大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた 作:もう何も辛くない
仕事帰り、アニメアオのハコのOPを初視聴しました。
原作の理解度がえぐすぎて…何かもう堪らなくなって、三時間くらいで書き上がっちゃいました。
我ながら凄い(自画自賛)
…ていうか一年ぶりかぁ。マジかぁ。
アニメ効果でモチベーション上がってるし、こっちも投稿していきたいなと思ってます。
だがそれよりも、この作品を覚えてる人、続いた事に気付いてる人がいるかだがな(笑)
一階から千夏先輩が持って来た体温計で計ってみれば、38.2℃─────ただの微熱だったと誤魔化そうとしてみたけれど、あっさりと先輩にバレてしまい、今俺は冷えピタをおでこに貼り付けてベッドに横になっていた。
丁寧に掛けられた布団に大人しく包まって、何か食べるものを準備してくると言い残して部屋を出て行った千夏先輩を待つ。
…落ち着かない。寝ようと思っても寝られない。
身体は休息を求めている筈なのに、またここへ戻って来るであろう千夏先輩が待ち遠しくて仕方ない─────なんて。
俺は一体何を思っているんだろう?俺がこんな風邪なんて引いて、千夏先輩にいらない手間を掛けさせてるっていうのに。
…千夏先輩が俺を心配してくれているのが、嬉しいなんて。
悶々としながら待っていると、部屋がノックされる。「はい」と返事をすればドアが開かれ、湯気を立てる丼を乗せたお盆を持って、千夏先輩が部屋の中へと戻って来た。
「うどんがあったから、とりあえず何か胃に入れよ?」
こちらに歩いてきながらそう言う千夏先輩。
倦怠感が強い身体をゆっくりと起こして見れば、丼の中にはシンプルなかけうどんが。
別に何の特徴もない、薬味が載っただけのうどん。
なのにどうして、こんなにも美味しそうに見えるのだろう─────?
「ありがとうございます…。いただきます」
千夏先輩へお礼、そして手を合わせて挨拶をしてから、うどんに息を吹きかけて冷ましてから一本、口に含む。
…鼻が詰まって味がよく分からない。
仕方のない事だけど、無性に泣きたくなってきた。
「他にも欲しいものがあったら言ってね」
「はい」
ベッドの下に座りながら、千夏先輩がそう言ってくれる。
うどんと一緒に持って来た、市販の風邪薬を箱から出す千夏先輩の横顔を、うどんを食べる手を止めて無意識に眺めてしまう。
「ん?」
「─────いや、なんでもないです」
俺が見ている事に気付き、笑顔で千夏先輩が振り返って、それで俺は手が止まっていた事を自覚する。
不躾に横顔を見てしまった事に罪悪感を覚えながら、味を感じない、だけど温かいうどんを食す。
結構熱は高いし、身体も怠いけど、どうも食欲はあるらしい。食が進む。さっきまで、倦怠感に負けて何をする気力も湧いてこなかったのに。
…この人が居るだけで、少しだけでも元気が出てくるのが不思議だ。
「あの…ホント、もう大丈夫なので部屋戻って貰っていいですよ」
だけど、厚意に甘える時間はもう終わりだ。こうして気に掛けて、看病して貰えるのは嬉しいけど、俺の風邪が移ったら大変だ。
インターハイ前の大事な時期に、俺の所為で千夏先輩の貴重な時間を奪いたくない。
「大喜くんが寝るまでいるよ。体調悪化するかもしれないし」
そう思っているのに、この人はあっさりと優しく俺の気遣いを無為にしてくれる。
その優しさが眩しくて、何か形容し難い感情に駆られながら、つい目を細めてしまう。
「でも、眠くないですし…」
「じゃあ少しお話しようよ。ほら、大会とかテストで最近話せてなかったし」
「…」
