XX日後に担当トレーナーを分からせるウマ娘   作:井ノ華

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タイトル通りです。②まであるので実質前編です。
pixivだとまとめて出したんですけど、1万字を超えるためハーメルンの方では分割しました。

そして、当拙作にいくつか評価が入っていました。評価の如何に問わず、入れて下さった方、この度はありがとうございます。参考にさせていただきます。



トレーナーの家に押しかけてとんでもない湿度の高さを発揮するグラスワンダー①

 

 スカイに嵌められた翌日、1日ぶりに自宅に帰って来れた。

 

 まあ自宅と言っても借家のマンションであるが。見慣れた筈のそこそこ上質なオートロックの玄関を眺める。それはたった数十時間ぶりだというのにえらく懐かしく感じられた。

 そう感じるのは恐らく酷く消耗しきっているからだろうか。掠れるようなため息と共に、すっかり凝り固まった左肩から先をぐるりと回す。本来鳴ってはいけないような鈍い音がした。

 

 あの後、結局スカイに深夜4時くらいまでトランプゲームに付き合わされる羽目になった。クソが。長ぇよ。

 

 いやもう本当に長い。4時て。アホか。

 別にスカイの面倒臭いテンションに付き合うのがイヤというわけではない。むしろ好きな方だ。しかし昨日は普通に休ませて欲しかった。それに途中から追加された『負けた方が1枚ずつ脱いでいく』という一体誰得なのか不明過ぎる罰ゲームの必要性もよく分からなかった。  

 しかも最終的には罰ゲームを設けたスカイ自身が下着姿にまでひん剥かれて終わるという、なんとも後味の悪い結果となってしまったし。此方としてもスカイ程度の下着姿などではピクリとも来ないので本当に誰得なのか分からない。

 しかしまああの勝負は受けない訳にもいかないわけで。年長者の沽券というかプライドというか、要はやられっぱなしでは癪だったのである。

 

 此方としては『ガキが、大人を舐めていると潰すぞ』ということを教えてやろうと思っただけなのだ。決してやましい気持ちがあったという訳では無い。

 

 まあそんなふうに色々とあって。その後へそを曲げてふて寝してしまったスカイと共に睡眠をとり、朝になるとまた麻袋を使って寮から脱出。素知らぬ顔で通常通りの業務に戻ったわけである。

 

 

「あら。あらあらあら〜」

「…………」

 

 

 して、久々の我が家にて。昨日の分と今日の業務の疲れを癒す為に普段は滅多に開けない酒なども開け豪遊してやろうかと思っていたのたが。

 

 

「遅いですよ〜? トレーナーさん」

「……とりあえず説明してくれる?」

 

 

  目の前の眺めている普段通りの玄関に、普段通りではない影がひとつ。

  自分の教え子である、グラスワンダーがそこにいた。

 

 

「昨日は帰って来られなかったようですが……昨夜はどちらに?」

「話を聞け。なんでうちの玄関の前にいるのか説明しろって言ってんのよこっちは」

 

 

 俺は詰問するように彼女に迫り、とりあえずグラスの姿を隠すようにして玄関の隅の方に移動する。曲がりなりにも社会人が、教え子とはいえ女子中学生とマンションの玄関前で話している姿というのはあまり見られてよろしいものではないだろう。

 下手をすればご近所付き合いに関わるし。警察沙汰だけは勘弁して欲しい。

 

 

「トレーナーさん」

「うん?」

「私、以前言いましたよね」

「なにを?」

 

 

 グラスは抵抗することなく俺に背中を押されていたが、玄関の隅に着くなりくるりと回り、素早く此方の腕を取ってきた。

 

 

「……っ! い、痛いグラス。な、なに?」

 

 

 いや、腕を取るというよりは完全に此方の腕を握り締めてきた。

 まるで手錠のように、逃がさないようにと。ウマ娘の腕力にモノを言わせて此方の手首を強く掴む。……なんなんだ。

 

 

「トレーナーさんはお世辞にも生活力というものがありません。欠如しています、と」

「ああ、そういや昔言ってた……かも?」

「どうして他人事なんです?」

「…………」

 

 

 グラスは眉根を寄せ、俺を責めるように言葉を放つ。

 なんだこいつ。よく分からんが、ちょっとキレてないか?

