大喜君がバドミントンに本気になるのを早くしてみた   作:もう何も辛くない

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先週と今週のジャンプ、千夏先輩可愛すぎた。やばひ。


同志

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ」

 

 大きく、細かく呼吸をしながらネット際に落とされたシャトルをギリギリの所で拾う。

 そこで動きを止めず、思考を止めず、スペースを開かないようコートの中央に戻りながら同時に相手の動きを視界に捉える。

 

 高く上がったシャトルを見上げながら、スマッシュを打とうとラケットを振り被るその動きを眺めるのではなく注視する。

 体の向き、ラケットの角度、視線、全てを見据えて相手がどこへ打つのかを予測する。

 

 ─────右っ!

 

 コースを予測したのと同時、そのタイミングは相手がラケットを振り下ろす直前、床から両足を離し、左足から着地する。

 

 このゲーム練習で何度も試してきたステップ。一ゲーム目は酷いもので、タイミングが合わずこのステップを取り入れようと考える前ならば取れていた打球も多々あった。

 しかし─────この試合で初めてかもしれない、完璧なタイミングで成功したステップは、俺の守備範囲を飛躍的に広げる。

 

「っ!?」

 

 届く、だけじゃない。

 余裕を持って追いつけた結果、ただスマッシュを拾うのではなくドロップとして相手にとって思いも寄らぬ反撃を喰らわせた。

 

 ドロップは拾われる。が、ただ羽根が返ってくるだけの俺にとってはチャンスボール。

 

 大きく開いたオープンスペース。小細工も何もない。試合は二ゲーム目の終盤、このゲームを落とせば俺の負け。

 望みを繋げるべく、ただ全力で打ち抜く。

 

「─────しっ!」

 

 全力で打ち下ろしたスマッシュはノータッチで床へと突き刺さり、俺の得点となる。

 

 この試合で初めてと言っていい、今の俺にとって理想的な点の取り方が出来た事で思わず大きくガッツポーズ。

 

 だが、すぐに気を取り直す。たった一度の成功で浮かれてはいられない。それに、まだ試合は終わっていない。

 実験の要素が強いこの試合だが、だからといって負けるつもりもない。

 ゲームポイント11-18。点差は開いているが、まだ逆転の余地はある。

 

 コートの向こうから飛んできたシャトルを受け取ってから、相手のコートにサーブを打ち込むべく構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスゲーム」

 

「どこが」

 

 まあ、負けたんですけどね。一ゲーム目は13-21、二ゲーム目は18-21。見ての通り一ゲーム目はボロボロ、二ゲーム目は途中ステップのタイミングを掴んでから粘ったけど結局振り切られた。

 一点差まで来た時は追いつけると思ったんだけどなー…。流石針生先輩、勢いで勝てるほど甘くはなかった…。

 

 ただ、手応えはあった。次こそは、針生先輩から一ゲームを─────いや、次は勝ってみせる。

 

「…」

 

「…なに?」

 

「いや。怖いなって思って」

 

「は?なんだよ急に」

 

 匡に褒められたと思ったらいきなり掌を返された。いや、本当にいきなりどうした。割とマジで怖がってるように見える。表情はほとんど変わってないけど、付き合い長いから何となく分かる。

 だが何で怖がられてるのかさっぱり分からず問い掛けてみるが、ふと次の瞬間には匡の顔から怯えは消え、俺の質問も無視されてしまう。

 

 まあ大した理由でもないんだろう。そこまで気にならないし、無視されたまま疑問は流しておく。

 

「で?」

 

「?なに?」

 

「千夏先輩との同居はどうなんd「お前こんな所で何て話をしだすんだ…っ!」」

 

 とんでもない事をこの場所で口走ろうとした匡の口を慌てて手で覆って塞ぐ。

 口を塞がれた匡は表情を変えず、されどどこか俺を咎めるように横目で見てくる。

 

「…危機感はしっかり持ってるみたいだな」

 

 匡は俺の手をどかしてから溜め息を吐き、そう言った。

 

「そりゃな。同じ学校の女子と同居なんて…それもその相手が千夏先輩だって知られたら─────」

 