話─────?急に言われても、そんなポンポン話題が出せる程、俺のコミュニケーション能力は高くない。
高くはない、けど─────ずっと、千夏先輩に
「…千夏先輩。約束破って、すみませんでした」
千夏先輩が目を見開きながら振り返る。
真っ直ぐこちらを見てくるその視線に耐え切れず、思わず千夏先輩から視線を切ってしまう。
「一緒にインターハイに行くって約束したのに…。緊張してた俺を先輩が慰めてくれたのに、それに対して偉そうな事を宣ったり…、それなのに俺─────負けちゃいました」
止めろ─────流れるな。
言いながら、目から零れ落ちそうになる雫を死に物狂いで押さえ込む。
この人の前でだけは─────絶対に嫌だ。
強がりたい。せめて、この人の前では。
「大喜くん」
「ダサいですよね、俺…。千夏先輩、俺と話さなかったのを大会とテストが理由て思ってるみたいですけど、実は違うんですよ。俺、インターハイに出られる千夏先輩に嫉妬してたんです。嫉妬して…こんな醜い感情を持ってるのを、先輩に気付かれたくなくて─────だから、避けてたんです。先輩を」
「大喜くん」
「でも、もう大丈夫です。切り替えますから。だから、千夏先輩は病人の事は放って置いて、自分の為に─────」
「もういいよ」
ベッドがギシリ、と音を立てながら揺れる。
視線を上げれば、千夏先輩が俺の隣に腰掛けながら、じっとこちらを覗き込んでいた。
「せんぱ─────」
「もう泣いていいよ。大喜くん」
「─────なにを」
「ダサいなんて思わないよ。格好悪いとも思わないよ。だからせめて、私の前でくらい泣いていいよ」
言葉を失う俺に、千夏先輩が真っ直ぐ微笑みかける。
「大喜くん、前に言ってくれたよね。『
その台詞は前に水族館に行った時、俺が千夏先輩へ言ったものだった。
「だから、吐き出しちゃお。吐き出して、スッキリして、また明日から一緒に歩き出そう」
どうして─────どうしてこの人は、今の俺が一番言ってほしい事を、そんな風に簡単に言ってのけてしまうんだろう。
ほら、そんな事をしてくれちゃったらさぁ─────もう、ダメだ。
「…頑張りました。自分の力を全部出し切ったって、胸を張って言えます」
「うん。プレッシャーの中でそれが出来るのは、凄い事だよ」
「でも負けました。全部出し切って、それでも届きませんでした。完敗でした」
「そっか。でも、これで全部終わりって訳じゃないよ」
「はい。だけど…、勝ちたかったです。勝って、もっと勝って、それで行きたかったんです。絶対…今年に、先輩とインターハイに…、行きたかったんです」
「…うん」
「色んな人に支えられて、家族にも、先輩にも応援されて…勝ちたかった、です…!」
「…」
堪え切れず、嗚咽が漏れる。遂に我慢を越えた涙が、目から流れ落ちていく。
千夏先輩は何も言わない。黙ったまま、俺の傍に寄り添い続けてくれた。
不意に、震える俺の背中に優しく、温かい感触が触れた。
その感触が何なのかなんて考えるまでもなく─────今の俺はただただ、その感触に心を救われながら、涙を流し続けるだけしか出来ないでいた。
「ごちそうさまでした。うどん、美味しかったです」
「お粗末様でした」
どれくらい泣き続けただろう。体感五分くらい?な、気がするけど実はもっと長いかもしれない。
一頻り泣き終えた俺は、その後すっかり温くなってしまったうどんを完食した。
空になった丼を千夏先輩が受け取って、テーブルへ載せると、予め準備してくれていた飲み水と風邪薬を手渡してくれた。
千夏先輩の手からコップと錠剤二錠を受け取り、すぐに薬を喉に通す。
─────はずい。はずすぎる!
