大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた 作:もう何も辛くない
お久しぶりです。覚えてる人いるかなwww
執筆自体リアルの忙しさで止まってたけど最近落ち着いてきたので、原作読んで一応前からモチベが上がってたのもあったので、こっちの方でとりあえず活動再開したいと思います。
じりじりと照り付ける太陽と、爽やかに晴れ渡る青空。
六月も下旬へと入り、いよいよ本格的に夏へと景色が移り変わるそんな時期。
誰もが心躍らせる、青い空、冷たい海、夜空に広がる花火。
そんな楽しみを連想させる夏の前に─────学生に試練が降りかかる。
─────テストまであと7日
黒板に記された九文字が、忌々しくて仕方がない。もっと言えば、せめてテストという存在が忌々しい。消えてなくなってしまえばいいのに、テストなんて。いらないよ。
「だからコツコツやっとけって普段から言ってたのに」
「あのね、コツコツやるっていうのが一番難しいんだよ。君には一生分からないだろうね…」
「あーはいはい、そうだな。ほら、部活行くぞ」
「流すな!」
「どうすりゃいいんだよ」
適当に俺の恨み節を聞き流した匡は、遂に俺を無視して先に行ってしまった。
俺も慌てて荷物を鞄へ仕舞い、古文の単語帳だけは手元にして匡を追う。
「いとは大変、非常に…。おかしは美しい…。つまり、いとおかしは非常に美しい…」
「どうでもいいけど、ちゃんと前見て歩けよ。怪我するぞ」
「…怪我したらテスト回避できるかな?」
「馬鹿な事言うな。あと、怪我しても待ってるのは追試だぞ」
ちくしょう、分かってるんだよそんな事。
ほんの少しくらい現実逃避させてくれても良いだろ。鬼、悪魔、匡。
「…どこか分からないって言われても教えてやんないからな」
「!?な、何で俺が鬼、悪魔、匡って思った事がバレたんだ!?」
「そんな事思ってたのか。なるほど」
「か、カマかけたのか!?」
あっさりと罠に引っ掛かった自分に悔しさを覚えながら、匡と一緒に部室へと急ぐ。
練習時間はまだ先だが、一年が先に行って練習の準備を始めなきゃいけない。後輩の悲しい運命というやつだ。
校舎を出て、ご機嫌に照り付ける日差しにうんざりしながら部室へと入り、着替えて学校の荷物を置いてから、体育館へと向かう。
「…」
そこにはすでに、先客がいた。
「女バスもう練習してる」
体育館へ来る途中で合流した雛が、すでに練習を始めている女バスの人達を見ながら呟いた。
「もうインターハイまで二か月ないもんね」
「夜も延長して練習してるし」
「…」
雛と匡の話を耳に流しながら、女バス部員達の中心でドリブルをする人─────千夏先輩に目を奪われる。
千夏先輩は一人、二人と躱してゴールから少し離れた所からジャンプシュート。
綺麗な放物線を描いたボールはリングに触れる事もなく、鮮やかにゴールネットを揺らした。
「っ─────」
見事なシュートを祝福するチームメイト達とハイタッチを交わしていた千夏先輩が、ふと俺の方を見た。
彼女と目が合って─────すぐに、俺は目を逸らした。
目を逸らして、足を体育館の中へと踏み入れる。
「俺達も負けてらんないな」
「…大喜」
「今は勉強の事は忘れて、部活に集中しようぜ」
千夏先輩とは、俺が県予選で負けたあの日から、ずっと話をしていない。というより、俺の方から千夏先輩を避けていた。
千夏先輩と顔を合わせたら…、まだ燻り続けている醜い感情が顔を出して、酷い言葉を吐きかける。そんな気がしたから。
「おう、大喜。勉強どーよ」
「べんきょう?知らない単語ですね」
「お前ww」
すでに来ていた同級生と軽口を叩きながら、練習の準備を進める。
ネットを立て、濡れ雑巾を用意し、準備をしている内に先輩達が集まってきて、やがて準備が終わった頃に監督がやって来た。
「と、いう事で…。いつものやつやるぞ。それぞれ目標を書いて壁に貼るように」
栄明学園バドミントン部では、一定の時期に部員達全員で目標を考え、壁に貼るという習慣がある。
