大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた   作:もう何も辛くない

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溢れるモチベーション
もう誰に戻められない(フラグにならないよう頑張ります)


スゴイじゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部内戦の全試合が終わった翌日、インターハイ予選に出場するメンバーの発表が行われた。

 ホワイトボードに貼られた二枚の紙。シングルスのメンバーとダブルスのメンバー、その内のシングルスのメンバーに確かに自分の名前がある事を目にしてから次にダブルスの方へと視線を移す。

 

「…おぅ」

 

 当然といえば当然なのだが、ダブルスの方にも俺の名前はあった。ただ、俺の名前の隣に書かれた()()の二文字に俺は思わず小さく呻き声をあげた。

 

 いや、これも当然…なのか?俺は部内戦の総合結果で全部員の中で二位の成績だった。ちなみに針生先輩は言うまでもなく一位だ。あの人部内戦で全勝だったし。

 一位と二位でダブルスを組むのは結構自然な考え、なのか?

 

 しかし複雑だ。昨日、千夏先輩に針生先輩に勝つ宣言をしたのにダブルスのパートナーを組む事になるとは。

 

「おい。何だその嫌そうな顔は」

 

「俺昨日、次は勝つ宣言をとある人にしてまして。嫌とは少し違うんですが、ぶっちゃけ複雑です」

 

「ふーん。…まあいいや。とにかく練習するぞ。予選までお前は俺と一緒に練習だ。…お前はこれからどんな練習をしていくつもりだった?」

 

「…外周、サーキット、フットワークを徹底的にやりつつスタミナが万全じゃない状態でのゲーム練習、とか」

 

「自分の課題は分かってるみたいだな。なら話は早い。お前のスタミナを徹底的に鍛え直してくぞ」

 

 といった経緯で俺と針生先輩は今年のインハイ予選でダブルスを組む事と相成り、それと同時にしばらくの間、地獄の日々が始まる事が決定付けられたのだった。

 

「遅い遅い。振りも足も遅れてるぞ」

 

「はい逆ー。どんだけ疲れてても集中切らすんじゃない」

 

「アウトー。パワーが足りないのに精度でミスってどうすんだ」

 

 体力的にきついのは覚悟していた。しかしこの人、何だってこんなに煽りが上手いんだ腹立つ。

 

「んじゃ、次お前が球出ししてくれ」

 

「ぜぇ、ぜぇ…、はい…っ、ぜぇっ」

 

 俺の番のノックが終わり、今度は針生先輩の番となる。くそ、涼しい顔しやがって。

 軽い復讐心を抱きながら、心なしかノックを速めのテンポで出していく。これは復讐ではない。針生先輩を思って、俺と同じ速さじゃ針生先輩の練習にはならないだろうという後輩としての思い遣りなのだ。決して復讐ではない。

 

「ふっ─────」

 

 針生先輩は涼しい顔でノックを熟していく。どこにシャトルを落とされても拾う。フォームは崩れずショットが正確。

 この人と一緒に練習をする時間が増えた事で改めて思い知る、壁の高さ。針生先輩を倒すという目標の難しさを。

 

「よし。そんじゃ次はダブルスノック行くぞ。二分を五セットな」

 

「…」

 

 そして涼しい顔で地獄のメニューを口にする針生先輩。

 …色々自分なりに考えながら練習してきたけど、質より量を重視した練習も必要なのかもしれない。現に、今までの俺のやり方では針生先輩に勝てなかった訳だし。

 

「うっしゃ。そんじゃ最後に外周いくか」

 

「…」

 

 でも、それでも、この人の外周の量は異常だと思う。走るの好きすぎだろ。陸上長距離も向いてるんじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー。溶けとる溶けとる」

 

 そんな針生先輩の地獄のしごきを受け始めて一週間。雛がそう言うくらいに俺はだらけ切っていた。

 というかマジできつい。大会直前にやるメニューじゃなくないか?…あ、針生先輩はシード権持っててシングルスは自動で県大会まで行けるからここまで練習できるのか。

 

 …いや俺、シングルスもダブルスも出ますけど。針生先輩みたいに余裕なんてありませんけど。

 まあ流石にもっと大会が近くなればメニューの調整するんだろうけど。というかしてくれなきゃ困る。全身筋肉痛の状態で試合なんてやりたくない。

 

