大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた   作:もう何も辛くない

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自分的に千夏先輩が一番なのは揺るがないけど雛も可愛い。異論は認めない。
という事で、雛回です。


見ててね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど」

 

 部屋の中に居ても雨が滴る音は微かに耳に届く。聞こえてくるのはそんな雨の音と時計の針が進む音、そして今、口を開いた雛の声だけだ。

 

「千夏先輩のご両親が海外に行っている間、大喜の家で預かってると」

 

 さっき、千夏先輩が家に帰ってきた所を、それも挨拶を交わしている所を雛に目撃された。当然、雛はその会話について追及してきて、どうしようかと悩む事すら無駄だと思える程詰んでいる状況で出来る事なんて一つしかなかった。

 

 そう、全て打ち明ける事である。

 まあ雛はこういう事を他人に言い触らす奴じゃないから大丈夫とは思うけど…、でも正直、事情を熟知している人物は少ない方が良いというのが俺の本音だった。

 

「ごめん。今まで黙ってて」

 

「…正直ショックだよね。そんなに信用ないんだって」

 

「…」

 

「親友だって、思ってたんだけどな」

 

 いつも表情豊かな雛の顔に、今は何の表情も浮かんでいない。それが、俺の心の中で不安を抱かせる。

 全部俺が悪い。このまま絶交を言い渡されたって仕方がないとも思う。…今更後悔したって遅い。でも、こいつにも話しておけば良かった、なんて思ってしまう。

 

「こっちはね、色々と心配していた訳ですよ。相手があの千夏先輩だから、大喜なんかで釣り合うのかなーとかさ」

 

「…」

 

「それがまさか水族館デートで楽しむどころか、お家に帰って二人の時間を楽しんでいたとは思っていなかったですよ」

 

「…雛さん?何故俺の膝にジャンプを載せてくのです?」

 

 あれやこれやと言いながら正座をする俺の両膝にジャンプが載せられていく。その数、八冊。普通に重い。

 雛が何を考えているのか分からず、顔を上げて問い掛ける。

 

「私が良いって言うまでそのままね。それまで耐えたら許してあげる」

 

「え」

 

「大喜だけじゃなく千夏先輩の事でもあるから、色んな人に言う訳にいかないのも分かるし。…でも匡くんには言ったのに私には教えてくれないのはショックだから、バツとしてしばらくそのままでいなさい」

 

「…」

 

 俺がしたのは雛への裏切りといってもいい。人は隠し事をする生き物だ。嘘を吐く生き物だ。そうしなければならない時が必ずある。

 でも、今がそうなのかと尋ねられれば、今の俺は首を傾げる。雛になら教えて良かったんじゃないか、と今の俺は思うから。だけど雛は許す、と言ってくれた。

 

「雛。ありがとう」

 

 だから俺は雛へお礼を言う。俺を許そうとしてくれた事へ。俺とまだ、友達を続けてくれる事へ。感謝を伝えた。

 

「…でもさ大喜。二か月一緒に住んでるのに何も起きないって、あんたヘタレ過ぎない?」

 

「だから俺は何も想ってないんだって!何か起きて堪るかっ!」

 

 何はともあれ雛との関係が変わらなかった事へ安心する。結局その後は八冊のジャンプを載せたまま一時間くらい雛と雑談してから、帰るからもういいよというありがたいお言葉と共に解放された。

 雛を玄関まで送ろうと思ったが足が痺れて立ち上がれず、雛は苦しみ藻掻く俺を見ながら爆笑して帰っていった。

 

 いつもなら恨み言の一つでも言ってやるのだが、さっき俺が仕出かした事を考えると何も言えず。ただ去っていく雛を睨む事しか出来ないのだった。

 

 とまあこれが俺と千夏先輩の事情について雛が知った経緯である。しばらく立てなくなるという代償を負いはしたが雛と仲直りして、次の日からはいつも通りの生活へと戻る。

 朝練に行って、授業を熟し、休み時間には匡と雛と馬鹿な話をして、授業が終わったら部活へと行く。

 

 県大会までもう時間はない中、練習の熱は更に上がっていく。

 

