大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた   作:もう何も辛くない

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アニハコ一話、良かった。
作画えぐい。声優の演技もえぐい。視聴前の期待値を簡単に超えていった。
二クールかぁ…。しばらく楽しみが続くなぁ。


距離

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香ばしい肉の焼ける匂いが鼻腔を擽ると同時に空腹を誘う。

 

 現在、我が猪股家の庭では今年初めてのバーベキューパーティーが開かれていた。

 

 母さんがバーベキュー奉行で、年に四、五回はこうしてバーベキューをするのが通例だ。

 今年は俺と千夏先輩のインターハイ予選もあったし、少し遅めのバーベキュー開きだけど、やっぱり美味い。

 

「もう体調は大丈夫なの?」

 

「はい。熱は下がってるし、今日だって本当は学校に行こうと思ってたんですけど、母さんに止められて」

 

 肉の味を堪能しながら、隣り合う千夏先輩と談笑する。

 

「バドと女バスの合同でプール掃除ですか…。行けばよかったかな」

 

「馬鹿なこと言ってないの!アンタ、朝は本当に酷い顔色してたんだから!」

 

「…」

 

 肉が焼ける音で掻き消されると思いきや、俺の呟きは母さんの耳までしっかり届いていた。

 

 さっきも言ったけど、今日の朝には熱は下がっていて実に健康体だった。

 だけどまあ…、あれだ。昨日の千夏先輩との一件のお陰で寝付けず、今日の朝の俺の顔はそれは酷かったらしい。

 

 体温計を見せて熱はない事は示したけど、念のためと心配した母さんからストップがかかり、大事を取って今日の部活は休む事にした。

 でも…プール掃除か。しかも女バスと合同…楽しそうだな。母さんを振り切って行くのもありだったかもしれない。

 

「……………」

 

「何も考えてないから。だから母さん、睨むの止めて」

 

 母さんは読心術でも会得しているのか。肉を焼く手を止めないまま、じとーっと俺を睨んでくる。

 ソッポを向いて新しい肉を口に含む。…味が、味が分からない。母さんからの圧が凄すぎて味を感じない。

 

「はむ…、─────っ」

 

 隣の千夏先輩も肉の味を満喫している。

 柔らかく、噛むほど肉汁がじわぁーっと広がっていく。

 …やっぱりバーベキューは最高だな。今度、母さんから美味い肉の焼き方を教えて貰おうかな。スパルタそうだけど。

 

「お父さん!野菜追加ね!」

 

「はいはーい」

 

 皿の上の野菜が少なくなった事に気付いた母さんが、父さんへと言う。

 

 肉を焼く係が母さんなら、父さんは追加の食材の運搬係といった所か。

 部屋へと戻っていった父さんが野菜の準備を始める。

 

「…」

 

 それを見ていた千夏先輩は、咀嚼していた肉を飲み込むと、空になった皿をテーブルの上に置いて父さんを追う。

 

 父さんの手伝いをしに行ったんだろうか?…俺も手伝うべきかな?

 

「大喜!ほら、野菜も食べなさい!」

 

「あ」

 

 俺も部屋に戻ろうとしたけどその前に母さんが更に焼き目がついた玉ねぎ、ピーマンをじゃんじゃん載せていく。

 気付けば皿に載せられた野菜が山を形成していた…。

 

「…」

 

 無言で野菜を食す。

 部屋の中からは、千夏先輩と父さんが何か話している声がするが、内容までは聞き取れない。

 

 …何を聞き耳立ててるんだ俺は。盗み聞きなんて趣味が悪い。

 

 そう思って、部屋の中から意識を外して、口の中の野菜の甘味に集中する。

 

「大喜ー。そろそろ焼きそばの準備始めるから、お父さんに言ってきてー」

 

「ん…。分かった、待ってて」

 

 母さんから貰った大量の野菜、最後のピーマン一切れを咀嚼していた時に母さんが言う。

 口の中のピーマンを飲み込んでから返事をして、空の皿をテーブルに置いて俺も家へ入る。

 

「父さん」

 

 台所で千夏先輩と父さんは外へ持って行く野菜の準備をしていた。

 何を話していたんだろう、二人は笑顔で、何やら楽しそうで─────やっぱり聞き耳立てれば良かった。気になる。

 

「母さんが焼きそばの麺持って来てって」

 

「はいはい」

 

 卑しい疑問を胸の奥底に封じて、母さんからの伝言を父さんへ伝える。

 

 父さんは一旦包丁を置いて、冷蔵庫の中を物色する。

 麺を渡されるのを黙って待って、それから十数秒後。

 

「あれ?ナイ…」

 

「え゛」

 

 口から凄い声が漏れた。

 

「ど、どうすんだよ…!?買い出しは父さんの役目だったのに…!」

 

「買ったと思ったんだが…。まずい、バレたら一ヶ月玄米にされる…!」

 

 普段から厳しめの母さんだけど、バーベキューが絡むと更に過熱する。

 以前一度、父さんが買い出しを一部忘れるという事が起こり、母さんが激怒。それから一ヶ月、父さんだけ主食が玄米になるという件があった。

 