「うわっ、大喜から暗いオーラがっ」

 

「キノコでも生えてきそうだな」

 

「うるさい」

 

 好き勝手言ってくる雛と匡に力ないツッコミを入れる。

 

「気持ちは分かるけどな」

 

「そんなに練習きついの?匡くんは余裕そうだけど」

 

「俺はこいつと同じメニューは熟してないし」

 

「…もはや教室が唯一心休まる場所になってしまった」

 

「家は?」

 

「家だと何だかんだ筋トレとか素振りとかやっちゃう」

 

「休みなよ。分かるけどさ、体壊したら元も子もないよ」

 

 雛の言う事も分かる。だけど、針生先輩と練習していると否が応でも自分には足りないものだらけだと思い知らされる。家で一人でいると、どうしてもじっとしていられないのだ。

 

「にしても意外だったな。針生先輩があんなに世話を焼くなんて」

 

「…それは、確かに」

 

 無理にでも体を休めるべきか、と頭を悩ませていると不意に、匡がそんな事を言い出した。

 

 でも確かに、針生先輩があそこまで俺を気にかけて世話を焼くのは意外だ。あの人は決して他人を粗雑に扱う訳ではないけれど、バドに関しては他人は他人、自分は自分と割り切る人だと思っていた。

 それはダブルスのパートナーでも同じ事。現に、俺の前にダブルスを組んでいた先輩にはそうだった。

 

 基本的には練習は別々で、試合が近付いたらダブルスの練習をたまに一緒にやる、程度だった。

 それが俺に対しては地獄の練習…何で?

 

「恋敵だから?牽制してるんじゃない?」

 

「いや、俺別に千夏先輩の事好きじゃないし。針生先輩だってそうと決まった訳じゃないだろ」

 

「格の違いを見せつける事で諦めさせようと…」

 

「話を聞けよ」

 

 自分の世界に入る雛にツッコむも聞く耳を持っては貰えず。諦めて一つ溜息を吐いてから、口を開く。

 

「実際、格の違いは感じてる」

 

「「?」」

 

「同じメニュー熟して、俺はこんなに辛いのにあの人は涼しい顔してるんだから。…あんだけ基礎力あったら、バド楽しくて仕方ないんだろうな」

 

 自惚れかもしれないが、針生先輩に勝ってる部分はあると思っている。目の良さとか反応の良さとか、そこに関しては自信がある。

 でもスタミナ、技術に関しては完全に負けている。試合の組み立て方だって、前の試合ではそれでしてやられた訳だし。

 

 何度目か分からないけど、格の違いはいつも思い知らされている。

 

「どM」

 

「バドバカ」

 

「中学からたまに思うけど怖い」

 

「悪口止めろ」

 

 ていうか匡、お前そんな風に思ってたのか。普通にショックだぞ。

 

 そんな下らない会話をした休み時間も終わり、時間は流れていく。

 必死に眠気との死闘が繰り広げられた授業が終わり、掃除当番を終わらせてからすぐに部活の練習へ。いつも通り地獄の基礎練を熟してから、今日はダブルスのゲーム練習をする。

 

「つっ…!」

 

 上がったチャンスボールをスマッシュで、ストレートぎりぎりを狙い打つもラインを割りアウトとなる。

 悔しさに堪らず舌を打ち、天を仰ぐ。

 

「大喜、肘が下がってるぞ。体きついだろうが集中しろ」

 

「はい」

 

「でも体勢きつくてもストレートを選択したのは良かったぞ。その調子でしっかり相手を見ていこう」

 

「はいっ」

 

 休み時間中、匡と話したように俺はこの数日で針生先輩が意外に面倒見がいい事を知った。改めて針生先輩がどSである事も知った。

 ついでに飴と鞭の使い分けが上手い事も知った。

 

 …いらん事ばっかだな。もっとこう、フォームの癖とか見つけられればいいのだが、何なら練習中観察したりもしてるのだが、そういった弱点なんかは全くもって見つからない。

 

 いや、そうじゃないだろ。さっき針生先輩に言われた通り、集中しなければ。

 

 …しな、ければ。

 

「はい、アウトー」

 