「つっ…!」

 

「どした?」

 

「いや、足の指が…あー」

 

 針生先輩からノックを受け、コート内を動き回る中、不意に右足の親指に痛みが奔り動きを止めてしまう。

 ノックが止まり、針生先輩がどうしたのかと問い掛けてくる。それに返事を返しながらシューズと靴下を脱いで指の確認をする。

 

「どうした─────あらら」

 

「すみません、ちょっと絆創膏巻いてきます」

 

「あぁ。救急箱の場所は分かるよな」

 

「大丈夫です」

 

 靴下とシューズを履き直し、針生先輩に一言掛けてからコートを出る。監督にも事情を話して許可を貰い、救急箱を持って体育館を出る。

 水飲み場の椅子に腰を下ろし、傍らに救急箱を置いて中から絆創膏と消毒液を取り出す。

 

 傷をよく見れば痛みの割りには大したことない。これならすぐに治ると思う。

 

「何してんの!?」

 

 なんて考えながら傷口を軽く消毒しようとした、その時だった。耳元で響いた大声に心臓が跳ね上がる。

 

「な、なんだ!?雛!?」

 

「あっははは!驚きすぎ!」

 

「驚くに決まってんだろ!ったく…何だよ」

 

「何はこっちの台詞。どうしたの?」

 

「別に、何でもないよ」

 

「ふーん?また隠し事するんだー?」

 

 話し掛けてきた雛がだる絡みしてくる。いつもなら適当に聞き流して終了なのだが、最後の一言を出されてはこっちとしても弱ってしまう。

 ただ、それならそれでこちらも反撃の仕様があるというものだ。

 

「いいのか?正直に言っても」

 

「…な、なによ」

 

「そうか。言って良いんなら…。練習で足の爪が肉に食い込んd「あーーーーー!聞こえない聞こえない聞こえなーーーーーい!!」だから確認しただろ、全く」

 

 両手で耳を塞ぐだけじゃなく両目も閉じて騒ぐ雛を見て苦笑する。

 もう変に絡んで来はしないだろう。手当を再開する。

 

「…大喜ってさ。ミサンガとかつけるタイプだっけ?」

 

 消毒を終えて、絆創膏を巻いている途中、右足に巻かれたミサンガを見たんだろう。雛がそんな事を尋ねてきた。

 

「これは─────」

 

 咄嗟に誤魔化そうと口を開き、止める。

 もう雛は事情を全部知っている。なら、これくらい話したって大丈夫だ。

 それに─────親友にあまり隠し事はしたくないから。

 

「千夏先輩から貰ったんだよ」

 

「え」

 

 俺がそう答えるのを聞くと、雛は一瞬驚き固まってから俺へ疑いの目を向けてくる。

 

「もしかして付き合ってる?隠してる?」

 

「違うって。お互いインターハイを目指す同志としてだよ」

 

「…同志」

 

 疑いはすぐに晴れる。その後はすぐに別れてお互い練習へと戻る。

 絆創膏で巻いて固定したからか、動き回ってもさっきのような痛みはなく、支障がないまま今日の練習は終了。

 次の日には完全とはいかずとも傷は塞がりつつあり、絆創膏を巻き直してから練習へ参加する。

 

「おし。五分休憩な」

 

「はい…、ふぅー」

 

 最近は針生先輩のメニューを熟してもグロッキーとまではいかず、そこそこスタミナがついてきていると手応えがある。とはいっても、針生先輩のように平然と涼しい顔、とまではいかないが。

 まだまだこの人には届かない。試合練習でもまだ一度も勝った事がないし。

 

 …一ゲームはとれるんだけどな。そこから勝ち切れない。勝てない、とは思わない。でも、まだこの人ほどの底力が俺にはないんだ。

 

「─────」

 

 それに、気になるのは俺自身の事()()じゃない。

 今日の練習中─────今もそうだ。雛がまた、ミスをした。

 

 心配そうに顧問や他の部員に声を掛けられ、笑顔で何か返答している雛。

 

「珍しく調子悪そうだな、蝶野さん」

 

「あぁ。本当に珍しい─────」

 

