない。そうだあの時、チェルノボーグ事変前…いえ、その後もあった。そうだ、あれはいつも決まって私が■■■■■に会いに行って、そして何故かその後の記憶が欠落していた日のことだ。

 

 思い出せ。何か、私は何かを間違えた。早く思い出さないと、取り返しのつかないことに──────

 

 

「…ん」

「んっ!?」

 

 

 しかしその思考は途中で途絶えることとなった。困惑混乱戸惑い当惑。彼女の思考は一度真っ白に吹き飛ばされ、として再び正体不明の情報の嵐に埋められ、また真っ白になってゆく。理解ができない理解が及ばない。彼女には一体今、何が行われ、何をされているのか理解できていなかった。

 

 唯一わかるのは口内を蹂躙する未知の感覚と、まるで夢の中かの様な不思議なポワポワとした、しかし幸せな気持ち。否、幸せに蹂躙される様な気持ち。そして、腰が砕けた様に力が抜ける様な感覚。

 

 

 

 

 そう、子供には見せられないシーンがこの後始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍門の安魂夜は鼠王の粋なプレゼント、飴玉の飴によって幕を閉じた。喧騒は幕を閉じ、自身の役目の終わりを感じ取った者たちは武器を捨て各々の楽しみ方で安魂夜の余熱を楽しんでいた。

 ペンギン急便の面々もまた何故か生きていたエンペラーを交えて生き残った酒を嗜み、少しの怪我を負った鼠王もまた共に此度のイベントを計画した友人と一緒に静かに夜景を眺めていた。

 

 

 さあ、日が昇る。

 たった一人の犠牲者と、一人の勝者を残して龍門の日常はまた回り出す。

 

 




後日ペンギン急便では妙に艶々とした者と対照的にやつれた者、そしてエンペラーにこき使われる2匹のループスがいたという。


────────────────────────

これで60話ですしそろそろ新しく描こうかなという気持ちともっとアルちゃん描きたいという気持ちがせめぎ合っています。一章の改善は週一くらいの頻度で続けますが、これで「脇転」は最終回かもしれません(はっきりとしない作者の屑)
こんな作品をここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。また別の作品で会えたら会いましょう。

…これで続いたら恥ずかしいな。

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