そこで考えた目標を、次の目標を決める時期までに達成して、そしてまた新たな目標を決めて、また次の目標を決める時期までに達成して、と、この繰り返しだ。
良いシステムだと思う。こうやって、自分の目標を壁に貼る事で、自分が立てた目標を忘れなく出来るし、その目標を達成する事が出来たら、自分の進歩を実感する事が出来る。
贅沢を言えば、目標を決めるスパンをもう少し早くしても良い気がするが─────まあ、そういうのは人それぞれだし、文句は言うまい。
「おい針生、俺の上に貼るのやめてもらえます?」
「こいつのは天井に吊るそうぜ」
「…」
ふと、そんな会話が聞こえて振り向いたその先で、針生先輩が貼った目標が見えた。
─────IH優勝
それは、今年予選を勝ち抜いた、一握りの選手達のみが書く事を許された目標だった。
「(…あの時勝っていたら、俺も─────)」
針生先輩と同じ目標を書けたんだろうか、と心の中で続けようとして、俺は未練にも似た思いを頭を振って振り消した。
千夏先輩への複雑な思いもそうだが、いつまで俺はあの敗戦に囚われているのだろう。
まだ引退という訳でもないし、遊佐くんとリベンジする機会だってまだあるだろうし、とっとと切り替えて前に進まなきゃいけないというのに。
「…」
未だ針生先輩が─────千夏先輩が羨ましいと思ってしまう俺が、それを成せるのは一体、いつになるのだろう。
センチメンタルから抜け出せないままでも、容赦なくテストの日は近付いてくる。朝から学校、夕方からは部活、そして夜は試験勉強。
毎日欠かさず続けていた筋トレも、時間と回数を減らしながら勉強と両立して気付けば、あっという間に一週間なんて過ぎていた。
…その間、千夏先輩とはまだ一言も交わしてない。
勉強の途中、休憩しようと部屋から出ようとして、外から千夏先輩と家族の誰かが話すのが聞こえて、やっぱり勉強を続ける─────なんて事もあったりして。
「おい大喜。調子悪いのか?」
テストを乗り切ったその日、ちょっとした達成感と共に意気揚々と練習を始めたのは良いのだが、俺は絶不調だった。
いつもなら外さないショットが悉く入らない。というか─────
「そんな事ないつもりですけど…。でもちょっと疲れたんで、休んできます」
「…体調悪いんなら帰って休めよ」
「大丈夫ですって」
いつもドSの針生先輩に心配されてしまった。いやまあ、あの人普段のSっ気が酷いだけで、根っこは面倒見がいい先輩だからな。
だけど、針生先輩には大丈夫だって言ったけど、普通にきつい。
体が思うように動かないし、少しくらくらする。何だったら、練習初めて少しした時から頭痛がし始めた。
「(…帰りたくないな)」
針生先輩の言う通り、帰って休むべきなのは分かる。それでも、帰りたくなかった。
帰って、ベッドに寝て休んで、だけどここ最近はじっとしているとどうしても嫌な事を思い出してしまうから。
学校で授業を聞いている時。友達と喋ってる時。部活や筋トレで体を動かしてる時。家でテスト勉強してる時。
何かに集中している時は大丈夫だけれど、一人でじっとしている時はどうしても駄目だった。
「…戻ろう」
一口、水で喉を潤してから、動く事を嫌がる体に鞭打って練習へと戻る。
結局その日の練習は何も上手くいかなかった。針生先輩だけでなく、他の部員達にも心配される始末で、自分でも続けるべきではなかったなと考えるよりも先に分かった。
だけど、そんな反省の念は浮かんでも、後悔は全く浮かんでこなかった。
ただまあ、テスト終わりを祝した打ち上げについていく気力はなかった。
練習が終わる頃にはもう、帰りたくないという気持ちを打ち消すくらいには症状が酷くなっていて、挨拶もそこそこに、そそくさと部室を出て家路を急ぐ。
「(帰って寝たい…)」
ついさっきまでとは真逆の気持ちだった。
嫌な事を思い出すだろう。それでも、早く体を休めたかった。体が早く休ませろと、煩かった。
「─────」
家に着き、部屋へと入った俺は鞄を床に落とし、着替えもしないままベッドへ倒れ込んだ。