 大会も近いし緊張はあるんだろう。ただ、緊張している姿は何度も見た事あるがあそこまで調子を崩す雛の姿は見た事がなかった。

 

「…あれはめちゃくちゃ調子悪いって!いつもなら観覧料求めてきてるぞ!?」

 

「まぁ…確かに」

 

 さっきも匡との会話中に雛と視線が合った。いつもならそこで「観覧料三千円!」とか言ってきそうなのに今の雛はガン無視だ。

 調子を崩しているのを相当思い詰めているのだろうか。

 

「それかお前に怒ってるかだな」

 

「え」

 

 他人の心配をしてる暇はない。分かっていても、やっぱり友達が調子悪そうにしてるのを見ると心配になってしまう。

 何か声を掛けるべきだろうか、と悩んでいると匡が思わぬ事を言ってくる。

 

 怒ってるって…まだ?雛は許してくれた筈だけど…、もしかしてまだ怒ってるんだろうか?

 

「ジャンプ載せて謝ったんだけどな…」

 

「どんな状況だよ、それ…?」

 

「…分かんないや。俺ちょっとドリンク買ってくる」

 

 結局どれだけ考えてもどうしていいかなんて分からない。第一、俺がしてやれる事があるのかすら疑わしい。

 匡が言ったようにまだ俺に怒ってるのならまだしも、ただ緊張して調子を崩しているのなら雛が一人で乗り越えなくてはならない。…何より本当に後者だとしたら、他人の手を借りる事を誰でもない雛自身が許さないだろう。

 

「最近はどうだい?演技の方は」

 

(…?)

 

 体育館を出て自販機へ向かう途中、自販機がある方からどこか弾む男の声がした。

 壁の影から顔だけ覗き、声がした方の様子へ目を向ける。

 

(教頭先生…と、雛?)

 

 自販機の前に立っていたのは二人、教頭先生と雛だった。盗み聞きは良くないと分かりつつ、でも自販機を使いたいし、でも休憩時間も限られてるし。戻るべきか、残るべきか。

 

「問題ありません」

 

「そうかそうか。いやー、自己管理がしっかり出来ているな」

 

「…」

 

 聞くつもりなんてなかったのに、けれど、どうしても耳を傾けてしまう。

 だが、直後俺は戻るべきだったと後悔する事になる。

 

「さすが、蝶野弘彦選手の娘さんだ!」

 

「─────」

 

 雛は笑顔のままその台詞を聞いていた。

 

「お父様は来校されないのかな?ぜひ今度、ご挨拶をしたいんだが」

 

 何だよ、それ。

 

「話しておきます」

 

「お願いするよ」

 

 雛は雛だろ。お父さんが誰とか関係ない。それを、こいつは─────

 

「っ!」

 

 話し終えた教頭が振り返り、こちらに向かってくる。

 

 今、あいつと顔を合わせたら俺自身、何を言ってしまうか分からない。

 足音を立てず、されど足早にその場を去る。

 

 今すぐ言ってやりたい。雛の努力は誰のものでもない、雛だけのものだと。親が誰だとか関係ない、雛が努力したから結果を勝ち取り続けたのだと。

 雛を取り巻く環境だけを見て、それを見ようともしないのなら教師なんて辞めてしまえ─────。

 

 さっきの会話が頭から離れない。その時の雛の表情が頭から離れない。

 あいつは今、どれだけの重圧と戦っているんだろう。背負わなくて良いものまで背負わされて、無責任な期待を寄せられて、でも外に何も漏らさず笑顔を貼り付けて。

 

「すみません!大丈夫ですか?」

 

 気付けば体育館の前で立ち止まっていた俺は、背後から聞こえてきた声で我に返った。

 

 何事かと振り返って…。

 

「─────」

 

 俯いたまま左の足首を押さえて座り込む雛の姿を見て、頭の中が真っ白になる。

 

 何かを考える前に歩き出す。雛を心配そうに見下ろす男子生徒を押し退けて雛の前まで行き、しゃがみ込んで雛との視線を合わせる。

 

「大喜…?」

 