「おい大喜」

 

「すみませんっ!」

 

 集中しなければと思うのだが、足腰の疲労が辛く集中を阻害する。

 それだけじゃない。今の俺の状態が前の針生先輩との試合の事を思い出させるからなお悪い。

 集中しきれず、ミスを連発する。針生先輩から呆れた視線を頂く。申し訳なさで更に集中が難しくなる。

 

 まずい、完全に負のスパイラルに陥ってる。切り替えなきゃ…切り替え…。

 

「…」

 

 切り替えよう、と思っていると何故か自然と視線が横を向く。

 俺が向けた視線の先では、女バスの部員達がコートを駆け抜けていた。その中で部員二人のディフェンスに遭いながらドリブルを続ける千夏先輩を見る。

 

「…ふぅ」

 

 あの人も頑張ってる。俺と同じ目標を持つ同志が頑張ってるんだ。

 

(…俺だって)

 

 そう思うと、さっきまで頭の中で渦巻いていた雑念が消えていく。目の前の事に集中が向く。

 

 始まるラリー。針生先輩と声を掛け合いながら相手の攻めを凌ぎ、コースを突いて隙を作ってチャンスボールが上がる。

 さっきと同じシチュエーション。狙うはストレート。今度は外さない。

 

「しっ!」

 

 百パーセントの集中を以て打ち放たれたスマッシュはライン上に着弾。失点を三連続で止め、こちらの得点となる。

 

「ナイッショ、大喜。次も一本」

 

「はいっ」

 

 針生先輩とハイタッチをしながら次のプレーに集中を向ける。

 もう雑念はない。いつものように目の前の事にしっかりと集中して、目の前の相手をよく見る。

 

 だから、だろうか。

 針生先輩が俺を見てから女バスが練習している方─────千夏先輩の方を見ている事に俺は気付けなかった。

 

「…ふーん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大喜、大丈夫か?」

 

「─────」

 

「返事がない。ただの屍の様だ」

 

「歩く屍があるか!」

 

 今日一日で何度目かのツッコミを入れると、匡は表情を変えないまま「生きてたか」、なんて呟いた。

 あ、駄目だ。今の一連のやり取りでもう疲れた。早く帰ってベッドで横になりたい。

 

 …とか今は思うけど、実際に帰ったら体動かさずにはいられなくなるんだろうな。ホント、バドにとり憑かれたみたいだな、俺。

 

「はぁ~…。一杯やりてぇ」

 

「酒は止めろよ。警察呼ぶのめんどくさい」

 

「コーラだよ」

 

 匡とそんな何気ない会話をしながら校門を潜ろうとした時だった。視界の横に、数人の生徒の集団が見えた。

 

「大喜、笠原。お疲れ」

 

「「お疲れ様です!」」

 

 俺と匡がそちらに振り向く前に声が掛けられる。声の主は針生先輩だった。

 針生先輩の他にも西田先輩、そして千夏先輩を含めて女バスの先輩が三人が集まって何やら話していた。

 

「大喜、ちょっとこっち来い」

 

「は?…はぁ」

 

 針生先輩が挨拶をした俺に向かって手招きをする。戸惑いながらも言う通りに針生先輩の方へと歩み寄る。

 

「─────」

 

「?」

 

 一瞬、針生先輩がニヤリと笑った気がした。一瞬の事で気のせいかとも思った直後、俺の肩に針生先輩が手を乗せる。

 

「今度こいつとダブルス組む事になってさ!」

 

「っ、ちょっ…!?」

 

 何をするかと思えば俺を引き合いに出して話を始めた。それも先輩達の前でだ。

 

「一年なんだけどさー。こいつ生意気で…」

 

(き、匡!助け…)

 

 話を続ける針生先輩を止められず、匡に助けを求めようとした。

 が、さっきまでそこにいたはずの匡の姿がない。あいつ、俺を見捨てたな。親友だと思ってたのに。

 

「でもこいつ、結構根性あんだよね。俺がいくらいじめても全然めげねーの」

 

「あ、あの…先輩…」

 

「これは無理かなーってちょい多めのメニューも最後までやり切るし」

 

「おい。その話、詳しく聞かせて貰おうか」

 