頭が痛い。というか、全身が痛い。体が重いのに、それに反してふわふわとして落ち着かない。
うん、分かっていたけど、完全に風邪だ。熱あるやつだ。それも結構。
「(…ポカリ飲みたい)」
寝る前に何か飲みたかった。けど、階段降りなきゃならないし、何ならベッドから離れたくない。
今、両親は仕事で出てるし、じいちゃんは友人とご飯食べに行くって言っていた。千夏先輩は─────まだ練習している筈だ。つまり、この家には誰もいない。俺に飲み物を持って来てくれる人なんていない。
やっぱり、このまま寝てしまおう。
本当は何か食べた方が良いんだろうし、薬も飲んだ方が良いんだろうけど。早く寝て、意識を飛ばしてしまいたい。
─────それなのに、脳裏に過るあの時の、敗戦の光景がそれの邪魔をする。
あの試合は、今になっても鮮明に思い出せる。
あの時はここ最近では記憶にないくらい調子が良くて、それまでの試合の疲れなんて忘れる程に体がが動いて、俺のバドミントン人生の中で一番いい試合が出来たと自負している。
だけど、負けた。
インターハイには届かず、千夏先輩と交わした約束を破って、挙句インターハイ出場を決めた千夏先輩を祝いもせず、偉そうに妬んだりして─────あぁ、だから嫌だったんだ。
こうやって嫌な事を思い出すから、醜い気持ちが顔を出すから、帰りたくなかった。
こんな時、元気であれば外を走って忘れる事が出来たのに、今はそれが出来ない。
寝たいのに、こういう時に限って眠れないのはよくある事だ。
早く寝よう、寝ようと思う程に眠気は遠ざかり、意識がハッキリとして、そして俺の脳裏にたくさんの記憶が過っていく。
いつものパターンだった。
いつもそうして、やがて同じ事を思ってしまうのだ。
─────約束、破っちゃったな。
「…カッコわる、俺」
「そんな事ないよ」
その呟きは、誰の耳にも届かず、空気に溶けて消えていく筈だった。
すぐ近くから聞こえて来た涼やかな声は、俺の心臓を高鳴らせ、この瞬間だけ激しい頭痛を忘れさせた。
腕を立てて体を起こす。
いきなり起き上がった俺に驚いたのか、いつの間にか傍らにいたその人は、驚いて目を丸くしていた。
「…千夏先輩」
どれだけ深く思考に沈んでいたのか、やっと自覚する。
誰かが部屋に入って来た事にも気付かないなんて、どうかしてる。
「顔、赤い」
「え?いや、これは別に、何でも─────」
ない、と続ける前に、千夏先輩が俺の額に掌を当てた。
ひんやりと冷たく感じるのは、それだけ俺の体温が高いという事なのだろう。
そして、直接俺の肌に触れている千夏先輩にも、それはしっかりと伝わっていく。
「本当に何でもないんです。ちょっと疲れただけで…だかrっ、ゴホゴホッ!」
今まで咳の症状なんて出てなかったのに、強がりたい時にだけ都合悪く顔を出してくる。
急に咳き込んだ俺を心配したのか、千夏先輩が寄り添って来たかと思えば、俺の背中に触れて擦ってくれる。
…その気遣いは正直嬉しかった。だけど、それ以上に、この人の負担になってる今がどうしようもなく不甲斐なかった。
「ごほっ…、や、やめてください。大丈夫ですって、ただの風邪だから。でも移ったら困るから、早く離れて─────」
「病人は静かにしてなさい」
いつもの涼やかな声だった。だけど、その言葉からは有無を言わさぬ迫力が籠っていた。
情けない事だけど、その一言に俺は大人しくさせられてしまう。
「今、体温計持ってくるから。大喜くんはちゃんと布団を着て待ってなさい」
「…はい」
そう言い残すと、千夏先輩は俺の部屋から出て行く。
閉じた扉の向こうから、パタパタと千夏先輩の足音が遠ざかっていった。
「…俺って奴は」
さっきまではあんなに会いたくないって思っていたのに。いざこうして実際に顔を合わせて、言葉を交わして、実際はただ叱られただけなんだけど─────それなのに、さっきまでの心情とは矛盾した、嬉しいという気持ちが胸に滲み出していた。
意味が分からない、という戸惑いと情けなさも一緒に籠もった呟きは、今度こそ誰にも聞かれず、溶けて消えていくのだった。