「袋叩きに遭うだろうな。間違いなく」

 

「…」

 

 匡が口にした情け容赦ない現実に震えながら、バド部が練習しているスペースの隣、網の仕切りの向こうで女バスが練習している方を見る。

 正確には、女バスが練習している所を…もっと正確に言えば練習している千夏先輩を見ている周囲の男子生徒達を見る。

 

 千夏先輩が家に住む事になったという衝撃の報告から二か月。つい昨日だ、千夏先輩が家に来たのは。

 昨日は千夏先輩が来たという事で家族は大騒ぎ。母さんは千夏先輩を本当の娘のように可愛がるし、父さんはそんな二人を微笑ましそうに見てるし、じいちゃんなんか千夏先輩に別れたばあちゃんの面影を重ねてた。

 

 俺は…正直、千夏先輩が家にいる事が衝撃的過ぎたというか…。

 だって、千夏先輩が家の階段を上るんだぞ?母さんと台所に立ってるんだぞ?お寿司食べてるんだぞ?

 それに家のお風呂に入るし、お風呂から上がったら湯上りのパジャマ姿で俺を呼びに来るし─────心臓に悪い一日だった。慣れるには相当の時間を要する事になりそうだ。

 

 そして、その事を今、千夏先輩を見つめているファンの男達に知られれば─────例えば男バスの人達からは「バスケしようぜ!お前ボールな!」とか言われるだろうし、バド部の先輩からは「バドやろうぜ!お前羽根な!」とか言われるだろうし。

 

 …うん、やっぱ絶対にバレちゃ駄目だな。匡には口の堅さを信頼して、もし何かあったら相談に乗ってほしいというちょっとした裏心もあって話したけど、他の人には絶対に知られちゃいけない。

 

「…匡。試合やろう」

 

「いきなり何だよ。…まあいいけど」

 

 まあ、今は同居の事は置いておこう。というか考えたって仕方ない。これについては俺がすべき事はもうハッキリしているのだから。

 同居の事を知られてはいけない。それと千夏先輩が家の中にいる事を考慮し、ちょっとした行動を変える。

 たとえば風呂に入ろうと思った時、風呂場に入る前に扉をノックするとか。同年代の女の子と一緒に暮らすのだから、こういった心掛けは必要だろう。

 

 と、こういった感じで俺がすべき事はハッキリしてるのだから考えてたって仕方ない。それよりも今はバドに集中しなければ。

 針生先輩との試合で新しく取り入れたいステップの手応えは掴めた。それならどんどん実戦形式で試していかなければ。

 

 という事で匡とゲーム練習をする。さぁ、せめてさっきの試合よりはタイミングよく成功を収めるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 そんな、張り切ってゲーム練習に入る大喜を見る…というより睨むといった方が近い視線を向ける者がいた。

 飽くまで近い、であり、決して睨んでいる訳ではないのだが、それでも複雑な目で匡と試合を始めた大喜をその人は見ていた。

 

「何見てんだよ、針生。…大喜か?」

 

「…まあ、そうだ」

 

 大喜を見ていた者、大喜の一個上の先輩であり、先程のゲーム練習で大喜に勝った針生は話し掛けてきた同級生の方に一度視線を向けてからすぐに視線を戻す。

 

「いや~、お前もよく大喜に勝てるよな。さっきもボコってたし。俺、あいつが練習に参加するようになってからまだ一度も勝ててないんだよな…」

 

「…ボコってた、か」

 

 周りからはそう見えてたのか、と内心で少し驚く針生。

 いや、一ゲーム目は点差が離れてたし、二ゲーム目も後半追い上げられたが前半は一ゲーム目と同じく一方的な展開だった。

 

 しかしそれは得点だけを見ればの話だ。実際に大喜と対戦した針生にすれば先程の試合に対する印象は周囲とはまるで違う。

 

「…負けてもおかしくない試合だったよ」

 

「は?」

 

 もし…もし、大喜があの試合で試していたステップが完成していたら。

 初めから大喜が二ゲーム目後半からの動きを出来ていたら。

 

 勝者は針生だ。仮定の話なんて何の意味もない。

 ただ、それでも思ってしまう。もし─────と。

 