 先輩達の前でたまに貶し、たまに褒める先輩を弱々しくも止めようとする。と、聞き捨てならない台詞が聞こえてきたから思わず声に力がこもる。

 

「何だよ。何か文句あんの?」

 

「あるに決まってるでしょう!?おかげで毎日全身筋肉痛!授業も眠くて話が頭に入らない!次の試験で赤点取ったらあんたのせいだ!」

 

「はんっ。お前のスタミナがないだけだろ?確かに()()()()()()メニューだけど俺は余裕だぞ?」

 

「うぐっ…」

 

 今までの鬱憤を晴らすように大声で怒鳴るも帰ってきたのは鋭すぎる正論。

 確かに同じメニューを熟してる針生先輩は俺とは違い疲れてる様子はない。こんな所でも格の違いを思い知らされ、俺に出来るのは負け惜しみの如く睨みつけるのみ。

 

「なーに上から物を言ってるんだか。あんた、前この子に試合で追い込まれてたじゃん」

 

「…はぁ?追い込まれてねーし。あれは途中までリードされてたのはこいつのスタミナを減らす作戦であって、別に追い込まれてた訳じゃねーし」

 

「そんな作戦を実行しなくちゃいけなくなるまで追い込まれてたって事でしょーが」

 

「…」

 

 おぉ…、おぉっ!針生先輩が言い包められている!

 

「後輩には優しくしてやりなよ」

 

「大喜にはこのくらいが丁度いいんだよ」

 

「あんた…、ガキだねぇ。彼女も大変だ」

 

「うっせー」

 

 凄い…。俺にとっては絶対強者であるあの針生先輩が口で負けて─────ん?

 

「彼女?」

 

「ん?俺彼女いるけど?」

 

「…えぇ!?」

 

 彼女!?いたの!?針生先輩に!?

 い、いやでもこの人前、千夏先輩と二人で歩いてたよな!?あれは一体!?

 

「あーそうだちー。この前ありがとな。男一人で化粧品とか買いに行きづらくて」

 

「いいよ、どう致しまして」

 

「…」

 

 つまりあれか。針生先輩は彼女に上げる化粧品を買うために千夏先輩にお供を頼んでいたという訳か?

 …なんだそりゃ。俺が勝手に勘違いしてただけかよ。

 

(…そんで、何で俺は安心なんてしてるんだろ)

 

 いや、安心するのも当然か?千夏先輩に彼氏がいたら他の男の家に泊まるなんて出来なくなるし、色々と俺と千夏先輩含め、考えなくてはならなくなる。

 

「…針生先輩、俺はこの辺で」

 

「お、大喜。ちょい待ち」

 

 そろそろ帰ろうと、針生先輩に一言添えて、他の先輩達にも挨拶をしようと考えていた。

 だがそれよりも先に再び針生先輩に呼び止められ、首に腕を回され無理やり体の向きを変えられる。

 

「ちょ、何ですか」

 

「お前、ちーの事好きだろ」

 

「…は?」

 

 顔を近づけられ、何事かと思いきやいきなりそんな事を言い出した。

 

「いや、違いますけど」

 

「…は?」

 

「そんなマジ?て顔されても、違うものは違いますよ」

 

「…あー、そうか。すまん、勘違いしてたみたいだ」

 

「いいですよ。それより俺、そろそろ帰りますんで」

 

「ん。また明日な」

 

「はい。先輩達も、お疲れさまでした」

 

 針生先輩だけでなく、西田先輩や他の先輩方にも挨拶をして─────千夏先輩と一瞬視線を交わしてから彼らに背を向けて帰路に着く。

 

 今日も今日とて疲れる日だった。歩く足は重く、体は早く休みたいと叫んでいるかのようで。

 

「?」

 

 スマホからメッセージの着信音が鳴ったのはその時だった。ポケットからスマホを取り出し、届いたメッセージを確認する。

 

 ─────凄い頑張ってるんだね!スゴイじゃん!

 

「…」

 

 千夏先輩から届いた十数文字のメッセージを見て、つい笑みが浮かぶ。

 スマホを仕舞ってまた歩き出す。

 

 さっきまでよりも、足は軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対そうだって思ったんだけどな」

 

「何が?」

 

「別に。何でもねーよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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