 くそ、なんかめちゃくちゃめんどくせぇな。

 

 

「……今私のこと、面倒な女だと思いましたね?」

「いや? 決してそんなことは」

「本当ですか?」

「面倒な女じゃあない。めんどくさくて重てぇガキだなと思っただけだ」

「はい怒りました。もう逃がしません」

「怒んなよほんとにガキっぽいぞ。いや、もう怒ってたか」

「怒ると子供、と言えば何を言っても咎められず許されると思っているんですか?」

 

 

 うわこわ。この子こわ。

 完全にブチキレていらっしゃる。目が笑っていない。

 

 

「あ、もしかして俺と俺の同僚に重たいって言われたこと根に持ってたりする?」

「いけませんか?」

「……すまん。なんか、ごめん」

「ふん、今更何を。ほら、もう片方の腕も出してください?」

「なんだよ。何する気だよ」

「私の事を重たい重たい言うわからず屋さんにお灸が必要でしょう?」

「やだよ。おまえ力強いもん」

「問答無用です」

 

 

 グラスは言うが早いか、俺の左手も拘束しだした。グイグイ引っ張り、此方との距離を詰める。これで完全に逃げれなくなってしまった。すっかり手錠のようである。

 そっちの腕怪我してるからやめて欲しいんだけど……。

 

 

「これで逃げられませんよ? いつもみたいにはぐらかしも出来ませんね」

「グラス。近い。もうちょい離れて」

「近くて結構です。私の目を見て話してください」

「いや誤解されるんだけど。ご近所に」

 

 

 これ、傍から見たらどうなっているのだろうか。少なくとも良くは見られないだろうな。

 しかしこの程度のことを気にして諭したとしても、不機嫌なグラスが離してくれるわけでもなし。今は話を聞くことにした方が得策だろう。

 

 

「……で? 結局何の話?」

「トレーナーさんの健康状態の話です」

「健康状態?」

 

 

 はて。そんな話だっただろうか。

 

 

「トレーナーさんは私達のトレーナーさんなわけですので、倒れられたりすれば私達が困るんです」

「そうだな」

「ですからズボラなトレーナーさんが健康に過ごしてもらう為にも、定期的に部屋や洗濯物の状況、食べたものを報告するようにと……私は言いましたよね?」

「あー……まあ、言ってはいたけど……」

 

 

 強気に出てくるグラスに俺は曖昧に返答する。いや彼女が言ってることは聞いた事があるし、記憶にもあるけれど……。

 正直な話、冗談だと思っていた。

 

 

「その定期報告が昨日だったんですが。どうして私に連絡を寄越さないんです?」

「そんなこと言われてもな。ぶっちゃけ冗談だとばかり」

「はい?」

「だって本気にしないだろ」

「なぜ?」

「いやなぜって。いくらグラスの家事の腕が立つって言ってもおまえはやっぱり教え子──」

「……部屋に行きましょうか」

「ちょ、待て待て。早まんな」

「早まってません。こっちは昨日も待ってるんです。むしろ遅すぎるくらいです」

「いや昨日も来てたのかよ」

 

 

 グラスはムスッと頬を膨らませて抗議する。そりゃあ連日待たされればこんな顔にもなるかもしれんが。

 それにしても、なるほど。だからグラスは俺が昨夜帰宅してなかったこと知ってたのか。しかしだからといって2日連続で来ることは無いだろうに。もしかして暇なんかこいつ。

 

 

「来てましたよ。でも、いませんでした」

「それは悪かったな」

「本当、昨夜はどこへ行っていたんですか」

「昨日? ……昨日は同僚の家に、ちょっと」

「同僚? またあのスズカ先輩のトレーナーさんですか?」

「ああそうそう。それそれ。そいつそいつ」

「そうですか。……また、あの人ですか……」

 