冷水が喉を通り過ぎていく感覚を味わいながら、先程までの時間を思い出す。
男泣きする俺の背中を、千夏先輩は黙って擦り続けてくれた。慰めてくれるのは嬉しいけど、それにしたって恥ずかしすぎる。
─────同居してるんだし、ある程度は仕方のない事かもしれないけど、俺、この人に恥ずかしい姿ばかり見られてる気がする。どうせなら、もう少し格好いい所を見せたいんだけど…。
「大喜くん。私、頑張るから」
「え?」
不意に千夏先輩が言い、思わず声が漏れる。
「大喜くんが私にたくさん力をくれて…そのお陰で、私はインターハイに出られるんだって思ってるから。だから、これからも私に、たくさん力を貸してほしい」
「…俺は何もしてませんよ」
「うぅん、そんな事ない。大喜くんは偉そうな事って卑下してたけど、私にとってはそうじゃないの。とっても励みになって、とっても力になったから。だから─────」
一拍置いて、千夏先輩は続ける。
「私と一緒に、戦ってほしいな」
一緒に、戦う─────いいんだろうか?俺なんかが、この人の近くに居て。
情けなくて、恰好悪くて、すぐ泣いて─────そんな俺が、千夏先輩に求められている。
「…一緒に戦うなんて畏れ多い。俺に出来る事なんて、応援くらいですよ」
「そんな畏まらないでよ。それに、私にとって大喜くんの応援が一番力をくれるんだから」
「お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないよっ」
分かってる。千夏先輩はただ純粋に、俺に応援してほしいって思ってるだけだって。
だけどさ、こんなのさ、普通に心臓に悪いでしょ。
同じ屋根の下でこうして顔を合わせて、悔しさと情けなさに震える俺を慰めて、そんな俺の気持ちを背負って戦ってくれるって言ってくれて─────他人の気持ちを察して、背負って、優しくしてくれる人。
それが、鹿野千夏なんだ。だから俺は──────
─────あぁ、そうか。だから、俺は…
「重荷になるなら捨ててくれて構いませんから」
「大喜くん…。私も、怒る時は怒るんだよ?」
「卑下しすぎてすいません」
頬を膨らませる千夏先輩へ素直に謝る。千夏先輩は少しの間俺を睨んでから、やがて息を吐いてから一言、「許しましょう」と口にしてから微笑む。
「それじゃ、片付けてくるね」
お盆に空になった丼、コップ、下から持って来た体温計やら諸々を持って立ち上がろうとする。
それを見て俺は、布団から身体を出してベッドから降りる。
「それくらい俺がやりますよ」
何というか、今日は千夏先輩に色々な事をされっぱなしだ。せめて後片付けくらいしないと、気が済まない。
「いいから寝てて」
「でもっ」
千夏先輩は優しいから、病人の俺を諭そうとする。
だけど、さっきよりも怠さはないし、後片付けくらい出来る─────そんな風に高を括っていた俺は、すっかり忘れていた。
食べ物を中に入れても、その後に風邪薬を飲んでも、
「っ…」
「大喜くんっ」
一瞬、意識が遠くなる。ふらっ、とバランスが崩れ、身体が倒れていく。
幸いは、倒れた先にあったのがベッドだった事だろうか。だけど、目の前で人が倒れるという事態に、当然優しい千夏先輩は慌てる。
咄嗟に俺の背中の後ろに腕を差し入れて、俺の身体を支えようとしてくれる。
千夏先輩の腕が俺の背中を抱える─────それでも、咄嗟の事に千夏先輩の体勢は万全ではなく、その状態で俺の体重を支える事までは出来なかった。
俺と一緒に千夏先輩もバランスを崩す。そして、俺と先輩は一緒にベッドへと倒れ込んだ。
背中にベッドマットの柔らかい感触と、間に挟まった千夏先輩の腕の硬い感触。
胸に感じる重み─────すぐ目の前には、改めて見ても整いすぎているとしか思えない千夏先輩の顔があった。
見開いた目が、視線が交わる。
すぐどければいいのだけれど、強引に抜け出してしまえば千夏先輩の身体がどこかへ投げ出されてしまう。
「すみ、ません…。ふらついてしまって…」
だから、俺は千夏先輩からどいてくれるのを待つしかないのだけど─────何故だか、千夏先輩がなかなか離れない。
それどころか、左手がゆっくりとこちらへ伸びてきて、そして俺の頬に触れる。
軽い重みと、シャンプーの匂いと、服越しに感じる千夏先輩の体温と、肌に触れる手の感触。
心臓が高鳴り過ぎて可笑しくなりそうになる。
「冷えピタ剥がれてる」
不意に、俺の頬に触れていた手が上へと移動し、さっきの衝撃で剥がれた冷えピタを貼り直した。
直後、千夏先輩は身体を起こして俺から離れ、ベッドから立ち上がりながら言う。
「そのまま寝てなさい」
微笑んでそう言い残してから、千夏先輩はそのまま部屋を出て行く。
閉まるドアの音を最後に、静寂が包む。
微かにドアの向こうから、千夏先輩が階段を降りていく足音がするけど、それ以上に─────今のは何だ?
何が起こった?俺が倒れたのはまだいい。倒れたのはベッドの上で、痛い所も特にないし無問題だ。
問題はその後────俺を支えようとした千夏先輩が一緒に倒れて、しかもその倒れた先が俺の上で、それで何か知らないけど俺の顔に触れてきて─────
うん、要するに何が言いたいのかというとだ。
こんなの、眠れる訳ないだろ!千夏先輩の鬼ぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!
因みに夜、殆ど眠れなかったけど翌朝には熱は下がってました。
千夏先輩の看病のお陰だね。もう出掛けててお礼は言えなかったけど…。