「左足首だろ。痛むか?」

 

「少しだけ…」

 

「悪い。手どかす」

 

 雛の目は不安に揺れて、縋るように俺を見た。

 俺は左足首を押さえる雛の手をどけてどんな状態なのかを確認する。

 

 特に腫れや変色はなく、見た目は何事もない。ただ時間が経っていきなり、という事もあり得る。

 やはり楽観視するべきじゃない。すぐに保健室へ連れていこう。

 

「立てるか?肩貸すから保健室に行こう」

 

「や…、だ、大丈夫だから!そんな大袈裟な…」

 

「大袈裟なんかじゃないだろ。あぁ匡、丁度いい所に…」

 

「途中からだけど見てた。監督には言っといてやるから、行ってこい」

 

 察しが良い匡に一言助かる、と礼を言ってから無理やりにでも雛に肩を貸して立たせ、ゆっくりと保健室へと向かう。

 

 保健室へ着く間、雛は一言も喋らなかった。足の状態が不安なんだろう。一度、痛むかと尋ねると力なく頷くだけだった。

 

「特に異常ないわね」

 

 まあ、怪我とかしてなかったんですけどね。

 先生から診断を聞かされる雛の顔はポカンとしていた。

 

「青あざ出来てるけど数分で痛みは引くでしょう。靭帯を痛めてる様子もないし」

 

「…」

 

 とにかく何事もなかったようでホッとした。それと同時に、少し肩透かし喰らった感もあって─────

 

「人騒がせ」

 

「っ…!」

 

 一言、このくらいの皮肉は言っても許されるだろ。だってあんな絶望的な顔をして座り込んでたんだぞ?こっちがどれだけ心配したか、こいつは分かってるんだろうか。

 恥ずかしいから言ってはやらないけど。

 

「仕方ないじゃん…。プレッシャーとかで一杯一杯で、夜も眠れなかったりしたんだからねっ」

 

 念のために冷やそうという事になり、先生から氷嚢を受け取りながら雛が俺に言い返してくる。

 

「…プレッシャーね」

 

「何よ。何か言いたい事ある?」

 

「いや。…それは雛が背負う必要があるものなのかなって思って」

 

「え?」

 

 何を言っているのか分からない、と雛が浮かべた表情は語っていた。

 

「教頭も顧問も無責任な事ばかり雛に言ってるよな。そんなの、適当に聞き流しちゃっていいんじゃないか?」

 

「教頭、って…。ま、まさかさっきの話─────」

 

「悪い、聞いてた」

 

 さっきの雛と教頭の会話を盗み聞きした事を謝ってから続ける。

 

「雛は頑張ってる。それは誰のものでもない、雛だけの努力だ。そこで得た結果も、誰のものでもない雛だけのものだ。誰がお父さんとか関係ない。だから、雛は勝てる」

 

「…大喜も、私が結果残して当然みたいな事言うんだ」

 

「?そりゃそうだろ?何度も言うけど雛は頑張ってるじゃん。俺は体操の事あんま分かんないけど、インターハイ出場くらいなら軽いんじゃ?って思うけど…違うのか?」

 

「…当たり前でしょうが!インターハイ出場どんだけ難しいのか、あんたも良く知ってるでしょ!?」

 

「いやそうだけど…。雛が実力発揮できさえすればそれくらい出来て当然なんじゃないかと…」

 

「私を励ましたいの!?それとも私にプレッシャー掛けてんの!?言わせてもらうけど、周りから掛けられるどの期待よりも今の大喜の言葉の方がよっぽどプレッシャー掛かるわよ!!」

 

「え、マジ?俺なりのエールのつもりなのに…」

 

 嘘だろ…。応援していたつもりが、俺は雛に追い打ちをかけていたのか…。

 あぁ、嫌だ。神様、時間を巻き戻してください。もう一度最初からやり直したい。いやでも今すぐ巻き戻されても何を言ったらいいのか分からないからもう少し後で─────あがががががあばばばばば

 

「…このままじゃ、勝てないだろうなって人がいるの」

 

「─────」

 

 どうしようどうしようと頭の中の混乱が極まりそうになったその時、雛が口を開いた。

 