 俺とじいちゃんには火の粉は掛からなかったし、今回も恐らくそうなる。千夏先輩もいるしそこは大丈夫とは思うけど、父さんはダメかもしれない…。

 

「私、買ってきますよ。丁度買いたいものあったし」

 

 どうすべきか、正直に謝るべきかと頭を悩ませていると、千夏先輩が手を上げた。

 

「え、あぁ…。じゃあ、お願いしようかな。お金渡すね」

 

「はい」

 

 父さんが振り向き、笑顔でその言葉に甘えていた。

 千夏先輩も笑顔で頷いて─────何か、仲良くなってる?さっき封印した筈の疑問が、むくむくとまた顔を出す。

 

 本当に何の話をしていたんだろう…?」

 

「大喜。千夏ちゃんについていってあげなさい」

 

「…はい?」

 

「夜道を女の子一人で歩かせる訳にはいかないだろ」

 

「いや…、それはそうだけど…」

 

 父さんの言う事は至極正しい。ただ…、脳裏に昨日の一件が─────至近距離まで近付いた千夏先輩の顔が過る。頬に触れた、千夏先輩の指の感触が蘇る。

 

 今、千夏先輩とどんな距離感で話して良いのかが分からない─────。

 

「大喜くん、行こっか」

 

 何て答えればいいのか、何をすればいいのか、正解が分からず迷う俺の意識を引っ張り上げる声がした。

 

 父さんから財布を受け取って、こちらを促す千夏先輩は、俺へ向けて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が長くなった夏の時期とはいえ、辺りはすっかり暗くなっていた。

 父さんに頼まれた焼きそばの麺と母さんへのお詫びを含めた、千夏先輩と猪股家全員分のアイス。

 それらを買い終えた俺達はスーパーから出て、街灯に照らされた道を歩く。

 

 やっと折り返し地点─────行きは、今日学校で何があったのか等、当たり障りのない会話で乗り越えたけど、正直もう話題がない。

 かといって、家に着くまで沈黙を長続きさせる訳にもいかず、どうすればいいのかと途方に暮れる。

 

 …やっぱり、あの時の事を謝るべきだろうか。無理せず素直に、片付けを千夏先輩に任せておけば起きなかった事故だし、責任は主に俺にある─────そう思った時だった。

 

「やっぱり、今アイス食べるのは駄目だよね」

 

「はい?」

 

 思わず呆けた声が漏れる。

 

 さっきから歩きながらじっ、と虚空を見つめていると思ってたけど、もしかして…?

 

「食べたいけど、焼きそばの事を思うと…。皆の分もあるし、皆で食べた方がいいよね」

 

 アイスを食べたい衝動に駆られていた…?

 

 真剣な顔で子供っぽい事を考えていた千夏先輩を見ながら、小さく笑みが零れる。

 この人はたまにこういう事があるよな。それもまた、この人の魅力の一つなんだろうけど。

 

「どうぞ」

 

「え?」

 

「うちではバーベキューの時、好きなものを自由に食べるのがルールなので」

 

 袋の中から千夏先輩が選んだアイスを取り出し、差し出す。

 

 俺の顔とアイスを交互に見遣ってから、やがて千夏先輩は微笑みながら俺からアイスを受け取る。

 

「素晴らしいルールだね」

 

「母さんの方針です」

 

 千夏先輩と言い合いながら、俺も袋の中から俺が選んだアイスを取り出し、一緒に包装を開ける。

 

「大喜くんって、お母さん似だよね。どちらかというと」

 

「…」

 

「微妙な顔になった」

 

 アイスを一口齧ろうとした時、言われた千夏先輩の言葉に思わず眉間に皴が寄る。

 それに対して、千夏先輩は苦笑いを浮かべた。

 

「母親に似てるって言われるの、何となく嫌な気がしました。そんなに似てますか?」

 

「うん。明るくてパワフルで、真っ直ぐな所とかそっくりだと思うけど」

 

「…」

 

 そんな風に思われてたのか。屈託なく掛けられる誉め言葉に照れ臭くなりながら、俺の方からも千夏先輩に言い返す事にする。

 

「千夏先輩はお父さん似っぽいですよね」

 

 外見はお母さん譲りの共通点がたくさん見受けられたけど、性格の方はちょっとずれを覚える。千夏先輩のお母さんは何というか、ホクホクしていた。

 

「んー、どうだろう。お父さん、何考えてるか分からない人だからなぁ」

 

「…」

 

 アイスを齧りながら言う千夏先輩。それを聞いて、思う。

 

 やっぱりお父さん似なんだ、この人…と。

 千夏先輩も何を考えてるか分からなくなる時あるもんな。さっきのアイスの下りとか…。

 

「大喜くんの家にお世話になりたいって相談した時も、絶対反対されると思ってたのに『そうか』しか言わなくて。事前にお母さんが話してたからだと思うんだけど、あまりに何も言われなかったから、あの時はびっくりしちゃった」

 