「俺も、もっと強くならなきゃな」

 

 上ばかり見ていた。去年インハイ予選準決勝で負けたあの人に勝つ事ばかり考えていた。

 しかしいつの間にか、それもこんなにも近くで下から追い上げてくる存在がいる事を、針生は知った。

 

「おう。今年は兵藤さんに勝てよ」

 

「何他人事みたいに言ってんだよ。お前も今年は選手に選ばれるように頑張れよ」

 

 他人事のように応援してくる阿呆の背中を叩いてから襟を掴み、空いたコートへと引き摺っていく。

 

 じたばたと両手を暴れさせるチームメイトを無視して、針生もまた自身の研鑽のために意識を集中させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うっわ」

 

 居間の畳の上に寝そべりながら、部活中に行った針生先輩の試合を撮ってもらった映像をスマホで見て内心引く。

 改めて見ると酷いものだ。いくら初めて実戦にて使ってみたとはいえ、インパクトの後に両足を離したら間に合う筈がないだろう。

 

 と、こうして第三者視点で見ていると思うのだが実際にコートに立ってプレイすると難しいものなのだ。

 針生先輩の後にやった匡との試合でも、針生先輩との試合の時よりは成功率は上がったがこうしたステップの遅れは何度かあった。

 しかしならばもっと早くステップをと意識すると今度は逆にステップが早すぎるという場面も増えてきて、どのタイミングで跳べば良いのか匡との試合中に迷いが出てしまった。

 

「…やっぱ、ラケットが動き出した瞬間、かな」

 

 映像を見ていると、何となく相手がラケットを振り始めた瞬間に跳ぶとステップが成功している気がする。打つ瞬間というより打つ直前、という意識を持つべきかもしれない。

 これは実際にコートでプレイしてみないと確かめようがないのだが、明日はその意識を持って練習してみるか。

 

 リアクションステップ、テニスではスプリットステップと呼ばれるステップ。相手が打つ瞬間にジャンプをして筋肉をあらかじめ緊張させ、また着地した瞬間の床からの反動を利用して次の動きに繋げる事が出来る初心者向けのステップだ。

 基本は両足を同時に着地させ、そこから動くのだが俺はそれを少し改良させたというか、ネットに載ってた片足のリアクションステップというものを習得しようとしている。

 

 ん?片足のスプリットステップ?…何だか頭が痛くなってきたけど気にしないようにしよう。

 

 コースの予測は大体当たる。ステップのタイミングはともかく、動く方向が外れる事は殆どなかった。

 後の課題は何度も言うがタイミング。明日こそ、掴んで見せる─────。

 

「何見てるの?」

 

「ふぁっ?」

 

 突如すぐ隣から掛けられた声に、思わず口から甲高い声が漏れる。

 

 ふわりと視界の端で揺れる亜麻色の細い髪。微かに香る柑橘系の香り。そして、肩に触れる柔らかい感触。

 

「ち、千夏先輩!?」

 

 近い!距離が近い!この人、距離感がおかしい!

 

「これ、試合の映像?大喜くんと…針生くん?」

 

 意識外から近付かれ、更にスマホの映像を覗かれる。

 って、待て待て待て。

 

「ちょっ、見ないでくださいよ」

 

「えー?見せてよー」

 

「嫌ですよ、恥ずかしいし」

 

「いいじゃん。いつも体育館で見てるんだし」

 

「─────」

 

 思わぬ返しを受けて言葉に詰まる。

 いつも見てる?体育館で?千夏先輩が、俺を?