 

 じろり。下から鋭い視線が向けられた。その鬼気迫る形相に、思わずたじろぐ。

 こうなったグラスはかなりおっかないが。しかし此方としてもまさか本当のことなんて言えるわけがないので、適当なことを言って誤魔化すしかない。

 

 

「……私との約束を、差し置くほどのことだったのですか?」

「そういうふうに言われると弱いが」

 

 

 俺の返答に、不満げに小さく呟いたグラスはかなり不機嫌そうだった。頬をさらに膨らませ、腕を掴む手により力がかけられる。

 グラスとの約束は知らなかったが、此方も別に大層なことをしていたわけでは無い。実際はスカイに嵌められてただトランプをしてただけなのだから。

 察するに、グラスは俺が自分よりも同僚を優先したのが気に入らないらしい。まああのバカタレはグラス対して重たい教え子とか言ってたし、彼女がよく思わないのが分からなくはないが。

 

 

「うーん……」

 

 

 ただグラスの何が不憫なのかと言うと、先程グラスが呟いたセリフは『言いたいことは山ほどあるが、どうにかひとつに凝縮した一言』感が滲み出ていて、それは紛うことな重たい女性の典型的なセリフそのものであるということだろう。

 

 決して同僚が間違えている訳では無い。なんなら大正解まである。だってそうだろう。『あなたの身体が心配なので食生活を逐一教えてくださいね?&連絡がないので家にまで来ちゃいました』なんてムーブをかますヤツが重たくないわけないではないか。

 

 将来グラスの伴侶になる男は苦労しそうだ。で、そんな重たい教え子が果たしてどれくらい待ちぼうけをかましたのかは分からないが、ただそんな悲しそうな顔をされると此方としてと申し訳ない気分になってくる。内から罪悪感なるものがふつふつ湧き出てきた。

 

 

「……まァ、しょうがない。お茶くらいは出そう」

「……!」

 

 

 此方の都合を誤魔化す為にさらに恨まれてしまった同僚のことなどは毛ほどもどうでも良いが、しかしグラスの気をこれ以上背けてしまうと今後の信頼関係等に支障が出るかもしれない。

 

 その上彼女がうちを訪れた理由が、何はともあれ俺の為を思って来てくれてるとなると、尚更ここで無下に帰れとは言えなかった。

 

 女子中学生を自宅に連れ込むことに抵抗がないといえば嘘であるが、しかし俺は昨日教え子を下着姿にまでひん剥いた男(完全にスカイの自爆だが)。今更この程度のことでビビるのもおかしいだろう。

 此方がそう言うと、彼女は俯きながらコクリと小さく頷き、俺の利き腕である右手を解放した。

 

 

「ありがとうございます」

「ん」

「……時にトレーナーさん、今日はお風呂、入ってますか?」

「今日はまだ入ってないけど。ああ、そういえば昨日も入れてないな」

 

 

 拉致られたから。

 

 

「……そうですか。なるほど?」

「悪い、臭かったか」

「いいえ。ただ、()()()()()()はしますね」

「いやそれを臭いって言わないか?」

 

 

 一応風呂は毎日入る習慣はあるが。ただ昨日は事情が事情な為、入れていない。

 俺は玄関のオートロックを外し、グラスを連れて部屋へと向かう。

 しかし、何故か左手の方はいつまで経っても解放してくれない。ずっと組むようにして掴んでいるままだ。

 

 

「グラス、痛てぇんだけど」

「知りません。我慢してください」

「いや、左手怪我してるんだって」

「あらら、そうなんですか?」

「そうそう。昼休みに病院も行ってきたくらいで……何でも()()()()()()とかいうヤツなんだと」

「……へぇ? 橈骨神経麻痺、ですか」

「へぇって。離してくれないの?」

「それを聞いてもっと離せなくなりましたね」

「なんだそれは。ドSかよ」

 

 

 何故か、左手は部屋に着くまで離してくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘つき」

 

 

 





最後まで読んでくださりありがとうございます。次回に続きます。
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