 その時のお父さんの顔を思い出しているのだろうか。どこか懐かしむ顔をしながら話す千夏先輩は、微笑を溢しながら続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言われたんだと解釈したけど、口下手なんだよね」

 

「…いいお父さんですね」

 

 千夏先輩の話を聞いていて、素直に思った事を口にする。

 

 すると千夏先輩は少し驚いた様に目を丸くしてから、嬉しそうに笑って頷く。

 

「でもそれを言うなら、大喜くんのお父さんもそうだよ。さっきね─────」

 

「─────危ないっ!」

 

 千夏先輩が何かを言おうとして、その直後に背後から車の走る音が聞こえた。

 かなりスピードを出しているが、千夏先輩に気付いた様子はない─────車道側を歩いていた千夏先輩の腕を掴んでこちらに引き寄せた。

 

「「─────」」

 

 引き寄せられた千夏先輩の身体が、俺の身体に触れる。

 

 トン、と肩が触れ合い、互いの顔がすぐ触れそうな所まで接近する。

 

 視線が交わる。脳裏に過る、昨日の光景。

 

「すみません!」

 

 咄嗟に千夏先輩から腕をどけて離れる。

 

 車はあっという間に前へと走り去っていく。こんな住宅街でどんだけスピード出してるんだ…、少し苛立ちも覚えながら、俺はさりげなく千夏先輩と左右の位置を交換しながら止めていた足を踏み出す。

 

「大喜くん」

 

 背後から呼び止められた。振り返ると、千夏先輩は真剣な表情でこちらを真っ直ぐ見つめていた。

 

「この前の事なんだけど…、大喜くんが熱を出した日の事。あのね…」

 

 意識して避けていた話題を千夏先輩の方から出してくるなんて思っていなくて。

 どきりと高鳴った心臓の鼓動、熱くなりかける頬の温度を必死に抑えながら、千夏先輩の口から語られる続きに耳を傾ける。

 

「…」

 

「…」

 

「…あの?」

 

「っ…」

 

 何故か一向に、千夏先輩の口から続きが語られない。

 長引く沈黙に耐えられなくなり、つい俺の方から続きを促してしまった。

 

 息を呑む千夏先輩。その頬は、微かに紅潮している様に見えた。

 

「ご、ごめんね?私が大喜くんを支えられなかったから、あんな事になって…それを謝りたかったの」

 

「─────」

 

 真剣な顔をしているから何を言われるかと思っていたら…、そんな事だったのかとついつい拍子抜けしてしまう。

 というより、あの時の事をそんな風に気にしていたなんて─────むしろあの時の過失は俺の方が多いっていうのに。

 

「それを言うなら俺こそごめんなさい。千夏先輩に片づけを任せて大人しく寝てたら、あんな事にはならなかったのに」

 

「うぅん。大喜くんは私を気遣ってくれただけだから、何も悪くないよ。でも─────「あー、先輩。これ以上は不毛ですし、ここら辺で止めておきましょう。お互い悪かった…それでもうこの話は終わり、それでいいですよね?」…うん、そうだね」

 

 放って置いたら無限に謝り合うという不毛な事になりそうだったから、無礼とは思いつつ千夏先輩の言葉を遮らせてもらった。

 俺の提案を千夏先輩は飲み、これ以上はこの件には触れない事にする。

 

 多分、俺はこれからも何度かあの時の光景が過り続けるんだろうけど─────忘れよう。あれはただの事故で、俺にも、勿論千夏先輩にも、()()()()つもりはなかったのだから。

 

 それでも、忘れるまで時間が掛かる事くらいは許してほしい。

 

 だって、()()()()()()()()相手の顔が、あんな近くまで接近したんだぞ?

 その衝撃は俺にだって計り知れなかった。だから、忘れるまで時間が掛かったって仕方のない事だろ?

 

「千夏先輩?行きましょう」

 

「…うん」

 

 改めて帰路に着く俺は、歩き出して少ししてから千夏先輩が来ない事に気付いて振り返る。

 

 さっきまでと同じ場所に立ち尽くしていた千夏先輩に声を掛ける。ハッ、と顔を上げた千夏先輩は頷いてから早足で俺の隣まで戻って来た。

 

「また考え事ですか?」

 

「んー…。まあ、そんな感じかな」

 

「因みに、何を考えていたか聞いてもいいですか?」

 

「それはダメ」

 

 それから家に着くまで、アイスを食べながら他愛のない話は尽きなかった。

 

 家に着いてからはバーベキューを再開。肉も野菜も全部食べ切って、焼きそばの麺も勿論なくなって、最後はマシュマロを焼いて食べた。

 

 なお、千夏先輩はマシュマロを焼くのを失敗した。

 真っ黒に焦がしたマシュマロを、目尻に涙を溜めながら呆然と見つめながら「マシュ…マシュ…」と呟いていたのが、先輩には申し訳ないけど可愛いと思ってしまった俺には悪くない。

 

 勿論、マシュマロは俺のと交換した。千夏先輩が焼いたマシュマロは苦かったけど、好きな人から貰ったものだと思うと、ほんの少し甘く感じた、とだけ記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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