「─────珍しいじゃん。雛が体操で勝てないとかいうの」

 

「…」

 

 一瞬、雛の顔が曇ったように見えたのは気のせいだろうか。雛は笑顔を浮かべて続きを話し出す。

 

「私もこんな風に思うの初めてなんだけど、審査員がその人ばっかり見るのよ」

 

「はぁ?それって演技じゃなくてその人だから得点入るって事かよ」

 

「そう。完全に贔屓目入っちゃってるって感じ」

 

「むかつくな」

 

「ね。むかつくよね」

 

 なんか、むかつく話をしてる割に雛の顔が今にも笑い出しそうなのを堪えてる風に見えるのは、これも気のせいなんだろうか…?

 

「でもね。その人が魅力的なのはすっごく分かるんだよ。圧倒的に華があるのに気取ってなくて、努力も欠かさないんだもん」

 

「だからって審査員が贔屓しちゃ駄目だろ。…なぁ雛。さっきあんな事言ったばかりであれだけど、これこそ父親の力を利用すべきなんじゃないか?」

 

「─────」

 

 その考え方はなかった、と言わんばかりに目を丸くする雛。

 

「体操協会?にお父さんからその審査員について口利きしてもらえば─────」

 

「あー…、ムリムリ。そんな事しても無駄だって」

 

「いや、でも…」

 

「出来ないったら出来ない!はい、この話おしまいっ!」

 

 む…。強引に話を締められて納得は出来ないが、どうも雛がそれを望んでいない様子だし、これ以上言っても無駄だろう。

 いい考えだと思ったんだけどなー。いやでもその審査員のせいで雛が負けたりしたら俺キレちゃいそうだな。

 

「…なら、その審査員が贔屓出来なくなるくらい雛が頑張るしかないな」

 

「へ?」

 

「いや、へ?じゃないだろ。日本一目指すんならその人に勝たなきゃいけないんだから、頑張るのは当然だろ?」

 

 何で雛はまた驚いた顔をしてるんだか。雛はずっと日本一─────それも飛び越えて体操で世界と戦う事も視野に入れて練習をしてるんだ。

 それなら、たかが審判の贔屓くらいで立ち止まってる暇はない筈だ。

 

「応援、してくれるんだ」

 

「はぁ?当たり前だろ」

 

「そっか。…応援してくれるんだ」

 

「?」

 

 応援するに決まってるだろ。何しろ()()なんだから。親友が頑張ってるのを応援しない奴がいるものか。

 

 そんな当たり前の事を言っただけなのに、雛は本当に嬉しそうに、花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

「まっ、応援されなくたって頑張るけどね!」

 

「はいはい」

 

 さっきまでのどこか陰があるものと違い、久しぶりにいつもの雛の笑顔が見れた気がした。

 

「貴方達?騒ぐなら早く練習に戻りなさいよ」

 

 保健室はサボる場所じゃありません、とぼやく先生にお礼を言ってから二人で保健室を出る。

 

「大喜。大喜はさ…、千夏先輩の事、好きじゃないんだよね」

 

「…それもう何度目だよ」

 

「ごめん。でも…、ちゃんと答えてほしい」

 

 保健室を出て体育館に戻る途中、雛がもうこれまでで何度目かの質問をしてくる。

 多少うんざりしつつ雛の方を向くと、雛は真剣な目で真っ直ぐ俺の顔を見ていた。

 

「…好きじゃない」

 

「…そっか」

 

 自分から聞いて来たくせにそっけなく一言だけ返す雛。何なんだ、さっきから。

 

「大喜、頑張れ」

 

「ん?あぁ、ありがとう」

 

「私も頑張るから」

 

「は?…えっと、頑張れ?」

 

 可笑しい。さっきから雛が可笑しい。今も何だか話が噛み合ってない気がする。

 

 それなのに─────

 

「見ててね!」

 

 何でこいつはこんなにもスッキリとした、清々しい顔をするんだろう。

 そんな雛とは対照的に、スッキリとしないモヤモヤした気分を抱きつつ俺は体育館へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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