 

 …いやいや、勘違いをするな。隣同士のスペースで練習してるんだし、休憩中にちょっとバド部の練習が目に入ったとかそういうのだろう。

 

「…少しだけですよ。これ負けた試合なので、あまり見られたくないんです」

 

「あ、そうなの?…本当に嫌だったら、別にいいよ?」

 

「ここで遠慮されても困りますって。それに負けたといっても実験的な意味合いも大きかった試合ですし」

 

 だからといって負けた悔しさがなくなる訳でもそれこそ少なくなる訳でもないのだが。

 むしろ後半追いつけそうだったのに、そこから引き離された上で負けた分かなり悔しいのだが。

 

「…すごいね。こんなに速い羽根に反応して、コートの中飛び回って」

 

 俺の許可を貰い、スマホで俺と針生先輩との試合の映像を見ながら千夏先輩が呟く。

 

「いや、まだまだ遅いですよ」

 

「え?」

 

 その千夏先輩の言葉を聞き、気付かぬ間に俺の意識が切り替わる。

 すぐ傍らに千夏先輩がいる事はすっかり頭から抜け落ち、スマホに映る映像に集中する。

 

「今、一歩目を速くするステップを練習してるんですけどなかなか上手くいかなくて。…この試合の後半でようやく少し形になって来たんですけど、この人相手だとそれだけじゃ押し切れませんでした」

 

「─────」

 

「…この試合の相手の先輩に、俺まだ一度も勝った事ないんです。でも…今練習してるステップが完成して、守備範囲が広がれば勝てる可能性が上がるって考えてます。それで、もし勝てれば─────」

 

 もし、針生先輩に勝つ事が出来れば─────

 

「一年生でインターハイ出場も夢じゃない」

 

 一年でインターハイ出場なんて歴史を見ても数人だ。だけど、決して手が届かないとは思わない。

 少なくても、もしインハイ予選までに針生先輩を倒す事が出来れば─────

 

「言ったね?」

 

「…はい?」

 

「インターハイ、行くって言った」

 

 不意に、千夏先輩の声質が悪戯気になり、集中が途切れ千夏先輩の方へ振り向く。

 

 てか、近い。あれ!?いつの間にこんなに近くに!?

 

「べ、別にそうとは言ってないですけど」

 

「え?じゃあ行かないの?私にはあんな風に言っておいて?」

 

「あ、あれはっ…!」

 

 二か月前のあの会話を引き出されると何も言えなくなる。

 確かにあんな事を言っておいて、自分はインターハイ目指さないというのはどうかと思うけど…あーっくそ!

 

「行きます、行きますよっ」

 

 気付けば、その言葉を引き出されていた。

 

 何だって、この人を前にするとペースを乱されてしまう。

 確かに決して手が届かないとは思わないけれど、今年の大会は力試しとして臨むつもりだったのに。

 

「ちょっと待ってて」

 

「?」

 

 すると、ふと千夏先輩は俺にそう言い残すと立ち上がり、居間を出ていく。

 どうしたのだろうと思いつつ待っていると、千夏先輩はすぐに戻ってきた。その両手は握られ、何かを持ってきた様子。

 

「これ、よかったら」

 

「…ミサンガ?」

 

 千夏先輩が俺に差し出してきたのは一本のミサンガ。

 

「日本に残るって決めた時に作ったの。願掛けというか、決意を形にしておこうと思って」

 

 千夏先輩の言葉を聞きながらそういえば、と思う。先輩の右足に、ミサンガ着けてたな。

 

「くれるんですか?」

 

「うん。…もしかして趣味じゃなかったかな?」

 

「いや。むしろ、嬉しいです。ありがとうございます、先輩」

 

 ちょっぴり不安そうに聞いてきた千夏先輩の質問を否定で返した後、胸に湧いてきた気持ちを素直に出しながらお礼を言う。

 

 千夏先輩は直後一瞬、呆けた様に表情をポカンとさせた後、笑顔を浮かべて一度頷いた。

 

「右足出して。結んであげる」

 

 千夏先輩の言う通りに右足を出すと、足首にミサンガが巻かれ、締め付けない様に注意をしながら千夏先輩がミサンガを結んでくれる。

 

「大喜くんも、インターハイ行ってください」

 

 俺の足首にミサンガを結びながら送ってくれた千夏先輩のエールは、今まで俺が貰ったどんな応援よりも力をくれた気がした。

 

「ほら、お揃い」

 

「そうですね。…ミサンガが切れるタイミングもお揃いにしましょう」

 

「うん。一緒にインターハイ行こう!」

 

 二人、お揃いのミサンガを見せ合いながら、胸に抱く同じ目標を固く誓い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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